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テルペンに関する研究 (第1報) : サルフェート・ターペン
チンの成分組成について
隈元, 実忠; 林, 宏子
鹿児島大学工学部研究報告, 5: 113-119
1965-09-30
http://hdl.handle.net/10232/10805
http://ir.kagoshima-u.ac.jp
テルペンに関する研究(第1報)
サルフエート。ターペンチンの成分組成について
隈 元 実 忠 。 林 宏 子
(受理昭和40年5月31日)
TFmCOMPONENTSOFSURFATETURPENTINE
SanetadaKUMAMOTO*,HirokoHAYASHI*
Thecmdesul「ateturpentine(CST)wasrecoveredfromthewasteliquorofkraftpulpprocess・
InordertoresearchthehigherultilizationoftheCST,firstlyitisneccssarytodefinetheircom‐
ponentscontainingintheCST・
TheauthorstriedtotheidentiiicationofofTensiveodorcomponents,monoterpenehydro‐
carbonfractionsandhighboilingsubstancesintheCST・Andeachcomponentswasstudiedto
usethemethodsoffractionaldistillation,gaschromatographyandlnfra-redspectra・
Itwasresultedthattheexistenceof27componentsintheCSTwasanalyzedtousegas
Chromatography・Theorganicsulfurcompound(offensiveodorcomponent)intheCSTwasonly
dimethylsu1iide,CH3SCH3(1.6%).Asthemonoterpenhydrocarbons,a-pinene(63.3%),camphene
(2.6%),β‐pinene(5.0%),dipentene(4.9%)andp-cymene(0.8%)wasconiirmed・Amongthe
highboilingparts(distilationresidual,abovebp64oC/mmHg,21%)containingintheCST,Ca‐
mphor(1.3%)andlongifolene(8.8%)wereconfirmed、AndthelongifoleneintheCSTwas
purifiedtousegaschromatographyanddeterminedbylnfra-redspectra.
成分分析をガスクロマトグラフ,赤外吸収スペクトル
1 . 緒 言
サルフェート・ターペンチンの成分に関する研究報
によって実施した.サルフェート・ターペンチンの新
しい利用研究を進めるについても,その成分組成を明
告は数多く見られるが,クラフトパルプ工場における
使用原木の種類,蒸解条件,設備機柿などによって回
確に知ることが基本と考えられる.
収されるサルフェート・ターペンチンの成分組成も異
記)は極めて悪臭が強く,揮発性の含イオウ化合物の
なるものと考えられ,文献に見られる成分組成にもか
存在が予想され,茶黄色の液体である.B、D、Bogo‐
なりの相異が見られる.たとえば,IraA・Stineら')
moloVら2)によれば,クラフトパルプ工程中の有機イ
粗製サルフェート.ターペンチン(以下CSTと略
はガスクロマトグラフ分析で,α‐ピネン69.2%,カ
オウ化合物はH2S,CH3SH,CH3SCH3であるとし,
ンフエン1.16%,β‐ピネン19.77%,カレン1.49%,
A、BWernerら3)によれば,黒液中にはH2SとCH3−
ジペンテン8.72%であったと報告している.
SH分であると述べている.
さて,クラフトパルプ工場で使用される原木の種類
それゆえ,CSTの成分分析については,まず,悪臭
は次第に変遷し,わが国ではカツ葉肘の比率が増えて
の原因と考えられる有機イオウ化合物は何か,モノテ
いる.したがって,サルフェート・ターペンチンの収
ルペン炭化水素留分の成分組成,高沸点門分検索の3
量が減少するとともに,その成分組成の変化が予想さ
点を中心課題として,精密分留,ガスクロマトグラフ
れる.
分析,分取,および赤外吸収スペクトルを用いて,成
分組成を研究し,主なる成分については化合物を確認
そこで,中越パルプ工業(株)川内工場(鹿児島県)
では原木1トンに対して約3kgの粗製サルフェート・
し,その含有率を明らかにすることができた.
ターペンチンが回収されている.このターペンチンの
:
I
:
D
e
p
a
r
t
m
e
n
t
o
f
A
p
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l
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d
C
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,
F
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,
K
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U
n
i
v
e
r
s
i
t
y
:
K
a
m
o
i
k
e
‐
dori,KagoshimaShi,Kagoshimaken,Japan,
庇児鳥大学工学部研究報告節5号
114
∼IXはその沸点範囲から_(D)の主成分と予想され
皿.実験と結果
る.まだ,精密分留の残澄が非常に少いことから,そ
れほど高沸点の成分は含まれていないことがわかる.
Ⅱ−1精密分留試験
CSTの分留:α‐ピネン前留分(有機イオウ化合物
表2蒸留残置(D)の精密分留
を含むとおもわれる)を捕集するため,CST500gを
エ78∼85/600.7
集し,5.59をえて密栓して冷蔽庫に貯えた.さらに巾
Ⅱ86∼90/60.0.6
Ⅲ92∼93/601.3
Ⅳ96∼107/600.7
V108∼109/601.0
Ⅵ109∼112/601.2
Ⅶ.89∼92/100.8
Ⅶ92∼93/102.9
Ⅸ93∼94/102.1
X94∼96/101.9
XI96∼97/100.6
間詔分(B)20.89を常庄蒸留でとったあと,減圧蒸
研でbP58∼64℃/50mmHgのピネン需分(C)335
9をえた.高沸点留分として蒸研残液(D)1059がえ
られた.CSTの分留試験結果を表1に示した.
表1CSTの分留試験
Cs.T、5009
貿分瀞号lBR(.C/mmHg)'1瀞│備考
蕊↓‘熱電熱…
備
(%)
結晶析出
}(カンファー)
,
ロンギホレン
が主成分
..(41.6%)
』
皿98∼106/101.6
残溢
1.217.s
皿−2各留分のガスクロマトグラフ、
木実験に使用したガスクロマトグラフ装置は,いづ
れも柳木製作所製GCG-2型である.
CSTのガスクロマトグラフ‘:工場で回収された
蒸留残置(D)の精密分留:蒸舟残澄(D)は高沸
点成分を検索するために,さらに粘幣分研に付した.
L
47142501.2982
111
(9)
J
』
I
L
●5
◆8
由3
①1
●3
■6
●
4■
3●
8■
4g6■7
に付してbP150℃以下の前WY分(A)を氷冷して柿
留分│,
。ハ,聖十丁_、|収
(。C/mmHg)
宰崎
前処理しないで,そのまま精密分研(充填塔60cm)
CSTのガスクロマトグラフ(固定相:PEG-6000,カラ
すなわち,(D)10591−1.189を取り,回転バンド式粘
ム温度150°C,キヤリヤーガスH2流量:77ml/min,
帝分研装置(大科工業製)で分制し,表2の結果をえ
試料量8〃)を図1に示した.このガスクロマトグラ
た.研分11,mは放置すると結晶が析出し,fW分v
フ図より20数成分の存在が認められる.
④
’牛
X
⑦1M叩
②
粗製サルフェーl、。ターペンチン
↓.
(>
<
l
)
→
(
x
3
2
)
5
ル
帯
Q
⑲
③|
⑤
⑰
0 1 2 3 ・ 4 5 1 0 1 5 2 0 2 5 3 0 3 5 4 0 4 5 5 0 5 5 6 0 6 5
保持時|Ⅲ(min)
図1.CSTのガスクロマトグラフ
前留分(A)のガスクロマトグラフ:前留分(A)
一・ク(2)はα‐ピネンである.このガスクロマトグラ
のガスクロマトグラフを固定相:PEG-6000,カラム
フより前留分(A)の主成分はピーク(1)で,その他
の成分は極め微量であることがわかった.そこで,沸
点および保持時間から予想される有機イオウ化合物と
温度80℃,H2流量64.5ml/minで測定し図2の上
図に示した,ピーク(1)は1.95分に大きく表われ,ピ
115
隈元・林:テルペンに関する研究(節1報)
して,メチルメルカプタン(bp5.9.C),エチルメルカ
①
プタン(bp37℃),ジメチルサルファイド(bp37.5∼
1.115前側分(八)
38.0C)の標品のガスクロマトグラフを同一条件で測
lJf
定すると,ジメチルサルファイドに保持時間(rR)が一
致するが,エチルメルカプタンのrR(1.81分)も極めて
接近している,それゆえ,同一測定条件下に前fW分(A)
にそれぞれ標品を添加してガスクロマトグラフにかけ
I
ると,ジメチルサルファイドはピーク(1)と完全に一
9iilノiウ’10113
致するが,エチルメルカプタンは図2の下図のように
.10mm/miI1
1619222528
10,11'/min
1
.
9
5
一致せず,ピーク(1)はジメチルサルファイドである
(
C
H
3
)
z
S
い
)
+
エ
チ
ノ
L
‘
!
:
そ
.
‘
,
ことが確認できた.しかも,ピーク(1)とピーク(2)
の間に認められるいくつかの小ピークはきわめて微逓
G
H
5
であり,悪臭成分はジメチルサルファイドであること
が確認できた.なお,ガスクロマトグラフ図より面祇
八へ
1
10
,
1
,
13 1
6
1
1
2
2
25
12
I
︵’1m
0 1
−4
えたが,低沸点成分であるために冷却捕集の際に,か
In乙
ァイドの含有量はCST中に1.6%という分析結果を
︿〒7
比(プラニメーターを使用)で求めたジメチルサルフ
8
Ⅱ
40mm/min
l
O
n
1
1
1
1
/
、
1
1
1
r
i
W
i
>
1
なりの損失が予想され,実際の含有量は1.6%以上と
考えられる.
留分(B),(C)のガスクロマトグラフ:固定相:
PEG-6000,カラム温度150°C,H2流丘63ml/min,試
料量2“で,研分(B)および(C)のガスクロマト
グラフを測定し図3に示した.留分(B)はジメチル
1
H
サルファイド0.8%を含むが詔分(C)では認められ
禰分(C)
細
分
(
B
)
1
.
9
5
ない.(B)のα‐ピネン含有量は93.6%,(C)は88.4
%であった.その他,カンフェン,β‐ピネン,ジペン
テン,リモネンなどが認められるが,(B),(C)研分
については特に確認はおこなわなかった.
蒸留残澄(D)およびその各留分(I-X皿)のガスク
戸虹グー、
ロマトグラフ:(D)のガスクロマトグラフを固定相:
0 1 2 3 4
PEG-6000,カラム温度150℃,H2流量75.0ml/min,
保持時間(min)‐>
試料量6〃で測定し,図4のとおりである.(D)の
図3留分(B),.(C)
⑦
⑮
蒸副残溢(D)
保排|畔Ⅲ(min)一>・
図4蒸留残洗(D)のガスクロマトグラフ
ハヘへ
) 1 . 2 3 4
保排時Ⅲ(min)→
のがスク.ロマトグヲフ
鹿児島大学工学部研究報告第5号
116
中にはピネン成分はほとんど含まれず,成分−6,7,
(液膜法)は図8の上図のとおりで,近年5)6)7)構造が
8などのモノテルペン炭化水素が少迅存在するが,成
決定されたセスキテルペン炭化水素longifo1ene(C15
分15が主成分であることがわかる.
H24)のIRスペクトル8)に一致した.また,ロンギ
(D)を精密分留してえた舟分I-XIIの各留分のガ
ホレンは松柏科の植物に含まれていることが確められ
スクロマトグラフを測定し,留分II〔図5),濡分Vー
ている9).そのほか特徴として,ロンギホレンは塩化
IX(図6),留分XI(図7)のガスクロマトグラフ
図を示した(固定相:PEG-6000,カラム温度150℃,
水素と容易に反応してWagner転移をおこし,めず
H2流量63ml/min).留分11,mの主成分は成分−13
⑲
で,カンファーのrR値と一致する.刊分V−IXの主
研分V
1
8
.
0
成分は成分−15であることは図6の各ガスクロマトグ
、
ラフ図から明らかである.そこで,詔分vIII2、99の
⑪
'
1
8
⑥
牛ハ
1
3
.⑭
'
崎
A
P
‘
ガスクロマトグラフ分取を2回繰返して,成分-1sの
4
1 3
純度96.2%の試料0.79をえた.留分XIでは成分−15
の含有量は減少し,成分−19が主成分となっている.
3
63 9
0369121518212427303336
成分−19を純粋に分離するため成分−15の場合と同じ
くガスクロマトグラフ分取をおこなった.しかし,成
⑲
分Ⅸ
分−19の前後の成分−18,20を分離除去することは
できなかった.
Ⅱ−3赤外吸収スペクトル
(D)の研分11,mを冷却放置すると結晶を析出し
た.結晶を口別し,昇華粘製を繰返してmpl70oCの
⑮
無色結晶をえた.カンフブーの標品と混融しても融点
は下らない.また,カンファーを留分11に添加して測
W分Ⅶ
定したガスクロマトグラフも,留分11の成分-13のピ
ークと一致し,新しいピークはあらわれない.さらに,
⑰
赤外吸収スペクトル(すべて日本分光製DS301型
装置)をKBr錠剤法で測定した.各吸収帯はカンフ
一 一 ー
戸
ァーの文献値4)に一致した.
研分V二IXは表2の精密分留結果より(D)の50
⑮
%をしめている.図6の各ガスクロマトグラフより主
制分VⅢ
成分は成分−15で(D)中の41.6%もあり,原油CST
中の含有量も8.8%に相当する.前記ガスクロマトグ
ラフ分取でえた高純度の成分−15のIRスペクトル
⑤
'3.6
盟分Ⅱ
⑮
留分Ⅸ
⑬⑰
⑫
グーへ
6
0 2 4 6 8 1 0 1 2 1 4 1 61
1 8 2 0 2224
保持時間(min)→
図5留分Ⅱのガスクロマトグラフ
2
1
7
3
1
0
3
‘
3
3
1
6
3
'
9
036
保排時間(min)÷
図6留分V∼Ⅸのガスクロマトグラフ
117
隈元・林:テルペンに関する研究(第1報)
⑥
33,5
ロ
,
U
D
B
D
J
D
ロ
,
{W分XI
q
O369121518212‘’2730333639424548515457606366697275
保排時│川(min)今
図7留分虹のガスクロマトグラフ
返過率“令,
“1別釦⑩皿0
ツ
ー
V
j
8
7
5
40003200240019001700j500f300〃00900‘ZOO
4ⅡI
卯帥印刺迦0
1
0
0
透過叫季鋤午
8
0
‐
__へ/
6
0
−
40-
20−
0
400032002400
1900I/700店00ノ300〃00900710
ラ良散([爪-‘)÷
図8
赤外吸収スペクトル
上:ロンギホレン
下:ロンギホレン塩酸塩
らしく結晶性のロンギホレンヒドロクロライドを生成
たので,KBr錠剤法で測定したIRを図8の下図に
することが知られている5)7).そこで冊分IXを29と
示した.上図のロンギホレンのIRと比較すると,ロ
りエチルエーテル溶媒で塩化水素ガスを通じて暫時放
置したのち,エーテルを回収して冷蔵庫中に一夜放置
すると無色結晶を析出した.結晶を口別し石油エーテ
ンギホレンの末端メチレン基に由来する〃C-H3125
cm-',1666cm-1(似C=C)および875cm−エ(末端メ
ルで2回再結晶するとmp59∼60℃(文献値:59∼60
失して,HClが付加したと推定される.しかし,各吸
.c5),59.5℃'0))の無色結晶がえられた.
収帯の帰属については明らかでない.
チレン基の6C-H而外変角)の吸収が塩酸塊では消
ロンギホレン塩酸塩が無色結晶として純粋にえられ
ロンギホレン
察
CST中の各成分の含有量(%)は精密分留試験結果
H
C
1
−
2
H
、、考
からえられた各詔分の収量(%)と各留分のガスクロ
マトグラフから面積比で求めた各成分の含有率より計
ろ
算して求めた.
ロンギホレン塩酸塩
CSTの成分組成について,表3にガスクロマトグラ
鹿児勘大学工学部研究報告節5号
1
1
8
表 3 C s ・ T の 成 分 組 成
l戊分番号
|’
ジメチルサ
3
2
α一ピネン
カンフェン
ルファイド
成分化合物
CH3.s・CH3
保持時間
(分)
、
8
.
2
6
5
7
ジペンテン(リモネン)
β一ピネン
ウ
由 へ
’ (80°C)
1
1
.
9
1
4
.
8
1
5
.
7
(
0
.
3
6
)
(
0
.
4
6
)
(
0
.
5
7
)
(
0
.
7
2
)
(
0
.
9
3
)
(
0
.
9
8
)
1.6
63.3
2,6
4.7
62.5
1
0
1
1
1
.
9
5
含 有 率
(形)
成分番号
命
4
1
1
8
5
.
8
9
9
.
1
1
.
6
1
2
1
3
3.3
1
4
カンファー
日
〕
成分化合物
0
保持時間
(分)
含 有 率
(%)
成分番号
2
1
.
3
’│ (1.33)
0.8
’│
’’5
7.2
8.8
10.4
11.8
13.6
14.3
0
.
1
0.2
0.3
0.8
1.3
0.5
1
6
1
7
1
8
ロンギホレン
1
9
2
0
2
1
セスキ
成分化合物
テルペン
炭化水素
保持時間
(分)
含 有 率
(%)
’│
18.0
8.8
成分脅号'’22
2
1
‘
7
0.8
2
3
24.5
28.6
33.5
37.0
42.2
1.3
0.9
1.5
0.4
0.3
2
4
2
5
2
6
271残留液
成分化合物
保持時間
(分)
47.0
含(鼠)率loO7
54.5
60.7
80.01106.5
0.2
0.06
0
.
0
1
115.0
0.3
0
.
1
1.6
(註)ガスクロマトグラフの測定条件
成分−2 8借2ラ灘::鴇、伽成分-9 2γ{豊鋪温監
フ分析のピークの成分番号,確認できた化合物,各成
150°C
63m"min
が明らかにできた.
分の保持時間rR(min)および含有率(%)を示した.
モノテルペン炭化水素:テレビン油の主成分がα−
ジメチルサルファイドの確認:CSTの悪臭成分に
ピネン,β‐ピネンであることは衆知の事実である.し
ついてはH2S,CH3SH,CH3SCH3などが報告されて
かし,近年クラフトパルプ工場における原料材.が針葉
いるが,本研究によってCST中に溶存している悪臭
樹よりカツ葉樹へと移り,それに伴ってえられるCST
成分はジメチルサルフアイドCH3SCH3(bp37.5∼
の成分組成も変化していることが予想される.それゆ
38.0°C)のみが単一成分として1.6%以上溶存してい
え,ピネン以外の成分組成の検索をおこなった.すな
わち,表3の成分−2∼8は試料として留分Iをえらび,
て,その他の成分はほとんど認められないという事実
隈元・林:テルペンに関する俳究(第1報)
119
固定相PEG-60002m,カラム温度100°C,H2流量65
2.CSTの主成分はなんといってもα‐ピネンで,
ml/minで,1.8-シネオールを内部標準物質としてガ
63.3%含まれる.その他のモノテルペン炭化水素とし
スクロマトグラフを測定し,保持時間rR(min)を求
ては,カンフェン2.6%,β‐ピネン5.0%,リモネン
め,相対保持値を括弧内に示した.また成分−1,2,
成分(ジペンテンを含む)4.9%,p‐シメン0.8%な
3,4,6,8はそれぞれ標品を添加測定して同定碓認
どが含まれる.しかし,主成分はやはりα‐ピネンで,
した.しかし,成分−5は相対保持値0.72より3−カレ
新しい応用研究を期待したい.
ン,ミルセン,α‐フェランドレンなどが予想される
3.低沸点部(モノテルペン)をとった残りの高沸点
が確認できなかった.成分−6は標品の添加測定でジペ
部││:1に41.6%も含まれ,CSTIl」に8.8%も含まれて
ンテンと確認されたが,相対保持他がきわめて撰近し
いるロンギホレンなるセスキテルペンは岐近その構造
ている成分-7(相対保持値:0.98)はリモネン異性体
が決定された多珠の特異な立体椛造をもつ化合物であ
ではなかろうか.成分−8は標品の添加測定でp−シメ
る.しかも,CSTIlIに単一成分としてはα‐ピネンに
ンと同定した.以上モノテルペン炭化水素については,
ついで10%近く含まれていることは興味深い.学問的
α‐ピネン,カンフェン,β‐ピネン,ジペンテン(リ
にも研究の発展を期待したい興味ある化合物であり,
モネン異性体),p‐シメンの存在を確認し,各成分の
一方,比較的容易に純粋に分離できそうで,未利用の
含有率を明らかにした.
複雑な椛造をもった単一化合物として,工業的立場で
高沸点成分の検索:表1に示したようにbp64oC/
の応用研究も興味ある問題と考える.
50mmHg以上の蒸留残置(D)はCST中に21∼22
%含まれている.この(D)を精密分冊した各留分の
ガスクロマトグラフを測定し,成分の検索をおこない
カンファーとロンギホレンの二成分を確認した.CST
中のカンファーとロンギホレンの含有率はそれぞれ
本研究の試料ターペンチンは巾越パルプ工業(株)
川内工場で採取していただいたもので,村上地区長,
河口工場長をはじめ多くの担当の方々の御援助を深謝
いたします.
1.3%,8.8%であった.その他の成分についても比較
文 献
的含有量の多い成分−19をガスクロマトグラフ分取で
純粋にえようと試みたが,成功しなかった.しかし,
そのIRスペクトル測定から,OH,C=Oなどの官
能雄の存在は認められず,その沸点から拙察してセス
キテルペン炭化水素と考察される.
以上,CSTのガスクロマトグラフより27成分の存
在が認められた.その中で1%以上存在する成分につ
いては,大体その化合物を確認することができた.
二一口
五口
1V・結
1.クラフトパルプ工場で回収されたCST中の有機
イオウ化合物といわれる悪臭成分は,以外にも単一成
分のジメチルサルファイドだけであることがわかっ
た.ジメチルサルファイドは最近溶剤として注目され
ているジメチルスルホキシドに酸化することができ
る.CSTから効率よく回収できれば,相当純度の高い
ジメチルサルファイドがえられると推定される.
1)IraA、Stineetc.:ForestPmductsJ.,11,530
∼535(1961).
2)B、D・Bogomolovetc.:Chem・Abst.,56,7752
.
(
1
9
6
2
)
.
3)ABWemer:Can、Pulp&Paperlnd.,16,
35∼43(1963).
4)IRDCカードNo.2874(赤外データ委員会,
南江堂).
5)小竹無二雄監修:大有機化学,第7巻(脂環式
化合物Ⅱ),p、204∼5(1959),〔朝倉書店〕.
6)R、H・MoiTet&D、Rogers:Che、.&Ind.,
1953,916.
7)大野雅二:化学の領域,15,591∼7(1961).
8)中西香爾:赤外線吸収スペクトルー定性と演習
一(演習編),p、51(1960),〔南江堂〕、
9)』.L・SimonsenandD.H、R,Barton:“The
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Univ・Press〕・
10)藤瀬裕ら:第7回香料テルペンおよび糖油化
学に関する討論会誰演要旨集,p、83(1963).