資源のない日本、将来のエネルギーの姿に関するシンポジウム in 名古屋 日本の安全、経済発展に向けた エネルギーのベストミックス 原子力発電所の稼働停止や輸入燃料への依存などを背景に、不安定な供給状 態が続く日本のエネルギー問題について考える「資源のない日本、将来のエネ ルギーの姿に関するシンポジウムin名古屋」(経済産業省・資源エネルギー庁主 催)が2月24日、ミッドランドホール(名古屋市中村区)で開かれた。専門家ら による基調講演とパネルディスカッションが行われ、約320人が参加した。 ﹁ドイツの脱原発事情 その誇りと混乱﹂ 作家、拓殖大学日本文化研究所客員教授 川口 マーン 惠美 氏 日照が悪いため、実際の発電量 は 総 発 電 量の6 パーセント 弱 ︵2014年︶。また、風力発電 は北ドイツで盛んだが、地元の反 対によって高圧送電線が設置で きず、電気を南の消費地に運べ ないという問題がある。 再エネの問題は、発電がお天 気まかせで、 ﹁電力を必要な時 に必要なだけ作ることができな い﹂ということ。買取制度の負担 は消 費者の電気代に乗るので、 電気料金も大きく上昇した。ま たバックアップする電力は、原子 力や火力発電でまかなっているの が現状。コストを抑えるため、C 私が三十余年住むドイツは、 ﹁脱原発﹂で知られている。日本 には、ドイツでは脱原発が完成 したと思っている人も多いが、実 は、原発 基のうち8基が動い ており、2022年までに徐々に 再エネの利点と 課題の把握を 1 17 止めていくという計画だ。 排出量が多い自国の格安資源 ドイツの反原発運動は 年の ﹁褐炭﹂に、再び依存し始めてい 長い歴史があり、端緒は2000 るのもジレンマだ。 年の﹁脱原発合意﹂。その後、福 環境先進国としての誇りを持 島第一の事故を機に、2022年 つドイツでは、原発全停止に踏み までの脱原発と、再生可能エネル 切ることはできる。ただしそれは ギー︵再エネ︶の強化、節電など ﹁周辺国と過不足電力を調整で からなるエネルギー転換計画が きる環境﹂と﹁自国資源﹂がある 可決され、世界で大きな話題と から。今日本でも脱原発が叫ば なった。 れているが、島国で資源のない日 以来、再エネ産業が急速に発 本ではリスクもある。やみくもに 展している。まず太陽光発電は 見習うのではなく、ドイツの現状 ﹁ 全量買 取 制 度 ﹂の後 押しで、 を見守った上で、日本もどんな道 2000年からの 年間で発電 を選ぶのか考えたい。 施 設 容 量は400倍に。ただ、 14 40 O2 基調講演 寺島 実郎 氏 一般財団法人日本総合研究所理事長 ﹁世界の構造変化と 日本のエネルギー戦略﹂ 2 いが、発電で原子力を平和利用 する特殊な国。また原子力の技 術を輸出する一方で、脱原発の 可 能 性 を 国 民 に 示 している と いった政府の姿勢に、世界は不 信感を持っている。日本は国民 と海外へ、立ち位置と総合的な 原子力戦略を明確にすべきだ。 エネルギー戦略には エネ ル ギ ー 政 策 を 進 め る に 覚悟が必要 は、覚悟がいる。原油価格も原 ﹁ シェー ル ガ ス・オ イ ル 革 子力の問題もうわべだけで判断 命﹂により、アメリカが世界一 せず、深い洞察と意志で立ち向 の天然ガス・原油生産国となっ かう課題だ。 た。このところの原油価格の下 落 はアメリ カの 供 給 量 が 多 す ぎることが一因といえる。それ でも生産調整に踏み込まないの は、生産国上位のロシアとイラ ンをけん制する目的も込められ ているなど、話は複雑だ。 日本にとって価格が下がるの は追い風だと思われている。し かし、原油は金融商品としてマ ネーゲームの対象にもなってお り、下落によって世界の金融市 場に混乱が起きれば、日本経済 にも影響を与えかねないことは 認識すべきだ。 エネルギーのベストミックス に向けた戦略の一つに原子力が ある。日本は原子爆弾を持たな 出典:IEA「Energy Balance of OECD Countries 2015」を基に作成 基調講演 13 40 20 24 O2 ﹁化石、再エネ、原子力エネルギーの ベストミックスの実現に向けて﹂ 水谷 香織氏 ︵パブリック・ハーツ代表取締役︶、 ●パネリスト 川口 マーン 惠美氏、寺島 実郎氏、 吉野 恭司氏 大東 めぐみ ︵タレント︶ O2 経済産業省 資源エネルギー政策統括調整官 22 吉野 恭司 氏 22 ﹁3E+Sの実現に向けた エネルギーミックス﹂ 34 ●コーディネーター 事例は見習うべきだろう。 ︱原子力についての考えは? 水谷 2児の母として恐怖感は いまだにある。エネルギーミック スのひとつとして原発再稼働を進 めていくのであれば、気候変動に よる災害やサイバー攻撃リスクと いった国民の不安に政府は真摯に 向き合ってほしい。何か起こった 時の避難経路など、社会システム まで担保してほしい。 寺島 福 島 第一原 発 は﹁ 第 1 世代原子炉﹂と呼ばれ、津波が 襲って全電源が失われるという 想 定 を一切 行っていなかった。 年代以降の原発は 基あり、 ﹁第2世代﹂以降は安全性の次 元が違っている。政府は正しく 的 確 な 基 本 情 報 を国 民に提 供 し、責任ある説明をすべきだ。 ︱今年4月から電力自由化が始 まる影響は? 寺島 再エネを利用したり、コ スト が 安い電 力 に 移 行 し た り す る な ど 、国 民 が 正 し い 知 識 を持って考 え、選ぶことができ る。一人ひとりが選択肢を持て 水谷 香織氏 ることで、エネルギーへの意 識 が変わるのではないか。 22 を 策 定 。安 定 供 給︵ E n e r g y ︶、経済効率性の向上 Security ︵ Economic Efficiency ︶、環境 適合︵ Environment ︶と安全性 ︵ Safety ︶の﹁3E+S﹂をバラン スよく達成するために具体的な 目標を設定した。 再生可能エネルギーの割合を ∼ %にまで高め、原子力に ついては火力発電の効率化など により依存度を減らし ∼ % にするという、エネルギーミック スの方向性を提示。実現に向け て取り組んでいく。 火力発電のC 対策は、世界で も高い技術水準を誇る。メタン ハイドレートの調査も含め、実 用化に結びつけるのが今後の課 題だと思っている。 ︱再エネの将来性について 川口 再エネ は 安 く て ク リ ー ンで安全というイメージがある が、本当に安いのであれば国の 買取制度はいらないはず。未来 のエネルギーとして推進してい くべきだが、買取制度で経済の 足を引っ張るようなやり方はや めた方がいい。 吉野 バイオマス、地熱、小水 力は安定的な発電ができ原子力 の代替をし得ると考えられてい る。また再エネの比率が4割を 占めるスペインでは、再エネの 電力を集中管理するシステムが 構築されている。こうした先進 90 安全・安心な バランスを O2 パネル ディスカッション ︱ 化 石 燃 料 に 依 存 し てい る 日 本。今後の方向性は? 水谷 もし原子力を使わずに化 石燃料で代替する場合、C を 抑制する技術や自国で原料調達 ができるのかなど、日本の技術 力に興味がある。 川口 ド イツ で は 再エネ が 進 んでいるとはいえ、2014年 の 電 源 構 成 を 見 る と 再エネ は 25・8%であり、まだ % 近 くを化石燃料に頼っている。原 発分を再エネのみで代替するの は難しいことが分かると思う。 寺島 資源として今後注目した いのが、日本版シェールガスと言 われる﹁メタンハイドレート﹂。日 本は資源に乏しいという 印象が あるが、実は海洋国家としてポテ ンシャルを秘めている。 吉野 技術面でいえば、日本の 45 3 原発の停止による2014年 度の発 電用 燃 料のコストは3・ 4 兆 円 。電 気 料 金 は 家 庭 用 が 約 %、産業用は約 %上がっ ている。エネルギー自給率 は5 年 前より も %下が り、2013年 時 点で6・ 2%。OECD︵経済 協力 開発機構︶ カ国中、下か ら2番目という厳しい状況 だ。 排 出 量 も、火 力 発 C 電の増加に伴い、2013 年 度 に 過 去 最 高 と なっ た 。こ う し た 課 題の 残 る 背 景 を ふ ま え て 、政 府 は 2 0 3 0 年 の﹁ 長 期 エネ ル ギ ー 需 給 見 通 し ︵エネルギーミックス︶﹂ 出典:電力需要実績確認(電気事業連合会) 、各電力会社決算資料等を基に作成 基調講演 25
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