資源のない日本、将来のエネルギーの姿に関するシンポジウム in 広島 化石、 再エネ、 原子力エネルギーの ベストミックスの実現に向けて 原子力発電所の稼働停止や輸入燃料への依存度などを背景に、 不安定な供給状態が続く日本のエネルギー問題について考える 「資源のない日本、 将来のエネルギーの姿に関するシンポジウム in 広島」 (経済産業省資源エネルギー庁主催) が、 去る3月22日、広島市の広島国際会議場で開催されました。拓殖大学総長、元防衛大臣・森本敏氏による 基調講演やパネルディスカッションが行われ、約140人が参加しました。 主催者説明 「3E+Sの実現に向けた エネルギーミックス」 吉野恭司 石油 11 22 石炭 26 原子力 20~22 石油 3 LNG 27 再エネなど 22~24 LNG 46 原子力 0 20 石炭 31 再エネなど 12 88 34 25 33 2014年度 実績 24 56 2030年度 見通し ●現在と2030年度の電源別発電電力量の構成比(%) 基調講演 「エネルギーの安全保障とは」 氏 の対 立、シリア情 勢、ロシアの 介 入など、以 前より 複 雑で不 安定な状況になっている。また、 エネルギー を 安 定 供 給 す るに は、タンカーなどで化石燃料を 日 本へ運ぶ経 路の安 全 確 保 も 必 要 だ。 しかし、 中 東からの 海路の防衛を担ってきたアメリ カが、シェール革 命で世界 有 数 の産油国になったことを背景に 手を引く可能性もある。 さら に中 国が、重 要な海 路 を 押さ えようとしている。 こう したことから、 将 来 も 化石 燃 料が無 事に手に入ると 考 えるのは安 易 す ぎると言わ ざるを得ない。 私 は 安 全 保 障の観 点 か ら、 安 全 を 確 実に管 理しながら原 子 力を一定の比 率、維 持してい くことが、我々の生活と国の安 定、 発 展のために不 可 欠 だと 考えている。 安 全に原 子 力 を 稼 働できる という事実的かつ内容のある実 態が伴わなければ、 国民の理解 は得られないが、 日本 人の知 恵 を絞って真 剣に考 え、日 本 の エ ネルギー安全保障を進めてい かなければいけない。 森本 敏 拓殖大学総長、元防衛大臣 ◉生活と国の安定を守るため エネルギーの安 全 保 障 とは、 エネルギーを 安 定して供 給し、 国の産業の発展のために活用す るという問題を、 国家安全保障 の観 点から見ること。 資 源 小 国の日本の場合は、どのように 安定的かつ安全にエネルギーを 手に入れるかという 問 題で、経 済 的 な 負 担 が 少 ないことや 環 境に大 き な 負 荷 を 与 え ないこ とも重要である。 日 本は1973年の第一次石 油 危 機 後、安 全 保 障の観 点か ら石 油 依 存や中 東 依 存を減ら そうと、原 子 力や供 給 先が多 様な天然ガスの利用を進めてき た。 しかし、福島での事故後、 原 子 力の利 用がほとんどな く なり、 今の日 本は 年 前 と同 様、 中 東などからの化石 燃 料 に大きく依存している。 し か も、化 石 燃 料の調 達 に 多額の外貨を支払っている。 日 本国内でお金が回るのならよい が、日 本の富 が 海 外へ流 出 し、 国内では電気料金が上がり、 日 本の資産が減っている状況だ。 中 東は、 過 激 派 組 織ISの 台 頭やサウジアラビアとイラン 40 経済産業省資源エネルギー政策統括調整官 22 ◉バランスのとれた需給構造に ) 、 経 済 効 率 性の向 上 Security 日本のエネルギー情勢は、東 ( ) 、環 Economic Efficiency )と 安 全 性 日本大震災後、大きく変化し 境 ( Environment ) をバランスよく 達 成 す た。 原 子 力 発 電の運 転が停 止 ( Safety る将 来の姿として、「 長 期エネル し、 代 替 となる火 力 発 電 用の ギー需給見通し」 を策定した。 燃料輸入が増加。 追加燃料費 2030年 度の電 源 構 成は、 として、 年 間3兆 円 前 後の国 富が中 東などへ流 出している。 水 力や太 陽 光、風 力などの再 生可能エネルギー ~ %、原 これに加 え、 再 生 可 能エネル 子 力 ~ %、LNG (天然ガ ギーの賦課金等によって、電気 ス) や石 炭などの火 力 %とし 料 金は家 庭 用で %ほど、 産 ている。 原 子 力への依 存 度は、 業用で4割近く上昇している。 可 能な限 り 低 減 する方 針だ 発 電にお け る 化 石 燃 料への が、 徹 底 した 省エネや 再 生 可 依存度は、 %に上昇した。ま 能エネルギーの最 大 限の導 入、 た、 国際統計上、 国産エネルギー 火 力 発 電の高 効 率 化などを進 と位置付けられている原子力の めた う えで、2割 を 少 し 超 え 利用が減ったため、 エネルギー自 る程度になる見通しだ。 給率は2010年の約2割から %にまで低下した。 これは、 O ECD (経済協力開発機構) に 加盟する か国中、 番目の水 準である。 火 力 発 電の増 加により、 電 力 分 野での温 室 効 果ガス排 出 量が、 年 間に日 本の総 排 出 量 の8~9%に当たる約1億トン 増加している。 こ う し たエ ネ ル ギ ー 情 勢 を 踏 ま え、 「 3E+S 」 と 呼 ばれる安 定 供 給 ( Energy 6.2 資源のない日本、将来のエネルギーの姿に関するシンポジウム in 広島 ネルギー導入の課題は 徳田 一番の気がかりは、電 気料金の値上がりによる家計 の圧迫。固定価格買取制度に よって上乗せされる賦課金 は、 2 0 1 3 年 度 は 年 平 均 1300円ほどだったが、現 在は約6000円に増えてい る。再生可能エネルギーの普 及は重要だし協力したいと思 うが、国民負担とのバランス を考えてほしい。 森本 コストが高い、発電が 不安定といったデメリットが あり、家庭で使うのは望まし いが、原子力に替わるベース 電 源 と し て 使 う の は 難 し い。 仮に東京の 区すべてに太陽 光 発 電 の パ ネ ル を 敷 い て も、 得られる電力は日本で必要な 量の1%にもならず、莫大な 経費もかかる。 この選択肢を捨ててはいけ ないが、再生可能エネルギー の比率を今より伸ばすために は、相当な技術革新が必要だ。 吉野 固定価格買取制度を見 直す法案を出している。太陽 光の買取価格を入札で決める 制 度 や、風 力、地 熱、バ イ オ マ スなどの導入を支援する制度 の導入を検討している。また、 電力自由化後も安定的な運用 ができるよう、買取主体を送 配電事業者にする考えだ。 60 ――最後 に、ベス トミック スの実現 に向けて のお考えを 徳田 私たちは、これからも 生きていく。そのためにも良 いエネルギーミックスを探っ ていくべきで、一番大切なの は、やはり安全だと思う。ま た、今日のお話で、資源のな い 国 に い る こ と を 自 覚 し て、 エネルギーを大切に使う必要 性を改めて感じた。 森本 福島の事故は日本人の 心を揺るがせた。二度と起こ してはいけない。しかしなが ら、国家の発展は感傷におぼ れてはならず、将来を展望し て、困難を乗り越える必要が ある。 私は、再 生可 能エネルギー の目標が達成できなくても産 業に影 響が出ないよう、原子 力を %ほどで維持し、天然 ガスやシェールオイルを増やし て在来型の石油や石炭を減ら す目標が最適だと考えている。 吉野 どのエネルギー源にも 課題があり、その一方、この 選択肢はいらないというもの はない。それぞれの技術開発 や人材の確保などに取り組む ことが大事だと考えている。 大東めぐみ氏 福島の事故を乗り越え、 より 良い将来を実現するために ――原子力の安全性や利用に ついては 徳 田 5年 前の事 故は、福 島 の方々に大 き な 悲 しみと被 害 をもたらした。今も多くの方々 が避 難 生 活 をされている。 事 故後の処理について、国は丁寧 な説 明 を 続 けてほしい。 再 稼 働について懸念する消費者もい る。 安 全 を 第一に、 規 制 基 準 の実効性に期待したい。 森本 事故後の処理が完全に は終わっておらず、福島の安 全性に関する懸念を払しょく することが最優先の課題だ。 再稼働は、世界一厳しいとい われる規制基準のもとで進め られているが、気になること が2つある。再稼働が進まず 電力会社が財政的に厳しく なっていることと、廃炉など の人材が不足していること だ。どうすれば財源と優秀な 人材の生活を守り、技術のレ ベルを上げていけるか考える 必要がある。 吉野 福島の廃炉・汚染水対 策を確実に進めること、そし て、規制基準を満たしたうえ で、残るリスクも減らす努力 を続ける必要があると考えて いる。 25 パネルディスカッション 化石、 再エネ、 原子力エネルギーの ベストミックスの実現に向けて ◉パネリスト 森本 敏 氏(拓殖大学総長、元防衛大臣) 氏 (タレント) 化石燃料の使用は可能な限り 減らすべきだと思う。 森本 中東ではサウジアラビ アとイランが対立関係にな り、それぞれとどのように付 き合っていくか日本の外交は 難しい状況になっている。ロ シアは、極東の化石燃料の購 入や投資など日本との経済関 係を見ながら、北方領土の問 題を俎上に載せている。また、 中 東 か ら 日 本 へ の 海 路 で は、 中国絡みの問題が毎日のよう に起こっている。こうした動 向を見ずに化石燃料だけを念 頭に置いていると、非常に危 うい状況になりかねない。 吉野 エネルギー源と調達先 両方の多様化を進め、利用に おいては二酸化炭素の排出を 管理することが重要と考えて いる。 ――将来に向けた再生可能エ 徳田洋子 氏(公益社団法人広島消費者協会会長) 吉野恭司 (経済産業省資源エネルギー政策統括調整官) 大東めぐみ ◉コーディネーター 厳 しさ を増 す 中 東 な どの状 況 再エネはバランスの良い導入を 徳田洋子氏 ──今、日本の電気は9割近 くが火力発電でつくられてい る。高い依存度による影響は 徳田 以前、広島消費者協会 で行った調査では %が日本 のエネルギー自給率を知らな かった。自給率の向上ととも に、広く周知する必要もある と思う。 今は原油価格が下がって家 計や企業の収益にはプラスに 働いているが、政情が不安定 な中東に頼ることや南シナ海 などでの中国の動 向が心配 だ。 年前の石油危機の教訓 を忘れて はいけな い。温暖 化 のこ と も あ り、 40 23
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