創薬生命科学専攻 後期3年博士課程3年 森 健一

医学薬学府
創薬生命科学専攻
博士課程3年
森
健一
米国サンフランシスコ、モスコーンセンターで行われた第 232 回アメリカ化
学会 (ACS) Meeting & Exposition に出席し、
(9/10-14)、その後、UCSF Department
of Biopharmaceutical Sciences の Brian Shoichet 教授と Andrej Sali 教授の
研究室を訪問(9/15)したので、その詳細を報告する。
まず、ACS Meeting では、私の研究テーマが「生体膜および膜タンパク質の
計算物理化学による膜-タンパク質間相互作用に関する理論的解析」であるため、
主に、生体膜やモデル膜、膜タンパク質に関する研究についての発表を中心に
議論に参加した。膜および膜タンパク質に関する物理化学的実験、およびシミ
ュレーションによる研究が精力的に行われていることを再確認できた。しかし、
膜タンパク質のシミュレーションでは、質問してみて分かったことだが、タン
パク質の周りに配置する脂質分子をあまり考えもなく、一般的な POPC や POPE
にして計算しており、脂質-タンパク質間の相互作用を無視しているなど、問題
点も確認することができた。また、Virtual Screening に関する研究報告も数多
くあり、これらにも参加したが、Induced-Fit や Score function の改良など、
Virtual Screening の成功例や課題・問題点に関しては日本で議論されているこ
とと同じであった。
ACS Exposition にも参加し、企業ブースを見学した。日本の化学系学会では
あまり見ない計算化学のブースも数多くあり、計算化学の企業活動が米国では
盛んに行われていることを確認することができた。また、ACS や Nature、NAS の
ブースでは、Chemical Biology 関連の Journal を新規に展開しており、今後の
研究のトレンドを感じることができた。
次に、UCSF では、Brian Shoichet 教授と Andrej Sali 教授の研究室を訪問
した。Brian Shoichet 教授には研究室を拝見させてもらったが、実験を行うグ
ループと計算化学を行うグループとで部屋を分けていたのだが、部屋と部屋の
仕切りがなく、実験と計算のグループが議論しやすい環境が整っていたことに
感心した。また、この研究室の構造は、UCSF に共通のものであることが分かり、
その組織的な研究室構成にはひたすら感心し、日本の大学および企業でも、こ
のような環境が整っていけば、実験と計算の共同研究も進み、さらなる発展が
期待できるだろうと思った。
Andrej Sali 教授の研究室では、研究員の方達と大いに議論することができ
た。私は今、研究テーマとして生体膜のデータベースを構築しており、データ
ベース構築のためのプログラム言語について何を選択するか悩んでいたのだが、
Andrej Sali 教授のもとでデータベースを構築している担当研究員の方に直接話
をうかがうことができ、今後の研究の指針となった。また、ACS でも会ったポス
ドクの研究員の方ともタンパク質の活性部位における水和エネルギーの重要性
について議論することができ、今後の私の研究活動において、かなり有意義で
あった。さらに、UCSF のコンピューター室を見学させてもらったが、その圧倒
的なクラスター型計算機の数の多さに非常に驚いた。千葉大学でも情報メディ
ア基盤センターに大学共有のクラスター型計算機があるが、1研究室ごとに専
用のクラスター型計算機が割り当てられており、やはり、シミュレーションの
計算量ではとても太刀打ちできないと感じた。計算機の計算速度の飛躍的な上
昇とともに今後、生体分子のシミュレーション研究は、より長時間、より分子
量の多い生体高分子複合体のシミュレーションが主流になっていくだろうが、
米国に研究資金の面で圧倒されている現状況では同じベクトル上で勝負しても
勝ち目があまりないと思われる。そのため、計算資源が少なくてもできる理論
研究が日本ではトレンドになっていくべきだと感じた。
最後に、期間を通して英語による研究討論を行い、英語力の向上につながっ
たとともに、海外の研究レベルを垣間見ることができ、非常に有意義な研修期
間を過ごすことができた。今後も大学院指導のもと、このような教育研修活動
が活発に続いていくことを願う。
以上