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【研究の背景】
レジオネラ症はレジオネラ属菌の感染によって引き起こされる呼吸器感染症です。日本国内では温
泉施設等での感染事例が一般的ですが、原因菌はもともと土壌や水環境に広く普遍的に存在してお
り、そうした自然環境中では原生生物のアメーバを宿主として大量増殖していると考えられていま
す。しかし、他の原生生物が宿主となる可能性、原生生物内で共生あるいは大量増殖するしくみ、そ
して原生生物の細胞から外界に放出されるしくみについてはわかっていません(図1)。
そこで本研究グループでは、ゾウリムシを用いた実験を行うことで、レジオネラ( Legionella
pneumophila)の原生生物共生メカニズムの解明を試みました。
図1 レジオネラの感染経路
【研究結果】
①
原生生物宿主として世界で初めてゾウリムシを用いた実験系を構築し、これを用いることで、レジ
オネラとゾウリムシの間には共生関係が成立し、ゾウリムシがレジオネラの自然宿主になり得ること
を明らかにしました(図2)
。
100µm
図2 ゾウリムシ内で共生するレジオネラ(レジオネラは GFP により緑色に発光)
②
ゾウリムシ内で共生するレジオネラは細胞内に取り込まれた後に、正常なゾウリムシの食胞とは異
なる『共生胞』を作り、その内部で維持されていることがわかりました。
③
レジオネラは、LefA(Legionella endosymbiosis-modulating factor A)の働きにより、共生に不都
合が生じた場合には共生胞内で爆発的に増殖し、宿主であるゾウリムシを破壊して再び環境中に飛び
出します。このことは、レジオネラが環境中において最適な生存環境に移行するシステムを持つこと
を示唆しています(図3)
。
図3 環境中におけるレジオネラとゾウリムシの関係
【まとめと今後の展開】
本研究の結果より、自然環境中においてレジオネラはその生存戦略としての原生生物宿主の選択を行
っていることが考えられます。こうした原生生物との共生メカニズムが明らかになっていくことは、レ
ジオネラの生態解明に大きく貢献するだけではなく、今後の研究の進展により環境中のレジオネラの拡
散防止法の開発に繋がることが期待されます。
【原著論文情報】
Kenta Watanabe, Ryo Nakao, Masahiro Fujishima, Masato Tachibana, Takashi Shimizu,
Masahisa Watarai. Ciliate Paramecium is a natural reservoir of Legionella pneumophila. Scientific
Reports, 6: 24322. DOI: 10.1038/srep24322.
*本研究は、文部科学省特別経費「細胞内共生成立の分子機構の解明と新機能細胞の創成」および文部
科学省・科学研究費補助金制度の支援を受けて行ったものです。
【補足・用語説明】
1)レジオネラ症
レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ
属菌による細菌感染症である。急激に重症になって、死亡する場合もあるレジオネラ肺炎と、数日で自
然に治る場合が多いポンティアック熱に分けられる。レジオネラ肺炎は、乳幼児や高齢者、病人など抵
抗力が低下している人や、健康な人でも疲労などで体力が低下している場合に発病しやすいと言われて
いる。
2)原生生物
真核生物のうち、菌界、植物界および動物界にも属さない生物の総称。ゾウリムシ、アメーバ、粘菌、
褐藻類、紅藻類などが含まれる。水中や水を含む土壌中に生息している。
3)ゾウリムシ
草履(ぞうり)のような形に見える単細胞の繊毛虫で、ゾウリムシ属には 46 種が知られている。和
名がゾウリムシはその一種で、学名は Paramecium caudatum という。水田や沼や池など淡水の止水域
に分布する。細胞表面の繊毛により遊泳するため、単細胞生物としては移動力が大きいことが知られて
いる(時速約 7m)。
4)共生胞
ゾウリムシは消化管を持たないため、食胞とよばれる小胞を形成して、外部から食物を取り込む。食
胞はリソソームと融合して消化が行われる。レジオネラを取り込んだ食胞はリソソームとの融合が阻害
され、消化を回避している。このように微生物が増殖できる特殊な小胞は共生胞(シンビオソーム)と
呼ばれている。