皮膚そう痒症

皮膚そう痒症
東京都健康長寿医療センター皮膚科 部長
種井 良二
Ⅰ. 痒みのメカニズム
に対して痒み刺激が掻破衝動を誘導すること、
モルヒネなどのオピオイドに対する反応性の違い
(痛みは軽減するが痒みは増強する)
、痛みが
痒みは皮膚と一部表在粘膜(口腔・眼瞼・鼻
内臓や骨などの深部組織でも感じられるのに対
腔や陰部・肛門)に認められる特有の感覚で、
して痒みは体表に限局した感覚であること、さ
「掻破衝動(掻きたいという欲求)を起こす不
らには痒み刺激をほぼ特異的に伝える神経伝
快な感覚」と定義されている。痒みは各種の
導路の存在などが明らかとなり、現在では痛み
痒み刺激(物理的や化学的な外部刺激、薬理
と痒みは類似性や共通する神経伝達機構を有
作用、アレルギー、炎症など)を脳が知覚す
するものの各々が独立した感覚であると考えら
るメカニズムであり、生体の感覚機能の一部を
れている 1)〜 5)
。
担っている。痒みは痛み(痛覚)と共通する神
痒みは一般的にその発症メカニズムにより、
経伝達機構(脊髄視床路)によって伝えられ、 “末梢性の痒み”と“中枢性の痒み”に大別さ
痛み刺激と痒み刺激の両方に反応する神経線
れている(図 1)
。末梢性の痒みは種々の原因
維の存在や皮膚での痛点と痒点の一致などか
によって皮膚の表層や内部で生じた痒み刺激
ら古くは痛覚の一部が痒覚として機能している
を、皮膚の表皮真皮境界部に存在する自由神
ものと推定されていた。しかしながら、痛み刺
経終末(主に無髄 C 線維、一部は有髄性のA
激(強い掻破など)が痒みを抑制すること、痛
δ繊維)が受容して、そこで発生した活動電位
み刺激は逃避反射(脊髄反射)を誘発するの
(痒み神経発火)が脊髄や視床(脊髄視床路)
プロフィール
Ryouji Tanei
最 終 学歴 1987 年 北 里 大 学医学 部 卒 主な 職 歴 1987 年 北 里 大 学医学 部皮 膚 科に入 局 1987 年 東 京都 老人(現・健 康 長
寿)医療センター皮膚科にて初期研修 1989 年 北里大学皮膚科病棟医 1995 年 北里研究所メディカルセンター病院皮膚科医長 1997 年 北里大学皮膚科講師 1998 年 東京都老人医療センター皮膚科医長 2012 年 東京都健康長寿医療センター皮膚科部長
現在に至る 専門分野 老年皮膚科科学、高齢者の痒み疾患(アトピー性皮膚炎など)、扁平苔癬・皮膚移植片対宿主病型組織反応など
183
皮膚そう痒症
を経由して大脳皮質で知覚されるものである。
例えばヒスタミンH1受容体やH4 受容体、5
一方、中枢性の痒みは前述の痒み感覚の知覚
−HT2 受容 体、プロテアーゼ活 性化 型受容
伝導路の脊髄レベル以上の中枢側で発生する
体(protease-activated receptors:PAR−2 や
痒み神経発火によって(例:手術患者へのモル
PAR−4 など)
、LTB4 受容 体、 サイトカイン
ヒネなどのオピオイド系鎮痛薬の硬膜外投与な
受容 体(IL−1R、IL−2R、IL−31RAなど)
、
どによる)痒みが感じられる病態である 1、2)
。
ニューロキニンNK1受容体など に各々感受
末梢性の痒みは、種々の刺激(化学的刺激、
されることで直接的あるいは間接的(肥満細胞
掻破行為や温熱などの物理的刺激、炎症反応
の脱顆粒等を介して)に自由神経終末での神
等)によって発現する各種の起痒物質(itch
経発火を誘導し、これが求心性に中枢神経系
mediators) 例えば肥満細胞由来のヒスタミン
に伝達されることで痒みが感知されるものであ
やセロトニン( 別名5−hydroxytryptamine:
る 1、2、5)
。
5−HT) など のアミン 類、 トリプター ゼ な
中枢性の痒みは中枢神経の脱髄性疾患であ
どのプロテアーゼ、そしてロイコトリエンB4
る多発性硬化症の発作性の痒みや、モルヒネ
(leukotriene B4:LTB4)などのアラキドン酸
などの外因性オピオイドの副作用として発生す
代謝物、表皮角化細胞やリンパ球由来のイン
る痒みや、内因性オピオイドペプチド(βエンド
ターロイキン(IL)−1、IL−2、IL−31などの
ルフィンなど)の血清濃度上昇が指摘されてい
サイトカイン、肥満細胞や自由神経終末(軸索
る慢性腎不全(特に透析導入後)や慢性肝疾
反射による逆行性遊離)由来のサブスタンス
患に生じる痒みの一部がこれに相当する。オピ
Pなどの神経ペプチド等 が、各種の受容体
オイドペプチド/オピオイドレセプター系は皮膚
ヒスタミン
プロテアーゼ
サブスタンスPなどの
起痒物質
中枢神経
末梢神経
痒みの刺激
末梢性の痒み
神経発火
痒みの自覚
掻破衝動
神経発火
(痒み過敏)
痒み刺激
抑制
中枢性の痒み
オピオイドμ
(ミュー)
受容体作動:痒み up
ピオイドκ
(カッパ)
受容体作動:痒み down
他の刺激
(掻破刺激など)
皮膚
他の感覚
(触覚など)
(痒み過敏)
脊髄
脳
図1 末梢性と中枢性の痒み そのメカニズムと痒み過敏 生駒晃彦:かゆみ過敏:そのメカニズムと重要性.かゆみ最前線.メディカルレビュー社.2006.より引用,改変
184
皮膚そう痒症
や中枢神経などに分布するμ(ミュー)
、δ(デ
を訴える症例ではその痒みの原因の特定(これ
ルタ)、κ(カッパ)、nociceptin(ノシセブチン:
が困難な場合も多い)とその是正、
さらには個々
ORL−1)の四つの受容体のサブタイプが同定
の痒み疾患に応じた適切な治療が必要となる。
されており、それらに対する内因性あるいは外
因性の作動成分 ・ 薬(アゴニスト)や拮抗成
分・薬(アンタゴニスト)が痒み症状に影響す
Ⅱ . 高齢者の皮膚そう痒症と
痒み疾患の特徴
ることが明らかとなっている。通常、βエンド
高齢者にみられる痒み症状は基本的にはこ
ルフィンなどのμオピオイド受容体のアゴニスト
の末梢性の痒み(老人性乾皮症や皮脂欠乏性
は痒みを誘発し、ダイノルフィンなどのκオピオ
皮膚炎など)と中枢性の痒み(胆汁うっ滞性
イド受容体のアゴニストは痒みを抑制すること
肝疾患の痒みなど)のいずれかに基づくが、
が知られている。モルヒネは難治性疼痛の治
これが複合あるいは明らかとなっていないもの
療に用いられる代表的なμオピオイド受容体の
(例:腎透析患者でのそう痒症など)もある。
アゴニストであるが、経静脈・硬膜外・脊髄腔
高齢者が皮膚に痒みを訴えた場合、痒みの範
内投与では 20−90% の発生率で痒みが副作用
囲とその部位での発疹の有無から痒みの原因
として発生する(経口投与では 0.1% の発生率)。
疾患(痒み疾患)を推定すると疾患の鑑別が
一方、κオピオイド受容体のアゴニストであるナ
容易となる(表 1)
。皮膚そう痒症とは痒みの原
ルフラフィンは慢性腎不全の透析患者や慢性肝
因となる明らかな発疹がないにも関わらず(掻
疾患の痒みを抑制し、現在ではこれら疾患の
くことで二次的に掻破痕が生じることはある)
、
痒み治療薬として保険診療での使用が可能と
皮膚に痒みが強く自覚される病態と定義されて
なっている 1、2、5、6)
。
いる。以下に高齢者にみられる皮膚そう痒症と
一般的には痒みは生体の外壁と言える皮膚
痒み疾患の特徴を概説する 5、7、8)
。
(あるいはこれと関連する内臓器)に何らかのト
1.痒みの範囲が限局性で、
ム)の一種であり、通常は掻くこと(掻破行動)
原因となる発疹がないもの
ラブルが発生したことを知らせる警笛(アラー
によって痒みの原因となる皮膚のトラブルを解決
1)老人性乾皮症
(例:蚊刺は痒みを誘発するが掻破することで
老年性のドライスキン(老人性乾皮症)は高
蚊を追い払う)して、掻破衝動が解消される合
齢者であれば誰にでも(症状の軽重に差異は
目的な生体反応である。また、持続する痒み
あるものの)認められる皮膚の生理的な老化
は潜在する何らかの疾病の存在を示唆する有
徴候で、皮膚表面に光沢がなくなって細かくひ
用なクリニカルサインともなりうる。しかしなが
び割れた皮膚の状態である。老人性乾皮症は
ら、掻破によっても痒みが解消されず、痒みの
常に痒みを伴うわけではないが、低湿度環境
原因が除去されない場合(難治性の末梢性の
下となる冬期などには症状が顕著(亀裂や鱗
痒み;例えばアトピー性皮膚炎などや中枢性の
屑が目立つ)となり、痒み刺激に対して易感受
痒み疾患など)は繰り返す掻破行動によって痒
性となって痒みが発生することが多くなる。こ
みがさらに増幅され、痒み疾患の発症・悪化
れは皮膚外部からの痒み刺激に対してバリア
の原因となる。このため、慢性・難治性の痒み
機能を担う皮膚の構成要素、すなわち皮膚最
185
皮膚そう痒症
外層の表皮角層表面の皮脂、角層細胞間の脂
らかとなっている 9、10)
。治療はヘパリン類似物
質(セラミドなど)あるいは角層細胞内成分の
質や尿素などの保湿外用薬塗布を行う。
天然保湿因子(尿素、遊離アミノ酸など)が
2)限局性の皮膚そう痒症
老人性乾皮症皮膚では加齢徴候として減少し
限局性皮膚そう痒症は慢性に持続する痒み
ているためである。最近の研究では皮膚の乾
が皮膚や表在粘膜の局所に限定して認められ
燥によるバリア機能低下が直接的に、皮膚で
る病態である。陰部・肛囲のそう痒症では糞
の炎症性サイトカイン(IL−1や腫瘍壊死因子α
尿漏れ刺激、痔、陰門萎縮、前立腺肥大、神
tumor necrosis factor−α:TNF−αあるいは
経過敏などが関係する。頸椎症・脊椎症に関
胸腺間質性リンパ球新生因子 thymic stromal
係して前腕や背部などの脊髄神経支配領域に
lyphopoietin:TSLPなど)の発現や、痒み閾
一致して知覚異常とともに局在性の搔痒症(一
値の低下(痒みが感じやすくなる;ドライスキン
種 の 中 枢 性 の 痒 み;brachioradial pruritus,
では表皮細胞より神経成長因子 nerve growth
notalgia paresthetica)が認められることもあ
factor:NGF などが放出され自由神経 終末が
る。治療は痒みの原因の是正・治療と共に痒
表皮表層側に伸長して痒み刺激を受容し易くな
みの対症療法を行う。
る)を誘導して皮膚に痒みをもたらすことも明
表1 高齢者に発症することの多いそう痒症 (1. 2.) とその他の痒み疾患(3.)
痒みの範囲、発疹の有無による分類 1.痒みの範囲が限局性で、原因となる発疹がない
老人性乾皮症
限局性皮膚そう痒症(陰部・肛囲のそう痒症など)
2. 痒みの範囲が広範で、原因となる発疹がない
老人性皮膚そう痒症(老人性乾皮症の痒みの汎発、重症化)
その他の皮膚そう痒症(①が関係する。)
3. 痒みをもたらす発疹があるもの
・湿疹・皮膚炎
皮脂欠乏性皮膚炎、貨幣状湿疹、接触皮膚炎、おむつ皮膚炎、手湿疹、脂漏性皮膚炎、
アトピー性皮膚炎
・痒疹
急性痒疹(大部分は虫刺症)
亜急性・慢性単純性痒疹、多形慢性痒疹、結節性痒疹(いずれも①②が関係することあり )
・蕁麻疹
急性蕁麻疹、慢性蕁麻疹、その他
・薬疹・中毒疹
・動物性皮膚症
疥癬、毛虫皮膚炎など
・その他
真菌症(足白癬やカンジダ症)、汗疱・汗疹(あせも)、水疱性類天疱瘡、老人性疣贅 など
① 薬剤性、閉塞性黄疸、原発性胆汁性肝硬変、肝・胆嚢・膵臓などの癌、慢性腎不全・腎透析、糖尿病、
痛風、甲状腺機能低下症、貧血、多血症、ホジキン病・悪性リンパ腫、白血病、多発性硬化症、
脊髄癆、
寄生虫妄想、神経症、食餌、ストレス、アレルギー、ヘリコバクターピロリ感染 など
② 虫刺症、光線過敏、胃腸障害、木村病、アトピー性、HIV 感染 など
186
皮膚そう痒症
2.痒みの範囲が広範で、
原因となる発疹がないもの
う。これら治療によっても痒みの改善がみられ
1)老人性皮膚そう痒症
痒症を鑑別疾患として考慮する。
老人性皮膚そう痒症は冬期などに老人性乾
2)その他の皮膚掻痒症
皮症のドライスキンが顕在化・広範化して、痒
高齢者にみられる種々の基礎疾患やその治
み刺激に対して易感受性となるために全身の
療薬などに関係した汎発性の皮膚そう痒症であ
広い範囲の皮膚が、いわゆる“痒み過敏”の
る(表 1の①を参照)
。中枢性の痒みに基づく
状態になったものである。この痒み過敏の病
ものも少なくない。治療は老人性皮膚そう痒症
態(図 1)は、ドライスキンによる痒みと掻破
に準ずる対症療法と、痒みの原因検索とその治
行為による起痒物質等の発現増加と神経終末
療・是正である。
の伸長が皮膚(末梢部)での痒み閾値の低下
ない症例では、以下に記すその他の皮膚そう
をもたらして、痒み神経発火の易発生性を誘導
3.痒みをもたらす発疹があるもの
し、さらにはその影響で高活性化状態となっ
発疹が明らかな疾患は厳密に言えば皮膚そ
た中枢性痒み伝導路(二次ニューロン)も閾値
う痒症とは異なる病態であるが、高齢患者が
が低下、その結果、本来は痒み刺激として感じ
痒みを強く訴える疾患として以下の疾患が重要
られない衣類の接触刺激などの神経発火も脊
である。多くは末梢性の痒みに基づく疾患であ
髄レベルから痒みの神経伝導路に伝わって痒
るが中枢性の痒みの関与が指摘されているもの
みとして自覚されてしまう状態 1、11) に陥ったも
もある。
のと考えられている。臨床的には皮膚炎や蕁麻
1)皮脂欠乏性皮膚炎
疹などの痒みを伴う発疹が認められないにもか
皮脂欠乏性皮膚炎は、繰り返される掻破の影
かわらず、患者はドライスキン状態の皮膚の広
響やドライスキンの重症化によって前述のバリア
い範囲(四肢伸側、側腹部、腰背部など)で
機能の低下と各種の炎症性サイトカインや起痒
強く頑固な痒みを自覚する。痒みが顕著な場
物質の発現がより顕著となり皮膚に免疫炎症反
合は掻破痕を多数伴うことがある(図 2)
。一
般的には体が温まり、副交感神経が優位に働
く夜間就眠時などに痒みが強く感じられる傾向
がみられる。これは表皮角化細胞に発現する
刺激受容体(イオンチャネル内臓型)の TRP
(transient receptor potential:トリップ)チャ
ネルの TRPV3や TRPV4 あるには TRPV1(炎
症を伴った場合)が 12、13)
、就眠時の体温上昇
により高活性化して掻破刺激や温熱刺激等に
よっても痒み過敏が増強させられているものと
推定される。
治療は保湿外用薬とステロイド外用薬の併用
塗布と第 2 世代の抗ヒスタミン薬の内服等を行
図2 老人性乾皮症に続発した皮膚そう痒症
肩部に掻破痕が多数認められる
187
皮膚そう痒症
応が誘導されて、老人性乾皮症上に湿疹型皮
小児や若年成人のADに特徴的に認められる
膚炎が発生した病態である(図 3)。治療はステ
肘窩・膝膕の限局性苔癬化病巣は認め難く、
ロイド外用薬と保湿外用薬の重ね塗りが有用で
逆に同部では病変を欠く傾向がある 15)
。
ある 14)
。
AD の痒み 1、10、11、15 〜 18)にはアレルギー性
2)アトピー性皮膚炎
炎症(アレルゲン特異的 IgE 抗体や好酸 球、
高齢者においてもアトピー性皮膚炎
(atopic
Th2 細胞や Th22 細胞などの Tリンパ球、表皮
dermatitis:AD)は少なからず存在し、今
や真皮の樹状細胞、IL−4、IL−5、IL−31あ
後その患者数は増 加することが 推 定されて
るいはインターフェロンγなどのサイトカイン等が
いる 15)
。高齢者AD 症例では顔面や項頸部の
関与する慢性炎症)やドライスキンによる末梢
慢性湿疹、眉毛外側の脱毛(Hertoghe 徴候)
、
性の痒み、末梢性の痒み閾値の低下(AD患
体幹や四肢伸側・屈側の滲出性炎症を伴った
者の血清や皮疹部では NGFの発現増加が認め
苔癬化といった若年層のADに一致する特徴が
られ、自由神経終末の表皮表層側への伸長が
認められることが多い(図 4)。しかしながら、
みられる)、オピオイド系の痒み(AD 患者で
は血中βエンドルフィン濃度が上昇しており 16、
17)
、表皮角化細胞でのダイノルフィンとκオピオ
図3 皮脂欠乏性皮膚炎
右足関節−足背部のドライスキン上に湿疹皮膚炎が
認められる
188
図4 高齢者のアトピー性皮膚炎
背部に痒みの強い慢性皮膚炎が認められる
皮膚そう痒症
イド受容体の発現低下18)が報告されている)、
徴とする炎症性疾患である。急性発症する発
中枢性(二次ニューロンや脳内での)痒み過敏
赤の強い急性痒疹は虫刺に基づくことが多い。
17)等がこれに関与していることが明らかとなっ
亜急性痒疹(紅色丘疹が体幹に散在)や慢性
ている。このためAD患者では、繰り返す掻破
痒疹(慢性経過により丘疹が融合あるいは結
によっていわゆるitch-scratch cycle(−痒みが
節状に増大する)は基礎疾患に基づく痒みに
強い→掻破→各種の炎症性サイトカインや起痒
続発あるいは派生して認められることが多く、
物質の発現増加→皮膚炎の悪化→痒みの増大
その他の皮膚そう痒症に準じた痒みの原因検
→掻破−の悪循環)が形成され、痒みと発疹
索が必要となる(表 1の①と②を参照)
。この
の増悪・難治化の原因となっている。
ため、痒疹も末梢性と中枢性の痒みの何れも
治療はステロイド外用薬と保湿外用薬(尿素
が関与する難治性の痒みを呈することが多い。
やヘパリン類似物質)の併用および第 2 世代抗
治療は皮膚そう痒症と同様に痒みや発症の原
ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服治療が基
因検索とその治療・是正が重要になる。
本となる。顔面・項頸部などステロイド外用薬
4)疥癬 の副作用(皮膚の萎縮、ステロイド誘発性の顔
疥癬はヒゼンダニの人から人への経皮接触感
面発赤)が生じやすい部位では 免疫抑制薬の
染によって発症する寄生虫性皮膚疾患である。
タクロリムス軟膏塗布も有用である。また、ナ
ヒゼンダニの人皮膚角層部への寄生後、時間の
ローバンド紫外線治療も補助療法として非常に
経過とともに特徴的な病像、すなわち夜間の
有用である。
激痒、腋下・下腹部などに散在する丘疹、手掌・
3)痒疹
指間の丘疹・小水疱と線状鱗屑(疥癬トンネル ;
痒疹は痒みの強い孤立性の丘疹・結節を主
雌虫の産卵跡)を呈してくる(図 5)
。ヒゼンダ
図5 疥癬の臨床像
痒みの強い丘疹が腹部などの体幹に散在性に認められる
189
皮膚そう痒症
ニに対するアレルギー性炎症に基づく変化であ
ズム.臨皮 2000;54(5 増)
: 52−56.
るため、その痒みの本態は末梢性の痒みであ
10) 波多野 豊:アトピー性皮膚炎の病因論〜
る。発病初期(感染後約1 ヶ月間)は発疹がわ
バリア機能異常の意義付け〜.アレルギー・免
ずかなために皮膚そう痒症と誤診されやすい。
疫 2011;18:1448−1457.
治療は1 週間に1回の、イベルメクチンの内服
11)生駒晃彦:かゆみ過敏:そのメカニズムと
治療あるいはスミスリン外用薬塗布治療を、何
重要性.宮地良樹,
生駒晃彦編 かゆみ最前線.
れも2 〜 3クール行う。
メディカルレビュー社,東京,2006,42−45.
文 献
12)傳田光洋:皮膚は考える.岩波科学ライブ
ラリー 112 岩波書店,2005.
13)富永真琴:生体はいかに温度をセンスする
1)高森健二:難治性痒みの発現メカニズム か:TRP チャネル温度受容体.日生誌 2003;
乾,透析,アトピー性皮膚炎に伴う痒みについ
65:130−137/
て.日皮会誌 2008;118:1931−1939.
14)種井良二:皮脂欠乏性皮膚炎.横関博雄,
2) A k iya m a T, C a r sten s E .: Neu r a l
片山一朗編 高齢者によくみられる皮膚疾患アト
processing of itch. Neuroscience 2013; 250:
ラス 鑑別と治療のポイント.医薬ジャーナル
697−714.
社,大阪,2013,21−24.
3)國本雅也:ヒスタミンのかゆみ : かゆみは痛
15)種井良二:高齢者のアトピー性皮膚炎.ア
みと同じ神経で伝わるのか? 宮地良樹, 生駒晃
レルギー 2015;64:918−925.
彦編 かゆみ最前線.メディカルレビュー社 , 東
16)竹内 聡:アトピー性皮膚炎のかゆみ.宮
京,2006,26−29.
地良樹,生駒晃彦編 かゆみ最前線.メディカ
4) 生駒晃彦:かゆみとほかの感覚の関係:ど
ルレビュー社,東京,2006,140−143.
の感覚がかゆみを抑えるか? 宮地良樹,生駒
17)石氏陽三:アトピー性皮膚炎のかゆみ治
晃彦編 かゆみ最前線.メディカルレビュー社,
療.MB Derma 2010;173:7−14.
東京,2006,38−41.
18) 加 茂 敦 子, 冨 永 光 俊, 高 森 健 二:ア
5)種井良二:高齢者の搔痒性皮膚疾患.大
トピー 性 皮 膚 炎と皮 膚感 覚 受 容 器 Itch in
内尉義,秋山弘子,折茂肇編 新老年病学.3,
atopic dermatitis-the role of skin as sensory
東京大学出版会,東京,2010,1312−1318.
receptor. 顕微鏡 2011;46:233−237.
6)野島浩史:中枢性メディエーター:オピオイ
ドとかゆみ.宮地良樹,生駒晃彦編 かゆみ最
前線.メディカルレビュー社,東京,2006,62
−65.
7) 種 井良 二:高 齢 者 の か ゆ み 治 療.MB
Derma 2010;173:48−54.
8) 種井良二:皮膚の課題.介護福祉 2015夏季
号;98:76−87.
9)高森健二:ドライスキンによる痒みのメカニ
190