2016 April Special-1 東京海上日動 WINクラブ http://www.tmn-win.com/ 事業継続マネジメント(BCM)とは(2) 本稿では、3 回にわたり企業の災害対策において重要な役割を果たす「事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management) 」について紹介しています。第2回は、BCM の取組みの進め方を解説していきます。 Ⅰ.BCM の取組みの進め方 まずは、BCM の取組みの全体像を把握しましょう。図表 1 には、BCM の取組みの流れを示しています。取組みを 進める際には、まず BCM の基本 方針を策定します。次に自社とし て優先的に継続すべき事業を選び、 STEP 6. STEP 1. 業務プロセスの分析や被害想定か 基本方針 策定 ら事業継続の障害等を明らかにし、 対策の実施、教育・訓練、見直し STEP 2. 優先事業、 重要業務の 選定 STEP 3. 業務プロセス の分析、 被害想定 STEP 4. ◆ビジネス影響 度分析(BIA) の実施 ◆優先すべき事 業・業務と目標 復旧時間の決定 ◆業務プロセスと 必要な経営資源 (人・物・情報) の洗い出し、ボト ルネックの特定 ◆被害想定 ◆事前対策、 事業継続戦略、 代替手段等の 検討 対策・ 戦略検討 STEP 5. BCP 文書作成 有事に事業を継続できるようにす るための対策・戦略を検討します (STEP1∼4) 。そして、これら の検討内容を BCP として文書化 します(STEP5) 。さらに、作成 ◆BCMの目的、 推進体制、 BCPの策定範 囲決定、策定ス ケジュール等の 明確化 した BCP を活用して、各種対策 ◆STEP1∼4の 検討内容をBCP として文書化 【図表1:BCM の取組みの流れ】 の実施、教育・訓練、BCP 自体 の見直しを進めていくことで、有事にも役立つ計画となるようブラッシュアップしていきます(STEP6) 。 Ⅱ.各 STEP での実施事項 STEP1∼STEP6 で実施する具体的な事項について解説します。 ■STEP1 基本方針策定 STEP1 では、基本方針として、①BCM に取組む目的、②平時の BCM 推進体制と危機発生時の対応体制を明らか にします。 ①の BCM に取組む目的には「いざという時に自社が守りたいもの」を掲げてください。 「人命の安全」 「事業の継続」 「社会貢献」等がキーワードになるでしょう。ここで決めた基本方針は、今後の BCM の推進や有時において判断に迷 う場面等で拠りどころにもなります。 ②の推進体制や対応体制では、日頃の BCM の取組みや危機発生時の対応で、誰が、どのような役割を担うのかを決 めます。平時・有事のいずれも経営者が積極的に関与することがポイントです。経営者の関与により、全社を巻き込む、 自社の全体像を踏まえた対策や戦略が考えられる、従業員の使命感が高まるといったメリットが期待できます。有事の 体制には、復旧対応・社外への対応・財務対応・従業員のサポートといった機能を含めることが必要です。 ■STEP2 優先事業、重要業務の選定 STEP2 では、まず、優先的に継続または復旧すべき事業を選定します。有事にできることは限られますから、自社 の事業をリストアップし、図表 2 に示すような視点で優先すべき事業( 「優先事業」 )は何かを検討します。併せて、優 先事業を実施するために必要な重要業務も洗い出しましょう。 1 Copyright (c) Tokio Marine & Nichido Risk Consulting Co., Ltd. 次に優先事業の目標復旧時間を設定します。顧客や取引先の要請、自社の財務体力等を踏まえ、 「事業が何日間停止す れば問題が大きくなるか」をもとに検討します。 優先事業検討の視点 優先事業と重要業務 目標復旧時間検討の視点 ① 自社の業績(売上・利益等)への寄与 • 売上・利益に占める割合が大きな事業は? • 停止により重要取引先への影響が大きく、その後の取引 停止につながる事業は? ■優先事業 主力製品Xの製造 ■重要業務 • Xの製造に必要な原材料の調達 • Xの製造に必要な設備、システ ムの稼働 • 主力納入先であるY社への対応 • Y社拠点への完成品の配送 Y社はいつまで 待ってくれるのか? ② 法令・契約等による事業継続責任の有無 • 提供するサービスレベルを取り決めている事業は? ③ 自社の社会的責任 • 停止により社会に与える影響が大きい事業は? 【図表 2:優先事業と重要業務、目標復旧時間の検討(例) 】 ■STEP3 業務プロセスの分析、被害想定 災害によりボトルネックに! ◆経営者・従業員 →意思決定を行う責任者や専門技能を持った社員が出社できない。 STEP3 では、災害が発生した場合に自社にどのような 被害が発生し、優先事業にどのような影響があるのかを分 ◆施設 →本社屋が損壊し、執務はおろか立ち入ることすらできない。 析します。まずは、自社拠点周辺で起こり得る災害を把握 ◆設備・システム →受発注に必要なシステムが、停電により使用できない。 しましょう。拠点所在地の自治体のホームページに掲載さ れているハザードマップや地域防災計画等の情報が参考と ◆原材料 →主力製品の原材料が、調達先被災のために供給されない。 なります。 ◆委託先 →物流委託先被災のために、重要顧客に製品を納入できない。 次に、優先事業について、重要業務のプロセスと必要な 【図表3:災害時に発生するボトルネック(例) 】 経営資源(人・物・情報等)を見える化します。先に把握 した災害に対して、各経営資源にどのような被害が発生す るか分析してみましょう。 被害を受けて利用できなくなり、 事業継続の障害となる経営資源をボトルネック1と呼びます。 事業継続のためには、ボトルネック解消のために何らかの対応を実施することが必要です。 ボトルネック ■STEP4 対策・戦略検討 従業員等 責任者不在時の代行者の指名 特殊技能者の育成 業務手順書や簡易マニュアルの作成 教育・訓練による多能工化 外部組織への応援依頼 在宅勤務 退職者の再雇用 施設、 設備等 • • • • • • 施設の耐震化、設備の固定の実施 代替拠点の確保 生産ラインの移設 協力会社や他社への生産移管 代替の難しい物品の予備の確保 委託先等との連携、協力 商品、 原材料等 • • • • • 調達先の複数化・分散化 外部調達→内製への切り替え 在庫積み増し 代替の難しい商品・原材料の見直し 取引先との連携、協力 STEP4 では、STEP3 で特定したボトルネックを解消するた めに、図表 4 に示すような具体的な対応を検討し、いつまでに実 施するかを明確にします。対応を検討・実施することで、事業停 止の回避や復旧時間の大幅な縮小が期待できます。 ■STEP5 BCP 文書作成 STEP5 では、STEP4 までの検討結果を BCP として文書に 整理します。文書を保存する際は、計画書本体だけでなく、重要 業務に必要なマニュアルや連絡先等のリストも綴じ込み、災害時 に参照できる状態で準備しておくことが重要です。有事には PC が使えないことを想定し、印刷も忘れないようにしましょう。 ■STEP6 対策の実施、教育・訓練、見直し STEP6 では、作成した BCP が危機発生時にも有効に機能す 対応策(例) • • • • • • • 【図表4:ボトルネックへの対応策(例) 】 るように、①ボトルネックへの対応、②BCP の内容に基づく役員や従業員への教育・訓練、③定期及び臨時(事業環 境の変化、危機発生等に応じて)の BCP 見直しを着実に実行していきます。特に教育・訓練は、BCP への理解の向上、 要員の危機対応力強化、BCP の課題の発見等の様々な効果が期待できるため、多くの企業が重視しています。 BCM の取組みの大きなポイントは、BCP 文書の作成を最終的なゴールにしないことです。BCP 文書に定めた基本 方針、優先事業、有事に取るべき行動等を社内に理解・浸透させるべく教育・訓練を地道に行うこと、必要な対策を計 画どおり一歩一歩進めていくこと、そして 1 年に 1 度は現状評価と計画の見直しを怠らないことが、真に危機に強い 会社を作ります。次回は、BCM の取組みで多く見られる課題について解決のヒントを紹介していきます。 1 ボトルネックには、従業員、工場・店舗等の施設、設備、原材料、PC(インターネットやメール等の機能を含む)、情報システム、各種ライフライン、交通イ ンフラ、各種書類、帳票類、外部委託先等が考えられます。 2 Copyright (c) Tokio Marine & Nichido Risk Consulting Co., Ltd.
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