公益財団法人国際金融情報センター 平成28年度事業計画書 1.調査事業 (1)世界の主要国及び新興工業国・開発途上国の金融経済情勢を調査する。その 成果を各種レポートにまとめるほか、主な国のカントリー・レーティングを経済予 測に基づいて行う。本年度の重点調査項目としては次の通り。 ○ 先進諸国では、米国景気が持続的な成長を続けるかどうかが最大の鍵となろ う。連邦準備制度(FRB)は昨年12月に雇用の改善、国内需要の堅調を背景 に6年半ぶりの利上げ(0.25%)に踏み切った。しかし、年明け後は米国の消 費、投資等に対する懸念やドル高の悪影響などが取り沙汰されて世界的な株価下 落、ドル安などで市場は大揺れとなった。EUでは欧州中央銀行(ECB)が昨 年1月に量的緩和に踏み切り、昨夏のギリシャ危機も何とか乗り切ったものの、 景気の足取りは冴えない。また物価面でもECBの目標とする2%近傍にはるか に及ばずデフレ懸念は払拭されていない。シリア等からの難民問題、南欧の不良 資産問題、ギリシャ危機の再燃などの火種も尽きない。日本でも日銀が本年1月 に未曾有のマイナス金利導入を決定したものの、円高、株安が進行する中で、景 気の足取りは重い。本来、世界的な低金利の持続と原油価格の急激な低下は先進 国経済にとって大きなメリットを及ぼすことは疑いを入れない。しかし、地政学 的リスクの増大や構造調整の立ち遅れなどの影響で成長率の早急な回復は難し そうである。また政治面をみても米国大統領選の帰趨や英国の欧州離脱問題、な どの不安定要因に事欠かない。 ○ 新興諸国では、世界第二の経済大国となった中国が引き続き大幅な景気減速、 不動産や素材の過剰在庫、大量の資本流出などに見舞われ、世界経済にも悪影響 を及ぼしている。産油国では原油価格の大幅低下によりロシア、ナイジェリアな どで経常収支、財政収支の悪化に直面しているほか、サウジ、UAEなどの湾岸 産油国でも運用資産の取り崩しなどで中長期的な経済見通しは厳しい。ブラジル、 ベネズエラ、アルゼンチンなど中南米諸国も資源価格の低下などを通じる交易条 件の悪化、インフレの高進などで格付けが低下を続ける国が多い。このほか、日 本との関係が深く、好調を続けてきたアセアン諸国でも中国向け輸出の減少や国 内政治の不安定化などにより成長率は総じて低下する見通しである。 ○ 地政学リスクの増大からは引き続き目を離せない。ロシアのクリミア併合後 もウクライナ情勢は注視を怠れない。シリア、イエメンなどでの内戦も激化して 1 おり、またイスラム国(ISIL)やナイジェリアなどでテロ勢力の活動も活発であ る。 ○ このように地域及び国ごとに多様な問題に直面しているだけに、金融経済の 現状ならびに見通しについて情報提供を進めたい。 ○ 個別テーマは以下の通り。 米国の政治、経済動向ならびにFRBの金融政策動向 ユーロ圏の経済動向、ギリシャ問題、難民問題、南欧の不良資産問題 中国、インド、ブラジル、トルコ、アセアン諸国などの新興諸国の経済動向 石油価格と産油国の動向 アフリカ・中近東の政治・社会の動向 原油価格、国際商品市況の動向 ウクライナ、ISIL などの地政学的リスクの分析 (2)世界の主要金融市場における規制強化の動きを把握し、本邦金融機関への影 響等を考察する。 ○ 金融面ではサブプライム問題、リーマンショック等を契機に、金融機関に対 する資本規制、流動性比率規制強化やリテール業務のリングフェンシングなどの 動きが強まった。バーゼルⅢ、ドット・フランク法、ボルカールール導入の影響 も次第に具体化しつつある。かかる状況を綿密に調査のうえ、本邦金融機関や東 京市場への影響等を考察したい。 (3)為替市場の変動に関して調査するほか、市場参加者の見方を継続的に集約し たレポートを作成する。 (4)調査にあたり、各国の政策当局、国際通貨基金・世界銀行・アジア開発銀行 等の国際機関、内外の学術研究機関と緊密に情報交換を行う。 (5)内外の政策・監督当局者や有識者を講師とするセミナーや、当財団職員によ る出張報告会等を通じて、会員へ積極的に情報提供する。 2 2.海外テロリスト等資産凍結対象者検索管理システム運営事業 ○ アルカイーダ系過激テロ組織ISILやアフリカ地域の武装勢力によるテ ロ行為もしくは北朝鮮によるミサイル発射・核実験などに対し、各国および国連 や EU など国際機関による経済制裁の対象者が増えている。こうした対象者への 対外送金は、外国為替法に基づく告示等により禁止されている。当財団ではこう した送金の際のチェックや、既往口座における資産凍結対象者のチェックを行う システムを、中小金融機関でも利用可能なよう、比較的安価なコストで提供して いる(会員による利用は無料)。28 年度には犯罪収益移転防止法の改正により、 さらに厳格な本人確認が求められるようになることから、世界約60ヶ国につい て要人データベースを作成し、チェック機能を組み入れた新サービスを追加する 予定だ。このため、28 年度も、プログラム改修ならびに拡張などを通じ、利用 者の利便性向上とシステム運用の安定・効率化を図る方針である。 3.個人利用システムの普及 ○ 公益財団移行を機にインターネット等を通じて、会員のみならず国民一般に も当財団の調査成果の普及を図る狙いから、個人利用システムを 24 年 2 月から 開始した。利用促進のため、半額セールス・キャンペーンも 2 年連続で実施した。 28 年度も、ユーザーの反響などを見極めつつ、同システムの一層の利用度向上 を図りたい。 4.委嘱・委託事業 ○ 会員等からの委嘱および省庁の入札参加等により、新興諸国・開発途上国の 金融・財政や対外債務管理等に関する各種調査・研究を行い、また研究会や研修 会等に関する事務を行う。但し、市場環境は厳しさを増しており、一般競争入札 での落札が叶わず 27 年度実績は前年度に続き一件の受注もみられなかった。 3
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