聴覚障害者の仕事に関する相談先

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聴覚障害者の仕事に関する相談先
― 聴覚障害者対象アンケート調査の結果より ―
上席主任研究員
水野 映子
目次
1.調査研究の概要 ··········································································································································· 26
2.仕事に関する悩みの現状 ························································································································· 28
3.仕事に関する悩みの相談相手 ··············································································································· 29
4.聴覚障害者の仕事に関する相談先における課題 ········································································· 36
要旨
① 聴覚障害者の仕事に関する悩みの相談先の現状・課題などを明らかにするために、働い
ている聴覚障害者を対象とするアンケート調査を実施した。
② 仕事に関する悩みとして「職場の人間関係」「仕事の内容」をあげた人は、それぞれ約
6割にのぼる。また、聴覚障害に関係する悩みがあると答えた人は約7割、悩みが原因
で仕事を辞めたいと思ったことがある人は過半数を占める。
③ 仕事に関する悩みを「相談しても解消しそうにない」
「他の人に説明することが難しい」
「相談しても理解してもらえそうにない」と思う人はそれぞれ半数を超える。一方、
「同
じ悩みを持つ人と話したい」と答えた人はおよそ4人に3人に及ぶ。また自由回答では、
望ましい相談相手として、同じ障害がありかつ仕事内容が近い人、障害に対する理解が
ある人、コミュニケーションしやすい人などがあげられている。
④仕事に関する悩みの相談相手は、聴覚障害のある友人・知人が最も多い。また、彼らを
「同じような悩みを持っていた人」
「悩みを理解してくれた人」
「気持ちや考え方を整理
する上で役立った人」と評価する割合も比較的高い。仕事に関する相談や情報共有・交
換ができる聴覚障害者同士のネットワークづくりとその支援が課題のひとつといえる。
⑤ 健聴の(聴覚障害のない)上司や同僚に相談した人や、彼らを「有益な情報やアドバイ
スをくれた人」「問題解消のために動いてくれた人」と評価する人も比較的多い。また
自由回答では、職場(働いている企業や団体など)の中に相談相手がいることを望む声
もある。聴覚障害者に対する相談体制を職場で整備することも求められる。
⑥ 職場外の相談機関等は、現状では聴覚障害者の相談先にはあまりなっていない。聴覚障
害者の相談に対応できる専門家の配置やその存在の周知、他の相談先との連携などが、
より必要と考えられる。
キーワード:聴覚障害、悩み、相談、職場
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1.調査研究の概要
雇用の分野における障害者に対する差別の禁止や、障害者が働くにあたっての支障
を改善するための措置、すなわち合理的配慮の提供義務などを定めた改正障害者雇用
促進法が、今年4月より施行された。障害者が働きやすい環境づくりを目指す動きは、
この法施行などに伴い今後加速すると思われる。
筆者はこれまで、障害者のうち聴覚障害者が働く上での支障を明らかにした上で、
それを改善するための課題として、企業等の事業主の支援や周囲の健聴者(聴覚障害
のない人)の理解・配慮、およびそれらの支援や理解・配慮を得るための聴覚障害者
本人からの情報伝達・要望などを示した(水野 2014a、2014b)。だが、それだけでは
改善が困難な問題に聴覚障害者が直面した際には、職場内外の誰かに相談したり助言
を求めたりできる環境があることも重要と考えられる。また、前述の改正障害者雇用
促進法では、雇用する障害者からの合理的配慮に関する相談に適切に対応するために
必要な体制の整備も、事業主に義務付けている。聴覚障害者が職場で感じる支障やそ
の改善策には聴覚障害者特有のものがあり、また相談内容が聴覚障害者特有でなくて
も一般的なコミュニケーション方法で聴覚障害者に対応することは障害特性上難しい
場合もあるため、他の障害者とは異なる相談体制を検討する必要もある。
聴覚障害者の仕事に関する相談先は、大きく分けて①就業者共通、②聴覚障害者を
含めた障害者共通、③聴覚障害者のみのものがある。このうち①の例としては、上司
や同僚、人事担当者、家族や友人・知人などの周囲の人のほか、労働関係の相談機関
がある。一方、②の例としては障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業セン
ター、ハローワーク(公共職業安定所)の障害者専門の職員・相談員、企業等の事業
所に配置されている障害者職業生活相談員、③
の例としては聴覚障害者関係団体の職員・相談
員などがある。また、相談する際に手話通訳者
等が間に入る場合や、同じ障害者が支援・相談
に応じるピアサポート・ピアカウンセリングが
行われる場合もある。
聴覚障害者が仕事に関して誰に相談している
かについては、厚生労働省(2014)などが調査
を実施している(図表1)。しかし、相談する際
の障壁や相談の効果については、既存調査では
あまり示されていない。
そこで本調査研究では、聴覚障害者対象のア
ンケート調査を実施することにより、聴覚障害
図表1 聴覚障害者の仕事に関する
相談相手
(単位:%)
職場の上司や人事担当者
36.9
職場の同僚・友人
43.7
家族、親戚
47.5
職場以外の友人・知り合い
32.6
学校の先生
3.7
障害者団体の相談員
3.1
公共職業安定所の職員
2.6
障害者就業・生活支援センター
2.3
の職員
地域障害者職業センターの職員 1.2
就労移行支援、就労継続支援
0.2
A型、同B型、作業所などの職員
その他
5.2
特にいない
13.3
者が仕事に関して誰に相談しているか、そのう
注:対象者は常用労働者を5人以上雇用する
民営事業所で雇用されている聴覚障害者
資料:厚生労働省(2014)
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ち相談相手として誰がどのような役割を果たしているか、相談相手には何が求められ
ているか、などについて明らかにする。それにより、聴覚障害者が仕事をする上での
問題を改善するためには職場の内外にどのような相談先が必要か、特に聴覚障害者を
雇用する企業等の事業所や相談機関等における課題は何かについて検討する。
なお、本調査では、聴覚障害者が仕事に関して感じている問題を、
「悩み」という表
現でたずねた。また、悩みを相談して解決することだけでなく、話すことによって気
持ちが楽になったり整理されたりすることも重要であるという観点から、
「話したり相
談したりすること」を「相談」の範囲とした。
アンケート調査の方法は図表2、回答者の属性等は図表3の通りである。前述の厚
生労働省(2014)の調査に回答した聴覚障害者と比べると、本調査の回答者は60代以
上の割合が低く、30代などの割合がやや高い。また、厚生労働省(2008、2013)の調
査結果などを参照すると、本調査の回答者は中途失聴者の割合が低く、重度の障害が
あり、手話ができる人の割合が高いと考えられる。
図表2 アンケート調査の方法
・調査時期:2015年11月~2016年1月
・調査対象:現在働いている聴覚障害者
※身体障害者手帳を持っていない難聴者も対象とした
・調査方法:聴覚障害者関連のイベントの参加者などに手交により配布、手交または郵送に
より回収
・有効回収数:212名
図表3 アンケート調査の回答者の属性等
(単位:%)
性別
年代
居住
地域
勤続
年数
男性
46.7
女性
51.4
無回答
1.9
20代
13.2
30代
23.1
40代
32.5
50代
22.2
60代以上
7.5
無回答
1.4
関東(1都6県) 59.0
関東以外
39.6
無回答
1.4
5年未満
27.8
5~10年
25.5
10~20年
23.6
20年以上
22.6
無回答
0.5
正規の社員・職員
雇用 非正規の社員・職員
形態 自営業・自由業
無回答
民間企業
官公庁
勤め先
その他
無回答
上司
同僚(上司以外で、ふだん一
ふだん 緒に働いている人)
接して 人事担当者
いる 職場にいるその他の人
聴覚障
家族
害者
友人・知人
<複数
回答> 職場以外にいるその他の人
いない
無回答
59.4
32.5
4.7
3.3
78.5
12.8
7.2
1.5
3.8
25.9
1.4
25.9
24.1
61.3
25.0
7.1
2.4
身体障 持っている
害者手 1~2級
帳の有 3~6級
無・障害 持っていない
等級 無回答
小学校に入る前
から(生まれつきの
94.8
72.2
22.6
1.9
3.3
80.7
場合を含む)
失聴
時期
小学校に入った
後~社会に出る
前
社会に出た後
無回答
できる
ある程度できる
手話の
あまりできない
程度
できない
無回答
10.8
5.7
2.8
48.6
37.3
9.9
1.9
2.4
注:勤め先は n=195(正規・非正規の社員・職員のみが回答)、それ以外は n=212(全員が回答)
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2.仕事に関する悩みの現状
本調査では、最近3年間くらいの仕事に関する悩みについてたずねた。回答者のう
ち、「悩みを感じたことがない」と答えた聴覚障害者は4人(全回答者の1.9%)のみ
であった。以下では、残りの208人(全回答者の98.1%)、すなわち仕事に関して何ら
かの悩みを感じている聴覚障害者の回答結果を掲載する。
聴覚障害者が仕事をする上での問題については、既存の調査研究である程度示され
ているため、今回は聴覚障害者の離職につながりやすい悩みの有無をたずねるにとど
めた。具体的には、聴覚障害者の前職の離職理由(個人的理由)の上位に「職場の雰
囲気・人間関係」
「賃金、労働条件に不満」
(それぞれ35.6%)、
「仕事内容があわない」
(30.8%)があがっている(厚生労働省 2014)ことなどをふまえて、本調査では「職
場の人間関係」
「仕事の内容」
「賃金・労働条件」
「その他」のうちどの悩みがあるかを
複数回答でたずねた。その結果、
「職場の人間関係」
(60.6%)と「仕事の内容」
(59.6%)
がそれぞれ約6割を占めた(図表4)。
また、仕事に関する悩みの中で、回答者自身
図表4 仕事に関する悩みの現状
(単位:%、n=208)
が聞こえないこと・聞こえにくいことに関係し
ていると思う悩み(以下、聴覚障害に関係する
悩み)があるかたずねたところ、
「ある」と答え
悩みの内容
<複数回答>
た割合は70.2%であり、「ない」(13.9%)、「ど
ちらともいえない」
(14.4%)と答えた割合を大
きく上回った。つまり、聴覚障害者が抱える悩
みには、聴覚障害特有のものがかなりあること
聴覚障害に
関係する
悩みの有無
が改めて示された。
さらに、仕事に関する悩みが原因で仕事を辞
めたいと思ったことがあるかもたずねた。その
結果、「よくある」(20.7%)、「ときどきある」
(35.1%)と答えた人を合わせると55.8%とな
悩みが原因
で仕事を
辞めたいと
思った経験
職場の人間関係
仕事の内容
賃金・労働条件
その他
無回答
ある
ない
どちらともいえない
無回答
よくある
ときどきある
あまりない
ほとんどない
悩みが原因で
実際に辞めた
無回答
60.6
59.6
21.2
12.0
4.3
70.2
13.9
14.4
1.4
20.7
35.1
21.6
17.3
2.4
2.9
った。過半数の聴覚障害者が、仕事に関する悩
みが原因で離職を考えることがあるといえる。
これらの悩みの具体的内容を自由回答形式でたずねたところ、職場でのコミュニケ
ーションが難しいこと、それに起因して仕事上の人間関係の形成や仕事の遂行が難し
いこと、仕事の範囲が限定されがちであること、高度な仕事を任されないこと、昇進・
昇格ができないことや給与が低いことなどがあげられた(回答結果の掲載は省略)。こ
れらの傾向は、水野(2014a)が実施した調査などにみられた傾向と概ね一致している。
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3.仕事に関する悩みの相談相手
(1)相談相手の現状
仕事に関する悩みを話したり相談
図表5 仕事に関する悩みの相談相手の分類
したりした人(以下、「相談相手」)
職場
は誰かをたずねた。相談相手は、図
表5のように職場の人と職場以外の
健聴者
健聴の
上司・同僚 等
聴覚
障害者
聴覚障害のある
上司・同僚 等
相談
窓口等
の人
人事担当者、
相談窓口の人
・専門家 等
とそれ以外の健聴者・聴覚障害者と
いう軸で分類した。
図表6の通り、悩みを「誰にも話
したことがない」と答えた人は4.8%
のみであった。相談相手の中で最も
多かったのは「聴覚障害のある友
人・知人」
(62.5%)である。次いで
健聴の
家族・友人 等
聴覚障害者本人
人という軸、および相談窓口等の人
職場以外
聴覚障害のある
家族・友人 等
相談窓口の人
・専門家 等
注:調査票では、
「職場」を「職場(あなたが働いている会社
や団体など)」とした
「健聴の上司」
(60.6%)、
「健聴の同
僚」(47.6%)が上位にあがっている。
図表6 仕事に関する悩みの相談相手
0
(
職
場
健聴の上司
聴覚障害のある上司
)
働
い
て
健聴の同僚(注1)
い
る
聴覚障害のある同僚
会
(注1)
社
や
団
人事担当者
体
相談窓口の人、専門家
な
ど
(注2)
に
い
る
人
10 20 30 40 50 60 70 (%)
60.6
5.3
(n=208)
10 20 30 40 50 60 70(%)
健聴の家族
30.3
聴覚障害のある家族
47.6
19.2
21.2
健聴の友人・知人
32.2
聴覚障害のある
友人・知人
62.5
10.6
相談窓口の人、専門家
(注3)
8.2
15.9
その他の健聴者(注4)
その他の聴覚障害者
(注4)
0
8.2
10.6
その他の健聴者
5.8
その他の聴覚障害者
6.3
誰にも話したことはない
4.8
職
場
以
外
に
い
る
人
注1:「同僚」は「同僚(上司以外で、ふだん一緒に働いている人)」の略
注2:調査票では、例として「産業医、相談員、カウンセラー、ジョブコーチなど」と示した
注3:調査票では、例として「相談員、カウンセラー、ジョブコーチなど」と示した
注4:職場にいる「その他の健聴者」「その他の聴覚障害者」としては、「同期の人」「元上司」「他の部門の人」など
自分の部署以外にいる従業員があがっている
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これらに比べると、
「聴覚障害のある上司」
(5.3%)、
「聴覚障害のある同僚」
(19.2%)
の割合は低い。これは、聴覚障害のある上司や同僚が健聴の上司や同僚に比べて少な
いためと想定される。
「人事担当者」や職場・職場以外にいる「相談窓口の人、専門家」
の割合は、いずれも1割前後にとどまっている。
(2)相談相手に対する評価
では、聴覚障害者が仕事に関する悩みを誰かに話したり相談したりしたことによっ
て、悩みの原因となる問題は解消に向かったのか。あるいは、解消には至らなくても、
心理的な面で何らかの好影響があったのか。それらのことに対する聴覚障害者の評価
を知るため、相談相手の中で『同じような悩みを持っていた人』
『悩みを理解してくれ
た人』『気持ちや考え方を整理する上で役立った人』『有益な情報やアドバイスをくれ
た人』
『問題解消のためにアドバイスをくれた人』に当てはまるのはそれぞれ誰かをた
ずねた。
図表7には、仕事に関する悩みがあると答えた人に占める割合を掲載する。例えば、
仕事に関する悩みがある聴覚障害者のうち、「健聴の上司」に相談し、「健聴の上司」
を『同じような悩みを持っていた人』として選んだ人の割合は 0.5%である。
5項目それぞれに対して「誰もいない」と答えた割合を比較すると、
『同じような悩
みを持っていた人』と『問題解消のために動いてくれた人』(ともに 31.3%)が最も
高い。すなわち、悩みがある聴覚障害者の3割程度は、同じ悩みを持つ人や問題解消
のために動いてくれる人に相談していない。
次に、5項目それぞれの中で、
「誰もいない」以外のどの割合が高いかに注目するこ
とにより、それぞれの相談相手がどのような役割を果たしているかをみる。
『同じような悩みを持っていた人』としてあげられた割合が最も高い相談相手は、
「聴覚障害のある友人・知人」
(38.0%)であり、次が「聴覚障害のある同僚」
(12.5%)
である。悩みを最も共有しうるのは同じ聴覚障害者といえる。
『悩みを理解してくれた人』もまた、「聴覚障害のある友人・知人」(40.4%)の割
合が最も高いが、これに続くのは「健聴の同僚」
(17.3%)、
「健聴の友人・知人」
(13.0%)、
「健聴の上司」
(12.5%)であり、前述の『同じような悩みを持っていた人』より健聴
者の割合が高い。つまり、同じ悩みを持っていない健聴者にも悩みを理解してもらえ
る可能性はある。
『気持ちや考え方を整理する上で役立った人』も「聴覚障害のある友人・知人」
(34.1%)
の割合が最も高い。これに次ぐのは「健聴の同僚」(19.7%)、「健聴の友人・知人」
(13.0%)、
「健聴の上司」
(11.5%)であり、前述の『悩みを理解してくれた人』と回
答傾向が似ている。
『有益な情報やアドバイスをくれた人』は、「健聴の上司」(26.9%)の割合が最も
高く、
「健聴の同僚」
(22.1%)、
「聴覚障害のある友人・知人」
(21.6%)が続いている。
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『問題解消のために動いてくれた人』もまた、「健聴の上司」(32.7%)、「健聴の同
僚」(22.6%)の割合が高い。一方、他の相談相手はいずれも1割に満たない。
つまり、聴覚障害のある友人・知人は、悩みを共有し、理解してもらったり気持ち
や考えを整理したりするためには役立っている。ただし、実際に問題解消のために動
けるのは職場や仕事の状況を知っている上司や同僚であり、有益な情報やアドバイス
も上司からのほうがより得やすいといえる。
図表7 仕事に関する悩みの相談相手に対する評価<複数回答>(悩みがある人に占める割合)
0
10
20
30
40
0
50 (%)
12.5
11.5
健聴の上司
3.4
3.4
3.4
3.4
2.9
聴覚障害のある
家族
(
健聴の同僚
人事担当者
相談窓口の人、
専門家
0.0
1.4
2.9
1.9
2.4
その他の
健聴者
0.0
3.4
3.8
3.4
1.9
その他の
聴覚障害者
5.3
9.6
9.1
5.3
1.9
5.3
4.8
3.4
2.9
1.0
13.0
13.0
健聴の
友人・知人
7.2
1.9
38.0
40.4
34.1
聴覚障害のある
友人・知人
21.6
7.2
2.9
)
に
い
る
人
12.5
9.1
8.7
9.6
0.0
0.5
1.4
1.4
2.9
(n=208)
50(%)
1.9
17.3
19.7
22.1
22.6
聴覚障害のある
同僚
40
1.0
3.8
働
い
て
い
る
会
社
や
団
体
な
ど
30
10.1
6.3
6.3
健聴の家族
26.9
32.7
職
場
20
1.4
0.5
聴覚障害のある
上司
10
相談窓口の人、
専門家
同じような悩みを持って
いた人
悩みを理解してくれた人
気持ちや考え方を整理
する上で役立った人
有益な情報やアドバイス
をくれた人
問題解消のために動い
てくれた人
0.0
2.4
4.3
4.8
3.4
その他の
健聴者
1.0
2.4
3.4
1.9
1.4
その他の
聴覚障害者
3.8
3.8
1.9
1.9
0.5
職
場
以
外
に
い
る
人
31.3
誰もいない
16.3
16.8
18.8
31.3
注:「同じような悩みを持っていた人」「悩みを理解してくれた人」「気持ちや考えを整理する上で役立った人」はそ
れぞれ「自分と同じような悩みを持っていた人」
「自分の悩みを理解してくれた人」
「自分の気持ちや考えを整理
する上で役立った人」の略
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次に、図表8の通り「人事担当者」
「相談窓口の人、専門家」以外の相談相手を、職
場の健聴者、職場の聴覚障害者、職場以外の健聴者、職場以外の聴覚障害者の4つに
まとめた上で、各相手に相談した聴覚障害者が各相手を『同じような悩みを持ってい
た人』などとして選んだ割合を算出した。例えば、職場の健聴者(健聴の上司、健聴
の同僚、その他の健聴者のいずれか)に相談した聴覚障害者のうち、職場の健聴者を
『同じような悩みを持っていた人』とした割合は 5.6%である。
これをみると、職場の健聴者は『有益な情報やアドバイスをくれた人』
『問題解消の
ために動いてくれた人』の2項目で5割台となっている。逆に、職場以外の聴覚障害
者は、それ以外の3項目、すなわち『同じような悩みを持っていた人』
『悩みを理解し
てくれた人』『気持ちや考え方を整理する上で役立った人』が過半数を占めている。
一方、職場の聴覚障害者は、
『問題解消のために動いてくれた人』以外の4項目にお
いて半数を超えており、中でも『同じような悩みを持っていた人』の割合は 72.4%と
高い。サンプル数が少ないことに留意する必要はあるが、職場の聴覚障害者、すなわ
ち聴覚障害のある上司や同僚等に相談した聴覚障害者は、相談したことによるさまざ
まなメリットを得ていると想定される。
図表8 仕事に関する悩みの相談相手に対する評価<複数回答>
(各相手に相談した人に占める割合)
0
20
40
60
80(%)
5.6
32.3
37.3
職場の健聴者
(n=161)
51.6
55.3
72.4
56.9
51.7
51.7
職場の聴覚障害者
(n=58)
20.7(注2)
悩みを理解してくれた人
気持ちや考え方を整理する上で役
立った人
7.7
有益な情報やアドバイスをくれた人
43.3
37.5
職場以外の健聴者
(n=104)
同じような悩みを持っていた人
26.0
問題解消のために動いてくれた人
8.7
60.4
65.3
54.9
職場以外の聴覚障害者
(n=144)
36.8
11.1
注1:各相談相手の内訳は以下の通り。
・「職場の健聴者」…職場にいる「健聴の上司」「健聴の同僚」「その他の健聴者」
・「職場の聴覚障害者」…職場にいる「聴覚障害のある上司」「聴覚障害のある同僚」「その他の聴覚障害者」
・「職場以外の聴覚障害者」…職場以外にいる「健聴の家族」「健聴の友人・知人」「その他の健聴者」
・
「職場以外の聴覚障害者」…職場以外にいる「聴覚障害のある家族」
「聴覚障害のある友人・知人」
「その他の
聴覚障害者」
注2:サンプル数は極めて少ないが「聴覚障害者の上司」
(n=11)のみに限ってみれば『問題解消のために動いてくれ
た人』の割合は 54.5%であり、「健聴の上司」(n=126)の 54.0%と同程度となっている
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(3)相談相手等に関する問題点
仕事に関する悩みがある人に対し、
図表9 仕事に関する悩みを相談することの問題点
0
悩みを誰かに話したり相談したりする
ことの問題点についてたずねた。図表
9の通り、思う(「そう思う」「ややそ
う思う」の合計)と答えた割合が最も
高いのは、
「相談しても悩みが解消しそ
うにない」
(62.5%)である。これに続
20
相談しても
悩みが解消しそうにない
27.9
悩みを他の人に
説明することが難しい
26.4
相談しても
理解してもらえそうにない
40
60
34.6
62.5
29.8
17.8
56.3
33.2
相談できる人がいない 16.3
80(%)
51.0
44.7
28.4
く「悩みを他の人に説明することが難
しい」
(56.3%)、
「相談しても理解して
もらえそうにない」
(51.0%)も半数を
超える。
誰に相談したらよいか
13.5
わからない
相談すると仕事を
しづらくなる不安がある
19.2
42.3
23.1
相談相手との
14.9
コミュニケーションが難しい
(4)相談相手に対する意向
42.3
28.8
20.7
そう思う
35.6
(n=208)
ややそう思う
続いて、仕事に関する悩みについて
「同じ悩みを持つ人と話したい」
「手話
ができる人に相談したい」と思うかど
うかたずねた。図表10の通り、
「同じ悩
みを持つ人と話したい」と思う人の割
合は74.5%である。特に、聴覚障害に
図表10 仕事に関する悩みの相談相手に
対する意向
0
同じ悩みを持つ人と
話したい
手話ができる人に
相談したい
関係する悩みが「ある」と答えた人に
20
40
41.3
37.0
33.2
17.3
そう思う
60
54.3
80 (%)
74.5
(n=208)
ややそう思う
おけるその割合は、80.8%にのぼる(図
表省略)。
また、
「手話ができる人に相談したい」と思う人の割合は54.3%である。中でも、手
話が「できる」と答えた人においては、その割合が71.3%であった(図表省略)。手話
を使わない聴覚障害者も一般には多いが、手話を使う聴覚障害者は仕事に関する相談
も手話で行いたいというニーズが高いといえる。
次に、聴覚障害者の仕事に関する悩みを解消したり軽くしたりするために、どのよ
うな相談相手がいれば、あるいはどのような相談窓口・機関などがあればよいと思う
か、自由回答でたずねた。その結果の一部を『相談相手の特性』『相談相手がいる場』
『相談相手との相談方法』のそれぞれに対する意向に分けて図表11に示す。
『相談相手の特性』に対する意向で目立ったのは、同じ障害がある人、すなわち聴
覚障害者に相談できるとよいという回答である。聴覚障害者の中でも、障害レベルや
仕事の内容・立場が近い人、自分より仕事の経験が豊富な人やロールモデルになる人
に相談したいという希望もあった。また、聴覚障害者に限らず、障害に対する理解が
ある人、手話や筆談等でコミュニケーションできる人に相談したいという回答も多い。
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図表11 仕事に関する悩みの相談相手等に対する意向(自由回答より抜粋)
*同じ障害を持っている者同士の方が気持ち的にもわかり合える〔男性40代〕
*聴覚障害の方の相談役がいれば助かる〔男性50代〕
*聴覚障害を持っている相談員〔女性50代〕
*相談に乗って頂くためには、やはり同じ聴覚障害を持つ仲間が必要だと感じた。当社で
は「人権ホットライン」があるが、障害者に対する理解が取れているのか疑問に感じる。
〔女性30代〕
聴覚障 害 が あ る
*障害のレベルが同程度の仲間〔男性40代〕
*仕事に関する悩みは、その仕事に就いている聴覚障害者(できれば同じくらいの
聴力レベル)に話すほうが理解は得られやすく、たとえ問題が解決しなくても安
心感がある〔女性40代〕
*仕事内容が近い方に相談できると、より具体的に問題解決への道筋が見えやす
くなるのでは、と思う。「○○の仕事をしている聴覚障害者の集まり」などがあると
よいかもしれない。〔女性40代〕
*同じ職種のピアカウンセラー〔男性30代〕
*自分と同じような会社での立場の難聴者で成功体験を持つ相手(ロールモデル)
仕事の経験が豊富
障害に対する理解がある コミュニケーションしやすい
相談相手の 特性に対す る意向
障害レベル 仕事の内容・立場が
が同程度
近い
*同じ聴覚障害を有する社会人の経験談などを共有できる場があるとよい〔女性30代〕
に相談したい〔男性50代〕
*経験の深い聴覚障害者が相談相手になってくれたら、アドバイスなど聞けてよい
〔女性50代〕
*同じ悩みを抱えた経験のある先輩に悩みを打ち明けることで、有益なアドバイス
が得られるかもしれない〔男性20代〕
*キャリアを積んでいる聴覚障害者で、特に健聴者の部下との業務面のやりとりに
関する問題についてどのように取り組んでいるか<について聞ける>場所があ
ればいいと思っている〔男性40代〕
*聴覚障害特有の悩みを理解している人〔男性30代〕
*聴覚障害問題に理解のあるキャリアカウンセラーがいれば相談してみたい〔女性50代〕
*各障害に合わせた対応をしてくれる相談機関〔女性50代〕
*障害者専門の相談者がほしい。毎日でなく月に1度でもよいので、定期的に来て頂ける
とうれしい。〔女性40代〕
*聴覚障害者に対して理解のある人を間に入れてほしい〔女性50代〕
*単に手話ができる、わかる、ではなく、きちんと聴覚障害(者)に関する知識を持った人、
理解することをいとわない人〔女性50代〕
*手話のできるカウンセラー〔男性50代〕
*手話が読み取れるカウンセラーのような人がほしい。日本語(音声)だけでは伝えきれな
いニュアンスもあるので…。〔女性20代〕
*専門的な相談を手話でできる窓口や機関があるとよい〔男性20代〕
*筆談を面倒くさがらない人〔女性50代〕
*手話や要約筆記でコミュニケーションを取りやすい方がいれば〔男性40代〕
*手話だけでないコミュニケーション方法をもっている〔女性40代〕
*いろいろなコミュニケーション手段を使ってゆっくり話すことが大事〔男性40代〕
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(前頁からの続き)
*会社の中に相談できる人がいてほしい〔女性40代〕
*職場の中で相談相手はほしい。業務等を理解してもらった上での相談もしたい。〔女性20
代〕
*できれば会社の中に相談窓口があると嬉しい。なぜならば、その会社の文化や人事制度
なども理解できるので、より的確な相談ができると思うから。〔男性40代〕
*総合的な知識を持ち、トータルコミュニケーションに対応でき、傾聴等の技術も持ち合わ
せている人が各職場にいることが理想的〔男性40代〕
*聴覚障害を持つ上司、または役職付きの人<中略>に相談できる人がいるとよい〔女性
30代〕
人事部な ど
特定の部門にいる
相談相手がいる場 に対 する意 向
職 場に い る
*会社の中に障害者をサポートする窓口があり、悩みはそこを通して職場に理解してもらえ
るよう働きかけてもらえたら助かる〔男性40代〕
*人事部の中に障害者のための相談窓口が設置してあるとよい〔女性40代〕
*職場の人事部に障害者相談窓口を設けることを義務化する〔女性20代〕
*人事部の中に障害者で相談者になれる人を配置して!〔女性50代〕
*上司または人事部等の責任者が手話を使えて、障害者全体に対して理解があ
れば<中略>本音を言えるのではないか〔男性20代〕
*人事部以外に労働組合の中にも聴覚障害対応窓口があるとよい〔女性40代〕
*ハローワーク等に相談窓口があればと思う〔男性40代〕
*聴覚障害者専門の職業安定所が市や区にあればよいと思う〔女性40代〕
職 場以 外に い る
*労務に関する相談窓口(聴覚障害者向け)があってもいい。<中略>労働者の権利に
詳しい方と心理面で支えられる方の双方がいれば望ましい。〔女性40代〕
*聴覚障害者情報提供施設の中に(専門的)カウンセラーも置く〔女性40代〕
*聴覚障害について特化した、あるいは専門のセンターを設けるべき。そこから関係機関
につなげるようになるかも。〔男性50代〕
*就労・医療・教育等ワンストップで相談可能な窓口の常設〔男性50代〕
*労働局に相談したことがあるが、平日しかやってなかったのでもう少し拡大してほしい〔女
性30代〕
相談方 法に対する 意向
*メールでのやり取りができる窓口(一般向けではなく聴覚障害分野に特化した窓口)〔女性20
代〕
*電話/メール/ファックスいずれも可<の窓口>〔男性60代〕
*相談窓口を増やしてほしい(メール・SNSで対応できるようなしくみにするとか)〔女性40代〕
*ビデオチャットや文字チャットで打ち明けられる相手(ケースワーカー等)〔女性40代〕
*ネットで相談してみたい。<中略>名前は出さずに会社の人事に伝えてくれたら…。〔女性30
代〕
*国家機関のWeb窓口〔女性30代〕
*会社内で、聴覚障害者はもとよりすべての障害者用のネット上の掲示板を設置する〔女性50
代〕
注:原則として原文のまま掲載。ただし、文意を損ねない範囲で修正・補足などを行った箇所がある。<>内は筆者
による補足。
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『相談相手がいる場』については、職場と職場以外の両方に対する意向がある。職
場に相談相手がいてほしいという回答は、仕事や職場の状況を知っている人に相談し
たいという意向などにもとづいている。また、
『相談相手の特性』に対する意向として
述べたことと重複するが、聴覚障害がある相談相手や、障害に対する理解があり手話
等でコミュニケーションできる相談相手を、特に職場において望む声もあった。職場
の中では特に、人事部などの特定の部門に相談窓口を設けてほしいという意見もあっ
た。
一方、職場以外では、ハローワークなどに聴覚障害者向けの相談窓口があるとよい
という回答があった。実際には聴覚障害に詳しい相談員や手話通訳者を配置している
機関も一部にはあるが、聴覚障害者には十分知られていない可能性もうかがえる。
『相談相手との相談方法』については、対面での相談のほかに、メール、ファック
ス、チャット、ネット上で相談ができるとよいという回答もあった。
4.聴覚障害者の仕事に関する相談先における課題
聴覚障害者の仕事に関する悩みは職場の人間関係や仕事内容などがあり、それらの
中には聴覚障害に関係する悩みや離職を考えるほど深刻な悩みも多いことが、今回の
調査で改めて示された。以下では、悩みの相談先に関する調査結果をふまえた上で、
(1)相談先となりうる人や組織全体、(2)聴覚障害者を雇用する企業等の事業所、(3)
相談機関等のそれぞれにおける課題を述べる。
(1)相談先全体における課題 ~聴覚障害者同士のネットワークづくりとその支援~
聴覚障害者の悩みの相談相手として最も多かったのは、聴覚障害のある友人・知人
である。彼らは悩みを共有でき自分の悩みを理解してくれる、そして気持ちや考え方
の整理にも役立つ相談相手として評価されている。また、聴覚障害者、中でも仕事内
容や立場が近い聴覚障害者に相談したいという自由回答もあった。
今回の調査の回答者は、調査票の配布方法の特性上、聴覚障害者関連の情報や人的
ネットワークを比較的多く持っている可能性が高いが、実際には他の聴覚障害者との
つながりがなく一人で悩みを抱えている聴覚障害者がもっといると想定される。それ
らの人々を含め、聴覚障害者同士で相談や情報共有・交換を行えるネットワーク形成
が、聴覚障害者自身およびその周囲の人々や組織の課題のひとつである。聴覚障害者
を雇用する事業所や相談機関等がネットワークづくりをどのように支援しうるかにつ
いては、次の(2)(3)で触れる。
(2)企業等の事業所における課題 ~職場での相談体制の整備~
職場で聴覚障害者の主な相談相手となっているのは、健聴の上司や同僚である。彼
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らは、問題解消のために動いてくれた、有益な情報やアドバイスをくれたと聴覚障害
者に評価された割合が他の人に比べて高い。また、職場に相談できる人がいてほしい
という自由回答も多かった。聴覚障害に対する理解があり、コミュニケーションもし
やすい相談相手が、職場の身近なところにいることが理想的といえる。まずは上司を
はじめとする健聴の従業員が、ともに働く聴覚障害者の特性やコミュニケーション方
法を理解し、相談に応じられること、またそれを進めるために事業所が健聴の従業員
に対する情報提供や啓発を行うことなどが不可欠であろう。
一方、聴覚障害のある上司や同僚は、数が少ないために相談相手になっている割合
も低いが、彼らに相談した聴覚障害者の中での評価は高い。職場外とともに職場内の
聴覚障害者同士でも相談や情報共有・交換をし合える(例えば、直接会って話す、社
内 LAN で連絡を取り合える)ネットワークがあるとよいと考えられる。
人事担当者に相談した聴覚障害者はさらに少なく、1割程度しかいない。ただし、
自由回答では人事部門に相談窓口を設置してほしいという希望が少なくなかった。人
事部門などの課題としては、担当者が聴覚障害者に適切に対応できること、聴覚障害
者との面談の機会を設けて悩みを聞き取り上司・同僚との橋渡しをすること、必要に
応じて外部機関の支援者(例えばジョブコーチ、ハローワークの障害者専門の相談員)
や手話通訳者・要約筆記者を間に入れることなどがあげられる。また、職場内の聴覚
障害者のネットワークづくりを支援すること、例えば勤務地が離れている聴覚障害者
同士が接点を持てる機会をつくることなども望まれる。
(3)相談機関等における課題 ~聴覚障害者に対応可能な専門家の配置・周知~
人事担当者や職場内の窓口等と同様、職場外の窓口等に悩みを相談している聴覚障
害者の割合も現状では低いが、自由回答では職場外の聴覚障害者向けの窓口等を求め
る声もあった。職場外の相談窓口・機関、特に障害者の支援機関は、聴覚障害者との
コミュニケーション能力(例えば、手話での相談を望む聴覚障害者には手話で対応で
きる能力)を持ち、かつカウンセリングや聴覚障害者の支援に関する知識・経験も持
つ専門家を配置すること、そしてそういった人や機関の存在を周知させることが課題
といえる。また、仕事内容・立場が近い人やその関係団体を紹介するなど、聴覚障害
者のニーズに合った他の相談先と連携できることも重要であろう。
相談方法については、従来の対面での相談のほか、メールやファックス、文字・手
話でのチャットなどを通じた相談ができるとよいという自由回答もあった。既存の労
働相談のような電話相談を利用できない聴覚障害者に対し、その代替となる時間的・
心理的に相談しやすい方法を提供することも検討の余地がある。
なお、今回は聴覚障害者の調査結果のみから仕事に関する相談先の現状や課題につ
いて述べたが、今後は聴覚障害者の特徴をより明確にするために、一般就労者との相
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違点に焦点を当てる予定である。また、聴覚障害者の属性や悩みの内容などによる相
談先の違いについての分析も今後の課題としたい。
(研究開発室
みずの えいこ)
【謝辞】
アンケート調査にご協力下さった方々に紙面を借りて心より御礼申し上げます。
【引用文献】
・厚生労働省,2014,『平成25年度 障害者雇用実態調査』.
・厚生労働省,2013,『平成23年 生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等
実態調査)結果』.
・厚生労働省,2008,『平成18年 身体障害児・者実態調査結果』.
・水野映子,2014a,「聴覚障害者が働く職場でのコミュニケーションの問題」『Life Design
Report』(Spring 2014.4).
・水野映子,2014b,「聴覚障害者の希望を職場で伝えることの重要性」『Life Design Report』
(Summer 2014.7).
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