こしじ往来 年男に想う 東谷正来

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年 男
に
想
う
東谷医院 東
谷
正
来
今年は申年で、申年生まれの私は4回目の年男
る。苔で有名な京都の西芳寺(通称苔寺)は約
になる。今までは年男だからといって特別な事を
120種類の苔で覆われているが、庭が薄暗いため
した訳ではないが、今回寄稿の依頼を頂いたので
湿度がいくらあっても杉苔が育ちにくそうだ。
年男について少し考えてみたい。
一般の家で環境を整えるのは難しいが、我が家
年男とは元来家々の正月行事を司る男のこと
の杉苔はどうにか成長してくれている。苔を張っ
で、暮れの松迎え、しめなわ張り、元旦早朝の若
て2年間は生育が悪く枯れた場所もあったが、3
水汲みなどを行う。また節分の豆まきを年男の役
年目の今年は徐々に拡がり全体にボリュームがで
とする所もあるそうだ。年男だから縁起が良いか
てきた。時間がある時に水をやり雑草を抜き、手
と言うと一概にはそうとも言えないようだが(諸
をかけたものが成長するのはうれしいものだ。今
説ある)
、その年の年神様のご加護を他の干支の
までは休日に雨が降ると恨めしく思ったものだ
人よりも多く享受できるとされており良いものと
が、最近は雨の日の休日に苔をみながら一杯やる
言えそうだ。今年はこれらの習わしにそって正月
のが楽しみになった。開業医になって5年、まだ
の準備、豆まきを行い充実した1年としたい。ま
まだ未熟だが、杉苔のようにゆっくりと確実に成
た、申年に申年生まれの人に赤いパンツを買って
長していきたい、そう想う今日この頃である。
もらうと、将来寝たきりにならずに済むという言
以前から節目の年齢になると気にしている言葉
い伝えがある。申年の人がいましたら、赤いパン
がある。
「子曰く、吾れ十有五にして学に志す。
ツの交換いかがでしょうか?
三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして
前回の年男と比べて一番大きく変わった事はや
天命を知る。六十にして耳順ふ。七十にして心の
はり新発田での開業だろう。12年前はまだ大学病
欲する所に従って矩を踰えず。
」論語の中にある
院で勤務医をしており、当時は新発田で開業医に
有名な孔子の言葉である。孔子の言葉に従えば既
なるとは思ってもみなかった。それに伴い新発田
に人生に迷いなく、そして数年後には自分の生涯
に家を建て、自分の庭ができ庭木に興味を持つよ
における使命を悟らなければならない歳になって
うになった。現在栽培に一番力を入れているのが
しまった。自分の人生がこのように推移する自信
苔で、その中でも杉苔を主に育てている。
はないが、少しでも近づきたいものである。次の
苔というとじめじめした場所に生息しているイ
年男は60歳、
還暦を迎える。孔子の教えのように、
メージが強いが、湿気だけあれば良いというもの
人の言葉に素直に耳を傾けることができるように
ではない。苔の栽培はなかなか難しく、日照、湿
努力したい。そして大好きな杉苔に囲まれて、赤
度、水やりが重要となる。杉苔は日照を好むため
いちゃんちゃんこを着て(申年の赤いパンツも履
日当たりのいい場所に張るが、乾燥に弱いため水
いて?)還暦を祝えたら最高である。
をたくさんやり風が遮断できる場所が理想的であ
(新発田北蒲原医師会報 平成28年1月号より)
新潟県医師会報 H28.3 № 792
したが
のり
こ