今岡 務

環境学部 環境情報学科
今 岡 務(いまおか つとむ)教授
「汚泥」を「資源」に
変える方法
廃棄物処理は、環境問題の中でも特に重要な項
天然ガスの廃冷熱を
利用できないか?
この他、いま私が着手している研究としては、
目のひとつ。廃棄物の最終処分場が足りなくなって
LNG(液化天然ガス)タンクからの廃冷熱を利用
おり、厚生省によれば、残されている埋め立て容量
した凍結乾燥による都市系有機性廃棄物のローカル・
は、家庭から出る一般廃棄物で 8.8 年分 ( 平成8年
ゼロエミッション・システムの開発などもあります。
度末時点)、産業廃棄物に至ってはあと1.6年分(平
LNG ガスは、メタンを主成分とした天然ガスを
成 11年度末 )しかないとされています。
採掘後、産地国で硫黄分や不純物を取り除き、およ
1年間に排出される約 4億 5000万トンの廃棄物
そマイナス160℃という極低温で冷却液化したもの。
のうち、約 6 割は人間を含む生物由来の有機性廃
都市ガスとしての供給時に発生するこの気化冷熱
棄物です。とくに、下水処理場や家庭の浄化槽など
を有効活用できないか、というのがねらいです。
から出る有機性の「汚泥」は、全体の約2割を占め、
具体的には、LNG 基地が位置する廿日市市を対
これは全国の家庭から出る生ごみなど一般廃棄物
象として、未利用の LNG 廃冷熱を活用した地域的
量(5,000 万トン)の 2 倍の量ですから,ほぼ同じ
な有機物資源循環システムの形成に取り組んでい
発生量の家畜ふん尿とともに大きな問題となって
ます。これにより、廿日市市域で発生する廃棄食品
います。
やホテル・レストランでの食べ残しなどを凍結乾燥
このような有機性汚泥をどう処理していくか。そ
処理し、飼料化できないか、さらに将来的にはいろ
れが私の最近の研究テーマのひとつであり、ここ数
いろな仕組みを組み合わせて、生ごみなどの有機
年は、汚泥の再資源化に取り組んでいます。
性廃棄物すべてのリサイクルを目指せないか、と期
有機性汚泥は、下水などの生活排水や工場排水
待しています。ただし、それには一部の地域にこの
を生物処理する過程で発生します。この場合、現状
システムを試験的に導入し、その動向を見守りなが
では微生物を使って有機物をCO2 に分解していく
ら、安全性や経済性なども含めたデータを蓄積して
わけですが、そのぶん微生物が増えてしまうのが問
いくなどの準備が必要です。
題となっています。そして、この増えた微生物の塊、
これらの研究は、廃棄物研究財団あるいは文部
余剰汚泥と言いますが、これを資源に変換しようと
省科学研究費の特定領域研究におけるプロジェクト
いうのが私の目標です。
の一環であり、それらへの参加を通じて、たくさん
その手順は、汚泥とは微生物のかたまりですから、
の研究者や企業の方々にお会いするのも楽しい。
まずその微生物を何らかの処理により、溶存性(水
いい経験をさせていただいているな、というのが
の中に溶けている状態)の有機物に変換(可溶化)
実感です。この経験を活かし、今後、ますます本格
します。そして可溶化した有機物をエサにして酵母
的に研究していこうと考えています。
を増やそうというものです。酵母は資源価値の高
い微生物。廃棄物である汚泥を有効利用して、酵
母を育てることができれば、微生物タンパク、例え
ば家畜の飼料などとして使えます。
これを応用して、もっと付加価値の高い醸造用の
酵母を増やすことができるようになれば、アルコ−
ルを生産できる可能性だってあります。もっとも、
「汚
泥からできたお酒を誰が飲むのか?」という意見も
ありますが。ただし、アルコールはエネルギー資源
としても注目されている物質ですし、酵母によって
環境評価技術
はさらに有用な物質の生産も見えてくると考えてい
ます。
赤潮生物を用いた藻類培養試験法とAGP測定に関する研究
人工環境
広島城内堀の水質改善に関する効果予測と評価
人口干潟の水質浄化能に関する研究
目標の数値に、
ひとつひとつ近づいていく。
水環境
研究の現状でいえば、今は有機物の可溶化に取
り組んでいる最中です。180℃・9 気圧の釜 ( オー
トクレーブ)を使って加圧・加熱処理することで、汚
泥中のおよそ7割の有機物が溶存性に変換(可溶化)
されます。ですが、ここから先がなかなかうまくい
かない。この 7 割のうちの約 3 割の有機物しか、酵
母が食べてくれないのです。実験を繰り返しながら、
環境影響制御技術
植物・土壌(ホテイアオイ、山林、芝地)等の自然浄化能を活用した汚
水(下水、廃棄物埋立地浸出水)の高度処理と有効利用
合流式下水道の雨天時汚濁負荷対策に関する研究
環境施設
・上水道
・下水道
・汚水処理施設
・廃棄物処理施設
汚濁水域の底質改善に関する研究
埋立廃棄物の汚濁物質溶出特性とその低減化
一般廃棄物埋立地浸出水におけるTHM生成能の発生機構と低減化
メタノール透過膜を埋設したゼオライト槽による河川の直接浄化
コンポスト化施設における脱窒促進型脱臭システムの開発
この割合をさらに高めていくこと。それが当面の課
ゼロエミッション化技術
題ですね。
可溶化と酵母生産による生物処理汚泥の資源化
LNGタンクからの廃冷熱を利用した凍結乾燥による都市系有機性廃
棄物のローカルゼロエミッションシステム
目標とする数値にひとつひとつ近づいていく。そ
こに研究者としてのやり甲斐や歓びを感じています。
廃棄物