日銀短観(3月調査)

April 1, 2016
No.2016-015
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主席研究員 武田
淳
03-3497-3676 [email protected]
日銀短観(3 月調査):景気は停滞するも積極的な設備投資計画
と根強い賃金上昇圧力を確認
3 月調査の日銀短観では大企業製造業の業況判断 DI が予想以上に悪化し、日本経済の停滞が続
いていることが確認された。一方で、設備投資計画は良好、ピークアウトの兆しは見られず、労
働需給は一時的な緩みが見られるものの今後は再びタイト化が見込まれており、賃金上昇圧力は
根強い。景況感の悪化が、こうした成長の素地を損なわないよう対応する必要があろう。
景況感は予想以上に悪化
本日、発表された 2016 年 3 月調査の日銀短観では、景気の代表的な指標である大企業製造業の業況判断
DI が前回(12 月)調査の+12 から+6 へ悪化した。事前予想では+10 をやや下回る程度の小幅悪化を見
込む向きが多かったため、製造業の景況感は予想以上に悪化したと言える。
業種別の内訳を見ると、悪化が目立つのは鉄鋼(12 月 0→3 月▲22)や化学(+20→+10)、石油・石炭
製品(▲11→▲16)であり、なかでも主に中国の過剰生産により市況が悪化している鉄鋼は大幅マイナス
に転じ、原油価格の下落を受けて石油・石炭製品はマイナス幅を拡大させるなど、厳しい状況にある。ま
た、電気機械(12 月+3→3 月▲7)がマイナスに転じ、生産用機械(+22→+12)が大幅に低下、はん
用機械(+16→+11)や業務用機械(+20→+15)も低下するなど機械分野も軒並み悪化した。ただ、
特に電気機械を除けば引き続きプラス圏内であり、水準としては悪いわけではない。
ただ、先行き(6 月)については、16 業種中 6 業種でマイナス、全体で+3 への低下を見込んでおり、製
造業では景況感の悪化が着実に広がる見通しである。
大企業非製造業の業況判断 DI も 12 月調査の+
25 から 3 月は+22 へ悪化した。悪化の目立つ業
種は対個人サービス(12 月+32→3 月+16)
、通
信(+44→+33)、宿泊・飲食サービス(+32→
+22)であり、いずれも未だ水準は高いものの個
人消費の停滞が続いているため、業績が伸び悩ん
でいる模様である。なお、宿泊・飲食サービスに
業況判断DIの推移(大企業、%Pt)
30
20
10
0
▲ 10
▲ 20
▲ 30
▲ 40
ついては外国人旅行客の伸びの鈍化を悪化の理
▲ 50
由に挙げる向きもあるが、訪日外国人数は 2 月も
▲ 60
2007
前年同月比+36.4%の高い伸びを維持している。
製造業
非製造業
製造業(新系列)
非製造業(新系列)
※最近期は見通し
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 日本銀行
1 月の+52.0%からは鈍化しているが、1~2 月平均では前年同期比+43.7%と 10~12 月の+42.8%より
も高い。そのため、国内要因、つまり個人消費の低迷がより強く影響したと考えるべきであろう。一方で、
建設(12 月+41→3 月+45)や不動産(+35→+37)は高水準の中で一段と上昇、加熱気味の状況が続
いている。
また、中小企業製造業の業況判断 DI は、12 月調査の 0 から 3 月は▲4 とマイナスに転じた。大企業と同
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
様、鉄鋼(12 月▲8→3 月▲23)や石油・石炭製品(▲9→▲19)
、化学(+14→+5)などが大幅に悪化、
素材業種全体(▲1→▲10)でもマイナス幅を大きく拡大させている。このように、中小企業製造業にお
いては、素材関連分野で特に景況感の悪化が目立っている。
設備投資計画は企業の積極姿勢維持を示唆
2015 年度の設備投資計画(含む土地投資額)は、全産業規模合計で 12 月調査の前年比+7.8%から 3 月
調査では+8.0%へ小幅ながら上方修正された。過去の 3 月調査の結果を比べると 2006 年度(前年比+
9.5%)以来の高い伸びであり、企業が設備投資に対して積極的な姿勢を維持していることが確認された。
内訳を見ると、製造業(12 月調査+12.2%→3 月調査+10.8%)が下方修正された一方で、非製造業(+
5.6%→+6.7%)は上方修正されており、明暗が分かれた。
3 月時点の調査結果は事実上の着地見込みであり、最終的な実績がここから大きく上下に振れる可能性は
低い。そのため、GDP ベースで底堅い拡大を維持している設備投資は、2016 年 1~3 月期も比較的堅調
な拡大となる可能性がある。
設備投資計画の推移(前年比、%)
生産・営業用設備判断DI(規模合計、過剰-不足、%Pt)
10
40
8
35
2
非製造業
30
製造業(新系列)
2015
25
非製造業(新系列)
2014
20
2013
15
6
4
製造業
0
2012
▲2
2011
※最新期は見通し
10
5
▲4
0
▲6
3月調査
6月調査
9月調査
12月調査
3月調査
▲5
実績
( 出所) 日本銀行
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
( 出所) 日本銀行
設備過剰感の低下も、設備投資の堅調な拡大を裏付けている。既存設備の過剰感を示す生産・営業用設備
判断 DI(過剰-不足)は、規模合計で製造業(12 月調査+3→3 月調査+4)は若干上昇したものの水準
は依然として低く、非製造業(▲2→▲2)ではマイナスが続いた。すなわち、製造業では生産設備の過剰
感が概ね解消、非製造業では設備不足状態にあることが確認された。さらに、先行き(6 月)は製造業で
+2、非製造業で▲3 と、ともに低下を見込んでおり、こうした設備に対する企業の認識は、設備投資拡
大の追い風となることは間違いない。
実際に 2016 年度の設備投資計画は、全産業規模合計で前年比▲4.8%にとどまったとはいえ、上記の通り
最終的に高い伸びで着地しそうな 2015 年度が直前の 3 月調査では前年比▲5.0%であったことを踏まえる
と、スタートラインとして悪い数字ではない(右左図)
。業種別に見ると、製造業(2015 年度前年比+1.3%
→2016 年度▲0.9%)は 2015 年度より低かった一方で、非製造業(▲8.0%→▲6.8%)が好転しており、
設備投資の牽引役は製造業から非製造業へ移行していく可能性を示した。
人手不足感はやや和らぐ
そのほか、雇用人員判断 DI は、全産業規模合計で 12 月調査の▲19 から 3 月調査では▲18 へマイナス幅
が縮小した。内訳を見ると、大企業(12 月▲12→3 月▲11)
、中小企業(▲21→▲20)ともマイナス幅が
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伊藤忠経済研究所
縮小しており、景気の停滞を受けて人手不足の深化は全体的にひとまず一服したようである。しかしなが
ら、先行き(6 月)については大企業で▲10 と引き続きマイナス幅の縮小を見込んでいる一方で、中小企
業は▲23 へ再びマイナス幅が拡大、全体としても 9 月は▲20 へマイナス幅が再び拡大しており、人手不
足感が一段と緩和する動きは見られず、深刻な人手不足状況が続く見込みである。
景況感の悪化が投資・雇用を抑制させる懸念も
雇用人員判断DI(規模合計、過剰-不足、%Pt)
以上の通り、日銀短観が示す姿は、設備投資は足元
で堅調さを維持、先行きについてもピークアウトの
40
製造業
30
非製造業
製造業(新系列)
20
兆しは見られず、労働需給面は一時的な緩みが見ら
10
れるものの今後は再びタイト化が見込まれており、
0
非製造業(新系列)
▲ 10
賃金上昇圧力は根強い。
▲ 20
その一方で、企業の景況感は悪化、全体として見れ
▲ 30
ば未だ良好な部類に入る状況ながら、業況判断 DI
▲ 40
がマイナス、即ち全体として見れば景気が悪い状況
※最新期は見通し
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
( 出所) 日本銀行
にある業種が増えており、さらに先行きは一段の悪化が見込まれている。
そのため、このまま景況感の悪化が続けば成長期待が低下し設備投資や雇用・賃金が抑制される恐れがあ
る。そうなれば、企業の景況感悪化を起点に設備投資や雇用・賃金が縮小、景気が一段と悪化するデフレ・
サイクルに転じないとも限らない。デフレ脱却のためには、企業の成長期待を高めインフレ・サイクルの
定着を促すことが求められよう。
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