Title 『春琴抄』読書ノート: 若紫と小鳥の喩、「竹取物語の影」説の補足と して Author(s) 中島, 和歌子 Citation 札幌国語研究, 17: 51-74 Issue Date 2012 URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6836 Rights Hokkaido University of Education 島 和 歌 子 には二度の ﹁気韻﹂を与え、この地上的生活をなしうる限 いういわば﹁神韻﹂をおびた女人條の影よろしく、春琴女 でも昇らせてみせたこと。︵中略︶ その二は、かぐや姫と にみられる女人昇天讃の風土よろしく春琴女の魂を天にま 中 若紫と小鳥の喩、﹁竹取物語の影﹂説の補足として ﹃春琴抄﹄読書ノート ー はじめに ︵1︶ 一昨年、谷崎潤一郎の﹃春琴抄﹄︵当中央公論一昭和八年六月︶ り高貴に通過させようとしたこと。その三は、仏教とのか を再読する機会があった。三十年近く前、阪神間に住む大学生 かわりにおいて竹取物語における﹁我子の仏﹂よろしく、 も丁やし○人きん の頃に初めて読んだ時には気づかなかったのだが、このたびは、 顔が満たされていること。その四は、竹取物語の﹁不死の r春琴抄b には﹁来迎仏﹂ のごとき﹁円満微妙﹂な色白の 主人公贈屋春琴が、これほどまでに小鳥、かぐや姫︵鴬姫︶、 そして若紫 ︵紫の上︶ を踏まえて描かれていたのかと、驚いた 薬﹂や﹁天の羽衣﹂という時間や空間の超克にふさわしく、 ﹁天鼓﹂や﹁鳳鳳﹂や﹁千代の友﹂といった銘とともに↓射 その後、久保田修氏が﹁永遠の女人像を獲得しえたゆえん﹂ として、﹁r春琴抄﹂ にみる竹取物語の影﹂を多方面から論じら は、竹取物語における光や天人の出所としての ﹁天﹂ の意 劫不変の観念墳﹂がもち出され語られていること。その五 のである。 れていたことを知った。次に、同氏によるまとめの部分を、再 などという具合に、︰.春琴抄﹂ にも充分すぎるほどに意識 矧が、﹁天意﹂﹁天鼓﹂﹁天にも昇る心地﹂﹁天に向って飛揚﹂ けうらなる事世になく﹂と示される如く、春琴女の容貌も されていること。その六は、かぐや姫の容貌が﹁かたちの 時点では﹁その十﹂は無い︶。括弧内も久保田氏によるが、改 ︵第十七節︶ を持ちだしてみせ、竹取物語や羽衣伝艶など その一は、﹁鴬﹂︵第十六節︶よりはややひかえ目に﹁雲雀﹂ 行を省き、傍線・波線は引用暑が付した。 ︵2︶ 録された rr春琴抄L の研究﹂ から引かせていただく ︵論文の 51
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