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特集/コンクリート打放し仕上げの最新動向2015
打放しコンクリートの
保護・仕上工法の現状と今後の課題
戸田建設㈱ 技術開発センター 環境創造ユニット マテリアルチーム 板谷 俊郎
1.はじめに
る。それが、設計者に根強い人気のある理由なのかもし
れない。
コンクリート構造物では、その保護と美観の意味から、
本稿では、その「コンクリートの打放し仕上げ」につい
通常何らかの仕上げが行われる。しかしその一方で、
「何
て、特徴と留意すべき点、そしてその対策としての仕上
の仕上げも施さない」ことで、コンクリート自身のもつ
げ技術を通して、
「コンクリートの打放し」の今後を展望
材質感や風合いを活かすこともよく行われている。
してみたい。
かつての著名な建築家フランク・ロイド・ライトは打
放しコンクリートの走りともいえ、数多くの作品に、打
2.打放しにおける仕上げ方法
放しコンクリートの力強さを表現している(写真1)。
日本でも、重厚感を表現したい建築、たとえば、信頼
コンクリートは無機物の塊であり、それ故に重厚感と
性を強調したい業種や大学等で用いられているのをよく
いったものが感じられる。
見かける。
コンクリートを用いた建物は非常に多く、数多の業者
そして、著名な建築家や設計事務所をはじめとして、
が施工を行ってきている。コンクリートがJIS化されて
この手法が好まれることが多いようにも感じられる。
いるおかげで、通常の場合は、型枠を作り、構造設計ど
打放しコンクリートを用いた大建築物は、遠く離れて
おりに配筋をした後に、適当なコンクリートを注文して
見てもそれのもつ力強さが感じ取れるのが不思議であ
打ち込みさえすれば、それなりの建物が出来上がってし
写真1 コンクリートの打放し仕上げを活かした建築物の例 1) ~フランク・ロイド・ライト:落水荘
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Vol.40
No.480 2015-7
コンクリート打放し仕上げの最新動向2015
3.手をかけた仕上げ方法
コンクリートには、当然のことながら、粗骨材といわ
れる砂利や砕石が使用されており、通常はセメントペー
ストによって覆われて表面に顔を出すことはないが、そ
れらの粗骨材を「意図的に現しにする」方法も行われる。
「洗い出し」
(写真3)では、コンクリートが十分に硬化す
る前に、表層のモルタル分を水洗い等で除去することで、
粗骨材が表面に出た仕上がりとなる。型枠の内側に予め
凝結遅延剤を塗布したり、表面に遅延剤層をもつシート
を張っておくことで、コンクリート表層部の硬化が遅く
なって、脱型後に容易に洗い流すことができる。
コンクリートが硬化した後に行う方法としては、
「サン
写真2 木目が転写された打放し仕上げ2)
ドブラスト」がある。砂や鉄粉等を用いて表面に噴射す
ることよって、同じく表層のモルタル分を除去する。
古くからある技法の「叩き」は、ハンマー等で叩いて表
まう。
層部を削り取り、コンクリート面に細かな凹凸を作る。
しかし、脱型後の
「コンクリートの表面に何も手を施
表面をきれいな光沢のある平滑面とする方法として、
さない」ということで、通常のコンクリート施工以上に、 「研ぎ出し」
(写真4)がある。粗骨材がシャープにカット
入念な施工が要求されてくる。それは単に「見た目」
(ジャ
されてその輪郭がくっきりと見える。粗骨材はコンク
ンカ、気泡、コールドジョイント、色、光沢など)だけ
リートのペーストと異なった色をしていることが多いた
の話ではなく、それが有する「性能」にも大きく影響を与
め、ペーストの明るいグレーと、粗骨材の濃いグレーと
えることとなるからである。
が、コントラストとなってきれいな模様となる。この粗
「入念に施工されたコンクリート」は、表層部分の組織
骨材に、白色のものを使用して、全体を明るい色調(無
が極めて緻密になり、コンクリートの耐久性を考えたと
彩色ではあるが)に仕上げる方法も、ときどき見かける。
きに第一に取り上げられる「中性化」の抑制に関して、少
このように、打放しといっても、いろいろな表現方法が
なからず寄与することが期待される。併せて、有害物質
ある。
(塩分、硫化物等)が外部から浸透しようとすることに対
とはいえ、打放し仕上げは仕上げが施されているもの
する抵抗が、通常に施工されたコンクリート構造物より
と比べると明らかに耐久性が劣り、また汚れやすいため、
も高くなると考えられる。
見た目を損なうことがないように、表面を保護する技術
見た目について考えた場合、合板(通称、コンパネと
呼ばれる、表面にウレタン塗装が施された型枠用合板)
が用いられている昨今では、そのまま仕上げとすると味
気ない物足りなさを感じさせる。そこで、木材の模様が
現れている材料を型枠材として使用することで、脱型後
のコンクリート表面に、
「木材の模様を転写させる」
(写真
2)こともよく行われている。
このように、打放し仕上げは、コンクリート工事の際
に、通常よりも多くのエネルギーを投入しなければなら
ないので、贅沢な仕様と言える。
さらに、型枠面に凹凸をつけることで、様々な「立体
的な模様」を作り出すこともよく行われる。
写真3 洗い出し仕上げ
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