1 新たな農家台帳作成への取組(第 2 報)

1 新たな農家台帳作成への取組(第 2 報)
○寺島陽子 三宅結子 鈴木 博
要 約
平成 23 年に見直された特定家畜伝染病防疫指針では、病性判定後 24 時間以内の患畜又は疑似患畜の
と殺、72 時間以内の死体の処理を原則としている。家畜伝染病の被害を最小限に止めるために必要であ
る迅速、的確な初動対応には農場情報が不可欠であり、当所では、平成 24 年度以前は家畜種ごとに担当
者が農家台帳を作成していた。しかし、内容や様式、保存方法等に統一ルールはなく、他職員には扱い
にくいものであった。そこで、家畜伝染病の発生に備え、職員の誰もが利用しやすく、防疫対応が円滑
に行えるような農家台帳の作成に、平成 24 年度から所をあげて取り組んでいる。平成 25 年は、24 年に
整備した基本台帳に防疫情報を追加する形で、農場ごとの防疫台帳を整備した。グループワークによる
農場視察及び飼養者からの聞き取りやウェブ情報などによる情報収集を行い、伝染病発生時の農場ごと
の具体的な防疫作業を検討した。さらに、農林水産省が運用する防疫マップシステムを活用し、伝染病
発生時に制限区域内に入る農場や畜産関係施設等の情報をリスト化し、添付した。
ため、初動防疫対応に必要な農場情報整理の省力
経 緯
化は、焦眉の課題であった。以上より、職員の誰
農家台帳は、農家の家畜飼養状況等を把握して
もが速やかに農家情報を扱うことのできる新たな
おくため従前より作成されていた。しかし、その
農家台帳を早急に整備する必要性が高まった。そ
作成は担当者に一任されており、
記載内容や様式、
こで当所では、平成 24 年度より、既存の台帳を
保存場所は様々であったため、担当者以外には扱
再検討し、さらに内容を充実させた新たな農家台
いにくいものであった。平成 23 年に改正された
帳を作成することとした。
特定家畜伝染病防疫指針では、高病原性鳥インフ
台帳作成検討会の立ち上げ及び基本台帳の作成
ルエンザ、口蹄疫等の家畜伝染病発生時は、原則、
病性判定後 24 時間以内での患畜又は疑似患畜の
検討会の立ち上げ:新たな農家台帳を作成するに
と殺完了、72 時間以内での死体の処理完了が示
当たり、まず当所の防疫、病性鑑定、指導の各係
された。この時間内に防疫作業を完了させるため
から 1 名ずつ検討会メンバーを選出し計 3 名で検
には、有事に速やかに作業を開始できるよう、平
討会を立ち上げた。検討会では、以下の内容につ
時から事前準備をしておくことが肝要である。さ
いて検討し、決定した。
らに平成 22 年より毎年、農林水産省が主催する
作成対象農場:家畜伝染病予防法の定期の報告で
机上防疫演習時に提出する資料は、実際の特定家
の区分を参考にし、牛及び馬は 1 頭以上、豚、め
畜伝染病発生時にも農水省への提出が必要となる
ん山羊は 6 頭以上、家きんは 100 羽以上を飼養す
ものであるが、毎回作成には大きな労力を要して
る農場を対象とした。
いた。東京都は他県に比べ家畜防疫員が少なく、
作成ソフト及び記載内容:ソフトは、職員が日頃
有事の際に資料作成に当てられる人員も限られる
から使い慣れており、内容の保存や更新が容易で
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 1 -
図1 新たな農家台帳の構成
写真1 畜舎視察及び聞き取り調査
写真2 埋却候補地の視察
写真3 赤外線距離測定器
ある等の理由から、マイクロソフト Excel を用
補うこととした。
いることとした。台帳に記載する情報は、各農場
防疫台帳の作成
の基本情報及び防疫情報の2部構成とし、それぞ
れについて統一様式を設けた(図1)
。
基本台帳の整備後は、以下の方法により、防疫
保管方法:農家台帳は、所内に設置されている
台帳の作成に取り組んだ。
ファイルサーバー及び印刷物にて保存することと
班編成及び役割分担:当所の家畜防疫員 16 名を
した。ファイルサーバーは、家保職員のみがパス
4 班に分け、対象農場を地域別に 4 ブロックに分
ワードを入力し閲覧可能となる設定をした。印刷
け、各班で分担した。つまり、1 班あたり家畜防
物は、施錠可能なキャビネットに、地域ごとにま
疫員 3 ~ 4 名で約 20 農場の防疫台帳作成を担当
とめて収納し、
台帳を農場等に持ち出す場合には、
することとした。
個人情報持ち出し記録簿に記録することとした。
農場視察及び情報収集:各班で飼養者と日程調整
基本台帳の作成:従前の農家台帳や定期の報告な
を行った上で担当農場を巡回し、現場視察及び飼
どから各農場の情報を収集し、農場概要(飼養者
養者からの聞き取り調査を実施した
(写真1,
2)
。
及び管理者、住所、飼養頭羽数や飼養形態、導入
また、赤外線距離測定器(写真3)を用いた畜舎
や出荷など移動状況等)
、農場平面図、農場写真、
や通路幅の測量、写真撮影等を行った。さらに、
周辺図を規定の様式に記載した。また、他の事業
ウェブ情報(Google マップや東京都土木技術支
で農場を訪問する際などに、飼養者からの聞き取
援・人材育成センターホームページ「東京の地盤」
り調査や写真撮影等を実施し、基本情報の不足を
など)から参考情報を収集した。以上から、防疫
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 2 -
図2 埋却候補地周辺の地質情報(例:都内A養鶏場)
図3 防疫作業図の例1(都内B酪農場)
図4 防疫作業図の例2(都内C養鶏場)
図5 制限区域内に関する情報
作業に必要な情報(飼養形態、農場出入口の位置
新たな農家台帳作成による成果と課題
や広さ、農場周辺の道路や住宅環境、埋却候補地
の環境や地質など)を収集した(図2)
。
平成 25 年度に実施された高病原性鳥インフル
防疫作業図の雛形作成:収集した情報を元に、伝
エンザの机上演習では、新たな農家台帳を活用す
染病発生時の防疫作業について班員で具体的に検
ることで、迅速に農場情報や防疫作業計画をまと
討し、防疫作業図の雛形を作成した。各農場の埋
め、必要書類を作成し提出することができた。一
却候補地の確保状況や近隣のごみ焼却場の様子も
方、台帳の情報更新の遅れや調査不足等から、農
考慮の上、
と殺した動物の死体の最終処分方法
(埋
場の現状と台帳情報に相違がある、詳細情報が不
却又は焼却)
、最終処分場所への死体の搬入経路
足しているといった問題点も認められた。
なども検討した(図3,
4)
。
今後は、関係区市町村などと連携しながら、焼
検討会メンバーによる確認・修正及び制限区域内
却施設や消毒ポイント等の検討を行っていく。土
における情報の添付:各班によって作成された防
地の制約が多い東京都では、埋却候補地の確保が
疫作業図の雛形は、定期的に開催される台帳作成
難しい農場も多いため、今後公有地の確保やレン
検討会で確認し、必要に応じて修正を加えた。さ
ダリング施設の活用も含め、具体的に検討してい
らに、農林水産省が運用する防疫マップシステム
く必要がある。また、家きんの死体の焼却処理に
を利用し、制限区域内に関する情報(図5)を追
ついては、平成 19 ~ 20 年にかけて各焼却施設と
加し、作成を終了した。
協議し、
作業マニュアルの作成等を行っているが、
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 3 -
時間が経過しているため、平成 26 年度中に改め
て確認をする予定である。消毒ポイントについて
も、平成 17 年に区市町村に対してアンケートを
実施し、候補地の検討を行ったが、実際に使用で
きそうな場所は非常に少なかった。こちらも、ア
ンケート実施から時間が経過しているため、最終
処分場所の検討と併せて、区市町村および関係機
関と打ち合わせをする必要がある。さらに、個人
情報の管理強化や、台帳情報更新のためのルール
作りも今後の重要な検討課題である。
家畜伝染病は、場所や時間を問わず発生する恐
れがあり、万が一発生した時には一刻の猶予も許
されず、迅速かつ的確な対応が要求される。家畜
伝染病の発生を予防するために、平常時からの地
道な飼養衛生管理指導に加え、本取組のような有
事に備えた危機管理体制の構築を着実に行ってい
きたい。
参考文献
1)三宅結子ほか:新たな農家台帳作成への取組,
平成 24 年度東京都家畜保健衛生業績発表集録,
1-4(2012)
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 4 -