医療事故調査制度の概要 - 山口県医師会

医療事故調査制度に関する講演会
医療事故調査制度の概要
ー院内医療事故調査の支援を中心にー
平成27年9月10日
山口県医師会常任理事
林
弘 人
医療安全をめぐる約15年間の主なできごと
平成 9年 7月
10年 3月
日本医師会 医療安全対策委員会 発足
同 報告書
「医療におけるリスク・マネジメントについて」
11年1月
2月
13年
15年12月
16年 4月
10月
17年 4月
18年 2月
20年 6月
8月
22年 4月
23年 6月
24年 2月
25年 5月
6月
横浜市立大 患者取り違え事故 発生
医療安全元年
都立広尾病院 消毒薬誤注射事故 発生
日本外科学会 声明
日本医師会医療事故防止緊急対策合同委員会
都立広尾病院事故 医師法21条の最高裁判決
医療事故報告制度(日本医療機能評価機構) 開始
診療行為に関連した調査分析モデル事業 開始
「大野病院事件」医師逮捕
厚労省「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」公表
「大野病院事件」医師に無罪判決
日本医療安全調査機構 発足
日本医師会 委員会 「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言」
厚労省医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会設置
厚労省検討会とりまとめ
日医委員会「医療事故調査制度の創設に向けた具体的方策」
26年 6月
27年10月
医療介護一括法として、医療事故調査制度の法案、国会で成立
医療事故調査制度 開始
地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための
関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第83号)
第6条の10
病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院
等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤
務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起
因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者
が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生
労働省令で定めるものをいう。以下この章において同
じ。)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるとこ
ろにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び
状況その他厚生労働省令で定める事項を第6条の15
第1項の医療事故調査・支援センターに報告しなけれ
ばならない。
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医療事故調査制度
医療機関
①事故発生報告
(予め遺族に説明)
医療に起因しまたは起因が疑われる死亡・
死産であって管理者が予期しなかったもの
院内事故調査委員会の設置
↓
②院内調査
④院内調査結果の報告
センター調査の依頼
医療事故調査・支援センター
=第三者機関
【日本医療安全調査機構を厚労大臣が指定】
・遺族、医療機関の求めによる事故調査
・院内調査の結果報告の整理・分析
・整理・分析結果を医療機関管理者に報告
・事故調査に従事する者に対する研修
・事故調査に関する相談・情報提供・支援
・再発防止に関する普及啓発 ・・・・
センター調査の
結果報告
センター業務の一部を委託可
③
院
内
調
査
結
果
の
説
明
患者の遺族
医療事故調査等支援団体
・院内調査に関する相談、情報提供、支援など
都
道
府
県
医
師
会
医
学
関
係
学
会
職
能
団
体
大
学
・
大
学
病
院
基
幹
病
院
等
医療事故調査の流れ-厚労省ホームページより-
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よくいただくご質問
複数の医療機関にまたがって医療を提供した結果の死亡で
あった場合、どの医療機関の管理者が報告するのでしょうか?
複数の医療機関にまたがって医療を提供していた患
者が死亡した時は、まず当該患者の死亡が発生した
医療機関から、搬送元となった医療機関に対して、当
該患者の死亡の事実とその状況について情報提供し、
医療事故に該当するかどうかについて、両者で連携し
て判断していただいた上で、原則として当該死亡の要
因となった医療を提供した医療機関から報告していた
だくことになります。
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「医療事故」の定義
(本制度の対象事案)
【改正医療法第6条の10 第1項】
・・・当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑わ
れる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものと
して厚生労働省令で定めるものをいう。
「予期しなかった」とは?
厚生労働省令の定義(要旨)
※施行規則1条の10の2
以下のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの
1 管理者が、当該医療の前に、医療従事者等により、当該患者等に対して、当該死亡又は死産
が予期されていることを説明していたと認めたもの
2 管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されている
ことを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの
3 管理者が当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び、医療の安全管理のた
めの委員会からの意見聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療従事者等が当該
死亡又は死産が予期されていたと認めたもの。
よくいただくご質問
「死亡する可能性がある」ということのみ説明されてい
た場合でも、予期していたことになるのでしょうか?
患者又はその家族への説明や同項第2号の記録に
ついては、当該患者個人の臨床経過を踏まえ、当該患
者に関して死亡又は死産が予期されることを説明して
いただくことになります。
したがって、個人の病状等を踏まえない、「高齢のた
め何が起こるかわかりません」、「一定の確率で死産
は発生しています」といった一般的な死亡可能性につ
いてのみの説明又は記録は該当しません。
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よくいただくご質問
“病院等の管理者が、当該医療を提供した医療従事者等から
の事情の聴取及び第一条の十一第一項第二号の委員会から
の意見の聴取(当該委員会を開催している場合に限る。)を
行った上で、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が
当該死亡又は死産を予期していたと認めたもの”とは?
具体的事例は、例えば以下のような場合が考えられます。
1 単身で救急搬送された症例で、緊急対応のため、記録や家
族の到着を待っての説明を行う時間の猶予がなく、かつ、比較
的短時間で死亡した場合
2 過去に同一の患者に対して、同じ検査や処置等を繰り返し
行っていることから、当該検査・処置等を実施する前の説明や
記録を省略した場合
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2.医療機関からセンターへの事故の報告について
○センターへの報告事項について
○日時/場所/診療科
○医療事故の状況
・疾患名/臨床経過等
・報告時点で把握している範囲
・調査により変わることがあることが前提であり、その
時点で不明な事項については不明と記載する。
○連絡先
○医療機関名/所在地/管理者の氏名
○患者情報(性別/年齢等)
○調査計画と今後の予定
○その他管理者が必要と認めた情報
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センターへの報告期限
○ 個別の事案や事情等により、医療事故の判
断に要する時間が異なることから具体的な期限
は設けず、「遅滞なく」報告とする。
※ なお、「遅滞なく」とは、正当な理由無く漫然と遅延
することは認められないという趣旨であり、当該事例ご
とにできる限りすみやかに報告することが求められる
もの。
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3.医療事故の遺族への説明事項等について
○ 遺族への説明事項
○医療事故の日時、場所、状況
・日時/場所/診療科
・医療事故の状況
・疾患名/臨床経過等
・報告時点で把握している範囲
・調査により変わることがあることが前提であり、その時点
で不明な事項については不明と説明する。
○制度の概要
○院内事故調査の実施計画
○解剖又は死亡時画像診断(Ai)が必要な場合の解剖又は
死亡時画像診断(Ai)の具体的実施内容などの同意取得の
ための事項
○血液等の検体保存が必要な場合の説明
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院内調査で調査すべき事項、方法
【改正医療法第6条の11 第1項】
病院等の管理者は、医療事故が発生した場合には、厚生労働省令で定める
ところにより、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査(以下この章
において「医療事故調査」という。)を行わなければならない。
→ 厚労省令で示されている調査方法(要旨)
※施行規則1条の10の4
病院等の管理者が次の中から必要な範囲で選択し情報の収集、整理を行う
1
2
3
4
5
6
7
診療録その他の診療に関する記録の確認
当該医療事故に係る医療従事者からの事情の聴取
「2」以外の関係者からの事情の聴取
解剖
死亡時画像診断
使用された医薬品、医療機器、設備その他の物の確認
血液又は尿その他の物についての検査
よくいただくご質問
解剖又は死亡時画像診断(Ai) については?
解剖又は死亡時画像診断(Ai) については解剖又は
死亡時画像診断(Ai)の実施前にどの程度死亡の原因
を医学的に判断できているか、
遺族の同意の有無、解剖又は死亡時画像診断(Ai)
の実施により得られると見込まれる情報の重要性など
を考慮して実施の有無を判断する。
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「支援団体」に関する主な規定
改正医療法6条の11
2 病院等の管理者は、医学医術に関する学術団体その他
の厚生労働大臣が定める団体に対し、医療事故調査を行
うために必要な支援を求めるものとする。
3 医療事故調査等支援団体は、前項の規定により支援を
求められたときは、医療事故調査に必要な支援を行うもの
とする。
平成27年5月8日医政発第0508第1号通知
○ 医療機関の判断により、必要な支援を支援団体に求め
るものとする。
○ 支援団体となる団体の事務所等の既存の枠組みを活用
した上で団体間で連携して、支援窓口や担当者を一元化
することを目指す。
○ その際、ある程度広域でも連携がとれるような体制構築
を目指す。
○ 解剖・死亡時画像診断については、専用の施設・医師の
確保が必要であり、サポートが必要である。
平成27年8月6日 厚生労働省告示343号
医療法第6条の11第2項の規定に基づき、厚生労働大臣が定める団体を次の
とおり定め、平成27年10月1日から適用する。
・・・・
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支援団体による「支援」の内容
a.制度全般に関する相談
b.医療事故の判断に関する相談
c.調査に関する支援等
○助 言
・調査手法に関すること
・報告書作成に関すること (情報の収集・整理・報告書の記載等)
・院内事故調査委員会の設置・運営に関すること
○技術的支援
・解剖に関すること
(施設・設備等の提供を含む)
・死亡時画像診断に関すること ( 同 上 )
・院内調査に関わる専門家の派遣
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医療事故調査等支援団体一覧
○ 職能団体
・(公社)日本医師会及び(一社)都道府県医師会
・(公社)日本歯科医師会及び(一社)都道府県歯科医師会
・(公社)日本薬剤師会及び(一社)都道府県薬剤師会
・(公社)日本看護協会及び(公社)都道府県看護協会
・(公社)日本助産師会及び(一社)都道府県助産師会
・(一社)日本病院薬剤師会
・(公社)日本診療放射線技師会
・(一社)日本臨床衛生検査技師会
・(公社)日本臨床工学技士会
○ 病院団体等
・(一社)日本病院会及びその会員が代表者である病院
・(一社)日本医療法人協会
・(公社)全日本病院協会及びその会員が代表者である病院
・(公社)日本精神科病院協会
・(公社)全国自治体病院協議会及びその会員が代表者である病院
・(一社)全国医学部長病院長会議及びその会員が代表者である大学の医学部又は病院
・(公財)日本医療機能評価機構
○ 病院事業者
・(独)国立病院機構
・(独)労働者健康福祉機構 ・(独)地域医療機能推進機構
・(国研)国立がん研究センター ・(国研)国立循環器病研究センター
・(国研)国立精神・神経医療研究センター ・(国研)国立国際医療研究センター
・(国研)国立成育医療研究センター ・(国研)国立長寿医療研究センター ・日本赤十字社
・(福)恩賜財団済生会
・全国厚生農業協同組合連合会の会員である厚生農業協同組合連合会
・(福)北海道社会事業協会 ・国家公務員共済組合連合会
○ 学術団体
・日本医学会に属する学会(内81学会)
・日本歯科医学会
・(一社)日本医療薬学会
・(一社)日本看護系学会協議会の社員である学会
・(一社)医療の質・安全学会
・(一社)医療安全全国共同行動
各支援団体の役割
都道府県の支援団体連絡協議会(仮称)
相談・
支援依頼
医師会が中心となり
連絡調整
大学病理学・
法医学教室
支援を必要
とする
医療機関
解剖
地域の基幹
病院
Ai撮影
読影専門機関
Ai読影
大学病院
各科
基幹病院
調査委員の
派遣
職能団体
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都道府県における支援団体の連携体制
支援団体連絡協議会
国立病院機構等
の病院
大学・大学病院
都道府県医師会
【調整役】
基幹病院
看護協会・・・
助産師会
歯科医師会
県の病院団体
病院団体加盟の
会員病院
*連絡協議会の主な役割 : 県内の医療事故調査手段に関する「資源」の把握と
役割分担の確認
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日医 医療安全対策委員会 中間答申(27年4月)から
都道府県医師会の具体的な役割
2 都道府県医師会が具体的に果たすべき役割
“すべての都道府県医師会は、医療事故調査制度施行時から、「医療事故調査等
支援団体」としての中核的な役割を果たすべきである。”
・病院団体、大学病院、医学団体等の各支援団体間の総合的な連絡調整
・会員、非会員を問わず、医科、歯科、助産施設等からも要請があれば支援
・必要に応じて、隣県、ブロック内での県医師会相互の応援体制も検討
→具体的な支援の内容としては・・・
(ア) 相談窓口機能
(イ) 院内事故調査委員会への支援
・医師会の紹介、斡旋による外部委員の参加 →地域の学会、医会との連携
・Ai、解剖、遺体搬送、遺体保管等を実施可能な施設、業者との連絡体制
(ウ) 院内調査結果の第三者機関(センター)への報告の支援
・報告書の作成など
(エ) 遺族への説明の支援
よくいただくご質問
院内調査を行うに当たり、自院で十分調査が行える場
合であっても外部からの委員は必ず入れるのですか?
本制度では、医療機関が院内調査を行う際は、公平
性、中立性を確保する観点からも、専門家の派遣等の
医療事故調査等支援団体の支援を求めることとされて
います。
医療機関の管理者においては、法の趣旨を踏まえ、
医療事故調査に当たり、外部からの委員を参画させ、
公平、中立な調査に努めていただくようお願いします。
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6.医療機関からセンターへの調査結果報告について
○ センターへの報告事項・報告方法
○ センターへは以下の事項を報告する。
日時/場所/診療科
医療機関名/所在地/連絡先
医療機関の管理者の氏名
患者情報(性別/年齢等)
医療事故調査の項目、手法及び結果
• 調査の概要(調査項目、調査の手法)
• 臨床経過(客観的事実の経過)
• 原因を明らかにするための調査の結果
※必ずしも原因が明らかになるとは限らないことに留意すること。
• 調査において再発防止策の検討を行った場合、管理者が
講ずる再発防止策については記載する。
• 当該医療従事者や遺族が報告書の内容について意見が
ある場合等は、その旨を記載すること。
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7.医療機関が行った調査結果の遺族への説明について
○ 遺族への説明方法・説明事項
○ 遺族への説明については、口頭(説明内容を
カルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の
資料)若しくはその双方の適切な方法により行う。
○ 調査の目的・結果について、遺族が希望する方法
で説明するよう努めなければならない。
○ 現場医療者など関係者について匿名化する。
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よくいただくご質問
医療事故調査を行うことで、現場の医師の責任が追及
されることになりませんか?
本制度の目的は医療の安全を確保するために、医療事故の
再発防止を行うことであり、責任追及を目的としたものではあり
ません。施行通知においても、その旨を院内調査報告書の冒
頭に記載することとしています。
医療法では、医療機関が自ら調査を行うことと、医療機関や
遺族から申請があった場合に、医療事故調査・支援センターが
調査することができることと規定されています。これは、今後の
医療の安全を確保するため医療事故の再発防止を行うもので
あり、すでに起きた事案の責任を追及するために行うものでは
ありません。
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よくいただくご質問
医療事故調査を行うことで、現場の医師の責任が追及
されることになりませんか?
(続き)
報告書を訴訟に使用することについて、刑事訴訟法、
民事訴訟法上の規定を制限することはできませんが、
各医療機関が行う医療事故調査や、医療事故調査・
支援センターが行う調査の実施に当たっては、本制度
の目的を踏まえ、医療事故の原因を個人の医療従事
者に帰するのではなく、医療事故が発生した構造的な
原因に着目した調査を行い、報告書を作成していただ
きたいと考えています。
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院内医療事故調査の流れ
【当該医療機関がすべきこと】
初期対応
・医療事故判断(電話相談*1)
・遺族へ説明(センターへの報告、およびAi・解剖について)
・センターへ報告(文書またはWeb)
・Ai・解剖等の実施施設との連絡調整
・診療録その他の診療に関する記録の確認、保管
初動の調査
・Ai(撮影・読影)
・解剖
・遺体の保管、搬送
*これらは必要に応じて実施
院内事故調査
・調査委員会の開催(外部委員参加)
・報告書作成→センターへ報告、遺族へ説明
*1 山口県医師会(平日9:00~17:00)
℡:083-922-2510
支援センター(上記以外)
℡:03-3434-1110
医療事故調査制度は
平成27年10月1日施行です!