胃 が ん 検 診 ガ イ ド ラ イ ン 2 0 1 4 年 度 版 完 成 報 告 会 日 時: 2 0 1 5 年 5 月 2 7 日 ( 水 ) 1 3 時 ~ 1 6 時 会 場: 国 際 交 流 会 館 ( 国 立 が ん セ ン タ ー 築 地 キ ャ ン パ ス 内 ) 開会の挨拶 津金昌一郎(国立がん研究センター) l 本ガイドラインは,国立がん研究センターとしての国への政策提言であり,国 の指針ではない。 l がん検診ガイドラインは,国立がん研究センターの政策提言活動の一環として 全国の研究者が研究に参画し,科学的根拠に基づいて作成している。国に対す る政策提言として,国立がん研究センター内での一定の手続きを経て公表して い る 。胃 が ん 検 診 ガ イ ド ラ イ ン に 関 し て は ,2 回 の 公 開 フ ォ ー ラ ム ,が ん 予 防 ・ 検診研究センターの研究者らによる運営会議における審査,国立がん研究セン ター執行役員会への報告・承認,という流れを経て,国立がん研究センターの 政 策 提 言 と し て 2015 年 4 月 20 日 に プ レ ス リ リ ー ス し た 。 l 本ガイドラインが国の政策として反映されるためには,更に厚生労働省のがん 検診のあり方に関する検討会などにおいて,科学的根拠のみならず,その他の 側面も加味した検討が必要である。そのため,本ガイドラインが公表された現 時 点 に お い て も ,厚 生 労 働 省 が 推 奨 す る 胃 が ん 検 診 は 40 歳 以 上 に 対 す る 年 1 回 の胃X線検査であることには変わりはない。 l ガイドラインの主たる使用者である自治体の方への説明を目的として,ガイド ライン完成報告会を開催した。 有 効 性 評 価 に 基 づ く 胃 が ん 検 診 ガ イ ド ラ イ ン 2014 年 版 の 概 要 濱島ちさと(国立がん研究センター) l 有 効 性 評 価 に 基 づ く 胃 が ん 検 診 ガ イ ド ラ イ ン 2005 年 版 で は , 胃 X 線 検 査 に つ いて,死亡率減少効果に関するコホート研究や症例対照研究などの論文が発表 さ れ て い る た め ,証 拠 が あ る と 判 断 し「 推 奨 す る 」と し た 。以 来 9 年 が 経 過 し , 40 歳 以 上 を 対 象 と し た 胃 X 線 検 査 に よ る 胃 が ん 検 診 が 標 準 的 な 方 法 と し て 全 国 の市区町村で実施されているが,受診率が低迷している。一方で,胃内視鏡検 査,ペプシノゲン検査,ヘリコバクター・ピロリ抗体検査を用いた検診が増加 しており,対策型検診導入への期待が高まっている。有効性の評価が求められ ている。 l 2003 年 度 か ら 有 効 性 評 価 に 基 づ く が ん 検 診 の ガ イ ド ラ イ ン を 作 成 し て い る が , 1 今 回 が 初 め て の 更 新 版 と い う こ と も あ り , 2005 年 版 と は 作 成 方 法 を 変 更 し た 。 2005 年 版 で は ,文 献 検 索 か ら ガ イ ド ラ イ ン 作 成 に 至 る 一 連 の 過 程 を 単 一 の 委 員 会が担っていたが,文献評価に偏りが生じる可能性があった。そのため今回の 更新版作成では,エビデンスレポート作成とガイドライン作成を分離して行っ た。 l Analytic Framework ( 検 診 の 流 れ 図 ) の 作 成 , 文 献 検 索 , 抄 録 と 論 文 の レ ビ ュー,証拠のまとめまでをエビデンスレポート作成委員会が行った。そして, エビデンスレポートの吟味,推奨の決定,ガイドライン公表をガイドライン作 成委員会が行った。 l 証拠の評価では,健常者を対象としているか,死亡率減少効果を検討している 研究か,研究デザインを遵守しているか,結果に一致性があるかなどの点から 研究の質を評価した。 l 2013 年 に ド ラ フ ト 第 1 版 を 公 表 し た 。ド ラ フ ト 第 1 版 で は ,胃 X 線 検 査 に つ い て は ,複 数 の 観 察 研 究 よ り 死 亡 率 減 少 効 果 が 報 告 さ れ て お り ,2005 年 版 以 降 に コ ホ ー ト 研 究 も 報 告 さ れ て い る こ と か ら 推 奨 グ レ ー ド 「 B」 と 結 論 づ け た 。 胃 内視鏡検査については,死亡率減少効果に関して複数の報告はあったが研究の 質 に 問 題 が あ り ,確 定 的 な 結 果 は 得 ら れ な か っ た こ と か ら 推 奨 グ レ ー ド「 I」と 結 論 づ け た 。ヘ リ コ バ ク タ ー・ピ ロ リ 抗 体 検 査 ,ペ プ シ ノ ゲ ン 検 査 に つ い て は , 死 亡 率 減 少 効 果 の 証 拠 は 得 ら れ な か っ た こ と か ら 推 奨 グ レ ー ド「 I」と 結 論 づ け た。 l ドラフト第1版公開後,多くのパブリック・コメントを頂いた。胃 X 線検査に 関しては,旧態な検査方法であり受診率が低迷するなかで,それに対応する対 策を考える必要があることや,バリウムの誤嚥増加などの高齢者の偶発症につ いて指摘があった。上部消化管検査の主流は胃内視鏡であることや,発見率が 高いことなどの指摘があった。リスク層別化検診に関しては,リスク別のアプ ローチが可能で簡便・安価な方法であることや,除菌との組み合わせで胃がん 発症抑制の可能性があることについて指摘があった。 l ドラフト第1版公開後,胃内視鏡検診に関して国内の症例対照研究が 2 件報告 された。また,韓国でも胃内視鏡検診に関するコホート内症例対照研究が行わ れており,その報告書を入手することができた。そのため,この 3 件の研究を 含めて更に評価を行った。 l 胃 X 線検診の死亡率減少効果について Ø 2005 年 版 作 成 時 ,複 数 の コ ホ ー ト 研 究 や 症 例 対 照 研 究 よ り 死 亡 率 減 少 効 果 が 報 告 さ れ て い た 。2005 年 版 以 降 も 3 件 の コ ホ ー ト 研 究 が 報 告 さ れ て お り , 2 い ず れ も 死 亡 率 減 少 効 果 を 認 め て い る 。そ の た め ,胃 X 線 検 診 に つ い て は , 2005 年 版 同 様 , 効 果 が あ る と 判 断 し た 。 l 胃内視鏡検診の死亡率減少効果について Ø 2013 年 以 降 ,長 崎 県 上 五 島 列 島 症 例 対 照 研 究 ,鳥 取 県・新 潟 県 症 例 対 照 研 究が報告され,死亡率減少効果を認めた。 Ø ドラフト第1版で採用された研究のうち,質を更に改善できる可能性のあ る研究について再解析を依頼したところ,新潟コホート研究の再解析が行 われ,その結果が報告された。 Ø 証拠が追加されたが,依然として十分ではない状況であった。他に証拠は ないか情報収集していたところ,韓国でコホート内症例対照研究が行われ ていた。 Ø 韓 国 は 2000 年 よ り 国 の プ ロ グ ラ ム と し て 国 家 が ん 検 診 を 開 始 し た 。胃 が ん 検 診 は 40 歳 以 上 を 対 象 と し ,2 年 お き に 胃 X 線 検 診 も し く は 胃 内 視 鏡 検 診 を受診することができる。保険者が対象者全員に受診券を送付し,低所得 者 は 無 料 , 高 所 得 者 で も 10%の 自 己 負 担 で 受 診 可 能 で あ り , 受 診 率 が 増 加 傾 向 に あ る 。 任 意 型 検 診 と 合 わ せ た 胃 が ん 検 診 受 診 率 は , 約 70%と な っ て いる。この国家がん検診のデータを基に,コホート内症例対照研究が公表 された。この研究でも死亡率減少効果を認めている。 Ø 韓国研究は,韓国語の報告書での公表に留まっており,ピア・レビューを 経た論文ではないグレー・ペーパーである。本来,ガイドラインで採用さ れる証拠は,ピア・レビューを経た論文である。証拠としては弱い部分で あるため,委員会ではこの研究の不明点を抽出し,韓国の研究担当者に繰 り返し問い合わせし,回答を得た。その結果,信頼性のある研究であると 確認することができたため証拠として採用した。 Ø 国内の研究,韓国の研究共に死亡率減少効果を認めることが報告されてい るため,胃内視鏡検査は効果があると判断した。 l 胃内視鏡検診の感度・特異度について Ø 2004 年 の 地 域 が ん 登 録 を 用 い た 福 井 県 の 報 告 で は ,偽 陰 性 は 22.2%,感 度 78.8%で あ っ た 。 Ø 鳥取県米子市の報告でも,診断法で算出した胃内視鏡検診の感度は,初回 検 診 で 95.5%, 継 続 検 診 で 97.7%で あ り 胃 X 線 検 診 よ り 高 か っ た 。 発 生 率 法で算出しても胃内視鏡検診の感度は胃 X 線検診より高かった。 l 胃内視鏡検診の不利益について Ø 偶発症については、2 件の学会委員会報告がある。 3 Ø 日本消化器内視鏡学会委員会報告は,大きな病院での診療の報告が主体で あり,検診の報告の抽出は不可能であった。そのため,検診に近い「生検 を 含 む 観 察 の 内 視 鏡 検 査 」の 報 告 で は ,2010 年 の 7,408,688 件 の う ち 偶 発 症 372 件 ( 5.0/10 万 ), 死 亡 例 14 件 ( 0.19/10 万 ) で あ っ た 。 Ø 検診を主体として行っている施設の報告をまとめたものとして,近年,日 本 消 化 器 が ん 検 診 学 会 委 員 会 報 告 が 公 表 さ れ た 。こ れ に よ る と ,2013 年 の 244,899 件 の う ち 偶 発 症 214 件( 87.3/10 万 ),死 亡 例 0 件 の 報 告 で あ っ た 。 主な偶発症は粘膜裂傷,経鼻内視鏡による鼻腔出血であった。 Ø 過剰診断に関しては報告されていなかったが,国立がん研究センターで行 われた検診のデータでは,予測発見数と実際の発見数を比較した研究が報 告されていた。これによると,胃内視鏡検査は男女共に予測数に比べ,約 2倍のがんを発見している結果となった。早期発見による救命効果も含ま れており,すべてが過剰診断というわけではないが,その可能性が示唆さ れる報告であった。 l 胃 X 線検診・胃内視鏡検診の対象年齢の検討 Ø 胃 が ん 罹 患 率 ・ 死 亡 率 の 年 齢 階 級 別 年 次 推 移 を み る と , 40 歳 代 で は 減 少 し て い る 。対 策 型 胃 が ん 検 診 導 入 開 始 に 近 い 1975 年 と 2010 年 を 比 較 す る と , 40 歳 代 の 胃 が ん 罹 患 率 は 約 1/3, 40 歳 代 の 胃 が ん 死 亡 率 は 約 1/6 に 減 少 し ている。 Ø 利 益 と 不 利 益 の バ ラ ン ス を み る た め ,各 年 代 の 10 年 間 の 胃 が ん 死 亡 リ ス ク から胃がん検診実施により減少するリスクを算出し,両者のリスク差を用 い て , 胃 が ん 死 亡 1 人 を 回 避 す る た め に 必 要 な 受 診 者 数 (Number Needed to Screen: NNS) を 算 出 し た 。 Ø 内 視 鏡 検 診 の NNS は ,年 齢 が 上 が る に つ れ て 低 下 す る 傾 向 に あ り ,男 性 の 40 歳・45 歳 で は 6247 人・2950 人 で あ っ た が ,50 歳・55 歳 で は 1323 人 ・ 688 人 と , 50 歳 代 は 40 歳 代 に 比 べ て 大 き く 減 少 し て い た 。 Ø 以 上 の 結 果 か ら ,胃 が ん 検 診 の 対 象 と し て は 50 歳 以 上 が 望 ま し い と い う 結 論に至った。 l 胃内視鏡検診の検診間隔について Ø 鳥 取・新 潟 症 例 対 照 研 究 で は ,3 年 に 1 回 の 胃 内 視 鏡 検 診 受 診 に よ り 約 30% の 死 亡 率 減 少 効 果 を 認 め た 。韓 国 研 究 で も 検 診 の 主 た る 対 象 で あ る 40- 79 歳 で は 3 年 以 内 の 間 隔 で , 40- 50%の 死 亡 率 減 少 効 果 を 認 め た 。 Ø 本ガイドライン公表以降の研究でも,検診発見がんと中間期がんの生存率 比 較 で は ,X 線 検 診 で は 中 間 期 が ん が 検 診 発 見 が ん よ り 有 意 に 減 少 す る が , 4 内視鏡検診では検診発見がんと中間期がんで有意差は認められなかった。 従って,X 線検診とは異なり内視鏡検診では1年以上の間隔をあけること の可能性が示唆された。 Ø 検診間隔について十分な検討は行われておらず断定はできないが,これら の 結 果 か ら 胃 内 視 鏡 検 診 の 間 隔 は 2-3 年 に 延 長 す る こ と が 可 能 で あ る と 判 断した。 l リスク層別化健(検)診について Ø リスク層別化をして次に何を実施するか定まっておらず様々であり,リス ク層別化ががん検診の代わりとして行われている所や,ヘルスプロモーシ ョン,健康教育として行われている所もある。そのため,本ガイドライン で は 「 が ん 検 診 」 と 「 リ ス ク 層 別 化 」 を 区 別 し 評 価 を 行 っ た 。「 が ん 検 診 」 はがん死亡率で評価を行い, 「 リ ス ク 層 別 化 」は が ん 罹 患 率 で 評 価 を 行 っ た 。 Ø 「 リ ス ク 層 別 化 」の 評 価 と し て ,リ ス ク 層 別 化 検 診 の 追 跡 調 査 を 実 施 し た 4 研究を用いメタ・アナリシスを行った。4 研究とも A 群(ペプシノゲン陰 性 , ピ ロ リ 陰 性 ), B 群 ( ペ プ シ ノ ゲ ン 陰 性 , ピ ロ リ 陽 性 ), C 群 ( ペ プ シ ノ ゲ ン 陽 性 ,ピ ロ リ 陽 性 ),D 群( ペ プ シ ノ ゲ ン 陽 性 ,ピ ロ リ 陰 性 )の 識 別 は可能であった。メタ・アナリシスの結果,A 群より B 群の胃がん発症リ スクが有意に高く,B 群より C 群の胃がん発症リスクが有意に高い結果が 示された。しかし,C 群と D 群に関しては,どちらがより胃がん発症リス クが高いかを示すエビデンスは得られなかった。以上より,リスク層別化 は可能と判断した。 Ø ガイドラインでは検討されていない,国内で行われた 3 研究を用いてリス ク 層 別 化 検 診 に つ い て A 群 を 陰 陰 性 ,B・C・D 群 を 陰 陽 性 と し て 胃 が ん 発 症予測の感度・特異度を算出した。追跡期間内に発症する胃がんを正しく 予 測 で き る 感 度 は 94.0%で あ っ た 。 追 跡 期 間 内 に 胃 が ん が な い と 正 し く 予 測 で き る 特 異 度 は 34.3%で あ っ た 。 Ø 「がん検診」の評価として死亡率減少効果を検討した研究は無かった。 Ø 過剰診断については報告されていないため「不利益には偽陰性,偽陽性, 過剰診断の可能性がある」という判断に留まっている。 l リサーチ・クエスチョン「無症状者へのピロリ菌除菌により胃がん発症抑制は 可能か?」 Ø 評価の対象とした除菌方法は,日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイド ライン」の標準レジメ(プロトンポンプ阻害薬,アモキシシリン,クラリ スロマイシン)とした。標準レジメを用いた除菌方法の場合,用量や投与 5 期間について異なる報告でも評価の対象に含めた。 Ø ヘリコバクター・ピロリ遺伝子型は地域によって異なるため,東アジア株 に限定しメタ・アナリシスを行った。その結果,無症状者への除菌により 約 30%の 胃 が ん 発 症 抑 制 効 果 が 認 め ら れ た も の の 有 意 で は な か っ た 。 l リサーチ・クエスチョン「除菌の不利益としてどういったものがあるか?」 Ø 除 菌 に よ る 副 作 用 の 発 症 は 5- 50%と ば ら つ き が あ る が ,下 痢 ,味 覚 障 害 が 一般的であり,副作用のため治療中止例も報告されていた。逆流性食道炎 については,増加・不変・減少と様々な報告があり,ばらつきがあった。 偽膜性腸炎の入院例も報告されていた。 Ø 国 内 の 除 菌 の 1 次 除 菌 成 功 率 は 70‐ 80%で あ っ た が , 経 時 的 に は 耐 性 菌 の 増加が認められた。 Ø 除菌治療による耐性菌の増加が報告され,なかには耐性菌が長期継続する ことも報告されている。除菌治療の普及により,長期間に渡る常在菌の耐 性獲得が示唆されている。 l 証拠のレベルの決定 Ø 胃 X 線検査は,複数の観察研究において死亡率減少効果を示す相応な証拠 が あ り ,2005 年 版 以 降 の コ ホ ー ト 研 究 で も ,死 亡 率 減 少 効 果 を 認 め て い る こ と か ら , ド ラ フ ト 第 1 版 と 変 わ ら ず 「 2+」 と し た 。 Ø 胃内視鏡検査は,複数の観察研究において死亡率減少効果を示す相応な証 拠 が あ る こ と か ら 「 2+」 と し た 。 Ø ペプシノゲン検査は,複数の観察研究において死亡率減少効果が示唆され た が ,研 究 の 質 が 低 く 確 定 的 な 判 断 は 得 ら れ な か っ た た め「 2 - 」と し た 。 Ø ヘリコバクター・ピロリ抗体検査は,死亡率減少効果を検討した研究はな か っ た た め 「 3」 と し た 。 Ø ペプシノゲン検査とヘリコバクター・ピロリ抗体検査の併用法は,死亡率 減 少 効 果 を 検 討 し た 研 究 は な か っ た た め 「 3」 と し た 。 l 利益と不利益を比較し,推奨グレードを決定した。胃 X 線検査と胃内視鏡検査 共に,死亡率減少効果を示す相応の証拠があり利益が不利益を上回っているこ と か ら , 推 奨 グ レ ー ド を 「 B」 と し , 対 策 型 検 診 ・ 任 意 型 検 診 ど ち ら に お い て も「推奨する」とした。ペプシノゲン,ヘリコバクター・ピロリ抗体関連は, 死 亡 率 減 少 効 果 を 示 す 証 拠 は な い こ と か ら ,推 奨 グ レ ー ド を「 I」と し ,対 策 型 検 診 で は 「 推 奨 し な い 」, 任 意 型 検 診 で は 「 個 人 の 判 断 で 受 診 可 」 と し た 。 l 国際比較 Ø 近年,アジア,アメリカ,ヨーロッパなどで,胃がん検診に関するレポー 6 トが公表されている。ハイリスク集団におけるヘリコバクター・ピロリ抗 体によるスクリーニングやピロリ除菌を推奨しているレポートもあるが, い ず れ も 証 拠 が 不 十 分 で あ り ,エ キ ス パ ー ト・オ ピ ニ オ ン や コ ン セ ン サ ス ・ レ ポ ー ト に 留 ま っ て い る 。 米 国 National Cancer Institute (NCI) に よ る Physician Data Query (PDQ) で は ,X 線 検 診 ,内 視 鏡 検 診 ,ペ プ シ ノ ゲ ン 法について胃がん死亡率減少効果に関する確かな証拠はないとしている。 Ø 韓国では,ガイドラインの改訂が行われている。ドラフト版ではあるが, 40- 74 歳 を 対 象 と し た 2 年 に 1 回 の 胃 内 視 鏡 検 診 の 実 施 を 推 奨 グ レ ー ド「 B」 と し 推 奨 し て い る 。 胃 X 線 検 診 に つ い て は 推 奨 グ レ ー ド 「 C」 に 格 下 げ し 組織型検診としては推奨せず,受診については個人のレベルで判断するこ と と し た 。75- 84 歳 の 胃 が ん 検 診 の 証 拠 は 不 十 分 で あ り ,85 歳 以 上 で は 検 診を行うべきではないとした。 Ø ヘ リ コ バ ク タ ー ・ ピ ロ リ 感 染 に 関 し て International Agency for Research on Cancer (IARC) よ り Working Group Report が 公 表 さ れ た 。こ の 中 で , ヘリコバクター・ピロリ感染と治療を組み合わせたプログラムの実施を推 奨しているが、研究を継続し科学的根拠を確立する必要性があるとしてい る。現段階で証拠が固まったというのではなく,既存研究に基づく専門家 のコンセンサスのまとめである。実際に導入する場合には疾病負担・実行 性・費用効果など地域の実情に即して検討すべきであると強調している。 l 研究の提言 Ø 胃内視鏡検査は,国内・国外での研究が進みつつあるが十全ではないこと から,死亡率減少効果について評価研究をさらに進める必要がある。 Ø 本ガイドラインは,公表後5年以内に新たに得られた研究成果を加え,死 亡率減少効果及び不利益に関する証拠を再検討し,更新ガイドラインを作 成する予定である。 Ø 韓国研究は報告書での公表に留まっているため,ピア・レビューを経た論 文が公表された時,再度検討が必要である。 l 質疑応答 Q:リ ス ク 層 別 化 は ,今 の 発 表 に も あ っ た よ う に ヘ ル ス プ ロ モ ー シ ョ ン で あ り , がん検診ではない。リスク層別化をがん検診として評価する必要はないの ではないか?誤った認識が広まる原因になるのではないか? A1:本 ガ イ ド ラ イ ン 作 成 開 始 時 に も ,リ ス ク 層 別 化 を 評 価 の 対 象 に 含 め る か 議 論を行ってきた。リスク層別化をヘルスプロモーションとして実施してい 7 る自治体もあれば,胃 X 線検診や胃内視鏡検診の代わりのがん検診として 実施している自治体もある。このような現状において,リスク層別化と併 用した場合のがん検診としての死亡率減少効果の有無を科学的に示す必要 があったため,評価の対象に含めた。本ガイドライン内でも,がん検診と し て は 証 拠 不 十 分 で あ り ,「 推 奨 し な い 」 と 明 記 し て い る 。 A2: リ ス ク 層 別 化 は が ん 検 診 と し て 実 施 で き る と い っ た 誤 っ た 認 識 あ る の で 、 本ガイドラインを基に修正していきたい。 Q: リ ス ク 層 別 化 を 行 い ピ ロ リ 菌 感 染 者 に は 除 菌 を 行 う と い っ た 予 防 と 胃 X 線 検査や胃内視鏡検査による検診を組み合わせて,胃がんによる死亡者数を 減らすというのは有効な方法になると考える。保険適応の拡大により,リ スク層別化は診療として行えばよいので,検診としての評価の対象に含め る必要はないのではないか? A: リ ス ク 層 別 化 を 行 い , そ れ ぞ れ の リ ス ク に 応 じ た 胃 が ん 対 策 を 検 討 す る 必 要がある。今後,検討すべき重要課題であることは委員会も共通して認識 している。しかし,前の質問でも回答したように,リスク層別化と称し、 実際にはがん検診として実施している自治体も存在している現状において, がん検診としての死亡率減少効果の有無を科学的に示す必要があった。 Q: 最 新 の 文 献 が 採 用 さ れ て い な い た め , 更 な る 改 訂 が 必 要 な の で は な い か ? A: ガ イ ド ラ イ ン を 作 成 す る う え で 文 献 の 検 索 期 間 を 定 め る こ と は , 国 際 的 に も標準化されている作成方法である。死亡率減少効果に関する新たな研究 が報告されれば改訂を行うが,死亡率減少効果に関わるような報告でなけ れば,定期的な更新の時に採用するか否か検討を行う。 Q: 偶 発 症 に つ い て , ガ イ ド ラ イ ン に は 胃 X 線 検 診 の 死 亡 例 は 1 人 と 記 載 さ れ ているが,先日発生した X 線検診での診察台から落下した事故が含まれて いない。また,日本消化器内視鏡学会の死亡者数を用いているが,この報 告は診療例も含まれている。このように,ガイドラインに記載されている 偶発症の症例数は正しくないため修正が必要なのではないか? A: 文 献 の 検 索 期 間 を 定 め て い る た め , 先 週 発 生 し た 事 故 に つ い て こ の ガ イ ド ラインでふれることは不可能である。偶発症に関して,海外諸国では,系 統的な調査が可能な体制が整備されているが,我が国ではまだ十分な体制 は整備されていない。そのため,現在利用できるデータを用いなければな 8 らない状況である。日本消化器内視鏡学会も診療の偶発症が含まれている のは理解しているが,大規模な調査報告はこの学会報告のみであった。今 後,系統的な調査ができる体制を整備していかなければならない。 Q: 先 日 発 生 し た 胃 X 線 検 診 で の 診 察 台 か ら 落 下 し た 事 故 に つ い て , 国 立 が ん 研究センターとしてコメントは? A: ガ イ ド ラ イ ン は , 検 診 の 利 益 ・ 不 利 益 の 証 拠 を レ ビ ュ ー し て 推 奨 す る か 否 か決めることである。このような事故が起こりうるということを明示する ことは必要であるが,事故に対しどのような対策をとるかということを議 論するのは,ガイドラインの目的とは異なる。今までとは異なる極めて稀 な重大事故であるため,日本消化器がん検診学会などからのサポートが必 要である。 日本消化器がん検診学会担当理事より補足説明: 現在,詳細については情報を収集している状況である。日本消化器がん検 診学会関東甲信越支部のホームページ上に,必ず受診者の状況を観察しな がら検査を実施するよう緊急の警告を出した。日本消化器がん検診学会の ホームページにも警告を載せるなどの対応を行っている。警告の内容につ いても吟味を行っており,安全な胃がん検診を行うための注意事項などの 学会声明をまとめている状況である。 Q: 胃 が ん の 早 期 が ん 発 見 を 過 剰 診 断 と す る の は , お か し い の で は な い か ? A: 早 期 が ん を す べ て 過 剰 診 断 と は 言 っ て い な い 。 過 剰 診 断 が あ る 可 能 性 は 高 いが,胃内視鏡検診・胃 X 線検診共に比較的小さいと考えられる。両者の 感度を診断法と発生率法で算出したが,過剰診断が大きければこのふたつ の値の差が大きくなるが,今回の検討ではそれほど大きな差は認められな かった。現在,過剰診断についてモデル解析を行っている。 Q:韓 国 の 研 究 は グ レ ー・ペ ー パ ー で あ り ,「 科 学 的 根 拠 に 基 づ く 」と い う 作 成 方法から乖離を感じる。 A: 韓 国 の 研 究 は , ピ ア ・ レ ビ ュ ー を 経 て い な い と い う こ と が 問 題 で あ り , 研 究の質としては非常に高いものである。報告書にとどまっており,論文に 比べ情報量が少なかったため,作成会議で研究の不明点・確認事項を洗い 出 し ,韓 国 の 実 際 に 研 究 を 行 っ た 担 当 者 と 何 度 も や り と り を 行 い 確 認 し た 。 研究の質について委員会のメンバー全員で評価を行い,採用できる質の高 9 い研究であると判断した。グレー・ペーパーをガイドラインに採用するか 否かは,国際的にも議論されている。以前は,グレー・ペーパーを除外す るという作成方法が標準的だったが,現在ではグレー・ペーパーの情報も すくいあげて議論するというのがスタンダードな作成方法になってきてい る。薬剤の評価などでも国際的にこのような方法で行われている。 Q: 採 用 さ れ た 論 文 の 著 者 が ガ イ ド ラ イ ン 作 成 委 員 会 の メ ン バ ー に 含 ま れ て い るのは,客観性に欠けるのではないか? A1 : 本 来 は , 論 文 執 筆 者 は ガ イ ド ラ イ ン 作 成 委 員 か ら は 排 除 す べ き で は あ る が,我が国ではがん検診の研究者が少ないため排除できない状況にあり、 これまでのガイドラインでも評価研究を実施した研究者がメンバーとなっ ていた。今回は,検討のための議論はするが推奨を決める最終的な投票の 時は加わらないことや,研究デザインについて国際標準のチェックリスト を用いることなどの配慮をし,客観性を担保した。 A2:証 拠 と し て 採 用 さ れ た ガ イ ド ラ イ ン 作 成 メ ン バ ー が 関 与 し た 研 究 を 明 示 し た。 Q:ス キ ル ス 胃 が ん の 発 症 が 女 性 の 20 歳 代 で 多 い こ と が 報 告 さ れ て い る 。ス キ ルス胃がんへの対策については評価を行っているか? A: 胃 が ん 全 体 と し て の 評 価 で あ り , ス キ ル ス な ど の 胃 が ん 種 類 別 の 評 価 は 行 っていない。対象年齢についても,胃がん種類別の評価ではなく,胃がん 全体としての罹患率・死亡率の変化や利益・不利益バランスなどから検討 し 50 歳 と 設 定 し た 。20 歳 か ら 40 歳 で ス キ ル ス 胃 が ん が 多 い こ と は 報 告 さ れ て い る が , 今 回 は 罹 患 率 の 低 い 40 歳 以 下 は 対 象 と し て い な い 。 胃内視鏡検診の精度管理とリスク・マネジメント:新潟市医師会の事例紹介 成澤林太郎(新潟県立がんセンター新潟病院) l 新 潟 市 の 胃 内 視 鏡 検 診 は 平 成 15 年 に 始 ま っ た 。特 徴 と し て は ,手 あ げ 方 式 で あ り消化器内視鏡専門医以外も参加可能である。全例の全内視鏡画像をダブルチ ェックし,がんの有無だけではなく,画像,撮影条件,前処置などの評価も行 っている。そして,評価結果を各医療機関にフィードバックを行っている。 l 内視鏡検診導入までの経緯であるが,住民・医師の要望から始まり,新潟市と 交渉を行ったところ,X 線個別検診と同額であれば実施を認めるという条件の もと,これを医師会が了承し導入に至った。当時,胃内視鏡検診の有効性に関 10 するエビデンスはなかったが,新潟市でそのエビデンスを出そうという強い思 いから始まった。 l 新潟市の対策型胃がん検診は,X 線直接撮影,X 線間接撮影,胃内視鏡検査の 3種類を行っており,住民は好きな検査を一つ選んで受診することができる。 胃 内 視 鏡 検 診 に つ い て は ,対 象 年 齢 は 40 歳 ,45 歳 ,50 歳 以 上 で ,間 隔 は 年 1 回 で 実 施 し て い る 。 自 己 負 担 額 は , 60 歳 以 上 は 全 員 無 料 , 59 歳 以 下 で 社 保 の 者 は 3400 円 ,国 保 の 者 は 1700 円 で 実 施 し て い る 。実 施 場 所 は 委 託 医 療 機 関 で あり,データ管理などは医師会が行っている。 l 平 成 23 年 度 の 胃 が ん 検 診 受 診 者 数 は 約 7 万 人 で ,そ の う ち 胃 内 視 鏡 検 診 受 診 者 は約 4 万人と,半数以上が胃内視鏡検診を受診している。がん発見率は胃内視 鏡 検 診 は 約 0.8%, 直 接 撮 影 検 診 は 約 0.4%, 間 接 撮 影 検 診 は 約 0.2%で あ っ た 。 胃内視鏡検診では,胃がんだけではなく食道がんも何例か発見しており,その 発 見 率 は 0.13%で あ っ た 。 l 精度管理として,実施要項の配布と厳守,読影委員会でのダブルチェックの実 施,検診医の読影委員会への出席を促す,研修会の実施,読影委員会ニュース の配布,内視鏡検診自己防止マニュアルの配布,市医師会報に関連学術論文を 掲載することなどの対策を行っている。 l ダブルチェックは全例で行われている。記録画像数は,導入当初はフィルム 1 本 の 20 コ マ を チ ェ ッ ク し て い た が , 現 在 で は 40 コ マ 前 後 で 行 っ て い る 。 l 消化器内視鏡学会の専門医が 2 人以上いる病院では施設内でダブルチェックを 行っており,専門医が1人または専門医がいない診療所では,画像を新潟市医 師会に集め,内視鏡検診読影委員会がチェックを行っている。この新潟市医師 会で行われる読影会は,週1回のペースで開催されている。胃内視鏡検診受診 者約 4 万人のうち,約 3 万人が読影委員会のダブルチェックを受けている。 l 施設内と委員会のダブルチェックによるがん発見率の有意差は認めておらず, 大きい病院でも小さい診療所でもがん発見率には差がない。 l 参 加 施 設 は 140 施 設 前 後 で あ り , 読 影 委 員 は 40 人 前 後 で あ る 。 l ダ ブ ル チ ェ ッ ク で 初 め て 指 摘 さ れ た が ん は 平 成 15 年 度 で は 23.3%で あ っ た の に 対 し , 平 成 23 年 度 で は 6.8%ま で 低 下 し た 。 各 医 師 の 診 断 能 力 の 向 上 が 伺 え る が ,未 だ に 約 7%が ダ ブ ル チ ェ ッ ク に よ っ て 発 見 さ れ て お り ,ダ ブ ル チ ェ ッ ク は非常に重要である。 l ダブルチェックでは,がんがあるかないかだけではなく,写真の網羅性,写真 撮影の条件,スコープ操作による物理的粘膜損傷の程度,空気量,写真のコマ 数,前処置など総合的に評価し,3 か月に 1 回,読影委員会の委員長名で評価 11 結果をフィードバックしている。 l 地 域 が ん 登 録 デ ー タ と の 照 合 に よ る と ,偽 陰 性 は 平 成 15- 18 年 の 平 均 で 4.77% であった。 l 偶発症で最も頻度が高かったのは経鼻内視鏡による鼻出血であった。1例のみ 咽頭穿孔により入院が必要となった。消化管穿孔は報告されておらず,死亡例 も報告されていない。 l 検診参加医療機関に対しアンケート調査を行った。内視鏡胃がん検診委託機関 となって業務増加と回答した施設は過半数をしめていた。検診件数を増やした いという施設は半数に満たなかった。しかしながら、半分以上の施設は,検診 件数を増やすことは可能と回答していた。新潟市の内視鏡胃がん検診事業に参 加してよかったかという調査には,ほぼ全員が検診事業への参加に満足と回答 している。 l 一部ではあるが、画像伝送によるダブルチェックも開始した。 l 新潟市では,胃がん検診でみつかる胃がんの半数以上が内視鏡的切除による治 療が行われている。 l 質疑応答 Q: 部 位 は ど こ ま で 観 察 し て い る か ? A: 実 施 要 項 に は 十 二 指 腸 球 部 ま で 観 察 す る よ う に 記 載 し て い る 。 食 道 も 観 察 している。 Q: 胃 炎 検 診 と し て も 実 施 し て い る か ? A1:新 潟 市 で は 胃 が ん 検 診 と し て 実 施 し て い る 。し か し ,萎 縮 性 胃 炎 の あ る 者 に「異常なし」という結果を伝えるだけでよいのか現在議論している。 A2:観 察 で き る も の す べ て を タ ー ゲ ッ ト と し て 結 果 を 伝 え て い る と ,不 必 要 な 精密検査が増える。胃炎のある者などは診療でのターゲットになるので, 検診とは分けて考える必要がある。 Q: 前 処 置 は 何 を 実 施 し て い る か ? A: 健 常 者 に 対 し 静 脈 麻 酔 を 行 う こ と は , 危 険 が 伴 う の で 実 施 し て い な い 。 静 脈麻酔を希望する者は,保険診療での受診を促している。抗血栓薬を服用 している者も出血のリスクが高いため,内視鏡検診の対象からは除外して いる。 12 Q:初 め て 内 視 鏡 検 診 を 実 施 す る よ う な 医 師 に 対 し ,実 技 講 習 を 行 っ て い る か ? A: 実 技 の 講 習 な ど は 行 っ て い な い 。 手 挙 げ 方 式 で あ る が , 実 際 に は , 開 業 し て内視鏡検査をゼロから始める医師はおらず,全員がどこかの施設でトレ ーニングを受けた後,開業し内視鏡検診を始めているからである。 Q: ダ ブ ル チ ェ ッ ク で 初 め て 指 摘 さ れ た が ん は , 胃 内 視 鏡 検 診 開 始 当 初 23%で あ っ た と の こ と だ が ,こ れ は あ る 特 定 の 医 師 に 集 中 し て 起 こ っ て い る の か , 全体として起こっているのか? A: 医 師 個 人 を 特 定 し た 調 査 ・ 解 析 は 行 っ て い な い た め , 特 定 の 医 師 に 集 中 し ているかどうかは分からない。 総合討論 Q: 過 剰 診 断 は 今 後 ど の よ う に 評 価 し て い く の か ? A:過 剰 診 断 の 定 量 的 な 評 価 は ,前 立 腺 が ん・乳 が ん 検 診 な ど で 行 わ れ て い る 。 最も正確な過剰診断の評価方法は,無作為化比較対照試験の検診群と対照 群の罹患率を比較する方法である。しかし,胃がん検診では無作為化比較 対照試験が行われていない。この評価方法に代わるものとして,モデルを 用いた評価方法がある。しかし,このモデルの作成方法は様々であり,ど れが最適であるといった標準化がなされていないため,今後検討していく 必要がある。 Q: 死 亡 率 減 少 効 果 だ け の 評 価 で は な く , 死 亡 者 の 年 齢 層 に よ る 経 済 的 損 失 を 加味する必要があるのではないか? A: ガ イ ド ラ イ ン で は 経 済 的 な 評 価 は 行 わ な い こ と と し た が , 経 済 的 評 価 の 研 究は行われている。内視鏡検診の費用効果分析は現在検討中であるが,中 間結果では費用効果的であるという結果が得られている。内視鏡検診につ いてはデータが不足している部分があるため,今後,検診間隔や対象年齢 についてデータを集積して精緻な解析を検討している。労働損失について は,別途,がん政策班でがんの労働損失を含めた経済的負担について検討 している。 Q: 市 内 の 医 師 会 よ り 胃 X 線 検 診 の 精 度 低 下 の 指 摘 を 受 け た 。 胃 X 線 検 診 の 推 奨 は 2005 年 版 と 変 わ っ て い な い が ,精 度 に つ い て ど の よ う な 議 論 を 行 っ て きたか?精度低下は実際にあるのか? 13 A:2005 年 版 以 降 に 報 告 さ れ た 胃 X 線 検 診 精 度 に 関 す る 研 究 に つ い て も 検 討 し ている。本日発表した米子市の研究でも,胃 X 線検診について評価を行っ て お り , 感 度 は 80%以 上 で あ っ た 。 米 子 市 の 研 究 以 外 に も 近 年 い く つ か の 研究が報告されているが,これらの結果もほぼ同等であり,決して低下は 認められていない。しかしこれらの結果は,がん登録と照合した研究結果 であり,精度管理が十分行われているという前提条件がある。精度管理が 十分に行われていない地域では,低下している可能性は否定できない。 Q: こ の ガ イ ド ラ イ ン が 公 表 さ れ て , 国 の 方 針 と な る の は い つ ご ろ か ? 厚生労働省担当者より回答: 内視鏡検診に関しては本日の総合討論のように,様々な意見が出ている。 現在,検討中であり明確な日程は現段階ではお示しできない。 Q: 前 年 度 の 画 像 と 比 較 し 精 度 を 保 っ て い る 自 治 体 も あ れ ば , 検 診 機 関 業 者 へ 一括して委託している自治体もある。このような状況に,国立がん研究セ ンターとしてコメントは? A: 自 治 体 に よ っ て 様 々 な パ タ ー ン が 存 在 し て い る 。 対 が ん 協 会 に 検 診 実 施 の マネジメントまですべてを委託している自治体もある。検診機関業者へ一 括して委託している自治体に対しては,検診の質を担保するためにがん検 診の仕様書に盛り込むべき条件を提示している。この条件を守らない自治 体が存在していることも事実であるので,注意喚起を行っている。 Q: 車 で の 胃 X 線 検 診 に 医 師 が 同 乗 す る 義 務 は あ る の か ? 厚生労働省担当者より回答: 肺がん検診に関して,昨年の国の指針の改正において、多数の者の検診を一 度に行う場合は医師の立ち会いなくエックス線検査が可能であるとしたと こ ろ で あ る 。胃 が ん 検 診 に 関 し て は ,医 師 の 立 ち 会 い は 必 要 と 考 え て い る が , 必ずしも同乗しなければいけないというわけではなく,緊急時に対応できる 場所に医師がいれば考慮されると考えている。 以上 14
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