D1-0715_h01

バガスピスを用いた抗菌性機能紙の開発に関する研究
平成 25 年 3 月
小田 涼太
目次
第一章 序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.1
機能紙の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.2
機能紙における天然繊維・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1.3
未利用資源・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
1.4
植物構造の機能紙への活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
1.5
抗菌性物質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
1.6
研究目的および本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
第二章 機能性粒子複合ピス作製の最適化
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2.2
笹の葉を用いた機能性粒子複合バガスピス ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2.2.1
2.2.1.1
バガスピス
2.2.1.2
笹粒子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
2.2.2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
2.2.2.1
付着方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
2.2.2.2
脱泡処理法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
2.2.2.3
吸液法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
2.2.2.4
カチオン化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
2.2.2.5
SEM 観察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
2.2.2.6
表面電荷測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
2.2.2.7
笹粒子付着率
2.2.3
2.3
使用材料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
実験結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
2.2.3.1
濃度の影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
2.2.3.2
撹拌時間の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
2.2.3.3
ピス長さの影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
2.2.3.4
粒子径の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
2.2.3.5
水量の影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
2.2.3.6
ピスのカチオン化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
付着基材の孔径が付着率に及ぼす影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
2.3.1
実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
2.3.1.1
ケナフコア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
2.3.1.2
ホタテ貝殻焼成粒子付着実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
2.3.1.3
水銀圧入法による細孔径分布測定・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
i
2.3.2
2.4
実験結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
第三章 ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の作製 ・・・・・・・・・ 40
3.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
3.2
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスの作製方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
3.2.1
3.2.1.1
抄紙用バガスピスの作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
3.2.1.2
ホタテ貝殻焼成粒子付着ピスの作製 ・・・・・・・・・・・・・・・ 42
3.2.2
3.3
実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
実験結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の作製 ・・・・・・・・・・・ 45
3.3.1
実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
3.3.1.1
機能紙作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
3.3.1.2
紙中ホタテ貝殻焼成粒子量測定
3.3.2
実験結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
3.3.2.1
3.4
・・・・・・・・・・・・・・・ 47
実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
3.4.1.1
3.4.2
電子顕微鏡観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
実験結果および考察
3.4.2.1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
紙中におけるホタテ貝殻焼成粒子の分布状態 ・・・・・・・・・・ 51
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の引張強度 ・・・・・・・・・ 54
3.5.1
実験方法
3.5.1.1
3.5.2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・.
・・・・・・・・・・・ 54
引張試験
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
実験結果および考察
3.5.2.1
3.6
紙中のホタテ貝殻焼成粒子付着量
紙中のホタテ貝殻焼成粒子複合ピスの分布 ・・・・・・・・・・・・・・・ 50
3.4.1
3.5
・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
引張強度
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
第四章 ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた機能紙の抗菌性 ・・・・・・・・・・・ 65
4.1
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
4.2
湿潤紙力剤の添加による強度保持と抗菌性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
4.2.1
実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
4.2.1.1
機能紙作成時の湿潤紙力剤の添加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
4.2.1.2
大腸菌を用いた湿潤紙力剤の抗菌性試験 ・・・・・・・・・・・・・・・ 65
4.2.2
実験結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
ii
4.3
大腸菌に対する機能紙の抗菌性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
4.3.1
4.3.1.1
抗菌紙の作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
4.3.1.2
大腸菌を用いた抗菌性試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
4.3.2
4.4
実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
実験結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを使用した機能紙の抗菌性における優位性・・・・・73
4.4.1 実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
4.4.1.1 MRSA の最小発育阻止濃度の測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
4.4.1.2 ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の作製・・・・・・・・・・ 74
4.4.1.3
電子顕微鏡観察・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75
4.4.1.4
EPMA カラーマッピング・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
4.4.1.5
孔径測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
4.4.1.6
MRSA に対する抗菌性試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77
4.4.1.7
抗菌性試験結果に対する有意差検定・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
4.4.2 実験結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
4.4.2.1 MRSA の最小発育阻止濃度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
4.4.2.2 抗菌紙中のホタテ貝殻焼成粒子濃度
4.4.2.3
・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
抗菌紙中のホタテ貝殻焼成粒子分散状態・・・・・・・・・・・・・・・ 81
4.4.2.4 抄紙条件が MRSA に対する抗菌性に及ぼす影響
4.5
・・・・・・・・・・ 84
結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91
第五章 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94
研究実績
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99
本研究に関連した発表論文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99
国際会議発表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99
国内学会発表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100
謝辞
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101
iii
第一章 序論
1.1 機能紙の歴史
機能紙は,
「従来の“紙”に加えて新たに機能を付与した紙」と定義づけら
れる[1-2].ここで“紙”とは,植物の天然セルロース繊維を水に分散させて,
濾過によってウェブを造り,それを乾燥によって繊維間結合を形成させた繊
維シートのことである[1-2].また“紙”の従来の機能は,4W で表現され「Wrap
(包む)」,「Write(書く)」,「Wipe(拭 く )」,「Wear(着る)」 とされるが,
加工方法や天然セルロース繊維と有機繊維,無機繊維,金属繊維あるいは粒
子との混抄によって,これら以外の機能を付与された紙が機能紙と位置づけ
られる[1-6].
さらには,化学合成繊維だけから成る,あるいは化学合成繊維を含む化繊
紙[1-6]がある.これは,レーヨン紙,ビニロン紙,PET 紙およびオレフィン
紙などが相当する.これらは紙を構成する繊維自身の特徴が紙自体に反映さ
れ,新たな機能,性能を紙に付与しており,代表的な機能紙である.これら
の紙はいずれも 4W で表現される機能は持ち合わせているため,材料構成に
関わらず,4W 以外の機能を持つ紙が「機能紙」として定義される.
機能紙,とくに化繊紙における重要なターニングポイントは 1950 年台に
1
遡り,京都大学の岡村誠三研究室で稲垣らによって開発されたポリビニルア
ルコール(PVA)バインダーの出現である[1, 2, 7].PVA バインダーは PVA
の湿熱溶融する特徴を活かし,本来繊維同士が結合しないビニロンやナイロ
ンなどの合成繊維を結合させることができ,紙状にすることが可能となった.
それまでにも PVA の紙力増強剤としての利用はあったが,PVA 繊維をバイ
ンダーとすることで,主体繊維の特徴を発揮した,強度の高い紙が作製でき
るようになった.また PVA は親水性であるため,疎水性の高い PET やオレ
フィン系繊維に対しては,強度の低い紙しかできないが,この PVA バインダ
ーをベースに,それぞれの主体繊維にマッチするバインダー用の芯鞘繊維な
どが開発され,各種合成繊維から構成される機能紙が作製できるようになっ
た.
1.2 機能紙における天然繊維
前節で述べたように,天然繊維も機能紙の原料として使用されており,紙
幣も 1 つの機能紙として捉えることができる.これには和紙の原料で天然繊
維である三椏や楮が使用されている.化繊紙では,開発当初には針葉樹ある
いは広葉樹のクラフトパルプとレーヨンとの混抄が代表的であった[1-2].ま
2
た樹脂加工を行って機能紙にする場合も針葉樹あるいは広葉樹のクラフトパ
ルプが使用される場合が多かった.最近でも,コスト削減のために,性能を
保持できる極限まで合成繊維の使用を減らし,針葉樹あるいは広葉樹のクラ
フトパルプを使用することも少なくない.
現在,機能紙で使用される天然繊維の多くが針葉樹あるいは広葉樹のクラ
フトパルプであるが,より強度が必要な用途では楮パルプなどが使用される
場合もある.しかし,楮パルプは,針葉樹あるいは広葉樹のクラフトパルプ
より繊維長が長く,強度向上を図ることができるが,植物繊維パルプはいず
れも主にセルロースで構成されているため,例えばアラミド繊維を使用した
耐熱性機能紙やビニロン繊維を使用した耐アルカリ性機能紙のように,化学
構造由来の機能を紙に付与させることは困難な状況にある.
1.3 未利用資源
一般的な紙の業界においては,古紙回収というリサイクルシステムが確立
しており,70%以上の古紙が回収され,有効利用されている[8-9].しかしな
がら,古紙回収のような廃棄物の再利用システムが確立されているのは,種々
の廃棄物の中でごく一部の事例であり,可食でありながら廃棄されている大
量の食料[10-11]や種々の製造業の工程上で発生した廃棄されている残渣な
3
ど工夫次第で有効活用の可能性を秘めている未利用資源が世の中には大量に
存在する.未利用資源は例えば食品系においては飼料や堆肥として,木質系
においては燃料として一部利用されているが,より利用価値の高い活用方法
の探索,またその利用率向上が望まれている.
本研究では,後述の抗菌性機能紙の開発において 3 種類の未利用資源を使
用している.すなわち,1 つ目はサトウキビバガスパルプ(以下,バガスパ
ルプ)である.サトウキビバガスは製糖工場で砂糖を搾った後に発生する農
業副産物であり,年間約 12 億トン生産されるサトウキビの約 25%,乾燥重
量で 10%程度,つまり年間約 1 億トンが発生している[12-13].これをパル
プ化したものがバガスパルプである.2 つ目は,サトウキビバガスの中のバ
ガスピス[14]である.バガスが砂糖を得た後の未利用資源であるのに対し,
バガスピスはバガスパルプを得るときに繊維長が短く,濾水を悪化させるた
め使用されていない未利用資源である.これまでバガスピスの一部は燃料と
して利用されているが,その構造は多孔質を有しており,多孔質材料として
の活用が期待される.3 つ目は焼成したホタテ貝殻の粒子である.我が国で
は,東北地方および北海道において,年間 50 万トン以上のホタテが産出さ
れ,20 万トン以上の貝殻が廃棄,埋め立てられている[15-16].このホタテ
貝殻を焼成し粒子状にしたもの(以下,ホタテ貝殻焼成粒子)は,水酸化カ
ルシウムであり,抗菌性などを有していることが知られている.
4
1.4 植物構造の機能紙への活用
シダ植物や種子植物は維管束,つまり養分や水分の導管を有しており,こ
れらの維管束が多孔質構造である.また,イネ科のサトウキビやアオイ科の
ケナフでは,それらの中心部が多孔質構造となっている.
紙に機能性を付与する目的で粒子を混抄する場合,その粒子が小さければ
小さいほど,紙に歩留まることが難しく,例えばシガレットペーパーのよう
に 30%程度が炭酸カルシウムで構成される,粒子(填料)を多く含む紙を作
製する場合,カチオンポリマーなどの歩留まり向上剤[17-20]を添加しないと
高歩留まりを達成できない.しかしながら多孔質部に粒子を付着あるいは充
填させることで粒子の紙への歩留まりを向上させることが期待できる.
様々な分野で人工的にハニカム構造[21]や多孔質体[22]を作製することも
なされているが,植物が元来有している非常に緻密な多孔質構造材料を利用
することができれば,未利用資源の有効活用に大いに寄与するものと期待さ
れる.
1.5 抗菌性物質
木材の腐朽防止や食品の腐敗防止など安全,安心な期間を延長させるだけ
でなく,清潔感や衛生的な環境へのニーズが高まった結果,この 20~30 年間
5
で急速に普及し,現在では日常生活に抗菌加工が施された製品が非常に多く
ある[23].抗菌剤の種類[24]としては,大きく分けて有機系と無機系がある.
本論文では,脱石油資源を目指しており,材料に天然物を使用している.有
機系の中でも天然系としては,からしやワサビなどから抽出されるイソチア
ン酸アリル,カニやエビの殻から得られるキトサンなどがある.無機系抗菌
剤では銀や酸化チタンが,知名度が高く,利用頻度も多い抗菌剤であるが,
天然無機系抗菌剤としては,本論文で使用した貝殻焼成粉末や天然鉱石など
が挙げられる.そのため抗菌剤としては,種々の天然系抗菌剤の選択が考え
られるが有機天然系抗菌剤の場合,抽出あるいは分離ならびに精製等が必要
であり,他の抗菌剤と比較して高価であることが多い.一方で,本論文で使
用したホタテ貝殻焼成粒子は,チョークやグラウンドの白線用にも用いられ
ており,コスト的に安価にできる可能性を持っている.また既述の通り,ホ
タテ貝殻焼成粒子は未利用資源であるホタテの貝殻から生産される材料であ
り,原料が豊富に存在している.さらには有機天然系抗菌剤では,温度によ
り抗菌性が低下する場合もあるが,ホタテ貝殻焼成粒子は熱に対して安定で
ある.
1.6 研究目的および本論文の構成
機能紙は,様々な産業分野で開発がなされているが,機能発現のために,
6
合成繊維や化学薬品,樹脂など石油資源に依存した原料で構成されている場
合が多い.しかし,石油資源は有限であり,今後長期間に亘って,安定的に
供給されるものではない.一方で,天然繊維を含むセルロースは,地球上で
もっとも豊富な資源とされており,これを用いて機能紙を作製することは,
QOL(Quality of Life)を維持しながら,脱石油資源を目指すために必要で
あると考えられる.本論文では,これまでに十分に活用されていなかったあ
るいは廃棄されていた天然資源材料を用いて環境負荷低減型の新規な機能紙
を開発することを目的とする.すなわち,紙に機能性を付与する粒子を多孔
質部分に付着させる条件の検討,機能性粒子を付着した多孔質体を混抄した
機能紙の作製,さらには作製した機能紙の機能性の評価を行っている.
本論文は全 5 章より構成されている.
第一章では,本研究の背景および目的を述べるほか,本論文の構成を示す.
第二章では,バガスピスに機能性粒子を付着させる際の最適化について検
討している.機能性粒子として,笹の葉を粉砕した笹粒子を使用し,その粒
子サイズを篩い分け,バガスピスの多孔質部の孔に,より多く流入でき,し
かも離脱しにくい粒子サイズについて検討する.また物理的に付着させる場
合の処理時間や濃度との関係についても検討する.さらには物理的だけでは
なく,化学的に笹粒子を付着させた場合の付着量についても検討する.最後
に,バガスピスとは孔径の異なる多孔質を有するケナフコアに対しても,機
7
能性粒子としてホタテ貝殻焼成粒子を物理的に付着させ,バガスピスとの比
較を行い,多孔質部の孔径と粒子径の関係について検討する.
第三章では,バガスピスにホタテ貝殻焼成粒子を付着させたホタテ貝殻焼
成粒子複合ピスを用いて抗菌紙を作製する.ピスおよびパルプを単純に混抄,
あるいはピスを用いずホタテ貝殻焼成粒子のみを混抄した場合と比較して,
ホタテ貝殻焼成粒子の歩留まりについて検討する.また抗菌紙の紙中のホタ
テ貝殻焼成粒子複合ピスやホタテ貝殻焼成粒子の分散状態について明確にす
るとともにそれらと引張強度の関係について検討する.
第 4 章では,ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙のグラム陰性
の大腸菌およびグラム陽性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対
する抗菌性について評価する.また,MRSA を対象に,種々の抄紙条件によ
って変化させたホタテ貝殻焼成粒子の分散状態が得られた機能紙の抗菌性に
及ぼす影響について検討する.
第 5 章では,各章で得られた結果を総括する.
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らナノハニカム構造まで,(2002)
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調査研究報告書 : 平成 15 年度生活文化産業対策調査生活価値創造
等基盤整備対策
24.
(2004)
東レリサーチセンター,抗菌・防かび技術
応用展開の全容-(2004)
10
-抗菌・防かび剤とその
第二章
2.1
機能性粒子複合ピス作製の最適化
緒言
第一章で述べたように,非木材繊維の代表例であるサトウキビバガスは製
糖工場でサトウキビの搾り汁を濃縮するための燃料として利用される[1-2]
ばかりでなく,製紙の原料として使われている[3-6].しかし,バガスの内茎
部であるピスは長さ 400μm 以下の非常に小さい柔細胞でできており,抄紙
時にピスによる濾水度の低下が起こるために,一般の製紙には脱ピス[7]を行
い,外茎部のみがパルプとして利用されている.したがって,このバガスピ
スをより付加価値のある機能紙の原材料として有効利用できれば,廃棄物削
減と非木材紙の利用促進につながると考えられる.
一般的に細かい粒子は,繊維間の隙間から流出してしまい,紙の中に留め
ることが難しく,紙中の機能紙粒子量が不足し,機能を発現できない可能性
も考えられる.バガスピスは,多孔質状であるため,比表面積が大きく,機
能性粒子をより多く付着させることが期待できる.したがって,付着基材の
ピスを一種の歩留まり剤として使用し,そこに機能性粒子として抗菌性のあ
る粒子を付着させ,それを紙と混抄することによって,従来使用されている
合成系歩留まり剤[8-11]の使用を低減し,環境に優しい抗菌紙の作製が可能
11
であると思われる.
そこで,本章では,抗菌性を発現すると期待される機能性粒子として竹の
葉である笹の葉粉砕物(以下,笹粒子と称す)を主対象として,バガスピス
への付着最適条件について検討する.
ここで,付着とは,後述のカチオン化した場合を除き,化学的な作用はな
く,孔の中に粒子を封じ込めて,粒子が動きにくくした状態であり,物理的
な付着を意味する.
2.2
笹の葉を用いた機能性粒子複合バガスピス
2.2.1
2.2.1.1
使用材料
バガスピス
バガスピスは,どちらの方法においても最終的に得られるピスは同等であ
ったが,次の 2 つの方法にてピスを得た.1 つは,先端をテーパーにした内
径 13mm の塩ビパイプを用いてサトウキビ(沖縄産)からピス部分を打ち抜
き,外茎を取り除き,プレス機を用いて,50MPa の圧力で,15 分間圧搾し,
ショ糖を物理的に除去した.その後,元の形状に戻すために水に 5 時間以上
浸漬した後,105℃,1 時間かけて乾燥した.このピスをはさみで所定の大き
12
さ(5,10,15mm)の長さに切断し,残存しているショ糖を除去するために
湯中に浸漬後,105℃で 1 時間乾燥する工程を 3 回繰り返した.ただし,保
管時のカビの発生防止を目的として,3 回目の乾燥時は,完全に乾燥させる
ために,105℃にて, 4 時間乾燥させ,バガスピスを得た.
2 つ目は,まずピスをはさみで 5mm にカット後,ピスの体積の 5 倍以上
の湯中で 10 分程度煮沸、水洗を湯中の色が透明になるまで 5 回以上行い,
最後は乾燥機を用いて乾燥させた.ピスの外観を Fig. 2-1 に示す.また,走
査型電子顕微鏡(SEM:VE-9800,Keyence)を用いて観察したピスの孔径お
よび深さの分布を Fig. 2-2 に示す.ピスの孔の平均直径は 104 m,ピスの平
均深さは平均 250 m であった
Fig. 2-1 SEM photomicrograph of sugar cane bagasse pith
13
(A)
(B)
Fig. 2-2 Distribution of diameter (A) and depth (B) for pith.
14
2.2.1.2
笹粒子
バガスピスに付着させる機能性粒子は,笹の葉をロータースピードミル
(FRITSCH 社製,P-14)により粉砕することにより笹粒子を得た.さらに,
笹粒子はふるいにより 45μm 以下, 45-106μm, 106-147μm の 3 種類に
分級した.
2.2.2
2.2.2.1
実験方法
付着方法
20 ml の水が入ったフラスコ内で,温度 23℃,湿度 50RH%で保存したピス
0.2 g に分級後の笹粒子を粒子径毎に濃度を 10,20,50g / l およびピス長さ
を 5,10,15mm の条件において,撹拌時間を種々(0.5,1,3,7 時間)変
化させて付着実験を行った.その後,水洗により,容易に離脱する笹粒子を
除去してから,乾燥させた.最後に,温度 23℃,湿度 50RH%の条件下で調
湿後,重量測定を行い,付着量を算出した.
15
2.2.2.2
脱泡処理法
笹粒子をピスに付着させる前に,温度 23℃,湿度 50RH%で保存した長さ
10mm のピスを,油拡散ポンプを用いて 0.006Mpa 以下に減圧して,約 1 分
間,多孔質内の気泡の脱泡処理を行った.脱泡処理したピスに笹粒子を付着
させる際には,まず,ピスを笹粒子分散液に投入後,超音波処理を行いなが
ら 0.006Mpa 以下の条件で,約 3 分間減圧処理した後,空気の混入を防ぐた
め,減圧したデシケーター内で,所定 時 間(0.5, 1,3,7 時 間)撹拌した.
最後に,前項(2.2.2.1 付着方法)で述べた方法と同様に,容易に離脱する笹
粒子を除去するため,笹粒子付着後のピスを水洗した後乾燥させ,温度 23℃,
湿度 50RH%の条件下で調湿後,重量測定を行い,付着量を算出した.
2.2.2.3
吸液法
笹粒子は一定量の 0.2gにして,水量を変化させることで,笹粒子濃度を
変化させた.まず,ピス 0.2gの吸水量を測定し,その水量が 4ml であるこ
とを確認した.この結果から,ピスが笹粒子分散液を全て吸液し,一時的に
は全ての笹粒子がピス内に取り込まれる条件が水量 4ml 以下と判断した,ま
た 2.5ml より少ない水量では粒子流動性が悪くなるため,最低水量は 2.5ml
と設定し笹粒子をピスに付着させた.付着方法については,前項(2.2.2.2 脱
16
泡処理法)と同様であるが,水量を 2.5~20ml で種々変化させた.上述の通
り 4ml 以下の水量では,全ての笹粒子分散液が,ピス内に取り込まれ,攪拌
ができなくなる.したがって,攪拌が可能な水量においても,作製条件を揃
えるために攪拌は行わなかった.
さらに,水量を 3.0ml 一定にして,笹粒子の量を 0.1~0.5g に変化させた
条件についても付着実験を行った.
2.2.2.4
カチオン化
ピスおよび笹粒子はともにアニオンであることから,ピスをカチオン化す
ることで,より高い付着力が得られ,付着率を向上できるかを確認するため
にピスをカチオン化した.
カチオン化の方法[12, 13]は,ピス重量の 7 倍量の(3-chloro-2-hydroxypropylthyl-ammonium chloride)(シェルジャパン社)をカチオン化剤として
加え,最終的にカチオン化剤の水溶液濃度は 12% (W/W)とした.続けて,pH
調整のために 5wt% NaOH 水溶液を加え,pH を 11 付近とした.その後,溶
液温度 60℃において,15 時間反応させ,カチオン化を行った.このカチオ
ン化したピスに,前項(2.2.2.3
吸液法)と同様の方法で,水量を 3ml にし
て,笹粒子の付着実験を行った.
17
2.2.2.5
SEM 観察
走査型電子顕微鏡(SEM:VE-9800,Keyence) を用いて,ピスの表面お
よび断面への笹粒子の付着の状態を観察した.
2.2.2.6
表面電荷測定
ピスと機能性粒子の付着の際に重要な要因の一つとしてピスと機能性粒子
の間の電気的結合が挙げられる.そこでピス,笹粒子およびカチオン化ピス
の表面電荷を,測定する材料の表面電荷がアニオンの場合は Poly-DADMAC
(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)を用い,カチオンの場合は
PES-Na(ポリエチレンスルホン酸ナトリウム)を用いて粒子電荷計(particle
charge detector: PCD03,Mutek)により滴定を行い,測定した.
2.2.2.7
笹粒子付着率
笹粒子の付着量は,全て(2.2.2.1~2.2.2.4)の条件において,それぞれの
方法で笹粒子を付着させ,水洗後,温度 23℃,湿度 50RH%で調湿後のピス
の重量と,温度 23℃,湿度 50RH%で保存していたピスの初期重量の差から
18
求めた.また,笹粒子付着率は,以下の式で計算した.
笹粒子付着率(%)=(粒子付着量
2.2.3
2.2.3.1
/
笹粒子初期重量)×100・・・
(2-1)
実験結果および考察
濃度の影響
まず,脱泡処理なしで,笹粒子付着実験の水量を 20ml 一定にした場合の結
果について述べる.本条件において,笹粒子の分散液濃度がピスへの付着率
に及ぼす影響を Fig. 2-3 に示す.Fig. 2-3 より笹粒子分散液の濃度が増加す
るに伴い,笹粒子の付着率が増加していることがわかる.このことは,濃度
が高いほど,最初にピスがその多孔質部に笹粒子分散液を取り込む際の笹粒
子の量が,必然的に増加するためだと考えられる.本実験では,50g/L より
高濃度では,粘度上昇により撹拌が困難になるため,これ以上高い濃度での
評価はできなかったが,後述する水量を 4ml 以下にした条件の結果において,
より高濃度で笹粒子を付着させた場合は,付着量および付着率が大きく向上
することにより,ピス多孔質部に流入した笹粒子の量が,ピス付着率の向上
に大きく寄与するものと考えられる.
19
2.2.3.2
撹拌時間の影響
次に,撹拌時間がピスへの付着率に及ぼす影響を Fig. 2-4 に示す.Fig. 2-4
より,撹拌時間を長くするにつれてピスへの付着率が増加するが,撹拌時間
を 3 時間より長くしても増加が望めないことがわかる.これは,ピスのより
中心部まで笹粒子が到達するのには比較的長い撹拌時間を要し,攪拌時間 3
時間までは時間の経過とともに,付着率が増加した.一方,撹拌時間が 3 時
間以上の場合では笹粒子が既に到達可能な中心部まで到達しているために付
着率が一定になったと推察される.
2.2.3.3
ピス長さの影響
ピスの長さを 5,10,15mm に変化させたときの付着率について Fig. 2-5
に示す.Fig. 2-5 よりピスが長くなるほど笹粒子の付着率が減少しているこ
とがわかる.ここで,5mm の長さのピスを作製する際に,長さが短くなる
ことで,作業上,多孔質構造を壊す場合があったため,ピスの長さによる笹
粒子の付着率の影響を調べる場合以外は,10mm のピスを使用した.ピスの
長さ 5mm において,最も高い付着率を示したのは,攪拌時間 1 時間の条件
においてであり,これはその他の長さのピスを用いた場合よりも,笹粒子が
20
より中心部に到達しやすく,洗浄により脱落する粒子が減少するためである
と思われる.
Fig. 2-3 Relationship between concentration and adhesion ratio (Stirring time 1h, Pith size 10mm
water volume 20ml).
21
Fig. 2-4 Relationship between stirring time and adhesion ratio (Concentration 10g/L, Pith size
10mm, water volume 20ml)
Particle size :
Fig. 2-5 Relationship between pith length and adhesion ratio (Concentration 10g/L, Stirring time 1h,
water volume 20ml)
22
2.2.3.4
粒子径の影響
次に,粒子径の影響は,各条件において,粒子径が 45 m 以下において最
大付着率を示し,それより大きい粒子径(45-106 m および 106-147 m)
では付着率は比較的小さく,両者の差はほとんど見られなかった.このこと
は,Fig. 2-6 の SEM 写真から分かるように,粒子径 45 m 以下の笹粒子は,
ピス中心部に到達して,付着しているが,粒子径 45-106 m および 106147 m の比較的大きい粒子ではピス中心部に笹粒子の存在を確認すること
ができず,付着している笹粒子は,そのほとんどがピス表面に存在していた.
つまり,笹粒子径が 45 m より大きい場合,ピスの多孔質構造により得られ
る大きな比表面積を十分に利用することができず,低い付着率となる.
これらの結果より,脱泡処理なしで,笹粒子付着条件の水の量を 20ml 一
定にした場合,粒子径を 45 m 以下とし,笹粒子濃度を上げ,ピスの大きさ
を小さくし,そして攪拌時間を 3 時間以上行うことで,付着率を向上できる
ことが分かった.
しかし,脱泡処理なしでは,水量を 20ml 一定にした条件において,笹粒
子径,笹粒子濃度,ピスの大きさおよび攪拌時間を最適化した場合でも,笹
粒子の付着率は最大でも 7%程度であった.Fig. 2-6 の A, D に示す SEM 写
真から分かるように,45μm 以下の笹粒子を使用することでピスのより内部
まで笹粒子が到達しているが,笹粒子が存在していない孔も確認できる.し
23
たがってこれらの孔にも粒子を付着させる手段を見出せば,より多くの笹粒
子を付着できる可能性があることが分かる.
ここで,笹粒子が存在しない孔はピスの多孔質部分に空気が存在するこ
とにより,笹粒子の付着が阻害されているのではないかと考え,次に笹粒子
を付着させる前に,ピスに脱泡処理を行い付着実験を行った.Fig. 2-7 には,
笹粒子付着条件の水の量を 20ml 一定で,45μm 以下の笹粒子を使用し,脱
泡処理を行った場合の結果を示している.図より明らかなように,脱泡処理
を行うことで,脱泡処理をしない場合に比べ,高い付着率を示した.これは,
脱泡処理をしない場合には,一部の孔に空気が存在し,その空気により,笹
粒子の付着が阻害されていたが,脱泡することで,笹粒子が付着しやすくな
ったためと考えられる.このようにピスを脱泡処理することによって,付着
率は向上したものの,その付着率は約 20%であり,さらに付着率を上げるた
めに,次に粒子流動に必要な水量を減らすことで,笹粒子の濃度を上げた実
験を行った.
24
Fig. 2-6 SEM photomicrographs of bamboo particle attach to pith (A, B, C ; Surface, D, E, F ;
Center of pith, Concentration 10g/L, Stirring time 3h, pith length 10mm, water volume
20ml, particle size ; less than 45μm (A, D), Over45μm less than 106μm(B, E) and over
106μm less than 147μm (C, F)). Arrow is bamboo particles.
25
Fig. 2-7 Relationship between stirring time and adhesion ratio for the different degassing treatment
(Concentration 10g/L, pith length 10mm, water volume 20ml, particle size <45μm )
2.2.3.5
水量の影響
Fig. 2-8 は,脱泡処理を行い,笹粒子の量は一定にして,水量を変化させ
ることで,笹粒子濃度を変化させた場合の付着率の結果を示している.水量
が増加するに従い,付着率は減少した.とくに,水量が 4ml 以下の場合,投
入した笹粒子分散液を全てピスが取り込むのに対し,水量が 4ml より多い場
合は,取り込まれなかった分散液中に存在している笹粒子があるため,付着
率が減少したと考えられる.したがって,水量を減らすことで濃度を高くす
ることにより,付着量を向上させることが可能となった.
26
Adhesion ratio (%)
60
50
40
30
20
10
0
0
5
10
15
20
25
Water volume (ml)
Fig. 2-8 Relationship between water volume and adhesion ratio (pith quantity 0.2g, bamboo particle
quantity 0.2g, pith length 10mm, particle size <45μm, without stirring)
Adhesion ratio (%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
100
200
300
400
Weight of Bamboo particle (mg)
500
Fig. 2-9 Relationship between weight of bamboo particle and adhesion ratio in 3ml water (pith
quantity 0.2g, pith length 10mm, particle size <45μm, without stirring)
27
600
次に,水量を 3ml 一定の条件において,笹粒子の量を増加させた場合の付
着率を Fig. 2-9 に示す.また,Fig. 2-10 は,水量は 3ml,笹粒子量 200mg
の条件で笹粒子をピスに付着させた場合のピスの表面と中心部の SEM 写真
である.Fig. 2-9 より本実験の範囲内において付着率は 50%程度を示してお
り,笹粒子量の違いによる顕著な差は,確認されなかった.ほとんど同じ付
着率を示したのは,ピスの中心部付近に付着した笹粒子は除去されにくいが,
ピス入り口付近に付着した笹粒子は比較的容易に脱落しやすいためであると
考えられる.すなわち,Fig. 2-10 から明らかなように笹粒子量 200mg の条
件においても,ピス中心部の孔は笹粒子ですでに充填されており,それ以上
の笹粒子量の条件では,笹粒子分散液をピスの多孔質部に取り込んでいるが,
A
B
Fig. 2-10 SEM photomicrographs of bamboo particle attach to pith in (A) surface and (B) center of
pith (A, B ; particle weight 200mg, pith length 10mm, water volume 3ml, particle size
<45μm, without stirring).
28
増加させた笹粒子は比較的容易に脱落しやすい表面付近に存在しており,水
洗によって表面付近の笹粒子は脱落してしまうため,笹粒子量を変化さても
同程度の付着率を示したと考えられる.
2.2.3.6
ピスのカチオン化
上述のように,水量が 4ml 以下の場合,水洗前には一時的に全ての笹粒子
分散液が,ピス内部に存在することになるが,水洗することで,半分以上の
笹粒子が流出したと考えられる.ここでピスの表面電荷測定結果より,カチ
オン化前のピスの表面電荷は,-6.5 eq/g であり,カチオン化後には,
+204.9 eq/g であった.また,笹粒子の表面電荷は,-28.1 eq/g であった.
つまり,ピスおよび笹粒子はともに,アニオンであり,静電的な相互作用が
ないため付着した笹粒子が容易に脱落すると考えられる.そこで,次にピス
をカチオン化し,付着実験を行った.カチオン化ピスを用い,脱泡処理を行
い,水量を 3ml にした場合の付着率を Fig. 2-11 に示す.図より明らかなよ
うにカチオン化なしでは,洗浄前の初期付着量の 23%が洗浄によって脱落し
たのに対し,カチオン化をすることによって,14%の脱落に留まり,洗浄に
より脱落する笹粒子は,約半分となった.最終的に,水洗後の付着率は,カ
チオン化していない場合と比較して,1.7 倍向上し,71%の付着率を示し,
29
カチオン化によって付着率が大きく改善された.
ここで,Fig. 2-12 に笹粒子付着実験後のカチオン化処理したピスの SEM
写真を示す. SEM 写真から明らかなように,中心部の笹粒子の状態は,カ
チオン化の有無で,大きな差異がないことから,ピスの中心部付近に付着し
た笹粒子は脱落しにくく,水洗後に除去される笹粒子の多くは,ピス入り口
付近に存在する付着が不十分な笹粒子であり,これらの笹粒子が除去される
ことで,水洗後の付着率が決まると考えられる.
このように,より多くの笹粒子をピスの中心部付近に流入させ付着させ,
さらにはピス入り口付近に存在する粒子の脱落をカチオン化により低減させ
ることで,笹粒子の付着率を向上できることが分かった.また,このことか
らカチオン性の機能性粒子を使用することによって付着率の向上が期待でき
ることが示唆された.
30
90
Adhesion ratio (%)
80
70
Before washing
After washing
60
50
40
30
20
10
0
No Treatment
Cationized
Fig. 2-11 Changing of adhesion ratio after cationazation (pith quantity 0.2g, pith length 10mm,
bamboo particle quantity 0.2g, water volume 3ml, particle size <45μm, without stirring).
Fig. 2-12 SEM photomicrographs of bamboo particle attach to pith (A, B, C; Surface, D, E, F;
Center of pith, A,D ;Concentration 10g/L, Stirring time 3h, pith length 10mm, water
volume 20ml, particle size <45μm,
B, E ; particle weight 200mg, pith length 10mm,
water volume 3ml, particle size <45μm, without stirring C, F ; using cationized pith, the
condition was the same with B, E)
31
2.3
付着基材の孔径が付着率に及ぼす影響
2.3.1
2.3.1.1
実験方法
ケナフコア
孔径の異なる多孔質構造を持つ植物を用いた場合,付着率にどのような影
響を与えるか調べるために,ケナフ(高知産)茎部の中心部であるコアを機
能性粒子付着基材として用いた.
ケナフコアは次の方法で得た.まず,乾燥したケナフの茎部をコアが傷つ
かないようにカッターで切り目を入れ,手で割き,ケナフコアを露出させた.
ケナフコアを壊さないように手で取り出し,さらに手で長さ 5mm になるよ
うに割ることでケナフコアを得た. ケナフコアは Table 2-1 に示す通り,バガ
スピスよりも小さな多数の孔を元来有しており,特別な処理はしていない.
2.3.1.2
ホタテ貝殻焼成粒子付着実験
また,笹粒子のピスへの付着実験において,カチオン化により付着率が改
善されたが,化学処理をせずに付着率をさらに向上させるために,前述の笹
32
粒子の粒子径が小さいほど付着率が向上することに着目し,粒子径のさらに
小さく,抗菌性を有することが知られているホタテ貝殻焼成粒子(東京ナノ・
バイオテクノロジー社製)を機能性粒子としてケナフコアへの付着実験を行
った.
付着方法は笹粒子付着実験において付着率が最も高かった条件である,前
節 2.2.2.3 で述べた吸液法と同様にして行った.また,ケナフコアと同様に,
ピスへのホタテ貝殻焼成粒子付着実験も行った.
それぞれの付着基材に対するホタテ貝殻焼成粒子の付着量は,ホタテ貝殻
焼成粒子を付着,水洗後,温度 23℃,湿度 50RH%で調湿後のピスの重量と
温度 23℃,湿度 50RH%で保存していたピスの初期重量の差から求めた.ま
た,ホタテ貝殻焼成粒子付着率は,以下の式で計算した.
ホタテ付着率(%)=
(ホタテ付着量
2.3.1.3
/
ホタテ貝殻焼成粒子初期重量)×100・・・・・
(2-1)
水銀圧入法による細孔径分布測定
バガスピスおよびケナフコアの細孔径分布を細孔分布測定装置(オートポ
ア 9520 形:株式会社島津製作所)を用いて測定した.各試料を各々約 0.02
33
~0.06gを 5cc 大片用低感度セル(ステム容積 1.14cc)に採り,水銀パラメ
ータは,装置デフォルトの水銀接触角 130degrees,水銀表面張力 85dynes/cm
に設定し,初期圧約 3kPa の条件で測定した.
2.3.2
実験結果および考察
Fig. 2-13 は,ケナフコアおよびピスを用いて,脱泡処理を行いながら,ホ
タテ貝殻焼成粒子の量は一定とし,水量を変化させることで,ホタテ貝殻焼
成粒子濃度を変えた場合の付着率の結果である.図より明らかなように笹粒
子の場合と同様に,ケナフコアとピスのどちらの場合においても,水量が増
加(密度が減少)するにしたがい付着率は減少した.
ここで,ピスにおいては,ホタテ貝殻焼成粒子の付着率は,笹粒子に比べ
向上した.これは,レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA-920;株式会
社堀場製作所)によって測定した結果,ホタテ貝殻焼成粒子の粒子径中間値
Table 2-1 Pore distribution of bagasse pith and kenaf core.
Range of pore size (mm)
Median diameter (mm)
Porosity (%)
bagasse pith
0.02-500
9.6
94
kenaf core
0.3-50
4.8
95
34
が 6 m であり,笹粒子は 45 m 以下であったので,粒子径が笹粒子よりも小
さいことが一因と考えられる.さらに,ホタテ貝殻焼成粒子の表面電化が
1.1 eq/g であり,弱カチオン性であることより,既述の通り,弱アニオン同
士であるピスと笹粒子の組み合わせに比較してホタテ貝殻焼成粒子の場合は
静電相互作用が働き付着率が向上したものと考えられる.
一方,コアにおいては,ピスよりも低い付着率を示した.これは,Table 2-1
に示す通り,ピスよりもコアの孔径が小さいために,コア中心部への粒子の
付着が容易ではなかったためと推察される.
これらのことより,各植物が有する孔を活用する場合には孔径に応じて,
付着させる機能性粒子の粒子径の最適化が重要であると言える.
35
Fig. 2-13 Relationship between water volume and adhesion ratio of scallop particles with kenaf core
or bagasse pith (core or pith quantity 0.2g, scallop particle quantity 0.2g, core or pith
length 5mm)
2.4
結言
本章では非木材繊維を用いた機能紙開発の一手段として,植物が元来有す
る多孔質構造に着目し,孔内に機能性粒子を付着(接着)させることを考え,
多孔質構造を持つバガスピスを用い,機能性粒子を付着させる場合の最適化
について検討した.
36
得られた結果を以下に要約する.
1.
粒子の付着率を向上させるためにはピスのより内部にまで粒子を流入さ
せる必要がある.
2.
実験範囲内では,粒子径は小さいほど,粒子流動に必要な水量が小さい
ほど,ピスのより内部に存在する笹粒子を増加させることができ,付着
率が高くなる.
3.
脱泡処理によってピス内部の空気を脱気することによって,粒子がピス
内部まで流入しやすくなる.
4.
アニオン性のピス入口付近に存在する未処理の粒子は洗浄により容易に
脱落するが,ピスをカチオン化することによって大きな接着力が得られ,
付着率が向上する.
5.
アニオン性のピスに対しては,機能性粒子にカチオン性の材料を使用す
ることによって,付着率の向上が期待できる.
6.
付着基材として植物の多孔質を利用する場合,植物の種類によって,そ
37
の孔径が異なるため,付着率を最大にする粒子径は,植物の種類に依存
する.
参考文献
1.
守川 信夫, 日本草地学会九州支部会報,30,19-24(2000)
2.
寺内 方克,日本作物學會紀事,71,297-307(2002)
3.
H. Kruger, W. Beradt, U. Schwartzkopff, F. J. Reitter, T. Hopner,
H. J. Muhlig, United States Patent, US4260452
4.
A. J. Shaikh, Biological Wastes, 31, 37-43 (1990)
5.
K. Nakazawa, K. Katayama, T. Katsura, H. Sakamura and I. Yasui,
Japan TAPPI Journal, 55, 838-852(2001)
6.
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Y. Kobayashi, Japan TAPPI Journal, 35, 471-479(1981)
8.
Y. Sunada, Japan TAPPI Journal, 54, 762-768(2000)
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10.
K. Inaoka, Japan TAPPI Journal, 62, 156-160(2008)
11.
S. Iida, T. Shimoyoshi, T. Sekiguchi and T. Oguni, Japan TAPPI
Journal, 64, 810-814(2010)
38
12.
Deggusa, QUAB (Instruction manual)
13.
Richard D. Harvey, E. Daniel Hubbard and Robert A. Meintrup,
Canada Patent, CA1117259 A1 (1979)
39
第三章
3.1
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の作製
緒言
前章では,使用した機能性粒子として笹の葉粒子を中心に実験を行い,バ
ガスピスへの付着条件の最適化を行ったが,その結論の一つとして粒子径が
より小さい方が好ましいという分かったため,本章以降では,より粒子径の
より小さいホタテ貝殻焼成粒子を機能性粒子として使用する.また,ホタテ
貝殻焼成粒子は,年間 20 万トン以上廃棄されているとされるホタテの貝殻
から生産されており,未利用資源を活用した材料である.さらに,ホタテ貝
殻焼成粒子の主成分は水酸化カルシウムであり,多くの最近に対して,抗菌
性を示すことが知られている[1-3].これらのことより,ホタテ貝殻焼成粒子
はバガスピスに付着させる抗菌性機能性粒子として活用できることが期待で
きる.
次に粒子を含む紙の作製方法については,植物繊維パルプから成る紙に機
能を付与する方法として,従来より機能性粒子を混抄させる方法が検討され
ている[4-6].しかし,パルプと粒子を混抄し、機能性粒子を紙中に付着させ
る手法は,一般的に歩留まり剤[7-9]を使用しないと粒子の歩留まり率が低く,
また機能性粒子を紙中に多く付着できた場合でも,粒子がパルプ同士の水素
40
結合を阻害し,紙の強度を低下させてしまう問題がある[10].
そこで、本章では,ホタテ貝殻焼成粒子複合化ピスとバガスパルプを混抄
することにより,機能性粒子の歩留まり率の向上と紙の強度低下の抑制を目
指した機能紙を試作し,歩留まり率と紙の引張強度について検討する.
本章で使用した材料は,既述のホタテ貝殻焼成粒子,サトウキビの製糖後
の残渣であるバガスのパルプおよびピスであり,全て天然物かつ未利用資源
を活用したものである.すなわち,作製された抗菌紙は,石油資源に依存せ
ず,環境負荷低減型の機能紙と位置づけることができる.
3.2
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスの作製方法
3.2.1
3.2.1.1
実験方法
抄紙用バガスピスの作製
抄紙用のピスは 2.2.1 と同様に以下の手順で作製した.すなわち,先端を
テーパーにした内径 13mm の塩ビパイプを用いてサトウキビ(沖縄産)から
ピス部分を打ち抜き,プレス機を用いて,50MPa の圧力で,15 分間圧搾し,
ショ糖を物理的に除去した.その後,元の形状に戻すために水に 5 時間以上
41
浸漬した後,105℃,1 時間かけて乾燥した.このピスをはさみで 5mm の長
さに切断し,残存しているショ糖を除去するために湯中に浸漬後,105℃で 1
時間乾燥する工程を 3 回繰り返した. 3 回目の乾燥時は,完全に乾燥させる
ために,105℃にて, 4 時間乾燥させ,抄紙用バガスピスを得た.
3.2.1.2
ホタテ貝殻焼成粒子付着ピスの作製
機能性粒子としては,Fig. 3-1 に示す抗菌性を発現するホタテ貝殻焼成粒
子(水酸化カルシウム)
(東京ナノ・バイオテクノロジー社製)を用いた.前
章において得られた,ピスに機能性粒子を物理的に付着させるための最適条
件に基づき 3.2.1.1 において述べた方法で得られたピスとホタテ貝殻焼成粒
子ならびに水を 1:2:15 の重量割合で混合し,デシケーター内に入れ,油
拡散ポンプを用いて 6kPa 以下に減圧し,5 分間脱泡処理を行いながらホタ
テ貝殻焼成粒子をピスの多孔質部分に付着させた.その後,ホタテ貝殻焼成
粒子が付着したピスを,ロータースピードミル(P-14,FRITSCH 社製)を
用いて,1mm の梯子型穴を持つふるいリングを使用し,回転数 6000rpm に
て,粉砕処理を行い,抄紙時に添加するホタテ貝殻焼成粒子複合化ピス(以
下,SP)を得た.
42
Fig. 3-1 SEM photomicrograph of burned scallop particles.
3.2.2
実験結果および考察
前章の Fig.2-1~Fig.2-3 より明らかなように 100 m 以上のサイズの孔を多数
有しており,その気孔率は水銀圧入法による細孔分布測定(オートポア 9520:
株式会社島津製作所)の結果 94%であった. また,ホタテ貝殻焼成粒子は,レ
ーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA-920;株式会社堀場製作所)によって
測定した結果,粒子径中間値が 6 m であり,比較的容易にバガス多孔質内部に
ピスを物理的に付着させることができる.
作製した SP の水洗後の平均粒子付着率は 63%であった.前章の笹の葉粒子に
おける,水洗後の最大付着率が約 50%であったことから,粒子径が小さいホタ
43
テ貝殻焼成粒子がより高い付着率を示したと考えられる.
得られた SP の外観を Fig. 3-2 (A),(B)に示す.(A)はホタテ貝殻焼成粒子を
ピスに付着後の粉砕前の写真であり,(B)は粉砕処理後のホタテ貝殻焼成粒子複
合化ピスの表面観察結果である.Fig. 3-2 (B) より粉砕後においても,ホタテ貝
殻焼成粒子はピスに付着していることが観察された.
Fig. 3-2 SEM photomicrographs of composite pith with scallop particle before (A) and after
(B) grinding.
44
3.3
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の作製
3.3.1
3.3.1.1
実験方法
機能紙作製
紙の原料となるバガスパルプ(Environmental Pulp and Paper Company
Limited(タイ)製)(以下,パルプと称す)は,10L ナイアガラビーターを
用いて,濃度1%,荷重 1.0kg にて,2.5 時間叩解することによって得られ
たカナダ標準濾水度 97ml のものを使用した.坪量は,28,54 および 78g /m2
(パルプ質量として,それぞれ 1.4,2.7 および 3.9g)と変化させ,各坪量の
パルプに,SP(case1),あるいは水中で脱気した SP(case2) を混合した.
case2 の脱気処理を行った理由は,脱気をしない case1 では抄紙時に多くの
SP が後述の抄紙機タンク内の水面に浮き,紙中に分散しないため,SP 内部
に残存している空気を水と置換することによって,抄紙時に紙中まで SP を
均一に分散させるためである.また,ホタテ貝殻焼成粒子をピスに付着させ
ず,ホタテ貝殻焼 成 粒子,ピスおよび パ ルプを単純混合 し た 場 合 ( case3),
ピスを用いずホタテ貝殻焼成粒子のみを混合した場合(case4)およびホタ
テ貝殻焼成粒子を複合化せず,ピスのみを混合した場合(case5)の紙も作
45
製した.
添加物(ピス,ホタテ貝殻焼成粒子あるいは SP)量は,各ケースにおい
て 0.9,1.8 および 2.7g と変化させ,市販のミキサーを用いて所定量のパル
プと攪拌混合したものを,角型手すき用抄紙機(東洋精機製)を用いて JISP-8222(パルプ―試験用手すき紙の調製方法)を参考に抄紙した.すなわち機
能紙の原料を全て水で満たされた抄紙機のタンク中に投入した後,多孔板か
き混ぜ機を用いて撹拌し,撹拌直後にタンク下方から水抜きを行い,タンク
下部に設置したワイヤーメッシュ(目開きサイズ 200 m)上に原料混合物を
積層させ、20cm×25cm の大きさの紙を得た.乾燥は,120℃にセットしたド
ラム型ドライヤーを用いた.
3.3.1.2
紙中ホタテ貝殻焼成粒子量測定
得られた紙に含まれるホタテ貝殻焼成粒子の含有量を明確にするために,
電気炉を用いてホタテ貝殻焼成粒子以外の成分を 850℃,2 時間の条件で灰
化した.なお,本条件では,ホタテ貝殻焼成粒子は一部分解され,減量する
ことが確認されたため,本条件下においてホタテ貝殻焼成粒子のみを処理し
た時の結果に基づき,各試料のホタテ貝殻焼成粒子量は灰化後残渣の重量を
1.34 倍して算出した.
46
また,付着率は,以下の計算式によって算出した.
灰化法により求めたホタテ貝殻焼成粒子量
3.3.2
3.3.2.1
/(SP 初期量×2/3)×100
実験結果および考察
紙中のホタテ貝殻焼成粒子付着量
Fig. 3-3 は,パルプの坪量が 54g / m 2 の紙における紙 1g に対するホタテ
貝殻焼成粒子付着量を各 case について示している.ここで,case1~case2
において,図の横軸に示した初期添加量は,ホタテ貝殻焼成粒子相当の重量
から算出してプロットしている.すなわち,容易に離脱する表面に付着した
ホタテ貝殻焼成粒子を水洗せずに使用しており,SP 作製時のピスとホタテ
貝殻焼成粒子の重量比率が 1:2 であることから,例えば 0.9gの SP を添加
した際の値は,ホタテ貝殻焼成粒子重量に相当する 0.6gとして算出に用い
た.
図より坪量が同じ場合,最も多くホタテ貝殻焼成粒子を付着できるのは,
case1 であることがわかる.2 番目に付着量が多いのは, case2 であった.
ここで,case1 と case2 において,わずかながら付着量に差が生じる理由は
次の様に考えられ る .SP を脱気 しない場 合,SP は 空 気 を 含 ん で い る た め ,
47
抄紙時に抄紙機タンク内の水面上に浮いた状態になり,タンク下部のワイヤ
ーメッシュ部にパルプよりも遅れて沈降するが,脱気をした場合(case2)
では,抄紙機タンク内での SP の分散が良好となり,パルプと SP は同時に
沈降し,同じタイミングでワイヤーメッシュ部に到達し紙層を形成する.今
回用いたバガスパルプのみでの脱水速度(脱水を始めてからがタンクの水が
なくなるまでの時間)は,坪量が 28,54 および 78g /m 2 の時に,それぞれ
18,134,532 秒であり,一般的に積層したパルプ(および混合物)マット
が密になり,脱水速度が極端に遅くなった時に,タンク上部に懸濁している
繊維や粒子に沈降速度の差がある場合,沈降の遅いものが表面に集中しやす
くなり,またその粒子などの歩留まりも向上する.脱水時間が長いため case2
においても,SP および抄紙時の撹拌等により離脱した一部のホタテ貝殻焼
成粒子を紙中に留めることができると考えられるが,case2 よりも SP の沈
降タイミングが遅い case1 の方がわずかに高い付着量を示したと考えられる.
一方,case3 や case4 では,SP を用いた case1,case2 と比較して半分以
下のホタテ貝殻焼成粒子付着量を示した.これは,粒子径中間値 6 m のホタ
テ貝殻焼成粒子が,パルプ間の空隙よりも小さいため,その多くが濾水中に
流出してしまったためと考えられる.
次に単位重量当たりのホタテ貝殻焼成粒子量を case1 について,坪量ごと
に Fig. 3-4 に示す.パルプの坪量が増加すると,紙中に歩留めることができ
48
るホタテ貝殻焼成粒子量が増加したが,紙の単位重量当たりのホタテ貝殻焼
成粒子量は坪量が大きい方がわずかに多い傾向なもののおおよそ同等であっ
た.上述の通り,今回の条件では,脱水時間が長く,坪量増加に伴い歩留ま
りも向上するのが一般的と考えられるが,case1 では SP がタンク水面に浮
遊しており,また坪量 28g /m 2 のパルプ量で SP を十分に歩留める状態であ
るために,パルプの坪量に関係なく,紙の単位重量当たりのホタテ貝殻焼成
粒子量はおおよそ同等になったと考えられる.
Fig. 3-3 Quantity of scallop particles in paper in each case (basis weight of bagasse pulp :
54g / m2).
49
Fig. 3-4 Quantity of scallop particles in paper for each basis weight of bagasse pulp (case1).
3.4
紙中のホタテ貝殻焼成粒子複合ピスの分布
3.4.1
3.4.1.1
実験方法
電子顕微鏡観察
50
それぞれの case で作製した紙の SP の分布状態を調べるために,走査型電
子顕微鏡(SEM)(VE-9800:株式会社 KEYENCE)を用いて紙の表裏面と
断面を観察した.表面とは抄紙時における原料混合物が積層上面であり,裏
面とは抄紙機のタンク下部に設置したワイヤーメッシュに接している側を意
味する.断面観察には,垂直スライサー(HS-1 型;ジャスコエンジニアリ
ング株式会社)を用いて切断した試料を用いた.
3.4.2
3.4.2.1
実験結果および考察
紙中におけるホタテ貝殻焼成粒子の分布状態
抄紙前のピスの脱気の有無により,抄紙時にピスがタンク下方に設置した
ワイヤーメッシュに到達する状況が異なることは先述の通りであるが,その
結果,紙中のホタテ貝殻焼成粒子付着量が変わるだけでなく,紙中での SP
の分布状態が異なり,それとともにホタテ貝殻焼成粒子の分散状態も異なる
ことになる.そこで SEM を用いて,各 case の紙の表面,裏面(ワイヤーメ
ッシュ接触側)お よ び断面の観察を行 っ た.結果を Fig. 3-5 に 示 す . な お ,
断面の SEM 写真は,上側が表面であり,下側が裏面の状態で撮影した.
case1 においては,表面には矢印で示すように露出した SP が確認できる
51
が,裏面では SP は確認されなかった.断面観察においても図中に矢印で示
すように,SP がパルプ層上面に付着している様子が見てとれる.case2 では,
裏面側でも SP の存在が確認でき,さらには断面観察から SP が紙内部にも
存在していることが確認できる.既述の通り,case1 では,空気を含んでい
る SP は抄紙時に水面に浮遊するため,紙層形成時の最後に沈降してくるこ
とによって,表面に近い部分に SP が多く存在し,一部の SP は表面から露
出したものと考えられる.case2 では,抄紙前に水中で脱気処理を行い,ピ
ス内の空気を水と置換したことによって,均一分散状態を保ちながら紙層を
形成するため,紙内部に比較的均一に SP が存在し,紙の表裏にも SP が確
認されたと考えられる.また,case1,case2 ともに,表面および裏面には破
線矢印で示すように SP から離脱したホタテ貝殻焼成粒子が確認できた.
case3 では,ホタテ貝殻焼成粒子とピスを複合せずに混抄したが,パルプ
とピスは均一分散状態を保ちながら紙層を形成するため,紙内部にピスの存
在が確認でき,一方ホタテ貝殻焼成粒子は紙の表裏に存在が確認された.た
だし,表裏面に確認できたホタテ貝殻焼成粒子量は case2 と比較して少なか
った.
ホタテ貝殻焼成粒子のみをパルプと混抄した case4 においては,表面およ
び裏面にホタテ貝殻焼成粒子が確認され,さらに断面観察により,パルプの
層間にもホタテ貝殻焼成粒子の存在が確認できた.
52
粉砕したピスのみをパルプと混抄した case5 では,ピスとパルプが均一に
分散している様子が確認できる.
Fig. 3-5 SEM photomicrographs of distribution of scallop particle in paper for each case
(Bagasse pith or composite pith : enclosed in circle with arrow, Scallop
particles :dashed arrow).
53
3.5
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の引張強度
3.5.1
3.5.1.1
実験方法
引張試験
得られた紙の機械的特性を評価するために,温度 23℃,湿度 50RH%の条件
下で,4 時間以上調湿後の各紙に対して引張試験を行った.試験機には小型卓上
試験機(STROGRAPH E-S,株式会社東洋精機製作所)を用いた.試験片は,幅
15mm の短冊状として,つかみ具間隔 100mm,試験速度 10mm / min の条件で,
破断に至るまでの最大荷重を測定した.
3.5.2
3.5.2.1
実験結果および考察
引張強度
各 case において,パルプの坪量を 54g / m 2 として,各添加物(ピス,ホタテ
貝殻焼成粒子あるいは SP)を 2.7g混抄した紙の引張強度を Fig. 3-6 に示す.
添加物の種類に関わらず,添加物を混抄することで,引張強度はパルプのみに
54
比べて低下した.強度低下が最も小さかったのは,脱気しない SP を用いた case1
であり,最も強度が低下したのは,ピスのみを混抄した case5 であった.図中
には混抄率も示したが,case1~case3 においては同等の混抄率であり,それら
の中で case1 は最も強度低下が抑制されていることがわかる.一方で,最も強
度が低下した case5 は混抄率が最も高く,2 番目に強度低下しなかったホタテ貝
殻焼成粒子のみを混抄した case4 では,混抄率が最も低くわずか 3%であった.
このような混抄率と引張強度の関係を吟味するために,パルプの坪量が 54g / m 2
の場合を例に,混抄率と引張強度の関係を各 case について Fig. 3-7 に示す.縦
軸は,パルプのみの強度を 100%としたときの,各紙の強度比を示す.横軸は紙
のパルプ以外(ホタテ貝殻焼成粒子および SP(ピス))の混抄率である.図よ
り明らかなように最も強度低下が緩やかであったのが,case1 であり,次に case2,
case5 が同程度の低下を示し,case3 の単純混合がさらに強度低下する傾向を示
し,ホタテ貝殻焼成粒子のみを混抄した case4 では,それ以外と比べて著しい
強度低下を示した.すなわち,case4 のホタテ貝殻焼成粒子のみを混抄した場合
では,パルプ間に存在するホタテ貝殻焼成粒子がパルプ同士の水素結合を阻害し,
そのために大きな強度低下をもたらしたと考えられる.
case5 のピスのみを混抄した場合は,強度低下は生じているが,case4 のホタテ貝殻
焼成粒子のみを混抄した場合と比較して,その強度低下は緩やかである.これはパルプ
のフィブリル化部分に比べピスのサイズが大きいため,分子間距離が遠いことにより,
55
一部は水素結合を阻害していると考えられるが,両者は同じセルロースから構成されて
いるため,ホタテ貝殻焼成粒子のように完全に水素結合を阻害しないためだと考えられ
る.このように,強度低下は水素結合の阻害が主要因でと考えられるため,機能紙中で
のホタテ貝殻焼成粒子,SP およびピスの分布状態にも大きく影響を受けていると考え
られる.
Fig. 3-6 Tensile strength and additives ratio in each case (basis weight of bagasse
pulp : 54g / m2).
56
Fig. 3-7 Relationship between relative tensile strength and additives ratio in each case
(basis weight of bagasse pulp : 54g / m2).
case2 と case5 は,パルプと接触している箇所は両者ともピスであり,これ
らの case は,同程度の強度低下を示したものと考えられる.
脱気しない SP を用いた case1では,Fig. 3-5 の SEM 写真に示すように,
紙表面により多くのSPが存在しており,あたかもパルプのみで構成された
紙に近い状態である.
そのため,紙内部でのパルプ同士の水素結合を阻害しにくくなり,case1 が
強度低下を最も抑制することができると考えられる.
57
Fig. 3-8 Relationship between relative tensile strength and ratio of additives in each
basis weight of bagasse pulp (case1).
case1 における坪量の違いによる,混抄率と引張強度の関係を Fig. 3-8 に
示す.図より混抄率が増加するに伴い,強度は低下するがパルプの坪量が小
さいほど,強度低下は緩やかであった.Fig. 3-4 においてパルプの坪量の違
いによる,紙の単位重量当たりのホタテ貝殻焼成粒子量はごくわずかな差で
あったものの,前述の通り,紙中に含まれる混合物としてホタテ貝殻焼成粒
子が最も強度低下を引き起こしやすいこと,また坪量が大きい場合,脱水時
間が特に長く,時間経過とともにパルプ間の空隙が小さくあるいは複雑にな
58
っていることから,SP 表面から離脱したホタテ貝殻焼成粒子が紙中に留ま
りやすくなることより,水素結合を阻害するホタテ貝殻焼成粒子が増加して
いると考えられ,混抄率の増加に伴い,坪量が大きいほど紙の強度低下が生
じ,一方でパルプ坪量の最も小さい 28g /m 2 では強度低下が緩やかであった
と推察される. このような傾向は,case1 のみならず,全てのケースにおい
て同様であった.
したがって,本章で使用した材料の組み合わせでは,case1 の条件にて,
坪量を小さくすることで紙の強度低下を最も抑制することが可能と言える.
3.6
結言
本章では植物が元来有している多孔質構造に着目し,そこに機能性粒子と
して抗菌性を有するホタテ貝殻焼成粒子を付着させた SP を用いる抗菌紙の
作製方法とホタテ貝殻焼成粒子の歩留まりや紙中での分布状態について吟味
するとともに得られた機能紙のホタテ貝殻焼成粒子分散状態と引張特性につ
いて検討した結果,以下のような結論が得られた.
(1) ピスを用いない場合やピスとホタテ貝殻焼成粒子を個別に単純にパ
ルプと混抄した紙に比べ,ホタテ貝殻焼成粒子を多孔質内に付着させ
59
た SP を用いて抄紙した紙はより多くのホタテ貝殻焼成粒子(機能性
粒子)を歩留めることができる.
(2) バガスパルプの坪量を大きくしても,機能紙中のホタテ貝殻焼成粒子
の歩留まり率は坪量に比例せず,同程度である.
(3) 機能紙中の SP の分散状態は,脱気した SP を用いた場合には比較的
均一になるが,脱気をしない SP を用いた場合は紙の表面により多く
の SP が分布する.
(4) case1 の場合,混抄時の紙の強度低下は,バガスパルプの坪量が小さ
いほど,緩やかとなる.
(5) case1 の場合,紙の表面により多くの SP が配置されるため,紙層内
部での水素結合の阻害をしにくくなり,それ以外のケースで作製した
紙に比べ引張強度の低下を引き起こしにくい.
以上のように,天然未利用資源であるバガスピスを有効利用した SP を用
いることで,化学薬品を使用せず,より多くのホタテ貝殻焼成粒子を機能紙
60
中に歩留めることができ,さらには,紙中のホタテ貝殻焼成粒子の分散状態
を変えることが可能である.したがって,多孔質のピスを用いて機能性粒子
と複合することによって,その分散状態を変えることで機能の持続時間をコ
ントロールすることが可能となるものと期待できる.また,通常の場合,紙
に粒子を混合するときには,均一に分散した状態を作り出すか,あるいは意
図せず不均一な偏りが生じてしまうが,多孔質のピスを用いて複合すること
によって,表面特異的に濃度を高めることができるため,例えば同量の機能
性粒子用いる場合においてもその機能性を効果的に発現させることが可能で
あると考えられる.
参考文献
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Toyamadaigaku Kangogakkaishi, 7, 39-49 (2008)
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機能紙研究会, “機能紙研究会 50 年の歩み” (2012)
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Shimono and H.Tanaka, Japan TAPPI Journal, 50 (6), 906-914 (1996)
62
第四章
4.1
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた機能紙の抗菌性
緒言
第二章および第三章において,機能性粒子複合ピスの作製方法とそれを用
いた機能紙の作製方法について詳細に述べた.本章では,作製した機能紙の
抗菌性について評価する.すなわち,第三章において,作製条件によって,
紙中のホタテ貝殻焼成粒子の分散状態を変えることができたが,その分散状
態の差異が抗菌性に及ぼす影響について吟味し,ピスに機能性粒子を付着す
ることによる優位性について言及する.
本章においては,抗菌性の評価を行う対象となる代表的な細菌として,グ
ラム陰性菌である大腸菌およびグラム陽性菌であるメチシリン耐性黄色ぶど
う球菌(MRSA)を用いた.ここで,グラム陰性菌とは,グラム染色と言わ
れる所定の色素で染色後,ヨード溶液で処理し,さらに無水アルコールで脱
色した時に脱色される細菌である.一方,脱色されない細菌をグラム陽性菌
と表現する.自然界にはグラム陰性菌の方が多く,抵抗性は,一般にグラム
陽性菌の方が強い[1].特定対象の細菌に対する抗菌性を評価する場合,各種
細菌に対する抗菌性については菌ごとに個別に評価する必要があるが,特定
対象の細菌に対する抗菌性の評価ではない場合,グラム陰性と陽性のそれぞ
63
れの菌として,最も一般的に大腸菌と黄色ブドウ球菌を用いることが多い.
そこで,本章においては,グラム陰性菌としては一般的な大腸菌に対する抗
菌性を評価したが,グラム陽性菌としては,一般的に評価対象とされている
黄色ブドウ球菌で は なく,MRSA に対す る抗菌性を評価し た .これは近年,
病院における免疫低下患者への MRSA による院内感染が大きな問題となっ
ているからである[2-3].ホタテ貝殻焼成粒子の水溶液は MRSA に対しても
抗菌性を示すことが知られており[4],作製した機能紙も MRSA に対する抗
菌性を発現することが期待できる.抗菌性が紙状で発現できれば,例えば通
常のベッドシーツに抗菌性を付与する場合に紛体あるいは溶液では扱いにく
いが,紙状にすることでシーツの下に敷くことが可能となり,簡便に抗菌性
を付与できると利点がある.
また,抗菌加工製品は,特に日本において,清潔志向の高まりから一般生
活にも浸透しており,台所用品,風呂用品さらには肌着や下着等多くの分野
で使用されており[5],抗菌加工製品の需要は増々と増大している.したがっ
て,一般生活においても,紛体や溶液よりも簡便に使用できる「紙」の状態
で抗菌性を付与することにより,またそれが天然物から構成されることで安
心感を持つことができ,さらには未利用資源を用いることによって QOL の
維持,向上につながると思われる.
64
4.2
湿潤紙力剤の添加による強度保持と抗菌性
4.2.1
4.2.1.1
実験方法
機能紙作成時の湿潤紙力剤の添加
本論文で作製した機能紙の抗菌性を評価する実験において,紙が菌液,生
理食塩水および細菌増殖させるための培地など,水に触れる機会がある.作
製した抗菌紙は,天然繊維で構成されているため各繊維が水素結合により繊
維集合体を形成しているが,水に触れると繊維同士の水素結合がなくなり,
紙状を保てなくなり抗菌試験に支障が生じる.そこで,機能紙の作製時に,
湿潤紙力剤を添加し,抗菌性試験に耐え得るための耐水性を付与した.
湿潤紙力剤としては,ポリフィックス 250(昭和電工株式会社製)を使用
し,パルプに対し て ,0.4, 1.0,1.8wt%の湿潤紙力剤を抄 紙 時に添加した.
4.2.1.2
大腸菌を用いた湿潤紙力剤の抗菌性試験
湿潤紙力剤自身の抗菌性の有無を大腸菌を用いて,予め調査した.
抗菌性試験は,JIS
L1902(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)を
65
参考に行った.すなわち,各濃度の湿潤紙力剤を含む 30mm×30mm の紙を
バイアル瓶に入れ,オートクレーブで高圧蒸気殺菌後,クリーンベンチ内
で 60 分間乾燥したものを試験片とし,そこに,1~3×10 5 個 / ml の菌液を
0.2ml 接種し,37℃にて 18 時間培養した.菌数は,菌液接種直後および培養
後に生理食塩水 20 mL を加え,手振り(振幅 30 cm,30 回振とう)で各検体
から菌を洗い出し,ニュートリエント寒天培地を用い,37℃にて 24 時間,混
釈平板培養を行い測定した.
4.2.2
実験結果および考察
Table4-1 に湿潤紙力剤の各濃度における抗菌性試験時の紙の形状保持状
態について示す.表より明らかなように,水に濡れても抗菌性試験に耐え得
るが,0.4wt%の場合のみ,紙が破れてしまい形状が保持できない場合があっ
た.
抗菌性試験の結果は,全ての湿潤紙力剤濃度において,ブランクと同等の
菌数が確認された.したがって,1.8wt%以下の濃度において,湿潤紙力剤は
抗菌性試験に影響しないことが確認できた.
66
Table4-1 State of the paper after antibacterial property test in each
concentration of wet paper strength enhancer
4.3
Concentration (wt%)
State
0.4
Sometime broken while mixing
1.0
Retaining the shape
1.8
Retaining the shape
大腸菌に対する機能紙の抗菌性
4.3.1
4.3.1.1
実験方法
抗菌紙の作製
前章で述べた方法と同様の方法で種々の機能紙を作製した.ここで,パル
プの坪量は,28,84,140g / m 2 に変化させ,混抄した SP あるいはホタテ貝
殻焼成粒子量の混抄率は各坪量に対して 25mg / g とした.また,抄紙条件
としては SP を脱気せず混抄(case1),水中で脱気した SP を混抄(case2),
ピスを用いずホタテ貝殻焼成粒子のみを混抄(case3)の 3 通りの条件で抄
紙した.さらに,前節で得られた結果を踏まえ,抗菌性試験時に形状を保持
でき,かつ合成薬品の使用を最低限にするため,湿潤紙力剤の濃度は 0.5wt%
67
とした.ここで,比較材料としてホタテ貝殻焼成粒子を含まないパルプのみ
の紙も作製した.
4.3.1.2
大腸菌を用いた抗菌性試験
得られた種々(case1~case3)の機能紙に対して,前節と同様の方法で抗
菌試験を行った.ただし,パルプのみから成る紙の抗菌性試験は,一度に試
験をせず,計 6 回の試験を異なる日に実施し,それぞれの試験ごとに菌液を
調製したため,菌液濃度が 1~4×10 4 個 / ml の範囲の菌液を試験片に接種し
た.
4.3.2
実験結果および考察
Fig. 4-1 に大腸菌に対する作製した各機能紙の抗菌性試験の結果を示す.
上図(A)が菌接種直後,下図(B)が菌接種後 18 時間経過後の各機能紙か
ら大腸菌を洗い出し,その溶液を培養して,形成したコロニー数を数えた結
果である.図より case1 および case2 では,坪量が 84,140g / m 2 において,
菌接種直後から大腸菌が死滅していることが分かる.28g / m 2 では,菌接種
直後においてはコロニーの形成が確認できたが,18 時間後には大腸菌の存在
68
は確認されなかった.また,28g / m 2 における,case1 と case2 の結果を比
較すると,case1 の方が大腸菌が少なく,抗菌性に優れていた.このことは,
第三章で述べたように,case1 で作製した抗菌紙は SP が紙表面に多く存在
しているため,より高い抗菌性を示したものと思われる.より詳細な考察は
次節(4.4)のホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを使用した機能紙の優位性の項で
述べる.case3 では,ピスを用いずにホタテ貝殻焼成粒子を直接混抄してい
るために,第三章 Fig3-3 に示したように case1 や case2 と比較して, 紙中
のホタテ貝殻焼成粒子濃度が低くなる.そのために,case1 および case2 で
はコロニーの形成が確認できなかった菌接種直後の 84,140g / m 2 の機能紙
においても,case3 の条件にて作製した機能紙ではコロニーが形成され,さ
らに菌接種後 18 時間培養後においても全ての坪量の紙でコロニー形成が確
認された.このことより,ピスにホタテ貝殻焼成粒子を付着させた SP を用
いることで大腸菌に対する抗菌性を有する機能紙が作製できることが明確と
なった.
69
Fig.4-1 Number of CFU of E. Coli on papers without cultivation (A) and after 18hr of
cultivation (B).
70
ここで,case3 のコロニー形成数を坪量ごとに比較すると,28g / m 2 の機
能紙はコロニー形成数が減少しているのに対し,84,140g / m 2 の機能紙で
はコロニー形成数が増加している.ホタテ貝殻焼成粒子量は,28g / m 2 の機
能紙と比較して,84,140g / m 2 の機能紙の方が多いと考えられるが,この
ような結果が得られた理由として,パルプ自身が抗菌性を有していることが
考えられた.Fig. 4-2 に,ホタテ貝殻焼成粒子を含まないパルプのみから成
る紙の大腸菌に対する抗菌性の結果を示す.
パルプのみから成る紙の抗菌性試験は,計 6 回の異なる日にそれぞれ実施
しており,接種した大腸菌数が一定範囲の中で同一ではないため, JIS
L1902 における殺菌活性値に類する,以下の計算式(4-1)で求めた値
A(抗
菌活性値と呼ぶことにする)によって標準化して比較した.
A
=
log M 0 -
log M a ・・・・・・・・・・(4-1)
ここに, A:抗菌活性値
M 0 :サンプルの試験菌液接種直後の生菌数
M a :サンプルの 18 時間培養後の生菌数
JIS L1902 では,式 4-1 の M 0 が標準布の試験菌液接種直後の生菌数とし
て与えられている.しかし,本節では,標準布を用いた抗菌性試験を実施で
きておらず,M 0 を「サンプルの試験菌液接種直後の生菌数」とした.なお,
71
パルプのみから成る紙において,Fig. 4-1 で示したホタテ貝殻焼成粒子を含
む機能紙のように,接種直後に菌数の明らかな減少が起こらないことを確認
しており,サンプルの試験菌液接種直後の生菌数は,JIS L1902 にて定めら
れている「標準布の試験菌液接種直後の生菌数」に類すると考えられる.
Fig.4-2 から明らかなように,パルプのみにおける大腸菌の生菌数はバラツ
キが大きく,安定していなかった.ここで,パルプの原料であるサトウキビ
には抗菌性物質であるエピカテキンの存在が知られており[6],またカテキン
が細菌細胞膜の脂質二重層を破壊し殺菌作用を示すこと[7]およびカテキン
類を多く含む茶類が腸管出血性大腸菌 O157 や非病原性大腸菌に対して増殖
抑制作用があること[8]も分かっている.
これらのことから,本研究で使用したパルプは,サンプル D において菌数
が減少したことを意味する抗菌活性値が正の値を示し,さらに大腸菌のみを
培養した場合を抗菌活性値で表現すると-1.0~-1.5 を示したことより,サ
ンプル B,C,F においても 18 時間の培養中に菌の増殖を抑制していると考
えられた.しかし,天然物であるために存在している抗菌性物質であるエピ
カテキンの量にもバラツキがある[6]ため,Fig.4-2 のような結果を示したと
思われる.よって,Fig.4-1 で示した 28g / m 2 の機能紙においてコロニー形
成数が減少し,84,140g / m 2 ではコロニー形成数が増加した理由も前述の
通り,パルプの抗菌性物質のバラツキの影響を受けたためと考えられる.
72
Fig.4-2 Antibacterial activity of bagasse pulp paper against E. Coli .
4.4
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを使用した機能紙の抗菌性における優位性
前節(4.3)では,大腸菌に対する抗菌性について述べてきたが,ここでは
グラム陽性菌である MRSA に対する抗菌性について評価する.とくに作製し
た機能紙の抗菌性の有無だけではなく,第三章で明らかにした通り,ホタテ
貝殻焼成粒子を付着させたピスを使用することにより紙中のホタテ貝殻焼成
73
粒子の分散状態を変えることができるため,その分散状態の違いが抗菌性に
及ぼす影響についても言及する.
4.4.1
4.4.1.1
実験方法
MRSA の最小発育阻止濃度の測定
まず最初に,抗菌性を発現できると考えられる紙中のホタテ貝殻焼成粒子
濃度を決定するために,ホタテ貝殻焼成粒子水溶液の MRSA に対する最小発
育阻止濃度(MIC)を以下の方法で測定した.すなわち,ホタテ貝殻焼成粒
子(東京ナノ・バイオテクノロジー社製)を蒸留水に分散させ、7.8 から
4000 g/ml での 2 倍希釈ずつ段階希釈した水溶液を作製した.そこに 1×10 5
個/ml に調製した MRSA を各水溶液に接種した.数分後に,各水溶液に接種
した菌液1ml をシャーレに添加して寒天培地を加え,37℃にて 24 時間静置
培養後,菌の発育をコロニー形成によって判定し,MIC を決定した.
4.4.1.2
ホタテ貝殻焼成粒子複合ピスを用いた抗菌紙の作製
機能紙の作製は概略前章と同様である.ただし,作製条件は,これまでの
74
SP を脱気せず混抄(case1),水中で脱気した SP を混抄(case2),ホタテ貝
殻焼成粒子,ピスおよびパルプを単純に混抄(case3)およびピスを用いず
ホタテ貝殻焼成粒子のみを混抄(case4)の 4 通りに加え,case3 および case4
において,抄紙直前に材料を水中で脱気した case3-D および case4-D の 2 通
りの条件を加え,計6通りに変化させた.パルプの坪量は,54g / m 2 とし,
抗菌性を確実に発現させるために,機能紙中に含まれる最低濃度を MIC と
同程度になるようにし,それを基準にしてホタテ貝殻焼成粒子濃度が約 10
倍ずつ異なるように,各 case において 3 水準の濃度の異なる機能紙を作製
した.これらの機能紙は各オーダーごとに,最も低い濃度から Group A,B
および C と呼ぶことにする.
4.4.1.3
電子顕微鏡観察
3.4.1.1 電子顕微鏡観察と同様にそれぞれの case で作製した紙の SP の分
布状態を調べるために,走査型電子顕微鏡(SEM)(VE-9800:株式会社
KEYENCE)を用いて紙の表裏面と断面を観察した.表面とは抄紙時におけ
る原料混合物が積層上面であり,裏面とは抄紙機のタンク下部に設置したワ
イヤーメッシュに接している側を意味する.断面観察には,最もホタテ貝殻
焼成粒子濃度の高い Group C の機能紙を垂直スライサー(HS-1 型:ジャス
75
コエンジニアリング株式会社)を用いて切断した試料を用いた.
4.4.1.4
EPMA カラーマッピング
ホタテ貝殻焼成粒子の表面の分布状態,とくに抗菌性試験結果に影響を及
ぼすと考えられる露出しているホタテ貝殻焼成粒子の分布状態をより詳細に
調査するために電子線マイクロアナライザ(EPMA)(JXA-8200:日本電子
株式会社製)を用いて,カルシウムを対象元素としてカラーマッピングを行
った.表裏面については SEM 観察時同様,表面が抄紙時における原料混合
物の積層上面であり,裏面とは抄紙機のタンク下部に設置したワイヤーメッ
シュに接している側を意味する.
4.4.1.5
孔径測定
作製した紙の孔径は,キャピラリーポロメータ(CFP-1100-AXL-ESA:PMI
社製)によって測定した.本機での測定時にはサンプルに表面張力既知の液
体を浸潤させる必要があり,その液体として GALWICK(表面張力 1.6×10 -4
N / cm 2 :PMI 社製)を用いた.
76
4.4.1.6
MRSA に対する抗菌性試験
MRSA に対して前節の抗菌性試験で述べた方法と同様の方法で抗菌試験
を行った.ただし,大腸菌に対する抗菌性試験との違いは,サンプル量を大
きさではなく,重量を基準としたことおよび培養時間を種々変化させたこと
である.すなわち, 各サンプル 0.4 g を バイアル瓶に入れ,オートクレー
ブで高圧蒸気殺菌後,クリーンベンチ内で 60 分間乾燥したものを試験片と
し,そこに,3×10 5 個 / ml の菌液を 0.2ml 接種し,37℃にて 30,60,1440
分と変化させて培養した.菌数は,菌液接種直後および培養後に生理食塩水
20 mL を加え,手振り(振幅 30 cm,30 回振とう)で各検体から菌を洗い
出し,トリプチケースソイ寒天培地を用い,37℃にて 48 時間,混釈平板培
養を行い測定した.また,菌液接種直後および培養後の各サンプルから菌を
洗い出した後に使用した培地はトリプチケースソイ寒天培地であり,その後
の培養時間はコロニー形成を判別しやすくするため,前節で行った条件より
も延長し 48 時間培養した.ここでは抗菌性試験の結果を,以下に示す JIS
L1902 の殺菌活性値に準じ,以下の計算式(4-2)で算出し,抗菌性を評価
した.
L
=
log M 0 -
log M a ・・・・・・・・・・(4-2)
77
ここに, L:殺菌活性値
M 0 :標準布の試験菌液接種直後の生菌数
M a :サンプルの各時間培養後の生菌数
4.4.1.7
抗菌性試験結果に対する有意差検定
抗菌性試験結果に対する有意差検定は,3 水準以上含むデータの場合にお
いて,まず一元配 置 分散分析による有 意 差検定を行った. 有 意差(P<0.01)
が認められた場合,Holm 法により水準間の多重比較検定を行い,P <0.01 の
場合に有意差があると判断した.2 水準での比較は t 検定を行い,P <0.01 の
場合に有意差があると判断した.
4.4.2
4.4.2.1
実験結果および考察
MRSA の最小発育阻止濃度
各ホタテ貝殻焼成粒子水溶液の状態は,4000 g/ml では白濁かつ沈殿が
生じており,2000 g/ml では白濁していた.それ以下の濃度では透明であ
った.このことは,ホタテ貝殻焼成粒子の主成分が水酸化カルシウムであり,
78
水酸化カルシウムの水への溶解度が 0.17g/100ml(25℃)であることから,
その溶解度を単位換算すると 1700 g/ml となり,観察された状態と一致し
た.これらの 2 倍ずつ段階希釈した各水溶液によって MRSA に対するホタテ
貝殻焼成粒子の MIC を測定した結果,Table 4-2 に示す通り,その濃度は
500 g/ml であった.
Table 4-2 Minimum inhibitory concentration of burned scallop particle aqueous
solution against MRSA.
Concentration (mg / ml)
4000,00
2000,00
1000,00
500,0
250,0
125,0
*62.5
*31.3
*15.6
**7.8
MRSA
-
-
-
-
+
+
+
+
+
+
79
4.4.2.2
抗菌紙中のホタテ貝殻焼成粒子濃度
MIC の結果(500 g/ml)に基づき,抗菌性試験において,接種する菌
液が 0.2ml であり,試験片の重量が 0.4g であることから、機能紙のホタテ
貝殻焼成粒子濃度が 0.25mg / g 以上において、MRSA に対する抗菌性を発現
すると期待できる.そこで,機能紙のホタテ貝殻焼成粒子濃度が 0.25mg / g
以上になるように,さらには機能紙のホタテ貝殻焼成粒子濃度が MIC と同
等であっても抗菌性を発現しない場合を考え,より確実に抗菌性を発現させ
るために,ホタテ貝殻焼成粒子濃度のオーダーが1桁ずつ変わるように各抗
菌紙を作製した.各機能紙のホタテ貝殻焼成粒子濃度を Table4-3 に示す.各
case によって多少の差異はあるものの最低ホタテ貝殻焼成粒子濃度が MIC
と同程度の 0.23mg / g 以上であることが確認できた.また,抗菌性に及ぼす
濃度の影響を排除し,ホタテ貝殻焼成粒子の分散状態の差異が抗菌性に及ぼ
す影響を見出すために,各 case の濃度のオーダーが統一されるように抗菌紙
を作製したが,結果として各 Group において case1~case4 は同等のオーダ
ーとなっていることが確認できた.
Table4-3 Concentrations (mg / g) of burned scallop particles in antibacterial papers.
Group A
Group B
Group C
case1
0.32
3.34
24.29
case2
0.23
1.91
15.10
case3
case3-D
0.26
0.31
2.01
2.86
13.14
23.38
80
case4
case4-D
0.25
0.26
2.08
2.12
12.16
12.61
4.4.2.3
抗菌紙中のホタテ貝殻焼成粒子分散状態
既述の通り case1 では,抄紙工程において水中に懸濁している SP が抄紙
タンク内の水面にその多くが浮遊するため,タンク下方から水抜きを行い脱
水し,紙層形成をしていく際に,最後に沈降して積層することにより SP を
紙表面に集中させることができるのに対し,case2 では SP を水中で脱気す
ることによって,タンク内の水面に浮遊することなく,紙中のパルプと SP
を比較的均一分散して混抄することができる.本章において,それぞれの条
件で作製した紙の SP の分散状態について, SEM 観察した結果を Fig. 4-3
に示す.第三章における Fig. 3-5 と同様に,ピスを用いて脱気していない
case1 および case3 ではピスは表面上に観察され,脱気した case2 および
case3-D ではピスは紙内部に存在していることが確認された.
EPMA によるカラーマッピングの結果を Fig. 4-4 に示す.画像の赤色箇所
が表面上に存在しているホタテ貝殻焼成粒子であり, それ以外の着色して
いる箇所はパルプに覆われ,露出していないと考えられる.case1 において
表面に露出しているホタテ貝殻焼成粒子がその他の case よりも多いことが
EPMA によって明らかとなった.
81
Fig. 4-3 SEM photomicrographs of distribution of scallop particle in paper for each case (Bagasse pith
or composite pith :
enclosed in circle with arrow, Scallop particles :dashed arrow)..
82
Fig. 4-4 EPMA mapping images for Ca in each paper of group C
83
4.4.2.4
抄紙条件が MRSA に対する抗菌性に及ぼす影響
Fig. 4-5 は,各 Group,各 case に対する菌接種 30 分培養後の殺菌活性値
を示す.まず Group 内での比較を行った.各 case での Group A 内および
Group B 内における有意差は確認されず,Group C においては,Table4-4(1)
に示す通り,case1 と case3 で全ての case に対して有意差があった.したが
って,菌接種 30 分培養後では,濃度の低い Group A および Group B では作
製条件の違いによって抗菌性に有意な差はなかったが,濃度の最も高い
Group C において case1 が最も高い抗菌性を示したと言える.次に,Group
間で比較すると,Group A と Group B において Group B は Group A よりも
ホタテ貝殻焼成粒子濃度が約 10 倍高く,殺菌活性値は上昇したものの,有
意差が確認されたのは case1,case3-D および case4-D であり,その変化は
小さかった.一方で Group C では,case1,case3 および case4-D において
Group A および GroupB に対し有意差があり,とくに case1 および case2 で
は高い殺菌活性値を示したが,case2 と case4 ではどの Group とも有意差は
なかった.
ここで,作製した紙の孔径をキャピラリーポロメータによって測定した結果,
最大径が 0.2 m であり,MRSA の菌体直径が 0.7 m 程度[9]とされているこ
とから,MRSA が紙内部に入りやすい状態ではないため,MRSA が紙表面に
84
Fig. 4-5 Values of antibacterial activity in each group after 30minutes of
cultivation. One asterisk and two asterisks indicate a significant
difference for Group A and for Group B in each case, respectively
(P<0.01).
より多く存在していると考えられる.したがって,SP を用いている case1
と case2 において,case1 が高い殺菌活性値を示したのは,SP が紙表面に比
較的多く存在しているために MRSA と SP が接触する可能性が高く,その結
果として高い殺菌活性値を示したと推察される.次に case3 が高い殺菌活性
値を示した理由としては,ホタテ貝殻焼成粒子に起因する抗菌性のみならず,
バガスピスも抗菌性を有していることが挙げられる.前節で述べたように,
85
サトウキビには抗菌性物質として,エピカテキンの存在が知られており[6],
またそのエピカテキンが MRSA に対して抗菌性があることもわかっている
[10].ホタテ貝殻焼成粒子を混抄した機能紙と同様に,バガスピスやバガス
パ ル プ に 対 し て 菌 接 種 30 分 培 養 後 の 殺 菌 活 性 値 を 測 定 し た 結 果 そ れ ぞ れ
0.94 および 0.56 であり,菌数の低下が確認された.また case3 は case1 と
同様に脱気処理をしていないことにより表面付近に比較的多くのピスが存在
しているため,case3 においても高い殺菌活性値を示したと推察した.
Fig. 4-6 に,Group A および Group B における case1 の菌接種後 30,60,
1440 分培養後の殺菌活性値を示す. Group A および Group B では,菌接
種後 30 分培養では殺菌活性値に有意差があり,さらに菌接種後 30 分培養と
60 分培養ではともに殺菌活性値は上がった.しかしながら,菌接種後 60 分
培養において Group A と Group B の殺菌活性値に差はなくなり,さらに
1440 分培養では,60 分培養と比較して殺菌活性値が上昇することはなかっ
た.したがって,MRSA のホタテ貝殻焼成粒子溶液の MIC 結果を基準に抗
菌紙中に含まれるホタテ貝殻焼成粒子量を設定したが,前述のように MRSA
が紙の表面上に存在していると考えられるため,紙表面付近のホタテ貝殻焼
成粒子が抗菌活性を示し,抗菌紙中に含まれる全てのホタテ貝殻焼成粒子が
抗菌性に寄与するわけではないと考えられ, Group A ならびに Group B の
86
Fig. 4-6 Values of antibacterial activity of case1 in Group A and Group B after 30,
60 and 1440minutes of cultivation, respectively. One asterisk indicates a
significant difference for Group A (P<0.01).
ホタテ貝殻焼成粒子量では十分な抗菌性が発現されないと判断された.そこ
で,次に各 case での菌接種後 30,60,1440 分培養後の殺菌活性値について
は,最も濃度の高い Group C における結果について吟味する.
Fig. 4-7 に,Fig. 5 に Group C における各 case の菌接種後 30,60,1440
分培養後の殺菌活性値,Table4-4 に各 case における各培養時間グループ内
87
の有意差検定の結果を示す.図より明らかなように Group C では,培養時間
が長くなるに連れて,case3 を除き殺菌活性値は上昇した.JIS においては,
殺菌活性値が 0 以上 の場合に,その試 料 は抗菌性 を 有 す る と 判 断 さ れ る が ,
とくに case1 では菌接種後 30 分および 60 分培養において抗菌活性値は 2.5
以上であり,他の全ての case と比較して有意差のある高い殺菌活性値を示し,
1440 分培養においても高い殺菌活性値を維持した.一方で,菌接種後 30 分
培養において 2.0 以上の高い殺菌活性値を示した case3 は,60 分培養後にお
いては 30 分培養後よりも殺菌活性値が上がったが,1440 分培養後には低下
した.また case4-D では,1440 分培養後の殺菌活性値は,培養時間の違い
による比較では有意差があったが,1440 分培養後内の他の case と比較した
場合,有意差が確認されなかった.これらの原因については,サトウキビ由
来のバガスピスが天然物であるため,既述の通り抗菌性を発現するとされる
エピカテキンの存在量にバラツキがあり[6],Fig. 4-2 で示した大腸菌に対す
るパルプの抗菌性試験結果と同様の現象が起こったためと考えられる.
これらの結果より,天然物が元来有している抗菌性の発現の程度をコントロ
ールすることは困難であることが示唆されたのに対して,SP を用いて脱気
処理をせず紙表面のホタテ貝殻焼成粒子濃度を高めた case1 の条件で作製し
た抗菌紙は安定的に高い殺菌活性値を示し,MRSA に対して有効的な抗菌紙
であると言える.
88
Fig. 4-7 Values of antibacterial activity of Group C in each case after 30, 60 and 1440minutes of
cultivation, respectively. One asterisk and two asterisks indicate a significant difference for
30min and for 60min of cultivation in each case, respectively (P<0.01).
89
Table3 Correspondence table of significant difference of antibacterial activity within every group of
cultivation time for each case in Group C. “Y” indicate the combination has significant difference,
and “N” indicate the combination has no significant difference.
(1) 30min
case1
case2
case3
case3-D
case4
case2
Y
-
-
-
-
case3
Y
Y
-
-
-
case3-D
Y
N
Y
-
-
case4
Y
N
Y
N
-
case4-D
Y
N
Y
N
N
(2) 60min
case1
case2
case3
case3-D
case4
case2
Y
-
-
-
-
case3
Y
Y
-
-
-
case3-D
Y
N
Y
-
-
case4
Y
N
Y
N
-
case4-D
Y
N
Y
N
N
case1
case2
case3
case3-D
case4
case2
Y
-
-
-
-
case3
Y
N
-
-
-
case3-D
N
Y
Y
-
-
case4
Y
N
N
Y
-
case4-D
N
N
N
N
N
(3) 1440min
90
4.5
結言
本章では,ピスの多孔質部にホタテ貝殻焼成粒子を付着させた SP を用い
て作製した機能紙の大腸菌ならびに MRSA に対する抗菌性を評価した.
case1 の条件である SP を脱気せず,抄紙タンク内の水面に懸濁している
SP の多くを浮遊させた状態で抄紙することによって,脱水時の紙層形成の
最後に SP を沈降,積層させ,紙表面の SP 濃度を高めた抗菌紙は,ホタテ
貝殻焼成粒子付着ピスを用いないで作製した抗菌紙と比較して,大腸菌なら
びに MRSA に対する高い抗菌性が,とくに MRSA における菌接種後 30 分培
養の時点で確認された.すなわち,ホタテ貝殻焼成粒子水溶液単体の抗菌性
[4]と同様に,ピスを活用してホタテ貝殻焼成粒子を紙に抄き込むことによっ
ても即効性に優れた抗菌性機能紙が得られることが明らかになった.
また,バガスパルプやピス自体にも抗菌性があったが,これらは天然物で
あることから,含まれている抗菌性物質の量にバラツキがあるため,安定的
な抗菌性を紙に付与することは容易でないことが示唆された.一方で,SP
と混抄し,抗菌性物質であるホタテ貝殻焼成粒子の分散を表面に集中させる
ことによって,高い抗菌性を安定して発現でき,ホタテ貝殻焼成粒子複合ピ
スを使用した抗菌紙の優位性が明確となった.
91
参考文献
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-抗菌・防かび剤とその応用
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10.
M. Toda, S. Okubo, Y. Hara and T. Shimamura, Japanese journal of
bacteriology, 46, 839-845 (2009)
93
第五章
結論
技術の発展により,特に先進国において,人々は物質的,経済的な豊かさ
を手にした一方で,有限でありいずれ枯渇するかもしれないと危惧されてい
る石油資源を大量に消費し続けるとともに依存している現状がある.ところ
が,日本における江戸時代には,廃棄物は少なかったとされており,これは
循環型社会が形成されていたからであると考えられる.今まさに当時のよう
な循環型社会の構築が必要とされているが,一方で一度手に入れた生活の質
(QOL)を低下させることは難しく,QOL を維持しながらかつ循環型社会を
構築していく必要がある.
我々の身近で大量に使用され,廃棄されている物の一つに「紙」がある.
紙の中で従来の機能以外にも優れた機能を持つ機能紙においても,合成繊維
や合成薬品などが使用されている現状がある.したがって機能紙を「天然物」
かつ現在は廃棄等されており十分に活用されていない資源,すなわち「未利
用資源」から作製することができれば,QOL の維持と石油資源の依存度を低
減し環境負荷を小さくすることができると考えられる.そこで,本論文では,
サトウキビの搾りかすであるサトウキビバガスから作られるバガスパルプを
紙の構成繊維として,同じくサトウキビバガスに含まれる多孔質構造を持つ
ピスの孔に,廃棄,埋立てされているホタテ貝殻から製造される焼成ホタテ
94
貝殻焼成粒子を付着させた複合体(SP)を作り,これらを混抄して得られる
機能紙を開発し,紙の作製方法と得られた紙の物性(機能性)を評価した.
第二章では,ピスの多孔質部に機能性粒子を付着させるための最適条件を
検討した.その結果,粒子分散液にピスを入れ,撹拌時間や濃度を増加させ
たが,物理的な付着だけでは水洗後の粒子付着率は 10%以下であった.そこ
で付着率を向上させるために,粒子がピスのより内部にまで流入し,そこに
留める必要があるために,付着工程において脱泡処理を行うことによってピ
ス内部の空気が脱気され,粒子がピス内部まで流入しやすくなり付着率を向
上させることが可能となった.また,粒子径は小さいほど粒子がピスのより
内部にまで流入しやすいために付着率は向上した.さらに,粒子流動に必要
な水量は小さいほど,したがって粒子濃度が高いほど,ピスのより内部に存
在する笹粒子が増加し,付着率が高くなった.さらにピスをカチオン化する
ことによってイオン相互作用により強固な付着状態となり,付着率が向上す
ることが明らかとなった.本論文ではできる限り天然物および未利用資源を
用いた機能紙開発が目的であり,作製条件の最適化によって,化学処理せず
にピスへの粒子付着率を 60%程度まで向上させることが可能となった.
第三章においては,ピスにホタテ貝殻焼成粒子を付着させ粉砕したものを
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バガスパルプとともに混抄して機能紙を作製し,機能性粒子の歩留まり率な
らびに紙の引張強度について検討した.
まず,機能性粒子の歩留まり率は,ピスを用いない場合やピスとホタテ貝
殻焼成粒子を個別に単純にパルプと混抄した場合と比較して,SP と混抄す
ることによって,2 倍以上のホタテ貝殻焼成粒子を歩留めることが可能とな
った.ただし,本研究で実施した作製条件では,バガスパルプの坪量を大き
くしても,機能紙中のホタテ貝殻焼成粒子の歩留まり率は坪量に比例せず,
同程度であった.機能紙中における,SP の分散状態は, SP を脱気せずに
用いた場合,紙の表面により多くの SP が存在し,表面のホタテ貝殻焼成粒
子濃度を高めることができた.一方脱気した SP を用いた場合には粒子は紙
中に比較的均一に分散した.脱気していない SP を用いて作製した機能紙の
引張強度は,紙層内部での SP あるいはホタテ貝殻焼成による,パルプ繊維
同士の水素結合の阻害が起こりにくくなり,SP やホタテ貝殻焼成粒子が紙
中に分散する紙に比べて,紙の引張強度の低下が抑制されることが明らかに
なった.
第四章では,前章で作製した機能紙の抗菌性について,グラム陰性菌であ
る大腸菌ならびにグラム陽性菌であるメチシリン耐性黄色ぶどう球菌
(MRSA)を対象に評価した.その結果,大腸菌では,SP を用いた約 3mg/g
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のホタテ貝殻焼成粒子を含む機能紙において,大腸菌接種直後の時点で,大
腸菌の減少が確認された.さらに脱気していない SP を用いて作製した機能
紙が最も抗菌性が高いことが示唆された.さらに詳細に機能紙の作製条件と
抗菌性の関係について確認するため,ホタテ貝殻焼成粒子濃度のオーダーの
異なる機能紙の MRSA に対する抗菌性を確認した結果,脱気していない SP
を用いて紙表面の SP 濃度を高めた抗菌紙は, MRSA に対する高い抗菌性が
菌接種後 30 分培養の時点で確認され,分散が比較的均一になる SP を脱気後
に使用した場合やピスを使用しない条件で作製された機能紙と比較して,即
効性に優れた抗菌性機能紙であることが明らかとなった.
このように,本論文ではバガスピスと主にホタテ貝殻焼成粒子を複合化す
ることによって化学薬品の使用を最小限に留めながら,より多くの機能性粒
子を紙中に歩留めることができるとともに,紙中の機能性粒子の分散状態を
変えることが可能となった.本研究で得られた結果は,バガスピスとホタテ
貝殻焼成粒子の組み合わせだけでなく,多孔質構造を有する植物と機能性粒
子の複合物を用いた様々な機能紙を作製するための基礎になり得るものと考
えられる.この手法により,表面の粒子濃度を高めることによって,効率的
に機能を発現させることが期待できるため,例えば希少な機能性粒子を用い
る場合に有用であるあると考えられる.また,多孔質構造を持つ未利用資源
を活用し付加価値を与えることで,材料として生産されていたものが不要と
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なり原料の消費,エネルギー消費の削減につながり,結果として環境負荷を
低減できると考えられる.また同時に,作製される機能紙が人々の生活の質
の向上につながることで,環境にも,人にも優しい,豊かな暮らしをもたら
すと大いに期待できる.
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研究実績
本研究に関連した発表論文
1.
Ryota Oda, Hideaki Asano, Teruo Kimura and Hiroshi Inagaki
“Adhesion Property of Functional Particle to Bagasse Pith for High
Performance Composite Paper”,
Journal of Adhesion Science and Technology,
Vol. 26 Issue No. 10-11, pages 1507-1519, 2012
2.
小田 涼太,木村 照夫,稲垣
寛,
“バガスピスを用いた機能紙の作製”
,繊維学
会誌,印刷中
3.
小田 涼太,木村 照夫,稲垣
寛,勝圓 進,
“ホタテ粒子付着バガスピスを混
抄した機能紙の抗菌特性”,繊維学会誌,投稿中
国際会議発表
1.
IWGC-6, Ryota Oda, Hideaki Asano, Teruo Kimura, Hiroshi Inagaki, “Study on
Absorption Property of High Performance Paper by Using Multiple Natural
Fibers” (2010)
2.
IWGC-6, Hideaki Asano, Ryota Oda, Teruo Kimura, Hiroshi Inagaki,
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“Development of High Performance Composite Paper Using Bagasse Pith”
(2010)
国内学会発表
1. 第1回 日本複合材料合同会議(JCCM-1),浅野英明,小田涼太,木村照夫,稲垣
寛,
“バガスを用いた機能性材料の開発”
(2010)
2. 第 63 回日本繊維機械学会年次大会,小田 涼太、浅野 英明、木村 照夫、稲垣
寛,
“植物繊維の微細構造を利用した機能紙の研究 第1報 ケナフ靭皮繊維の形態
と性状”(2010)
3. 第 63 回日本繊維機械学会年次大会,浅野 英明,小田 涼太,木村 照夫,稲垣
寛,“ババガスを用いた機能性材料の開発”(2010)
4. 第 64 回日本繊維機械学会年次大会,小田 涼太、浅野 英明、木村 照夫、稲垣
寛,“バガスピスを用いた機能紙の作製とその特性”(2011)
5.
第 65 回日本繊維機械学会年次大会,小田 涼太、木村 照夫、稲垣 寛,
“バガス
ピスを用いた未利用資源から成る抗菌紙の開発”
(2012)
6.
第 66 回日本繊維機械学会年次大会,大塚 翔仁,小田 涼太、木村 照夫、稲垣
寛,“バガスピスとホタテ粒子を用いた機能紙の抗菌性評価”
(2013)
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謝辞
本研究は京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 先端ファイブロ科学専攻
授
教
木村 照夫 博士のご指導とご教示のもとに成し得たものであります.そのことを
ここに記し,心より感謝申し上げます.
神戸女子大学 名誉教授 稲垣 寛 博士には大学で研究をするきっかけを与えて
くださり,また有益なご助言とご支援賜りました.
倉敷紡績株式会社
勝圓 進氏には,MRSA の抗菌試験で多大なるご協力を賜りま
した.
京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 先端ファイブロ科学専攻 木村研究室
の浅野 英明氏(現:東海高熱工業株式会社)ならびに大塚 大塚 翔仁氏には,多く
の時間を共にし,研究を進める上で,ご協力賜り感謝申し上げます.
京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 先端ファイブロ科学専攻 木村研究室
井野助教をはじめ,木村研の先輩方,後輩の皆様に大変お世話になりました.
三晶株式会社の皆様には,本研究に対し,理解を示してくださり,多大なる協力を賜
りました.特に溝手 敦信名誉相談役,中央研究所
本
寛司氏,唐川
林 良純氏,小田桐 裕行氏,山
敦氏,井澤 宏美女史,長嶺 京子女史に感謝申し上げます.
最後に,家族やこれまで支えてくださったすべての人に感謝申し上げます.
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