梗概 - 東海大学工学部建築学科

波景
­ 建築と土木の半融合による湊建築の設計­
指導教員
杉本
洋文
7ACBM009
1. は じ め に
杉
和也
明治20年にJR平塚駅ができるまで相模川の河口に自然形
本 修 士 設 計 で は 、 平 塚 コ ミ ュ ニ テ ィデ ザ イ ン 研 究 体 の
成された湊を中心に海運機能が集積し、近世平塚の流通と
調査・研究を通じ、まちなか観光によるまちづくりを進め
文化の拠点であった。その後、大正初期に運輸業から漁業
る平塚市に対し、交流拠点となる湊建築の計画を行う。
へと変化した。護岸整備が行われ水際まで住宅地が広がり、
2.計 画 背景
相模川と相模湾の結節点に平塚新港に寄港場所の整備が行
2-1. 平 塚 市 の 観 光 現 状
わ れ 、 優 れ た 環 境 的 背 景 に よ っ て 発 展し て き た 平 塚 の 海
戦災を受けた平塚市は鎌倉などの歴史や町並みなどの観光
の 玄 関 口 と し て 唯 一 自 然 環 境 が 残 っ て い る 平 塚 新 港は 湘
資源はあまり残っていない。主な観光資源は、湘南ひらつか
南地域における沿岸漁港の中核的な漁港とフィッシャリー
ビーチセンターや湘南平などの自然環境や中心部に集積して
ナの機能を兼ね備えた港として計画されている。 (図1)
いる文化関連施設群である。今後、平塚が観光によるまちづ
5.プ ロ グラ ム 計 画
くりを進めるには、工場などの2次産業や水産などの1次産
今後の交通網整備によって県央から北関東への交通の新
業の観光活用が大切になる。
たな玄関口となり、平塚市の交通拠点と顔になる場所であ
2-2. 観光 に よる 同 時・ 多 発 的な 行 動
る。そこで、平塚市の魅力 を総合的に紹介する シティ プ
近年、観光の形態として産業に関する施設や技術などの資
ロモーション センターの役割が求められる。優れ た環 境
源を用いて、地域内外の人々の交流を図る産業観光が注目さ
を 来 訪 者 が 享 受 す る た め に 自 然 、 歴 史文 化 、 産 業 を テ ー
れている。しかし、築地市場に見られるように、市場と観光
マ に し た 参 加 ・ 体 験 型 学 習 を 主 と し た施 設 と 産 業 施 設 を
の活動が同時・多発的に行われている為に業者と観光客が混
複合させた「SUKAフォーラム」として計画する。 (図2)
在し入場制限がかけられるなどの問題が存在している。
2-3.観 光 利 用 を 意 図 し た 既 存 建 築
唐戸市場の様な観光利用を意図した市場空間も見られる
様になった。見学デッキを設ける事で、業者と観光客の混
在を防ぐと共に、せり場を使わない時間には、机を出し観
光空間と変化させるなどの取り組みが行われている。
3.目 的
図2.
プログラム概念図
6.港 建 築の 設 計
本計画では、平塚市の発祥の地である須賀地区を対象
海 岸 で は 、 砂 浜 に 波 が 押 し 寄 せ 、 常に 二 つ に よ っ て 姿
とし 、 平成24年 度の さ がみ 縦 貫道 の 全面 開 通に よ り交 通
を変化させる柔らかな関係が築か
の 要 所 と な る 平 塚 新 港 を 中 心 と し 、 港の 機 能 に 交 流 機 能
れていた。(図3)しかし、現在の
を 加 え た 施 設 の 提 案 を 行 い 、 第 一 次 産業 の 活 性 化 と 来 訪
都市は安全確保の為、陸地と海
者を交流させる観光活動の双方に寄与する計画を行う。
の境はコンクリートの護岸によ
4.対象敷地
って固められ硬直化している。
平 塚新 港 に お ける 湊 建 築 を計 画
図 3.砂 浜と 波の 風
景する上で地形や橋のような土木的な構造物群と屋根や
壁 と 行 っ た 建 築 的 空 間 の 要 素 を 半 融 合さ せ る こ と で 建 築
と 土 木 を 砂 浜 と 波 の 様 な 柔 ら か な 関 係性 と す る こ と で 時
間と呼応した空間を作り出す。(図4)
土木
図1.対象敷地
建築
半融合
図4.空間構成ダイアグラム
HAKEI ­ Design of port Architecture where Architecture is Harmonized with Ground design­
Kazuya SUGI
7 .建 築 と 土 木 の 半 融 合
をスチールの構造とすることで、ルーバ―空間を生み出
7 - 1. 建 築 と 土 木 の 関 係 性
し光によって大屋根の空間に環境の変化を反映させる。
それぞれの分野で独立した技術によって発展してきた
8 - 3. 景 観 計 画
為、都市の大半が建築と土木でつくられているにも関わ
施設と住宅地の間に松林を連続させ、砂防と景観づく
らず両者の間には大きな断絶が存在する。しかし、環境
りを行う。建築は、堤防のエッジの強さを緩和するため
としてとらえると一体的に考えて行かなければならない。
に、大屋根空間でオーバーレイする。それにより、堤防
7 - 2. 半 融 合
による水際との分断の緩和剤の役割も果たす。さらに壁
建築と土木の持っているスケール感、材料、用途、デ
面や屋根を分節することで都市に対しての圧迫感を軽減
ザインなどの特徴を残しつつ、決して互いが溶融して1つ
させ、環境との調和を計る。
のなるのではなく、距離と関係を持ちつつ共存共栄して
9 .結 び
一つの空間を作り出す状態を半融合とする。
本修士設計では 、港の土木的な構造物群と人間のため
8 .建 築 計 画
の空間である建築を相互に機能と役割を持った空間とし
8 - 1. 空 間 の 形 態
て半融合した「湊建築」を提案することで漁港空間を再
展示空間を奥行きのない展望を兼ねた空間とすること
編し、地域の交流拠点とすることができた。また、ビジ
で360度の異なった景観を見ることを可能とし外部からは
ョンが不明確な平塚新港周辺の在り方に対して、さがみ
空間を感じなくなり、人が浮いている様な存在となる。
縦貫道の開通にともなう交流の拠点及びまちなか観光の
住宅地と施設の間に広場空間を設け、堤防の高さまでの
拠点として「SUKAフォーラム」を提案することで今
傾斜床にすることで空間をつなげる。市場と観光が複合
後の一つの方向性の提示を行うことができた。
する施設において、互いの活動の支障を減らす重層した
参考文献
空間をつくり出し、交流をスムーズに発生させる。
1)漁港工学概論
8 - 2. 木 質 空 間 に よ る 空 間 構 造
2)環境ノイズを読み風景をつくる
屋根と壁にひのきの集成材を用いて空間を作成する。
3)建土築木2
川口毅
著/成山堂書店
川のある風景
木材は集成することで自由な曲線をつくることが可能と
4)グラウンドスケープ宣言
なると共に塩害に強い材料となる。縦材を集成材、横材
5)第二次平塚都市マスタープラン
2008年度修士設計梗概集
宮本佳明 編著/彰国社
内藤廣 著/鹿島出版会
内藤廣
監修/丸善
東海大学工学研究科建築学専攻