(財)小平記念日立教育振興財団 家庭教育シンポジウム「幼児期の成長と

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家庭教育シンポジウム「幼児期の成長と思春期・プレ成人期の自己像–修了生にみる発達の連続性と変化を考える-」
シンポジストからの提言
1.家族関係の変遷と子どもの発達:妊娠期からプレ成人期までの縦断的調査から
講師
菅原
ますみ(お茶の水女子大学大学院 教授)
よろしくお願いいたします。私たちのグループで 1984 年から追跡を続けておりますデー
タから、親子関係と子どもの青年後期からプレ成人期の自立について報告をさせていただ
きたいと思います。それと同時に、先生方からご発表があったような長期的な発達研究と
いうのは、なかなか再現が難しく貴重なデータであるわけなのですが、そうした長期の発
達データをどう扱っていけばよいのか、難しい問題も多々あるのですけれども、いくつか
皆さんと一緒に考えていけたらと思っております。それではよろしくお願いいたします。
まず最初に、子どもの長期的な発達を考える枠組みとして、発達心理学や近隣の教育科
学、精神医学、小児科学などではどんなふうに考えられてきているかということを、少し
簡単にまとめておきたいと思います。子どもの能力が発達していく、心理的な特性が発達
していく、身体が発達していくことには非常にたくさんの要因が関わっています。私たち
が長期研究をする理由は、子どもの発達とそこに関わる要因との間の因果関係のメカニズ
ムを知りたいということとか、じゃあいったいどういう側面はどういうふうに発達してく
るのかという発達のリアルな姿を掴みたいと思うからなのですけれども、現実には、ブロ
ンフェンブレンナーの生態学的発達モデルをもちいますと、子どもを同心円の中心に置い
たときに、子どもは真空パックの中で育つのではなく、家庭や家庭をとりまく地域、社会、
そして地球環境に至るまで、さまざまな環境のいりこ構造の中にあって、それらの影響を
受けている。どんなにピンポイントの発達の一側面を取ったとしても、そこには全てこれ
らが投影しているということになります。しかし、一個の研究の中では全ての要因を取り
上げて測定することはできないので、そうした限界性を承知の上で、どこか一側面だけを
切り出していく、という限界が発達研究の場合には伴うわけです。さらに、子どもと環境
との関係性は、一方的に環境から子どもが影響を受けるだけでなく、子どももまた環境に
影響を与えていくという双方向性があるわけなので、そのリアルな姿を掴もうと思うと、
やはり、子ども自身とその環境と双方の測定を行っていかなくてはならない。そういう困
難さもあるということになります。
私の自己紹介が遅れましたが、私の専門は発達精神病理学ということで、子どもに精神
障害やさまざまな精神的な問題がなぜ、どのような要因の影響を受けて発達していってし
まうのか、エイジングの影響をどう受けるのか中で出ていくかということを明らかにした
いと考えています。発達のゴール変数として子どもの問題行動とか精神症状などの不適応
というものが入ってくるわけなのですけれども、こうした不適応行動の発達プロセスを解
明していこうとしている発達精神病理学という領域がありまして、1990 年代以降、急速に
発達心理学と児童精神医学の境界領域として発展してきています。たくさんの研究が積み
重ねられてきているのですけれども、これまでのところ、今申し上げましたような多くの
要因、恐らく正確には無限にあると思うのですけれども、中でも影響力度が強いと思われ
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る要因として、図のようにまとめて考えられてきています。
子どもの発達には、多くの要因が日々の
適応を通して影響を与えている
図の一番左上から見ると、子ども自身に影響している要因として、やっぱり遺伝子とい
うことも飛ばすことはできないだろう。それから、親とか先生とか、子どもと直接コミュ
ニケーションする身近な人間関係の影響も非常に大きくて、それをソーシャルサポートと
いうような言葉でまとめています。そして、当然、それらをすっぽり包み込んでいる社会
的環境も重要です。今、日本も政権交代しまして、非常に大きく教育環境も変わりつつあ
りますけれども、そうした政治経済、地域、自然環境といったものも、やはり影響を与え
る。そして、もう一つ重要なのは、そういうことが日々の子どもの適応に影響を与えてい
て、その積み重ねが子どもの病理の発生に関係してくる、という点です。今日元気か、明
日落ち込んでいるかという子どもの状態には日々変動があるわけですけれども、多くの要
因が、日々の子どもの心理的機能に影響を与えていて、それが長期に続いていくことによ
って、
日々どき少しづつ浮かんだり沈んだりはするけれども、適応範囲内で進んでいく
パターンもあれば、徐々に悪循環が起こって、だんだんに悪いことが起こっていくパター
ンもある。そうした時間の流れに沿ったプロセスを見ていかなくてはならないだろうとい
うことで、この発達精神病理学の領域では縦断研究というのを非常に重視しております。
私たちのグループも小さな研究ではありますが、こうした発達精神病理学枠組みから今デ
ータを集めているところなのですけれども、結果の一部をご覧いただきたいと思います。
首都圏にある一つの市立病院を舞台にしておりますが、最初に住んでいらっしゃるかた
はほとんどこの市のかたが多いのですが、人口の流入出が激しい地域なので、その後、い
ろいろな地域に住所が拡大していっています。テーマは“家族の精神保健と子どもの発達”
ということで、お父さん、お母さん、子どもの 3 者のメンタルヘルスの問題を中心に研究
を進めております。その中で、今回のテーマでもある親子関係いついてのデータをご覧い
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ただきたいと思います。登録の時期は 1984 年の 8 月から 1 年半ぐらいかけまして、妊娠初
期の段階で 1,260 名のかたが調査に参加してくださいました。当初、この研究は生後 1 ヶ
月検診までというふうに計画されておりました。周産期のお母さんの軽症のマタニティー
ブルーズを含んだうつ病の発症プロセスや、それがどういうふうに乳児にに影響するか、
ということを研究することになっておりましたので、1 ヶ月検診まで測定しよう、というこ
とだったのですが、その後の縦断研究に登録してくださったかたがいらっしゃって、その
かたたちを今追跡させていただいています。調査をおこなった時期は、妊娠中 3 回と出産
後 11 回と計 14 回実施してきていますが、研究費がつくかつかないかで間がバラバラなの
ですけれども、子どもが小学校に上がった頃になりまして、コンスタントに 4 年に 1 回ず
つ追跡調査を実施してきています。研究全体としましては研究費に余裕があるときには極
力お目にかかって面接をさせていただいたり、家族のコミュニケーションの様子をビデオ
で撮らせていただいたりということをしておりますが、本日はアンケートのデータを中心
に報告させていただきたいと思います。
児童期以降の追跡調査では、住所が判明している 615 家族が母集団になりました。小さ
い頃は母親だけに調査を実施してきたのですが、小学校高学年の生後 11 年目、つまり子ど
もが 10 歳になったときからから、お父さん、お母さん、子どもの三者のデータを収集して
きています。住所がなかなかわからなくなってしまったりして、11 年目で三者全員が取れ
ているのが 313 世帯、15 年目で 277 世帯、18 年目で 267 世帯というようなサンプル数と
なっています。
二つの結果をご覧いただきたいと思っているのですが、まず一つは子どもの問題行動の
発達と親子関係との関連についてです。子どもの問題行動には、非常に衝動が強くて、そ
のコントロールがあまり上手ではないということに主原因のある統制不全・外面化型とい
う、情緒や行動の問題のタイプがあります。注意欠陥、多動や攻撃的、反社会的、過度の
反抗といったような問題行動群のことで、いわゆるアクティングアウト系と呼ばれるもの
です。もう一つのタイプは、今度は衝動の強弱に関わらず、コントロールが効きすぎて、
さまざまな不思議な精神症状が子どもの内面に結実かする統制過剰型・内面化型という問
題行動群があります。両方について小さいときから測定を試みてきていますが、今日は統
制不全・外面化型の問題行動についての結果を少しご覧いただきたいと思います。児童精
神医学の領域では、児童期や思春期になってこうした統制不全型の問題行動が顕著になる
子どもたちのなかには、非常に小さいときからその兆候が明らかになって、それが継続す
る一部の子どもたちがいるということが知られておりました。こうした問題行動を測定す
る尺度として、現在、世界中の研究者が共有して広く使われてきているCBCL(チャイ
ルド・ビヘイビア・チェックリスト)というものがあります。113 項目もありますので、非
常にお答えいただくのが大変なのですけれども、私たちの研究では、児童期以降、この尺
度をできる限り毎回記入していただいております。そして、その第一因子としてまとまっ
てくるのが、このリストにあるような統制不全型の問題行動の項目で、これらの項目の総
合得点を 8 歳以降、統制不全型の問題行動得点として分析してきました。そして、更に幼
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少期でも、小さい子なりに、衝動が強くてコントロールがあまり上手ではない、という萌
芽的な行動傾向の生後 6 ヶ月から測定を試みています。小さいときはたいして人の迷惑に
ならないわけなのですけれども、しかし、一度泣き始めるとなかなか自力では泣きやめな
い、かんしゃくを起こすことが多い、といった泣く項目になりますが、1 歳半や 5 年目幼児
期のところになると、わがまま、言うことをきかない、といった項目も尺度のなかに入っ
てきています。そして、これに対して、環境側の変数としてお母さんの愛着感を取り上げ
て分析をしてみました。母親に限らず、父親でも保育士さんでもそうなのですが、小さい
子に密着して責任をもって関わる人たちの気持ちというのは、やっぱり二面性がある。可
愛いけど大変、というようなポジティブな側面とネガティブな側面があるということが研
究で明らかにされてきております。私たちの研究でも、そのニ側面が一人の人について測
れるような尺度を使いまして、そのニ因子がどのように子どもの発達に絡んでいくのかと
いうことを見てきております。統制不全型の問題行動と色濃く絡んでおりましたのは否定
的な側面のほうでした。この統制不全型の問題傾向が強いお子さんを持っているお母さん
と、それから、それがほとんど問題がみられない子どものお母さんとを比較すると、肯定
感のところでは差はない。ところが、否定感、つまり子どもを煩わしく思ったりするとい
うところで統計学的に有意な差があった、ということが、まず、一つの発見でした。じゃ
あ、そのルーツはどこにあるのか、ということで、小学校高学年(10 歳)でお子さんの統
制不全型問題行動がたくさん出た群と、ほとんどそういうものが出なかった群、その二つ
のグループのお母さまの過去に遡って、その時々の子どもに対する否定的な気持ちをプロ
ットしてみました。すると、妊娠中期や生後 5 日目、一ヶ月目のところまでは有意な得点
差はありませんでした。全く同じ項目で聞いておりますので、絶対値的に比較することが
できるのですけれども、その差が 1 歳半ぐらいのところから徐々に開いていくということ
がわかりました。こうした子どもに対する親のネガティブな気持ちというのは、だいたい
幼児期ぐらいをピークにだんだん下がっていくものなのですが、こうやってグループを分
けて見ると、かなり大きな開きがあるということがわかってきました。子どもの行動特徴
とお母さんが相互作用をする中で、子どもの問題行動にひきずられるようなかたちで、否
定的な面でのお母さんの感情が変化していくのではないだろうか、というふうに考察して
おります。そして、縦断研究の場合は、各時点で同じ尺度で延々と測定を続けていきます
と、要因間の因果関係を類推していくことが可能になっていきます。全く同じような内容
で取っていくことが必要になってくるわけなのですが、これを試みに分析してみたところ、
6 ヶ月のところから 14 歳までお子さんの統制不全型の問題傾向にはある程度の安定性があ
るということがわかるわけなのですが、一方のお母さんの否定的感情のほうも、ある程度
の一貫性があるのですけれども、その、どちらがどちらの原因になっているのか、という
推測のところでは、小さいところでは、まず子どもの行動特徴の難しさが、お母さんの否
定的な感情を膨らませている様子がわかりました。1 歳半のところでも、まだ、同じような
関係性ですが、次の児童期に向かって、お母さんが子どもに否定的な感情を持っていると
いうことが、余計、そのお子さんの統制不全型の問題行動を促進する、という逆の因果関
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係もあることがうかがわれ、子どもの問題と母親の感情が悪循環に陥っていることが想像
できます。しかし、もう思春期になると、お母さんの否定的感情面からパスが出ていませ
ん。良いにしろ悪いにしろ、全体的にお母さんの影響力が小さい頃より低くなるのかもし
れない、ということも想像させる結果となりました。、このような要因の間の関係性を推測
していくということも縦断研究の一つの仕事だろうと思われます。これについては、測定
尺度の問題とか、手法的な課題はまだまだあるのですけれども、このような発達的な関係
性のプロフィールを見ることができて、とても興味深く思っています。そして、私たち発
達精神病理学で一番知りたいのは、じゃあ、どうすれば未然にそういうことが防げるかと
いうところなのですが、これに関しては、生後 6 ヶ月のときに似たような行動特徴のプロ
フィールを持っていたお子さんで、児童期にたくさん問題が花開いてしまった群と、あま
り花開かずに済んだという群を比較してみると、花開かなかったグループにあった要因が
問題行動の発達を防ぐ予防因子となる可能性がありますので、そのような分析比較をも行
なってみました。そうしますと、児童期では問題が花開かずに済んだ群では、父親の養育
態度が温かく子どもの自主性をより尊重する養育態度が見られました。母親よりも少し距
離のある人との良好な人間関係が問題行動の発達を防ぐ良い動きをしたのかもしれない。
更に、もう一つ、これも発見でしたが、夫婦関係が子どもの小さいときから一貫して良好
だったという特徴も明らかになりました。やはり、子育てに奮闘するお母さんをサポート
する、という父親の役割が重要なのではないか、といったような考察をしております。
このように、同じようなスタートでも複数の結果が有り得る。これを発達精神病理学で
はマルチファイナリティーと呼んでおります。また一方で、イクイファイナリティー、つ
まり、スタート地点が違うのに、同じような結果になる場合もある。子どもの発達につい
ての縦断研究の場合には、平均的な発達のルートを切り出すだけでなく、様々なマルチフ
ァイナリティーのストーリーと、イクイファイナリティーのストーリーというのを切り出
していくというのも大きな一つ仕事になるだろうと考えております。この統制不全型の問
題行動については、外国でもたくさんの研究がなされておりまして、今、一番ホットなと
ころは、やはり遺伝子的なベースというものがあるだろう、と考えられてきており、遺伝
子上の個人差と環境要因との相互作用に関する研究も進んできています。私たちのデータ
で単純相関を見てみましても、生後 6 ヶ月から 10 歳のところ、それから 14 歳のところで
も、弱いけれども有意な相関が残っておりました。これは私たちのまた別の研究なのです
けれども、双生児を対象にした縦断研究を展開しております。こちらのほうでは発達のメ
カニズムとして、一つ、遺伝要因というものをしっかり統制して見ていこうという主旨で
やっているのですけれども、その結果を少しお示ししますと、小学校期での統制不全型の
問題行動傾向には、3 割から 4 割ぐらいの遺伝子的な、つまり遺伝子上の個人差に起因でき
るような要因が絡んでいるのではないか、という結果が得られています。外国ではもっと
高い遺伝率のデーターが報告されていて、6 割、7 割という報告もありますが、環境要因の
影響をよりクリアに知るためには、こうした遺伝的要因を考慮した研究というのも今後重
要になってくると考えています。
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次に、もう少し大きい年齢段階で測定した子どもの自立の問題と、親子の愛着関係との
絡みについてご報告させていただきます。今見ていただいた、親の子どもに対する気持ち
の2つの因子のうち、今度はボジティブな面で、子どもをいとしい、可愛く思うといった
肯定的な側面との関連について見ていったデーターをご覧いただきたいと思います。
親子関係の発達を見ていくうえで、望んだ妊娠かどうかということは非常に気になると
ころなのですけれども、私たちのグループのお母さまたちにも、妊娠がわかったその時に
アンケート調査をさせていただいていて、今回の妊娠は望んだものでしたか?、今嬉しい
ですか?ということを妊娠初期の調査時にお伺いしております。それ以降、妊娠中期、出
産後 5 日目、1 ヶ月目、1 歳半、5 歳、10 歳と、同じ項目で聞いてきています。そうします
と妊娠初期、一番最初の段階での望んだ妊娠だったかどうかということの影響は意外に早
く消失していて、単純な相関ですけれども、生後 5 日目のところで、もう既に r=0.16 とい
う弱い相関で、その後、有意な関連はもうみられませんでした。これに対して、妊娠中期、
妊娠 20 週から 23 週で伺っているのですけれども、このとき、お腹の中の赤ちゃんをどの
ぐらい愛しく感じられたかという肯定的な愛着感については、10 歳のところまで有意な相
関が消えていないということがわかりました。つまり、子どもに対する愛着感の発達には、
望んだ妊娠だったかどうかということの影響よりも、妊娠後のかなり早い時期に起こるい
ろいろなライフイベンツの影響のほうが大きいのかもしれない、と推測しています。その
時期にはたくさんのことを決めなくてはいけないわけなのですけれども、私たちの調査で
もできちゃった婚というのはかなりたくさんあったわけなのですけれども、できちゃった
婚に象徴されるような、非常に大きなライフスタイルの変更や心身の準備状況などが、愛
着感の形成に影響するのかもしれないなと感じております。妊娠中からずっと同じ尺度で
愛着感を測定していますが、乳児期の大事な発達の指標として、1 歳になったときに、今度
は子どもが親に愛着をしっかり形成することができているかどうか、についても測定をお
こないました。お母さんたちに子どもとの愛着関係についての評価をしていただいたので
すが、この子は誰よりも私が好きだと思うとか、この子のことは誰よりも私が理解できる
とか、まだ 1 歳なのですけれども、私の気持ちがこの子にはわかると思うとか、誰よりも
私に懐いているといったような6項目で測定をおこないました。その母子の愛着関係得点
には、先行する時期での母親の子どもへの愛着も影響していましたし、また、生後 1 年目
での夫婦関係も弱いですけれども影響がありました。お父さんがどれだけ子育てをサポー
トしてくれるかという、父親の子育てサポートも弱いですけれども有意な影響がみられま
した。さらに、お母さん自身がどれだけ子育てを上手くやれていると思えているか、子育
が大変だと思っているか、といった子育てストレスも影響していて、様々な要因が 1 歳時
の母子の愛着関係に少しずつ影響しているということがわかりました。
そして、その 1 歳のときの愛着関係が、どのぐらい後のちに連続して関わっていくのだ
ろうかということを分析してみました。10 歳の時点ではお子さん自身やお父さんも参加し
ていただきましたので、そうした家族の要因も含めて 10 歳のときに母親が評価する親子関
係の良好さにどのように影響しているかみたところ、1 歳のときの母親の愛着関係が 0.3、
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と、中程度の有意な連続性が見られていました。そして、子ども自身が評価する親子関係
の良好さについても測定をおこなったのですが、まだ 10 歳のときは、素朴な3項目を尋ね
ていて、なんでもお父さんには話せる、お母さんには話せるといった自己開示性と、仲の
良さ、それに両親それぞれに対する好意の程度を尋ねました。その子どもの母子関係評価
の得点にはも、1 歳時点の母親の愛着関係評価が 0.18 ということで、弱いですが有意な関
連がありました。とても細いパスではありますが、直接的に 1 歳のときの母親の愛着評価
が 10 年後の子どもの関係性評価に有意な関連で残っていることはとても興味深いと思って
おります。関係性が変わる親子というのもたくさんいるわけですが、連続する親子という
ものも無視できないぐらいいて、その安定性を担保するようなメカニズムがあるのだろう
というふうに類推しております。
こうした子どもの親に対する親子関係評価の測定については、14 歳からはもうちょっと
バージョンアップしまして、信頼感を中心とした 11 項目に拡張して尋ねております。お父
さん、お母さん、それぞれについて伺っているのですけれども、その得点の 14 歳、18 歳、
22 歳の平均値をプロットしてみました。、その結果、一つの大きな発見がありました。当然、
私たちもご家族に会っていて、やっぱり日本はそうは言っても全体的にお母さんと子ども
が非常に近いなと感じていたのですけれども、14 歳のところでは確かに有意差があって、
お母さんへの信頼感のほうがお父さんよりも高い。18 歳もまだその傾向は変わらないので
すが、22 歳のところで逆転しておりまして、お父さんに対する信頼感というのがギュッと
伸びていました。この先どうなるかわからないのですが、父子関係というのは結構、思春
期以降に伸びていくのかもしれない。これは私も長年研究を続けておりますが、この結果
を見たときには大変驚きました。こうした親子の愛着関係が、子どもの親からの心理的自
立にどう影響するか、についても検討をおこなってみましたが、親からの自立については、
18 歳と 22 歳のところで子どもに尋ねてみました。 親からの自立については自立度、とい
う一因子が想定されていたのですが、実際に因子分析をおこなったところ、2つの因子が
出てきており、1つは、両親は私のことをよく知っているし、理解してくれているうえで、
自分の意志を親にはっきり言うという、安定的な親子関係を基盤とした上での自立的状態、
ということで、連結的自立というふうに因子に名前を付けてみました。2 つ目の因子は、そ
れに対し、親と自分は違う、いつまでも親に頼ってはいられないと、いうような内容で、
分離的自立、と名づけました。2つの因子があるということは、いろいろな青年がいるの
だなということが推測されます。両方の得点が高い人もいれば、片方の得点しか高くない
という人もいるということになりますね。この二つの因子の得点と、それから青年期の大
きな発達課題である進路意識、自分の将来をどれだけ明確にプランを立て行動し始めてい
るか、という進路意識や行動に関する尺度を用いて測定をおこない、両者の関係性を検討
してみました。そうしますと、14 歳の中学生期の親子の信頼感や、親がどれだけ子どもの
自主性を尊重した養育態度であったか、養育態度がどれだけ温かかったかといったような
ことが、18 歳時児の連結的自立の因子に多くの有意なパスとして関連性が示されました。
そして、弱めのパスですけれども 0.17 ということで、進路意識の明確さというところに連
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結的自立から有意なパスが引かれることがわかったのです。そしてさらに興味深かったの
は、中学生のときの養育態度や信頼関係は、母親だけでなく、父親も有意な関連が見られ、
中学生期の親子関係は両親とも重要だということがわかりました。まだ今のところの推測
に過ぎないですけれども、親との心理的自立には、愛着をベースとした連結的自立とそれ
が薄い分離的自立があって、前者のほうが成人期のアイデンティティーの確立に向けてよ
り重要な効果を持つのかもしれない、と考えています。
最後に、またちょっと面白いプレ成人期の親子関係に関する結果をご覧いただきたいの
ですが、22 歳になったときに、子どもは親についてどのような満足感を持っているかとい
うことについて、素朴な 100 点満点方式で点数をつけていただきました。親として、配偶
者、それから社会人としてという 3 側面について採点してもらいました。すると、親とし
ての満足度はやっぱり母親のほうが高く、それから配偶者としての満足度もやっぱりお父
さんよりもお母さんのほうが妻としてよくやっていたという評価なのですが、社会人とし
ての満足度では有意差がありませんでした。さきほどの親に対する信頼感の両親比較もそ
うですが、子どもの親を見る目というのも子どもの成長に従って変わっていくものなのだ
ということをデータから見て、とても興味深く感じています。
最後に、長期の縦断データをどう解析していくか、について、簡単に触れさせていただ
きたいと思います。、発達の軌跡、つまりルートには、身長や体重のように全員が同じ動き
をするものもあります。身長は途中で縮む人はいませんので、全員が時間に沿ってだんだ
ん高くなっていく、という一つのパターンしかないわけですが、心理的な発達には、いろ
いろなパターンがあるかもしれない。縦断的なデータを用いて、その多様なパターンを切
り出していくための統計手法が考案されてきています。潜在成長曲線分析という手法です
が、今、私が手持ちの縦断データーで解析を試みた結果をご覧下さい。このデータは非常
に素朴なのですけれども、乳幼児がどのぐらいテレビを 1 日のうちに見ているでしょうか、
というテレビの接触量について、NHK放送文化研究所と一緒に 0 歳から毎年一回ずつ測
定を繰り返してきています。現在、5 歳までのデータをまとめたところなのですが、0、1、
2、3、4、5 と 6 時点でのテレビ接触量について、対象の子どもは約 1,000 人いるのですが、
1,000 人だと 1,000 の 6 時点の折れ線グラフが実際に書けるわけですね。その折れ線グラフ
にどんなパターンがあるのかについて、そうですね、折れ線グラフのパターンの因子分析
だと思っていただきたいと思いますが、潜在クラス分析という手法で分析をおこなってみ
ました。そうしますと部屋でテレビがついている時間をあらわす接触量の平均値では 1 歳
がピークで、おそらく子ども時代で一番、テレビにたくさん接しているのは 1 歳だといえ
そうなのですが、そこから幼児期に向かって接触量は急速に下がってきています。一方、
子どもがテレビをじっくりと、あるいは何かしながらでもテレビを見ている、という視聴
量という指標を見ると、視聴量のほうは接触量より絶対量も少なくて、しかも年齢によっ
てもあまり変化がありません。小さいうちは、ただテレビがついているだけという時間が
長いのですけれども、そうした接触量にどんなパターンがあるのかというのを潜在クラス
分析でみたところ、三つの変化のパターンがあるということがわかりました。みんな下が
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ってくるのですけれども、最初からとても長い時間接触している家庭があり、0 歳で 6 時間、
1 歳のときには 7 時間で、、もう一日テレビがついちゃっているじゃないという家庭なので
すけれども、その人たちが 7.5%くらいいて、その子たちの接触量もだんだんに低下してい
きます。一番人数が多いのがこの緑の曲線で、56.3%がここに入っていて、半数以上の家庭
お家は、だいたい 0 歳でも 150 分ぐらいから始まって 1 歳で上がり、その後なだらかに下
がってきている。また、テレビを実際に見ている視聴量のほうでも、やっぱり三つの変化
のパターンがあって、一番多いのはあまり変化がないパターンで、最初から 90 分ぐらいし
か見ていなくてずっとそれが一定、という感じなのですが、一つだけ、全体の 17%ぐらい
の子どもたちはは加齢に伴って視聴量が上がっていく、つまり、テレビを熱心に見るよう
になっていく、そういう子どもたちもいるということがわかりました。こうした変化のパ
ターンを切り出してくることが出来るとすると、では、このパターンを分けているのは、
どんな要因なんだろうか、という少しメカニズムの話に進んでいけるということになろう
かと思います。発達精神病理学では、こうしたツリーモデルというものを重視しています。
発達にはいろいろなルートがあるのですが、小さいときには、この絵の幹のように、そん
なに差が大きくないのですけれども、だんだんと差が大きくなっていって枝分かれしてい
く。真ん中はスクスクとした適応の連続なのですけれども、人生で何もなく適応の連続、
という人も全体が 80 歳くらいになったら非常に数は少ないだろう、と予想されます。いろ
いろなパターンに枝分かれしていくときには、何か大きな変化が起きたときだと考えられ
ますが、こうした大きなターニングポイントにはどのようなものがあるのかを探していく
というのも、また、発達の追跡研究ならではの仕事だろうというふうに考えております。
私の発表はこれで終わらせていただきます。
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