日本経営財務研究学会第 37回全国大会自由論題報告資本移動と企業金融高橋衛（常葉大学）【要旨】本報告の主要な目的は「資本移動の困難性」（「投資の非可逆性」「資産転用の困難性」とも表現される）という問題をとりあげ企業金融の視点から検討することである。無形資産は、長澤・伊藤（ 2010）によって整理されているように、 2つの側面をもっている。無形資産は、一方で、企業特殊性の強さ、汎用性のなさという点からみれば、「硬直的」であるかもしれない。その側面からみるかぎりでは、無形資産集約企業は、不採算事業からの撤退などのリストラクチャリングを速やかには実行できないかもしれない。無形資産は、他方で、同時・多重利用の可能性という点からみれば、「資産転用の可能性」をもち、そのかぎりで「柔軟性」をもつかもしれない。その側面からみるかぎりでは、無形資産集約企業は、不採算事業からの撤退などのリストラクチャリングを速やかに実行できるかもしれない。もし「資本移動の困難性」をめぐる企業活動の動きを産業特性、時代特性、地域特性などを考慮しつついっそう具体的に解明することができれば、最近の企業活動のグローバル化の諸々の特徴－海外売上高比率の上昇傾向、外国人持株比率の上昇傾向、無形固定資産投資の増加傾向－の相互の関連がいっそう具体的にあきらかになるであろう。本報告では「資本移動の困難性」の典型事例として 1980年代以降の素材産業をとりあげ企業金融の視点から考察したい。財務省（各年）『財政金融統計月報法人企業統計年報特集』を利用し、主として固定資産投資、自己資本比率の推移を検討し、時系列データの分析を通じて時代特性を描き出し、業種別データの分析を通じて産業特性を描き出す。東京証券取引所その他（ 2013）を利用し、株主構成の分析を通じて外国人持株比率の動きにも触れる。なお本報告では上記の問題意識から「資本移動」という用語を金融市場、証券市場をめぐる「資本移動」と多角化（多業種化）、多国籍化をめぐる「資本移動」とを区別して使用する。【参考文献】 [1] 長澤賢一・伊藤彰敏（ 2010），「無形資産投資がリストラクチャリングに与える影響に関する研究」，『経営財務研究』第 29巻第 1・ 2合併号． [2] 財務省（各年），『財政金融統計月報法人企業統計年報特集』，財務省． [3] 東京証券取引所・大阪証券取引所・名古屋証券取引所・福岡証券取引所・札幌証券取引所（ 2013），「平成 24年度株式分布状況調査の調査結果について」（ http://www.tse.or.jp/market/data/examination/distribute/b7gje6000000508d -att/b unpu2012.pdf） [4] Takeo Hoshi and Anil Kashyap（ 2011）， Corporate Financing and Governance in Japan， The MIT Press． [5] E.Philip Davis and Benn Steil（ 2001） ,Institutional Investors, The MIT Press. [6] Sanjai Bhagat and Richard H.Jefferis,Jr.（ 2002）， The Econometrics of Corporate Governance Studies， The MIT Press． 1