主体的に運動に取り組む生徒を育てる体育授業の創造

中学校 第1学年女子 保健体育科
B 器械運動 エ 跳び箱運動「頭はね跳び」
主体的に運動に取り組む生徒を育てる体育授業の創造
岐阜県岐阜市立岐阜中央中学校
1.研究仮説
MO(態度観察)カード MO氏名
集団の発達のみちすじ(「所属」→「同調」→
「協力」→「連帯」)に即して,集団の成立条件
を整えることによって学習集団の発達を促すこ
とができる。また,運動の特性や学習課題に合わ
せて,
仲間の活動を援助する活動
(相互援助活動)
や言語活動を指導過程の中に位置付けて指導す
ることにより,
仲間に積極的に関わる態度が身に
付き,運動の楽しさやできた喜びを味わいなが
ら,
仲間と共に主体的に運動に取り組む生徒を育
てることができる。
NO
場 面
①
集合、整列、移動
②
挨拶・返事、反応
③
準備体操
④
練習、発表会
⑤
グループ会
⑥
準備・片付け
【記入の仕方】
・MO が観察をして、◎(完璧に守れている)
、×(少し
でも守れていない)を記入する。○や△はなし。
・欠席者や見学者は、斜線を引く。
)
1年3,4組
時間
1班
(黄)
2時
① ②
③ ④
3時
⑤ ⑥
① ② ③
④ ⑤
4時
⑥ ① ②
③ ④
5時
⑤ ⑥
① ②
③ ④
① ② ③
④ ⑤
2班
⑥
(赤)
2
3班
3
4
(緑)
5
4班
6
◎の数
%
%
%
2
跳び箱運動
3
集団の高まり表
4
5
6
90% 100% 100% 100% 100%
6時
⑤ ⑥
1
◎達成率
哲也
表1 頭はね跳び 集団の高まり表
第4時~第6時までのきまり(第3時終了後、きまりを考える。
)
グループ
時
きまり
氏名
色(
第2時~第3時までのきまり
森
%
(オレンジ)
%
【MO の振り返り】
活動の様子を見て、態度面
について気付いたことを具
体的な姿で書く。
5班
(紫)
6班
図3 頭はね跳び MO カード
(黒)
36%
47%
83%
86% 100% 100% 100%
73%
92% 100%
94%
94%
88%
94% 100%
73%
77%
93%
77%
93%
92%
98%
88%
72%
88%
※ きまりの◎の達成率(◎の個数÷全体の個数)を出そう。
評価は判断が曖昧にならないようにするため,◎
と×で行うようにした。できたら◎,できなかった
2.研究内容及び研究方法
仲間と相互に援助し合い主体的な活動ができる
学習集団の育成
(1)集団の発達のみちすじに即した段階的な指導
(2)主体的な学びを生み出す相互援助活動
3.研究実践
ら×として,◎の数をグループ全体の項目数で割っ
実践例 1年女子「頭はね跳び」(11月実施)
ープのきまりの◎の達成率の平均である。
(1) 集団の発達のみちすじに即した段階的な指導
たものを◎達成率で表した。グループごとのきまり
の達成率を表1のように生徒に示すことで,集団の
高まりについても視覚的に競い合うことができるよ
うにした。表2は「頭はね跳び」においての各グル
表2 頭はね跳び ◎達成率(集団の高まり)の平均
時間
集団が発達していく過程を大まかにとらえると,
グループ
6グループ
図1のようになることが明らかになっている。
①所属的段階
気 持 ちが バラバ
「所属的段階」→
ラ で まと まりの
ない状態
→
②同調的段階
→
③協力的段階
→
④連帯的段階
指示を受け止め,
共 に 助け 合った
集 団 の成 果を求
共 に 行動 できる
り,教え合ったり
めて,互いに要求
状態
できる状態
し合える状態
図1 集団の発達のみちすじ
また,図2の4つは観点と集団の成立条件である。
①課 題:学習課題が明確になっていて,全員がそれに立ち向かっていること。
②役 割:集団の中に必要な役割が位置付いていて,その機能が発揮されていること。
③きまり:集団の中できまりが作られており,誰もがきまりを守って活動していること。
④仲 間:同じ集団の仲間として心情的な結びつきがあり,集団への所属意識があること。
図2 集団の成立条件
以前に行ったマット運動では,教師が与えていた
『集合・整列』『練習態度』『準備・片付け』等の
きまりを,「指摘」や「真剣」「喜び」などのキー
ワードを含めて生徒に考えさせたことで,意欲的に
活動するとともに,指摘し合ったり要求し合ったり
する姿が見られ,協力的段階から少しずつ連帯的段
階へと近付いてきた。
平均
2
3
4
5
6
78.5% 83.7% 90.3% 89.2% 96.8%
リーダーや PO,MO が役割を果たすグループ会
全体として,時間を追うごとに◎の達成率が上が
っていることが分かる。黄,赤,緑の3グループに
ついては,毎時間◎の達成率を上げている。単元の
前半で◎の達成率の低かった赤グループについて
も,
お互いに厳しく評価した結果の達成率であった。
また,学習後の振り返りでは,次のような記述が
あった。
・自分のグループがどれだけできているかを他の
グループと比べることができてよかった。
・他のグループと比べて競争心が生まれてさらに
やる気が出たのと,残りの%を見て自分たちに
足りないものが何なのかを考えることができて
良かった。
・MO が厳しくチェックしてくれたので,自分に
も厳しく行動することができてよかった。
・技の得点ときまりの達成率が別に表されたこと
で,集団として高まっていくのがよく分かって
よかった。
本単元では,集団としての高まりがより分かるよ
このように,◎の達成率を表にして生徒に示した
うに,毎時間の振り返りでMO(態度観察係)がグ
り,運動面(技)の得点と集団面の得点とを分けて
ループ全員のきまりの達成結果を評価し(※図3参
MO が評価したりしたことについて,よさを感じな
照)伝え,得点化することとした。
がら取り組むことができた。
(2) 主体的な学びを生み出す相互援助活動
実践例③ 1年女子「頭はね跳び」
本単元では,グループにおける一人一人
の役割を図4のようにローテーション(試
技者:1人→補助者:2人→動画撮影:1
人→アドバイス:1人または2人)しなが
ら必ずアドバイスを受けることができ 図4 本単元における練習形態
るようにした。その中で,生徒が必要に応じてタブ
レット端末を活用できるようにした。実際の映像で
自分の動きを見ることで,実際の動きや課題を正確
につかみ,次の動きに生かすことができると考えた
からである。
そして,前単元で成果があった図5のような得点
表を作成したことに加えて,より個人の実態に応じ
た練習ができるように,課題に応じた練習方法や技
術ポイントを示した表(図6)も活用した。
5
膝が
伸びた
回 転
(大きな
頭はね
跳び)
3
2
姿・できばえ
点
「くの
字」から
は ね て
4 突き放す
(後半の
勢い)
5
技術
3
やる気
ばっちり
ある
あまりない
ない
三点倒立ブリッジ学習前
16
40
6
1
頭はね跳び学習後
32
22
5
0
※数字は人数を表す( 対象:1学年女子全員 )
・仲間のアドバイスで5点の頭はね跳びをすること
ができたから。
・初めはできなかったが,友達のアドバイスのおか
げでできるようになったから。
・うまくできるようになってとてもうれしいから,
仲間にたくさんアドバイスができた。
・グループで一丸となってできたし,アドバイスし
合えたから。
図7 学習前後におけるやる気の変化と理由
このように,生徒たちは本単元での練習の仕方や
グループの仲間との教え合いのよさを感じるととも
「膝!」
に,アドバイスによってできるようになったと実感
■壁の押し放し
■ステージから頭はね下り(はねて,突き放す)
することができた。その結果,全体として器械運動
3
手と前頭部を着いて,第2局面で体を反って回転できる。
は,図7のようなやる気の変化や記述があった。
練習方法 (声かけ)
■マットで屈身の三点倒立からブリッジ
■ステージから頭はね下り(伸膝・閉脚)
① 「くの字」姿勢
■補助してもらいながら はねて,突き放す
② かかとの投げ出し(は「今!」
膝の曲がった「くの字」姿勢から,腰が倒れた瞬間にはねて突き放す。(勢いのある頭はね跳び)
(はねて突き放すタイミングを教える声)+背中を触る
ね動作)
③ 手の強い突き放し
腰が
曲がっ
たまま
回転
さらに,「頭はね跳び」の学習後の振り返りで
5
4
4
活用について,次のような記述があった。
・誰かはすごく働いていて,誰かは全然働いてい
ないということがなく,全員で練習できた。
・タブレットを使うことで,自分の姿がとてもよ
く分かり,次の練習で意識することができた。
・自分の膝が曲がっていないかなど,口だけでな
く見ることができて分かりやすかった。
① 膝の伸ばし(伸膝)
② 脚を揃える(閉脚)
膝を伸ばした「くの字」姿勢から,膝を伸ばしたままはねる。(大きな頭はね跳び)
第 2
局面で
体を反
って回
転
また,ローテーションの練習形態やタブレットの
■伸膝台上前転
■マットで三点倒立からブリッジ
■ステージから頭はね下り(反って着地)
① 「くの字」姿勢
② 体の反り
に対するやる気が上がったと考えられる。
「くの字」
「反って!」
(タイミングよく)
補助
をつけ
て回転
2
2
手と前頭部で体を支持して,かかえ込み姿勢で回転できる。(腰が曲がったまま)
1
① 助走スピード
② 強い踏み切り
③ 前頭部の着台
■台上前転
■補助してもらいながら,マットで三点倒立からブリッジ
■跳び箱でその場踏み切りから高く跳んで,補助ありで頭はね跳び
■スプリング踏み切り板,及び低い段の跳び箱で練習
「走れ!」
「ジャンプ!」
1
回転
できな
い
○成 果
回転できない。補助をつけて回転できる。
図6 頭はね跳び技術と練習方法表
図5 頭はね跳び得点表
4.成果と課題
・集団の発達のみちすじを基に,段階に応じてきま
なお,前単元とは異なり,集団のきまりの得点を
りを与えたり考えさせたりしながら指導するこ
加えず技のできばえのみの得点の平均を集計した結
とで,動きについて指摘し合いながら練習する姿
果を表3に示した。
が見られ,集団を高めることができた。
表3 頭はね跳び グループ得点(運動)
1年3,4組
頭はね跳び
2
3
4
5
1班(黄)
2.6
3.4
4.4
5
2班(赤)
2.2
2.8
3.6
4.5
3班(緑)
1.8
2.1
3.4
4.3
4班(オレンジ)
3.2
3.2
3.5
3.5
5班(紫)
1.8
2.4
2.9
4.4
6班(黒)
2.5
2.7
3.2
3.7
2.4
2.8
3.5
4.2
グループ
時間
平均
・タブレット端末を活用できるようにしたことで,
グループ得点表
映像を指し示しながら,具体的に指摘したりアド
バイスしたりできた。また,試技者は,映像で自
分の姿を見ることによってどこがどうなってい
頭はね跳びをする姿(連続写真)
生徒たちは,得点表を基にした
るのかが分かり,その部分を意識して運動がで
き,動きに生かすことができた。
仲間の具体的なアドバイスや指
●課 題
摘,さらに献身的な補助,タブレ
・それぞれの役割に責任をもつという点で弱さがあ
ったので、MO や PO(技能観察係)には観察や点
ットの活用によって,平均4.
2点の姿まで上達することが
補助をするリーダーと練習する生徒
検活動を位置付け,よさを認め価値付けていくこ
できた。全員がそれぞれの役割で
とはもちろん,その他のグループ全員に責任をも
かかわり合う練習,得点表やタブ
てる役割を与え,見届けていくようにする。
レットでの確認(※写真参照)に
タブレットを活用する姿
・グループ練習において、苦手な子が練習の場をう
よって全体として表3や連続写真のように毎時間
まく活用することができるローテーションや、場
姿が高まった。
の設定について考えていく。