BUNさんと泉先生の廃棄物処理法逐条解説

BUNさんと泉先生の廃棄物処理法逐条解説
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第12条終了時の復習を兼ねて
BUNさん(『土日で入門 廃棄物処理法』の著者)
泉 先生 (廃棄物部門でご活躍の女性弁護士)
<BUNさん>
前回で「事業者の処理」である第12条を一通り見ました。
ただ、法律の全体の流れがなるべく見えるようにと、極力、政省令には触れないで解説
をしてきました。泉先生は適時解説なさってくださっていましたが、この12条は排出事
業者にとっては、重要な規定ですので、法律解説では採り上げなかった政省令を含んで、
ここらで復習しておきたいと思います。
<法律、BUNさん流簡略表記>
(事業者の処理)
第十二条 事業者は、自らその産業廃棄物の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄
物の収集、運搬及び処分に関する基準(以下「産業廃棄物処理基準」という。)に従わなければな
らない。
処理基準は、政令では第6条、省令では第7条の「の」付きの枝番で細かく規定されて
います。たとえば、「飛散、流出、悪臭を出さないこと」とか、車両表示をしなさいとい
った収集運搬基準や、中間処理施設で保管可能な量とか、埋立の基準等です。
条項によっては、とても難しい規定ですが、技術管理者にとっては必要な知識ですので、
是非一度は目を通しておきましょう。
<法律>
(事業者の処理)
第十二条
2 事業者は、その産業廃棄物が運搬されるまでの間、環境省令で定める技術上の基準(以下「産
業廃棄物保管基準」という。)に従い、生活環境の保全上支障のないようにこれを保管しなければ
ならない。
いわゆる「発生場所での保管基準」です。ちなみに、1 項の処理基準は14条で処理業者
(許可業者)にも同様の処理基準を適用する旨の規定があるのですが、この2項の保管基準は
その旨の規定がないのです。後で登場します5項の規定とも相まって、「中間処理後物」
の位置づけのあいまいさにつながってしまう規定の仕方なんです。
<法律、BUNさん流簡略表記>
(事業者の処理)
第十二条
3 事業者は、その事業活動に伴い産業廃棄物を生ずる事業場の外において、自ら当該産業廃棄物
の保管を行おうとするときは、あらかじめ、環境省令で定めるところにより、その旨を都道府県知
事に届け出なければならない。その届け出た事項を変更しようとするときも、同様とする。
省令の規定により、「あらかじめ届」の対象は、建設系の産業廃棄物であり、かつ、保
管場所は300m2以上と規定されています。不法投棄等不適正処理が多いのは建設系産
業廃棄物であり、かつ、建設工事は発注者、元請、下請、孫請け等多重構造になっていて、
責任所在が曖昧になりがち、かつ、建設系廃棄物の排出者は元請であると規定しているも
のですから、元請が行う収集運搬、保管、処分行為は許可が不要と言うこともあり、行政
が把握するのがなかなか難しい、ということから「事前届出」が制度化されたものです。
なお、4項により災害等に伴う保管の場合は、事後14日以内の届出を規定しています。
<法律、BUNさん流簡略表記>
(事業者の処理)
第十二条
5 事業者(中間処理業者を含む。次項及び第七項並びに次条第五項から第七項までにおいて同じ。)
は、その産業廃棄物(中間処理産業廃棄物(発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行
程の中途において産業廃棄物を処分した後の産業廃棄物をいう。以下同じ。)を含む。次項及び
第七項において同じ。)の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第十四
条第十二項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分について
は同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければなら
ない。
6 事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定め
る基準に従わなければならない。
本文解釈の難解さは、先に紹介していますので、思い出してください。
実務的には、この6項で規定している「委託基準」が重要です。
具体的には、多くの皆様が頭を悩ませている委託契約書がこの6項を根拠にしています。
政令第6条の2第4号となり、さらに省令第8条の4で契約書に添付すべき書面(具体的に
は許可証の写し)や第8条の4の2で、契約書の法定締結事項を規定しています。
結論的に言えば、この政令と省令で規定している法定事項は、現在、収集運搬で10項
目、処分で11項目となっています。
処理業者(業許可)の規定はまだ先の法14条の規定になるのですが、その14条に登場し
ない事項があるので、ここで触れておきます。
この委託契約の義務規定は、ご覧の通り「事業者(中間処理業者を含む)」に規定されてい
るもので、実はこの委託契約の規定は、14条、すなわち許可業者の規定としては登場し
ません。つまり、委託契約の法定の義務は、排出事業者にはあるが、処理業者にはない、
ということです。もちろん、契約を締結したかぎりは民法上の義務は発生します。
極論として、廃棄物処理法上は許可業者は、許可された内容を遵守していれば、廃棄物
処理法違反にはならないって作りなんですね。まぁ、この辺は第14条第15項、第16
項あたりの解説の時にゆっくりと。
7項は「排出者責任、処理状況確認」、8項~12項は「多量排出者」に関する規定で、
これは追加して説明する事項はありません。13項は前回採り上げた、備え付け帳簿の規
定です。この備え付け帳簿は特管産廃排出事業者では、さらに込み入った話になりますが、
それはその時に。
では、次回からは12条の2、特管産廃排出事業者の規定に入ります。
<泉先生>
廃棄物処理法 12 条6項は、委託基準を定めています。これに基づいて作成された委託契
約には、民法上の効果と廃棄物処理法の効果があるのですが、これは割り切れるものでは
なく、相互に関連しているところがあります。特に、排出事業者の、委託する廃棄物に関
する性状に関する情報提供は、一歩間違えば事故につながる可能性があるだけに、重要で
す。
例えば、廃油について、引火性があるかどうかは、見ただけでは分かりません。排出者
が引火性があること調査しなかった場合、または引火性がないと誤解していた場合、委託
基準違反となるのでしょうか。また、処理業者がこれを、事前にサンプル提供を受けるな
どして確認していなかった場合、排出事業者の委託基準を誘発したとして、過失があると
いえるのでしょうか。排出事業者は、性状に関する情報を提供する場合、分析結果を提出
する義務があるのでしょうか。
このような点で、大きな事故となったのが、埼玉のホルムアルデヒド事件でした。これ
は、排出事業者が委託した廃液に、ヘキサメチレンテトラミンが含まれており、処理業者
が廃液を中和して河川放流した結果、利根川流域の浄水施設において、ヘキサメチレンテ
トラミンがホルムアルデヒドに変わったため、取水制限や断水が発生した事件です。
排出事業者は、委託基準において情報提供が必要とされている情報は提供したのであり、
結果として水道事業に影響が出たのは廃棄物処理業者の責任であると主張しています。こ
れに対し、東京都・埼玉県・千葉県らは、廃棄物処理法上の委託基準違反には該当しない
かもしれないが、民法上の情報提供義務に違反しているとして、排出事業者に対し、総額
約2億9000万円の損害賠償請求訴訟を提起しています。
すでに裁判となっているので、判断は裁判所に委ねるしかありません。しかし、感覚と
しては、廃棄物処理法の情報提供義務の範囲は、適正処理・事故防止のために必要な情報
ですから、基本的には民法上の情報提供義務とそれほど違わないのではないかと思います。
この事件を受けて、環境省は、WDSガイドラインを改定し、情報提供は排出事業者と処
理業者の双方の協力によって行うべきだとしています。委託基準の遵守を、双方の協力で
行うという考え方は、法律の条文と一見矛盾するようですが、事故を防止するという意味
では常識的とも言えるでしょう。
委託基準として記載される契約書の法定記載事項は、重箱の隅をつつくように議論して
も、実質的にはあまり意味がありません。例えば、社長が捺印すべきか、カンパニー制の
執行役員やエリア統括者、工場長が捺印すべきか、合併や業務移管、営業譲渡の場合にど
うするか、などという議論は、実態に即して適切に運用できる体制であれば、民法上は問
題なく、廃棄物処理法でも重要ではないと思います。しかし、事故を起こさないというポ
イントは、民法上も、廃棄物処理法上も、常に意識する必要があります。
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