2015年11月16日 古賀茂明「改革はするが戦争はしない」フォーラム 4 Vol.021 から抜粋。 4.あまりに愚かな関西電力 ——————————————————— ●関電の愚かな選択 電力に関して、変だなと思う報道が続いている。 まず、大手電力会社の 2015 年度上半期決算で、東日本大震災後初めて全社が黒字にな ったというニュースだ。黒字額は、10 社合計で何と 1 兆円弱。電力料金値上げで苦し む庶民からは憤りの声が上がっている。 ついこの前まで、原発停止で経営難だという報道が続いていたが、この期間に再稼動し ていた原発は、九州電力の川内原発 1 号機だけ。燃料安などの要因もあるが、少なくと も、現状では、原発なしでも黒字になった。何とも釈然としない。 もう一つは、今年の冬も、節電の数値目標は設定しないというニュースだ。冬だから大 変かなと思った北海道電力でもピーク電力に対する供給余力(予備率)は 14%。最低 必要な比率が 3%だから、楽々クリアしている。最も需給が逼迫するといわれる関西電 力でさえ、3.3%で、しかも西日本全体では 5.4%も余裕がある。各社で融通しあえば、 全く問題はない。 しかし、それでも電力各社は、老朽化した火力発電所の事故もありうるなどと言って、 いまだに「足りているから大丈夫」とは決して認めない。「原発は必要だ」と言わなけ ればならないからだ。 一方、現実は逆の動きとなっている。実は、大手電力の電力販売量は減少する一方だ。 企業や国民の節電が進んだのが大きい。この動きはさらに加速するだろう。 このところ、夏と冬が来るたびに、大手電力には「ハムレットの悩み」に苛まれる。 「節 電要請すべきか、すべきでないか」という難題だ。本音では、原発を動かして、電力販 売を増やしたい。その時のために、あまり節電をされると困る。節電するとその習慣は 定着するということが明らかになってきているからだ。しかし、節電なしで良いと言う 1 と、 「電気が足りているのか。それなら、原発はいらないな」と言われる。 そこで、「数値目標なしの節電要請」という答えに行き着く。数字を出せば、実現のた めの具体的な施策の積み上げが必要となるが、それをやると本当に需要が減ってしまう。 それでは困るから、「無理のない範囲で節電を」という呼びかけにする。形の上では、 「節電要請」だが、本音は、「節電を本気でやらないで下さい」と言うことだ。 そんな悩みを象徴するとんでもない話がある。 関西電力(以下、関電)は、来年 4 月にオール電化住宅のような電気をたくさん使う家庭の電気料金の値下げに踏み切る。 いまの電気料金は、使用電力が増えれば段階的に高くなる仕組みになっている。省エネ 推進のためだ。しかし、関電の新プランは、電気使用量が月 300kw を超えた段階で電 気の単価を下げるというものだ。標準的なオール電化住宅(1 ヵ月電力使用量約 670 キロワット)の場合、月 16,000 円ほどだった電気料金が 10%前後、安くなるという (10 月 24 日日経新聞) 。月 1600 円だから、年間では 2 万円近い割引だ。かなり大き い。 関電はこれまで二度、家庭向け電気料金を値上げしている(2013 年春・9・75%。15 年春 8・36%) 。火力発電所向けの燃料費増などで、発電コストがかさんだためという のがその理由だ。 にもかかわらず、今回は気前よくオール電化住宅向けに料金割引プランをぶち上げてい る。そのワケについて関電は「来年 4 月から電力小売の全面自由化がスタートする。こ れをきっかけに他の電力会社が営業攻勢をかけてくると予想されるので、シェアを奪わ れないよう、割安の新料金で電力使用量の多い家庭を囲い込むため」と説明している。 しかし、シェア維持を狙うなら、全ての家庭の料金を安くすれば良い。 実は、値下げの本当の理由は別にある。それは原発再稼働への対応だ。 関電は、近い将来、高浜(たかはま)(京都) 、大飯(おおい)(福井)原発などを再稼働 させたいが、そうなると関電の発電量は一気に増える。例えば、高浜、大飯合わせて 8 基ある原発のうち、仮に半分の 4 基が再稼働しただけでも 400 万キロワット前後も供 給量が増える計算だ。 ところが、11 年の震災以来、節電の動きが進んだ。関電域内でもこれから本場を迎え る冬場の電力消費ピーク量は、震災前の 10 年と比べ、約 170 万キロワットも減ってい 2 る。また、今夏の最大需要に対する供給余力(予備率)も予想を大幅に上回る 13.6% だった。つまり、原発からの電気がなくても、電力不足どころか、電力は大幅に余って いる。 そこに新たに原発再稼働で数百万キロワット規模の電力が追加されることになると、完 全にジャブジャブ状態となってしまう。そこで、そのダブつく電気を売りさばこうと、 電力消費量の多いオール電化住宅をどんどん拡大する作戦に出るわけだ。だから、大口 顧客だけ大幅割引することを画策している。 しかし、省エネルギーを推進するために、電力消費を増やすほど料金を上げるというの がこれまでの我が国の基本政策である。だが、この新料金プランでは「安くするから、 もっと電気をたくさん使ってください」という内容になっている。省エネ推進という国 是に真っ向から反する販売政策を採ることは、企業倫理にも反している。いつも「公益 事業」だと偉そうな顔をしているのに、恥ずかしくないのだろうか。 関西電力の今年 4 月から 9 月期の営業利益は 1757 億円の黒字だ。もういい加減原発は 諦めたらどうか。そして、値下げするなら、大口使用者向けではなく、一円でも節約し ようと懸命に節電に励む庶民向けの料金を下げるべきだ。 「小売自由化」とは、関電の自分勝手な「自由」を認めるためのものなのかどうか。経 産省は、関電の横暴を止めるべきだ。止められないなら、電力の規制権限を返上すべき だろう。 以上 3
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