究極の超高速光ファイバー通信をめざして カーボンナノチューブを光通信に応用する研究 東京大学工学部電子工学科 助教授 大学院工学系研究科電子工学専攻 山下真司 インターネットや携帯電話をはじめとするとする通信技術の最近の進歩には、めざましいものが あります。このような大容量データ伝送を陰で支えているのが光ファイバー通信です。海外のウエ ブページが瞬く間に開くのは、世界中の陸上や海底に張り巡らされた光ファイバー(直径わずか 0.1mm)のおかげです。最近では、光ファイバーはFTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)と 称して家庭でも利用されるようになり、高速のインターネット接続を可能としています。 インターネット上のデータは増え続けていて、今後、VOD(ビデオ・オン・デマンド)や放送 などの映像サービスが提供されるようになれば、データ量はますます増加するでしょう。では、光 ファイバー通信ネットワークは、その莫大なデータを処理できるのでしょうか? 光ファイバー自体は1本で 100 テラビット/秒(100×1012 ビット/秒)もの光信号データを伝 送できます。これを使えば大容量ハードディスクの中身をすべて送るのに 0.1 秒もかかりません。 問題は、そのような超高速の光信号をどのように発生させるか、またどのように処理するかにあり ます。私たちの研究室では、超高速の光信号発生技術、およびその信号処理技術を研究しています。 現在の光ファイバー通信の光源は半導体レーザーです。テラビット/秒という超高速の伝送は直 接行われず、ギガビット/秒(109 ビット/秒)程度の速度の光信号を1チャネルとして、波長(色) を多数用いて伝送することによって実現しています。これを「波長多重(WDM)」といいます。私 たちの研究室では、半導体レーザーの代わりに、伝送メディアである光ファイバーを用いた「光フ ァイバーレーザー」に注目し、波長多重の信号を一括して出力できる「多波長レーザー」や、時間 幅にして1ピコ秒(10-12 秒)以下の非常に細いパルスを出力できる「パルスレーザー」を研究して います。図1は、私たちが最近開発した超小型の光ファイバー パルスレーザーで、0.6 ピコ秒のパルスを 5GHz という高い周 波数で繰り返し出力できます。 このレーザーの特色は、ナノテクノロジーの賜物である「カ ーボンナノチューブ」を用いていることです。私たちは、カー ボンナノチューブを光通信に応用するという世界初の研究を 進めています。 現在の光ファイバー通信での信号処理は、すべて光信号を電 図1 気信号に直してから行われています。この部分が処理速度の妨 げとなっているのです。これを解く鍵は「非線形」にあります。 電子回路では「トランジスタ」という優れた非線形素子があり ますが、処理速度に制限があります。私たちは、光ファイバー の超高速の非線形性を利用して、光信号を光のままで処理する 研究を進めています。図2は、光ファイバーによる波長変換(あ るチャネルを別のチャネルに入れ替える)の実験風景です。 これらの研究により、光ファイバー通信ネットワークの難題 を解決し、究極の光ファイバー通信の開発をしたいと考えています。 http://www.sagnac.t.u-tokyo.ac.jp(保立・山下・何研究室) 図2
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