流体解析を用いた 飛来海塩予測手法の開発 電力中央研究所 地球工学研究所 ○須藤 仁 ・ 木原 直人 塩害等による構造物・環境影響に関するシンポジウム 2015年1月28日 概要 電中研では,流体解析を用いた2種類の飛来海塩量の予測手 法を開発している.本報告では,その概要紹介を目的とする. 2つの解析手法の概要とともに,解析の適用性の評価結果を 説明する. これらは,電力・土木・建築・農業等における塩害対策の他, 海塩輸送機構の解明にも有用なものである. 2 概要 1 背景と目的 2 長期間の海塩影響予測に適した解析モデル NuWiCC-ST 3 短期間の海塩影響予測に適した解析モデル Re-SPRAY 4 まとめ 3 研究の背景 建設されてから30年以上経過した送電設備の増加 → 効率的に保守や張替え作業を行うため,地形等の影響 を考慮した累積的な腐食要因(海塩等)の予測が重要 産廃 5% その他 3% 内部に腐食生成物 工場 6% 臨海工業地域 12% 海塩 74% 架空送電線の腐食実態 海塩による腐食事例 ((社)電気学会 技術報告書第966号より) 4 研究の背景 塩害・雪害に伴う事故の発生(2005/12新潟下越等) → 絶縁機器性能に影響する要因(海塩,降雪等)の時々 刻々の変化の予測が重要 20km-30km Niigata Kaetsu 5 研究の目的 時間スケール・評価すべき事象のかい離 → 対象に応じた予測手法の開発 海塩による送電線等の劣化 (累積塩分付着量の評価) がいしの急速汚損の予測 NuWiCC-ST Re-SPRAY / NuWFAS 6 概要 1 背景と目的 2 長期間の海塩影響予測に適した解析モデル NuWiCC-ST 3 短期間の海塩影響予測に適した解析モデル Re-SPRAY 4 まとめ 7 NuWiCC-STとは? 数値流体解析(CFD)に基づく3次元解析コード 数km~数十km四方が適した対象エリアサイズ 地表状態や地形の起伏に伴う風・海塩粒子の変化を再現 長期間累積値の評価を効率良く行うための手法を併用 物理モデルと対象スケール 応用例 気象予測 耐風設計 環境影響 解析 コード (例) MM5,MRI WRF,RAMS NuWFAS L-WIND NuWiCC NuWiCC-ST CIMLES OpenFOAM 大規模 数100km 中規模 数km 小規模 数100m スケール ビル風 現象のスケールに適した物理モデルの採用 8 NuWiCC-STによる累積海塩評価のイメージ 風況・海塩粒子輸送解析 (風向・風速別) 高度 風(観測)データ 風向・風速出現頻度 複雑地形に対応した風況 地表面や障害物 への乾性沈着 海塩粒子 輸送 風向・風速別の解析結果 に対する 出現頻度の重み付け積算 海塩粒子量 累積飛来海塩量 9 NuWiCC-STの出力(例) 年平均風速 年平均の飛来海塩量 NNW風時の海塩粒子濃度(鉛直断面分布) 10 広域を対象とした累積海塩分布作成 従来の手法(1地点法) → 風向・風速別の解析結果 + 1地点の風観測データを利用 評価エリア P1 P(x,y) 新たに提案した手法(多地点法) → 風向・風速別の解析結果 + 海上の多地点の風データを利用 P1 P2 評価エリア P3 P(x,y) ~10km Land Land Sea 風観測データ(位置P1)の風向・風速の出現頻度が ある一定の範囲内で一様と仮定 Sea 複数の風データ(位置P1,P2,…)から 地点ごとの風向・風速出現頻度を推定 11 年間平均の飛来海塩量分布 (中国地方,地上高さ40m) 瀬戸内海側では,日本海側に比べて風が弱くかつ 吹送距離も短いことから,飛来海塩量が少ない. 12 (2010年度中国電力受託研究) 12 解析結果(風速)の検証事例 単純地形(二つの尾根状地形) 平均速度 変動風速の標準偏差 電事連依頼研究成果 13 観測と解析との対比(愛媛県新居浜) 観測値:パイロットがいし塩分付着データ (四国電力提供) N 30 観測 解析 25 20 0.01 15 10 5 0 23 19 24 18 17 25 26 16 27 53 22 52 21 20 0.00 解析値(飛来塩分量) [mg/cm2/month] 観測値(塩分付着量) [mg/cm2/month] 0.02 観測地点番号(海岸からの距離の順) 観測地点と番号(新居浜) • • 解析値と観測値との対比 解析結果は,塩分付着量の地点ごとの増減傾向を概ね再現 地形等の影響を反映 (2007年度四国電力受託研究) 14 y = 752.21x R² = 0.2704 1 0.1 y = 227.26x R² = 0.4082 0.8 0.6 0.4 0 0 10 20 30 wind velocity [m/s] 0.1 0.01 observed value (adhered sea-salt) [mg/cm2/month] 観測値は降雨影響等を受けてもがいし表面に 付着している(期間平均)海塩量,解析値はが いし位置に飛来する海塩量またはがいし表面に 衝突する量であり,両者は物理的な意味が異な るため相対的な比較となる. P1 P2 P3 0.2 airborne sea-salt trapped sea-salt 0.01 1 trapped efficiency [-] 10 0.0001 観測地点 100 0.001 predicted value (airborne and trapped sea-salt) [mg/cm2/month] 観測と解析との対比(四国地方) 40 捕捉効率(Poots 1996,P1~P3:粒径小~大) 捕捉効率を考慮することで,観測値と解析値と の相関関係が向上した. 15 (2011年度四国電力受託研究) 15 概要 1 背景と目的 2 長期間の海塩影響予測に適した解析モデル NuWiCC-ST 3 短期間の海塩影響予測に適した解析モデル Re-SPRAY 4 まとめ 16 Re-SPRAYとは? 物理モデルに基づく3次元解析コード 気象モデルとのカップリング(1way) 数十km~数百km四方を対象に,海塩粒子輸送を評価 時々刻々変化する気象条件に依存する物理過程を考慮 物理モデルと対象スケール 応用例 気象予測 耐風設計 環境影響 解析 コード (例) MM5,MRI WRF,RAMS NuWFAS ・Re-SPRAY L-WIND NuWiCC NuWiCC-ST CIMLES OpenFOAM 大規模 数100km 中規模 数km 小規模 数100m スケール ビル風 17 Re-SPRAYによる海塩濃度予測のイメージ Re-SPRAYによる海塩粒子輸送解析 NuWFASによる気象解析 風速・降水量・その他気象情報 輸送 地表面や障害物への 乾性沈着 海塩粒子 発生 雲による湿性沈着 雨・雪による 湿性沈着 数日(1~2日先)の海塩濃度予測 18 9/18 15:00 風速・降水量 9/18 12:00 9/18 9:00 9/18 6:00 9/18 3:00 9/18 0:00 9/17 21:00 9/17 18:00 9/17 15:00 9/17 12:00 9/17 9:00 9/17 6:00 9/17 3:00 9/17 0:00 飛来海塩量[mg/m2/s] Re-SPRAYの計算結果(例) 400 350 300 250 200 150 100 50 0 飛来海塩量 指定する地点での飛来海塩量 19 新潟市を対象とした海塩解析 観測地点:新潟市新津(海岸から約17km) 観測期間:2008年1月1日~2008年2月29日 日本海 海塩粒子輸送 計算領域 新津 太平洋 20 海塩粒子輸送計算結果 Na+質量濃度 [mg m-3] Na+質量濃度=海塩粒子質量濃度×0.3077 (Gong et al. 1997) 10 8 実線:計算結果 ● :観測結果. 6 4 2 0 1/1 1/8 1/15 1/22 1/29 2/5 日付 2/12 2/19 2/26 Na+濃度が急上昇するタイミングを良好に再現できている。 21 21 Re-SPRAYを活用した海塩急速汚損被害推定(1) (2012年度中部電力受託研究) 2012年台風4号によるVCTの被害推定への適用 ①NuWFASによる気象計算 VCT被害無し 台風4 号によるVCT 塩汚損の被害調査,現地 調査報告書,中部電力株式会社 エネルギー応 用研究所 (2012) 2011年台風15号 2012年台風4号 22 Re-SPRAYを活用した海塩急速汚損被害推定(2) 2012年台風4号 RAMP 2011年台風15号 朱牟田ら, 台風時の塩害環境と計器用変圧変流器(VCT)被害と の相関分析, 電気学会論文誌, 2014. (印刷中) 23 概要 1 背景と目的 2 長期間の海塩影響予測に適した解析モデル NuWiCC-ST 3 短期間の海塩影響予測に適した解析モデル Re-SPRAY 4 まとめ 24 まとめ • 長期間の海塩影響評価に適した解析モデルNuWiCC-ST,および短期 間の飛来海塩の予測を可能とする解析モデルRe-SPRAYについて,それ ぞれの特徴,適用性等を紹介した. なお, NuWiCC-STにおいて,また,降雨によ る洗浄影響が大きく異なる地域間で は,塩分付着量の観測データと飛来 海塩量の解析結果の相関関係が変 化する可能性があり,留意を要する. Re-SPRAYにおいて,降雨・降雪に含ま れる海塩量の予測・解析手法も開発 中である. 雨の少ない地域 観測結果(海塩付着量) 両モデルとも,飛来海塩量の絶対値 の精度は検討中である. 雨の多い地域 解析結果(飛来海塩量) 降雨による洗浄影響のイメージ 25
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