【事案の概要】 ゴルフ場を所有する原告が、固定資産課税台帳に登録された価格を不服として、邑南町 固定資産評価審査委員会に申出をしたところ、当委員会において本件各土地についての申 出を棄却し、本件各建物についての申出を却下する旨の決定がされたため、被告邑南町に 対し同決定の取消しを求めた事案。 当事案において、本件各土地については、評価基準に定める評価方法に従って求められ ており、その登録価格は適切であると認めた一方、本件各建物については、評価基準に定 める評価方法に従って時価を算定する際に、需給事情による減点補正を行う必要がなかっ たと認めることはできないとして、これを行わずに算定された本件各建物の登録価格は評 価基準に基づく価格を超える違法があるとし、原告の請求を一部認容した事例。 【原告の主張】 (本件各土地について) 評価基準におけるゴルフ場の評価は、当該ゴルフ場を開設するに当たり要した当該ゴル フ場用地の取得価額に造成費を加算した価額を基準としている。しかし、現在ほとんどの ゴルフ場は厳しい経営状態に置かれており、その価値は土地の取得及び造成時の予想とは 異なり著しく下落しており、評価基準による算定方法は不合理である。 また、評価基準におけるゴルフ場の評価は,取得価額に造成費を加算した価額を基本と し、当該ゴルフ場の位置、利用状況等を考慮して評定するものとされているが、現実には 本件の被告も含めて、課税団体はこの補正の適用に消極的である。 このような運用状況に照らせば,ゴルフ場に関する評価基準は、 「評価方法が適正な時価 を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によって は適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合」 (平成 24 年(行 ヒ)第 79 号固定資産評価審査決定取消等請求事件参照)に該当するというべきである。 (本件各建物について) 評価基準に定める需給事情による減点補正の適用は、限定的とされるべきものではなく、 その評価が建物に対する需要を反映しなくなった場合にも、広く適用しなければならない ものである。 本件各建物(クラブハウス、寄宿舎等)は、ゴルフ場とともに利用されるのみであり、 ゴルフ場の利用状況によってその価値が大きく影響されるため、収入悪化等によりゴルフ 場としての価値が下がると、それに伴って価値が下落するものであり、そのため本件各建 物は特殊な物件であるといえ、本件各建物は、需給事情による減点補正が行われるべきで ある。しかしながら、被告は本件各建物について需給事情による減点補正を行っていない。 【被告の主張】 (本件各土地について) 本件各土地の評価における評価基準に定める評価方法は、客観的交換価値を把握する方 法として合理的なものであり、また当該評価方法によっては適正な時価を適切に算定する ことのできない特別の事情も存在しない。 従って、本件各土地の登録価格は、評価基準に定められた評価方法によって適切に算定 された価格である。 (本件各建物について) 本件各建物の登録価格は、評価基準に定められた評価方法に従って適切に算定されたも のである。 評価基準において、 「需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている 非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等につい て、その減少する価額の範囲において求めるものとする」とあり、具体的には需給事情に よる減点補正率は、次のような家屋に適用するものとされている。 ① 草葺の家屋,旧式のれんが造の家屋その他間取り,通風,採光,設備の施工等の状況 からみて最近の建築様式または生活様式に適応しない家屋で、その価額が減少すると 認められる地域に所在する家屋 ② 不良住宅地域,低湿地域,環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在 する家屋の価額が減少すると認められるもの ③ 交通の便否,人口密度,宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該地 域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋 本件各建物は、評価基準に定める需給事情による減点補正が必要となる場合に該当して おらず、この点について何ら問題はない。 【裁判所の判断】 (本件各土地について) 本件各土地の登録価格は,固定資産評価基準に定められた評価方法に従い価格が算定さ れていることが認められ、その算定の過程における取得価格や造成費の決定、位置・利用 状況等による補正は,不動産鑑定士による鑑定評価書に基づいて行われている。 本件各土地の評価額の算定過程に特段不自然かつ不合理な点も見当たらないことからす ると、その登録価格は,評価基準の定める評価方法に従って適切に算定されたものと認め ることができる。 (本件各建物について) 本件各建物の登録価格について,被告は本件で需給事情による減点補正が必要でないと 判断した理由について,単に通達に定められた基準にあてはまらないためであるという主 張をするにとどまる。この点、平成 18 年(行ウ)第 12 号審査決定取消請求事件において 実施された不動産鑑定士による鑑定評価では、①本件クラブハウスは、本件ゴルフ場と一 体利用されてはじめて機能性を発揮することができる建物であり、ゴルフ場から分離した 場合には利用者が極めて少なく、他の転用の可能性が考えられないため、市場性は低く、 需要はゴルフ場の需給動向に左右されること、②本件ゴルフ場は島根県の山間部にあり、 冬季の 1 月から 2 月は閉鎖期となり、12 月でも積雪が多い場合には閉鎖されること、③本 件ゴルフ場の付近に集客力のある著名な観光施設は少なく、都心部からの距離からしても、 集客力が弱いこと等の地域の特殊性を市場性減価として考慮しており、当該減価は固定資 産評価基準における「需給事情による減点補正率」と同様であると考えられ、これは本件 各建物全てにあてはまると推認される。 これにより、本件各建物について、評価基準に定める評価方法に従って時価を算定する 際に、需給事情による減点補正を行う必要がなかったと認めることはできないから,これ を行わずに算定された本件各建物の各登録価格は,評価基準に基づく価格を超える違法が ある。 従って、本件各建物の登録価格につき、裁判所が認定した適正な時価を超える部分につ いては、これを取り消す。
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