湿式法による繊維板製造研究(第19報)

湿式法による繊維板製造研究(第19報)
工場副生物を利用したハードボード製造試験(2)
新 納 守
前 田 市 雄
阿 部 勲
Studies on Hardbaord(ⅩⅠⅩ)
Manufacture of Hardboard Using Pulp Mill Residue.(Ⅱ)
Osamu NIIRO
Ichio MAEDA
Isao ABE
目 次
Ⅰ 緒 口 ………………………………………………………… 61
Ⅱ 試 験 方 法 ………………………………………………………… 61
1.原料の調製 …………………………………………………………… 61
2.試験装置及び試験機械 ……………………………………………… 61
3.パルプ化 ……………………………………………………………… 61
4.パルプ化後のハードボード製造条件 ……………………………… 62
5.試験方法 ……………………………………………………………… 62
(A)サイズ試験及びテンパー試験 ………………………………… 62
(a)パーク混合率の影響試験 ………………………………… 62
(b)サイズ試験 ………………………………………………… 64
(c)テンバー試験 ……………………………………………… 62
Ⅲ 試 験 結 果 ………………………………………………………… 63
(A)サイズ試験及びテンパー試験結果 …………………………… 63
(a)パーク混合率の影響 ……………………………………… 63
(b)サイズ試験結果 …………………………………………… 64
(c)テンバー試験結果 …………………………………………… 65
(B)直交表を円いたパーク混合率及び後処
理試験結果 ………………………………………………………… 66
Ⅵ 摘要及び謝辞 …………………………………………………………… 70
引 用 文 献 ………………………………………………………… 70
Resume …………………………………………………………………… 70
Ⅰ 緒 言
第1報(1) では製紙工場の副生物であるドラム・パーク及びチッバー・ダストを原料として
常圧低温アルカリ浸漬法によるハードボード製造の適否を検討したが、本試験では引続き同
原料を実験用アスプルンド・デハィブレーターで高温高圧解繊し、次に小型ディスク・レハ
ィナーで精繊したパルプを原料としてパルプ化後の処理即ちサイジング・テンパー及びオイ
ル・テンパー条件がハードボードの材質に及ぼす影響について試験したのでその結果を報告
する。
Ⅱ 試 験 方 法
1.原料の調製
原料は製紙工場のドラム・バーカー及びチップ・スクリーンより副生せるドラム・パーク
及びチッパー・ダストで樹種、組成及び形状は第1報に報告した通りである。
バークはロール・プレスで脱水後ノボローター・ミルで粗細し 4メッシュ・スクリーンで
微細部分を除き、又、同様にチッパー・ダストは 8メッシュ・スクリーンを通過した細い部
分を除いて試験に供した。
2.試験装置及び試験機械
試験に使用した試験装置及び試験機械の概要をTable 1.に示す。
Table.1.The Specification of Apparatuses and Testers.
3.パルプ化
製造条件は各原料共精繊後のパルプのフリーネスがアスプルンド・デハィブレーター・フ
リーネス・テスターで約 30sec・前後になるように調製した。即ちデハィプレート条件とし
てはプレヒート蒸汽圧力 10 kg/cm2、プレヒート時間 3 min,デハィプレート時間 2 min .
とした。また精繊条件は精繊後のパルプのフリーネスを整えるため小型ディスク・レハイナ
ーのディスク・クリアランス及び供給量を加減した。尚供給水量は 2 L/min に一定とした。
4.パルプ化後のハードボード製造条件
以上の条件で製造したパルプは実験用ビーターを用いて下記試験方法でサイジングを行っ
た後、常法通りホーミング・ボックスで 40 cm × 40 cm にホーミングし、コールドプレ
スの圧力は 10 kg/cm2 で含水率約 60 %のウェット・ラップをつくった。次に(A)試験
に於ては成型温度 180℃、成型圧力 50-5-50 kg/cm2、成型時間 3-4-4 min、(B)試験
では成型温度 185℃、成型圧力 50-5-50 kg/cm2、成型時間 3-4-3min.の 3 段成型法に
よりホット・プレスを行った。
5.試験方法
(A)サイズ試験及ひテンパー試験
(a)バーク混合率の影響試験
パルプ化後の後処理試験を行う前にチッパー・ダストに対するバークの混合比率を変えて
ハードボードの材質に及ぼす影響を試験した。このバーク混合比率はチッパー・ダストに対
し、0,70,100 %について試験した。このうちバーク混合比率 70 %は特に原料供給面
より考慮された割合である。
(b)サイズ試験
ハードボードの材質向上のためパーク混合率 70 %のパルプについて、水溶性石炭酸樹脂
である Plyophen P-398(以 下P−398 と略)の添加率を 0.5,1.0,1.5,2.0 %に変えて
夫々につき試験し、次に P-398 の添加率の 1.0,1.5,2.0 %に対して更にパラフィン乳
濁液である YPD-209 を夫々 0.5,1.0,1.5,2.0 %添加して試験した。尚定着剤として
の硫酸アルミニウムは P-398 のみの場合は各添加率に対し倍量、また P-398 と YPD-209
を併用した場合は 3 %に一定とした。これらのサイズ剤及び硫酸アルミニウムの添加率は
ボード 1 枚当り所要パルプの絶乾重量に対するそれぞれの固型分重量百分率とした。
(c)テンパー試験、
(a)及び(b)両試験のハードボードのうち 20 cm × 20 cm を小型熱風循環式乾燥器
中にボードを熱風の流れに平行に立て、処理温度 170℃、処理時間 3 hrs.でテンパー試
験を行った。
(B)直交表(2) L9(34)を用いたバーク混合率及び後処理試験
(A)試験の結果を総合的に検討するため実験計画法の直交表 L9(34)にバーク混合比
率 0、50、100 %、サイズ(P-398)添加率 0、0.5、1.0 %、テンパー及びオイル・テン
パーの処理温度160,170,180,℃と処理時間3、4、5、hrs.の4因子、3 水準を Table 2.
の如く割付けして試験した。尚この試験ではこれら 4因子間の交互作用がないものとして行
った 。またオイル・テンパーには亜麻仁油を使用しその含油率を約 10 % にしてテンパー
処理を行った。
Table 2.Experimental Schedule of Lay Out by the Orthogonal Array〔 L9(34)〕
以上の条件で製造したハードボードは Fig.1.の如
く曲げ強さ試験片 5 cm × 20 cm をとり曲げ強さを
測定したあとの同試験片より、比重、含水率、吸水率
測定用の試験片、5 cm × 5 cm をとって JIS-A-5907
に準じて試験を行った 。尚各試験片の個数は(a)及
び(b)の両試験の曲げ強さ試験片のみ 6 個で、同試
験の比重、含水率、吸水率試験片と(c)試験及び
(B)試験の試験片数は凡て 3 個で、材質試験結果は
これらの算術平均値である。
Ⅲ 試 験 結 果
(A)サイズ試験及びテンパー試験結果
(a)バーク混合率の影響
Fig.1,Cutting Plan for Test
Samples.
バーク混合率の影響試験結果を Table 3. に示す。この試験結果のうちその主なものを
示せばバーク混合率の増加により全パルプ収率及び全電力消費量(WH/0.D.パルプ kg)
が低下し、またハードボードの曲げ強さ及び耐水性も低下する傾向を示した。尚この試験結
果は林業試験場の村田、高村両氏の報告(3)にも示された通りであった。曲げ強さの低下は約
100 kg/cm2 であったがその他の材質の低下は余り大きくなく充分利用できることが認めら
れた。
Table.3.Results of Effect on the Mixing Ratio of Bark.
(b)サイズ試験結果
バーク混合率 70 % で製造したパルプについて、P-398 及び YPD-209 を添加したハー
ドボードの材質試験結果を Table 4.に示す。またこの試験結果のうちで曲げ強さ及び吸水
率結果を無サイズ・ボードに対する増加及び減少率で示したのが Fig.2.(a)及び(b)で
ある(○印は曲げ強さ、△印は吸水率の無サイズ・ボードに対する増加減少率を示す)
この試験結果は(a)図に示す如く P-398 添加の場合は添加率の増加に伴い曲げ強さは増
大し吸水率は減少した。即ち添加率 2.0 % で曲げ強さ約 50 %、耐水性約 30 % の向上
を示した。また P-398 と YPD-209 を併用したボードの曲げ強さ及び吸水率は第 4 表の結
果を見て判る如く 、YPD-209 の影響が P-398 よりも比較的大きく表われたので 、(b)図
は YPD-209 の添加率の影響を(a)図と同様に無サイズ・ボードに対する曲げ強さ及び吸
水率の増加減少率で示した。従って YPD-209 の各添加率に対するその増減率は、P-398
の 1.0、1.5、2.0 % の三添加サイズ・ボードの曲げ強さ及び吸水率の平均値である。
Table 4.Results of Effect on the Sizing With out Heat-treatment.
この結果より YPD-209 の添加率が増加するに
伴い耐水性は向上するが曲げ強さは逆に低下した。
即ち YPD-209 の添加率 2.0 % のとき曲げ強さ
は約 20 % 減少し、耐水性は約 70 % 向上した。
このことは P-398 は補強用のサイズ剤及び
YPD-209 は耐水用サイズ剤であることを示すもの
である。従って製造したパルプの性状により補強
を望むか、または耐水性に重きをおくかによって
その両者の添加率は異ってくる。尚本試験の結果
は各サイズ剤の効果が充分でなく JIS-A-59071号
品に合格する値は得られなかった。
(c)テンパー試験結果
サイズ試験後のボードを処理温度 170 ℃、処
理時間 3hrs.でテンパー試験を行った材質試験結
Fig.2. Results of Size Addition
Before Heat-treatment.
果を Table 5.に示す。また Fig.2.同様
Table 5.中の曲げ強さと吸水率の結果を無サイズ・無処理ボード及び各サイズ・無処理ボ
ードに対する増加減少率で示したのが Fig.3.(a)及び(b)である。(○印は曲げ強さ、△
印は吸水率の増減率で、実線は無サイズ・無処理ボードに対する増減率、点線は各サイズ・
無処理ボードに対する増減率を示す)。
各サイズ剤の添加率の増加によるテンパー後の影響は Fig.3.に示す如く、無サイズ・無
処理ボードに対する増減率が(a)図では吸水率(b)図では曲げ強さが両者共約 10 % 低
下し他はその影響が見られなかった。
Table 5.Results of Effect on the Sizing After Heat-treatment.
また各サイズ・無処理ボードに対する増減率は
P-398 のみの場合は曲げ強さ及び吸水率共に減少
し 、P-398 と YPD-209 併用の場合は反対に増加
した。尚テンパー条件は処理温度 170℃、処理時
間 3hrs.で行ったが、Table 5.及び Fig.3.に
見られる如く無サイズ・無処理ボードに比べて曲
げ強さが若干の増加及び減少を示したが、吸水率
は添加率 0.5 % で 60∼70 % もの減少を示し、
とくに両サイズ併用の場合は凡てのボードが
JIS-A-5907 1 号品(25 % 以下)に合格する結
果を得た。
(B)直交表を用いたバーク混合率及び後処理試
Fig.3. Results of Size Addition
After Heat-treatment.
験結果
原料バーク混合比率 0、50、100 %のパルプ製
Table 6.Results of Pulp Manufacture.
Table 7.Results of Board Properties of Lay Out by the Orthogonal Array〔 L9(34)〕
Fig.4.Effect on the Mixing Ratio of
Bark and Addition of Size
(P-398),Non Treated Board.
Fig.5.Effect on the 4 Factors After
Heat-treatment.
造条件及び試験結果を Table 6. に、また前記試験方法の各因子割付けによるハードボー
ドの材質試験結果を Table 7.に示す。この試験結果のうち各因子が曲げ強さ及び吸水率に
及ぼす影響を同一水準3個の平均値をもって図示したのが Fig.4.、Fig.5.、Fig.6.である。
Fig.4.はテンパー及びオイル・テンパー処理前のサイズ・ボードの材質試験結果であり、
パーク混合比率及びサイズ(P-398)添加率の両因子の影響を図示したもので 、パーク混合
比率が増加するに伴い材質は劣下した。
即ち、曲げ強さはバーク混合率 0 % の値に比べてバーク混合率 50 % では 12 % の低
下、100 % では 23 % 低下し、吸水率では両混合率共 8 % 高くなった。
またサイズ効果はパーク混合率に比べその差が大きく、曲げ強さで 170 kg/cm2、吸水率
では 25.8 % で添加率が増加するに伴い材質は向上し、その割合は曲げ強さでは添加率
0.5 % で 40 % の増加 、1.0 % では 53 % の増加となり 、耐水性では 0.5 % で 31 %
の向上、1.0 % では 37 % の向上を示した。
Fig.5.はテンパー・ボードの材質に及ぼす影響を図示したもので 、サイズ効果の影響が
他の因子に比べて曲げ強さ及び吸水率共にその差が大きく表われ、サイズ添加率の多い程材
質は向上した。即ち無サイズ・ボードに比べて添加率 1.0 % では曲げ強さ 45 % の増加、
耐水性は 55 % の向上を示し 、テンパー前のサイズボードの向上率と略々類以した値とな
Fig.6.Effect on the 4 Factors After
Oil Tempered.
Fig.7.Iso-Valiue-Curve of Mixing Ratio
of Bark and Addition of Size
(P-398),Without Heat-treatment
った。
また他の 3因子中その影響の大きい因子は曲げ強さではテンパー処理時間で 4時間処理が
優れ約 11 % の増加であり 、耐水性は処理温度の高い程向上し 160 ℃ の処理温度に比べ
約 44 % の向上を示した 。尚パーク混合比率の影響は曲げ強さではその差 34 kg/cm2 ,吸
水率では 8.5 % の差で、テンパーを行うときはどの混合比率にても差支えない程度の結果
となった。
Fig.6.はオイル・テンパーボードに於ける各因子の影響を図示したもので曲げ強さに
稍々バラツキが見られるがその影響は少く 、その差はバーク混合比率の 44 kg/cm2 以下 、
吸水率ではサイズ添加率の 4.8 % で各因子及び水準間の影響ほ見られなかった。しかし曲
げ強さ 600 kg/cm2 以上 、吸水率 15 % 以下の良好な値を示し 、サイズボード及びテンパ
ーボ一ドに比べて JIS-A-59071 号品に充分合格する優秀な品質のハードボードが得られた。
次に Fig.7.(a)及び(b)むちサイズ(P-398)ボードに於けるパーク混合率とサイズ添加
率の両因子が曲げ強さ及び吸水率に及ぼす影響を 、曲げ強さは範囲 100 kg/cm2 、吸水率は
10 % の等値曲線で図示したものである。例えば曲げ強さで 400 kg/cm2 以上の JIS-A-5907
の 1 号品に合格させたいときの条件として、バーク混合率 50 % では P-398 の添加率は約
0.3 % 以上であり、またバークのみ(100%)では約 0.7 % 以上の添加率を必要とするこ
とがわかる。また吸水率ではバーク混合率 50 % で添加率を 1 % にしても吸水率 44 %
であって、JIS-A-5907 の 2 号品に合格するにも不可能であり、耐水性のサイズ剤を添加す
るか、テンパーまたほオイル・テンパー処理を行って耐水性を向上させる必要のあることが
わかる。
Ⅳ 摘 要 及 び 謝 辞
未利用資源であるバーク及びチッパー・ダストを原料として、原料の配合割合及び後処理
の影響を試験した。以上の材質試験結果よりみて見劣りのしない良好なハードボードを製造
することができた。テンパー及びオイル・テンパー等の処理を行わない場合は、サイズ剤
Plyophen P-398 のみでは吸水率が高く、また YPD-209 サイズを行う場合は強度の低下を
きたし JIS-A-5907 1 号品に合格することは困難であった。従って強度を程下させずに耐水
性を向上させるサイズ剤の使用が望まれる。
テンパー処理では曲げ強さが P-398 添加率 1.0 % の場合で JIS-A-5907 に略合格する
程度であった。
オイル・テンパーボードは亜麻仁油を 10 % 含浸させて行ったが 、その含油率は更に少
くてもよいようであり、また亜麻仁油以外の乾性油使用の可能性も当然考えられる。
本試験を行うにあたり終始熱心に協力して戴いた斎藤光雄、西川介二及び佐野実君に深く
感謝します。
引 用 文 献
(1)佐野清一外 工場副生物を利用したハードボード製造研究(1)林指研究報告第14号
(2)田口玄一、小西省三著 直交表による実験のわりつけ方
Q.C.テキスト シリーズ No,12
(3)村田藤橘、高村憲男 ファイバーボード原料としての樹皮の利用に関する研究(第1報)
日本木材学会誌 Vol.5 No.5