平成17年 Hotchpotch 研修会参加者からの宇都宮先生への質問 Q1 資料P39 のA:Functional Capacity と Potential Reserve、Exercise と Rest のお話です が、発症して何を基準に Exercise と Rest の時期を見極めればいいのでしょうか?また、 Exercise は具体的にどのように行えばよいのでしょうか(先生がおっしゃっていたように 動き始めた機能を使うように?でしょうか)? Ans. 中枢神経系に突然異常(外傷、出血、梗塞など)が発生すると、一時期(3日∼2週 間)神経はその全機能を停止します。このような状態を Diaschisis といいます。この状態に あるときには生命の維持が最優先されますので、Exercise は行ってはなりません。 いつ Exercise を行うかは医師が決定することですから、それに従えばよいわけですが、 運動の指示が出た場合には通常患者の状態は、1、意識が清明である 2.コミュニケー ションがとれる 3.脊髄レベルの反射が出ている 4.全身状態が安定している となっています。まず行わなければならない Exercise は 心臓、肺に対する全身調整運動 です。 このとき負荷をかけ過ぎで疲労させ機能的回復を遅らせることが多くみられます。 血圧、脈拍、呼吸数など運動と密接に関わる心臓、肺の状態に合わせた運動を目安にして 運動を進めていきます。全身状態が安定したら、上肢下肢の神経筋再教育に進みます。同 時に座位、立位、移動動作訓練を可能なものに行っていきます。危険なことはオーバーユ ースであり、廃用性の危険の方がはるかに少ないということを注意すべきです。 Q2 私は今まで脳卒中患者に対するボバースアプローチというものは見たことはあっても実 施した事はありません。 また講演の中で先生のようにボバースをやるべきではないということを言い切れるほど知 識と技術もありません。でもボバースをやっている友人 PT の患者さんが治療後改善したと いう例も見たことがないので私もやる気にはなりません。 講演の中ではボバースの考えた事(概念)と技術にどのような化学的矛盾 or 解剖学的矛 盾があり効果が出なかったのかが具体的に分からなかったので、できればその内容を詳細 に教えていただきたいと思います。 Ans. これまでボバースをやったことが無いのであれば、知る必要は無いでしょう。科 学的、解剖学的矛盾より、病理学的な見方、考え方が無いことが最大の欠点です。つまり 治療している人を病人とは思っていないということですから・・・具体的に知りたければ ボバースの著書を読むと確認できます。 あと脳卒中とは全く違う質問なのですが、片側 TKA 患者の T 字杖歩行ではどちらに杖を 持たせたらいいか悩んでいます。人工関節では関節面同士が接近すれば摩擦係数が上昇し 関節運動しにくくなると以前先生に教えていただきましたが、以上のことを考慮すると反 対側に杖を持たせ TKA 側の膝関節の荷重を軽減すればいいのではないかと私は考えている のですが正しいのでしょうか? .Ans. 杖、松葉杖は反対側の下肢に荷重がかるのを防いだり(免荷)、軽減する目的で使 用するものです。 相反性に移動するヒトの場合には、上肢と下肢は反対側が同時に前に 振り出されますから、傷害された下肢の反対側の上肢で杖、片松葉杖を使用するのが原則 です。人工関節手術後は人工関節の磨耗を防ぐために荷重を軽減する必要があるとされて います。摩擦係数が減り運動が容易になるためと考えたとしても反対側の上肢で杖を使用 するということと一致します。そうすると何を悩んでいるか分かりません。 Q3 1.臨床の場面にて、常に過緊張状態の患者さんに出くわすことがあります。リラクゼー ションを得ようと試みるもの変化がみられないか、動作に移るとすぐに戻ってしまいます。 また、失行要素も考えて具体的指示を与えないようになど注意をしているのですが、効果 はみられず目的とする筋収縮を促せずに困っています。方法が間違っているのかもしれま せんが、具体的にどのようにアプローチしていって良いのでしょうか? Ans. 動作の開始がうまくいかなければ、患者はリラックスできません。セラピストは患 者が緊張する前に動作を容易にするよう介助しなければなりません。おそらくこの過緊張 の患者は、観念運動失行があり動作を行おうと意識した途端、関節の同時収縮が起こり動 かない状況に陥ったのでしょう。患者が考える前にすばやく動作の開始を介助すれば緊張 なしに動作が可能となります。 2.失認タイプに対してアプローチしていく場合は、まず失行に対してアプローチしてい くとのことでしたが、どの程度で失行が軽減したと判断し、失認に対するアプローチに移 行していけば宜しいのでしょうか? Ans. 観念運動失行の場合には、身体部位の具体的な動かし方を指示すればするほど動き が硬くなり、動作の遂行が困難になります。したがって具体的な指示に従って動作が可能 になれば観念運動失行が軽減したと判断できます。 3.最近、雑誌等にて脳の可塑性についての報告をよく目にするのですが、脳が賦活され る事による代償機構についてはどのように考えていますか? Ans. 脳の解剖学的な再生は軸索突起の場合には起こりますので、これを可塑性というの であれば、古い時代から明白になっていました。しかし可塑性の意味するところは機能の 回復までを意味しておりそれが無い限り可塑性があるとはいえません。 成熟した脳の部位は、それぞれ機能が分化され、他の機能を代償するという報告はありま せん。脳の賦活は残存していた脳の機能が回復したからだと考えられます。 (もしも残存す る脳が他の機能を代償するとして、前頭葉が残存し中心前回が障害されていて運動麻痺が 存在する場合、脳の賦活によって前頭葉が代償して運動の機能に回ったとしたら、運動が 出来るようになった分考えたり判断する脳の機能は低下することになりますね?) 4.運動学について学びたいのですが、先生が推薦する運動学の教科書を教えて下さい。 Ans. 日本語で出版されている運動学の成書はお勧めできません。共通する欠点は運動学 が筋運動力学に偏っているからです。 是非読んでいただきたい運動学の教科書については関節ファシリテーションHP甲信越支 部を除いてください。巣宣する運動学の教科書を何冊か紹介しています。 Q5 巷で加圧筋力トレーニングというのが流行り始めていますが、障害者に対してリスクは高 くないのでしょうか??また、JF と組み合わせて、より良い筋力強化方ができませんでし ょうか? Ans. この言葉は聴いたことが無いので何もお答えできません。 Q6 P33の表6について質問があります。 「失行タイプ」についての機能訓練は詳しく解説し ていただけましたが、 「失認タイプ」は表6の中に「2.意識下運動可能になれば失認にア プローチ」とあります。 「失認タイプ」については詳しく解説していなかったように思いま すが、失認の特徴通りに細かい指示を出すだけで良いのでしょうか? Ans. 失認に対する運動療法も動作を利用し、介助法を使用します。歩行に関しては非罹患 側からの介助で上肢に体重を支持するように重心を移し、体重を非罹患側の下肢と上肢の 2点で支えるようにすれば、比較的円滑な歩行が可能となります。椅子からの立ち上がり なども同じ非罹患側からの介助が有効となります。 Q7 今回の講義で、TILT TABLE80°30 分で平行棒内訓練。平行棒内で支持なし立位 30 秒出 来れば、平行棒外訓練という指標を教えていただきましたが、他にも基本動作訓練を行う 上での指標になるような数字があるのでしょうか。 今回教えていただいたことを含めて、参考になるような文献でもよいので、教えていただ きたいです。 Ans. Lawton のADLの教科書を読んでもらうのがいいのですが、今は絶版で手に入りま せん。運動療法の教科書、あるいは Krusen の「リハビリテーション体系―医歯薬出版」を 読んでいただくと、tilt table の角度と時間の増やし方が書かれていますし、杖の種類によ って免荷の程度が数字で表記されています。その他基本的動作における必要最小ROMな ども知っておくべきでしょう。歩行時に必要な膝の屈曲角度は60度などですね。 Q8 ・講義の中で、片麻痺の回復はリハビリ開始から3ヶ月と言う話が出てきたのですが、認 知症はなく、ただ病識(病気の受容)が欠如している患者様の場合も同様に3ヶ月という 期間になってしまうのでしょうか?程度により異なるとは思いますが、宜しく御願い致し ます。 ・ 臨床の場面で、重度の半側空間無視のある患者様の訓練で、非常に難渋するのですが、 何か良いアプローチの方法がありましたら、教えてください!宜しく御願い致します。 Ans. 脳卒中の機能回復は平均して11週間続くという文献は沢山あります。しかし機能回 復を遅らせる阻害因子がある場合にはこの限りではありません。重度の失認・失行があれ ば回復は遅れます。感覚障害、排泄障害なども因子です。 失行失認に対する治療法はうまいものがなかなかありません。効果があったという報告 も比較研究によるものではないので、その効果は?です。 ただ、観念運動失行がある患者に対して従来のようなアプローチをしていると、回復ど ころか悪化するという事実は沢山あります。良くはならないとしても治療して悪くなると いう自体はどうしても避けたいと思うのですが・・・ Q9 現在、OTになり3年が経ちますが、自分がどのようにアプローチしていけば良いのかと 困っています。回復期病棟で働いているので、患者さんのADL(応用的動作)にもっと 関わっていきたいと思っているのですが、具体的にどのようにアプローチしていけば分か らず、結局OT室でPTと何ら変わりのない、機能面のみのアプローチしか出来ていない 気がします。よろしければ、宇都宮先生が思うOTとして考えるべき事、それに対するア プローチ法方や、勉強していく上での参考になる文献等がございましたら是非教えて下さ い。 Ans. PT とOTはアプローチの手段が異なりますが、治療目的は同じです。機能面には muscle function と functional ability の2つの意味がありますが、筋に対する機能の回復 に対してPTは多くは徒手を用いて運動療法を行いますが、OTは目的に応じた作業を利 用するので同じ目的でも手段が異なります。動作に関してはPTが起き上がり、立ち上が り、歩行など基本的動作を訓練しますが、OTは食事動作、衣服着脱、トイレ動作、入浴 動作など応用的動作の訓練を行いますね。OTの教科書にはそのことを書かれていると思 うのですが、私たちが使用している「応用的動作介助法」という技術についてはほとんど 患者任せで、テクニックについては書かれていないようです。そうなると現在仕事をして いるOTがそのテクニックを作っていかなければならないでしょう。応用的動作の分析の 中から、いつ、どこを、どちらに、どの程度介助するかというように、具体的な方法論が 必要だと思います。OTとしてこれらの技術を作っていくことは意義あることだと思いま せんか? Q10 ナイトセミナーで、脳に損傷を受けた後のダイアスカイシスからの回復状況を知るために 深部腱反射を毎日調べることが大切であり、下肢の深部腱反射が出てきたら荷重ができる ことを意味する。という話が出たのですが、これは深部腱反射亢進ではなく減弱の状態で も、荷重できることを意味するのでしょうか? Ans. 深部腱反射が現れたという意味は、神経系の回復が始まったという兆しですから、加 重が可能かどうかということを知りたいから検査するのではありません。減弱でも陽性と してあれば、その機能が使用できることを意味しますので、脊髄反射を利用した筋へのア プローチを感覚入力を利用して積極的に治療していってください。腱反射が無いというこ とは、神経系がまだ防御の状態にあるという意味ですから、筋に対するアプローチは控え るべき時期であると考えてください。無視すると機能は悪化します。 また、深部腱反射が出ていない状態でもプッシャー症候群の患者等、トランスファー時に 患側に荷重がかかってしまうとういうことがあると思うのですが、この場合でも痛みを出 してしまう原因になりうるのでしょうか? Ans. 深部権反射が無いのにプッシャーになれますか? 痛みは多くの場合オーバーワー クの最初の徴候として現れますので、痛みを訴える運動、動作は行ってはいけません。 Q11 プッシャーシンドロームの患者さんとどう接していけばよいでしょうか? いわゆるプッシャー症状というのは失認タイプと考えて良いのでしょうか? Ans. 出ている状態を見ていますと、失認のみあるいは失行のみではこのようにはなりませ ん。失行と失認が同時に存在する場合ですと考えられますので、おそらくそういうことで はないでしょうか?機能的予後は遅れますが、到達レベルは同じだと文献にはあります。 回復期間が2週間ほど遅れたとありました。 Q12 公演中に、 「ストレッチは良くない」といったお話があったと思います。我々が、他動的な 関節運動を実施した場合には、筋に対してテンションを挙げてしまう運動があると思いま すが、先生の挙げられたストレッチとは、どのようなものか、具体的に教えていただけれ ば幸いです。 Ans. Stretch とは Forced passive movement のことで、運動が止まった時点から更に他動 的な伸張を加えることです。軟部組織は引っ張れば長くなるという特徴を有しますが、そ こには限界があり、それを超えたり早いスピードで引っ張ったりすると、逆に短くなろう とする性質があります。実際に stretch を行うとROMが減少することから禁忌であると結 論しました Q13 ・痙性はどうすることもできない、と話がありました。痙性があるにしても、歩行のパタ ーンは、初期のPTの関わり方で変わりますか。だいたいが痙性や、連合反応の強いケー スですが、努力性の強いような歩容をどうにかしたい、と思いつつ、自分がそうさせてし まったのかな、と不安にも思います。 Ans. 痙性麻痺のことだと思いますが、程度は腱反射の亢進によって決めるものです。ここ で言われていることは筋力であって、痙性の強さではありませんね。PTの関わり方で替 わるのは痙性ではなくて筋力です。主動作筋と拮抗筋のバランスが取れないような筋力増 強は、出来ていた動作まで出来なくする事があります。不安に思われていることの内容は 観念運動失行があるにもかかわらずそのことに対する対処を無視すれば起こります。 ・失行、失認ともあり、マヒが重く、非マヒ側ががちがちに(自由でない)なってしまう人。 座位も満足にとれないようなレベルだと、何をしたらよいのでしょうか。 Ans. このような場合には、単独の筋の収縮に対してアプローチするより、動作を利用して 寝返り、起き上がりなどのとき動作の最初を介助すると、がちがちになる前に動作が可能 になります。 Q14 講義の中で回復について、その順序につき御説明頂きました。回復順序は筋の横断面積の 大きさと関係はありますか? 筋の横断面積×4=最大筋力とのお話がありました。初めて聞く内容であり、解説をお願 い致します。 又、どのように臨床応用できますでしょうか? (筋の横断面積を示した資料等ありましたら御提示をお願いいたします。 ) Ans.まず、回復順序と筋の横断面積は関係ありません。しかし筋力と直接関係があります ので麻痺が回復すれば横断面積も比例して大きくなります。筋の横断面積1平方センチメ ートルあたり4キログラムというのは普通の運動学の教科書ならどの本にも書いてありま す。ブルンストロームの運動学「臨床運動学」に詳しく書かれています。 Q15 下肢の腱反射が出現してから立位歩行等の荷重訓練を行った方が良いということでしたが、 抗重力筋全てに腱反射が現れたことを確認すべきでしょうか?それとも一部でも出現すれ ば良いでしょうか?またその場合腱反射は正常でなければいけないでしょうか?収縮が確 認できる程度でよいのでしょうか? Ans. 腱反射が出現したということは、脊髄の機能が回復したということですから、通常は どの腱反射も同時に現れます。脳卒中の場合には腱反射は亢進することが多く正常な人は まずいません。麻痺が完全に正常に回復する人は腱反射も正常になります。 Q16 ・痙性はどうすることもできない、と話がありました。痙性があるにしても、歩行のパタ ーンは、初期のPTの関わり方で変わりますか。だいたいが痙性や、連合反応の強いケー スですが、努力性の強いような歩容をどうにかしたい、と思いつつ、自分がそうさせてし まったのかな、と不安にも思います。 ・ 失行、失認ともあり、マヒが重く、非マヒ側ががちがちに(自由でない)なってしまう 人。座位も満足にとれないようなレベルだと、何をしたらよいのでしょうか。 Ans . この質問は13と同じですね。 以上です。
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