06P133_小池 翔大

平成 23 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ
論文題目
アスピリン製剤の耐酸性皮膜の評価研究、
ジェネリック製剤 C について
Evaluation of stability of acid-resistance of aspirin enteric coated
generic preparation C.
薬物動態学研究室 6 年
06P133
小池 翔大
(指導教員:上野 和行)
要 旨
現在、アスピリン腸溶性製剤は抗血小板療法において臨床上非常に有用であると考えら
れ多くのジェネリック製剤が発売されている 1)。
ジェネリック製剤は、開発に必要な経費が尐ないため、先発製剤と比較して薬価が低く設
定されている。このことからジェネリック製剤の使用促進は医療費の抑制、患者負担の減尐
のための有効な手段として考えられているが、使用促進の成果が得られていないのが現状
である
2)3)。その理由の一つとして、先発製剤とジェネリック製剤間の溶出挙動の差が挙げら
れる。
アスピリン腸溶性製剤は胃での有効成分の溶出を避け、胃粘膜障害の副作用を軽減す
る目的で開発された。しかし、腸溶性製剤のように製剤上の工夫を施された製剤はわずかな
pH 変化により溶出挙動が変化し、薬効や副作用の影響が出ると考えられる。
そこで本研究では、アスピリン腸溶性製剤の溶出挙動を評価することで各製剤における
皮膜の耐酸性の相違について検討した。
キーワード
1.溶出試験
2.アスピリン
3.腸溶性製剤
4.腸溶性皮膜
5.先発製剤
6.ジェネリック製剤
7.酸性条件下
8.アルカリ条件下
9.コーティング皮膜
目 次
1.緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2.方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
3.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
4.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
諸 言
アスピリン腸溶性製剤(pKa=3.5)はシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase:COX)
の阻害により、プロスタグランジン E2(ProstaglandinE2:PGE2)の産生を抑制することで、
胃粘膜保護作用の低下を引き起こす。また、胃内 pH の上昇により胃粘膜から吸収され
ると、胃粘膜細胞への局所刺激作用により、副作用である胃・十二指腸障害、胃出血等
の胃腸障害が生じる。したがって、アスピリンの胃内溶出を防止するために、製剤を耐酸
性の腸溶性皮膜でコーティングし、小腸で溶出・吸収されるよう安定性を担保している。し
かし、空腹時において、通常 1~2 といわれている胃内 pH が食事や薬物の摂取により、
低い人で 2~4、高い人では 4~6 に上昇するとの報告 3)があることから胃内 pH 上昇によ
るコーティング皮膜の破損し、主薬の溶出が懸念される。
腸溶性皮膜の素材は、アクリル酸系、セルロース系、天然物系等がある。例えば、セル
ロース系の腸溶性皮膜は、酸性条件下では安定な疎水性皮膜であるが、アルカリ条件下
では加水分解される。したがって、この様な皮膜でコーティングされている製剤であれば、
酸性条件下では安定であるが、アルカリ条件下ではコーティング皮膜が破損し、製剤は
崩壊する。医薬品各製剤においては、様々な腸溶性皮膜が用いられているため、各製
剤からの主薬の溶出性は多種多様と考えられ、溶出性の比較や評価が必要である。
アスピリン腸溶性製剤では、各製薬会社において日本薬局方崩壊試験法第 1 液およ
び第 2 液での溶出試験が実施されており、pH 1.2 での安定性、pH 6.8 での溶出性が評
価されている。一部の製剤では pH 6.0 での溶出を確認したデータがあるが、それらを除
いては pH 1.2 および pH 6.8 以外の評価はなく、耐酸性における詳細な評価は不明で
ある。
そこで本試験では、アスピリン腸溶性製剤(先発製剤 A およびジェネリック製剤 B、C)
を対象として溶出試験を行い、pH 6.8 における溶出挙動の確認および pH 6.0 以下にお
ける皮膜の耐酸性を評価し、特に製剤 C について検討した。
1
方 法
1.対象および試薬
現在発売されているアスピリン腸溶性製剤のうち、先発製剤 A(100 mg)、ジェネリック
製剤 B(100 mg)、C(100 mg)の 3 製剤を対象として評価を行い、本研究では製剤 C を
検討した。
溶出試験液は、pH 6.8、6.0、5.9、5.8 に調製した 0.1 M リン酸緩衝液(カリウム)を用
い、検量線の作成には和光純薬工業株式会社のアスピリン原末(試薬特級品)およびサ
リチル酸原末(試薬特級品)を用いた。
2.溶出試験
第十五改正日本薬局方の第 2 法パドル法 4)に準じて、溶出試験器(TMB-81:富山産
業(株))を用いて溶出試験を行い、各種 pH における溶出挙動および耐酸性の評価を
行った 5)。
各 pH に調製した 0.1 M リン酸緩衝液(カリウム)900 mL を容器に入れ、5 分間超音
波処理にて脱気を行った。恒温槽は 37±0.5 ℃に保ち、容器の内底とパドルの下端と
の距離は 25±2 mm に固定し、パドルは規定された条件の 50 rpm で回転させた。
錠剤を容器に投入した時間を 0 min とし、5、10、15、30、60、90、120、180、240、
300 min 後に試験液を 10 mL ずつパドルの上端 2 cm より採取し、直ちに試験液 10 mL
を補充した。ただし、試験途中で 90 %以上の溶解が認められた場合は、その時点で試
験を中止した。
採取した試験液は、主薬以外の添加物や皮膜の浮遊が考えられるため、0.45 μM メン
ブランフィルターを用いて試験液を濾過した後、波長 275 nm、295 nm において吸光度
を測定した。
なお、約 4 時間後には大部分の胃内容物が胃を通過する 5)ことから、本試験時間は最
大 5 時間とし、試験時間内に先発製剤 A の平均溶出率が 85 % 以下になる pH 条件下
で本試験を終了することとした。
2
3.濃度測定法
溶出率を算出する方法として 2 成分系の同時定量 6)を行い、各試料溶液の吸光度に
対応する溶出濃度を求めた。
成分 X(アスピリン)の波長 275 nm、295 nm における吸光係数をそれぞれ εX1、εX2 と
し、同様に、成分 Y(サリチル酸)の波長 275 nm、295 nm における吸光係数をそれぞれ
εY1、εY2 とする。成分 X と Y の混合溶液の波長 275 nm および 295 nm における吸光度
を A1、A2 とし、成分 X および Y の濃度をそれぞれ CX、CY とすると、以下の関係式が成り
立つ。
A1=εX1・CX+εY1・CY
A2=εX2・CX+εY2・CY
上記 2 式より、
CX=(εY2・A1+εY1・A2 )/(εX1・εY2+εX2・εY1 )
CY=(εX2・A1+εX1・A2 )/(εX2・εY1+εX1・εY2 )
CX および CY より、試験液中のアスピリンおよびサリチル酸の溶出率を算出した。
4.統計解析
実験個数は N=6 とし、採取時間ごとに得られた各試料の平均溶出率の標準偏差
( SD )を示すと共に、Student の t 検定を用いて各製剤間の有意差を求めた。
3
結 果
各 pH 条件下における溶出挙動を Fig.1~8 に、平均溶出率および標準偏差(SD)を
Table.1~4 に示した。また、Table.5~8 に試験液の各採取時間における先発製剤とジ
ェネリック製剤間(AB、AC 間)、ジェネリック製剤間(BC 間)の有意差データを示した。
1.pH 6.8 条件下
Fig.1、Table.1 より、製剤 C は 30 min で 60 % 、90 min で 85% 以上の溶出が確
認された。また、製剤が溶出し始める 15~30 min 付近において、製剤間にバラツキが見
られた。
2.pH 6.0 条件下
Fig.2、Table.2 より、製剤 C は 120 min で 30 % 、180 min で 80% 以上の溶出が
確認された。また、製剤が溶出し始める 90~120 min 付近において、製剤間に大きなバ
ラツキが見られた。
3.pH 5.9 条件下
Fig.3、Table.3 より、製剤 C は 240 min で約 30 % 、300 min で 45% の溶出が確
認された。また、製剤が溶出し始める 240~300 min 付近において、製剤間に大きなバ
ラツキが見られた。
4.pH 5.8 条件下
Fig.4、Table.4 より、製剤 C は 300 min において約 5 % と溶出がほとんど確認でき
なかった。また製剤間のバラツキも見られなかった。
なお、pH 5.8 条件下において、試験時間内に先発製剤 A の溶出率が 85% に達しな
かったため、ここで本試験を終了とした。
4
Fig.1. Dissolution behavior of preparation C in pH6.8.
Table.1. The average dissolution rate and S.D .of each aspirin in pH6.8.
time(min)
A
S.D.
B
S.D.
C
S.D.
5
0.486
0.203
1.075
1.625
0.374
0.590
10
10.239
4.927
7.189
3.949
2.090
2.455
15
24.521
4.114
31.043
6.233
32.005
8.856
30
48.627
3.167
58.143
5.604
60.871
6.636
60
68.398
1.776
76.667
0.735
76.695
3.301
90
77.496
1.051
84.650
0.778
85.264
2.042
120
87.278
2.734
91.649
0.694
93.266
1.416
180
100.837
1.867
106.650
1.344
108.157
1.362
5
Fig.2. Dissolution behavior of preparation C in pH6.0
Table.2. The average dissolution rate and S.D .of each aspirin in pH6.0.
time(min)
A
S.D.
B
S.D.
C
S.D.
5
0.000
0.000
0.000
0.000
0.020
0.049
10
0.000
0.000
0.059
0.145
0.098
0.241
15
0.000
0.000
0.000
0.000
0.139
0.340
30
1.763
3.303
0.000
0.000
0.626
1.309
60
8.566
8.519
3.136
1.703
2.461
3.678
90
21.013
18.816
8.229
3.348
14.392
21.265
120
42.259
18.276
32.165
20.779
32.018
27.413
180
75.201
12.034
80.580
4.705
80.812
9.901
240
92.022
11.021
99.199
3.951
98.028
7.422
6
Fig.3. Dissolution behavior of preparation C in pH5.9
Table.3. The average dissolution rate and S.D of each aspirin in pH5.9
time(min)
A
S.D.
B
S.D.
C
S.D.
5
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
10
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
15
0.000
0.000
0.123
0.191
0.000
0.000
30
0.000
0.000
0.206
0.355
0.021
0.051
60
0.918
0.974
0.538
0.890
0.291
0.340
90
3.312
1.659
1.633
1.021
1.381
1.467
120
7.028
2.886
3.291
1.545
3.099
2.538
180
33.356
19.067
8.107
2.028
10.920
10.166
240
69.738
13.746
25.352
15.567
28.646
29.711
300
86.311
13.465
56.738
22.030
44.862
33.055
7
Fig.4. Dissolution behavior of preparation C in pH5.8
Table.4. The average dissolution rate and S.D of aspirin in pH5.8
time(min)
A
S.D.
B
S.D.
C
S.D.
5
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
10
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
15
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
30
0.000
0.000
0.593
0.677
0.638
0.224
60
0.663
0.306
1.613
0.480
1.408
0.379
90
1.289
0.241
2.195
0.260
2.009
0.305
120
2.534
0.588
2.770
0.217
2.455
0.247
180
5.342
1.236
3.739
0.443
3.273
0.368
240
10.466
3.591
4.661
0.421
4.234
0.407
300
24.952
14.720
5.882
0.457
5.257
0.512
8
Fig.5. Dissolution behavior of each aspirin in pH6.8.
Table.5. Statistical significance of each other in pH6.8.
A、B
P
A、C
P
B、C
P
5min
N.S.
5min
N.S.
5min
N.S.
10min
N.S.
10min
0.05<
10min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
30min
0.05<
30min
0.05<
30min
N.S.
60min
0.05<
60min
0.05<
60min
N.S.
90min
0.05<
90min
0.05<
90min
N.S.
120min
0.05<
120min
0.05<
120min
0.05<
180min
0.05<
180min
0.05<
180min
N.S.
9
Fig.6. Dissolution behavior of each aspirin in pH6.0
Table.6. Statistical significance of each other in pH6.0.
A、B
P
A、C
P
B、C
P
5min
N.S.
5min
N.S.
5min
N.S.
10min
N.S.
10min
N.S.
10min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
30min
N.S.
30min
N.S.
30min
N.S.
60min
N.S.
60min
N.S.
60min
N.S.
90min
N.S.
90min
N.S.
90min
N.S.
120min
N.S.
120min
N.S.
120min
N.S.
180min
N.S.
180min
N.S.
180min
N.S.
240min
N.S.
240min
N.S.
240min
N.S.
10
Fig.7. Dissolution behavior of each aspirin in pH5.9
Table.7. Statistical significance of each other in pH5.9.
A、B
P
A、C
P
B、C
P
5min
N.S.
5min
N.S.
5min
N.S.
10min
N.S.
10min
N.S.
10min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
30min
N.S.
30min
N.S.
30min
N.S.
60min
N.S.
60min
N.S.
60min
N.S.
90min
N.S.
90min
0.05<
90min
N.S.
120min
N.S.
120min
0.05<
120min
N.S.
180min
0.05<
180min
0.05<
180min
N.S.
240min
0.05<
240min
0.05<
240min
N.S.
300min
N.S.
300min
N.S.
300min
0.05<
11
Fig.8. Dissolution behavior of each aspirin in pH5.8
Table.8. Statistical significance of each other in pH5.8.
A、B
P
A、C
P
B、C
P
5min
N.S.
5min
N.S.
5min
N.S.
10min
N.S.
10min
N.S.
10min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
15min
N.S.
30min
N.S.
30min
0.05<
30min
N.S.
60min
0.05<
60min
0.05<
60min
N.S.
90min
0.05<
90min
0.05<
90min
N.S.
120min
N.S.
120min
N.S.
120min
0.05<
180min
0.05<
180min
0.05<
180min
0.05<
240min
0.05<
240min
0.05<
240min
0.05<
300min
0.05<
300min
0.05<
300min
0.05<
12
考 察
1.製剤 C について
本研究より、製剤 C は pH 6.8 において、腸溶性製剤における生物学的同等性試験の
ガイドラインの規定である「90 min 以内に 80 % 以上溶出する」を満たした。また、製剤 C
は、4 時間以内の溶出率が pH6.0 において約 98%、pH5.9 では約 45%、pH5.8 では
約 4%であった。通常胃内 pH は 1~2 程度と言われているが、食事や薬物の服用により
胃内 pH は 4~6 程度まで上昇するとの報告がある。胃内容物は 4 時間後には胃から排
出されているので、pH 5.8 以下では胃内で安定した耐酸性皮膜効果を有することが示
唆されるが、pH 5.9 以上では、胃内での皮膜の破損が考えられ、主薬であるアスピリンの
溶出が示唆される。したがって、胃内 pH の上昇に伴う製剤 C の主薬の溶出は、胃粘膜
障害の副作用につながる可能性があり、臨床において十分検討する必要があると考え
た。
2.製剤 A,B,C 間の比較
Fig.5~8 及び Table.1~8 より 3 製剤を比較すると、pH 5.9 で特に 3 製剤間のバラツ
キが大きく、Table 3 より、先発製剤 A では 300 min において 85 %以上の溶出が認めら
れたが、ジェネリック製剤 B では約 55 %、ジェネリック製剤 C では約 45 %であり、先発
製剤とジェネリック製剤間で約 30~40 %の溶出率の大きな差が認められた。
また、Table.5~8 より、試験液の各採取時間における先発製剤とジェネリック製剤間
(AB、AC 間)、ジェネリック製剤間(BC 間)の有意差データを比較すると、各 pH すべて
において、AB、AC 間に比べ、BC 間で有意差が尐ない傾向が認められた。したがって、
先発製剤とジェネリック製剤間では、耐酸性皮膜の許容範囲に差があると示唆された。
13
謝 辞
本研究を遂行するにあたり、終始御懇切な御指導、御鞭撻を受け賜りました本学薬物
動態学研究室 上野和行教授に厚く御礼申し上げます。
また、本研究の実施にあたり、有益な御助言、御協力を頂きました本学薬物動態学研
究室 福本恭子助教をはじめ、本研究室の皆様に深く感謝致します。
14
引 用 文 献
1. バイアスピリン,インタビューフォーム(第 8 版).
2. 鹿島亜沙美,小林貴志,小林真理子,田中絵里子,福本恭子,上野和行,ファモチ
ジン口腔内崩壊錠の品質評価,医療薬学,32,pp.511(2006).
3. 松浦克彦,林秀樹,杉山正,片桐義博,後発医薬品採用のための品質試験_マレイ
ン酸エナラプリル錠における検討,医療薬学,32,pp.306-307(2006).
4. 水野亘恭,新熊博治,濱口常男,製剤のバイオアベイラビリティの変動とそれに及ぼ
す要因解析,薬学雑誌,123,pp.487(2003).
5. 第 15 改正日本薬局方,溶出試験法,pp.105-109.
6. 高村喜代子,第 2 版薬学生のための分析化学,廣川書店,pp.105-107,112-113.
15