生徒を伸ばす指導のヒント ベネッセコーポレーション GTEC for STUDENTS 編集部 vol.24 【GTEC 通信】 http://www.fine.ne.jp/info/english/ <指導事例研究> 中学1年で英語嫌いを作らない指導 都立両国高等学校附属中学校 山本崇雄先生のお話より ◆背景 「歴史ある都立の進学校に附属中学校が誕生!」 。こ のニュースに大きな期待と関心を抱いた保護者は少な くない。東京都立両国高等学校附属中学校が、開校前 年の平成 17 年度に行った学校説明会では、小学校6年 生が 2,500 人、小学校5年生以下が 3,300 人も集まっ た。 平成 18 年4月、 同校は新しく迎えた中学1年生 120 名とともに、中高一貫校としての第一歩を踏み出した ところである。 ◆課題 「中高6年間の柱となるものを作りたい」と中学1 年を担当する山本先生はおっしゃる。それは、中学で の音声中心の英語指導と高校での大学入試を視野に入 れた英語指導に乖離を感じていたからだ。中3と高1 の授業形式のギャップを埋め、スムーズな6年間の指 導計画を立てるには、柱となる中高の到達目標が必要 となる。 そこで同校では、中高一貫の強みを活かして、中学 ではまず「聞く・話す」で基礎を固めようとしている。 そして高校では「読む・書く」中心の発展した内容に シフトしていく予定だ。今回はその導入期にあたる中 学 1 年での指導について、その詳細をお聞きした。 ◆実行内容 中学 1 年での指導目標は、 「英語が好きになること」 と「堂々と英語でプレゼンテーションできること」と、 非常にシンプルだ。同校に入学する多くの生徒の英語 学習歴は、小学校の総合学習で ALT の授業を体験した 程度だ。よって、中学 1 年は英語の「好き」 「嫌い」を 決定づける、非常に重要な時期になるととらえている。 ①クラス編成 この時期の英語力は常に変化し、習熟度ではクラス 分けがしにくい。そのため少人数クラスの編成も、出 席番号で機械的に行っている。 ②授業形式 授業は4月当初よりオールイングリッシュで、生徒 GTEC 通信 January 2007 への指示、生徒の受け答えも全て英語だ。英語運用能 力を育て、プレゼンテーションにつなげていくため、 毎日の授業を基本とし、既習のものや未習のものも少 しずつ何度も繰り返し行われる。 ③授業の「導入」 ∼英語ビンゴゲーム∼ オールイングリッシュにスムーズに慣れるためのウ ォームアップとして、中 1 では「ビンゴゲーム」<図 1>から授業を始める。山本先生は音楽をかけながら 英語を発音し、生徒はその単語をチェックしながら、 お互いに競うように先生の英語を真似する。まるで楽 しいゲームのようだが、狙いは4つある。 ■最初はいつも決まった活動をするという「安心感」 ■ゲーム要素のある活動をすることでの「楽しさ」 ■スピードある活動をすることでの「脳の活性化」 ■英語を意欲的に話そうとする「雰囲気作り」 「これで文法や語彙数を増やそうといった欲張ったこ とは考えていません。生徒が楽しんで 笑う授業 に なるように楽しんで授業に入れれば十分です。 」と山本 先生。 生徒は授業が始まる前に、上段の <図1>ビンゴゲーム 欄から単語を選んで埋めておく ④授業の「展開」 ∼インタビューとレポーティング∼ ウォームアップの後は、 「Today s Question」を使っ て、インタビュー活動とレポーティング活動を行う。 <図2>ワークシート <インタビュー活動の例> 「Today s Question」で示された質問文を、生徒同士でインタビュー しあう。その際には必ず自分の考えや感想を述べる。インタビューの ※教科書に出てく 後には、結果をレポーティング(報告)しなければならないので、生 るピクチャー(挿 徒は相手の答えを暗記しながら、活動を進めなければならない。 絵)と、そこに出 ■Today s Questionが「Can you cook curry and rice?」の場合 てくる文法表現、 花子:I can cook curry and rice. Can you cook curry and rice? 単語などが抜粋し 太郎:Yes, I can cook curry and rice. It is easy. て書かれている。 <レポーティング活動の例> インタビュー活動後に、教師と以下のようなやり取りする。 教師:Please report about your friends ,Hanako. 中学 1 年生でも、会話で使う表現の一環 花子:Taro can cook curry and rice. It is easy. として、現在完了形なども教えている。 ポイントは2つある。 1つ目はストップウォッチで時間を計って活動するこ とだ。生徒は必死になってペアを探し、同じ問答を繰 り返し口にする。これによって、生徒は無理なく英語 表現をinput(導入)していく。またこのように「自分 の話」と「他人の話」をやり取りする中で、自然と一 人称と二人称の区別もつくようになるそうだ。 2つ目は、インタビュー活動のようなペアワークにと どまらず、さらにレポーティング活動まで指導を広げ ていることだ。このレポーティング活動では、インタ ビューのような決まりきった問答の繰り返しから、他 人の話を聞いて理解する、というintake(定着)段階 に移る。また、 「自分の話」と「第3者の話」をやり取 りすることで、今度は一人称と三人称の区別もつくよ うになる。文法的には教えていないが、生徒は三人称 の動詞には三単元の「S」がつくことも、感覚的に理 解しているそうだ。 ⑤授業の「まとめ」 ∼教科書のプレゼンテーション∼ 授業のまとめではピクチャーカードを使い英語のや りとりを通して内容を理解していく。新出の文法や語 彙もここで理解していく。生徒はペアになりワークシ ート<図2>を使って教科書の内容を英語で説明しあ い内容理解を深める。 最後には、一人の生徒が前に出てプレゼンテーショ ンを行う。タッチパネル式ホワイトボードに映し出さ れた教科書の絵を使い、その内容を英語で説明してい く。単に内容を説明するだけでなく、生徒はできる限 り自分の考えを話したり、聞き手に質問したりもする。 これが授業の最終段階であるoutput(運用)だ。 このように山本先生の授業では、プレゼンテーション をする機会がたくさんあり、1コマの授業にinput→ intake→outputまで入っていることが特徴である。 GTEC 通信 January 2007 「中学1年の授業では、焼き物に薄く上薬を塗るよ うに、何度も何度も文法や単語、英語表現を浅く頭に 入れてやることが重要なのです。そうすれば、後にそ れが 文法事項 として出てきたときも、敷が低くな ります」と山本先生は、自身の授業について語る。 ◆今後の展望 中学・高校の接続で、全く継ぎ目がない状態を作る のは難しいが、山本先生は「ある一本の軸では中学・ 高校がつながっている」ような指導体制を組みたいと 考えている。それは具体的にいえば、 ■中学・高校が同じ指標の到達目標を持っている ■その目標が「自己紹介ができる」 「プレゼンテーショ ンができる」など明確なCAN-DOに基づいている ■目標が4技能ごとに設定されている という状態だ。 各学年での目標達成度を、次の学年に上がっても引 き続き追っていけるような 学年連携 を作っていく ことが、英語科の大きな展望である。 将来的には「読む」 「聞く」 「書く」 「話す」の4技能 のバランスが取れた生徒を育成したい、そして中学校 から育てたプレゼンテーション能力を活かして、高校 では高度なディベートに発展させたい、と山本先生は 力強く語って下さった。 (国際教育事業部 秋山愛、高校事業部 下村敏樹)
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