12 号 - 兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター

兵庫県立健康生活科学研究所 健康科学研究センター
健科研リポート
兵 庫 県 マスコット はばタン
平 成 27 年 8 月 第
12 号
夏 は 細 菌 に よ る 食 中 毒 が 多 く 発 生 す る 時 期 で す が 、ウ イ ル ス が 原 因
と な る 感 染 症 も 流 行 し ま す 。子 ど も を 中 心 と し て 夏 季 に 流 行 す る 代 表
的な感染症に、手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱があります。
当 研 究 セ ン タ ー で は 、感 染 症 発 生 動 向 調 査 の 一 環 と し て 、患 者 情 報 の
収 集・解 析 及 び 病 原 体 検 査 を 行 っ て い ま す 。今 回 は そ の 結 果 と あ わ せ
て、これら 3 つの感染症についてご紹介します。
症 状 と流行 状 況
● 手足口病 ●
口 腔 粘 膜 や 手 足 に 水 疱 性 の 発 疹 が 現 れ る の が 特 徴 で す 。発 熱
を伴うことがありますが、高熱が続くことは通常ありません。
2011 年 に 過 去 最 大 規 模 の 流 行 が 起 こ り 、 そ の 後 、 兵 庫 県 で は
2013 年 、2015 年 と 隔 年 で 比 較 的 大 き な 流 行 が 起 こ っ て い ま す 。
今 年 、 県 内 の 定 点 医 療 機 関 か ら 報 告 さ れ た 患 者 は 、 1∼ 2 歳 を
中 心 に 5 歳 以 下 が 全 体 の 88%を 占 め て い ま す 。
手足口病
発疹の様子
(職 員 提 供 )
● ヘルパンギーナ ●
いわゆる夏かぜの代表的な疾患で、突然の高熱で発症し、咽頭痛や咽頭発赤があら
われ、口腔内に水疱が出現します。口腔内の痛みなどから食欲不振になり脱水症状を
起 こ す こ と が あ り ま す 。毎 年 、7 月 を ピ ー ク に 6∼ 8 月 に 流 行 し ま す 。1∼ 4 歳 の 患 者 が
多 く 、 今 年 の 兵 庫 県 の 患 者 数 は 5 歳 以 下 が 全 体 の 88%を 占 め て い ま す 。
● 咽頭結膜熱 ●
発熱、咽頭発赤、結膜充血を主症状とする疾患で、プールを介して感染することが
あるため、プール熱とも呼ばれています。現在は塩素濃度管理の徹底等によりプール
水 で の 感 染 は ま れ で 、多 く は 患 者 か ら の 飛 沫 に よ り 感 染 し ま す 。5 月 の 初 め 頃 か ら 患 者
数 が 増 加 し 始 め 、 6∼ 7 月 を ピ ー ク に 患 者 数 は 徐 々 に 減 少 し ま す 。 今 年 の 兵 庫 県 の 患 者
数 は 1 歳 が 最 も 多 く (25%)、 5 歳 以 下 が 全 体 の 78%を 占 め て い ま す 。
原 因 となるウイルス
2013∼ 2015 年 に 当 研 究 セ ン タ ー で 検 出 し た 主 な ウ イ ル ス に つ い て 、疾 患 別 に 表 1 に
示しました。手足口病とヘルパンギーナはエンテロウイルス、咽頭結膜熱はアデノウ
イ ル ス が 主 な 病 原 ウ イ ル ス で す 。エ ン テ ロ ウ イ ル ス は コ ク サ ッ キ ー ウ イ ル ス A2 や A4、
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健科研リポート第 12号
ア デ ノ ウ イ ル ス は 1 型 、2 型 な ど 、さ ら に 多 く の 型 に 分 類 さ れ ま す 。年 に よ り 原 因 と な
るウイルスは変化し、同じ年でも時期により異なるウイルスが原因となることがある
ため、複数回同じ感染症に罹患することがあります。
表 1. 兵 庫 県 内 の 患 者 発 生 状 況 と 主 な 検 出 ウ イ ル ス
手足口病
ヘルパンギーナ
週別定点あたり患者数(人)
2013年
8
10
1
6
8
2014年
咽頭結膜熱
週別定点あたり患者数(人)
週別定点あたり患者数(人)
6
4
0.5
4
2
2
2015年
2013年
2014年
2015年
0
1
3
5
7
9
0
11
(月)
1
3
5
7
9
11
(月)
患者から検出された主なウイルス
コクサッキーウイルスA6
コクサッキーウイルスA8
エンテロウイルス71型
コクサッキーウイルスA10
パレコウイルス
コクサッキーウイルスA4
コクサッキーウイルスA16
コクサッキーウイルスA2
コクサッキーウイルスA16
コクサッキーウイルスA10
コクサッキーウイルスA6
0
1
3
5
7
9
11
(月)
アデノウイルス3型
アデノウイルス2型
アデノウイルス3型
アデノウイルス2型
アデノウイルス3型
アデノウイルス1型
予 防 するために
3 つ の 感 染 症 の 主 な 感 染 経 路 と し て 、口 腔 か ら の 飛 沫 感 染 と 、汚 染 物 が 手 指 等 に 付 着
して経結膜や経口的に広がる接触感染があります。感染予防には、手洗いの励行、排
泄物の適切な処理、タオルの共用を避けることなどが大切です。どの疾患も基本的に
軽症で回復しますが、まれに合併症を起こし重症化することがあります。感染が疑わ
れる場合はなるべく早い時期に受診するようにしましょう。
(感染症部
荻
美貴、髙井伝仕、近平雅嗣、秋山由美、望月利洋)
ジクロロ酢 酸 、トリクロロ酢 酸 とは
水道水は微生物による感染を防ぐため、次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒が行わ
れています。この消毒剤は微生物を死滅・不活性化させますが、同時に水道原水とし
ての河川水、地下水などに含まれる有機物と反応して新たな化学物質を生成すること
が あ り ま す 。 こ れ ら を 「消 毒 副 生 成 物 」と 呼 び 、 ジ ク ロ ロ 酢 酸 と ト リ ク ロ ロ 酢 酸 は こ の
消毒副生成物のひとつです。ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸の化学構造式を図1に示
し ま し た が 、酢 酸 の 構 造 式 の う ち 塩 素 原 子 が 2 つ 置 換( 左 図 )さ れ た も の 、3 つ 置 換( 右
図)されたものが、それぞれジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸です。これらの消毒副生
成物を高濃度で摂取し続けますと動物実験で有害
性(肝臓への影響等)が認められています。
図1
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ジクロロ酢 酸 、 トリクロロ酢 酸 の 化 学 構 造 式
健科研リポート第 12 号
水 質 基 準 値の強 化 について
水道水は乳幼児から高齢者まで毎日、摂取されることから、生涯にわたって健康に
影響が生じない水準をもとに、厚生労働省は厳しい水質基準値を設定しています。水
質基準値は最新の研究結果に基づき逐次改正が行われますが、基準値の改正・設定に
あたっては対象物質の毒性評価が行われます。ジクロロ酢酸については、発がんリス
ク を 比 較 ・ 検 討 し た 結 果 、 今 ま で の 評 価 値 1.43µg/kg 体 重 /日 か ら 1.3µg/kg 体 重 /日 ま
で 引 き 下 げ ら れ ま し た 。一 方 、ト リ ク ロ ロ 酢 酸 に つ い て は 、耐 用 1 日 摂 取 量( TDI:ヒ
ト が 一 生 涯 摂 取 し て も 健 康 に 影 響 が 出 な い 最 大 量 ) が 32.5µg/ kg 体 重 /日 か ら 6µg/ kg
体 重 /日 ま で 大 幅 に 引 き 下 げ ら れ る こ と に な り ま し た 。こ の よ う な 経 緯 を 踏 ま え て 2015
年 4 月 1 日 か ら 水 道 水 中 の ジ ク ロ ロ 酢 酸 の 水 質 基 準 値 が 40µg/L か ら 30µg/L 以 下 に 、
ト リ ク ロ ロ 酢 酸 が 200µg/L 以 下 か ら 30µg/L 以 下 に 強 化 さ れ ま し た 。
高 精 度 な検 査 法 の開 発 と活 性 炭 による除 去 性 に関 する研 究 成 果
兵庫県では、将来にわたって安全で安心な水道水
を確保するため、兵庫県水道水質管理計画を策定し
て 、 県 下 の 水 質 監 視 50 地 点 の 水 道 原 水 と 浄 水 の 水
質調査を行っています。当研究センターでは、厚生
労働省から通知された公定検査法の遵守に加えて、
高精度な分析法の確立を行い、新基準値の施行前か
ら 新 基 準 値 の 10 分 の 1 濃 度 に つ い て 、高 い 精 度( 厚
生 労 働 省 が 目 標 と す る 変 動 係 数 20% に 対 し て 10%
以下)で測定を行っています。また、現在では、新
基準値を超過する監視地点は認められていませんが、
図 2 活性炭量と除去率との関係
早期から緊急時を想定して、活性炭による除去対策
法に関する研究も行ってきました。
図 2 に活性炭によるジクロロ酢酸及びトリクロロ
酢酸の除去性(室内実験)を示しましたが、活性炭
の量に依存して除去率が増加することが判明しまし
た。また、図 3 に示すように、フィールド調査の結
果からもジクロロ酢酸の低減化に活性炭の有効性が
図 3 活 性 炭 処 理 後 の ジクロロ酢 酸 濃 度 の
経年変化
明らかとなりました。
今 後の取り組 み
当研究センターでは、飲料水健康危機管理を想定して、平時より有害物質の分析法
開発、実態調査及び除去対策に関する研究を行っています。今回の省令改正に伴うジ
クロロ酢酸、トリクロロ酢酸の基準値強化に対しては、全国に先駆けて、高精度な分
析法の開発と実態把握に努め、除去対策法の確立も行いました。今後も、これらの分
析技術を活用して県下の検査機関への技術指導や浄水が汚染された場合を想定した除
去対策法に関する研究を行い、県民の水道水に対する安全と安心確保に努めていきま
す。
(健康科学部
川元達彦、上村育代、井上
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亘、谷畑智也)
健科研リポート第 12号
とぴっくす
世 界 保 健 機 構 (WHO)は 2015 年 3 月 27 日 に 、日 本 を
麻しんの「排除状態」にあると認定しました。
麻 し ん は 途 上 国 等 で 致 死 率 が 高 い 重 症 感 染 症 で す が 、国 内 で は 1978 年 か ら の ワ ク チ ン の 定
期 接 種 で 患 者 は 徐 々 に 減 少 し て い ま し た 。し か し 、ワ ク チ ン 接 種 が 徹 底 さ れ て い な い こ と も あ
っ て 、 数 年 毎 に 大 き な 流 行 を 繰 り 返 し 、 最 近 で は 2007 年 に 10~20 代 を 中 心 に 再 燃 し ま し た 。
こ の 年 に 厚 生 労 働 省 は 、 WHO に よ る 「 日 本 を 含 む 西 太 平 洋 地 域 の 麻 し ん を 2012 年 ま で に 排
除 す る 」 と い う 目 標 に 従 っ て 、「 麻 し ん に 関 す る 特 定 感 染 症 予 防 指 針 」 を 定 め ま し た 。 従 来 の
1 歳 児 (1 期 )と 小 学 校 入 学 前 (2 期 )に 加 え て 、5 年 間 限 定 で 3 期 (中 学 1 年 生 )と 4 期 (高 校 3 年 生
年 齢 )の ワ ク チ ン 接 種 が 行 わ れ る よ う に な り ま し た 。 同 時 に 、 一 部 の 医 療 機 関 か ら の 報 告 で 把
握 し て い た 患 者 発 生 も 、全 数 報 告 に 変 更 さ れ ま し た 。患 者 は 臨 床 診 断 や 抗 体 検 査 の 後 、当 研 究
セ ン タ ー 等 の 地 方 衛 生 研 究 所 に よ る 遺 伝 子 検 査 で 特 定 さ れ 、さ ら に ウ イ ル ス の 遺 伝 子 型 を 調 べ
て、国内土着ウイルスか海外輸入ウイルスかを判定します。
そ の 結 果 、 2008 年 に 11,013 例 あ っ た 患 者 数 が 2013 年 に は 283 例 へ と 減 少 、 2014 年 に は
463 例 と 増 加 し た も の の 、 日 本 土 着 の 遺 伝 子 型 D5 の ウ イ ル ス は 2010 年 5 月 を 最 後 に 検 出 さ
れ な く な り ま し た 。 そ の 後 の 検 出 は 、 B3 や D8 等 の 輸 入 ウ イ ル ス に 限 ら れ て お り 、 こ れ ら は
一過性に流行するものの定着することはなく、麻しんは「排除状態」となりました。
こ の よ う に 、麻 し ん は 海 外 か ら の 持 ち 込 み も 少 な く な い た め 、今 後 は 1、2 期 ワ ク チ ン 接 種
を 徹 底 す る と と も に 、患 者 や 検 査 サ ー ベ イ ラ ン ス 情 報 を も と に 、県 内 へ の 侵 入 に 適 切 に 対 処 す
ることで、排除状態を維持することが求められます。
(感染症部
近平雅嗣)
センター便 り
当 研 究 セ ン タ ー は 、温 泉 成 分 の 登 録 分 析 機 関 と し て 、国 が 示 し た「 鉱 泉 分 析 法 指 針 」に 基 づ
い て 温 泉 分 析 を 行 い 、温 泉 の 分 析 結 果 書 を 発 行 し て い ま す 。ま た 、国 の 通 知 に 基 づ き そ の 温 泉
の 適 応 症 や 注 意 事 項 な ど 、温 泉 施 設 に 掲 示 す る こ と の で き る 内 容 も 併 せ て 発 行 し て い ま す 。こ
の 温 泉 施 設 で 掲 示 す る こ と が で き る 内 容 が 約 30 年 ぶ り ( 2014 年 7 月 ) に 改 訂 さ れ ま し た 。
今回の掲示内容の改訂のうち、主なものについてお知らせします。
① 適 応 症 : 温 泉 に は 、泉 質 ご と に 適 応 症 が あ り ま す が 、こ の 度 の 改 訂 で 大 幅 に 掲 示 で き る 適 応
症 が 変 わ り ま し た 。神 戸 市 、西 宮 市 、尼 崎 市 の 平 野 部 に 多 い 塩 化 物 泉 を 例 に あ げ ま す と 、従 来 、
浴 用 の 適 応 症 は「 き り き ず 、や け ど 、慢 性 皮 膚 病 、虚 弱 児 童 、慢 性 婦 人 病 」と な っ て い ま し た
が 、 今 回 、「 き り き ず 、 末 梢 循 環 障 害 、 冷 え 性 、 う つ 状 態 、 皮 膚 乾 燥 症 」 と 改 訂 さ れ ま し た 。
②飲用目的の温泉水持ち帰り禁止:飲用目的で温泉水を持ち帰らないことが明記されました。
③ 飲 用 量:最 大 飲 用 量 が 1 日 1,000mL か ら 500mL に 制 限 さ れ ま し た( 飲 用 し よ う と す る 温 泉
に ヒ 素 、 銅 、 フ ッ 素 、 鉛 、 水 銀 が 含 ま れ て い る 場 合 は 500mL よ り さ ら に 少 な く な り ま す 。)。
※掲示内容の改訂についての詳細は環境省の該当ホームページをご覧ください。
http://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/index.html
検索サイトで「環境省 温泉」と検索してください。
(健康科学部
編集・発行
谷畑智也)
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター
〒 652-0032 兵 庫 県 神 戸 市 兵 庫 区 荒 田 町 2 丁 目 1 番 29号
TEL 078-511-6640
FAX 078-531-7080
URL http://www.hyogo-iphes.jp
E-mail [email protected]
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