弾塑性クリープ構成式によるADC12合金鋳物の 熱応力予測と有効性の

弾塑性クリープ構成式による ADC12 合金鋳物の熱応力予測と有効性の実験的検証
研究論文
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弾塑性クリープ構成式によるADC12合金鋳物の
熱応力予測と有効性の実験的検証
志 賀 英 俊* 佐 藤 武 志* 神 戸 洋 史*
本 山 雄 一** 吉 田 誠***
Research Article
J. JFS, Vol. 87, No. 7(2015)pp. 453 ~ 459
Validation of Thermal Stress Analysis of
JIS ADC12 Casting Using an Elasto-Plastic-Creep
Constitutional Equation
Hidetoshi Shiga*, Takeshi Sato*, Hiroshi Kambe*
Yu-ichi Motoyama** and Makoto Yoshida***
In order to predict residual stress in castings, elasto-plastic models are used in thermal stress analysis, however conventional elasto-plastic models cannot express the recovery of the casting during cooling.
In this study, thermal stress analysis of JIS ADC12 alloy castings was conducted using an original elasto-plastic-creep
model developed by the authors, and the calculation results were validated with the experimentally obtained thermal stress.
The model takes the recovery into account, which is a characteristic behavior of alloys at high temperatures. For the validation, an original device was also developed to measure the thermal stress in JIS ADC12 alloy cast specimens during cooling.
The simulated thermal stress was continuously compared with the measured thermal stress. As a result, it was found that
compared to the elasto-plastic model, the developed elasto-plastic-creep model is able to more accurately predict not only
the thermal stress during cooling but also the residual stress.
Keywords : recovery, constitutive equation, residual stress, simulation, aluminum alloy, castings, thermal stress analysis
ンダブロックにおいてはシリンダボア間の残留応力や鋳
1.緒 言
ぐるみシリンダライナの変形が問題となっており,世界的
鋳物,ダイカスト品の大型化,疲労強度を含めた高強度
3 ~ 5)
にも多数の研究がなされている
6 ~ 17)
.
化,高寸法精度化が望まれている.一方で,鋳造時の冷却
しかし , 多くの従来研究
過程で発生する残留応力や変形が問題となっている.鋳造
る合金の構成式と熱応力解析の予測精度の検証方法のそ
後,残留応力や変形の測定を行った段階で許容値を越える
れぞれに問題がある.そのため,系統的に研究がなされて
と焼純を行うが,時には鋳物を使用することが困難となる
場合もある.
では,熱応力解析に用い
きたとは言い難い.以下にその問題点の詳細を述べる .
(1)熱応力解析で用いる合金の構成式の問題
そこで鋳造を行う前に CAE を用いて精度良く残留応力
熱応力解析において鋳物の残留応力,変形を精度良く予
と変形を予測する技術の確立が求められており,欧米を中
測するためには,冷却中の合金の力学挙動を精度良く再現
心に精力的に取り組まれてきた.シリンダヘッドにおいて
することが不可欠である.高温で生じる特徴的な力学挙動
は鋳鉄,アルミニウム合金に係わらず吸排気弁穴間のブ
として,非弾性ひずみは,低温における加工硬化(降伏応
リッジ部の残留応力が疲労耐久性の観点から問題であり,
力の上昇)に寄与しないことが挙げられる(以下,回復と
1, 2)
その予測が試みられている
.アルミニウム合金製シリ
18 ~ 21)
称する)
.
受付日:平成 26 年 12 月 16 日,受理日:平成 27 年 5 月 11 日(Received on December 16, 2014; Accepted on May 11, 2015)
*
**
***
P000-000 研究論文 志賀英俊.indd
日産自動車
(株)パワートレイン技術開発試作部
Powertrain technology and prototype development department, Nissan Motor Co., Ltd
早稲田大学 各務記念材料研究所(現:産業技術研究所 つくば東事業所 基盤的加工研究グループ)
Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology, Waseda University
(Now: Material Processing Group, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology Tukuba East)
早稲田大学 各務記念材料研究所
Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology, Waseda University
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従来の鋳物,ダイカストにおける熱応力解析では合金の
はなく,冷却中に生じる熱応力や変形を連続的に取得し
12 ~ 16)
て,計算値と比較することが理想的である.しかし,その
構成式として,弾− 塑性構成式が多く用いられてきた
.
弾 − 塑性構成式は,後述の弾 − 塑性−クリープ構成式に対
ような研究は見当たらない.
して,構成式を構築する上で必要な材料試験数が少ないと
そこで,本研究では前述した合金の構成式の評価をより
いう利点がある.しかし,凝固終了直後から冷却終了まで
詳細に行うために,独自に開発した計装化 I ビーム試験装
に生じる熱応力の予測に用いる場合,回復を考慮できない
置を用いて凝固完了から常温近くまでに鋳物に生じる熱
ため問題が生ずる.具体的には,加工硬化の尺度として相
応力を連続的に測定し,解析結果との比較を行う.
当塑性ひずみを用いており,なおかつ回復を表現できない
ため,高温で生じた全ての相当塑性ひずみが,低温におい
て加工硬化に寄与し,非現実的な降伏応力の上昇を引き起
2.計装化 I ビーム試験装置による冷却中の鋳物
に生じる熱応力の測定
こす.その結果,最終的な熱応力において過剰な残留応力
開発した計装化 I ビーム試験装置は,注湯後冷却時の I 字
の予測に繋がると考えられる.
型鋳物の熱収縮を装置によって拘束し,その結果として鋳
以上より,回復の表現ができない弾 − 塑性構成式では,
物に生じる熱応力をロードセルによって連続的に測定するこ
鋳物,ダイカストに生じる残留応力や変形を精度良く予測
とを特徴とする.開発した計装化 I ビーム試験装置の概観を
することは期待できない.
Fig. 1 に示す.キャビティ形状は I 字型となっている.この
この問題に対し,構成式に回復の考慮を目的とした補正
装置は,SUS430 製の鋳物端部作製用兼鋳物の熱収縮拘束
19 ~ 21, 31)
を加えることにより問題の解決が試みられている
著者ら
22)
.
も回復の考慮が可能な独自の重ね合わせ型の弾
用金型,SS400 製のタイバーと反力板からなる枠部,枠部と
拘束用金型の間に固定した容量 30kN ロードセル(
(株)
東京
− 塑性 − クリープ構成式を構築した.この構成式では,
測器研究所製 型式:TCLP-30KNB)
,これらの部品を接続,
高温における応力 − 非弾性ひずみ曲線を主に定常クリー
固定するための SUS430 製の M24 のネジ部品とナット,I 字
プ挙動に対応するべき乗則に従うクリープ項で表現し,温
状のキャビティ平行部を形成するための SUS304 材の側面
度が低下するにつれてクリープ項の寄与を漸減し,低温に
金型,キャビティ上下面を形成するための 15mm 厚のブロッ
おける応力 − 非弾性ひずみ曲線を塑性項で表現している.
ク状の断熱材により構成される.また,Fig. 2 に示すように,
高温において塑性項はほぼ寄与しないため,結果的に回復
を表現したことになり,非現実的な降伏応力の上昇を防ぐ
Strut bar
ことに計算上成功している.
しかしながら,著者らの弾 − 塑性− クリープ構成式を鋳
Constraining mold
Rigid plate
Load cell
物の熱応力解析に用いた場合の予測精度については,いま
だ実験的検証がなされていない.加えて,合金の構成式に
おける回復の考慮が鋳物に生じる熱応力の予測精度に及ぼ
す影響を系統的に検討した研究も見当たらない.
300
Side mold
そこで,本研究では ADC12 合金に生じる熱応力を対象
として,回復の表現ができない『弾 − 塑性構成式』,著者
らが提案した回復を表現可能な『弾 − 塑性− クリープ構成
式』,それぞれを用いた場合の熱応力解析の結果と実験値
の比較を行う.そして,構成式における回復の考慮が熱応
Fig. 1 Appearance of developed I-beam testing
device.
開発した I ビーム試験装置の概観.
力の予測精度に及ぼす影響を検討する.
(2)熱応力の予測精度の実験的検証法に関する従来の問題
実製品,もしくはそれに近い形状を用いて残留応力や変
形の予測精度を検討した報告は比較的多い
1 ~ 7, 11)
.しかし
� Casting temperature
� Mold temperature
� Mold displacement
Soft heat insulators
実製品では,残留応力は比較的複雑な状態,分布で生じる
ため,予測精度や,誤差の原因の検証が難しいことも知ら
れている.その為,単純な応力状態,分布となるような単
純形状の鋳物で検討がなされてきた.代表的な例として応
10
25
20
100
力格子と呼ばれる厚肉部と薄肉部からなる単純形状の鋳物
12, 23 ~ 27)
がある
.
しかし,通常,応力格子で評価ができるのは冷却後の残
留応力のみであり,凝固終了直後から発達する熱応力の評
価は困難である.鋳物に生じる残留応力,変形に対する熱
応力解析の有効性を検証するためには,最終的な値のみで
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Representative measuring
point of casting temperature
Bottom heat insulator
Fig. 2 Details of cavity parts in device.
I 字型キャビティ金型の寸法.
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弾塑性クリープ構成式による ADC12 合金鋳物の熱応力予測と有効性の実験的検証
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端部拘束用金型と側面金型の間には 2mm 厚の柔らかいセラ
のパラメータを調整し,いずれの測定点においても実験値
ミックファイバ断熱材を設置し,鋳物の収縮により端部拘束
と計算値の差を ±25K 以内とした.鋳物温度の実測値と
用金型の変形を側面金型が阻害しないようにした.鋳物の
計算値の比較を,Fig. 3 に示す.
中央平行部の長さは 100mm,断面の寸法は 10mm×10mm
である.装置各部の寸法は,事前に FEM 解析による弾性解
析を行い,実験時に荷重がかかった場合でも鋳物の収縮量
Casting temperature, K
800
に対して装置の変形量が 10% 以下になるように設計した.
装置の剛性が低いと,鋳物の収縮を十分拘束できない.上
記の設定にて計測実験中の鋳物の収縮変位を 90% 以上拘束
でき,金型内に近い拘束状況になっていると考える.
鋳造後 I 字型鋳物に荷重を生じると,拘束金型は弾性変
形を生じる.また,拘束金型の温度も上昇するため熱変形
も生じる.従って実験中の拘束金型の変位量を差動トラ
700
600
500
Measurement
400
Simulation
ンスによって測定し(Fig. 2),それを熱応力解析における
300
境界条件として用いた.そのため,後述の熱応力解析で
0
は拘束金型は剛体と設定し,変位条件を与えている.鋳
50
物,金型の温度測定は,Fig. 2 に示す箇所においてシース
径φ0.5mm の K−熱電対を深さ方向中心に設置することに
より行った.
100
150
Time, s
200
250
Fig. 3 Comparison of simulated and measured temperature history in casting.
鋳物の温度履歴における実験値と解析値の比較.
溶湯は Table 1(a)に示した成分値の AD12.1 材を 1013K
で溶解し,注湯直前に Ar ガスを吹き込み(流量 0.3L/min
処理時間 4min)準備した.注湯は 991K で行い,注湯時間
3. 2 熱応力解析
は実験の様子を撮影した動画から決定し,約 1s であった.
熱応力解析には,汎用 FEM 構造解析ソフトであるABAQUS
なお,金型温度は 298K とした.凝固終了直後から冷却終
Ver. 6.12-2 を使用した.
了まで測定した鋳物温度がどの熱電対もほぼ同じ温度を示
モデル概略図を Fig. 4 に示す.端部拘束金型と鋳物の
したので,鋳物長手方向中心から 25mm オフセットした箇
みをモデル化し,いずれも 1mm サイズの 6 面体 2 次要素
所で測定した温度(Fig. 2)を鋳物温度とした.実験後,ひ
で要素分割した.熱応力の計算に用いる鋳物の温度履歴は,
け巣状況の確認のために,鋳物の長手方向に垂直な断面を
先述の CapCast の熱解析結果を ABAQUS に取り込んだ.
切断し観察を行った.その結果,鋳物断面積に対してひけ
巣面積は 0.3% 以下と十分小さかったので,解析において
Displacement condition based on
the measurement
中実均質部材として扱っても問題ないと判断した .
Table 1 Chemical composition of AD12.1 alloy.
(a)For casting.(b)For tensile specimen.
Casting
AD12.1 の化学組成(a)鋳物(b)引張試験片.
(a)
(mass %)
Si
Cu Mg Zn
Fe Mn
Ti
Ni Al
10.50 1.96 0.20 0.43 0.72 0.20 0.04 0.03 Bal.
(b)
(mass %)
Si
Cu Mg Zn
Fe Mn
Ti
Ni Al
10.80 2.16 0.21 0.83 0.79 0.22 0.04 0.07 Bal.
3.熱解析,熱応力解析
Restraint mold
Fig. 4 Schematic illustration of simulated model in
thermal stress analysis.
熱応力解析で用いた解析モデルの図.
3. 1 熱解析
鋳造シミュレーションソフト CapCast Ver. 3.5.7 を用い
3. 3 熱応力解析に用いる構成式と ADC12 合金の力学
た.ADC12 合金の熱物性値は材料物性値計算ソフト デー
特性値
・
タベースである JMatPro を用いて取得した.熱応力解析の
3. 3. 1 構成式
予測精度を議論するための前提として,鋳物の温度履歴は
回復を表現できない構成式として弾 − 塑性構成式を用
実験値と解析値とで可能な限り一致させる必要がある.そ
いた.
こで実測した鋳物と金型の温度履歴を基に,熱伝達係数等
回復を考慮可能な構成式には,塑性項そのもので移動硬
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化の動的回復を考慮した大野 − 王モデル
31)
の様な精密な
硬化することがなく,疑似的に回復が考慮されている.一
ものもある.そうした構成式は,加工硬化後の再昇温に
方,室温近傍で一度加工硬化してしまうと再昇温しても再
よる軟化も表現できる.しかし,それらは一般的な汎用
軟化することはない.凝固後の冷却過程を考える上で,こ
FEM 構造解析ソフト内で提供されておらず,また材料パ
の欠点は大きな問題にはならないと考える.
ラメータも多数必要で,実験的に定めるのは多大な労力を
3. 3. 2 力学特性値
要するものである.
力学特性値の決定に必要な ADC12 合金の応力−ひずみ
本報では回復を考慮可能な構成式として著者らが提案し
曲線は,引張試験により取得を行った.Table 1(b)の組成
た弾−塑性−クリープ構成式
22)
を用いた.先に記したよう
の引張試験片を無孔性ダイカスト(Pore Free ダイカスト)
にこの構成式は,一般的な汎用 FEM 構造解析ソフトにお
により作製した.ダイカスト後に全ての試験片について X
いて使用可能な等方硬化を考慮する塑性項と定常クリープ
線測定を行い,試験片平行部に巣を生じていないことを確
を考慮するクリープ項を組み合わせたもので,各項は比較
認した.引張試験機は MTS810 を用い,引張中の伸びは高
的少数の材料パラメータ同定のみで使用可能である.
温伸び計 MTS632.54F-14 を用いて測定を行った.試験は
e
p
εijk を全ひずみ,ε ijk を弾性ひずみ,ε ijk を塑性ひずみ,
c
h
ε ijk をクリープひずみ,ε ijk を熱ひずみとすると,(1 ~ 6)
e
σijk=Dijklmn
(T)ε lmn
h
,T)
ijk=f(α
h (T)
p
f(σ
=
y
ijk,T)
ひずみ曲線を取得した温度は 298,423,473,523,573,
623,673,723K,ひずみ速度は,0.001/s,0.0001/s である.
式のように定式化している。
e
p
c
h
εijk=ε ijk+ε ijk+ε ijk+ε ijk
ε
伸び計を用いたひずみ速度制御によって実施した.応力−
-σ(T)
-K
(ε eff ,T)
y
(1)
ひずみ速度については,実際のダイカスト部品で想定され
(2)
る熱ひずみ速度を参考にして決定した.弾−塑性構成式に
(3)
ついては,ひずみ速度 0.001/s の応力 − ひずみ曲線から得
(4)
られた力学特性値を用いた.ADC12 合金は鋳造直後,室
29)
p
εׂ ijk=λH(
0 f y)
c
(5)
c
εׂ ijk=f(σ
c
ijk,ε eff ,T)
(6)
温においても析出硬化を示す .よって,凝固後の冷却過
程における力学特性を取得するためには,引張試験実施ま
でに自然時効で生じた析出物を再固溶させ,可能な限り凝
(2)式は弾性項を表し,T は温度,Dijklmn
(T)は温度依存
固終了後冷却時の析出状態に近づけることが望ましい.そ
の 4 階弾性テンソルである.
(3)式は熱膨張を表し,α
(T)
こで,全ての試験片について試験開始時,まず 723K にお
は温度依存の熱膨張率である.
(4)式はミーゼスの降伏条
いて 1 時間の溶体化処理を行なった.その後 7.5K/min で
件式で,J2 は偏差応力の第二不変量,σ(T)
は温度依存の初
y
降温させ,試験温度に到達後 10 分間保持し,引張試験を
期降伏応力,ε
p
p
(ε eff ,T)は硬化パラ
eff は相当塑性ひずみ,K
メータである.硬化パラメータは,相当塑性ひずみと温度
の関数である.
(5)式は降伏時の塑性ひずみ増分を示す式
p
実施した.上記の降温速度では 723K から 473K まで温度
が下がるのに 35 分程度かるが,473K や 423K での耐力は,
523K における耐力より 10% 程度大きいだけであったため,
で,εׂ ijk は塑性ひずみ速度,λ は正のスカラー,H0 はヘヴィ
再時効の影響はさほど大きくないと考えた.なお,自然時
サイドの階段関数である.
(6)式は,クリープひずみの増
c
分を示す式で,クリープひずみ速度 εׂ ijk が,相当クリープ
効材の 523K における耐力は,上記により得られた 523K
c
における耐力に対し,約 60% 大きいものであった.測定
ひずみ ε eff ,応力,温度の関数であることを示している.
した公称応力 − 公称ひずみ曲線から真応力 − 真ひずみ曲
塑性項とクリープ項は分離されており,高温での非弾性
線を算出し,さらに後述のヤング率を用いて真ひずみより
変形にはクリープ項が寄与し,塑性項はほとんど寄与しな
弾性ひずみ分を分離し取得した応力 − 非弾性ひずみ曲線
い.そのため,高温での非弾性変形により,塑性項が加工
を Fig. 5 に示す.なお,図には示していないが,三元共
100
100
50
50
0.001 /s
0.0001 /s
R.T.
60
60
RT
423 K
423 K
473 K
473 K
523 K
523 K
573 K
573 K
00 0
0.005
0.01
0.015
0.02
0 0.005
0.01
0.015
0.02
Inelastic strain
Inelastic strain
50
50
True stress, MPa
150
150
True stess, MPa
True stress, MPa
200
200
0.0001/s
True stress, MPa
0.001/s
40
40
30
30
20
20
10
10
0.001/s
0.0001/s
0.001 /s
0.0001 /s
623 K K
623
673 K K
673
723 K K
723
00 0
0.005
0.01
0.015
0.02
0 0.005
0.01
0.015
0.02
Inelastic strain
Inelastic strain
Fig. 5 Measured stress-inelastic strain curves of ADC12 alloy with strain rate 0.001 and 0.0001/s between room
temperature and 723K.
ひずみ速度 0.001/s と 0.0001/s で引張った際の室温~ 723K における ADC12 の応力 - 非弾性ひずみ曲線.
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弾塑性クリープ構成式による ADC12 合金鋳物の熱応力予測と有効性の実験的検証
晶温度以上の力学特性値に関しては,ADC12 合金におい
30)
て半凝固引張試験を実施している研究より引用した .
457
ヤング率については,非破壊法の一つである共振法を用
いて 298,423,473,523,573,623,673,723,773K に
Young's modulus, GPa
おいて昇温,降温測定を行なった.しかし,測定方法によ
80
る結果の差は見られなかったため,昇温測定の結果を解析
75
に用いた.測定結果を Fig. 6 に示す.
また,熱膨張係数は JMatPro の計算により取得した.結
70
果を Fig. 7 に示す.
65
4.結果および考察
60
弾 − 塑性構成式,弾 − 塑性 − クリープ構成式,それぞ
55
れの構成式を用いた場合,鋳物平行部長手方向に生じる熱
応力の計算値と実測値の比較を Fig. 8 に示す.
50
45
弾 − 塑性構成式を使用した場合,前述の要因により熱
300
400
500
600
700
応力を生じ始めてから 383K まで実測値に対して過剰に熱
800
Temperature, K
応力を見積もっていることがわかる.一方,弾 − 塑性 −
クリープ構成式は,全温度域に渡り,予測精度の向上が
Fig. 6 Measured Young’s modulus of ADC12 alloy
between room temperature and 773K by resonance
method.
回復の効果を詳細に検討するために,Fig. 9 に弾 − 塑性
構成式,弾 − 塑性 − クリープ構成式,それぞれを用いた
Longitudinal thermal stress, MPa
28
27
26
-6
×10 /K
Coefficient of thermal expansion,
共振法により取得した室温~ 773K における ADC12 の
ヤング率.
見られる.降伏応力の非現実的な上昇を防ぐ回復の効果に
よるものと考えられる.
25
24
23
22
21
20
300
400
500
600
Temperature, K
700
800
Fig. 7 Coefficient of thermal expansion of ADC12 alloy
between room temperature and 798K.
Elasto-plasic model
50
Measurement
0
400
500
600
700
Temperature, K
800
(b)
0.008
0.008
0.007
0.006
0.006
Plastic
Plastic
Creep
Creep
0.005
Strain
Strain
0.005
Strain
0.007
Strain
100
冷却中の鋳物に生じる熱応力の実験値と計算値の比較.
0.006
0.006
0.004
0.004
0.004
0.004
0.003
0.003
0.002
0.002
0.002
0.002
0.001
0.001
00
Elasto-plasic-creep model
Fig. 8 Comparison of simulated and measured thermal
stress during cooling.
室温~ 798K における ADC12 の熱膨張係数.
(a)
0.008
0.008
150
400
400
600
700
800
600
800
Temperature, K
500
Temperature, K
00
Plastic
Plastic
400
400
500
600
700
800
600
800
Temperature, K
Temperature, K
Fig. 9 Development of longitudinal strain in casting during cooling(a)Elasto-Plastic model,(b)Elasto-PlasticCreep model.
冷却中に生じる鋳物長手方向のひずみ(a)弾 - 塑性構成式(b)弾 - 塑性 - クリープ構成式.
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鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 7 号
解析において,鋳物平行部に生じる鋳物長手方向の塑性ひ
ずみ,クリープひずみの変化の比較を示す.Fig. 9(a)よ
5.結 言
り,弾 − 塑性構成式では,回復を表現できないため,冷却
1) 鋳物冷却過程で連続的に生じる熱応力を測定可能
開始から終了まで加工硬化の尺度である塑性ひずみが増大
な計装化Ⅰビーム試験装置を開発した.開発した装置
し続け,加工硬化が進んでいることが分かる.鋳物温度が
を用いて冷却中の ADC12 合金製 I 字型鋳物に生じる
423K の時に,弾 − 塑性構成式では塑性ひずみが 0.0071 発
熱応力を鋳物温度に対して連続的に取得した.その結
生している.Fig. 5 に示した 423K の応力 − 非弾性ひずみ曲
果と解析結果とを比較することにより,熱応力解析の
線から,423K 時,鋳物平行部の降伏応力は 130MPa となっ
予測精度について実験的検証を行うことに成功した .
2) 熱応力や残留応力を精度良く予測するには,高温で
ていることが分かる.
一方,弾 − 塑性 − クリープ構成式では,Fig. 9(b)より
生じた非弾性ひずみが,低温において加工硬化に寄与
分かる通り 573K 以上で生じるひずみの大部分はクリープ
することを防ぐために回復を表現可能な構成式を使
ひずみとなり,塑性ひずみは増大しない.573K 以下では,
用する必要がある.
クリープひずみの発生が止まり,代わりに,生じるひずみ
3) 著者らが提案した回復を表現可能な弾 − 塑性 − ク
の大部分が塑性ひずみとなることが分かる.鋳物温度が
リープ構成式を用いた解析は,従来,主に用いられて
423K の時,鋳物平行部には 0.0024 の塑性ひずみが発生し
きた回復を考慮できない弾 − 塑性構成式による解析
ている.このことから,423K 時,鋳物平行部の降伏応力
と比較して,熱応力,残留応力を精度良く予測可能で
は 86MPa であり,弾 − 塑性構成式と比較して加工硬化が
あることを明らかにした.
進んでいないことが分かる.このことからクリープ項の導
4) 弾 − 塑性 − クリープ構成式の材料パラメータの同
入による擬似的な回復の考慮が降伏応力の非現実的な上
定法を改善することで,本報報告より一層の精度向上
昇を防ぐことになり,熱応力の予測精度向上につながって
も見込めると考える.
いることがわかる.
Table 2 に,373K において鋳物に生じる熱応力におけ
謝辞
る,弾 − 塑性構成式,弾 − 塑性 − クリープ構成式,それぞ
本研究に協力いただいた早稲田大学博士課程 松下彬
れを用いた場合における予測精度を示す.弾 − 塑性構成式
氏,早稲田大学(現:(株)クボタ)進士啓太 氏,早稲田大
を用いた場合の差異 50% から弾 − 塑性 − クリープ構成式
学博士課程 高井量資 氏にお礼申し上げます.
を用いた場合の差異 18% と大きく改善していることがわか
る.この差異は,材料パラメータ同定に使用した降温引張
参考文献
試験時の再時効の影響,構成式において 523K 近辺でクリー
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プ項の寄与を強制的に止めている影響,またクリープ項で
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1 次クリープを考慮していないため,実際より硬い挙動と
1648
2)Mike J. Walker, Devin R. Hess, Dimitry G. Sediako:
なっている影響,この 3 点が原因と考える.
以上の結果から,鋳物に生じる熱応力,残留応力を精度
良く予測するためには,合金の構成式において回復を考慮
し,高温で生じた非弾性ひずみが加工硬化に寄与すること
CNBC-2013-MS-8(Canadian Neutron Beam Centre
Experimental)
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3)Anthony Lombardi, Francesco D’Elia, Comondore
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Table 2 Effects of constitutive equation on prediction
accuracy of thermal stress in casting at 373K.
373Kの鋳物に生じる熱応力の予測精度に対する構成式
の種類の影響.
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Experimental measured value
Simulation
using Elasto-Plastic-Creep model
(Strain rate dependency + Recovery)
Simulation
using Elasto-Plastic model
Thermal stress
( MPa )
Raito*
90.2
/
106.4
1.18
135.4
1.50
* : Ratio of simulated value to experimental measured value
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