院内感染対策における抗菌薬適正使用と 耐性菌対策の薬学的管理

院内感染対策における抗菌薬適正使用と
耐性菌対策の薬学的管理に関する研究
継田
雅美
目
次
緒言
第1章
感染症治療における抗菌薬の適正使用
緒論
第1節
薬剤師の感染へのかかわり方
a. ICT における他職種の薬剤師に対する意識調査
第 2 節 TDM の手法を用いた抗菌薬投与
a. 院内感染対策における塩酸バンコマイシン血中濃度解析
b.
MRSA による再燃性骨髄炎例の治療指針へのかかわり
c. 多剤耐性セラチア菌による膵仮性嚢胞感染例の治療指針へのかかわり
d. コリネバクテリウムによる感染性心内膜炎例の治療指針へのかかわり
第3節
医療現場における抗菌薬適正使用の推進
a.
抗 MRSA 薬 TDM 自動化の有用性
b. 医療療養病棟における感染症治療の取り組み
第4節
第 1 章の小括
第5節
第 1 章の論文目録
第2章
薬剤耐性菌に対する院内感染対策
緒論
第1節
抗菌薬適正使用と薬剤感受性
a. 中小規模病院における緑膿菌耐性率改善
第2節
アウトブレイクへの対応
a. クロストリィディウム・ディフィシルのアウトブレイク
b. 多剤耐性緑膿菌のアウトブレイク
第3節
第 2 章の小括
第4節
第 2 章の論文目録
総括
文献
謝辞
緒
言
わが国における医療情勢のなかで、感染症はどの世代にとっても大きなかかわりの
ある疾患群といえる。厚生労働省の報告によると日本における死因の順位は平成 22
年度まで悪性新生物、心疾患、脳血管疾患であり肺炎は 4 位であったが、23 年度から
脳血管疾患を抜いて 3 位となっている。日本における高齢化は大きな問題のひとつで
あるが、肺炎での死亡割合は 60 歳を超えてから年々増加し、男性の 90 歳代では死因
の 1 位となっている。悪性新生物、心疾患、脳血管疾患でもその経過中に感染症を合
併することが多く生命予後に影響することから、感染症が国民の健康に与える影響は
多大であり、様々な抗菌薬が開発されてきた現在でも、感染症はいまだに制圧できて
いないことがわかる。また、2010 年の麻疹、2013 年の風疹の大流行は高齢者のみなら
ず健康成人にまで感染の拡大がみられ、新型インフルエンザにいたっては小児や乳児
の死亡例も出している。
医療現場における感染は、規模や患者背景を問わず問題となる。大病院での多剤耐
性菌の検出をはじめ、老人介護施設におけるノロウイルスやインフルエンザ感染拡大
は毎年のように繰り返されている。感染症の発生を予防し、発生したとしても拡大さ
せないことが重要であるといえる。
病原微生物には、細菌だけでなく真菌やウイルスなどの微生物が含まれているが、
近年、日本国内ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant
Staphylococcus aureus:MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin Resistant
Enterococci:VRE)、多剤耐性緑膿菌(multiple-drug-resistant Pseudomonas
aeruginosa:MDRP)のみでなく、東京都内の病院における多剤耐性アシネトバクタ
ーによる院内感染に端を発して、各種の広域β‐ラクタム薬を分解する酵素 New
Delhi metallo-β-lactamase (NDM)を持つ NDM -1産生大腸菌、カルバペネム系
の抗生物質を分解する酵素(Klebsiella pneumoniae Carbapenemase:KPC)を持つ
KPC 産生肺炎桿菌などが検出されたことについても、大きく報道され社会から注目
された。
日本病院薬剤師会は「医療関連感染(院内感染)対策に薬剤師の積極的貢献を」と
題した以下のような緊急提言を発し、薬剤師の感染対策における重要性と積極的関与
を求めた。
『院内感染対策については、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療
法等の一部を改正する法律の一部の改正について」
(平成19年3月30日付医政発第
0330010号厚生労働省医政局長通知)、「多剤耐性アシネトバクター・バウマニ
等に関する院内感染対策の徹底について」
(平成22年9月6日付厚生労働省医政局指
導課事務連絡)等に基づく院内感染防止体制の徹底について、厚生労働省から各医療
機関に対して周知されているところであるが、多剤耐性菌を作り出さないことや日本
にも蔓延化しつつある多剤耐性菌による院内感染を防止することは薬剤師の責任であ
り、医療機関の薬剤師には、各菌種や抗菌薬の特徴を理解した上で、院内感染対策委
員会(ICC)や院内感染対策チーム(ICT)に参加して、常に最新で適切な情報を提
供するとともに、適切な消毒薬や抗菌薬の指導などの院内感染対策を実施し、患者が
安心して治療に専念できる環境を提供することが求められている。』1)
この提言では、薬剤部門が常時把握しておくべき事項として以下の項目があげられ
ている。
1)自施設での過去の多剤耐性菌の感染者数
2)菌種ごとの、院内感染が判明した時期、また、その患者数
3)部署・部門別の抗菌薬の使用状況
4)院内に感染対策のための組織が正常に機能していることの確認
5)感染対策のための組織に薬剤師が参画していることの確認
6)最新の情報に基づいた院内感染対策マニュアルの整備
7)多剤耐性菌の院内感染が判明した場合の、院内の連絡体制、行政機関等への報告
に関する取り決め
など
また、院内感染対策について薬剤師が積極的に行うべき事項として
1)抗菌剤の適切な使用のための処方提案や疑義照会を徹底して行うこと。
2)通常実施している医療環境の衛生管理と標準予防策のさらなる励行とともに、処
置後の手指消毒など接触感染予防策の徹底を図ること。
3)院内感染の原因となるグラム陰性桿菌は、通常、低水準、中水準の消毒剤により
殺菌されるが、菌種によっては、クロルヘキシジンやベンザルコニウム塩化物など
低水準消毒剤に抵抗性を獲得した細菌が存在することに注意すること。
4)院内感染を疑う事例を把握した場合には、速やかに感染対策部門に報告すること。
が挙げられている。
つまり、薬剤師はその職能を活かし、感染対策に積極的に参画すべきである、とい
うことである。
また、平成 22 年度の診療報酬改定において「感染防止対策加算(100 点)」が新設
され、感染防止対策チーム(ICT)が診療報酬上も評価されることとなった。チーム
の条件のなかで、
「3 年以上の病院勤務経験をもつ専任の薬剤師」が明記された。この
ことは、院内感染対策に薬剤師が感染対策チームの一員として必要であることが国よ
り認められたということであるが、あくまでも「専任(約 5 割をその業務に充ててい
る)」で十分であるという要件であり、
「専従(もっぱらその業務に従事する)」が必要
とされる医師・看護師と比較し、その責任の重さが軽んじられているように見受けら
れる。
感染症への対応は、発症後の治療と感染制御に大きく分かれる。感染症治療の専門
家である日本感染症学会認定の感染症専門医は 1,092 名であり、感染制御についての
資格であるインフェクションコントロールドクター(ICD)は約 7,100 名、インフェ
クションコントロールナース(ICN)は 1,808 名しかおらず、それも 300 床以上の大
病院に集中している。病院総数 8,563 施設に対して 300 床未満の施設が 8 割を占める
わが国では、ほとんどの施設に感染を専門とする医師、看護師が不在であることを示
している。
そのような情勢のなかで、薬剤師は消毒薬の適正使用を中心とした感染拡大防止の
役割と、抗菌薬の適正使用を中心とした感染症治療の両面から感染にかかわれる医療
職であり、感染対策における薬学的管理を行うべきである。しかし、現在感染症対策
において薬剤師による薬学的管理の重要性を総合的に評価した論文は見られない。そ
こで、本論文では感染症治療における抗菌薬の適正使用と院内感染対策における薬学
的管理について、多面的に評価した。
第 1 章では、感染症治療における薬学的管理による抗菌薬適正使用の有用性を検証
した。
はじめに、感染対策にかかわる医療従事者を対象に、これまでの薬剤師が実施して
いる感染対策に対する薬学的管理について調査したところ、感染症治療に対して薬学
的に管理することが重要であることがわかった。そこで、まず MRSA 感染症におい
て Therapeutic Drug Monitoring(TDM)の手法を用いることで、抗 MRSA 薬の血
中濃度を個々の患者に応じた投与量・投与方法をもって適正に保つことで臨床症状の
改善と副作用の予防が行われるかについて検証した。また、MRSA だけでなく多剤耐
性セラチア菌とコリネバクテリウムによる難治性感染症治療に対して、新たな治療薬
を提案し TDM を行いながら感染症治療に参画することで同様の効果を得られるかを
症例報告から検証した。
次に、抗 MRSA 薬の適正使用に必須である TDM を、医師の処方を起点として自動
的に解析されるルートを構築することによる有用性を検証した。また、医療資源の適
応に制限のある医療療養病棟において、薬学的介入により感染症治療にかかわること
による治療効果ならびに経済効果を調査した。
第 2 章では、薬剤耐性菌に対する院内感染対策における薬学的管理の有用性を検証
した。
まず、施設内の耐性菌割合の指標となる緑膿菌の耐性率に、抗菌薬の使用実態が及
ぼす影響について調査した。緑膿菌は抗菌薬の耐性を獲得しやすい菌である。特にカ
ルバペネム系薬・アミノグリコシド系薬・ニューキノロン系薬の 3 剤耐性の緑膿菌は
MDRP と言われ、その分離率は日本国内で 1~数%程度と推定されているが、施設に
よりその状況は大きく異なっている。いったん感染症が発症した場合有効な抗菌薬が
ほとんどないため、治療は非常に困難で死亡例も報告されている。耐性の獲得は抗菌
薬の存在下で起こるので。耐性菌を生み出さないためには、適切な抗菌薬の選択と使
用法が基本となる。そこで、院内で特に緑膿菌の耐性率の高かったカルバペネム系薬
とアミノグリコシド系薬の適正使用への薬学的介入の効果を検証した。
最後に、感染対策上注意の必要な微生物が短期間に多くの患者から検出されるとい
うアウトブレイク事例への薬学的対応を検証した。 Clostridium difficile のアウトブ
レイク事例では再発例が多いことに着目し、治療薬であるバンコマイシン散の効果に
ついて検証した。さらに多剤耐性緑膿菌のアウトブレイク事例に対しては、原因の究
明と対応への薬学的介入について検証した。
第1章
感染症治療における抗菌薬の適正使用
諸
論
感染症への対応は、発症後の治療と感染制御に大きく分かれる。治療については医
師による診断と治療が中心ではあるが、我が国では専門家である「感染症専門医」の
数は少なく、最近では抗菌薬の知識を持つ薬剤師の治療への参画が求められるように
なってきている。感染制御については、病院内において Infection Control Team(ICT)
と呼ばれる感染管理を担当する専門職によるチームが感染制御を行っており、薬剤師
は医師、看護師、検査技師などとともに感染対策を行っている。このように、薬剤師
はその両者において医療チームの一員として活躍できる職種である。
チーム医療のなかでは職種ごとに専門的能力を発揮すべきである。そこで、薬剤師
の能力を活かすために何を求められているのか、何に取り組んでいくべきなのかを感
染症対策の面から考えるために、第 1 章第 1 節ではアンケート調査を行った。ICT に
参加している Infection Control Doctor(ICD)、Infection Control Nurse(ICN)か
ら見た薬剤師の ICT 内での活動の評価と要望を調査するとともに、感染に関する認定
を持っている薬剤師に ICT における薬剤師の役割についての自己評価を行ってもら
い、ICT における薬剤師の現在までの活動評価と今後の展望について考察した。
さて、感染症治療に関しては、的確な抗菌薬が最適な投与方法で患者に投与される
ことが重要である。最適な投与方法を見つけるために薬物血中濃度モニタリング
(Therapeutic Drug Monitoring、以下 TDM)は有用な方法である。TDM とは、効果
または副作用の発現と血中濃度との関係がわかっている薬物において、測定した濃度
が治療を行なうときの非常に有用な目安となることから臨床応用されている手法であ
る。血中濃度測定については、現在数十種の薬物において診療報酬が適用されており、
抗 Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)薬やアミノグリコシド系
薬剤もそのひとつである。しかし、単に濃度測定するだけではなく、それをもとに個々
の患者に適合した投与計画を立てることが TDM である。
2007 年の新潟県における調査では、抗菌薬の薬物血中濃度の測定は約 5 割の施設
でしか行われておらず、解析に至っては 3 割程度の関与であった 2)。一方、抗 MRSA
薬はほぼ全施設で採用されており、TDM を行わずに抗 MRSA 薬が投与されているこ
とが示唆された。抗 MRSA 薬のなかでもバンコマイシン(VCM)とアルベカシン
(ABK)は血中濃度が中毒域となった場合腎機能障害がおこる可能性が高く、テイコ
プラニン(TEIC)は添付文書通りの投与法では有効血中濃度に満たないことがあり、
どの薬剤においても低い血中濃度では耐性菌の発生も危惧される。効果の面でも副作
用の面でも抗 MRSA 薬に対する TDM は必要な手法であり、薬物動態を熟知している
薬剤師が TDM に取り組む意義は大きい。
このように、抗菌薬の特徴を熟知した薬剤師の TDM への関与は、患者への有効か
つ安全な薬物投与と耐性菌発生予防のために重要な役割を果たすと考えられる。第 2
節では、まず、病院内の MRSA 感染症において TDM の手法を用いることで、抗 MRSA
薬の血中濃度を個々の患者に応じた投与量・投与方法で適正に保つことで臨床症状の
改善と副作用の予防が行われるかについて検証した。また、MRSA だけでなく多剤耐
性セラチア菌とコリネバクテリウムによる難治性感染症治療に対して、新たな治療薬
を提案し TDM を行いながら感染症治療に参画することで同様の効果を得られるかを
症例報告から検証した。
TDM は抗菌薬の適正使用に有用な方法ではあるが、採血指示、血中濃度測定依頼、
解析依頼、といくつかの過程が必要であり、実際の医療現場では煩雑になりやすい。
また、長期療養を目的とする医療療養病棟においての感染症発症は患者の生命を脅か
す大きな要素になりうるが、医療費に制限があるために十分な検査や抗菌薬投与がで
きないことがある。このように実際の医療現場ではその環境に応じた感染症対策が必
要になると考えられる。そこで第 3 節では、抗菌薬の適正使用について、抗 MRSA
薬の適正使用に必須である TDM を医師の処方を起点として自動的に解析されるルー
トを構築することと、医療資源の適応に制限のある医療療養病棟において感染症治療
にかかわることによる治療効果ならびに経済効果を調査した。
以上のように第 1 章では、感染症対策における薬学的関与の重要性を確認した上で、
TDM を利用した投与方法の提案や抗菌薬の選択を薬剤師の視点で行うことによる抗
菌薬の適正使用を評価した。
第1節
薬剤師の感染へのかかわり方
a.ICTにおける他職種の薬剤師に対する意識調査
現在、多くの病院での感染対策は infection control team(以下、ICT)が中心とな
り、そのメンバーである医師・看護師・臨床検査技師・薬剤師などがそれぞれの役割
を担っている。薬剤師は主に消毒薬と抗菌薬の適正使用により、施設内の感染伝播の
防止と耐性菌発生の抑制などに寄与している。また、therapeutic drug monitoring(以
下、TDM)の手法を用いた感染症治療への参画も行っている。一方、2005 年より日
本病院薬剤師会で感染制御専門薬剤師制度が立ち上がり、感染制御専門薬剤師の認定
が行われ、その後 2008 年には現場で感染対策に関わっているが論文や学会発表が要
件ではない感染制御認定薬剤師が認定されている。また、日本化学療法学会では 2009
年に治療に重点をおいた抗菌化学療法認定薬剤師を認定し、薬剤師のなかでも感染に
専門的な知識を持つ薬剤師が次々誕生している。新潟県においても、2011 年 10 月現
在、認定を受けた薬剤師が 26 名(認定の重複あり)存在している。このたび、病院
内の感染対策における薬剤師の役割に注目し、薬剤師がその役割を果たしているのか
を感染対策専門家の医師(infection control doctor、以下、ICD)と専門看護師
(infection control nurse、以下 ICN)に評価してもらい、同時に感染の認定を受け
ている薬剤師自らの評価を行うことで、病院感染において薬剤師が役立っているのか、
また、どのような活動をすべきなのかを明らかにするためアンケート調査を行ったの
で報告する。
対象と方法
対象は、新潟県内の病院に勤務されている、ICD の医師 78 名、ICN22 名、日本病
院薬剤師会における感染認定を持つ薬剤師 23 名である。同意書に記名されたものを
有効回答とした。
アンケート内容(表 1)は、医師・看護師に対しては、まず ICT への薬剤師の関与
の度合いと、その薬剤師が何らかの感染の認定を受けているかの調査を行った。次に、
薬剤師が担っている業務と、業務の代行を含めた今後の要望を聞いた。薬剤師業務に
ついては、
「薬剤師のための感染制御マニュアル第 2 版」3)から抜粋改変した上で列挙
し、選択してもらった。その他、自由記載欄を設けた。薬剤師に対しては、現在行っ
ている業務と今後取り組む必要があると感じている業務を、医師・看護師へのアンケ
ートと同じ業務内容を列挙し選択してもらった。医師・看護師への質問で、役立って
いると思う業務(問 4)、もっとやってもらいたい業務(問 5)、代行してもらいたい
業務(問 6)は 1 位~5 位までの順位づけをお願いした。薬剤師に対しては、医師・
看護師がどのように考えているかを推測して 1 位~5 位の順位づけをしてもらった。1
位を 5 点、2 位を 4 点・・・5 位を 1 点、と点数化し各業務内容の合計点を回答され
た人数で除し平均点を算出した。それらを比較し、他職種から見た薬剤師の感染対策
に対する関与の度合いと薬剤師に対する意識・要望を集計し、薬剤師の考えている業
務が合致しているか、それぞれの回答を突き合わせ評価した。
結果
1.アンケート回収率
薬剤師 23 名中 22 施設 22 名(95.7%)、看護師 22 名中 13 施設 13 名(59.1%)、医
師 78 名中 21 施設 29 名(37.2%)であった。
2.認定薬剤師の ICT への関与
22 名中、専任と兼務を合わせて 19 名(86.4%)が ICT に参加していた。
3.認定薬剤師の業務(図 1-4)
抗菌薬の使用統計、感染対策マニュアルの作成・改訂、消毒薬の選択の指導、院内で
の感染対策の教育が上位であった。その他として、消毒薬の管理、抗菌薬届出制の管
理、抗菌薬長期投与チェック、配合変化チェック、無菌ではない注射薬調製が挙げら
れていた。
役に立っていると感じている業務は、抗 MRSA 薬の TDM、消毒薬の指導、注射薬
の無菌調製であった。現状よりもさらに進めていく必要を感じている業務は、注射薬
の無菌調製、個々の患者に応じた抗菌薬の投与設計、消毒薬の指導であり、医師・看
護師の役割の代行をするべきと考えている業務は、注射薬の無菌調製、個々の患者に
応じた抗菌薬の投与設計、抗菌薬の選択であった。
4.ICD・ICN のいる施設での認定薬剤師
ICD26 名中「ICT に薬剤師不在」と回答されたのは 2 名、「わからない」は 2 名で
あった。認定薬剤師については、18 施設中 9 施設に不在との回答であった。ICN13
名が在籍する ICT にはすべて薬剤師が在籍していたが、そのうち認定薬剤師は 6 施設
のみであった。
5.ICD・ICN からみた現在の薬剤師業務(図 1,2)
ICD からみた薬剤師業務では、マニュアルの作成・改訂、注射薬の無菌調製、抗菌
薬の使用統計、消毒薬の指導がよく行われていて、役に立っているのは、注射薬の無
菌調製、抗菌薬の使用統計、消毒薬の指導、抗 MRSA 薬の TDM であった。
ICN からは、注射薬の無菌調製、抗菌薬の使用統計、院内の巡回指導がよく行われ
ており、役に立っているのは、注射薬の無菌調製、抗菌薬の使用統計、抗 MRSA 薬
の TDM との回答であった。また、アンチバイオグラムの作成を薬剤師が行っており、
役に立っているという意見があった。
6.より求められている薬剤師業務(図 3)
ICD からは、個々の患者に応じた抗菌薬の投与設計、注射薬の無菌調製、抗菌薬の
選択、抗 MRSA 薬の TDM を、ICN からは、個々の患者に応じた抗菌薬の選択、注
射薬の無菌調製、抗菌薬の投与設計が求められていた。また、ICN からは、抗菌薬・
消毒薬の使用法に積極的介入を求める意見があった。
7.代行を求められている業務(図 4)
ICD からは、個々の患者に応じた抗菌薬の投与設計、抗菌薬の選択、抗 MRSA 薬
の TDM が挙げられていたが、業務の代行は難しいのではないかという意見や、代行
してもらいたい業務は無い(3 名)、TDM はすでに代行できている、という意見も見
られた。ICN からは、消毒薬の選択、使用時の指導についての代行が求められていた。
また、注射薬調製は本来薬剤師の業務であり、看護師が代行している業務である、と
いう意見があった。
考察
日本病院薬剤師会による専門薬剤師認定制度発足のおり、薬剤師の専門制度はどの
ような業務に必要かというアンケート調査では 1 位が感染対策であった 4)。専門薬剤
師認定後、薬剤師自らの活動状況に関する調査は散見されるが 5-10)、他職種からの評
価を調査した研究はみられない。このたびは新潟県内の ICD の医師と ICN から薬剤
師の感染対策への関わり方を評価してもらい、なおかつ認定薬剤師にも同様なアンケ
ートをすることで ICT 内での薬剤師の役割を改めて考える機会とした。
まず認定薬剤師の業務であるが、19 名が ICT に参加していたが 3 名は参加してい
なかった。そのうち 2 名は同一施設内の他の認定薬剤師が ICT に参加しており、1 施
設を除いて認定薬剤師のほとんどが院内の感染対策業務に携わっていることがわかり、
新潟県の認定薬剤師がその資格を十分に活かしていると思われた。業務内容としては、
「感染管理専門薬剤師の必要性に関するアンケート調査集計結果報告」4)で ICT の薬
剤師に求められている業務として挙げられている抗菌薬チェック・消毒薬チェック・
マニュアル作成に対して、抗 MRSA 薬の TDM・抗菌薬の使用統計作成・消毒薬の選
択と使用時の指導・マニュアルの作成と改訂の項目で高い割合で行われていることが
わかった。しかし、抗菌薬の選択や投与設計へのかかわりの度合いはまだ低かった。
また、業務のなかで注射薬の無菌調製の割合が 40.9%しかなかったのは、認定薬剤師
の業務としてではなく、薬剤部全体の業務として捉えて回答したものと思われる。
ICD 医師の薬剤師に対する意識については、不明との回答が 2 名あり、ICD 医師の
すべてが ICT に関与しているわけではないことがうかがわれた。また、ICT に薬剤師
が不在である施設が 2 施設あったこと、ICD 医師・ICN のいる施設での ICT に認定
薬剤師が約半数しかいなかったことから、新潟県においてさらに薬剤師の ICT への関
与を深め、認定薬剤師を増やす必要性を感じた。
ICD 医師・ICN からみた薬剤師業務では、ICD 医師は認定薬剤師とほぼ同じ回答で
あったが、ICN からは消毒薬関連業務での評価が低かった。認定薬剤師からは、消毒
薬に関する業務に対しても関与しているという回答が多かったことから、認定薬剤師
は消毒薬業務に対しても関与しているが、認定薬剤師でない場合に消毒薬業務への関
与が低くなり、ICN がその業務を行っていることが考えられた。
より関与を求められている業務としては、ICD 医師・ICN ともに抗菌薬の選択と投
与設計、注射薬の無菌調製が挙げられており、特に抗菌薬の適正使用に対する薬剤師
の関与がまだ不足であることがうかがわれた。注射薬の無菌調製に関しては、どの施
設でも薬剤師の関与はあるが、すべての注射薬調剤を行ってはいないためにこのよう
な結果となったと思われる。
代行業務について、ICD 医師からは代行は難しいという意見もあったが、TDM を
含む抗菌薬の適正使用を望む意見が多く、認定薬剤師の意見と一致していた。感染対
策の専門家である ICD 医師が抗菌薬の選択・投与設計を薬剤師に行ってほしいという
意見であり、ICD 医師のいない施設も多いことから、今後薬剤師は積極的にかかわっ
ていかなければならないであろう。このことは医師の負担軽減にもつながると考える。
ICN からは消毒薬の選択と使用時の指導を代行してほしいという意見が多く、現在
ICN がこの業務を行っており、認定薬剤師だけでなく、すべての薬剤師が積極的にか
かわっていかなければならない業務と思われた。
以上のように、感染対策に対する今後の薬剤師業務展開の方向は抗菌薬の適正使用
に重点を置き、抗菌薬の選択と投与設計に積極的にかかわっていくことが重要である。
また、消毒薬の適正使用にも積極的にかかわっていくことも必要であり、そのために
感染の認定薬剤師を増やすこと、さらに、薬剤部全体の業務として注射薬の無菌調製
の範囲を広げていく必要がある。
第2節
TDMの手法を用いた抗菌薬投与
a.院内感染対策における塩酸バンコマイシン血中濃度解析
バンコマイシン(以下 VCM)は、その殺菌力は AUC/MIC に依存すること、腎障
害・聴器毒性は高すぎる濃度で発現することから、TDM を行うことにより安全かつ
有効に使用できる薬剤である 11-14)といえる。しかし平成 9 年まで新潟市民病院では積
極的に血中濃度測定されていない状況であった。その後、感染症担当医と薬剤部が協
議し、VCM 血中濃度測定を 6 ヶ月間義務づけた。本節では、その結果を解析し臨床
に応用を試みたところ有用であり、かつ適正使用をはかることができたので報告する。
方法
VCM 使用患者情報の流れを図 5 に示す。院内では、VCM は指示伝票で払い出すこ
とになっており、使用患者は薬剤部で把握できる。その情報を感染症専門医に連絡し、
専門医は患者主治医と話し合いのうえ TDM 解析依頼票を薬剤部に提出する。薬剤部
では測定結果をもとに解析し、結果を医師に報告する。
VCM 血中濃度測定マニュアルを図 6 に示す。血中濃度測定は原則として VCM 初
回点滴終了後1~2時間(①)と2回目点滴直前(②)、3日後の点滴直前(③)と点
滴終了後1~2時間(④)の4点としたが、状況によりトラフ1点、ピーク1点の2
点でもよいとした。 各症例において定常状態に達する前(①と②)に測定された場合
は定常状態におけるトラフ値・ピーク値を予測し、定常状態到達後と思われる時点(③
と④)の場合はその値より、目標血中濃度に合うよう投与計画をたて提案し、臨床症
状とあわせて投与法を決定した。目標血中濃度はトラフ値 5~10μg/ml、ピーク値 25
~40μg/ml とした。
なお、解析には塩野義製薬株式会社で開発されたコンピュータープログラム・塩酸
バンコマイシン TDM 血中濃度データ解析システム(VCM-TDM)を用い、2-コンパー
トメントモデルに基づく日本人における母集団パラメータ
ン法にて個々のパラメータを算出し、予測した。
15) を組み込んだベイジア
図6
結果
1.VCM 払い出し数量の推移
図 7 にMRSA検出件数と VCM 払い出し数量の推移を示す。このシステムをはじ
めた平成 9 年 12 月から数ヶ月はあまり変化はなかったが、4 ヶ月めから VCM 使用量
が減少した。
図7
2.解析件数
平成 9 年 12 月から平成 10 年 5 月までの 6 ケ月間で VCM は 21 例に処方され、19
症例の血中濃度測定が行われた。HD1 例・CAPD1 例の 2 症例を除く 17 症例につい
て解析を行い、このうち 12 例(70.6%)に投与方法の変更を提案した。定常状態に
達する前の変更は 8 例、定常状態に達した後の変更は 4 例であった(表 2)。
3.症例
表 3 に、定常状態に達する前に解析し投与方法の変更を提案した 8 症例についての
概要を示した。休薬の提案は4例、投与時間変更の提案は1例、投与間隔変更は 1 例
に行い、すべて受け入れられた。投与量の変更は 6 例に提案し、4例に実行された。
以下、代表的な症例について経過を説明する。
表3
定常状態到達前の変更例の概要
図 8 参照
図 9 参照
図 10 参照
症例1(図 8)は 52 歳・男性、Toxic epidermal necrolysis,中毒性表皮壊死症という
重傷の薬疹で入院し、MRSA 敗血症となった。VCM0.5g×2 で点滴開始したところ、
実測値ピーク 6.47μg/ml・トラフ 1.54μg/ml であり、この値から予測するとピーク
9.97μg/ml・トラフ 2.52μg/ml と低値となった。効果が期待できないため、1.0g×2
の点滴を提案した。ピーク 19.82μg/ml・トラフ 5.0μg/ml と予測され、その後 18 日
間の投与で症状は改善した。
図8
症例 1
症例3(図 9)は 63 歳・女性、便からMRSAが検出され MRSA 腸炎の診断であっ
たが、原疾患が悪性リンパ腫であり、敗血症が疑われたため VCM の点滴が行われた。
1.0g×2 の指示で、初回 1.0g投与時すでにトラフ値が 10μg/ml を超えていたため、
1回休薬した後 1.0g1日1回の投与計画をたてた。グラフのようにシミュレーショ
ンされ、予測値はピーク 33.0μg/ml・トラフ 9.41μg/ml,実測値はピーク 37.14μ
g/ml・トラフ 9.39μg/ml とよく一致した。
図9
症例 3
症例6(図 10)は 76 歳・男性、髄膜脳炎で入院し、MRSA 肺炎となった。0.5g×2
の投与で実測値はトラフ 2.3μg/ml・ピーク 13.0μg/ml であり、このままの投与量で
は一応トラフ 6.48μg/ml と 5μg/ml 以上にはなるが、肺への移行を考え、目標トラ
フ値を 10μg/ml 付近とし、0.75g×2 の投与計画を立てた。予測値はピーク 21.68
μg/ml・トラフ 9.71μg/ml であったが、実測値はトラフ 12.28μg/ml であった。経
過が非常によかったことと、長期間の投与でなければ腎障害はおこらない 14)と思われ
たため、このままの投与を継続し、計 14 日間で投与終了することができた。
図 10
症例 6
上記は TDM が有用であったと思われる症例であるが、症例 4、8 については予測
濃度と実測値に違いがあった。症例 4 は症状軽快とともに血清クレアチニン値が低下
したことが原因と思われ、症例 8 は全身状態不良・血液透析施行例であり、このよう
な症例についてはパラメータの変動が大きく、解析に注意が必要である。
考察
感染対策委員会と連携し6ケ月間血中濃度測定を義務化し、薬剤部にて TDM 解析を
行なった。同時に感染症担当医による治療への積極的介入が行なわれた。これにより、
期間中は真の MRSA 感染症に VCM が使用されるようになったと思われる。すなわち、
MRSA 検出がすべて VCM の適応とならないことが啓蒙できた。
血中濃度管理の面からみると、VCM は高濃度が持続すると副作用が
11-13)16)、低濃
度での長期投与では耐性菌の発現が懸念される 17) 。しかし、血中濃度測定・解析によ
り早期に至適濃度に調整することが可能である。このたび、12 症例 70.6%で投与方
法変更が提案され、臨床上有用な例が多かったことから、院内感染対策の立場からも
TDM は必要であると思われる 17)。
このたびの結果より、TDM の特徴は次のように考えられる。
1.TDM の利点
・血中濃度が定常状態に達する前に予測できる
・休薬が必要な場合、期間を予測できる
・通常考慮されないような投与量・間隔でも、シミュレーションによって可能である
ことが予測できる
・報告書にグラフを入れることで、変更の必要性をわかりやすく伝えることができる
2.TDM の欠点
・病態の変動、特に血清クレアチニン値の変化が大きい患者に対しては長期予測がた
てられない(透析症例を含む)。したがって、きめ細かい血中濃度測定とフォローが必
要となる。
このような特徴を理解した上で TDM を臨床上活用する必要があろう。
当院は多数の医師が勤務しており、薬剤部のみの働きかけでは血中濃度を測定して
もらうことさえ困難な状況であった。しかし、感染対策委員会と連携することにより、
VCM の適正使用をはかることができた。このように、患者の臨床症状を把握してい
る医師に協力して、薬剤師が薬物動態の情報を提供することにより、抗菌薬の適正使
用が行なわれることがわかった 18)。
b.
MRSA による再燃性骨髄炎例の治療指針へのかかわり
慢性細菌性骨髄炎の起因菌は Staphylococcus aureus が大多数であり、近年
Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)感染の増加が指摘されて
いる。病巣の掻爬・洗浄とともに抗生物質の投与が行われるが、その投与期間は少な
くとも4週間必要であり、他の細菌感染症に比べ長期投与となる。また、MRSA 感染
症の中でも骨髄炎は最も難治性の疾患といわれており、現在治療に用いることができ
るのは保険適応薬である vancomycin(VCM)のみである。今回、MRSA 骨髄炎に対
し、VCM の全身投与と局所投与を行ったが改善傾向のみられない腎機能低下患者に
対し teicoplanin(TEIC)を投与し TDM を実施した。その結果有効であったので報告
する。
症例
症例:59歳、女性
既往歴:糖尿病、子宮癌
現病歴:2001 年 1 月上旬、自宅内で滑って 2 回転倒した。その後大腿部の痛みがと
れずに当院を受診し右大腿骨頚部内側骨折の診断にて 1 月 19 日手術目的で整形外科入
院となった。
入院時所見:体重 29.2 ㎏,GOT39IU/L,GPT33IU/L,ALP2334IU/
L,LDH459IU/L,TP6.8g/dL,BUN11.4mg/dL,Cr0.6mg/dL,CRP1.68mg/dL,
WBC3,500/μL,RBC307×106/μL,Hgb9.6g/dL,HCt29.6%,PLT292
×103/μL
入院中の経過(図 11)
:2001 年 1 月 25 日人工骨頭置換術、2 月 8 日創部洗浄ならび
にデブリドーマン手術施行され、2 月 10 日ドレーンが抜去された。2 月 8 日手術創と
2 月 13 日ドレーンより MRSA が検出され、VCM0.5g×2/day の全身投与が開始とな
った。2 月 20 日、3 月 13 日と VCM ビーズ充填が行われ、3 月 13 日手術創部からは
MRSA1+と Escherichia coli1+が検出された。3 月 28 日ドレーン抜去後の培養
では MRSA は検出されず、E.coli2+とS.aureus 極少数、4 月 6 日の手術創部から
は MRSA と E.coli が1+検出された。4 月 12 日クロロマイセチンガーゼとイソジン
ガーゼを充填し、4 月 23 日に VCM 全身投与が終了した。同日より clavulanic acid・
amoxicillin と minocycline の内服が開始され、5 月 2 日の開放膿からは E.coli のみ
の検出であり、cefcapene pivoxil の内服が追加投与となった。その後 5 月 23 日、7
月 2 日の培養は陰性であった。7 月 13 日骨掻爬術と洗浄・デブリドーマンが行われ、
7 月 24 日のドレーン培養では陰性であったが、7 月 25 日開放膿より MRSA1+、
Enterococcus faecalis1+が検出された。7 月 30 日の検査ではCRP0.88 と若干の上
昇であったが、38℃を超える発熱があった。Crは 1.0mg/dl であり、腎機能の低下
がみられた。まず VCM が再投与され、1.0g×2/day で投与されたところ血中濃度が
上昇し、8 月 5 日で中止した。しかし、8 月 20 日CRP10.02 と上昇し、8 月 28 日骨
掻破術とともに局所洗浄のための髄腔内チューブ留置ならびに VCM ビーズ充填が行
われ、8 月 30 日 VCM0.5gの 1 回投与を行なった。Crに大きな変動はなく腎機能の
悪化はみられなかったが、CRPの低下もなく発熱も続くため、他の抗 MRSA 薬の
投与を考慮する必要があり、TEIC を投与することとなった。400mg1 日、200mg2 日
間のローディングを行ったあと 3 日ごとに 200mgを投与した。投与 24 時間後の血中濃度が
9/10 14.67μg/ml、9/25 15.41μg/ml、投与前値が 9/21 9.27μg/ml、10/1 8.36μg/ml とロ
ーディングドーズを負荷したことにより早期に定常状態に達した。CRPは順調に低下し、腎
機能への影響も見られず軽快した。
図 11
臨床経過
考察
骨髄炎の治療において抗生物質の投与期間は 4~8週 19)、成人の慢性骨髄炎ではESR
が正常化するまで 3 ヶ月以上の投与を要する場合もある 20)、といわれており、他の感染症に
比べ長期投与となる。MRSA 感染であると治療薬は VCM しか適応がなく、長期投与におい
ては腎障害などの副作用も懸念される。VCM の MRSA 骨髄炎における有効性は 85.7%で
あり 21)非常に有効な薬剤ではあるが、骨組織への移行率は高くなく、症例によっては 1 日量
を 3gまで増量して改善したとする報告 22)もある。このような背景から整形外科領域では
「VCM ビーズ充填法」23)が行われることがあり、本症例においても 3 回施行された。「VCM ビ
ーズ充填法」はセメントに VCM を練り込んだものをビーズ状にし、手術にて患部に埋め込む
方法である。直接患部に VCM が接し、徐々に放出されるため 2 週間程度は MRSA のMI
Cを上回る組織濃度が維持されるとのことだが、有効性についての評価は定まっていない。
本症例においては全身投与に VCM ビーズ充填法の併用によって一時的に軽快したように
見えたが、再手術により骨組織に侵襲が及ぶと再燃した。VCM 全身投与においては血中濃
度管理を行い、骨への移行を考慮した上で目標トラフ濃度を高値(15~20μg/mL)に設定し
た。2/13 からの投与で期間は約 10 週間にわたったが、この間Crは 0.6mg/dLから若干上昇
し、投与量が同一にもかかわらず血中濃度トラフ値も上昇したことから腎機能障害が疑われ
た。4/23 の VCM 投与終了後もCrは 0.9~1.1mg/dLと変化なく、7/25MRSA 検出時の
VCM 投与ではトラフ値が 37.74μg/mL と上昇し投与を中止せざるを得なかった上、今後十
分な量を投与することが難しいと判断されたため 9/7 よりTEICを投与することとした。TEIC
は骨髄炎の適応はないが、米国でのオープンスタディにおける慢性骨髄炎79例での有効率
は 88.6%と報告されており 24)、本邦における治験段階でも 73.5%25)と高い有効率を持ってい
る。さらに骨組織への移行については海綿質では投与 8 時間後から、緻密質では 12 時間後
から血清中濃度を上回る濃度となり、高い骨移行性がある 26)。腎機能への影響については、
トラフ値が 60μg/mL 以上になった場合に腎障害等の副作用に注意する必要がある 26) とされ
ており、通常の目標トラフ値である 5~10μg/mL と大きな差があることから、より安全と言える。
骨髄炎に対する TEIC の投与法には数件の報告がある。400mg/body/day を最低でも 4 ヶ
月の投与を行なった報告では76人中70人軽快し、中止または減量が必要な患者は3人で
あった 27)。また、他の報告では 4mg/kg/day では効果がなく、15mg/kg/day までの範囲で増
量が必要であったが、12mg/kg/day 以上では TEIC が原因と思われる副作用で中止となっ
た例が 28%であった 28)。血中濃度に関する報告では、目標トラフ濃度を 10μg/mLとして平
均値で 15mg/kgを週3回投与した 44 例中 37 例(84%)が軽快した 29)。米国のオープンスタ
ディでは 6mg/kg/day と 12mg/kg/day の投与では後者の方が倍以上の頻度(13.1%)で副
作用としての発熱がみられ、発疹も同様に高用量で起こりやすかった
24)
。このような報告より、
投与量は 6mg/kgとし、目標トラフ濃度を 10μg/mL前後として投与計画をたてるのがよいと
考えた。本症例では、患者のCcrを約 40ml/min弱と計算し、添付文書上の用法用量に
則り初期投与 3 日までは腎機能正常者と同量の 400mg-200mg-200mgを投与し、4 日目以
降は 1 日の用量を 3 日毎に投与する方法を選択した。用量については、患者の体重が約 30
kgと通常成人の半分ということで初回投与量を 400mgとしたが、血中濃度からみて至適投与
量であったといえよう。また、投与間隔をあける方法を選択したのは、骨への移行を高めるた
めには 1 回投与量を多くし、ピーク値を上げる必要があると考えたからである。この投与法に
より早期に血中濃度が定常状態に達し、腎機能に影響を及ぼすことなく軽快させることが出
来た。本症例での TEIC 投与は 11/11 現在約 9 週間になるが、CRPは徐々に低下しており、
Crに変化はない。このような軽度腎機能障害患者において TEIC は安全に長期投与が可能
であり、TDM を行うことで有効性を期待することもできる。したがって、TEIC は MRSA 骨髄
炎において有用な選択肢のひとつである。
c. 多剤耐性セラチア菌による膵仮性嚢胞感染例への治療指針へのかかわり
膵仮性嚢胞は膵嚢胞性疾患のひとつで「線維または肉芽組織で被包された膵液貯留
で急性膵炎・膵外傷・慢性膵炎に赳因する」と定義されており,大部分の嚢胞内容液は
無菌性である。しかし,合俳症として出血, 嚢胞感染(膵膿瘍),嚢胞破裂,消化管閉塞,
胆管閉塞などがあり,いずれも重篤な症状を呈する 30)。嚢胞感染に対する抗菌剤はイ
ミペネム/シラスタチン(IPM/CS)が第一選択剤とされており 31-2),アミノグリコシ
ド系薬剤は移行性の問題から使用されないことが多い。
一方,Serratia marcescens はグラム陰性通性嫌気性桿菌で,しばしば腸管の正常
細菌ごうを構成するが,他の腸内細菌と異なり消化管ヘの定着は少なく,呼吸器や尿
路に定着しやすい。感染は,易感染性宿主や衰弱した患者において日和見感染症とし
て起こることが多い 33)。多くの抗生剤に対して耐性であり,近年,院内感染の重要な
原因菌として取り上げられている 34) 。
今回,多剤耐性 S.marcescens による膵仮性嚢胞感染患者へのゲンタマイシン(GM)
大量・長期投与に対してTDMを実施した。また,血中濃度とともにドレナージ廃液
の GM 濃度を測定する機会を得たので報告する。
症例
症例:37 才,男性,体重 57kg
原疾患:慢性膵炎急性増悪,腹膜炎,肝膿瘍,膵仮性嚢胞,脾動脈瘤
現病歴:平成 12 年1月6日入院時より IPM/CS の持続動注など,カルバペネム系
抗生剤の長期投与が続いていた。肝膿瘍,脾膿瘍,膵仮性嚢胞惑染に対しドレナージ
を行ったがコントロール困難であった。7月 20 日,人工呼吸器管理が必要となり当
院款命款急科へ転科となったが,状態が安定したため,26 日消化器科再転科となった。
経過(図 12):転科後も 38~39℃台の発熱が続いており,CRP 11.23,白血球数
10,000 と強い炎症所見を示していた。7月 27 日のドレーン排液より S.marcescens
が多数検出されたが,感受性試験ではカルバペネム系薬剤を含めた多剤に耐性,GM,
スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST),アズトレオナム(AZT)にのみ感
受性であった(表 4)。耐性を獲得しやすい菌種であることと感受性試験結果より,8
月1日から GM 1日1回 120mg と AZT の併用を行うこととなった。GM は血中濃度
を測定したうえで増量し,8 月 9 日より1日1回 160mg の投与を行った。8 月 17 日
の培養で AZT に耐性が認められ,22 日より再び 38℃以上の発熱がみられたため AZT
を中止し,ST(バクタ®)4錠の併用と GM の増量を試みた。28 日より 160mg を1
日2回投与で2日間行ったが血清クレアチニン値(Cre)の上昇を認め 160mg×1 回
にもどした。菌量は著しく減少し熱も落ち着いていたが,9月 10 日より発熱し,耐
性となっていた ST の内服を中止しミノマイシン(MINO)400mg 内服に変更した。
また,腎機能の回復とともに GM 血中濃度の低下をみとめたため増量を行った。腎機
能を低下させないよう1日1回投与法を選択し,400mg まで増量した。400mg に増
量して5日目ごろから解熟傾向となった。また,27 日に血中濃度とともにドレナージ
廃液のGM濃度を測定した。10 月1日より発熱があったが,GM の増量はこれ以上困
難と思われ,このままの投与量で継続した。MINO の耐性化と嫌気性菌の開与を疑い,
18 日よりメトロニダゾールの内服に変更した。解熱はしなかったが CRP の低下がみ
られたため投与を継続したが,11 月7日の培養で S.marcescens とともに MRSA が
検出されたためメトロニダゾールからバンコマイシン(VCM)に変更した。 12 月6
日,Cre の上昇がみられたことと,13 日には CRP 0.62 まで低下したところで両剤を
一時中止した。15 日の血管造影後,嚢胞内容物はドレーンより排出されなくなり,38℃
を越える発熱はなくなった。その後は腎機能をみながら GM と VCM の投与を再開し
たが,平成 13 年1月 16 日ドレーン抜去,20 日には抗生剤投与を中止し,2月 13 日
退院となった。
図 12
臨床経過
表4
方法
GM 投与中,血中濃度測定を行った。GM 点滴時間は1時間とし,採血は次回投与
直前と点滴終了直後に行い,TDXにて FPIA 法により測定した。測定限界を超える
濃度となった場合は,検体を希釈し,その倍率で測定値を補正した。
また,嚢胞ドレーン廃液内の GM 濃度を測定するため,GM 点滴終了後 30 分,
45
分, 60 分, 90 分,120 分の5ポイントで廃液を採取した。血性廃液であったことから前
処理として 3,000 rpm5 分間の遠心分離のみを行い,その上澄を試料として血清と同様
にTDXにて測定を行った。
結果
8月1日より GM 120mg×l の投与が開始され,4日目に最初の血中濃度測定を行
った。点滴直前値(トラフ値)は 0.4μg/mL に直後の値(ピーク値)は 7.5μg/mL で
あった。8月9日より 160mg×1 に増量し9日目のトラフ値は 0.74μg/mL,ピーク
値 9.49μg/mL となった。8 月 25 日の測定でトラフ値 0.9μg/mL,ピーク値 11.9μg/mL
と上昇していたが効果をあげるために 160mg×2 に増量した。しかし Cre が1から
1.4mg/dL に上昇したため2日間のみで 160mg×1 にもどし,その後 200mg×1 の投
与を2日行ったが,Cre は 2 mg/dL まで上昇したため 160mg×1 とした。9 月 1 日,
Cre 1.8mg/dL でトラフ値 0.75μg/mL, ピーク値 12.96μg/mL であり, そのまま投与を
継続した。9 月 13 日, Cre が 1 mg/dL まで下がり腎機能が回復してきたところで CRP
の上昇と発熱を認め,測定したところトラフ値測定限界以下,ピーク値 7.65μg/mL で
あった。9 月 14 日より 200mg×1 に増量したが 9 月 18 日のトラフ値測定限界以下,
ピーク値 7.66μg/mL と変化なく(Cre 0.8),320mg×1 増量後2日目のトラフ値
0.17μg/mL,ピーク値 8.75μg/mL の結果をみて 400mg×1 に増量した。400mg に増
量後2日目の測定でトラフ値 0.29μg/mL ,ビーク値 17.32μg/mL であり,9 月 27 日
に血中濃度とともにドレーン廃液濃度を測定した。9 月 27 日血中濃度はトラフ値
0.43μg/mL ,ビーク値 16.50μg/mL ,ドレーン廃液濃度は 30 分値 16.0μg/mL,45
分値 12.92μg/mL, 60 分値 13.58μg/mL, 90 分値 11.76μg/mL, 120 分値 7.76μg/Ml
であった(図 13)。この5ポイントから,消失速度定数は 0.4226(1/h)と算出され
た。血中からの消失速度定数は 0.1680(1/h)であり,血中からの消失よりも速く消
失する結果となった。ドレーン廃液中にも GM が高濃度に存在することがわかり,
400mg×1 の投与を継続した。10 月 2 日トラフ値 0.04μg/mL,ピーク値 20.66μg/mL,
10 月 12 日ピーク値 22μg/mL であったが Cre は 1 mg/dL を超えることなく安定して
いた。11 月 10 日より VCMlg×2との併用が開始となり,4日目のVCM血中濃
度はトラフ値 14.10μg/mL,ピーク値 40.35μg/mL と高目ではあったが,このままの
投与を継続した。12 月 6 日 Cre1.3mg/dL と上昇,12 月 14 日の GM トラフ値 2.08μg/mL
となったところで両剤とも一時中止した(図 14)。GM濃度は翌 12 月 15 日には
0.62μg/mL, 12 月 18 日には 0.27μg/mL と低下した。その後腎機能をみながら GM と
VCM の投与を再開し,
VCM は1g×1隔日投与で 1 月 14 日に終了し,
GM は 200mg
×1 の3日毎投与で 1 月 20 日終了した。腎機能については,Cre は退院時には 1 mg/dL
までもどっており,軽快した。聴器毒性についての検査は行われなかったが,患者か
らの異常の訴えはなかった。
考察
GM は,最高血中濃度が 12μg/mL 以上,最低血中濃度が 2μg/mL 以上が繰り返
されると腎障害や第8脳神経障害発生の危険性が大きくなるといわれている 35)。推奨
されている血中濃度はトラフ値「2μg/mL 以下」36-7) または「1~2μg/mL」38), ピー
ク値は「8μg/mL を超える」36) や 「5~10μg/mL」37), 「4~10μg/mL 38)と記載され
ているが,これらは1日投与量を2~3回に分割して投与する場合の推奨濃度である。
近年,アミノグリコシド系薬剤の特徴を活かし,1日量の1回投与法が行われている
が,推奨濃度は「トラフ値 1μg/mL を超えず,ピーク値 16~24μg/mL」38)との記載
が1件あるのみである。このたびの症例では,GM 以外に効果の期待できる薬剤がな
く,仮性膵嚢胞への移行の程度が不明であったことから,できるだけ高濃度でなおか
つ副作用を発現することのないよう投与量の調整を行う必要があった。また,8 月 26,
27 日の 160mg 1 日2回投与時に Cre が上昇し,1日1回投与に変更した9月初めの
経過で,投与量の変更無くトラフ値,ピーク値とも低下しているが,これは1日1回
投与法に切り替えてから Cre の低下が示すように腎への負担が減少し,その結果クリ
アランスが上昇したためと考えられる。したがって1日1回投与法を採用することと
し,目標とする血中濃度を「トラフ値<1μg/mL, ピーク値 16~24μg/mL」として詞
整を行った。1日 400mg に増量してから約3ヶ月の長期にわたったが,VCM の伴用
後2週間程度まで Cre 0.7~0.9mg/dL と腎機能障害を認めなかった。したがって,目
標血中濃度は適正であったと考えられる。しかし,VCM 併用2週間を超えたところ
で Cre の上昇を認めたことから,腎機能障害を起こしやすい薬剤の併用は,血中濃度
を調整していても注意が必要であることが示唆された。当院では VCM の目標血中濃
度をトラフ値 10~15μg/mL としており,本症例では,こちらも高濃度を目標にした
ため腎機能への影響があったのかもしれない。また,腎機能低下が認められるまで,
GM は投与日数 120 日間・総投与量 36.76g の大量・長期投与がされており,GM が
蓄積された結果の腎機能低下であることも否定できないであろう。
次に GM の臓器移行についてであるが,本症例のような膵仮性嚢胞への移行の報告
はない。膵液中への GM 移行の報告としては,犬で 4 mg/kg 筋肉注射後 1~1.5 時間
で膵液中の最高濃度を示し,その値は血中最高濃度の 51.3%であった,とするもの 39)
と,壊死性膵炎の2例について 80mg を1日3回5分で静脈注射し,2時問後の壊死
組織/血中濃度がそれぞれ 0.21・0.18 あった,とするもの 40)があった。また,他の
アミノグリコシド系薬剤の膵組織ヘの移行については,ネチルマイシンとトブラマイ
シンで非常に低く,膵炎発症時に検出される多くの菌の MIC 以下である,という報
告 47)があった。本症例では,測定法が TDX での FPIA 法であり,廃液遠心分離後の
上澄を測定していることから,必ずしも膵仮性嚢胞内壊死組織濃度であるとはいえな
いが,嚢胞内腔液中にはほぼ最高血中濃度と同程度の濃度で移行していた。したがっ
て,GM は膵感染症の場合に選択しうる薬剤のひとつではないかと考えられる。一方,
消失速度については血中よりも速く消失する結果となったが,これまでの報告に比べ
本症例では最高血中濃度が高濃度であり,このような場合には膵への移行は良いが低
濃度では移行しにくく,消失のみになるためではないかと思われた。しかし,1例の
みの検討であるので今後の課題となろう。
膵仮性嚢胞は感染をおこし膿瘍化した場合重篤な症状を呈する。本症例のように耐
性菌が検出された場合,さらに治療に難渋することがある 42)この症例では GM 以外に
効果の期待できる抗菌剤はなく,大量長期投与となった。しかし,重篤な副作用もな
く,菌量の減少がみられ,結果的に救命しえたことから,GM の投与は非常に有効で
あった。
d.
コリネバクテリウムによる感染性心内膜炎例の治療指針へのかかわり
Teicoplanin(TEIC)はグリコペプチド系抗菌薬で、MRSA に有効な薬物である。
TDM を行うことにより有効に使用でき、腎障害の発現がバンコマイシン(VCM)や
アルベカシンに比べ少ないといわれている。また比較的組織移行が良く、心内膜炎を
含む深部感染においても良い選択薬である 43)。添付文書上の至適トラフ血中濃度は 5
~10μg/mLと記載されているが、実際に効果を期待できる濃度としては 15μg/m
L以上必要であるケースもあるが報告されている 44)。
Corynebacterium jeikeium はグラム陽性桿菌で耐性度の高い菌である。このたび、
耐性 Corynebacterium jeikeium による感染性心内膜炎に対し TEIC が投与された症
例について TDM を行い、外科手術を行わずに退院できた症例を経験したので報告す
る。
TEIC 血中濃度測定は FPIA 法により行い、TEICTDM 解析支援ソフトウェア
Ver.1.2(アステラス製薬株式会社)にて解析を行った。
79 歳、男性、体重 51.6kg
主訴:発熱
既往歴:高血圧症、前立腺肥大症
身体所見:特記すべきことなし
現病歴:平成 18 年 10 月 4 日大動脈弁置換術施行。術後は合併症なく、外来にて抗凝
固治療が行われていた。平成 19 年 1 月 12 日より 39℃の発熱があり、1 月 15 日に新潟
市民病院循環器科を受診された。CRP は 10.48mg/dL と高値を示し、血液培養よりグラ
ム陽性桿菌が検出されたことと経食道心エコーにて疣贅が確認されたため、感染性心
内膜炎の疑いにて 1 月 17 日に入院となった。
入院後経過:1 月 15 日に血液より分離された菌は Corynebacterium jeikeium と同定
された。その後 17 日と 18 日にも同じ菌が血液培養より検出された。薬剤感受性結果
で感受性が認められた薬剤はアミカシン・アルベカシン・エリスロマイシン・クリン
ダマイシン・ミノサイクリン・VCM・TEIC であり、TEIC を選択した。1 月 19 日 400mg
投与、1 月 20 日 400mg12 時間毎に 2 回投与、以後 1 日 1 回 400mg を投与した。TEIC
は生理食塩水 100ml に溶解し、30 分で点滴静注した。1 月 22 日 TEIC 血中濃度トラ
フ値を測定したところ 10.2μg/mL と低値であったが、CRP と熱が改善傾向であったた
め 400mg を1回ローディングし濃度を上昇させてから 400mg/日の投与を継続すること
にした。1 月 25 日のトラフ濃度は 17.7μg/mL と目標濃度に到達していたが、CRP は
11.48mg/dL と上昇し、39℃と熱の再上昇もみられたため、濃度の不足と判断し 400mg
を1回ローディングした後 500mg/日投与に増量した。1 月 29 日のトラフ濃度は 19.4
μg/mL と上昇していたが CRP は 8.00mg/dL と依然高く 38℃の発熱も持続したため、さ
らに血中濃度を上昇させることが必要と思われ 1 日 600mg 投与に増量した。2 月 1 日
のトラフ濃度は 23.6μg/mL であり CRP5.99mg/dL と減少、熱は 37℃と解熱傾向を示し
たことより、以後 1 日 600mg 投与を継続した。熱は 2 月 5 日より 36℃台になり、CRP
も順調に低下し 2 月 22 日に陰性化した。同日の血液培養の結果は陰性であった。3 月
2 日の経食道心エコーでは疣贅の消失を認め(図 15)、3 月 8 日に TEIC の投与を終了
し、薬剤感受性結果で MIC<0.5 であり組織移行性が比較的良好で内服薬があるため外
来通院可能であることを考慮しミノサイクリンの内服に切り換えた。その後症状の悪
化なく退院した。(図 16)
考察
感染性心内膜炎(Infectious endocarditis : IE)の中で人工弁置換術後に発症す
る IE、prosthetic valve endocarditis(PVE)は1~4%に生じ 45)、自然弁の感染よ
りも重症になる可能性が高いとされる。合併症の率も高く、発症した場合手術適応に
なることも多い。PVE は弁置換から2ヶ月以内の早期 PVE と2ヶ月以上の晩期 PVE の
2種類に分類され、晩期 PVE の原因菌は Viridans streptococcus、HACEK( Haemophilus
parainfluenzae, H.aphrophilus, Actinobacillus, Cardiobacterium, Eikenella,
Kingella)などが一般的である 46)。このたびの症例は術後2ヶ月以上経過しており晩
期 PVE といえるが原因菌は Corynebacterium jeikeium であった。Corynebacterium 属
はグラム陽性桿菌で、ヒトの皮膚の常在菌である。ジフテリア菌を除く
Corynebacterium 属は病原性が弱く感染症の原因菌としてはまれであるといわれてい
たが、医療の高度化に伴い人工弁や人工関節の植え込みがされた患者や高度免疫不全
状態にある患者において敗血症や骨髄炎の原因菌として報告されるようになった。グ
リコペプチド以外の抗菌薬において多剤耐性を示すため、原因菌である場合は極めて
難治である 47)。本邦では Corynebacterium jeikeium は原因菌としてあまり注目され
ていなかったが、薬剤耐性度が高いことと予後不良例が多いことから注意が必要であ
る。 Corynebacterium による感染性心内膜炎の報告はいくつかある。疫学データとし
て代表的なものに、129 例の Corynebacterium による心内膜炎症例を解析した結果、
28%に弁置換術が施行されており、うち 43.5%が死亡したという報告 48)がある。それ
に加えて、本邦では、急性リンパ性白血病の化学療法中に発症した Corynebacterium
jeikeium による活動期感染性心内膜炎に対しアルベカシン投与後僧帽弁置換術を施
行し救命された症 49)、バンコマイシン投与後手術された症例 50) 、イミペネム/シラス
タチンとゲンタマイシン投与にて軽快した症例 51)の1例報告がある。一方、TEIC に
よる感染性心内膜炎の治療の報告としては、平均 7.3mg/kg/日、20.3 日間の投与で
10/13 例に有効であった報告 52)、600 または 400mg/日、平均 6 週間の投与で 21/26 例
が薬物治療のみで治癒したが、PVE では 6/8 例の治癒であり、血中 TEIC 濃度は 5.3
~17.7μg/mL であったという報告 53)、3~14.4mg/kg/日、平均 48.2 日間の投与で 21/23
症例に血液培養の陰性化がみられた報告 54)、3~6mg/kg/日を投与された 115 例の検討
で、PVE については併用療法 75%、単独療法 79%の有効率であり、平均トラフ濃度は 5
~10μg/mL であったという報告 55) 、200mg/日の投与で心内膜炎の治癒率は 70%であっ
たという報告 56) などがある。以上のように TEIC は感染性心内膜炎の治療に有効であ
るが、Corynebacterium jeikeium による PVE に対して使用されたという報告はない。
本症例は薬剤感受性検査結果にて TEIC の MIC が 0.5μg/mL 未満であり VCM の
MIC 1μg/mL よりも低値であったこと、また長期投与の必要性から TEIC の使用を
選択した。目標血中濃度については当初トラフ値 15~20μg/mL としていたが、1/29
の血中濃度が 19.4μg/mL であり定常状態の濃度と考えられたが、発熱が 38℃・CRP
が 8.00mg/dL と効果発現が遅いと思われたため目標濃度を 20μg/mL 以上とした。その
結果効果を得たことから、TEIC を Corynebacterium jeikeium による感染性心内膜炎
に投与する場合はトラフ濃度 20μg/mL 以上が必要であることが示唆された。有害事象
については、トラフ濃度 20μg/mL 以上で 7 週間投与されたが腎障害・肝機能障害など
の異常は認められなかった。また、TEIC の投与法については再ローディングが有用で
あると考えられた。1/22 の初回血中濃度測定時、定常状態の濃度は 17μg/mL になる
ことと同時に到達に2週間程度必要であることも予測された。同日再ローディングを
行うことで翌日には 17μg/mL 程度の濃度が得られると予測され、その後の 1/25 の血
中濃度結果を加えたシミュレーションでもそのように解析できたため再ローディング
により早期に血中濃度を上昇させることができたと考える。1/25 は目標値を 20μg/mL
以上とした上での再ローディングであった。結果的に目標濃度には達しなかったが再
ローディングによりこちらも翌日には 20μg/mL 付近の濃度が得られたであろうと推
測された。投与量の増量時に目標濃度に早く到達させるために再ローディングを繰り
以上、難治性の Corynebacterium jeikeium による感染性心内膜炎に対し TDM を効果
的に利用し、必要十分量の TEIC 使用により内科的治療のみで治癒せしめた貴重な1
例であると考え報告した。
第3節
a.
医療現場における抗菌薬適正使用の推進
抗MRSA薬TDM自動化の有用性
われわれはこれまでバンコマイシン(VCM)において血中濃度解析を行なうことに
よってその適正使用をはかり院内感染対策にかかわってきた
57) 。その後、他の抗
MRSA 薬についても同様に対応していく必要のあること、また、できるだけ個人の負
担を軽減することを考え、アルベカシン(ABK)も加えた上で、院内で自動的に血中濃
度解析が行なわれるようシステム化をはかった。さらに、平成 11 年 4 月施行の感染
症新法により MRSA 感染症発症患者報告が義務化されたが、より正確に状況を把握
する必要を感じ、薬剤部内の情報を用いることでこれについて対処することとした。
本節では、新システムの導入とその効果について考察する。
方法
図 17 に以前のシステムを紹介する。当院では、抗 MRSA 薬は患者個別の指示伝票
で払い出されるため、薬剤部ですべて把握できる。その患者情報を感染症担当医に連
絡し、担当医が患者主治医と話し合いの上、血中濃度測定の指示と TDM 解析依頼票
を薬剤部に提出する。薬剤部では依頼票が提出されたことを確認して、解析を行なう、
というものであった。これにより VCM の適正使用がなされたが 57) 、感染症担当医の
負担が大きいシステムであった。新しいシステム(図 18)では、指示伝票が薬剤部に提
出されると抗 MRSA 薬とともに血中濃度測定マニュアルを添付した血中濃度検査伝
票が病棟に送られる。病棟ではマニュアルに沿って採血を行い、伝票とともに検査部
に提出する。検査部は血中濃度を測定し、その結果により薬剤部で解析し、解析結果
を医師に報告する。このシステムでは、主治医は抗 MRSA 薬の指示伝票を書くだけ
で解析まで自動的に進むことになる。図 19 に採血マニュアルを示す。VCM は3日め
の投与直前と点滴終了後1時間、ABK は直前と直後に採血することになっている。テ
イコプラニンについては現在院内測定できないため、以前のシステムにならい薬剤師
が主治医に直接お願いし、外注にて測定を行なっている。旧システムは、平成 9 年 12
月より平成 10 年 5 月までの 6 ヶ月間試行された。これにより血中濃度管理が浸透し
たのではないかと考え、その後平成 11 年 3 月までは積極的に介入せず、薬剤部より
医師に測定のお願いだけをするようにした。現在のシステムは平成 11 年 4 月より施
行されている。システムの変更による血中濃度管理の状況を比較するため、VCM に
おいての新規投与患者数・血中濃度測定数・解析数を各 6 ヶ月間調査した。また、ABK
については現在のシステム前後の血中濃度管理状況を比較した。
図 17
図 18
図 19
次に MRSA 感染症発症患者報告についてのシステムを説明する。薬剤部より注射
指示伝票からの患者情報を感染症担当医と医事課担当者に連絡する。感染症担当医と
薬剤部担当者は、該当患者の調査にあたる。調査項目は、原疾患、MRSA 検出検体、
菌量、貧食像、他の検出菌、炎症反応、抗生剤の薬歴などである。医事課担当者は検
査部より MRSA 検出患者リストを、病歴室より MRSA 感染症の病名がついた患者リ
ストを入手し、必要に応じてカルテを持参する。このようにそれぞれ調査をした上で
週1回程度のミーティングを開き発症患者を選別し報告する。感染と保菌の区別は、
当院の MRSA 感染対策マニュアルにより行なった
58)。このようなシステムをとるよ
うになって、報告数がどのように変化したか調査した。
結果
表 5 に VCM 新規投与患者数・血中濃度測定数・解析数と割合、また、未測定また
は未解析の理由と件数を示した。感染症担当医が積極的介入をしていた旧システム時
の結果が測定率・解析率ともに一番良い結果であった。
表5
表 6 に ABK における調査結果を示す。新システムになってから測定率・解析率と
もに大きく上昇している。
表6
図 20 に新規の抗 MRSA 薬投与患者数と発症患者報告数の割合を示す。この時点で
は VCM 測定・解析の新システムはスタートしていたが、ミーティングは行われてい
なかった。平成 11 年4月から7月までと、注射指示伝票から情報を得てミーティン
グを行うようにした 8 月からの4ヶ月間で比較した。投与患者数は減少しているが、
報告数は逆に増加していた。
図 20
考察
抗 MRSA 薬の血中濃度による管理は、その適正使用を促し、耐性菌の発現を防止
するうえで重要であると考えられる 59) 60) 。多くの施設において院内感染対策の立場か
らも抗 MRSA 薬の TDM は推奨されている 61)62) 。したがって抗 MRSA 薬を使用して
いるすべての患者において血中濃度測定と解析が行われることが望ましいが、実際に
は完全に実行されることはむずかしい。当院での血中濃度測定・解析率をみると、VCM
においては感染症担当医が積極的介入をしていた期間が最も高く、短期投薬で終了し
た 3 例を除きすべて測定されていた。感染症担当医と患者主治医との直接的ディスカ
ッションにより検査指示が出されたためと考えられる。この試行期間で院内に血中濃
度測定・解析の流れが浸透したのではないかと考え、その後は感染症担当医や薬剤師
による積極的介入は行わなかったため、測定・解析率ともに低値となった。このこと
から、くり返しの教育と積極的介入が必要であると思われた。結果については、未測
定のなかでも理由不明 6 例、透析 2 例に問題があると思われる。また、未解析のなか
の理由不明 3 例については、測定の情報が薬剤部に伝わらなかった、すなわち TDM
解析依頼票が提出されなかったことから解析されなかったと思われる。このような結
果を踏まえ、自動的に測定・解析が流れるシステムを構築し、試行期間のシステム時
に若干及ばない結果となった。同じ 6 ヶ月間でも、新システムにおいての投与患者数
は2倍以上になっており、自動的に血中濃度が測定されるシステムを構築したことで、
ある程度高い測定率がだせたのではないかと考えられる。また、この期間では MRSA
が検出される以前に投与開始となり、すぐに他剤に変更されたり、死亡中止となる例
がみられた。重症患者やコンプロマイズドホストの場合にこのような投与がされてい
た。新システムでは旧システムとちがい感染症担当医がすべての症例に関与していな
いため不必要な患者への投薬もあったのではないかと推測される。これも測定率低下
の一因であると思われる。一方、ABK においては新システム施行後測定・解析率が大
きく上昇しており、新システムの有効性が認められる。したがって、必要な患者に対
してはほぼ全例測定が行われ、解析についても透析と短期投与を除く症例には実施さ
れているため、実質的には試行期間のシステムと同等の効果があったと考えられる。
次に MRSA 感染症発症患者報告であるが、当院は基幹病院であり、感染症新法に
より平成 11 年4月以降報告が義務付けられた。このようなサーベイランスは院内感
染の発生と分布状況を把握し、対策をたてる上で有効な手段である 64) 。特に、MRSA
が分離・検出された場合、保菌か感染かはその後の感染対策と治療方針にかかわるこ
とであり大変重要である 65)66)。しかし、把握しきれていないのが現状であり、MRSA
検出患者リストと MRSA 感染症の病名がついた患者リストが医事課担当者に送られ
るが、発症患者であるかどうか不明なことが多かった。そこで、薬剤師と感染症担当
医による抗 MRSA 薬使用患者調査結果と医事課保有資料との照らし合わせを行うこ
ととした。結果は、同じ 4 ヶ月間で報告数が増え、以前よりも発症患者を多く拾い上
げているのではないかと思われる。このシステムにおいても、喀痰や創からの培養で
MRSA が検出された場合や複数菌検出などには判定に悩むことがあり完全に把握で
きているとは言えない。今後は判定基準をより明確にしていきたいと考える。また、
感染症発症患者以外に抗 MRSA 薬が投与されている例も多くみられることから、今
後はこれらの症例を分析し、真に必要な患者に投与されるよう様々な角度からの介入
67) - 70) を試みる必要がある。
昨年の実績により、医師・看護部・検査部などの協力が得られ、病院全体で抗 MRSA
薬の適正使用に取り組めた。自動的に血中濃度を測定するシステムを作ったことで、
より簡便に測定・解析が行われるようになり、抗 MRSA 薬の適正使用に貢献した。
今後は血中濃度測定・解析による臨床効果への影響も合わせて追跡していきたいと思
う。また、当院における MRSA 感染症発症患者のより正確な把握が可能となった。
b.医療療養病棟における感染症治療の取り組み
医療療養病床は、安定してはいるが、医療の必要な患者が入院している病床である。
検査・薬剤などが包括されており、頻回の検査や高額な薬剤投与などが難しい。安定
した患者が多いとはいえ、直接死因の半数以上は感染症であった、という報告 71)にあ
るように、感染症は容体悪化の原因として重要である。なかでも、経管栄養施行患者
では肺炎が、尿道留置カテーテル挿入患者には尿路感染症のリスクが高いといえる。
経管栄養の患者の肺炎に関しては誤嚥性肺炎を考え嫌気性菌に効果のある薬剤の投与
が必要であるとともに、長期入院が多いため緑膿菌などの関与も考える必要がある。
そのため、当院では療養病棟で肺炎が発症すると軽症では病棟内で点滴治療を行い、
中等~重症だと一般病棟に転棟させて治療を行うことが多い。尿路感染については、
当院で主要起因菌である大腸菌のレボフロキサシン耐性が増加しており、抗菌薬の選
択に注意が必要である。しかし、当院は細菌検査を院内で行っておらず、迅速な至適
抗菌薬の選択は難しい。一方、2012 年の 4 月より病棟薬剤業務の点数化が認められ、
当院でも療養病棟に専任薬剤師を置くこととなった。そのような背景のなかで、必要
時には細菌検査の提案を行い、薬学的観点から推奨薬剤にシタフロキサシンが最適と
判断し、肺炎または尿路感染症発症時に提案することとした。シタフロキサシンは嫌
気性菌にも効果のあるキノロン薬であり、耐性化には従来のキノロン薬と別の経路が
必要となるため、レボフロキサシン耐性菌にも効果がある可能性がある。本研究では、
医療療養病棟において薬剤師が提案したシタフロキサシン投与例を解析し、その有用
性を検証した。また、感染症診療において重要である細菌検査の実施数の調査と、肺
炎治療において、一般病棟で治療した場合を仮定し医療費のシミュレーションを行う
ことで、療養病棟での医療費と比較した。
対象と方法
医療療養病棟において、専任薬剤師が配置された 2012 年 4 月から 9 月までの 6 ヶ月
と 2011 年の同時期における細菌学的検査数を調査、比較した。また、2012 年 7 月か
ら 9 月の 3 ヶ月間に療養病棟にてシタフロキサシンが投与された患者を抽出し、感染
症名・効果・副作用・検出菌を調査した。効果判定は医師の判断と解熱を指標とした。
副作用は、STFX の特徴である、下痢の発症を中心に観察した。また、医療・介護関
連肺炎(NHCAP)ガイドラインで推奨されている抗菌薬の中で当院の一般病棟で使用
されているカルバペネム系薬またはタゾバクタム・ピペラシリンを一週間投与した場
合の医療費のシミュレーションを行い、療養病棟入院患者一週間分の医療費と比較し
た。
結果
1.
細菌学的検査数と処方抗菌薬の比較
医療療養病棟において 2011 年 4 月から 9 月の入院患者数は 248 名、感染症疑いは
37 件であり、に細菌培養検査が提出されたのは 26 件、塗抹検査が提出されたのは 0
件であった。薬剤師の病棟専任が開始された 2012 年の 4 月から 9 月では入院患者数は
277 名、感染症疑いは 38 件であり、培養検査 34 件、塗抹検査 7 件であった。
2.
シタフロキサシン投与患者の概要と結果(表 7,8)
2012 年 7 月から 9 月の調査期間中にシタフロキサシンが投与された患者は 12 名で、
うち 1 名に 3 回投与されていたため、合計で 14 件であった。疑いを含めた感染症の種
類は、肺炎 6 名 8 件、尿路感染 6 名 6 件であった。効果については、肺炎(疑い例含
む)8 件中 7 件(87.5%)、尿路感染(疑い例含む)6 件中 5 件(83.3%)に効果ありと
判定した。下痢などの副作用は認められなかった。
喀痰培養は 2 名の患者に行われ、検出菌は、P.aeruginosa 2 件、M.morganii, S.aureus,
B 群β-Streptoccocus, S.marssence 各 1 件であった。尿培養は 4 名の患者に行われ、検
出菌は E.coli 4 件, Enterococcus 2 件, Streptococcus, B 群β-Streptoccocus 各 1 件であった。
尿から検出された E.coli の薬剤感受性において、レボフロキサシン感受性 2 株、耐性
2 株であった。
表7
表8
3.
医療費シミュレーションと薬剤費の比較
医療療養病棟に 7 日間入院した場合の医療費は 63,980~132,090 円であり、別病棟
に転棟し、7 日間注射剤の抗菌薬投与を受けた場合の医療費は、メロペネム 1 回 0.5g
1 日 2 回の場合は 143,220 円、イミペネム・シラスタチン 1 回 0.5g
1 日 2 回の場合は
139,020 円、タゾバクタム・ピペラシリン 1 回 4.5g 1 日 2 回の場合は 161,910 円とシ
ミュレーションされた。薬剤費のみの比較では、シタフロキサシン 50mg は 228 円、
100mg は 456 円なのに対してメロペネム 0.5g×2 バイアルは 2,900 円、イミペネム・
シラスタチンのジェネリック 0.5g×2 バイアルは 2,300 円、タゾバクタム・ピペラシリ
ン 4.5g×2 バイアルは 5,570 円であった。
考察
医療療養病棟は医療費が包括されており、投薬や検査は必要最低限でおこなわなけ
ればならない。一方、安定した患者が多いとはいえ、経管栄養を投与されている患者
には誤嚥性肺炎が、尿道留置カテーテル挿入患者には尿路感染症が発症することが多
い。感染症診療において抗菌薬投与前の細菌検査は、起炎菌を同定でき至適抗菌薬の
投与にかかせないが、そのような事情から当院の医療療養病棟ではあまり行われてい
なかった。細菌検査のなかでも培養検査は外部委託であり、結果の判明に時間がかか
る。しかし、塗抹検査であればすぐに結果がわかり、細菌の量や種類、好中球貪食像
より保菌と感染の判断がつくため、重要な検査といえる 72)。そこで、病棟専任薬剤師
より、可能な限り塗抹検査と細菌培養検査を依頼した。その結果前年の同時期に比べ
て検査数が大幅に増加し、医療療養病棟においても感染症診療の手順が理解されたも
のと考える。
一方、コストや手間の面から繰り返し発熱する患者をはじめとして全例に細菌検査
が行われてはおらず、起炎菌を想定して抗菌薬を選択する必要があった。2011 年に日
本呼吸器学会より発行された医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン 73)の「治療
区分の考え方」より、当院の医療療養病棟での肺炎は C 群に分類される場合が多いと
考えられる。ガイドラインでは C 群において選択される抗菌薬はタゾバクタム/ピペラ
シリンか抗緑膿菌性カルバペネム系薬か抗緑膿菌性セフェム系薬か注射用ニューキノ
ロン薬+スルバクタム/アンピシリンとなっており、MRSA のリスクがある場合はさら
にバンコマイシンかテイコプラニンかリネゾリドを併用することとなっている。誤嚥
性肺炎を想定すると嫌気性菌の関与を考える必要があり、さらに院内肺炎という観点
からは緑膿菌の関与も考慮する必要がある。尿路感染においては、当院の大腸菌のレ
ボフロキサシンの感受性率は 45%とたいへん悪いことと、複雑性尿路感染症という観
点からやはり緑膿菌も考慮すべきと思われた。また、療養病棟の看護体制から考える
と、注射薬の投与よりも内服薬で治療できれば、患者の負担も少なくなると考えた。
そのような条件に合致する薬剤として、シタフロキサシン(以下 STFX)を提案する
こととした。STFX は 2008 年から販売されているニューキノロン薬である。2009 年の
臨床分離株に対する抗菌活性をみると、各種嫌気性菌に対し MIC90 0.015~0.12μg/mL
と低値であり、緑膿菌に対しても尿由来株では MIC 90 8μg/mL、呼吸器由来株では
MIC 90 2μg/mL と、他のニューキノロン薬よりも優れた感受性を示している。また、
大腸菌ではレボフロキサシンなど他のニューキノロン薬が 20%以上の耐性株があっ
たなかで、4μg/mL 以下ですべての株の発育を抑制し、他のキノロン薬耐性株にも高
い抗菌活性を示すことがわかっている 74) 。そこで、ガイドラインで推奨されていない
薬剤であることも含め主治医と検討し、病棟専任薬剤師の監視のもと、医療療養病棟
におけるシタフロキサシンによる感染症治療を開始した。肺炎治療において、喀痰培
養が行われた 2 名に緑膿菌が検出されたことと、経管栄養の患者が 8 例中 6 例(75%)
であり誤嚥性肺炎、つまり嫌気性菌の関与を否定できないことから、緑膿菌と嫌気性
菌に効果のある薬剤としてシタフロキサシンの選択でよいと思われた。また、効果に
ついても、死亡直前であった 1 例以外の全例に認められ、シタフロキサシンの選択は
正しかったと思われる。尿路感染症に対しては、尿培養が行われた 4 例全例に大腸菌
が検出され、そのうち 2 例はレボフロキサシン耐性であったことと、4 例中 2 例に腸
球菌が検出されておりセフェム系薬の効果が期待できないことから、やはりシタフロ
キサシンの選択はやむを得ないと思われる。効果の点では、点滴治療に移行した 1 例
を除く 5 例に改善が認められ、初期治療として正しい選択薬であると思われた。投与
量については、対象患者が全例高齢者であり、予測クレアチニンクリアランスを約
30mL/min と考え、当初 1 日 50mg で開始した例があった。症例 1 では 50mg で改善し
たが、症例 7 では反応が不十分と判断し、4 日目から 1 日 100mg に増量し改善した。
副作用もみられていなかったので、十分量を短期間で投与する方法を選択し、他の症
例ではすべて 100mg 投与した。シタフロキサシンは消化器症状、特に下痢の頻度が高
いとのことであったが 75)、投与量や感染症にかかわらずそのような副作用を発現した
患者はおらず、安全性についても問題はないと思われた。
医療費については、外来における高齢者肺炎治療に関して、ニューキノロン系薬の
使用報告が多い
76-8)
。医療療養病棟においても同様な考え方ができるのではないかと
思われる。医療費シミュレーションとして、転棟して注射薬による治療を行った場合
に比べ医療費が削減されていることがわかり、薬剤費においても差が認められた。転
棟や点滴治療による患者ならびに医療者の負担軽減とともに医療費削減にもつながっ
たと思われる。
以上、医療療養病棟における感染症に対しシタフロキサシンが有用であることが示
唆された。しかし、ニューキノロン系薬の耐性化は重要な問題であり、耐性化しにく
いと言われているシタフロキサシンにおいても乱用は慎むべきである。そのような観
点から、今回はシタフロキサシンを医療療養病棟のみで使用できる制限薬剤とし、さ
らに感染制御専門薬剤師でもある病棟専任薬剤師の管理下で投与を行った。シタフロ
キサシンは NHCAP ガイドラインに推奨されている薬剤ではないことから、安易な投
与の推奨はせず、今後もこのような監視の下で、症例を選んで使用することが耐性菌
発生の予防として重要である。
第4節
第1章の小括
第 1 節では、感染対策にかかわる医療従事者を対象に、これまでの薬剤師が実施し
ている感染対策に対する薬学的管理についてアンケート調査を行った。その結果、抗
菌薬の適正使用推進の観点から Infection Control Team(ICT)や病棟での感染症治
療に対して薬学的に管理することが重要であることがわかった。
第 2 節では、まず病院内の Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)
感染症において、Therapeutic Drug Monitoring(TDM)の手法を用い抗 MRSA 薬
の血中濃度を個々の患者に応じた投与量・投与方法で適正に保つことで臨床症状の改
善と副作用の予防が行われるかについて検証した。その結果、抗 MRSA 薬の副作用
を発現させることなく臨床効果を得ることができた。
また、MRSA だけでなく多剤耐性セラチア菌とコリネバクテリウムによる難治性感
染症治療に対して、新たな治療薬を提案し TDM を行いながら感染症治療に参画する
ことで同様の効果を得られるかを症例報告から検証した。これらへの薬学的介入によ
り難治性感染症に新たな治療法を提唱し、感染をコントロールできた。
第 3 節では、抗 MRSA 薬の適正使用に必須である TDM を、投与される患者にもれ
なく行うための方策を提案し評価した。その結果、医師の処方を起点として自動的に
解析されるルートを構築することによって、抗 MRSA 薬の適正使用をはかることが
できた。また、医療資源の適応に制限のある医療療養病棟において、感染症治療にか
かわることによる治療効果ならびに経済効果を調査し、ガイドラインに沿った治療が
困難な療養病棟においても感染症への対応ができることがわかり、医療費の抑制にも
つながった。
これらのことから、従来の抗菌薬投与法の他に、標的とする微生物・臓器を考慮し
た抗菌薬を提案することによって感染症治療における新たな選択肢を提供し、さらに
薬物動態を考慮して投与方法を操作することにより、難治性感染症においても感染症
のコントロールが可能となることが明らかとなった。
第5節
第 1 章の論文目録
第1節
a. 継田雅美:新潟県での病院感染対策における薬剤師の活動と他職種からの評
価,環境感染,27,292-296(2012).
第2節
a. 継田雅美, 飛田三枝子, 山田徹, 小田明, 勝山新一郎, 吉川博子, 藤井青,
丸田宥吉:バンコマイシン(VCM)血中濃度解析を通じた院内感染対策委員会への
かかわり,環境感染,15,259-263(2000).
b. 継田雅美, 吉川博子:Teicoplanin 投与が有効であった再燃性 MRSA 骨髄炎の
1 例,日本化学療法学会雑誌 50,190-192(2002).
c. 継田雅美, 小田明, 勝山新一郎, 黒田兼:耐性セラチアによる膵仮性嚢胞感
染におけるゲンタマイシン投与の一例,TDM 研究 19,262-267(2002).
d. 継田雅美, 塚田弘樹:Teicoplanin の TDM が有用であった Corynebacterium
jeikeium による感染性心内膜炎の 1 例,日本化学療法学会雑誌
56,475-478(2008).
第3節
a. 継田雅美, 飛田三枝子, 山田徹, 小田明, 勝山新一郎, 吉川博子, 藤井青:
抗 MRSA 薬血中濃度測定・解析による院内感染対策へのかかわり(第 2 報),環境感
染 16,1-4(2001).
b. Masami TSUGITA : Effects of intervention for infectious disease medical
care by pharmacist in medical-care-intensive beds,Journal of drug interaction
research,36,188-193(2013).
第2章
薬剤耐性菌に対する院内感染対策
諸
論
薬剤耐性菌とは、本来効果のあった抗菌薬に対して耐性を獲得した菌である。耐性
を獲得された以外の抗菌薬を使用すれば治療可能ではあるが、選択枝が狭くなること
は間違いなく、さらに耐性が他の菌に伝播したり、抗菌薬を投与し続けることにより
新たな耐性が誘導されたりすることもあるため十分な監視が必要である。「多剤耐性
菌」という多くの抗菌薬に耐性を獲得した菌の場合はさらに治療に難渋する。
さて、院内感染とは、病院や医療機関内で新たに細菌やウイルスに感染することで
ある。病院は疾病の治療の場ではあるが、感染症患者だけでなく易感染性患者が一定
の空間に存在するため感染の伝播が起こりやすく、それが耐性菌の場合には患者の生
命に重大な被害を与えかねない。したがって、耐性菌の院内感染対策は医療安全の視
点からも重要である。
耐性菌対策としては、まず、耐性菌をつくらないことが重要となる。耐性菌は抗菌
薬の不適正使用により耐性を誘導・獲得、または選択されてくると考えられる。そこ
で第1節では、Infection Control Team(ICT)薬剤師としての抗菌薬の適正使用推進
活動が緑膿菌の耐性率に及ぼす影響について調査した。緑膿菌はブドウ糖非発酵グラ
ム陰性桿菌の代表であり、元来効果のある抗菌薬が少なく、さらに抗菌薬の接触で容
易に耐性を獲得する、院内耐性菌の指標となる菌である。薬学的関与による抗菌薬の
適正使用が緑膿菌に与える影響を、耐性率の変化を指標に調査した。
また、耐性菌が検出された場合他の患者に広げないことも院内感染対策として重要
である。拡散してしまった場合にも、早急に収束させる必要がある。そこで第 2 節で
は、院内の感染症のアウトブレイクに対しての薬学的対応について検証した。
「アウト
ブレイク」の定義は、一般的に「通常の発生より多い数が発生している場合」のこと
であり、病院において感染症のアウトブレイクは患者の入院期間の延長や新規入院制
限にもおよぶことがあり、なによりも多くの患者の生命にかかわることになる。まず、
クロストリィディウム・ディフィシル(以下、CD)のアウトブレイクに対し、治療抗
菌薬の適正使用について薬剤師の視点から検討した。CD は偽膜性腸炎の原因菌であ
り、芽胞形成により多くの抗菌薬や消毒薬にも抵抗性を示すため院内感染対策が不十
分であると容易にアウトブレイクをおこす。また、再発率が 10~20%と高く、いつま
でもアウトブレイクが続く可能性もある。この再発率と治療薬であるバンコマイシン
(VCM)散の投与期間との関連性を調査した。
次に、中小規模病院における多剤耐性緑膿菌(以下、MDRP)アウトブレイクに対
する薬学的関与を検証した。MDRP はカルバペネム・アミノグリコシド・ニューキノ
ロンの 3 系統の薬剤に耐性の緑膿菌であり、この 3 剤が使用できない場合は他のβラクタム系薬など多くの抗菌薬に耐性である場合が多く、治療薬はほとんどない。平
成 23 年 6 月 17 日発簡厚生労働省医政局指導課長通知におけるアウトブレイクの定義
のなかで、MDRP は保菌状態であっても感染症発症例と同等にカウントするよう求め
られている。つまり、感染症を発症した場合生命の危機に直面することになるため、
アウトブレイクを一刻も早く収束する必要がある。このような MDRP アウトブレイ
ク発生事例に、薬学的視点からの関与とともに感染制御の専門家としての関与の有用
性について検証した。
このように第2章では、薬剤耐性菌を中心とした院内の感染症に対し、薬学的管理
を行うことの有用性を検討した結果をまとめた。
第1節
抗菌薬適正使用と薬剤感受性
a.中小規模病院における緑膿菌耐性率改善
新津医療センター病院(以下、当院)は174 床を有する地域に密着した中小規模病
院で、在宅や近隣の施設から多くの患者を受け入れており、耐性菌の持ち込みが懸念
されていた。また、尿道カテーテルと経管栄養の施行されている、高齢で寝たきりの
患者が多く、感染症のリスクが高いという背景のもと、2007~8年にかけて多剤耐性緑
膿菌(multidrug-resistant pseudomonas aeruginosa
、以下MDRP)のアウトブレ
イクを経験した79)。当院で感染対策の専門資格を有するのは感染制御専門薬剤師のみ
であり、抗菌薬については細菌培養検査が積極的に行われておらず、適正使用がされ
ていない状況であった。特に当院で検出された緑膿菌のimipenem(以下IPM)と
amikacin(以下AMK)の耐性率は全国に比して高く、早急な対策が必要であった。当
院のような中小規模病院では個々の症例への介入という適正使用推進が可能と考え、
感染制御専門薬剤師を中心とした抗菌薬適正使用ラウンドとtherapeutic drug
monitoring(以下TDM)による介入を行った。今回、緑膿菌薬剤感受性率変化を指標
として薬剤師の介入効果についての評価を行ったので報告する。
対象と方法
1. 細菌培養検査実施率調査
当院は近隣の施設からの入院が多く、いわゆる「医療・介護関連肺炎(以下 NHCAP)」
のなかの「耐性菌リスク(+)」で、なおかつ誤嚥性肺炎疑い例が多い 80)。したがっ
て、エンピリックセラピーとして緑膿菌や嫌気性菌をカバーできるカルバペネム系抗
菌薬や tazobactum/piperacillin(以下 TAZ/PIPC)が選択されることになる。このよ
うな場合、細菌培養検査をしなければ起炎菌がわからず、de-escalation されないま
ま広域スベクトルの抗菌薬投与を継続せざるを得なくなる。カルバペネム系抗菌薬は、
その使用量と緑膿菌の耐性率に相関性があると言われており 81-2)、抗菌薬の適正使用
の推進のためには、まず、細菌培養検査を推進していくことが重要であった。
2009 年 6 月より、広域スペクトル抗菌薬として IPM、meropenem(以下 MEPM)、
doripenem(以下 DRPM)、TAZ/PIPC、また、抗 MRSA 薬の乱用を避けるため
vancomicin(以下 VCM)注、VCM 散、teicoplanin(以下 TEIC)、arbekacin(以下
ABK)の使用患者についても細菌培養検査の指示が行われているかを調査した。
2009 年 12 月より広域スペクトル抗菌薬の注射指示があった場合、薬品に細菌検査
伝票を添付し、投与前に細菌検査が行われるように主治医に促した。
2010 年 4 月より抗菌薬適正使用ラウンドを開始した。カルテ上に細菌検査をお願
いするとともに、医師の同意を得て細菌検査の指示を代理で行った。
以上のように薬剤師が介入することによる細菌検査実施率の変化を調査した。
2.ICT 抗菌薬適正使用ラウンドの実施
ICT 抗菌薬適正使用ラウンドの対象は、広域スペクトル抗菌薬として IPM、MEPM、
DRPM、TAZ/PIPC、抗 MRSA 薬として VCM(注、散)、TEIC、ABK の使用患者と
した。ラウンドは 2010 年 4 月より感染制御専門薬剤師1名と臨床検査技師1名で開
始した。当院の細菌培養検査は院内では不可能で外部委託されており、細菌検査結果
が検査日より 1 週間たってから届くことが多く、ラウンド時に適正使用の確認と指導
が実施されない例がみられた。そこで、外部委託の検査機関である(株)江東微生物
研究所新潟営業所の協力を得て、対象患者の名簿を FAX で送り、最新の細菌検査結
果もしくは途中の情報を薬局に送り返してもらうこととした。その情報を基に、薬剤
師のコメントをカルテ上に記載した。コメント記載内容は培養検査実施依頼の他、抗
菌薬の適正使用にかかわる de-escalation、用法用量の変更、抗菌薬の選択、TDM の
実施依頼、ドレナージの可否、CV 抜去の可否などとした。ラウンド時のコメント数、
受け入れ割合、受け入れ内容について調査した。また、広域スペクトル抗菌薬の長期
投与例数も合わせて調査した。
3.AMK の TDM
2007 年の MDRP 発生を受けて、AMK 使用方法を見直す目的で 2008 年 1 月より
AMK の TDM を開始していた。当院のアミノグリコシド系薬の使用方法は添付文書
通りに行われており、PK/PD 理論による 1 日 1 回投与法での使用は無く、このこと
が当院の緑膿菌の AMK 耐性率が高いことの原因であると思われた。しかし、1 日 1
回投与法はなかなか受け入れられず、1 つの理由に製剤の規格(100mg/A)の問題が
あると考え、それまでの TDM 結果を基に 2009 年 4 月より 200mg/A 製剤に切り替
えた。製剤の切り替え前後での AMK の使用方法について検討した。
4.IPM・AMK に対する緑膿菌感受性の変化
2007 年 4 月から 2010 年 3 月までの緑膿菌の IPM ならびに AMK の感受性とカル
バペネム系抗菌薬、AMK の使用量を比較検討した。使用量については、WHO84)の
定めた DDD(defined daily dose)を基に、100 ベッドあたりの AUD(antimicrobial use
density)を算出した。感受性率の統計処理はχ2 検定を用いた。
結果
1. 細菌検査実施率の変化(図 21)
2009 年 4 月の調査開始時、対象 20 件中 4 件(20.0%)の培養検査実施率であった。
医局会と感染対策委員会で報告を続けていくと 11 月には 21 件中 10 件(47.6%)に
上昇したが、翌月には 28.6%となった。そのため 12 月より薬局での検査伝票添付を
開始し、53.8%まで上昇したが再び 30.0%に下降した。2010 年 4 月からは抗菌薬適正
使用ラウンドを開始し、培養検査のお願いをカルテ上でするとともに医師の了解を得
て検査指示を行ったところ、培養検査実施率は向上した。
図 21
2.ICT 抗菌薬適正使用ラウンド結果(図 22)
2009 年 4 月から 2010 年 3 月までの対象患者は 195 名であった。カルテに薬剤師の
コメントを入れたのは 47 例 51 件(24.1%)で、コメントが受け入れられたのは 51
件中 19 件(37.3%)であった。薬剤師の記載コメントで受け入れの多かった項目は
TDM(100%)、de-escalation(50%)で、逆に少なかった項目は培養検査実施依頼
(22%)、抗菌薬の選択(29%)、用法用量の変更(33%)であった。de-escalation
された症例は 40 件(20.5%)、7 日を超える投与は 43 件(22.1%)であった。14 日を
超えて投与された例は 1 例のみであった。
図 22
3.AMK の TDM 結果(表 9)
2008 年 1 月から 2011 年 2 月までに 9 件の TDM を行った。1 アンプル 100mg 製
剤であった 2009 年 3 月までは 4 件で、すべて最初の指示は 1 日 2 回投与であった。
TDM により 1 日 1 回投与を推奨して受け入れられたのは 0 件であり、3 件は増量と
なった。臨床的効果がみられたのは 1 件のみであった。200mg 製剤に切り終えた 2009
年 4 月以降は 5 件で、すべて最初の指示から 1 日 1 回投与法になっており、TDM に
て増量 3 件、維持 1 件、減量 1 件であった。評価不能の 1 件を除き、全 4 件に臨床的
効果を認めた。
4.IPM・AMK に対する緑膿菌感受性の変化(図 23)
緑膿菌の IPM 感受性は、カルバペネム系抗菌薬の AUD 低下に伴い改善しており、
2008 年に比べ 2010 年の感受性率は優位に上昇していた(p<0.01)。AMK の感受性は
AUD とは相関していなかったが、2007 年、2008 年に比べ 2010 年の感受性率は優位
に上昇し(p<0.01)、97%まで改善した。
図 23
考察
抗菌薬の適正使用の指標として、緑膿菌の耐性度改善を指標とすることが多い 85-91)。
また、カルバペネム系薬使用により耐性緑膿菌が増加するという報告 81,82)もある。し
たがって、広域スペクトルで強力な抗菌作用を持つカルバペネム系薬の適正使用が重
要であるが、当院では 2010 年まで細菌培養検査が積極的に行われておらず、
de-escalation がされにくい状況であった。そこで、まず培養検査の提出率を上げるた
めに、広域スペクトルのカルバペネム系薬と TAZ/PIPC 指示時に薬局で検査伝票を添
付することとし、抗菌薬投与前の検査を促した。しかし、その対策では不十分であっ
たため抗菌薬適正使用ラウンドを行うことにした。ラウンドは 1 週間に 1 回感染制御
専門薬剤師と臨床検査技師で行い、カルテへの記載はすべて薬剤師の責任で行った。
培養検査実施依頼のコメント記載の他、その場で医師の同意を得られたときは細菌検
査指示を代行した。以上のような取り組みの結果、培養検査の提出率が上昇したと考
える。カルバペネム系薬は7日を超える投与で耐性菌の発生リスクが高まるという報
告 92)や 10 日を超えての繰り返し使用で耐性化が誘導される危険性があるという報告
90) がある。当院では
22%が 7 日を超える処方であったが、14 日を超える例はドレナ
ージ不能の後腹膜膿瘍の 1 例のみであった。さらに、de-escalation はコメントに応じ
たもの以外も含めて 20%に行われており、培養検査提出率上昇により処方医自らによ
る de-escalation も行われたと考える。その結果、カルバペネム系薬の AUD は減少し、
緑膿菌の IPM 感受性が上昇したと考えられる。
薬剤師のコメント記載内容は培養検査実施依頼の他、de-escalation、用法用量の変
更、抗菌薬の選択、TDM の実施依頼、ドレナージの可否、CV 抜去の可否などがあっ
たが、約 4 割の受け入れ率であった。目的でもあった培養検査実施依頼の受け入れが
少なかったが、これはカルテ記載せずに培養検査指示を代行した例が多かったことと、
抗菌薬投与期間の終了が近いため培養検査の必要性が無かった例が多かったためと思
われる。他に受け入れが少なかった抗菌薬の選択と用法用量の変更については、コメ
ント記入のみの情報交換が不十分で、こちらの意図が伝えきれず、また、患者を取り
巻く様々な情報と主治医の考え方がわからない状態でのコメントであったことが原因
と考えられる。今後はコメント記入に加え、直接のディスカッションを行うことで情
報の交換と共有を行い、より適正使用を推進していきたいと考える。
次に、当院における緑膿菌の AMK 耐性率は 2007 年 21.8%、2008 年 32.2%、2009
年 20.7%で、2001 年に行われた厚生労働省科学特別研究事業「アシネトバクター等
多剤耐性グラム陰性桿菌に関する調査研究」 93)の結果 3.0%に比べ大変高く、当院で
検出される緑膿菌の特徴であった。これは、当院での AMK 投与方法が添付文書に従
った 100mg/回、1 日 2 回の投与であったことが原因のひとつと思われる。これを改善
するためには全体の使用量のコントロールよりも個々の症例に対する適正な使用方法
を提案していくことが重要と思われ、2008 年 1 月より AMK の TDM を実施していた
が、AMK の製剤規格が 1 アンプル 100mg であった 2009 年 3 月までの症例(No.1~
4)では、最初の指示が 100mg/回 1 日 2 回が 3 例、200mg/回 1 日 2 回が 1 例で、TDM
後はすべての症例で増量となった。しかし、1 日 1 回投与法を推奨してもすべての症
例で受け入れられなかった。2009 年 4 月、1 アンプル 200mg の製剤導入にあたり
PK/PD 理論によるアミノグリコシド系薬の 1 日 1 回投与法について説明した結果、
その後の症例(No.5~9)は投与開始の指示より 1 日 1 回投与であり、さらに TDM
によって至適投与が行われた。TDM とともに、低用量から使用しないよう製剤規格
管理にまで注目したが、このような薬学的介入を行うことで感染症治療に効果を上げ
るのみならず、緑膿菌耐性率の改善につながったと思われる。2009 年に AMK の AUD
が増加したにもかかわらず緑膿菌の AMK 感受性が改善傾向を示し、2010 年には感受
性率 97%と全国レベルに引き上げることができたのは、AMK の TDM による介入が
ひとつの要因となったと考える。
感染制御専門薬剤師の病棟ラウンドによる抗菌薬の選択、de-escalation の提案、
TDM 実施などの抗菌薬投与症例への介入により、広域スペクトル抗菌薬、特にカル
バペネム系薬の適正使用が推進され使用量の減少がみられたことと、アミノグリコシ
ド系薬、特に AMK の TDM と製剤管理により PK/PD 理論に沿った適正使用が行われ
たことで緑膿菌の IPM ならびに AMK の感受性を上げることができた。カルバペネム
系抗菌薬の適正使用には、許可制や届出制が有効であったとする報告 87,8)が多いなか、
当院では許可制・届出制に頼ることなく抗菌薬の適正使用を推進できた。
以上、中小規模病点での抗菌薬適正使用には薬剤師の適格な介入が効果的である。
第2節
アウトブレイクへの対応
a.Clostridium difficile のアウトブレイク
Clostridium difficile は抗菌薬が投与された後の下痢症あるいは腸炎の主要な原因
菌であり、消毒剤への強い抵抗性を有していることから、近年病院感染の原因菌とし
ても注目されている 94)。平成 16 年 3 月から 5 月にかけて、院内の一病棟において
C.difficile による下痢症を発症した患者が約 1 ヶ月半の間に 9 例にのぼり、アウトブ
レイクを経験した。接触感染予防対策の徹底を指導したにもかかわらず 9 例のうち 4
例は再発であったことから、その要因をあきらかにする目的で全病棟の再発症例につ
いて調査を行なった。
アウトブレイクの経過(図 24)
平成 16 年 3 月 24 日、1 患者の便より C.difficile が検出されたのを契機とし、4 月は
6 例、5 月は新規 2 例、再発 4 例と計 9 例 13 事例の C.difficile 陽性患者が発見された。
感染制御室では 4 月半ばにアウトブレイクを疑い病棟に介入し、現場での感染対策の
状況を把握したうえであらためて接触感染対策と C.difficile による院内感染の注意を
喚起した。院内にも臨時の ICT ニュースを発行し啓蒙した。その結果、5 月 17 日検
出の患者を最後にアウトブレイクは収束した。再発した 4 例のうち抗菌薬投与がなか
った 3 例の VCM 散投与期間は 5 日間と 7 日間であった。
図 24
アウトブレイクの経過
対象と方法
対象は当院で平成 12 年 1 月より平成 16 年 5 月までに VCM 散を投与された患者 237
例から複数回処方のあった患者 51 例を抽出し、再投与に 1 ヶ月以上の間隔があいたも
の、下痢は再発したが原因菌が違うもの、菌(-)またはトキシン(―)で投与され
たものを除いた。これらを C.difficile 腸炎の再発と MRSA 腸炎の再発に分け、再発率
を比較した。C.difficile 腸炎再発例については年齢・性別・原疾患・初回発症時抗菌
薬・再発時抗菌薬・VCM 散投与日数・VCM 散投与終了後再発までの日数を調査した。
同一患者で複数回の再発がみられたものについてはそれぞれを 1 事例としてカウント
した。
結果
VCM 散投与患者 237 例中、便からの C.difficile 検出例は 146 例、MRSA 検出例 51
例、C.difficile と MRSA の検出 13 例、C.difficile・MRSA 以外の菌の検出または検出
菌(-)27 例であった。再発は 28 例で、うちわけは C.difficile 24 例、MRSA 4 例で
あり、再発率は C.difficile 腸炎 15.1%、MRSA 腸炎 6.25%であった。
C.difficile腸炎再発例の概要を表10に示す。24例中男性13例・女性11例で平均年齢は
82歳、原疾患は悪性腫瘍5名、糖尿病5名、慢性腎不全7名、肺炎4名脳出血・脳梗
塞4名(重複あり)などであった。
表 10
C.difficile 腸炎再発患者
初回腸炎発症時または前に抗菌薬投与がされていたものは23例で、再発35事例中抗
菌薬が投与されていたものは16事例であった(図25)。初発時の使用抗菌薬35種(重複
投与あり)のうちわけはペニシリン系1、セフェム系18、カルバペネム系7、ニューキ
ノロン系7、アミノグリコシド系2であった(図26)。再発時の使用抗菌薬22種(重複投
与あり)のうちわけはセフェム系7、カルバベネム系8、ニューキノロン系3、アミノグ
リコシド系3、グリコペフプチド系1であった(図27)。VCM散の投与日数の平均は8.8
日で、投与終了後再発までの日数の平均は16.3日であった。VCM散投与日数10日未満
での再発は24事例、10日以上では11事例であり、抗菌薬が投与されていたものは前者
が13事例、後者は3事例であった(図28)。
図 25
図 26
図 27
図 28
考察
C.difficileは偏性嫌気性グラム陽性桿菌で芽胞を形成する。腸管内の常在菌であるが、
主として抗菌薬投与による菌交代現象により異常増殖し、外毒素であるトキシンA、
Bにより偽膜性腸炎をおこす95)。また、外部からのC.difficile侵入により発症する場合
もある。前者を内因性感染、後者を外因性感染といい、外因性感染の多くは院内感染
としてみられることが多く、十分な感染対策が必要となる96)。多くの抗菌薬に耐性で、
芽胞の形成により厳しい環境での生存が可能であるため、環境からの感染経路も存在
することと、一般的に使用されている擦式手指消毒剤は無効であり、流水による十分
な 手 洗 い が 必 要 で あ る 97) 。 当 院 の ア ウ ト ブ レ イ ク に 対 し て は ICT に よ る 介 入 で
C.difficileの特徴をふまえた上での接触感染予防策を教育した。具体的には、患者接触
時、特に排泄物の処理時にはディスポーザブルの手袋を使用すること、必要に応じて
ガウンを着用すること、アルコール含有の手指消毒剤は無効であり、十分な流水下に
おける手洗いが重要であること、環境からの感染もあるため消毒を行なう場合には
0.1%次亜塩素酸ナトリウムを使用することに統一し、職員も十分実施した。しかし短
期間での再発があり、接触感染予防策だけでない何らかの要因があるのではないかと
考えた。
C.difficile感染のリスクファクターは基礎疾患の存在、高齢、入院期間の長期化、
消化管手術・移植の既往、抗生物質投与歴などが知られている 97)。石郷らの調査では、
65歳以上の高齢者、担癌、免疫抑制状態、腎不全、慢性呼吸器疾患、腸管運動が変化
する疾患、低アルブミン血症、経管栄養、抗菌薬などによる腸管の術前処置などが患
者因子として挙げられている94)。当院でのC.difficile再発患者の背景については、原疾
患が悪性腫瘍、糖尿病、慢性腎不全などの低免疫状態である患者が多く、平均年齢も
82歳と高齢であり、再発においても患者因子は同様であると思われた。
C.difficile腸炎の発症には抗菌薬の投与が大きく関与しており、すべての抗菌薬が
原因となりうるが、クリンダマイシンとセフェム系に多いといわれている 94-6,98)。当院
の C.difficile腸炎初発時に抗菌薬が投与されていたのは24例中23例(95.8%)であり、
発症に抗菌薬が関与していることに疑いの余地はないと思われた。抗菌薬の種類では、
セフェム系が約半数を占め、続いてカルバペネム系、経口のニューキロン剤の投与が
多かったが、クリンダマイシンは使用されていなかった。抗菌薬の使用頻度にも関係
すると思われるが、やはり広域スペクトルの薬剤で発症するものと考えられる。一方、
再発35事例中抗菌薬が投与されていたものは16事例(45.7%)であり、C.difficile腸炎
再発に抗菌薬の投与は初発時ほど関与していないと思われた。薬剤ではセフェム系、
カルバペネム系、経口ニューキノロン系が多く、初発時と同様であった。
当院での C.difficile 腸炎再発率は 15.1%であり、VCM 散内服という同じ治療を行なう
MRSA 腸炎の再発率と比較すると高率であった。これは、MRSA と異なり C.difficile
が芽胞形成菌であるため腸管から除去できなかったことが原因と考えられる
98 )
。
C.difficile 腸炎の再発頻度については、約 15%との報告 99)や 10~20%100)であるとも
いわれており、当院の再発率も同程度であった。この高い再発率から、VCM 散の経
口投与は少なくとも 10 日間続ける必要がある 98)、また、10~14 日間と書かれている
ものもある
。当院で C.difficile 腸炎が再発した患者の VCM 投与日数の平均は 8.8
100)
日であり、10 日未満の投与は 35 事例中 24 事例であった。このうち抗菌薬投与がされ
ていなかったものは 11 事例であり、これらについては VCM 散の投与が不十分であっ
た可能性が否定できないと思われる。一方、VCM 散を 10 日以上内服していた 11 事例
のうち 8 事例は抗菌薬投与がされていない状況での再発であった。これらについては
職員や環境からの感染が疑われる。C.difficile 腸炎発症の要因は抗菌薬の投与と手指
を介した交差感染であり、特に易感染患者の多い病棟では C.difficile の定着、伝播の
可能性があるため
101)
接触感染予防につとめる必要がある。そのなかでも再発例につ
いては、抗菌薬の再投与・接触感染予防策の不徹底の他、VCM 散投与期間の不十分
もひとつの要因であった。VCM 散経口投与は少なくとも 10 日間は続けることが推奨
されており、特に易感染性患者の場合は 10~14 日間の内服を守ることが再発防止につ
ながることが示唆された。一方、VCM の長期投薬は VRE 発生につながるおそれがあ
り 102)、本邦においてもメトロニダゾールの C.difficile 腸炎への適応が拡大されたため
治療薬選択の際には重症度を含め考慮すべきであるが、重症・再発例には VCM 散が
第一選択薬とされるため、より厳格に投与期間を監視すべきである。
b.
多剤耐性緑膿菌のアウトブレイク
新津医療センター病院(以下当院)は 174 床を有する地域に密着した中小規模病院
で、ICT メンバーに ICD や ICN は不在であり、感染対策の専門資格を有するのは感
染制御専門薬剤師のみである。当院は在宅からだけでなく近隣の施設から多くの患者
を受け入れており、耐性菌の持ち込みが懸念されていた。2007 年の 8 月と 10 月に計
5 件の新規多剤耐性緑膿菌(以下 MDRP)が検出されたが、病棟・主治医の違いなど
から院内伝播は否定的と思われ、職員への注意喚起のみの対策を行った。その後収束
したかと思われたが、2008 年 1 月より毎月新規の MDRP 検出が継続した。ICT では
アウトブレイクと判断し疫学的調査を施行、その結果院内伝播と考えられたため徹底
した教育とハード面の改善を行った。筆者は感染制御専門薬剤師として終始対応し、
院内の MDRP アウトブレイクを収束することができたので、その経過を報告する。
対象と方法
1.緑膿菌、MDRP の検出数調査
当院においてはじめて MDRP が検出された 2007 年より最終検出の 2009 年までの
緑膿菌ならびに MDRP 数を調査した。なお、MDRP の定義は KB ディスク法にて
imipenem(以下,IPM)、amikacin(以下,AMK)、ciprofloxacin(以下,CPFX)すべ
てに耐性と判定された緑膿菌とした。
2.MDRP の DNA 解析
検出された MDRP のうち、2008 年 1 月より 7 月まで検出された 10 症例 10 菌株
について、江東微生物研究所に依頼しパルスフィールドゲル電気泳動法(以下 PFGE)
による DNA 解析を実施した。後日、この 10 菌株は国立国際医療研究センター研究所
において、アミノグリコシド修飾酵素 AAC(6’)-Iae に特異的なモノクロナール抗体を
用いたイムノクロマトグラフ法により、酵素産生の有無について検査を行った 103)。
3.発生病棟と病室の調査
MDRP の DNA 解析の対象となった 10 症例の発生病棟と発症時期、患者の移動に
ついて調査した。
4.抗菌薬使用状況調査
MDRP の DNA 解析の対象となった 10 症例のうち、入院時に検出された 2 症例を
除いた 8 症例について、検出までに投与された抗菌薬の調査を行った。
5.A 病棟環境調査
2008 年 1 月に 2 例、2 月に 1 例、3 月に 1 例と続けて MDRP が検出された A 病棟
に対し環境調査を行った。A 病棟の汚物処理室周辺、蓄尿バッグから尿を収集するバ
ケツ、MDRP 検出患者の蓄尿バッグ周辺を拭い、培養検査した。
6.尿道留置カテーテル取扱い手技調査
A 病棟の看護師を対象に、尿道留置カテーテル取扱い手技の調査を行った。
7.院内感染対策
感染対策の方法としては、ICT として以下のような改善策を提案、実施した。
1)
尿道留置カテーテル及びバッグの取扱などのマニュアル改定
処置時の手洗いとグローブ装着の徹底を再度指導したうえで、MDRP 発生時マニュ
アルの中に「留置カテーテルの取り扱い」の項目を設け、MDRP 尿の廃棄については
『バッグの尿を捨てる時は、専用のバケツにビニール袋を掛け、中に高吸収ポリマー
のオムツ(2L)を入れ、そこに吸収させて捨てる。尿バッグの排尿チューブは、アル
コール綿で拭いてから納める(通常処理と同様)。手袋を交換し、使用した手袋・アル
コール綿全てをビニール袋に入れ、内側に触れないよう縛る。その後、感染性廃棄物
として処理する。』とした。
2)
職員に対する感染対策意識の徹底
医師に対して院内の MDRP アウトブレイクの状況と、抗菌薬使用により選択され
ることを説明、安易な抗菌薬使用を控えるよう医局会で説明し、お願いした。また、
外部委託の清掃業者や調理員なども含めた全職員に対し、同じ講義を 1 回 30 分、計 6
回行うことで全職員に講義した。MDRP の認知度が低いことから、まず MDRP によ
る国内院内感染事例を紹介し、日本環境感染学会教育委員会講習会第3回講習会資料、
IDSC(感染症情報センター)HP内MDRP感染症情報、厚生労働省第3回院内
感染対策中央会議議事録より多剤耐性菌対応ワーキンググループ会議報告、東京都福
祉保健局医療安全課作成チェックリスト内「尿道留置カテーテル」の項などを参考に
MDRP の感染対策を講義した。
3)病棟の汚物室の一斉清掃・消毒
職員の注意を喚起する目的もあり、病棟の清掃と消毒を行った。汚物室への仕切り
としていたカーテンを撤去し、院内中の手すり・ドアノブ等を消毒、病室内のカーテ
ン類などは次亜塩素酸ナトリウム浸漬後通常の洗濯を行った。
4)抗菌薬適正使用の推進
2007 年 7 月より抗菌薬の TDM を一部導入するとともに医局会にて説明し協力を仰
いだ。実際に AMK の TDM は 2008 年 1 月より開始された。さらに 2009 年 4 月より
AMK100mg 製品を 200mg 製品に変更し、医師だけでなく看護師・薬剤師に投与量の
注意を促した。
図 29 新規緑膿菌・MDRP 検出件数推移
結果
1. 当院の緑膿菌ならびに MDRP 検出数の推移(図 29)
緑膿菌の新規検出患者数と MDRP 数は、2007 年 55 件中 5 件(9.1%)、2008 年 149
件中 17 件(11.4%)、2009 年 95 件中 4 件(4.2%)であった。
図 30 PFGE 解析結果
2. PFGE 解析結果(図 30)と AAC(6’)-Iae 検出結果
10 名の患者より検出された MDRP10 株の PFGE による DNA 解析の結果を図 23
に示す。検出部位は、検体番号 9 のみ喀痰であり、他はすべてカテーテル尿であっ
た。8 株は近縁株であり、特に検体番号 1・2・8(type a とする)、4・5・6・7(type
a´とする)はそれぞれほぼ同一菌株あると考えられた。4・5・6・7 と 10(type a”
とする)はより近い菌株であった。3(type b とする)と 9(type c とする)はそれ
ぞれまったく別の菌株と判定された。
AAC(6’)-Iae は、3 と 9 以外の 8 株に検出された。
3. 発生病棟と病室の調査結果(図 31)
PFGE 解析を行った 10 名について、入院病棟・病室・期間の調査を行った結果、
MDRP 検出場所は A 病棟 5 名、B 病棟 3 名、C 病棟 2 名であった。PFGE の結果
と合わせたところ、同一株と思われる検体番号 1・2・8(type a)と 4・5・6(type
a´)は同時期に A 病棟に入院されていたが、病室は別であった。5 は B 病棟転棟
後、6 は B 病棟再入院時、8 は C 病棟再入院時に MDRP が検出された。7(type a
´)は A 病棟入院歴はないが 5 と同時期に B 病棟に入院されており、10(type a”)
は 6 が A 病棟に転棟した同時期に A 病棟に入院されていた。
図 31 MDRP 検出患者病棟移動一覧と検出時期
4. 抗菌薬使用状況の調査結果(表 11)
MDRP が検出されるまでの抗菌薬の使用状況を調査した結果、入院時検出の検体番
号 6 と 8 を除き、8 症例すべてにおいて抗菌薬の使用が確認された。カルバペネム・
アミノグリコシド・ニューキノロン系抗菌薬の 3 剤すべてがひとつの症例に使用され
た例はなかったが、それらのうち 1~2 種類の抗菌薬が使用された症例は半数の 4 例
であり、そのすべてにカルバペネム系抗菌薬が投与されていた。MDRP の type b (検
体番号 3)と type c(検体番号 9)はいずれも MDRP 検出直前までカルバペネム系抗
菌薬が投与されていた。
表 11
5.A 病棟環境調査結果(表 12)
尿路由来の検出が多かったことから、汚物処理室と MDRP 検出患者周辺の環境調
査を行った。緑膿菌はカテーテル尿を集めるバケツの外側と MDRP 検出患者蓄尿バ
ッグの排泄ホースから検出され、ホースからのものは MDRP であった。その他の場
所からは緑膿菌以外の様々な菌が検出されていた。
表 12
6.A 病棟尿道カテーテル取扱い手技と尿処理調査結果
尿道カテーテルの取扱い手技を検証した結果、処置前後の手洗いとグローブ装着の
不徹底ならびに尿バッグの排尿チューブのアルコール消毒の不徹底がわかった。また、
カテーテル尿の収集にはひとつのバケツでできるだけ多くの患者の尿を順次回収し、
その後汚物処理室にて廃棄、バケツは軽く水洗され水分が残った状態で他のバケツに
重ねて保管されていた。
7.感染対策の結果
方法の項に記載した感染対策を基本として 2008 年の 9 月まで行った介入により、
10 月で一旦 MDRP のアウトブレイクは収束した。その後 12 月 1 月と各 2 件検出さ
れたがアウトブレイクには至らず、2009 年 7 月と 9 月に散発した後は検出されなく
なった。
考察
このたび、MDRP のアウトブレイクと思われる事例を経験した。2007 年 8 月の発
生より 2009 年 9 月までの間に新規に MDRP が検出された患者は 26 名であった。平
成 18 年度厚生労働省科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業における MDRP に
関するアンケート調査では、緑膿菌分離総数あたりの MDRP の分離率は全国平均で
2.7%であった。当院における MDRP の検出率をみると、全国平均と比較してたいへ
ん高い数値となっており、持ち込みと院内伝播が重なった結果と思われる。
2007 年 8 月と 10 月に検出された MDRP は、病棟・病室・主治医に共通点がなか
ったため偶発例と判断したが、菌株が廃棄されていたため PFGE などの検証ができな
かった。これを反省点として、それ以降の MDRP は外注先である江東微生物研究所
にお願いし菌株を保存してもらうことにしていた。2008 年 1 月より毎月 1 名以上の
新規 MDRP が検出され収束の兆しがなかったことから院内伝播を疑うこととなり、
2008 年 7 月までに検出された 10 例について PFGE を行ったところ 8 株が近縁株で
あり、かつその 8 株に AAC(6’)-Iae の発現がみられた。そして、近縁株を検出したす
べての患者に尿道カテーテルを留置されていたことから、今回のアウトブレイクは尿
道留置カテーテル操作を介した交差感染であることが推測された。調査結果より、今
回のアウトブレイクの原因菌である MDRP は未確認ではあるが A 病棟に入院された
MDRP 持ち込み患者の尿道留置カテーテル操作並びに尿処理の不備から職員の手指
を介して患者に伝播し、その患者の転棟によって B・C 病棟に拡散し、その病棟にお
いても尿道留置カテーテル操作並びに尿処理の不備により伝播していったものと考え
られた。一方、多種類・長期の抗菌薬使用が選択圧による MDRP 発生に関与してい
ることも考えられた。
当院の入院患者は平均年齢が約 90 歳であり、寝たきり状態で尿道カテーテルを留
置されている場合が多い。したがって、医療者の不適切な尿道留置カテーテル操作に
より耐性菌が簡単に広まってしまう可能性が高いと考えられる。特に緑膿菌は尿道留
置カテーテル操作を介した交差感染の報告が多数あるが 104-7)、環境調査と尿道留置カ
テーテル操作チェックの結果から、当院ではカテーテル操作時の手指衛生の不徹底、
集尿バッグの排尿口の消毒不徹底と、多数患者の尿を一度にバケツに集尿していたこ
とから、その間もしくは汚物室での尿廃棄時に飛沫した MDRP が広まったと思われ
た。
また、MDRP の認知度が低く、職員の注意が足らなかったことも原因のひとつと考
えられた 108)。これまで MDRP のアウトブレイクが報告されていた施設は大学病院な
どの大病院がほとんどで、中小規模病院で話題となることはなかった
109,110) 。近年、
地域の病院でも報告がされるようになったが 111-3)、当院ではほとんど知られていなか
った。ICT では MDRP の特殊性を教育するとともに、改めて「MDRP 検出時マニュ
アル」を作成することによってより強い注意喚起がされたと思われる。教育について
は、昼休みの 30 分を利用して同じ講義を 6 回行い全職員必ず参加することとしたこ
とで MDRP についての知識が広まり、マニュアルに記載された感染対策に理解が得
られ実行されやすくなった。感染対策に教育が重要であることが改めて理解されたと
ともに、中小規模病院では効果発現が速いのではないかと思われた。
一方、近縁株でない MDRP が 2 件存在したことは、院内伝播した株を合わせて少
なくとも 3 種類の MDRP が短期間に院内に持ち込まれたことを示している。MDRP
が地域に広まりつつあることを示唆するとともに、MDRP 検出前に抗菌薬が多種・長
期間使用されていた例が多いことから、抗菌薬使用により選択され検出に至ったもの
と考えられる 108) 。また、平成 13 年度厚生科学特別研究事業「アシネトバクター等多
剤耐性グラム陰性桿菌に関する調査研究」による集計結果では、緑膿菌 494 株中
MDRP は 13 株 2.6%であり、AMK 耐性は IPM 耐性(13.8%)、levofloxacin 耐性(22.5%)
に比べて 4.7%と低かった。これは、AMK に対する耐性獲得には抗菌薬の被曝ではな
く耐性遺伝子が必要であり、さらに日本ではアミノグリコシド系抗菌薬があまり使用
されてこなかったからであろうと思われる。しかし、AAC(6’)-Iae は AMK 耐性に関
わる酵素であり、当院では AMK が TDM をされずに 1 回 100mg,1 日 2 回という添
付文書通りの投与がされてきた経緯があることから AMK 耐性を獲得した緑膿菌が選
択され、そこから MDRP の発生につながったのではないかと考える。MDRP が検出
された場合のみならず、保菌か感染かを判断し不必要な抗菌薬投与を避けるべきであ
り、このことは薬剤師の重要な役割のひとつであると考える。抗菌薬の適正使用を含
めた感染対策に携わる薬剤師の認定のひとつに日本病院薬剤師会より認定された「感
染制御専門薬剤師」がある。
感染制御専門薬剤師の理念は「感染制御に関する高度な知識、技術、実践能力によ
り、感染制御を通じて患者が安心・安全で適切な治療を受けるために必要な環境の提
供に貢献するとともに、感染症治療に関わる薬物療法の適切かつ安全な遂行に寄与す
ること」を目的としており、その定義のなかには「エビデンスに基づいた感染対策を
十分理解していること」、「施設内の感染制御に関わる評価に必要な情報評価ができ、
医療関係者への情報提供ができること」、「院内感染対策チーム等の一員として、院内
感染防止対策に貢献していること」などが挙げられている
114) 。中小規模病院では細
菌検査室が設置されていないことや感染の専門家が不在である場合が多いが、当院で
は感染制御専門薬剤師が唯一の専門家として対応することができた。PFGE は費用の
面で躊躇されていたが、感染対策委員会のなかで専門薬剤師が必要性を訴え、早急に
実施することができた。その結果から院内伝播が立証でき、以後の感染対策の裏付け
となったので、PFGE の実施はこのたびの感染対策の第一歩だったと思われる。抗菌
薬の適正使用については、MDRP 発生患者における抗菌薬使用調査を行い、その結果
を踏まえて抗菌薬の安易な投与を避けることと MDRP が検出された患者にはできる
だけ抗菌薬を投与しないよう医師に訴えることができた。個々の患者について、発熱
があった場合など医師から依頼を受けコンサルテーションも行った。また、職員への
教育としての講習会はすべて担当した。薬剤師は抗菌薬の適正使用に介入できる職種
であり 115-7)、なおかつ認定を受けた薬剤師であれば感染経路の遮断など院内感染対策
を十分理解し遂行できる。今後、より多くの薬剤師が感染制御専門または認定薬剤師
を取得し、院内感染対策に力を発揮できるとよいと考える。
一方、2007 年の5例の MDRP 検出時に院内伝播があった可能性は否定できず、
PFGE を行っていればその後のアウトブレイクは防げたかもしれない。PFGE のコス
トの面から早期に決断することができず、感染の専門家であるはずの感染制御専門薬
剤師として反省しなければならないし、ICT と院内感染対策委員会の院内感染対策に
対する姿勢も正さなければならない。
このたびの MDRP アウトブレイクは、感染制御専門薬剤師を中心に、ICT 内の臨床
検査技師は環境調査に、看護師はマニュアルの整備に携わり、チームとして対応した。
専門家を含めた ICT の指導のもと職員全員で感染対策に当たり、MDRP を収束する
ことができた。
第3節
第2章の小括
第1節では、緑膿菌の耐性率に抗菌薬の使用実態が及ぼす影響について調査した。
カルバペネム系薬の使用症例に対する抗菌薬選択ならびに投与方法介入による使用量
減少と、アミノグリコシド系薬の投与方法を有効血中濃度に入るようにコントロール
することによって緑膿菌の感受性が改善した。
第2節では、耐性菌のアウトブレイク事例への薬学的対応を検証した。Clostridium
difficile のアウトブレイク事例では再発例が多いことに着目し、治療薬であるバン
コマイシン散の効果について検証した。その結果、適正な投与期間として 10 日間以上
必要であることを示した。さらに多剤耐性緑膿菌のアウトブレイク事例に対しては、
菌株のパルスフィールドゲル検査より院内感染であることを確認し、抗菌薬の不適正
使用に加えて尿道カテーテルの取扱いと尿処理に問題があったことに原因を究明した
うえで感染対策マニュアルを改訂し、抗菌薬の投与法への介入や耐性菌への対応の指
導にてアウトブレイクを収束した。
本研究を通しての総合的な結論として、院内感染対策において抗菌薬の特性に応じ
た薬学的管理が耐性菌対策に効果的であることが明らかになった。
第4節
第 2 章の論文目録
第1節
a. Masami TSUGITA : Antimicrobial susceptibility of Pseudomonas
aeruginosa is improved by pharmacist’s positive intervention in the use of
antimicrobial agents,Japanese journal of environmental infections,27,
285-291(2012).
第2節
a. 継田雅美, 今井由美子, 吉川博子:Clostridium difficile 腸炎再発の要因,
環境感染 21,12-16(2006).
b. 継田雅美:中小規模病院における多剤耐性緑膿菌アウトブレイクへの対応-感
染制御専門薬剤師の取り組み-,環境感染 26,98-104(2011).
総
括
1. 院内感染対策は、感染の伝播を防ぐ感染制御と感染症罹患患者に対する感染症治療
に分けて考えられ、薬剤師はどちらの場面においてもその職能を発揮することが重要
かつ必須である。
2. 感染制御において薬剤師は
・感染制御に必要な消毒薬、微生物、耐性菌等に関する基礎知識を十分理解している
・感染症疾患の病態と患者特性を十分理解している
・感染症治療等に使用される医薬品の薬理作用、体内動態等を十分理解していること
・エビデンスに基づいた感染対策を十分理解している
・施設内の感染制御に関わる評価に必要な情報評価ができ、医療関係者への情報提供
ができる
・抗菌薬及び消毒薬の適正使用の推進を図るため患者個々の症状や状況に合った薬物
療法や感染対策を医師などの他職種に提案できる
・適切な薬物療法に関する知識と多くの臨床経験を持ち、患者の感染症治療等を支援
し、薬学的管理ができる
・感染制御に関する情報等を地域の他施設とも共有し、ネットワーク化できる
・院内感染対策チーム等の一員として、院内感染防止対策に貢献している
・感染制御領域に関する研究能力を有する
・感染症法等の関連法規を十分理解している
ことが必要である 114)。このような感染制御についての知識を持ったうえで、薬剤師が
中心となり院内ラウンドや TDM による抗菌薬の適正使用などの手法を用いて感染制
御に当たることで、アウトブレイクの鎮静化や薬剤耐性菌減少などの感染制御を行う
ことができた。一般的に感染管理看護師(Infection Control Nurse : ICN)や感染
管理医師(Infection Control Doctor : ICD)を中心に感染対策チーム(Infection
Control Team : ICT)が形成されていると思われているが、ICN や ICD が不在の ICT
は特に中小病院に多いと考えられ、その中では以上に挙げたような資質を持つ薬剤師
であれば、チームの中心となることが可能である。現在ではこのような薬剤師に対し
て日本病院薬剤師会は「感染制御専門薬剤師」という資格認定を行っており、さらに
研究能力は求められていないが、現場で十分に活躍できている薬剤師に対して「感染
制御認定薬剤師」を認定するようになっている。
3. 感染症治療においては、薬剤師が抗菌薬の選択から関与し、TDM を用いて抗菌薬
の効果を最大限引き出しなおかつ副作用を防ぐことで感染症治療を成功させることが
可能である。薬剤師はこれまで、TDM のデータをもとに、抗菌薬の投与設計を医師
に助言する、"支援の役割"を担ってきたが、さらに一歩踏み込んで、"一緒に治療する
立場"で感染症の種類や病態に応じてどの抗菌薬を選択し、どう使ったらいいのかを実
践した 118)。抗菌薬許可制に対する医師の役割に近い立場で抗菌薬の選択を行い、効果
を得た。現在、感染防止対策加算の施設基準の中に、専任の薬剤師が挙げられている
が未だ専従までの要求はない。本邦では感染症専門医の絶対数が少なく、特に中小病
院では専門医が不在であることから、以上のように感染症を学んだ薬剤師が医師と共
同して感染症治療に当たることでどのような施設においてもエビデンスに基づいた感
染症治療を行うことが可能である。現在、日本化学療法学会ではこのような薬剤師に
対し「抗菌化学療法認定薬剤師」の資格認定を行うようになった。
4. 本研究における調査結果より、感染症治療における患者への的確な抗菌薬選択と
投与方法の提供、また、耐性菌対策における抗菌薬適正使用による薬剤耐性菌の感受
性回復とアウトブレイク収束から、院内感染対策には積極的な薬学的管理が必要であ
ることがわかった。
主論文
1.継田雅美, 飛田三枝子, 山田徹, 小田明, 勝山新一郎, 吉川博子, 藤井青, 丸田
宥吉:バンコマイシン(VCM)血中濃度解析を通じた院内感染対策委員会へのかか
わり,環境感染,15,259-263(2000).
2. 継田雅美, 飛田三枝子, 山田徹, 小田明, 勝山新一郎, 吉川博子, 藤井青:抗
MRSA 薬血中濃度測定・解析による院内感染対策へのかかわり(第 2 報),環境感染
16,1-4(2001).
3.
継田雅美, 吉川博子:Teicoplanin 投与が有効であった再燃性 MRSA 骨髄炎の 1
例,日本化学療法学会雑誌 50,190-192(2002).
4.継田雅美, 小田明, 勝山新一郎, 黒田兼:耐性セラチアによる膵仮性嚢胞感染に
おけるゲンタマイシン投与の一例,TDM 研究 19,262-267(2002).
5.継田雅美, 塚田弘樹:Teicoplanin の TDM が有用であった Corynebacterium
jeikeium による感染性心内膜炎の 1 例,日本化学療法学会雑誌
56,475-478(2008).
6. 継田雅美, 今井由美子, 吉川博子: Clostridium difficile 腸炎再発の要因,環
境感染 21,12-16(2006).
7. 継田雅美:中小規模病院における多剤耐性緑膿菌アウトブレイクへの対応-感染
制御専門薬剤師の取り組み-,環境感染 26,98-104(2011).
8.Masami TSUGITA : Antimicrobial susceptibility of Pseudomonas aeruginosa
is improved by pharmacist’s positive intervention in the use of antimicrobial
agents,Japanese journal of environmental infections,27,285-291(2012).
9.Masami TSUGITA : Effects of intervention for infectious disease medical care
by pharmacist in medical-care-intensive beds,Journal of drug interaction
research,36,188-193(2013).
10.継田雅美:新潟県での病院感染対策における薬剤師の活動と他職種からの評価,
環境感染,27,292-296(2012).
副論文
1. 吉川博子, 継田雅美, 小田明, 勝山新一郎, 今井由美子, 細川孝子, 丸田宥吉,
石崎裕子, 青木信樹, 藤井青:病院感染対策の効率化への試み
MRSA 陽性者-保菌
と感染の判定,環境感染,15,252-258(2000)
2. 伊藤敦子, 田中裕子, 飛田三枝子, 山田徹, 継田雅美, 小田明, 勝山新一郎:バ
ンコマイシンの腎機能に与える影響
血中濃度トラフ値との関連,日本病院薬剤
師会雑誌 39,855-858(2003)
3. 吉川博子, 斎藤英樹, 内藤真一, 金沢宏, 今井由美子, 渋谷宏行, 継田雅美, 勝
山新一郎, 今井昭雄:当院の Infection Control Team の活動について
感染症治
療の観点から,環境感染 20,210-214(2005)
4. 大久保耕嗣, 阿部政典, 小林謙一, 長井一彦, 長井知子, 樋口多恵子, 継田雅
美:新潟県内の医療施設における手指衛生の変遷,環境感染 23,290-294(2008)
5. 樋口多恵子, 長井一彦, 阿部政典, 大久保耕司, 継田雅美:抗菌薬適正使用と薬
剤師のかかわり
新潟県の現状,日本病院薬剤師会雑誌 44,1501-1503(2008)
6. 武藤浩司, 樋口多恵子, 三星知, 小林謙一, 継田雅美, 大久保耕嗣:薬剤師に対
する手指衛生の手技に関する教育について
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と問題点.日病薬師会誌 45(11), 1521-1524(2009)
117)
小笠原康雄,大野公一,播野俊江,舟原宏子,後藤千栄,長崎信浩,他:病棟
薬剤師による「抗菌薬 PK/PD チェックシート」を活用した抗菌薬適正使用へ
の取り組み.環境感染誌 23(2), 117-123(2008)
118)
日本化学療法学会 : http://www.chemotherapy.or.jp/qualification/
謝
辞
本研究は新潟市民病院ならびに新津医療センター病院で行ったものである。本研究
の遂行に際し、御指導御鞭撻を賜りました元新潟市民病院感染症科(現関東逓信病院
感染症科)濁川博子先生、新潟市民病院感染症科呼吸器科部長
医療センター病院長
塚田弘樹先生、新津
豊島宗厚先生に厚く御礼を申し上げます。
さらに本論文作成に際し、終始御懇切な御指導御鞭撻を賜りました新潟薬科大学薬
学部臨床薬学研究室
薬物動態学研究室
朝倉俊成教授、ならびに臨床薬物治療学研究室
若林広行教授、
上野和行教授に謹んで厚く御礼申し上げます。
また、本研究の遂行にあたり御支援、御協力を頂きました元新潟市民病院臨床検査
部細菌検査室
生物研究所
今井由美子技師、新潟市民病院感染管理室
大崎角栄看護師、江東微
古澤佐知子氏、新潟薬科大学薬学部臨床薬学研究室
新潟市民病院薬剤部長
大島ヒナ先生、前薬剤部長
影向範昭教授、元
勝山新一郎先生、新潟 ICP の先
生方、新潟市民病院薬剤部職員各位、新津医療センター病院薬剤部職員各位に心から
感謝申し上げます。