1バレル50ドルまで低下した原油価格と世界経済

2015.02.05 (No.5, 2015)
1 バレル 50 ドルまで低下した原油価格と世界経済
公益財団法人 国際通貨研究所
経済調査部 兼 開発経済調査部長
佐久間 浩司
[email protected]
目次
1. 原油のグローバルな需給と価格の長期トレンド
2.確認埋蔵量やピークオイルの動向
3.原油価格の変動と消費国への影響
4.原油価格の変動は、輸出入国の間の所得の移動
5.シェール革命という Game Changer の登場
6.当面は厳しい状況が続く産油国
2014 年後半に原油価格が急落して 1 バレル 50 ドルを割り込んだ。原油価格のトレン
ドは、1990 年代末から勃興する途上国中間層の需要を背景に上向きだった。2008 年の
金融危機の落ち込みも一時的なものに終わり、2011 年初には元の 100 ドル水準に戻っ
ていた。
今回、それほどの危機が起きていないのに、たちまち 50 ドル割れになったことは、
世界の投資家を戸惑わせている。そもそも原油の世界的な需要や供給はどうなっていた
のか。価格はどんな力学で決まるのか。これほど価格水準が変わると、消費国や産油国
にはどのような影響があるのか。過去のトレンドを振り返りながら、今後の動向を推察
したい。
1
1.原油のグローバルな需給と価格の長期トレンド
過去 30 余年の原油の生産量、消費量をみると、原油の需要は世界経済の成長に伴い
拡大している(図表 1)。これは消費者である世界全体の人口が増えている要素と、所
得上昇によるモータリゼーションなどの一人当たり消費量が増えている要素が織り交
ざっている。世界の大部分の国が、今の日本やドイツのように、エネルギー効率の改善
で一人当たり消費量が低下し、人口も伸びないようなステージに達すれば、原油の消費
量はピークアウトする。しかし、中国やインドなどの一人当たり消費量がまだ日独の半
分にも達してない現状から考えると、それはまだまだ先のこととなろう。原油需要の右
上がりトレンドは長期的に続くとみてよい(図表2)。
図表 1
原油の需要、供給、需給差、価格
tho.ba rrels daily
100,000
tho.ba rrels daily
5,000
Prod. - Cons. (RHS→)
Production
Consumption
90,000
80,000
2,500
70,000
60,000
0
50,000
40,000
-2,500
1980
1985
U$ per barrel
1990
1995
2000
2005
2010
2015
1995
2000
2005
2010
2015
Oil price
100
50
10
1980
1985
1990
(Source) EIA
2
図表 2
各国の原油消費量/Oil consumption (一人当たり、年間消費量/per person per year)
30.0
30.0
ba rrels per
yea r per
pers on
China
25.0
30.0
ba rrels per
yea r per
pers on
ba rrels per
yea r per
pers on
Korea
25.0
25.0
India
Taiwan
20.0
20.0
20.0
15.0
15.0
15.0
10.0
10.0
10.0
5.0
5.0
5.0
0.0
0.0
0.0
US
Japan
Germany
1980
1990
2000
2010
1980
1990
2000
2010
1980
1990
2000
2010
(Source) IMF, EIA
需要に牽引されて生産も右上がりである。こうした需給が拡大する中でも、その時々
の情勢で過剰感や不足感が生まれ、原油価格は動く。供給側の要因で過不足が生じた例
としては、二度のオイルショックが有名だ。どちらも産油国側の事情で、第一次の 1973
年には中東戦争を背景に 2-3 ドルから 10-12 ドルに引き上げられ、第二次の 1979 年に
はイラン・イラク戦争を背景に更に 30 ドルに引き上げられた。
2012 年からのシェール革命も、価格が動く方向は逆だが供給側の要因である。シェ
ールオイルの開発技術の発展により、主に北米で原油産出量拡大の期待が高まった。実
績としても既に米国の石油生産量は急増しているし、今後の大きな供給余力として世界
全体の石油市場の期待に影響を与えている。
需要側の要因では、1997-98 年のアジア危機は大きな需要減少であり、価格はそれま
での長期均衡水準と言われた 1 バレル 20 ドルから WTI(ウエスト・テキサス・インタ
ーミディエート)ベースで 10.7 ドルとほぼ半減した。また、2000 年前後のアジアの中
産層の勃興とモータリゼーションは強い需要の拡大で、価格は 1 バレル 140 ドル台まで
上昇した。逆に 2008 年のグローバル金融危機は需要の急減で、価格は 1 バレル 30 ドル
台半ばまで急落した。
3
原油価格に影響を与えた出来事
要因
出来事
時期
価格への影響(ドル/バレル)
供給要因
オイルショック
1973 年、1979 年
上昇(2→10→30)
シェール革命
2012 年ごろから
下落(100→50)
アジア危機
1997-1998 年
下落(20→10)
アジアのモータリゼーション
2000 年ごろから
上昇(30→140)
グローバル金融危機
2008 年
下落(140→30)
需要要因
2.確認埋蔵量やピークオイルの動向
原油が他の財と違うのは、地球に既にある分しか使うことができないため、いつか掘
り尽くしてしまうという供給の限界があることだ。今から 30、40 年前には、あと 30 年
で世界の石油はなくなると言われた。確かに 1980 年の確認埋蔵量は 7000 億バレルで、
当時の消費量が日量 6500 万バレルであるから、6500 万×365 日×30 年=7000 億バレル
で、30 年後には 7000 億バレルすべてが消費し尽される計算だった。しかし、実際には
消費が拡大する中で、価格上昇や技術開発が新たな油田探索を推し進め、確認埋蔵量も
拡大した。最近では、1 バレル 100 ドル台に上がったことの影響で、より高いコストの
採掘環境まで探索が進んだ。海洋油田やシェールオイルの油田など、確認埋蔵量の増加
ベースがやや強まっている。もちろん、この需要増→価格上昇→探索増→確認埋蔵量増
のスパイラルも、超長期的にはいつか限界に達するのだが、少なくとも今は、この超長
期の壁は忘れられている感がある(図表3)。
図表3
石油確認埋蔵量 (世界全体と国別の動向)
Oil Proved Reserves: World Total
by country
350.0
bil.barrels
bil.barrels
Venezuela
1800.0
300.0
250.0
Saudi
Arabia
Canada
200.0
Iran
1600.0
1400.0
1200.0
1000.0
Iraq
150.0
800.0
Total Africa
600.0
100.0
Russia
400.0
50.0
US
200.0
-
-
1980
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
(Source) BP
(Source) BP
4
1990
2000
2010
埋蔵量に限りがあるため、生産量もどこかで最大量に達して、その後はゼロに向けて
徐々に減少していくというピークオイル論が時々話題になる。この議論が最初に盛り上
がったのは 1970 年代のオイルショック時であった。この時のピーク予想は 2000 年が多
かった。次に盛り上がったのは 2000 年代前半である。この時はアジアのモータリゼー
ションという、やはり価格上昇懸念や供給ひっ迫懸念が強い時期であった。この時のピ
ークは、既にそれは近いのではないかという近未来ピーク論と、2020 年や 2050 年以降
という、かなり先だという論の両者があった。
その後は、グローバル危機後の需要減少や海洋油田やシェール革命などの供給余力拡
大のニュースが増える中で、ピークオイル論はあまり聞かれない(図表4)。
図表4
ピークオイルの予想
ピークオイルの
タイミング
予想発表年
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
(Source) EIA
3.原油価格の変動と消費国への影響
今、先進国経済の最大の懸念材料はデフレだ。日本はデフレ脱却のため、欧州はデフ
レ回避のため中央銀行が量的金融緩和を進めている。米国はようやく経済が正常に戻り
つつあるという判断で、半年以内に利上げを開始する予定だが、やはり、本当に体力が
十分回復したのか、様子をみながら恐る恐るの利上げとなるとみられている。こうした
インフレ率下振れリスクの方が強い中で今回の原油価格急落が起きた。このため、多く
のエコノミストは追加的なデフレ圧力となることを懸念している。
しかし、1970 年代や 1980 年代ほど、原油価格の消費者物価への影響は大きくない。
経済のサービス化が進み、消費生活に占める原油価格の影響を直接受けるものが少なく
なった。もちろん、僅かな影響でも、インフレ率がゼロ近傍でプラス、マイナスがせめ
ぎ合っている中の 0.1%や 0.2%は軽視すべきではないが、輸入原材料価格の下落は、連
続して原油価格が下落しない限り、一年たてば物価下落圧力は剥落する。また実質所得
の増加となって経済を上向かせる力がある。総合的に考えると、消費国へのデフレの影
響は小さいだろう1。
1
但し、原油価格の下落によるインフレ率の低下が、ゼロの閾値を超えてマイナスになり、更に名目所得
5
4.原油価格の変動は、輸出入国の間の所得の移動
そもそも原油価格が上下することは、全世界的にみれば、所得の増加でも減少でもな
く、輸出国と輸入国の間の所得の移動にすぎない。試算として、今の原油価格 1 バレル
50 ドル以下という水準が 2015 年の間続くとしよう。2014 年の価格を 1 バレル 100 ドル
として、原油の世界の輸出入量が 2013 年実績の日量 3766 億バレルだったとすると、2014
年の輸入国の輸出国への支払が 13600 億ドルであったのに対し、2015 年はその半額の
6800 億ドルになる。つまりこの価格下落のインパクトは、6800 億ドルの輸出国から輸
入国への所得の移転になる。
これは、輸出国全体でみれば GDP の 4.4%の所得減になり、
輸入国にとっては、GDP の 1.1%の所得増になる。
この所得移転を地域別に分解すると、日、米、欧、中国、インドなど数多くの大国が、
GDP の 1~2%という大きな所得増の恩恵を受けることがわかる。逆に、中東、アフリ
カ、ロシアの産油国は、GDP 比で 4~10%のインパクトで景気の下押し圧力となる。
もちろん実際には、すべての 2015 年の契約価格が直ちに市場実勢に塗り替えられる
わけではないので、影響は時間をかけて緩やかなものとなろうが、それでも、産油国側
が受ける負の影響は小さくない。
図表5
原油価格がバレル当たり、100$→50$に低下した場合の所得移転額
bil.USD
% of GDP
Europe
Europe
184
China
126
China
US
117
US
1.0
1.3
0.7
Other Asia Pacific
83
Other Asia Pacific
1.2
Japan
76
Japan
1.5
India
Australia
Mexico
Former Soviet Union
Middle East
-252
-200
-2.5
Africa
-105
-236
-400
-0.6
Canada
-45
Africa
-1.0
S. & Cent. America
-28
Former Soviet Union
0.8
Mexico
-13
Canada
2.7
Australia
12
S. & Cent. America
Middle East
India
51
0
200
-15.0
400
-4.4
-8.4
-9.8
-10.0
-5.0
0.0
5.0
(Source) BP: http://w w w .bp.com/statisticalreview
の前年割れにつながった場合は、デフレのセンチメントが経済全体に浸透していく可能性がある。特に現
在のユーロ圏は、この意味で原油価格低下の影響を注意深く見守る必要がある。
6
5.シェール革命という Game Changer の登場
2012 年ごろから、米国を中心とするシェールオイルの開発が進み、これをシェール
革命というが、この影響は、既に足元の生産や価格に大きく表れている。2014 年後半
からの原油価格下落も、直接の原因はサウジアラビアの 2014 年 11 月の石油輸出国機構
(OPEC)総会における「減産しない」という決定だが、そうせざるを得なかった背後
にあるのはシェールオイルであり、これが本質的な原因である。
採掘地域の環境への影響を懸念する声もあり、最初のころは、簡単に生産は進まない
だろうとの見方もあったが、実績として米国の原油生産は、2009 年の日量 500 万バレ
ルから 2015 年初には日量 900 万バレルに急増しているし、米国の石油関連製品の輸出
も長年の日量 90 万バレルの低水準から 2008 年ごろから上昇し始め、2015 年初には 400
万バレルと 4~5 倍に膨らんだ。また輸出入は 2012 年に逆転した。(図表6)
図表6
米国における原油・石油製品の生産、消費、輸出、輸入
25,000
tho.barrels
daily
7000
tho.barrels
daily
6000
20,000
US exports of petro products
US imports of petro products
5000
15,000
4000
US consumption of petro products
US crude oil production
10,000
3000
2000
5,000
1000
0
1990
1995
2000
2005
2010
0
1990
2015
1995
2000
2005
2010
2015
(Source) Datastream
シェール革命の名にふさわしく、米国の原油輸入量の減少は過去半世紀の流れの中で
も劇的で、第二次オイルショック時なみの減少だ。ここまで大きく米国の行動が変わる
と、国によっては大きな影響が出てくる。最も厳しい状況に陥った国のひとつがナイジ
ェリアだ。ここは、2010 年実績で原油輸出の 43%が米国向けだが、米国産の石油と質
が似ているため米国向け輸出が激減し、2014 年第 4 四半期には、ピーク時の 40 分の 1
という、ほとんどゼロに近い量になった。
7
図表7
米国の原油輸入
米国のナイジェリアからの原油輸入
U.S. Imports from Nigeria of Crude Oil (Tho.barrels per Day)
U.S. Imports of Crude Oil (Thousand Barrels per Day, 3Mavg)
1400
12000
1200
10000
1000
8000
800
6000
600
4000
400
2000
0
1920
200
1940
1960
1980
0
1973 1978 1983 1988 1993 1998 2003 2008 2013
2000
(Source)EIA
(Source)EIA
6.当面は厳しい状況が続く産油国
米国内における石油の需給バランスの変化は、こうしたナイジェリアのような極端な
例を挙げるまでもなく大きい。長期的にみれば、冒頭で述べたように、中国やインドな
どの人口大国の所得上昇に伴って、まだ世界の消費量は増加するため、米国の輸入減少
の影響も緩和されていくはずだ。しかし、運悪く中国経済はちょうど高成長から中成長
に大きくモデルチェンジをしている最中であり、インドはまだ本格的なモータリゼーシ
ョンが始まる段階ではない。当面、価格が上がりにくい産油国にとっては厳しい環境が
続くと見ざるを得ない。2009 年の原油価格下落時にも石油輸出の減少はかなり正直に
表れた。今の 1 バレル 50 ドルが続けば 2015 年も同様の輸出落ち込みになるはずである
(図表8)
。
8
図表8
中東・アフリカの石油輸出と原油価格の動向
mil.$
S.Arabia
Nigeria
Kazakhstan
Angola
Cameroon
Nominal Price
400,000
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
1990
1995
2000
2005
2010
$/barrel
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2015
(Source) Datastream, IMF
産油国への負の影響は 2 つの面で警戒する必要がある。ひとつは対外的な外貨の資金
繰りの観点、もうひとつが財政の観点だ。特に財政の観点は、産油国にとって石油収入
が国民に対する医療、教育などの社会厚生の原資なだけに、社会の安定のために重要だ。
①対外的な外貨資金繰りの観点では懸念は小さい
対外的な外貨資金繰りの面では、中東諸国は、長年の石油輸出で豊富な資金があり、
ドバイ、ドーハの都市開発やエネルギー開発などで一時対外借入が拡大したアラブ首長
国連邦(UAE)とカタールを除けばそれほど対外借入は大きくない。また、ソブリン・
ウエルス・ファンドなどの資産の方も長年の蓄積があり豊かだ。ナイジェリアやアンゴ
ラなどのアフリカの新興産油国は資産の蓄積は少ないが、幸いまだ国際金融の場で活発
な債務者としての地位が固まる前の段階であった。このため、中東アフリカ諸国におい
ては、対外債務の点での懸念は少ない。
一方、欧米の債権銀行や投資家に身近で信用評価が上がったロシア、カザフスタンな
どは一時的には対外債務を膨らました。南アフリカもこちらの部類に属する2。ベネズ
エラの近年の対外債務の急速な伸びは、中国という新たな債権者の国際金融市場への登
場を反映したものである。こうした国の中で、今でも債務残高が大きく、ソブリン・ウ
エルス・ファンドなどの蓄えが少ない国は注視していく必要があろう。
2
足元ではロシア、カザフスタン、南アフリカの信用評価は下がり、一旦は投融資熱は冷めている。
9
図表9
資源国向けの外国銀行の貸出債権(債務国GDP比%)/ Foreign claims of BIS reporting banks to resource rich countries (% of Nominal GDP)
Middle East
Africa
(% of GDP)
50.0
Others
(% of GDP)
UAE
South Africa
(% of GDP)
Angola
50.0
Qatar
50.0
Brazil
Cameroon
Saudi Arabia
40.0
Venezuela
Algeria
40.0
Russia
40.0
Kazakhstan
Nigeria
30.0
30.0
30.0
20.0
20.0
20.0
10.0
10.0
10.0
0.0
0.0
1999
2004
2009
2014
0.0
1999
2004
2009
2014
1999
2004
2009
(Source) BIS, IMF
図表 10
資源国の外貨準備・SWFと対外債務
External Debts
100,000
500,000
50,000
250,000
0
0
-50,000
-250,000
-100,000
-500,000
External Debts
Mexico
Iran
Nigeria
-1,250,000
South Africa
-250,000
Angola
-1,000,000
Oman
-750,000
-200,000
Venezuela
-150,000
Cameroon
additional funds e.g. SWF
750,000
UAE
150,000
Foreign Reserves
Norway
1,000,000
Saudi Arabia
additional funds e.g. SWF
Russia
200,000
mil.$
Qatar
1,250,000
Algeria
Foreign Reserves
250,000
Kazakhstan
mil.$
(Source) CIA, SWFI
②財政面ではどの産油国も要注意
財政面では、どの国も状況は厳しいとみるべきだろう。民主主義国家であれば別だが、
産油国の多くは、政治体制上、石油の恩恵を広く国民に配分することで社会の安定を維
持する必要がある。原油価格の下落は配分の原資が細ることであり、政治的に重大な問
題だ。基本的には原油生産コストの低い国ほど財政収支の面でもゆとりがあるが、それ
でも今の 1 バレル 50 ドル以下という水準は、どの国にとっても財政収支のバランス維
持上厳しい(図表 11)。
10
2014
図表 11
産油国の財政バランス維持に必要な原油価格の水準
160
140
Nigeria
120
Oman
100
Russia
80
S.Arabia
60
UAE
40
Qatar
Kuwait
20
0
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(Source) Deutsche Bank
過去を振り返ると、1997-98 年のアジア、ロシア、ブラジル危機でエマージング諸国
の需要が一時的に大きく落ち込んだ時、当時は目立たずにあまり議論にならなかったが、
中東の産油国は、経常黒字が一転して経常赤字国に陥るほどに輸出が落ち込み、経済成
長率も、それまで 4%台で推移していたものが、
1999 年に 2.4%まで低下した(図表 12)
。
今回の原油価格下落も、産油国全体の景気には相当な下押し圧力となろう。
こうした時のための、石油安定化基金のようなファンドが十分蓄えられている国は、
まだ対応できるが、特にアフリカの産油国は、産油国としての歴史が浅く、中東諸国の
ような潤沢な基金がない(図表 13)。これらの国では、経済運営面だけではなく、政治
や社会の安定性という観点から動向を見守る必要がある。
図表 12
アジア危機とその中東アフリカへの影響
Asian Crisis and its Impacts on the Middle East and North Africa
(% change)
(% of GDP)
12
ME&NA Real GDP
10
ASEAN Real GDP
8
9
6
6
4
3
2
0
0
-3
-2
-4
-6
-6
ME&NA Current account balance
-9
-8
ASEAN Current account balance
-12
-10
1995
1997
1999
2001
2003
1995
(Source) IMF
11
1997
1999
2001
2003
図表 13
ソブリンウエルスファンド 設立年と資産規模
Oil-related Sovereign Wealth Funds: Inception Year and Size of Assets
bi l .U$
1,000
893.0
757.0
773.0
750
548.0
500
256.0
250
17.5
40.0 68.4
0.8
37.3
77.2 77.0
6.0
60.9
18.0
16.6
70.0 66.0
90.0
6.0
15.0
88.9 79.9
5.3
62.0
2.4 5.0 2.0 1.4
Saudi Arabia
Kuwait
UAE-Abu Dhabi
Canada
Oman
Brunei
UAE-Abu Dhabi
Norway
Venezuela
Azerbaijan
Algeria
Kazakhstan
Mexico
UAE-Abu Dhabi
Iraq
Qatar
East Timor
UAE-Dubai
Libya
Oman
UAE-Abu Dhabi
UAE-Federal
Russia
Russia
Saudi Arabia
Iran
US-North Dakota
Angola
Kazakhstan
Nigeria
0
13.0
1950 - 1990
1991 - 2000
2001 - 05
2006 - 10
2011 -
(Source) Sovereign Wealth Fund Institute
<参考文献>
篠原令子 「原油価格の見通し」 三菱東京 UFJ 銀行 2014 年 12 月 10 日
IMF Country Report:Angola Sept.2014, Saudi Arabia July 2013, Kazakhstan Sep.2013,
Cameroon Julu 2014, Nigeria April 2014,
Robert Burgess, Yaroslav Lissovolik, Artem Zaigrin, Armando Armenta, EM oil producers:
breakeven pain thresholds, Deutsche Bank Research, October 16, 2014
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