観光の視点による非日常性のデザインを通じた大学生の地域メッセージの

観光の視点による非日常性のデザインを通じた大学生の地域メッセージの発信
〇上総毬椰・桂信太郎・井形元彦(高知工科大学)
Keyword:大学生、地域メッセージ、観光の視点、非日常性、デザイン
【背景】
有利性を活用し、また⑩に関して、大学が知の拠点となり
筆者の上総は、生まれ育った高知県の地域活性化を常に
ながら人財育成に取り組む必要がある、という2点に対し
考え、高校生の時から地域にそのままある資源を利活用し
て特に意識しながら調査を進める。
た県外からの観光客誘致について注目していた。高知工科
図1は、
地域創生のプロセスであるが、
本調査研究では、
大学マネジメント学部に入学してからも、自ら企画立案し
第2段階のイノベーションを創出するための内発的発展、
て地域のための情報交流学生団体 CONE を設立し、高知県香
企業家活動、地域金融の過程を意識する。大学生の筆者自
美市地域活性化に係る事業助成金を得ながら、地域に隠さ
らが大学でマネジメントを学びながら企業家的発想を展開
れた独自の魅力を伝えて観光に活かそうとフリーペーパー
し、地域の地方自治体などと提携して補助金を得ながら内
を毎月 500 部以上発行して好評を得ている。冊子を通じて
発的発展を志向した活動を展開したいと考えている。
学内外地域の情報交流を目的に積極的に活動している。さ
らに、四国内の美人学生が若者のためにグルメ・ファッシ
ョン・美容・恋愛などの情報を発信するメディアとして
Cute Campus に参画し、高知支部代表(カメラマン兼務)
を勤めている。こうした活動を通じて、地域の隠れた文物
(ヒト・モノ・コト)を発掘して光を当て、情報発信する
ことで「非日常性のデザイン」を具現化している。本稿で
は、大学生による主体的な地域メッセージの発信による地
域活性化への貢献について事例報告したい。
【研究方法・研究内容】
中国の故事『易経』によれば「観光とは勧告の光である」
といわれる。これは、観卦の爻辞「六四、観国之光利用賓
于王」が語源とされる。直訳では「国の光を見る」と読ま
れたり、あるいは「国の光を示す」と解釈されたりする。
この「光」というのは、その地域の文物と捉えることがで
きる。角本伸晃『観光による地域活性化のための経済性分
析』によれば、①地域の文物をよく見て、自分たちで魅力
図1.地域創生のプロセス
的にしていく、②他の地域の人に自分の地域の文物を見て
(文献[2]清成(2010)p.86 図 6-1 を引用)
もらうために訪問してもらい、経済効果を地域に及ぼす、
③自分たちが他の地域の文物を見に行く、の3タイプが観
我々もまた、地域の大学を含む地域の資源を活かしなが
光の視点として考えられるという。自分たちの文物、他の
ら、地域住民らによる内発的発展型の情報共有→情報創造
人の文物という観点は、非日常性に価値があるという捉え
→知識創造を展開する必要があると考えている。
方もできる。
一方、清成(2010)は、地域の課題を 12 掲げている
本稿では、この観光の捉え方と地域創生のフレームワー
(pp.77-78)
。①いまなぜ地域創生か②地域の自立が必要③
クを念頭に置きながら、筆者の上総が2年以上前から継続
現代日本の地域問題④地域主権⑤地域創生の方向⑥地域の
的に取り組んでいる「非日常性のデザインを通じた大学生
グランドデザイン⑦地域創生の担い手⑧地域リーダーに求
による地域メッセージの発信」の事例について、帰納法的
められるもの⑨地域創生の専門家⑩大学の役割⑪3つのセ
アプローチによる定性分析(インタビュー、直接観察、イ
クターの協力⑫地域間連携である。
ンターンシップを含めた継続的参加観察)による調査研究
ここでは、⑤に関して、地域住民が自ら構想して地域の
を報告したい。
この団体の設立構想から設立までの経緯、その後の取組、
① 1月号プレ発行『KUT でつながりたい』
今後の構想、地域との関係やつながり等について、事例報
② 4月号『卒業生から新入生へバトンタッチ』
告したい。
③ 5月号『先輩から後輩へ』
④ 6月号『インカレ出場団体を応援しよう!』
【研究・調査・分析結果】
(1)情報交流学生団体の設立と運営
上総毬揶は、高知工科大学に入学してまもなく、自ら企
⑤ 7月号『夏だ!サマーだ!工科大生よ、遊べ!変わ
れ!』
⑥ 10 月号『香美市のお店に行ってみよう特集食欲の秋』
画立案して地域のための情報交流学生団体 CONE を設立し
⑦ 11 月号『自分の No.1 について考える』
た。これは、学内外への情報発信に関心のある有志一同の
⑧ 12 月号『リア充の定義とは?』
学生組織である。上総が以前運営したイベント(高知
⑨ 1月号『特集 就職活動』
Venture Summit)で「人のつながり」の大切さを感じ、そ
地域の人々や大学生の日々の生活や様々な活動が被写体
れまで忌み嫌っていた“コネ”という言葉が人間にとって
であり、毎月 500 部以上発行して好評を得ている。こうし
とても大切なことだと気づいた。そこで人の「つながり」
た活動が認められて、高知県香美市から地域活性化に係る
を意味する「コネクション(connection)」のコネをローマ
事業助成金を得ることができ、活動資金も自前で調達して
字化(CONE)して団体名とし CONE とした。読みはコーンと
いる。発行する冊子を通じて学内外地域の情報交流を目的
した。
に積極的に活動している。また、2015 年 4 月にキャンパス
(2)日常と非日常のデザインを意識した情報発信
が高知市中心街に移転したことをきっかけに、高知市内へ
CONE では、地域に隠れた地域固有の魅力的な情報を多く
も取材対象を広げ、香美市と高知市の情報交換や他大学と
の方々に様々な手段で伝えて観光に活かす活動を行ってい
る。CONE の情報発信の方法の一つは、自らが独自に企画運
の連携も推進している。
この企画を通じて得た経験値としては以下のものがある。
営・発行しているフリーペーパーである。この企画に協賛
①男女で魅せ方が違うこと。
していただける企業・団体には、
企業名の掲載だけでなく、
②掲載側が載せたい情報でも受信側にとっては不要な情報
もっと多くの情報を伝えたいと感じている。また、大学生
もあること(コンテンツが情報ばかりではなく、娯楽とな
間でも情報発信がさらに上手に行える仕組みが本学に展開
るものが必要)
。
されるようにしたいと考えている。
③1冊の統一性も必要
④キャッチフレーズ・写真・デザインの大切さ(若い人は
ほとんど文字を読まない)
。
⑤自分や知人が載っていることで手に取る確率がとても高
いこと。
⑥媒体の認知度の大切さ。
⑦「かわいい女の子」は男女ともに受けがいいが、
「かっこ
いい男の子」は男受けが悪い。
⑧ 色の大切さ。色が暗い表紙のときははけた数がとても
少ない。
⑨ 電子媒体との連携は大事(ツイッター・フェイスブッ
クで発行を知ってくれる)
。
⑩ 掲載してもらったお店のアフターフォローがとても大
切。
⑪ 手渡しの活動で配布数が倍以上になることがあるから、
図2.上総が作成しているフリーペーパー
手渡し配布が大切。
⑫ できるだけたくさんの人をまきこむと喜びも大きいし、
これまでに発行したフリーペーパーの内容は以下のよう
なものである。
発行数も増える。
これらの活動を通じて、調整事項も出てきた。①感想や
で、より多くの学生が高知工科大学の課外活動の取り組み
指摘がもらいにいかないともらえない点、②掲載料を決
や実績を知る機会の創出と、更なる課外活動の発展を目指
めること、③写真の大切さが十分伝わらない点、④記事
している。
の確認をしたのに「これだけ?」と言われた点(お店や
広報報事業「CONE」では、学内外の課外活動の様子を
団体内で認識にズレが出る)
、⑤学生支援部を通すのに時
取材し、情報雑誌や掲示板などの媒体を通して、ホット
間がかかる点。⑥お願いしたことをしてくれない点、な
な情報提供を行う。交流事業「わ。
」では、学生による地
どである。
域活動をはじめとした課外活動の発表や意見交換を行う
交流会を地域の方も招いて行い、自由な意見を交わすこ
と「話(わ)
」を通して、人と人との「輪(わ)
」を広げ、
更なる課外活動の発展を目指している。
(3)現代学生の思いを発信する活動
四国内の美人学生が若者のためにグルメ・ファッショ
ン・美容・恋愛などの情報を発信するメディアとして
Cute.Campus に参画し、高知支部代表(カメラマン兼務)
を勤めている。10000view を超えるアクセス数で美人学生
と共に高知の名所や雰囲気を発信している。インターン
シップでは県から委託された観光アンケートに企業と共
写真:CONE の活動の様子(筆者撮影)
に取り組み、観光客の生の声を聴くことで高知県の良し
悪しを直に感じている。こうした活動を通じて、地域の
隠れた文物(ヒト・モノ・コト)を発掘して光を当て、
情報発信することで「非日常性のデザイン」を具現化し
ている。
写真:Cute.Campus(筆者撮影)
この企画で驚いたのは、若者の閲覧数が非常に多い点で
図1.あるプロジェクトの企画書(筆者作成)
ある。さらにコンテンツを明確にアピールすれば大きな反
響を得られると考えられ、影響力も大きいと感じている。
また、学内外への情報発信を雑誌や掲示板などの情報媒
当初は、団体との関係性や目的・目標が明確でなかった
体や、活動発表を行なう交流会を開催するプロジェクトを
こともあり、上手に活用できていなかったことが反省点で
実施している。目的達成のために、①広報事業「CONE」と
ある。
“高知”や“学校名”のキーワードに対する反応も多
②交流事業「わ。
」を企画立案・実施し、学内向け情報雑誌
い。また、本人による PR の効果が絶大であり、モデルに
や課外活動の発表や意見交換を行う交流会を実施すること
特にメリットがなくても協力してくれたことが大きな収穫
であった(撮られることがメリットなのだろうか?)
。
このプロジェクトの紙媒体を企画すれば、さらに人気が出
(5)高知県の観光アンケートによる情報フィードバック
筆者の上総は、地元高知の企画出版企業との共同事業で、
るという手応えがある。また、本人からのメッセージも目
高知県の観光アンケート調査に参画した。高知についてほ
を通してもらいやすい。
めてもらえるポイントは「食」と「景色」が 90%以上であ
った。一方で、交通の便が悪いとの指摘は多く、車での来
(4)地域のアート活動と情報創造
訪者がほとんどであった。観光パンフレットについては、
一般的にはあまり知られていないが、高知県内にはアー
数が多すぎて、どれを見ればよいのか迷う点も指摘されて
トスポットが数多く存在する。自然が豊かで、何人ものア
いる。また高知県による企画の「県民総選挙」についての
ーティスティックな活動家が生まれ育った高知だからこそ
パンフレットの存在を観光客のほとんどが知らない。龍馬
展開できる展示や施設が多数存在する。県内外の人々に、
パスポートもあまり知られておらず「どこで発行されてる
こうした施設の認知度は低いため、高知県のアートスポッ
の?」と聞かれた。リピーターは帰省者が多いが、帰省者
トに注目していただき「一度は訪れてその素晴らしさを感
が県外出身の友人を連れてくることも多い。SNS の発信力
じて欲しい」と考えている。
の低さについて年配の方から指摘された。都市部では年配
活動事例として、例えば、高知県内のアートスポットを
紹介する美少女パンフレットの制作を行っている。
の方も結構 SNS を活用しているようだ。カメラを持って
いる人は Google 関連のサイトの写真をチェックしている。
観光地が散乱していて時間が上手に使えていない。アンケ
ートの報酬(芋けんぴの小袋)は割と喜んでもらえる。
アンケートの項目に「また来たいと思うか」という項目
と、誰と来たかの項目に「恋人」という選択肢を入れれば
良かったと考えた。
【考察・今後の展開】
地方創生には、地域の活力を活かしながら内発的発展を
図る必要がある。本調査では、地域創生のプロセスにおけ
写真:アート活動と情報発信(筆者撮影)
る第2段階のイノベーションを創出するための内発的発展、
企業家活動、地域金融の過程を意識しながら、大学生の筆
者自らが地域の地方自治体などと提携して補助金を得て、
内発的発展を志向した活動を展開してきた。
現実的には地方の過疎高齢化が進展しており、大学生の
ような若者が地域と連携することが必要不可欠になる。県
外から地方大学で学ぶ学生が在学中に地域の良さを学べば
定着してもよいと考える者も増えるかも知れないと考えて
いる。
【引用・参考文献】
[1]角本伸晃『観光による地域活性化のための経済性分析』
椙山女学園大学叢書,2011 年。
[2]清成忠男『地域創生への挑戦』有斐閣,2010 年。
[3]上総毬揶『CONE』No1-12 号,2013~2015 年。
図2.近年の県内アートイベントの例(筆者作成)