はじめに 山火事注意!! 北遠の山で、しばしば見かける纏(まとい)を持ったニホンリス(ホンド リス)のホーロー看板。 「火気に注意」 「たばこの投げすて!火事のもと」と キャッチコピーに違いはありますが、いずれも「火の用心」を呼びかけるも のです。 この「纏リス」のキャラクターは、静岡県だけのものではありません。調 べてみるとこの纏を持ったリスは、 「山火事予防のシンボルマーク」として、 林野庁がデザインしたもののようです。 この「纏リス」が見張ってくれてはいても、やはり山の火事は恐ろしいも の。そんな時に頼りになったのが、 「秋葉山」のお札と消防団。表紙の写真 は、 「静岡縣山香村消防組」。纏を中心にして、半纏の襟には「少年消防隊」 から「青年消防隊」「第一部消防手」「第二部消防手」の他、「浦川」「水窪」 などの文字も見えます。 集合しているのは、2 階建て木造校舎やクスノキから見て、旧「山香小学 校」の校庭のようです。 日本の山火事の発生は、平均で年間に約 2000 件、焼失面積は約 900ha、損 害額は約 4.7 億円。1 日平均では、約 5 件。約 2.5ha、損害額 1300 万円の山 火事が、今日も日本のどこかで発生していることになります。 そのほとんどは、人間の不注意によって起きています。その山火事を防ぐ には、看板に書かれたことに留意するしかない のです。 「火気に注意」 「たばこの投げすて!火事のも と」などと、「纏リス」に言われるまでもなく、 火の用心!くれぐれも、注意しましょう! 纏リス以外の看板も紹介します。北遠の山歩 きの楽しみに、加えてみてはいかがでしょう か? ●纏リスって何? 意」の青い看板を見かけることもあります。 先ずは、山火事防止を訴えるキャラク ターが、なぜリスなのでしょうか? 林野庁で企画し全国農村映画協会で昭 和 49 年(1974)に制作した短編アニメ映 画「リスのまとい」というビデオにヒン トがありそうです。その内容説明によれ ば・・・ いずれも掲出の方法は上下 2 つの穴に針金や釘を通しています。 殿様の大事にしている山の山火事を出したと疑われ捕えられたきこりの 孫兵衛とその仲間。その孫兵衛に命を救われたリスが真犯人を探し出し、そ 制作は「静岡県」 「静岡天竜地域林野火災防止協」 「静岡県林業会議所」 「山 林協会北遠支部」 「森林国営保険」など、さまざまです。 のほうびとしてマトイをもらう。 ●角型のホーロー看板 リスは、山火事を消したのではなくて、犯人を見つけたというのが答えの ようです。 林野庁が山火事防止にふさわしい動物を募集し、シンボルマークとして制 定したのは昭和 46 年(1971)のこと。その後、現在までいろいろなデザイ ンで纏リスの看板が作られ、山火事防止を訴え続けているというわけです。 脚付きの角型看板は 3 種類。赤地に白抜きの文字「山火事注意」と纏を抱 ●丸型のホーロー看板 えたリスの絵は同じですが、 「小さな火 “まさか”がおこす 山の火事」 「な くすな緑! なくそう山火事!」「ちょっとまて! その火はほんとに 消 えてるか?」とキャッチコピーが違います。 しかし、その下の「タバコの投げ捨てはやめましょう」の赤い文字は共通 です。 よく見かける丸型のホーロー看板は「火気に注意」と「たばこの投げすて 火事のもと」の 2 種類ですが、まれに「たき火たばこに注意」や「山火事注 ●縦長のホーロー看板 ●釘穴の周りの桜 白地の縦長看板は 2 種類。ど 「山火防止 たきびたばこに御用心」 ちらも「山火事注意!」と赤地 ―どこと言って変わった表現ではありま で警告し、それぞれ纏リスが せん。形も普通。特に大きくもなければ 「山火事を なくしてきずく 小さくもない丸型のホーロー看板。色は 豊かな緑」「消したはず 消え 赤、青と白のトリコロールです。 たはずから 山の火事」と、吹 実は、この看板の釘穴の周りに桜の花 き出しで語りかけています。 が描かれているのです。この看板を見た ら、釘穴の桜の花を確かめてみてください。 ●その他の纏リス ●熊の丸型ホーロー看板 左のプラスチックは、縦型の ホーロー看板のデザインと似 ていますが「山火事注意!!」 林野庁の「山火事注意」の丸型ホーロー看板に は纏リスではなくて、熊のものもあります。 「タバコ・たきびに気をつけましょう」のキャ の下の纏リスは「火の取扱いに ッチコピーを指差し、「ご協力ありがとう」と謙 十分注意しましょう。たき火、 虚です。 たばこの火の始末は完全に!」 と声掛け。 右のものは巡視年月日と巡視員氏名を書き込むようになったシールです。 纏リスの図案は、林野庁で決定したものでした から、この熊の図案はそれ以前のものかも知れま せん。 「たばこ・たき火はよく消そう!」の看板の纏リスは、目を丸く見開いて、 自ら燃え上がる火を消そうと奮闘してい ます。 他の纏リスは、纏を持ってただポーズを 取っているだけでしたが、この纏リスは違 います。燃え盛る火に立ち向かう健気で勇 気ある行動で、山火事の恐ろしさを訴えて います。 ●5 種類 5 枚の角型ホーロー看板 「林野庁 静岡縣」の名前 纏の上部には組を表す「頭」があり、「馬簾(ばれん)」と呼ばれる房飾 が入り「山火防止」を訴える りがついています。「頭」のデザインはほとんどが雪の結晶の形。中心の日 看板が 5 枚並び、その 1 枚 1 章に、消防に欠かせない水管、管そう、それに筒先から放出する水柱を配し 枚に書かれている標語がすべ ています。 て違います。 纏は、消防団名が入った頭と細く垂れ下がった馬簾(ばれん)から出来て 「注意して 燒くまい こ います。 の山このみどり」「たき火あ と 消えたようでも もう一 ●秋葉の火まつり(12 月 15、16 日) 度」 「よく見よう 火入の前の 風かげん」 「今投げた 君のたばこが 火 秋葉神社 秋葉神社によれば、最初に社殿が 事のもと」「山の火事 きょうも出さずに 育つ森」。 建ったのは、今から約 1300 年前の和銅(わど 農林省山林局を前身とする林野局が「林野庁」へと名称を変えたのは昭和 う)2 年(709 年)と伝えられています。 24 年(1949)。「縣」「燒」の 2 文字の旧字体が、現在の新字体へと変えら 祭神は火之迦具土大神(ひのかぐつちのおお れたのも同じ年でした。と言うことは、この看板が作られたのは、昭和 24 かみ)で火の主宰神とされ、神徳は「火の幸を 年の可能性が高いということになります。 恵み、悪火を鎮め、諸厄諸病を祓い除く」火防 開運の神です。全国的に知られるのは、16 日夜 ●秋葉神社に奉納された纏 半に行われる火防祭(ひぶせのまつり)で、秘 火災による焼亡から守ってくれる火防 伝の「弓の舞」 「剣の舞」に続いて、松明を振り (ひぶせ)信仰の神として知られる秋葉神 かざし舞殿を所狭しと舞う「火の舞」の神事が古式豊かに荘厳華麗に繰り広 社上社には、以前から「二俣町」「熊村」 げられます。 「光明村」「下阿多古村」「上阿多古村」 「竜川村」など旧天竜市の火消し纏が奉納 されていました。 そして、旧「磐田郡」や「周智郡」の 一部、「犬居村」「気多村」「犬居町」 「熊切村」「浦川村」「山香村」「奥山 村」「龍山村」が浜松市天竜区へと編入 され、可睡斎に奉納されていた纏、秋葉 神社に移されました。 秋葉寺 秋葉寺によれば、養老 2 年(718 年)僧行基が勧請し、大登山(だいとざん) 霊雲院として開山したのが始まり。弘仁年 間(810 年~)に「秋葉山秋葉寺」と改称 され、鎌倉時代には熊野権現の流れをくん だ修験行者が入山し、室町時代には宿坊が 広く設けられ、一大修験場として全国にそ の位置を確保してきたものと言われています。火防鎮護の祭典としての火祭 りと、三尺坊をはじめとする眷属の天狗たちに捧げる七十五膳と呼ぶ供膳の 秘儀とがあります。 左のモノクロ写真は、春野町気田の青年会が、 火祭りは 15 日、16 日夜半に建物内部で行われる僧侶・行者による読経、 新しい消防ポンプを購入した時の記念式のもの。 本堂前庭で行う護摩供養で、とりわけ大護摩供養は豪快で、その炎で「四天 荷車のようなものに載っているのが「手押し式 の凧」を中央高く舞い上げ、また護摩熾火(おきび)の火渡りの儀式が行わ 消防ポンプ車」です。手前に立て掛けられてい れます。 るのは梯子。周りには数十本の鳶口が立てられ ています。 ●中山間地の消防力危機 佐久間町浦川にある浜松市営宿泊施設、さく 消防団員の減少に歯止めがかからない。特に 20 代の団員が県内全体で 10 ま自然休養村「清流荘」にも、ポンプ車が展示されています。 年前の 7 割に満たない。中山間地ではかつて農家や自営業を営む住民が中心 となって消防団を組織していたが、近年は都市部に通勤する会社員が多数を ●森林鉄道のレールの再利用 半鐘台 占め、日中の災害に対応できる団員が少なくなった。静岡市消防防災局の担 昭和 34 年(1959)まで、春野の山里を走っていた気田森林鉄道。廃線と 当者は「中山間地の状況は深刻。このままでは消防力が落ちかねない」と深 なって使われなくなったレールを再利用してあちこちに建てられたのが、半 刻に受け止める。 鐘台です。ほぼ同じ三脚構造ですが、レールの向きやデザインはそれぞれ個 「6、7 割が会社員。すぐ出動できるのは全体の 3 割ほど」という。昨年、 性的。 20 代後半の会社員 1 人と農家 1 人が入団した。数年ぶりという。それでも 20 代は 1 割余り。小沢本部長は「新入団員が少ないために、何 10 年も活動 する高齢団員もいる」と説明する。団員がいなくなって「器具置き場」でポ ンプなどの機材が管理できなくなり、置き場を手放す集落も出てきた。 (2009 年 7 月 8 日付「静岡新聞」より) 秋葉神社上社祈祷控室に、大正 5 年(1916) 赤岡 領家 一草 平木 篠原 門島 川上 行師平 に作られたというレトロな消防ポンプと纏 が展示されています。 大き な車輪 が付い た台車に乗せられた小さな手押しポンプで すが、川や防火用水などから吸い上げた水を 約 15 メートル先まで放水できたそうです。 勝坂 里原 金川 牧野 おそらく日本中の半鐘台や火の見櫓のほとんどは、戦時中にはまるごと供 出され、姿を消したはず。現在、私たちが目にするものは、戦後、自主的な 消防団が組織され、集落の復興を祈念して建てられたものです。 森林鉄道の廃レールを再利用した半鐘台は、水窪や龍山でも見ることがで きます。 ●半鐘記念碑 浜松市天竜区船明地区の船明自治会(内 山弘会長)は、撤去された火の見やぐら跡 地に半鐘 4 個を集めてつるした「火の見や ぐら記念碑」を設置した。 記念碑は高さ約 2.7 メートル。四角すい の屋根の下には地区内で使われた 4 個の半 鐘を集めてつり下げ、台座部分に火の見やぐらの「昭和二十七年十月竣工 光明村消防團第二分團」と書かれた銘板を使った。 市では同地区の火の見やぐらが老朽化して地震の際に倒壊の危険があり、 また現実的には利用価値が低いことなどから昨秋に撤去。あわせて地区内に あった半鐘も撤去した。 内山会長は「毎年、冬期に火の見やぐらより打ち鳴らす半鐘の音は、区民 にとって防火の啓蒙(けいもう)となって引き継がれてきた」と話し、自治 会では「防火の心得を忘れずに」と記念碑設置を決めて準備を進めていた。 (2010 年 4 月 28 日付「中日新聞」より)
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