特別レポート

2015 年 10 月 7 日作成
ブラジル市場・インサイト
景気低迷と政局混迷で揺れるブラジル金融市場の行方を分析
● ブラジルは不況から抜け出すことが出来るのか
● インフレが収まるのは何時なのか
● 通貨下落や金利上昇のリスクは大丈夫なのか
● デフォルトの可能性は
● レアルは反発するのか
● 再び投資適格級へ復帰出来るのか
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はじめに
先日、 米格付け大手スタンダート ・ プァーズ社(S&P)によって外貨建て長期債務格付けを投資適格から外され投機的
水準に引き下げられたブラジルの経済は厳しい状況から抜け出す糸口が見出せていません。
ブラジル経済は厳しい局面にあり、 景気後退とインフレが同時に進行するスタグフレーションが深刻化するなかでの財政再
建では目に見える成果は上がらず、 さらにジルマ大統領の支持率は大きく低下、 議会との不協和音が経済政策運営を
困難なものとしています。 こうしたなかでブラジルは経済を立て直し、 財政再建を成功させて再び投資適格へと回復するこ
とが出来るのでしょうか。
深刻化する経済情勢 09 年以来の景気後退は 2 年連続のマイナス成長か
2015 年度のブラジル経済はリーマンショック後の 2009 年以来の景気後退局面が予想され、 更に 2016 年度もマイナ
ス成長が続くと見られています。 今回の景気後退の最大の要因は個人消費の減退と固定資本投資の減少にあります。
2009 年の景気後退後の 2010 年には景気刺激策と低金利が消費を高め、内需主導で 7.5%もの高成長となりました。
しかしその後も消費拡大策を講じるなかで効率の低い公共投資などを続けた結果、 物価が上昇する一方で財政赤字が
拡大。 また、 通貨レアルが対ドルで上昇したことで輸入拡大による国内生産の後退という副作用も徐々に進行しました。
そうしたツケが昨年度から表面化、 インフレ進行による国内消費の減少、 中国景気の後退の影響もあって固定資本投
資の減少が内需の大幅縮小につながりました。 2015 年は金融 ・ 財政を引締める 「財政再建の年」 として位置付けら
れたことで、 増税と支出削減、 金利上昇などによって個人所得 ・ 消費の環境は悪化し、 来年もこの状況が続くと予想
されています。 景気の下支えは外需。 輸入が大幅に減少するなかで通貨安による交易条件の改善を背景に輸出は増
加幅が拡大、 結果、 純輸出は 2003 年の通貨危機以来の大幅なプラス寄与となる模様です。
GDP:2010=100
成長率%
GDP(季節調整済)と成長率の推移(四半期ベース)
190
GDP指数
180
10
成長率(年率)
8
170
6
160
150
4
140
2
130
0
120
-2
110
100
-4
Ⅰ
Ⅲ
07
Ⅰ
Ⅲ
08
Ⅰ
Ⅲ
09
Ⅰ
Ⅲ
10
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
11
Ⅲ
12
Ⅰ
Ⅲ
13
Ⅰ
Ⅲ
14
Ⅰ
Ⅲ
Ⅰ
15
Ⅲ
17
Ⅰ
Ⅲ
18
データ元:ブラジル中央銀行 NFS が作成
インフレ圧力は徐々に後退 2016 年半ばから利下げサイクルに
限である 6.5%を大幅に上回っています。 この背景には財政緊縮策の一環
Ⅰ
16
2015 年第 3 四半期以降は予想値
景気後退にも関わらず、 インフレ率は 9%台半ばと中央銀行の目標圏の上
Ⅲ
16
%
消費者物価と政策金利の推移と見通し
12
14
10
12
8
10
6
人消費と設備投資は冷え込んだ状態となっており、 需要低迷によるインフレ
8
4
圧力の後退と、 政府規制料金引き上げの影響が剥落してゆくことなどから
6
として燃料価格への増税、 公共交通機関の運賃や電力価格等の政府規
制価格が大幅に引き上げられたことが背景となっており、 これが教育費や他
のサービス価格まで波及していることが物価の高騰を招いています。 ただ個
2016 年には物価は大幅に鈍化してゆくと考えられます。
右図表 2015 年 9 月以降は予想値
4
2
政策金利(左軸)
消費者物価(右軸)
10
11
12
13
14
15
16
17
データ元:QUCK 社
0
景気好転は 2016 年後半から
前述のようにインフレ圧力が後退し、 中央銀行がインフレ目標圏への収斂を視野に入れると、 景気浮揚に軸足を移し政策
金利を引き下げに転じると予想され、 これがきっかけとなり、 家計 ・ 企業への金利負担の低減を通じて景気回復を促すこと
となるでしょう。 その時期は政局にもよるものの 2016 年後半に目に見える形になって現われると予想されます。 政策金利の
動向と実質成長率の間には相関性が見られ、 政策金利が低下する
と約半年後に実質 GDP はプラスとなっています。(右図参照) 政
策金利が 14.25%で据え置かれるとなれば、 不況は 2016 年上
期で終了する可能性が見て取れ、 力強い景気回復に至るものでは
実質金利 ( 四半期)と政策金利変動の推移
実質成長率(四半期)
政策金利引き下げが先行して 6
景気が回復に転じるとの予想
5
2
0
-2
-5
-6
による内需回復によって 2016 年下期は穏やかなペースでの景気回
復が期待されます。 ただ財政再建がもたつき、 追加的な公共料金
要となった場合、 景気回復は更にずれ込むリスクはあるでしょう。
10
先行指標(政策金利前年差)
10
ないにしろ、 外需は通貨安による輸出が牽引し、 物価の落ち着き
の引上げや、 通貨安が一段と進行して追加的な金融引締めが必
政策金利は半年先行
15
-10
データ元:ブラジル中央銀行、 地理統計院
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
-10
リオ ・ オリンピックの経済効果は
2016 年 8 月に開催されるリオ夏季五輪の経済効果は限定的となる可能性が高いと考えます。 オリンピックに関わるインフラ
整備を含めた予算は約 380 億レアルとなっていますが、 2014 年のサッカー W 杯では関連投資が予算の 7 割程度にとどまっ
ており、 今回も政局混乱などを背景にオリンピック関連投資は一部見送られるのではと見られています。 それでも下期の景気
回復への弾みになる可能性は高く、 経済効果が全く期待出来ないわけではありません。 財政緊縮を進める政府にとって五
輪関連を中心としたインフラ投資と輸出促進が成長戦略の軸となって景気回復の足掛かりを作り出すと期待されます。
上下院議会の歩み寄りで財政再建の進展が期待される
今年、 政府が優先課題とした財政再建はなかなか成果が上がらず、 先日、 米大手格付け会社である S&P 社は外貨建
て長期債務の格付けを BB+ と投資適格級から外し、 投機的水準に引き下げました。 8 月末に政府が議会に提出した
2016 年度の予算案が赤字となり、 基礎的財政収支(プライマリーバランス)を対 GDP 比で▲0.34%としたことが直接的
な格下げの引き金になったと見られます。 その後政府は予算案を修正、 財政赤字是正のための総額 649 億レアル(GDP
比 1.1%、 約 2 兆円)の追加財政健全化策を公表しました。 追加策の内訳は、 社会保障支出やインフラ投資などの削
減を含む歳出削減策が 260 億レアル、 銀行小切手税(CPMF)の復活などの歳入増加策が 284 億レアルなどとなってお
り、 これら追加財政健全化策の実現により 2016 年の基礎的財政収支の赤字見通し(GDP 比 0.34%)を、 予算
案公表前の計画である GDP 比 0.7%の黒字へ是正可
能との見方を示しています。 当初、 上下院議会の中核を
占めている民主運動党(PMDB)は新たな財政再建案
について否定的な態度を示していましたが、 10 月初めに
発表された新閣僚人事にて大統領が民主労働党の閣僚
を増やしたことから財政再建案への歩み寄りが期待されてい
ます。 また、 ジルマ大統領に対して大統領の罷免を求め
る動きが徐々に後退すれば、 遅延が懸念された財政再建
が進められ S&P 社以外の大手格付け会社による格下げ
懸念は次第に納まって行く可能性が出て来ました。
削減
再建案の内訳
単位:レアル
増税
公務員給与の凍結
70 億
輸出税
公務員新規採用停止
15 億
PIS/Cofins
定年退職延長停止
12 億
JCP
11 億
給与最高額の導入
8億
Sistems S
80 億
20 億
8億
経費削減
20 億
CPMF
320 億
PAC 住宅計画の削減
48 億
所得税
18 億
PAC 一般経費の削減
38 億
社会保健経費削減
38 億
農業特典の削減
計
11 億
260 億
456 億
ブラジル予算局より
通貨下落に対する耐性は強化され危機的状態に陥る可能性は低い
レアル相場が急落すると、対外債務の返済負担の増加につながり、金利の上昇は国債発行などの資金調達を難しくするといっ
たイメージでデフォルトなどの債務危機リスクを連想させる記事が新聞紙上などでしばしば論点に挙げられています。 しかし、
対外債務の抑制や外貨準備の積み増し、 自国通貨建て債務割合の上昇などによって通貨安に対するブラジルの耐性は強
化されています。
対外債務の GDP 比率は 15%前後とレアル ・ ショック時の 40%超を大きく
外貨準備高と対外短期債務比率の推移
データ元:ブラジル中央銀行
億ドル
150%
4,000
下回っているうえに、 流動性を評価する尺度として用いられる対外短期債
3,500
務残高比率(対外短期債務 ÷ 外貨準備高)は IMF が良好とする
3,000
100%を大きく下回る 16%程度と、 短期的な外貨資金繰りに問題がない
2,500
ことが示されています。 中央政府をはじめとした公的部門の対外債務は
2,000
2000 年代前半には対外債務全体の 4 割強を占めたものの、 2015 年
1,500
6 月末の水準では 2 割程度まで低下、 加えて国債の外貨建て比率の低
1,000
下などによって公的部門の通貨下落に対する耐性は強化されているうえに、
500
出資、 貸付等により 2009 年から IMF に対しても債権国となっています。
0
100%
50%
0%
2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014
また対外債務の比率が公的部門に比べて高い民間企業では外貨債務に
外貨準備高(左軸)
短期対外債務÷外貨準備
対する為替ヘッジ率は高く、 なかでも外貨債務の多いとされるペトロブラスの場合、 7 割程度はヘッジ済みといいます。 公
的部門の外貨建て債務の比率が低く、 民間企業の外貨債務に対する為替ヘッジ率が高いことは、 通貨安による債務負
担増のリクスの軽減につながると見られ、 新聞紙上で報じられているような外貨債務不履行といった事態はすぐに訪れること
はないと考えます。 ただグローバルな金融市場での資金調達環境については厳しくなっていることに違いはないと思われます。
金利上昇、 借り換えリスクは国債管理で強化
通貨安リスクに続いて金利上昇リスクが及ぼす問題点を調べてみると、 こちらもブラジル財務省の厳格な国債管理によって
資金調達リスクは軽減されていることが理解されます。 S&P 社は外貨建て長期債務の格付けを投機的水準へと引き下げ
ましたが、 実際のブラジル国債の債務不履行(デフォルト)リスクはどの程度高いのか分析してみましょう。 ブラジル政府は、
過去の債務危機の経験を受けて国債管理政策を厳格化しており、 市場リスクや借り換えリスクの低減に努めてきました。
国債発行の種別で見ますと為替や金利変動の影響を受ける為替連動債や変動利付債の発行額が全体に占めるシェアは
2002 年の 89.7%から 24.9%へと大きく低下する一方、 固定利付債やインフレ連動債は逆に 10%程度から 75.1%
へと大きく増加しています。 財務省は発行種別を固定利付債やインフレ連動債にシフトすることでレアル安や政策金利の上
昇による債務額の膨張や、 支払金利の増加を軽減できるように国債管理を厳格化してきました。 また償還年限も 3.6
年程度から 4.6 年程度と長期債発行へとシフトしており、 国債の満期年限構成の長期化は日本の財務省も重要視する
ほど借り換えリスクの低減につながるとされています。 さらに今後 1 年間以内に償還を迎える国債が全体に占める割合は
2012 年当時の 33%から 21%へと大きく低下しており当面の借り換えリスクも抑えられた状態にあります。 こうしてブラジル
財務省は発行種別のみならず国債の満期構成の長期化によって金利上昇等の市場リスク、借り換えリスクを軽減しており、
新聞紙上で論ぜられているような資金調達難にすぐさま陥る可能性は低いといえるでしょう。 なお、 2015 年については 8
月までに 8 割程度が満期を終えており、 既にピークは過ぎて
国債管理の変化
2002 年
2015 年
います。 外貨建て国債の比率は 2003 年当時の 24%
変動金利、為替連動債
89.7%
24.9%
から 4.7%程度と大幅に低下、 その一方でレアル建て国
固定利付債、インフレ連動債
10.3%
75.1%
債の海外投資家の保有比率は上昇しています。 もっとも
平均残存年数
3.6 年
4.6 年
レアル建て国債の場合、 政府の債務負担の膨張は発生
短期債 ÷ 総発行残高
32.7%
21.2%
23%
7%
しません。
外貨建て比率
データ元:ブラジル財務省
通貨の落ち着きどころは
通貨レアルは 9 月後半に下げ幅を拡大、 対米ドルで 2002 年につけた安値 3.95 レアル / ドルを更新、 4.2 レアル / ドルと
年初来下落率は▲15%と 2008 年リーマンショック時の下落率(▲35%)や 2002 年のレアル ・ ショック時(▲41%)に
は及ばないものの、 10 月初めは 3.9 レアル / ドル台までやや回復するなど荒い動きとなっております。 中央銀行はレアル安加
速を緩和するために年初から縮小していたスワップ取引の額を増やし始めました。 ただし、スワップ取引はボラティリティ(変動幅)
を低減するだけで本格的な下落対抗の介入手段には至っていません。 ブラジル中央銀行は景気への配慮もあって当面政策
金利を据え置く方針を打ち出している。 通貨下落を阻止するための手段として政策金利の変更を行わないとすれば、 為替市
場への介入をこれまでよりも積極的に行ってくる可能性は高いと思われます。 トンビニ中央銀行総裁からも潤沢な外貨準備を
用いての為替介入の用意があるとの発言も出ており、 一段のレアル下落については為替市場に実弾(ドル売り ・ レアル買い)
介入が入る可能性があると思われ、 今後の動きを注意深く見守って行きたい場面です。
過去のパターンからすると来春あたりから反発基調へ
レアルの落ち着きどころはどの水準なのでしょうか。 2002 年のレアル ・ ショック、 2008 年のリーマンショックのケースと見比べて
みたのが下記の図表です。 2008 年の水準を下回って 2002 年当時の最低水準に接近している状況からすると、 そろそろ
底打ちの兆しが見え始めて来ると思われます。 また、 過去2回の急落ではその翌年春頃から反転上昇する動きとなっており、
今回も 2016 年下期の景気回復が見込まれるようになればレアルは対ドルで反発する可能性があると予想されます。
いずれのケースも年初から 10 ~ 12 ヶ
月程度で底を打ち、 翌年 3 月あたりに
反転上昇していることが示されています。
レアル・米ドル相場
1.50
レアル・米ドル相場 (指数化処理)
120.00
レアル・ショック 2002年~
110.00
リーマン・ショック 2008年~
100.00
今回 2015年~
90.00
80.00
2.00
2.50
70.00
3.00
3.50
4.00
レアル・ショック 2002年~
リーマン・ショック 2008年~
60.00
今回 2015年~
4.50
50.00
年初の値を100として指数化
月
データ元:ブラジル中央銀行 NFS が作成
ソブリン格付け 投資適格級への復帰のタイミング 平均的には 7 年程度
近年で投機的水準に引き下げられた後に投資適格級へと格付けが回復したのは7ヶ国程度で、 回復までにかかった期間の平
均は7年前後となっています。 ただ韓国のように 2 年で投資適格へ
格下げ
格上げ
1997
1999
2
インドネシア
1997
2011
14
スロバキア
1998
2001
3
コロンビア
1999
2011
12
ウルグアイ
2002
2011
9
ルーマニア
2008
2011
3
アイルランド
2011
2014
3
復帰したケースもあればインドネシアのように 14 年近くかかった国もあ
韓
り期間は様々です。 最近では欧州危機でアイルランドが 2011 年に
投機的水準に引き下げられ、 2014 年 1 月に投資適格級に復帰
しています。 ブラジルが再び投資適格級に復帰するためにはどのよう
な条件が必要なのか、 どの程度の年限がかかるのか、 過去のケース
を探ってみると意外なことが判明しました。
国
年数
出所:S&P 社及びムーディーズ社
景気回復のスピード、 財政収支、 経常収支の改善は復帰への絶対条件ではない?
意外にも景気回復は格付け変更にあまり影響しないようです。 韓国やスロバキア、 ルーマニア、 それとアイルランドは格下げ
から 3 年以内に投資適格に復帰しましたが、 そうでない国の場合はほぼ 10 年程度の期間を要しました。 景気回復という
側面にスポットライトを当ててみると、 投資適格への復帰を 3 年程度であった国と 10 年程度かかった国のどちらのケースも格
下げ後 1、 2 年程度で景気は回復に転じておりさほど違いは見られませんでした。 また財政収支(プライマリーバランス)の
黒字化も影響していないように思われます。(下図参照)
更に経常収支(赤字度合い)を見比べた場合も、 むしろ復帰
が早かった国のほうが赤字幅は拡大しており、 むしろ格付け復帰の遅い国のほうが改善していました。 つまり景気回復や財
政収支、 経常収支の改善は格付け会社にとって格上げの絶対必要条件になっていない可能性が高いことがデータによって
示されています。
GDP成長率
8%
4%
6%
3%
4%
2%
2%
1%
0%
0%
-2%
-1%
早期に復帰した国
-4%
0%
-2%
格下げからの経過年数
0
1
2
3
4
5
6
7
復帰に長く要した国
-8%
格下げからの経過年数
-5%
8
早期に復帰した国
-6%
復帰に長く要した国
-4%
-10%
-4%
早期に復帰した国
-3%
-8%
経常収支(対GDP)
4%
2%
-2%
復帰に長く要した国
-6%
プライマリーバランス(対GDP)
0
1
2
3
4
5
6
7
格下げからの経過年数
-10%
8
0
1
2
3
4
5
6
7
8
インフレが穏やかで公的債務残高の比率の低い国は投資適格級へ早く復帰
復帰が早かった国とそうでない国とでは何が異なっているのか調べてみますと、復帰の早かった国では総債務
残高の対 GDP 比率が比較的低い水準であったことと、物価の水準も遅い国に比べて低く抑えられていたことが
わかりました。格付け会社は投資適格級の債務残高比率についてはある程度水準で線引きしており、当初から
債務残高の比率が低い国は景気の回復によって早期に財務基盤が強くなる一方で、債務残高比率の高い国は投
資適格への復帰とみる比率まで低下するのに時間を要していたのではと考えられます。そのため財政収支(プ
ライマリーバランス)の推移も格付け会社はさほど重要視していないようです。
また物価の水準も格付け見直し判断のひとつの
になっている可能性があります。韓国やアイルランドなどの
復帰の早かった国は格下げされた時点での物価は 10%未満であり、その後 5%程度まで低下、安定しました。
一方復帰の遅かったインドネシアやコロンビアといった国の物価は 15%を超えており、その後も 8%前後で推
移しています。恐らく復帰の早かった国では通貨安を背景にインフレが高騰した後、物価が落ち着き、また通
貨が落ち着いたことによって国際金融市場での信頼感回復を格付け会社が認めたのではと推測されます。逆に
物価、通貨ともにコントロール出来ない国は国際金融市場での信頼性が薄いと格付け会社が位置付けている可
能性が伺われます。
公的債務残高比率(対GDP)
消費者物価の推移
35
90.00
80.00
30
早期に復帰した国
25
復帰に長く要した国
60.00
50.00
20
40.00
15
30.00
20.00
10
10.00
0.00
5
0
70.00
0
1
2
3
4
5
6
7
8
格下げからの経過年数
0
1
2
3
早期に復帰した国
4
5
6
復帰に長く要した国
7
8
ブラジルの復帰は 3 年後 ? 財政再建の進捗が鍵
投資適格級への復帰の鍵が債務残高比率と物価動向とすれば、 その水準はどこにあるのでしょうか。 IMF(国際通貨基金)
によれば一般的に良好とされる新興国の公的債務残高の対 GDP 比の値は 40%前後とされています。 必ずしも格付け会
社が判断する数値ではないにしろ参考値として考えることが出来るでしょう。
ブラジルの場合は公的債務残高が 8 月末の時点で対 GDP 比 65.3%程度となっており新興国の値としては高い水準ではあ
るものの、 前回投資適格に引き上げられた 2008 年当時の数値 61.9%から大きく乖離した値ではありません。 40%程度
まで下がるにはかなりの時間を要しますが、 経済規模が世界的に高い各国の平均値 82%からしてさほど大きくないことを考
慮すれば公的債務残高が 60%前後までの低下が格付け復帰の条件になると考えます。 これは先日議会に提出された修
正後の予算案(基礎的収支が GDP の 0.7%程度)を達成し、 更に 2017 年度も目標値の 1.5%を達成出来れば公
的債務残高の対 GDP 比率は 60%に向けて低下してゆくと見られ、 3 年後の 2018 年には投資適格への復帰の条件の
一つが達成できると期待されます。
次に物価ですが、先日ブラジル中央銀行が発表した 「インフレ・レポート」 によれば今年の物価は 9.5%で高止まりするものの、
来年には中央銀行の目標圏である 5.3%、 2017 年には 4.7%へと低下して落ち着くと見られています。 需要後退と政府
規制料金引き上げ要因の剥落に加えて通貨が落ち着き出せば物価は一段と安定するのではないかと予想されます。 前述し
たように格付け復帰が早い国は物価が 5%程度と各中央銀行の目標圏内まで低下しており、 ブラジルもまた中央銀行のレ
ポートのように低下すれば投資適格復帰への条件が整うと期待されます。
また S&P 社とは別の大手格付け会社、 ムーディーズ社は景気回復も格付け見直しの要素と明言しており、 そうした意味合
いでは 2016 年下期から期待される景気回復が 3 年程度の早期での投資適格級への復帰を期待させる材料になると考え
られます。
カントリーリスクはやや行き過ぎから修正へ
景気低迷、 政局混迷によってブラジルのカントリーリスクは 5 年物 CDS(クレジットデフォルト ・ スワップ)では 500bps 近いプ
レミアムがついた状態です。 ブラジル同様に景気低迷が続きウクライナへの内戦問題を抱えるロシアでさえ 3360bps 程度で一
度破綻寸前となったキプロスやチュニジアをも上回る水準となっておりやや行き過ぎと考えられ、 いずれ 200 台半ばあたりまで修
正低下して来ると予想され、 通貨、 国債ともに上昇に転じると期待します。
以上
5 年物 CDS、 10 年物国債利回りとドル ・ レアルの推移
600
5年物CDS(左軸)
10年物国債利回り
国債利回り%
ドル・レアル
ドル/レアル
16 1.00
15
500
13 2.00
400
12
300
2.50
11
10
200
9
8
100
7
0
1.50
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QUICK 社とブラジル中銀のデータを元に NFS が作成、 2015 年 9 月以降は予想値
日本フィナンシャルセキュリティーズ株式会社 金融商品推進部作成
1. 外貨建て債券取引にかかるリスク
重要な注意事項
外貨建て債券取得時よりも外貨の円に対する為替水準が低くなった場合(円高時)には債券を円換算した
価値は下落し、反対に外貨の円に対する為替水準が高くなった場合(円安時)には債券を円換算した価値
為 替 変 動 リスク
は上昇します。したがって利金・償還金もしくは債券売却代金として支払われる外貨の円に対する為替水
準によって上下し、これにより投資元本を割込む恐れがあります。
金融商品市場における相場その他の指標にかかる変動などにより、損失が生じる恐れがあります。市場価
価 格 変 動 リスク 格は基本的に市場の金利水準の変化に対応して変動します。金利が上昇する過程では債券価格は下落し、
逆に金利が低下する過程では債券価格は上昇することになります。したがって、償還日よりも前に換金す
る場合には市場に応じた価格での売却となりますので、投資元本を割込む恐れがあります。
信 用 リ ス ク
発行体の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本割れや支払いが
遅延または不払いとなる恐れがあります。
カントリーリスク 利金・償還金もしくは売却代金として支払われる外貨発行国の国情の変化により、投資元本割れや途中売
却ができなくなる恐れがあります。
流 動 性 リ ス ク 市場環境の変化により流動性(換金性)が著しく低くなった場合、途中売却ができなくなる恐れがありま
す。
2. 外貨建て債券取引にかかる手数料等諸費用について
■ 外貨建て債券を三京証券と相対で取引 ( 店頭取引)する場合は、購入対価のみをお支払いいただきます。
■ また外貨建て債券の取引に際して円貨から外貨へ、もしくは外貨から円貨へ交換する際には外国為替市場の動向をふまえ
て三京証券が決定する為替スプレッドを加味した為替レートを適用するものとします。当該スプレッドについてのご質問
は担当者もしくは最寄りの店頭にお尋ねください。
■ 外貨建て債券のお取引に際しては「外国証券取引口座設定申込書」を取り交わす必要がございます。三京証券約款集の
「外国証券口座約款」をご一読ください。
3. 外貨建て債券取引にあたっての留意点について
● お申込みの際は、必ず『外貨建て債券の契約締結前交付書面』をお読み頂き、説明を受けご理解して頂いたうえで、お客
様ご自身の判断によりお申込みください。なお、不明な点があれば担当者にお問い合せください。
● 利金・償還金ともに外貨建てですが、三京証券ではこれを原則円貨に交換して、お客様の口座に入金いたします。
● 国内受渡は通常、約定日から起算して4営業日目 ( 約定日を含む)となります。
● 国内での利金・償還金のお支払いは各利払日、償還日の翌営業日以降となります。
● 既発債(既に発行され流通市場で取引されている債券)につきまして、販売価格、買取価格は随時変動いたします。
● お客様が三京証券にてご購入された債券は「外国証券口座約款」に基づき証券指定の海外保管機関において保管されます。
● 無登録格付け会社によって付与された信用格付けに関しては、「無登録格付に関する説明書」をご確認下さい。
● 外貨建て債券のお取引は、クーリング・オフの対象にはなりません。
金融商品取引契約をされる場合、当該金融商品の「契約締結前交付書面」
(もしくは目論見書及びその補完書面)
また
は「上場有価証券等書面」の内容を十分にお読みいただき、
ご理解いただいたうえでご契約ください。
この資料は個々の投資家の特定の投資目的、投資金融商品または要望を考慮したものではありません。
ここに掲載した過去の実績や数値は必ずしも将来の成果を示唆するものではありません。投資に関する最終的な決定
は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いいたします。
この資料は日本フィナンシャルセキュリティーズが信頼できると判断した情報等に基づいて作成されたものですが、そ
の情報の正確性を保証するものではありません。
また、
この資料に 記された意見や予測等は資料作成時点での日本フィ
ナンシャルセキュリティーズの判断であり今後予告なしに変更されることもあります。本資料に記された記載の図や表は
イメージであり正確性・完全性について当社が責任を負うものではありません。
この資料は、作成時の法令等・諸規則を
もとに、一般的な説明を目的として作成されたものです。各種税制は今後も変更される場合がありますのでご注意くださ
い。具体的な税法上の質問や対策などは税理士等の専門家にご相談ください。
有価証券は預金や保険契約とは異なり、預金保険・保険契約保護機構の保護対象ではありません。
日本フィナンシャルセキュリティーズ及びその関係会社・役職員が、
この資料に記載されている証券もしくは金融商品に
ついて、
自己売買または委託売買取引を行う場合があります。
金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第565号 加入協会:一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
当社は、金融商品仲介業者として岡藤グループの三京証券株式会社で取り扱っている外国債券をご紹介しています。
所属する金融商品取引業者 名称:三京証券株式会社 関東財務局長(金商)2444号 加入協会:日本証券業協会