修士論文要旨

修士論文要旨
論文タイトル:「企業経営における環境会計に関する研究―日中鉄鋼メーカーを中心に―」
学籍番号:AM13030
氏
名:邵晋涵
指導教授:高橋
勝教授
【論文の構成】
はじめに
第 1 章 鉄鋼業界における環境問題の取組み
第 2 章 環境会計のフレームワーク
第 3 章 環境管理会計の構築
第 4 章 日本における鉄鋼メーカーの環境会計
第 5 章 中国の環境会計について
おわりに
【論文の内容】
1.問題意識
大量生産・大量消費・大量廃棄で特徴づけられる20世紀型の社会経済システムは、公害問題、廃
棄物問題、地球温暖化問題等さまざまな環境問題を生み出してきた。このような環境問題に対し、3R(リ
デュース・リユース・リサイクル)活動を推進し、省エネルギー資源、廃棄物の最小化、リサイクル再
利用化など環境配慮の経営に取り組むことは企業にとって不可欠であると認識されている。
現代の企業は利益拡大化を目的とする組織体であるが、社会の一員としての企業市民でもなければな
らない。このため、企業は「利益性」と「社会性」という二つ概念を調和化・共生化することが求めら
れている。企業は「環境経営」を基軸とし、環境への負荷の少ない環境保全型社会の構築に貢献するべ
きである。このためには、環境会計の導入により、企業はどのような環境対策を行い、環境保全にどの
程度の貢献をしているか、環境保全コストと効果を把握することが有効である。
本研究では鉄鋼業界から新日鉄住金、JFE ホールディングス、神戸製鉄所、宝山鋼鉄株式有限公司の
4 社を選んで環境保全コストと保全効率・効果を検討、分析していく。鉄鋼メーカーを中心として研究
する要因は、鉄鋼生産・運送過程中で排出する二酸化炭素が他の産業より多いことにより、環境負荷が
多い。鉄鋼業は装置産業であり、環境対策設備を導入し、または生産設備の高効率化を図ることで、環
境保全と省エネルギーを実現することが求められており、環境保全コストと財務効果が検証しやすい業
界と言える。
2.研究目的
本研究は、主に2つ目的がある。それ(1)各鉄鋼会社の環境会計情報を定性・定量的に分析し、事例
企業の財務データと物量データを集計し、環境保全コストとその活動により得られた財務効果を分析・
検討する。(2)日本の鉄鋼メーカーの環境経営は現在世界トップレベルであり、本研究を通じ、中国の
鉄鋼メーカーが日本などの先行事例を参考に環境経営を導入することで業界の体質強化と中国の環境
問題改善につなげたい。
3.研究方法
本研究の研究方法について、企業データ分析、文献研究、上海現地研究の三つの方法を使用する。企
業データ分析については、事例企業の環境報告書を通してゼロエミッション取組みの効果としての副産
物・産業廃棄物の環境負荷集約度の経年変化を分析し、それにかかわる産業廃棄物処分コスト及び副産
物の再利用のための設備投資額の経年変化と対比させ、ゼロエミッション取組みの財務効果について分
析・考察する。文献研究については、劉博(2012)「鉄鋼業の環境負荷集約度と財務効果に関する研究―
新日鉄のゼロエミッション取組みの分析を中心に」『埼玉学園大学紀要第12号』を先行研究として参
考にする。上海現地研究については、上海環境エネルギー取引所への訪問研究をする。
4.研究結果
以上のようなことから、本研究は日中鉄鋼メーカーの環境会計の分析を通じていくつの結論を得た。
多くの国が「先に発展した後に環境整備」という過程を経験した。しかし、それでは環境回復コストが
環境予防投資より遥かに高くなる。鉄鋼業ではその経験を参考にするべきだと思う。持続可能な発展戦
略に沿って、環境と経済発展を有効に配慮する環境会計を認識するべきである。
日本鉄鋼業は、廃棄物処理場の逼迫や鉄鉱石・石炭などの資源価額の急高騰を直面し、中国・インド
などの発展途上国との国際競争が激化することに伴って、日本鉄鋼業のコスト競争力の低下に追い打ち
をかける可能性が存在する。副産物資源化の階段から更に遡って鉄鉱石と石炭の投入階段における資源
生産性の向上のための対策が求められる。そのために、鉄鋼生産の規模変化により柔軟に対応できる副
産物資源化設備の開発と導入が必要と考えられる。
まだ発展途上国である中国は、産業廃棄物問題をはじめとする環境問題が深刻化している。また、環
境会計の導入はまだ初期段階であり、統一された環境会計基準がないため、企業は環境への取り組みが
不十分であり、環境報告書を開示する企業は少ない。本論文では、日中の鉄鋼メーカーを研究対象とし
て、日本の大手鉄鋼メーカーに比べ、宝山鋼鉄はいくつかの課題が残っている。宝山鋼鉄はこれから環
境会計に準拠するガイドラインの制定、環境保全コストの細分化への認識、環境アカウンタビリティへ
の意識の強化に努力しなければならないと思っている。
【主要参考文献】
1.西澤 脩(2010)『環境保全の会計と管理』東京リーガルマインド
2.勝山 進(2006)『環境会計の理論と実態』中央経済社
3.河野 正男(2005)『環境会計の構築と国際の展開』森山書店
4.高 亮(2012)「日中の鉄鋼メーカーにおける環境会計の有効性に関する研究」アジア大学大学院修士論文
5.耿興龍(2010)「環境報告書における環境情報開示制度化―宝山鋼鉄株式有限会社と新日本製鉄株式会社の比較研究」
アジア大学大学院経営学研究論集
6.環境省『環境報告ガイドライン 2005 年版』平成 17 年 4 月
7.劉博(2012)「鉄鋼業の環境負荷集約度と財務効果に関する研究―新日鉄のゼロエミッション取組みの分析を中心に」
『埼玉学園大学紀要』第 12 号,pp127-130
8.劉博(2011)「鉄鋼業における環境負荷低減対策の物量および財務分析に関する研究」川口短期大学『川口短大紀要』
第 25 号,2011 年,pp33-41
9.趙 璋琳(2014)「中国の大気汚染に関する考察」富士通総研 経済研究所 pp6-8
10.山上達人 向山敦夫 国部克彦(2005)『環境会計の新しい展開』藤原印刷
12.
日本公認会計士協会(2000)『企業経営のための環境会計』日経 BP 社
12.長岡 正(2003)「循環型社会に向けた環境管理会計の可能性」環境経営学会編『サスティナブルマネジメント』日本
工業新聞社、2003 年 6 月、第 3 卷 1 号
13.旧新日鉄株式会社『環境・社会報告書』2003~2013 年版
14.旧住友金属株式会社『環境・社会報告書』2002~2009 年版
15.JFE ホールディングス『環境・社会報告書』2002~2010 年版
16.宝山鋼鉄株式有限公司『CSR ・環境報告書』2012~2013 年版