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Hirosaki University Repository for Academic Resources
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いわゆる「あがり」の認識に関する意識調査と性格
麓, 信義, 山路, 啓司, 金子, 龍一
弘前大学教育学部紀要. 68, 1992, p.93-104
1992-10-30
http://hdl.handle.net/10129/464
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publisher
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
93
弘前大学教育学部紀要 第 6
8号 :9
3-1
04 (
1
99
2年 1
1
1
月)
Bul
l
.Fac.Educ.Hi
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akiUni
1
㌧68:9
3-1
04 (
Oct
.
1
9
92)
いわゆ る「あが り」の認識 に関す る意識調査 と性格
Pe
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麓
信義 *
NOBUYOSHIFUMOTO
要
山地
啓 司 ** 金子
龍 一 ***
KEI
J
IYAMAJ
I RYUI
CHIKANEKO
旨
短距離 とフィール ド競技 の高校生選手 を対象 に,試合後 にあが りの兆候 と試合でのあが り認
識 について調査 し,後 目, あが りやす さの 自己評価調査,特性不安検査, お よび, YG性格検
査 を行 い, 自分があが りやすいか どうかの 自己認識 にそれ までの試合での経験や性格が どう関
与す るか とい う観点か ら, あが りやすいか どうかの 自己認識 と実際に試合場面であが っていた
か どうかの内省報告 との関係 を検討 した。 あが りの兆候 の多少 とYG性格検査 の情緒不安定因
子 とは関連があったが,当該試合であが ったか どうかや, 自分があが りやすい人間か どうかの
評価 は,性格検査で示 され るパー ソナ リテ ィ尺度 とほ とん ど相関 しなか った。 この ことか ら,
試合への意志性 の ような ものがアンケー トの回答へのバ イアス となることが確認 された。 この
ことは,「あが りやすい性格」とい うものをあが りの兆候 が出やすい性格 と定義す るとある程度
あてはまる性格類型が存在す るが, あが りやすい と自覚 している人 と定義す る と, その ような
性格 の人 は既存 のパー ソナ リテ ィ尺度か らはほ とん ど推定で きない ことを意味す るので,今後
の研究 の取 り組 み方の吟味が必要 と思われ る。
試合で実力 を出 し切 れなかった場合,「あが って しまって」 とい う言 い方が よ くされ,「あが
り」の研究がスポー ツ心理学の重要 なテーマになっている。 しか し, このあが りは日本独特 の
a
geFr
i
ghtとい う言葉 は英文 のスポー ツ心理学書 には登場 し
言葉 の ようで,その英訳である St
ない。
過緊張 とい うことか ら, あが りとアクチベ- ションレベルの関係が示唆 され るが, それ につ
いては,麓 1
)がすで にまとめてある。 また,稽古場横綱 とい う言葉があるように, あが りやす
さの個人差が問題 とされ るが, それ らの先行研究 の総括 も多 くの体育心理学やスポーツ心理学
の教科書 にあるので省略す る。
ところで, これ までのあが り研究 の多 くは質問紙法 を用いた調査であ り, そ こで得 られた回
答が意識 とい うフィルター を通 して変換 された ものである以上, 自分があが りやすい と自覚 し
ているか どうかが,質問紙 に回答す る ときのバ イアス となる可能性がある。 そ こで,麓 と成 田
2)
は, 自分があが りやすいか どうかの自己認識 にそれ までの試合 での経験 や性格が どう関与す
*
教育学部保健体育科教室
DEPARTMENTOFHEALTHANDPHYSI
CALEDUCATI
ON,
FACULTYOFEDUCATI
ON,HI
ROS
AKIUNI
VERSI
TY
**富 山大学教育学部
FACULTYOFEDUCATI
ON,
TOYAMAUNI
VERS
I
TY
***富 山商船 高等専 門学校
TOYAMANATI
ONALCOLLEGEOFMARI
TI
METECHNOLOGY
9
4
麓
信義 ・山地啓司 ・金子龍一
るか とい う観点か ら, あが りやすいか どうかの自己認識 と実際 に試合場面であが っていたか ど
うかの内省報告 との関係 を検討 した。 そ こで は, 自分が試合であが りやすい選手か どうかの自
己認識 は,性格 的要因 と関連 の高い一般的なあが りやす さの自己評価 をス トレー トには反映 し
ない ことが兄 い出 された。彼等 は, この自己認識 にバイアスをか ける要因 を試合への意志性 と
名付 け, あが り意識が生 じる過程 の理論的枠組 みを示 した。
しか し,彼等 の研究では,試合直後 にあが りの兆候 に関す る内省報告 は求 めているが,試合
自体があが りを伴 った ものだったか どうかの内省報告 は求 めていない。試合時 にどうい う状態
だったかの断片的な記憶か ら, その試合であが ったか どうかが判断 され, その積 み重ねで自分
があが りやすい選手か どうかの自己認識がで きて くると考 えると,試合直後 に当該試合であが
ったか どうかの判断 を尋ねた結果 も考察の対象 にすべ きであろう
。
そ こで,本研究で は, その点 を補 って,再度, あが り意識 の成立 とそれに対す る性格 の関与
を分析す ることにした。
方
法
調査対象
年の春のシーズ ンに開かれた A県における陸上競技 の全県大会 (3試
調査対象者 は,昭和 61
合)で決勝 に進出 した, または,ベス トエイ トに残 った短距離 とフィール ド競技 の高校生選手
である。延べ人数 は,2
5
3
名であるが,下 の調査内容 1と 2について 1試合以上の回答が得 られ
た選手 は男子4
2名,女子 4
2名であった。
調査内容
(
1) あが り兆候調査
試合前 日,試合当 日のウォー ミングアップか らコール まで とコールか らスター ト (
試技)
直前 までの 3つの時期 (
以後, A l, A 2, A 3,全体 をA 4とす る) に区分 して各 1
1
項目
よ りなるあが りの兆候 に対 して 3段階評価 をさせた。採用 した項 目は,麓等 によって妥当 と
された2
4
項 目に市村 によって妥当 とされた項 目か ら 9項 目を追加 した(
付表 1)。兆候がある
場合 は 2点,決 め られない場合 (
△) を 1点 として各時期 ごとに,平均兆候得点 を算出 した。
なお, この調査 とこれ らの項 目の妥当性 を検討す るために,別 の年 にT県選手権で次の調
査 2とともに追加調査 を行 った。
(
2) 試合でのあが りの処理調査
当該試合であがったか どうかの判断 と, スター ト (
試技) までのあいだにあが りを感 じた
か どうかの記憶, そ して, あが った場合 にどの ような処置 を とったかについて尋ねた (
付表
2)。今 回 は,あが ったか どうかの判断 を試合後 のあが り認識,あが りそ うだ またはあが って
いると感 じたか どうかの記憶 を試合前 のあが り認識 として分析対象 とし,処置等の記述 は対
象外 とした。
(
3) 特性不安検査
Spi
l
be
r
gerの STA I日本語版 7
)の特性不安項 目を用いて,通常の特性不安 を検査す ると
ともに,「
普段」を 「
試合の時 はいつ も」に変 えた質問 をして回答 された。 この結果 も同様 に
集計 して,試合時の特性不安 とした。
9
5
いわゆる「あが り」の認識 に関す る意識調査 と性格
(
4
) YG性格検査
辻同等 による検査用紙 (
高校生用) を用いた。
(
5) あが りやす さの自己評価調査
これ は,本人があが りやすい性格 だ と思 っているか どうかを 5段階で評価 させた。観点 は,
付表 3にあるように 4つである。
調査方法
1, 2の調査 は試合当 日に手渡 し, そ こで書かせ るか,後 日郵送 させ るか した。 3, 4, 5
の調査 は, この年の秋 に各高校 の顧問 を通 じて配布 し郵送 によ り回収 したため,男子 2
8名,女
子20名 の回答 しか えられなかった。 また, 1, 2について 2試合以上 データの獲 られた選手 は,
平均値 をその選手のデータ としたため,調査 の延べ人数 は,男子 5
1
名,女子 70名であった。
結
果
(
1) あが り兆候調査
3試合 の平均あが り兆候得点 は,表 1に示 したように,約 0.
5
点であ り,平均 して 4人 に 1
人が各項 目に○ をつけた ことになる。 どの指標 も平均得点 は女子のほ うが高かったが,有意
で はなか った。 また, A lか らA 4までの積率相関係数 はかな り高 く (
表 2)おおむね妥当
な調査 といえる。
TABLE1 MEAN AND S.D.OFAGARISYMPTOM SCALES
AI
A2
A3
A4
MALE
0.
5
0±0.
4
0 0.
51±0.
3
9 0.
5
7±0.
3
7 0.
5
2±0.
3
4
FEMALE 0.
6
0±0.
3
8 0.
5
5±0.
3
9 0.
6
7±0.
3
2 0.
61±0.
3
3
TABLE2
A 2
A 3
A4
MATRI
X OFCORRELATI
ON COEFFI
CI
ENTSBETWEEN
AGARISYMPTOM SCALES
0.
6
8(
0.
8
3)
0.
6
0(
0,
5
9) 0.
6
0(
0.
5
9)
0.
8
2(
0.
9
2
) 0.
8
8(
0.
91) 0.
8
2(
0.
7
8)
AI
A2
A3
NOTE 1: FI
GURESI
N PARENTHESESAREFORFEMALE
01
)
NOTE 2: ALLRsARESI
GNI
FI
CANT (
P<0.
0
9
6
農
信義 ・山地啓司 ・金子龍一
(
2
) あが り認識
試合前 と試合後 のあが り認識 を 3段 階で尋ねたので, あが る場合 を 3点, あが らなか った
表 3),試合前後 とも平均値 はほぼ同 じになるが,男女差
場合 を 1点 として平均値 を出す と(
が認 め られ た。女子 の方が明 らか にあが った と判 断す る率が高 い。
TABLE3
MEAN AND S.D.OFSELFRECOGNI
TI
ON SCORESOF
AGARIATLASTCI
IAMPI
ONSHI
PGAME
AFTERRACE BEFORERACE
MALE
FEMALE
1.
7
8±0.
6
9
2.
1
6±0.
5
0
**
1.
6
7±0.
8
2
2.
1
7±0.
7
7*
*
HSI
GNI
FI
CANT (
P<0.
01)BETWEEN MALEAND FEMALE
(
3) 試合 でのあが り認識 とあが り兆候得点 との関係
あが り兆候得点 とあが りの 自己認識 との積率相関係数 を計算 す る と (
表 4), ほぼ0.
5前後
の有意 な相 関が認 め られ た。
TABLE4
CORRELATI
ON COEFFI
CI
ENTSBETWEEN SELFRECOGNI
TI
ON
SCALESOFAGARIAND AGARISYMPTOM SCALES
AI
MALE
FEMALE
*
A2
A3
A4
AFTERRACE
BEFORERACE
0.
4
4
0.
3
9*
0.
3
9
0.
3
8
0.
5
3
0.
5
5
0.
4
4
0.
4
8
AFTERRACE
BEFORERACE
0.
3
4*
0.
4
4
0.
2
0
0.
3
3*
0.
4
6
0.
4
8
0.
3
5
0.
4
5
* *
*
*
**
***
***
**
* *
**
**
*
* *
HP<0.
0
01 HP<0.
01 *
P<0.
0
5
(
4
) 特性不安 とあが り認識 との関係
普段 の特性不安 は,男子45.
61±9.
90,女子45.
1
0±8.
39であ り有意差が ないが,試合時 の
特性 不安 は,男 子46.
64±1
0.
1
9,女 子52.
30±9.
04で有 意 差 (
p<0.
05)が認 め られ た。 ま
た,両者 の相 関 は,男子 で0.
70 (
p<0.
001),女子で0.
53 (
pく0.
05) と有意 であった。
次 に, この不安得点 とあが り兆候得点, あが り認識 の間の積率相関係数 を計算す る と (
表
5),これ らの得点 は不安傾 向 とまった く有意 な相関 を示 さず,試合時 の不安傾 向のみがあが
り兆候 の記憶 とやや相 関す る程度 であった。
TABLE5
CORRELATI
ON COEFFI
CI
ENTSOFTRAI
TANXI
ETY SCALESTOSELF
RECOGNI
TI
ON SCALESOFAGARIAND AGARISYMPTOM SCALES
AGARISYMPTOM
0.
2
0
0.
37
0.
4
4
0.
5
6
*
**
A4
0.
3
2
0.
3
5
0.
3
5
0.
4
5
*
AFTER BEFORE
RACE
RACE
-0.
3
0
-0.
0
8
0.
0
5
0.
1
7
3 2
「
(
J2
O 2
2
0
0 0 0 0
FEMALE
USUALLY
AT A RACE
USUALLY
AT A RACE
A3
2
3 1
8 2
4
3 3
0 0 0 0
MALE
A2
3 2
0 2
7 3
3
2
0 0 0 0
Al
AGARIRECOGNI
TI
ON
97
いわ ゆる「あが り」の認識 に関する意識調査 と性格
(
5
)YG性格検査尺度 とあが りの関係
YG検査の尺度 とあが り兆候得点, あが り認識,特性不安 との積率相関係数 を表 6に示 し
た。 これ をみ ると,先行研究同様 にD, C, Ⅰ, Nの情緒的不安定因子 と特性不安 との関係
が男女 とも認 め られた。 また,普段 で はな く,試合場面での特性不安 の得点 も,全般的 に相
関が低 くなるものの有意 に相関 していた。
次 に, あが り兆候得点 との関係 をみる と,男女 ともC とNが有意 に相関 してお り,神経質
で気分 の変化 の大 きい者 に兆候得点が高 い といえる。 しか し,各試合でのあが りの自己認識
はYG尺度 とはほ とん ど相関 しなかった。
TABLE6 CORRELATI
ONCOEFFI
CI
ENTSOFYGSCALESTOAGARIS
YMPTOM
SCALES,SELFRECOGNI
TI
ONSCALESOFAGARI
,ANDTRAI
TANXI
ETY
SCALES
D
C
日
-.
4
4
一
一.
4
2
G
R
■
日'
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7
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61
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6
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5
3
日
日
'
日
' .5
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47
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日
.
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67日
A2
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A4
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6
0
AGARI
1 AGARI
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5
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4
8
AGARI
l .
3
8
AGARI
2
STAI
l
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5
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5
6日
STAI
2
.
41
,
5
2
I
Not
e 1:Si
gni
f
i
cantval
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hown
Not
e2:Uppe
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Not
e3:AGARI1:Af
t
e
rRac
e,AGARI2;Be
f
or
eRac
e,STAI1:Us
ual
l
y,STAI2;AtRac
e
(
6) あが りやす さの自己評価 と性格
あが りやす さの自己評価 の単純集計 を表 7に示 した。 この表か ら,男女 とも,試験 の とき
のあが りやす さをもっ とも高 く,発表 の ときをもっ とも低 く評価 しているが,男子で は試験
と試合 を同程度 にあが りやすい と評価 しているのに対 して,女子で は,発表 と同様 にあが り
に くい と評価 していることがわか る。
,男子で は試験でのあが りやす さ
他 の調査項 目との積率相関係数 を計算す る と(
表 8, 9)
の自己評価 とYGの情緒不安定性が相関す るほか はほ とん ど相関 しなかった。一方,女子で
はあが り認識や特性不安があが りの自己評価 と相関す る傾 向が男子 よ りやや強か った。 しか
し,試合でのあが りやす さの自己評価 は男女 とも他 の調査項 目とほ とん ど相関せず,わずか
に, 自分 をあが りやすい と感 じている者 は試合後 にあが りを認識 しやすい とい う傾 向が男女
とも認 め られただけである。
9
8
麓
TABLE7
MEAN ANDS.D.OFSELFESTI
MATI
ON OFAGARITENDENCY
MALE
FEMALE
TABLE8
信義 ・山地啓 司 ・金子龍一
Us
ual
l
y
AtaRa
c
e
2.
6±1.
0
3.
1±1.
3
2.
4±1.
2
2.
5±1.
1
Re
pr
e
s
e
nt
at
i
on
Ent
r
a
nc
e
i
nCl
as
s
r
oom
Exami
nat
i
on
2.
3±1.
0
2.
3±1.
1
3.
2±1.
3
2.
8±1.
2
CORRELATI
ON COEFFI
CI
ENTS OF SELF ESTI
MATI
ON OF AGARITEN_
DENCY TO AGARISYMPTOM SCALES,SELF RECOGNI
TI
ON SCALES OF
AGARI
,ANDTRAI
TANXI
ETYSCALES
A2
.
4
0書
.
4
7
♯
6
3日
.
5
8日
A3
A 4 AGARI
I
AGARI
2STAI
I STAI
2
4
1
♯
一F 一一
73 × × × 65 × × ×
A1
.
4
4
事
4
7日
.
3
9'
.
5
5'
.
5
6日
4
6'
6
0日
日
6
7
.
4
4'
.
5
3'
×
× × × ×
5
8日
④
+
52
× × ××
① ② ③ ④
③
××
②
××
‖① ② ③ ④
①
.
6
3日
① Us
ual
l
y ② AtaRac
e ③ Re
pr
e
s
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at
i
oni
nCl
as
s
r
oom ④ Ent
r
anc
eExami
nat
i
on
TABLE9
CORRELATI
ON COEFFI
CI
ENTSOFYGSCALESTO
SELFESTI
MATI
ON OFAGARITENDENCY
D
④
C
I
N
0
Co
Ag
G
R
T
A
S
一.
4
2
事
-.
4
8日 -.
4
9" -.
5
3日 -.
4
6事
②
(
彰
一
-.
7
1
事"
考
察
(
1
) あが り兆候得点の妥当性
あが り兆候得点の算出に用いた項 目は厳密 な意味で は項 目分析 を経 ていないので,あが り
の兆候 を とらえるのに妥 当な項 目であったか どうか を前回同様 にあが る傾 向が少 ない と思わ
れ るT県選手権 (
出場選手の多 くが高校生)の優勝 した成人選手 を対象 にして検討 してみた。
おおむね妥 当な項 目であったが,付表 1の☆印 を付 した追加項 目についてみ ると, A lの最
後 の 「なん とはな しに不安 を感 じた」が彼等のなかで も意見が別れた項 目であった。 しか し,
あが らない と想定 されている彼等の うち 4割 は今回の試合であが った と答 えてお り, また,
前回の同様 の分析で は妥当 とされたA lの 「
試合場面 を想像 して胸が ドキ ドキす る」が今回
は問題 あ りとされた りしているので,各時期 の1
1
項 目の総平均値 はおおむねあが り兆候 の大
小 を反映 していると判断 した。
また, この種 の研究で は測定 の再現性が吟味 され ることが少 ないので,調査人数 は少 なか
いわゆる「あが り」の認識 に関す る意識調査 と性格
9
9
ったが T県選手権で高校生 (
男子 1
1
名,女子 1
0
名) について再調査 して再現性 をみてみた。
特 に,平均値 よ りも相関係数 の再現性が問題 となるので, あが り兆候得点 とあが りの自己認
7
7か ら0.
9
7
,
識 について相関係数の再現性 の確認 を行 ってみた ところ, あが り兆候得点間 に0.
あが り兆候得点 とあが り意識 のあいだには0.
3
3か ら0.
8
9の相関係数が得 られた。 あが り兆候
67
か ら0.
7
7の値 が得 られてお り,前 日にあが り
得点間には,麓等の少ない項 目の場合で も0.
の兆候 のある選手 はや は り当 日に もあが りの兆候 が出やすい といえ, あが り対策がその場限
りのお まじない的な もので はいけない とい う現代 の心理的 コンディシ ョニ ング作 りの正 当性
を証明す るデータ といえる。
ところで,あが り兆候 とあが り認識 の間 には0.
3
程度の低 い係数があるが,この種 の調査 の
真の相関 を0.
5
程度 と考 える と,前 回の麓等 の結果 2)と今回の A県 とT県の結果 を縦 覧 して
0.
3
程度か ら0.
9までの相関係数が得 られた ことも納得で きるだろう。調査対象が少 なけれ ば
0.
5
程度 で も有意 な相関 とはな らないので,有意差 だけで はな く,その値 も問題 にすべ きであ
ろう。 こう考 える と,表 5にあるあが り兆候 とあが りの自己評価 の関係 も, 自分が普段 あが
りやすい人間か どうかの自己評価 はあが りとまった く関係 ない ことはない と読 み取 ることも
で きよう。
(
2
) あが りやす さの男女差 について
特定の試合であが ったか どうか を尋ね る と,表 3よ り明 らかに女子 の方があが った と答 え
る率が高い。 また,表 1のあが り兆候得点で もわずかなが ら女子 の方が高得点であ り, この
男女差 の傾向 は,麓等の結果 と同 じ傾 向であった。一方, あが りやす さの自己評価 は発表 の
ときを除いて女子の方が低 い (
表 7)
。 これ は麓等の結果 と異 なるが,今回の方があが りに く
い女子が多かったためのサ ンプ リングの偏 りと考 えられ る。 なぜな ら,麓等の前 回調査で は,
あが り兆候 の得点 によ り大 きな男女差がみ られたか らである。
表 7か らはむ しろ,男子で は普段 よ りも試合時 にあが りやす くな り,女子で は普段 よりも
試合時 にあが りに くくなる とい う結果が麓等 と共通す ることに着 目すべ きであろう。高校生
とい う思春期の不安定な時期 は, 目標が明確 に与 えられ る と安定す る場合がある。特 に女性
にその傾向が強いために, 目標が与 えられた, あるいは明確 になっている試合場面での行動
の方が リラックス して心が安定 していると解釈す ることもで きよう。
(
3) あが りやす さと性格 の関係 について
スポー ツ心理学では常 にあが りやすい性格 とい うものが問題 とされ るが,本研究 の結果 は,
以前の麓等の報告以上 に,試合であが りやすい性格 とい うものはない, とい うものである。
つ まり,試合でのあが りの判断 (
表 6)や試合であが りやすい人間か どうかの自己判断 (
表
7) は, YG尺度 とほ とん ど相関 しなかった。 あが りやすい性格 とい う問題 を自分があが り
やすい と考 えている人 についての研究 と考 えると, その方法論 を根本的に考 え直 してみ る必
要があ りそ うである。
しか し,個々の断片的な回答 を足 しあわせたあが り兆候得点や試合時の特性不安得点な ど
は, ある程度性格 と結 び付 いていることが再度確認 された。特 に,情緒不安定性 の因子 はか
な りの相関が認 め られ,神経質で情緒不安定 な性格 の者 にあが りの兆候 を感 じる度合が高い
ことは明確 に言 えそ うである。
性格 はあが り兆候得点 とある程度関係があ り, そのあが り兆候得点 とあが りの判断 (
あが
5
程度 の相関があるに もかかわ らず, あが りの自己評価 は性格 とまった く
り認識)の間には0.
1
0
0
麓
信義 ・山地啓司 ・金子龍一
関係 を持 たなか った。 この点 については,次の節で検討す る。
(
4
) あが り意識 の生成機序 について
ここで, これ までの議論 をまとめてあが り意識 の生成機序 について考 えてみ よう。麓等 2)
は図 1にあるような仮説 の下 に調査 を行 った。 ここで は 『
試合体験-当該試合でのあがった
か どうかの判断 と身体精神的変換 の知覚一試合でのあが り意識-質問紙への回答』 とい う流
れが想定 されているが 『
試合体験-身体精神的変化 の知覚- あが っているか どうかの知覚当該試合でのあが ったか どうかの判断一試合 でのあが り意識-質問紙への回答』 とい う流れ
の方が時間的には自然であろう。 そこで,図 2に改 めて仮説 を展開 した。最近 のあが りに関
す る文献 をみて も,丹羽 と高橋 の研究 6)で は麓等 の論文 の後 に書かれているに もかかわ らず,
生成機序 に関す る作業仮説 を提示す ることな く行われてお り,論文 をみる限 り, ここで提示
した機序 の どこに当たる回答 を要求 しているのか判読で きない。 また,橋本等 4) は,一応 の
競技不安 モデル を提 出 している (
図 3)が中央 の二重丸 の中の認知的評定が どのようになさ
れ るかについての考察 を欠いている。
r
t
e
ns5) をもとに作 った
あが りの研究 については,本研究で は,不安傾 向の尺度 として Ma
試合 の ときはいつ もどうか」
橋本 と徳永 3) による競技不安尺度 を用 いず,一般的な質問紙 に「
とい う限定つ きで回答 させた ものを用いた。 この両者 の質問方式で同 じものを測 っているか
どうかの問題 も残 っている。 この ように,相互 の研究で用 いた調査内容 の相違があ り, また,
あが った と意識 した試合での実際のあが りの度合 を客観的 に測 ることがで きない とい う難 し
い問題があるが,各研究者が作業仮説 を出 しあって, データの再吟味 と新 たな仮説検証 のた
めの測定項 目の選定 を行 う段階 に きているので はないか と思われ る。本研究 において も, あ
が り兆候 とあが り認識 は試合後 の記憶 を尋ねた ものであ り, その記憶 の正確 さも吟味すべ き
対象か もしれない。
性格 [
情緒性 ・向性 ・特性不安 (
女子 は向性 を除 く)
]
J
普段 の自己把握
(
普段 のあが り意識)
【
試合 (
競技)への意志性
性格 (?)
・
◆
I
・
:
◆
二
千
∴
∴
_'
∴
(
ほ とん どな し)
iI
.L一
二
∴
性格 (?)
症 : 「ほ とん どな し」であって も,女子 の場合 は性格 と全般的 に関連 している。
?は調査 していないため不明な部分。
図 1 試合のあがり意識形成過程 と性格の関係 (
麓 ・成田,1984)
∴
1
01
いわ ゆる「あが り」の認識 に関す る意識調査 と性格
試合経験
性格 ・不安傾向
l
イb
普段のあが りの
自己評価
.
7
3
(
.
6
5
) 試合でのあが りの
自己評価
▲ 亡
図 2 あが りの 自己評価 を規定 する心理的要因
注 1 :数字 は今回の研究で得 られた相関係数
注 2 :黒三角 は,試合での意志性が働 くと思われ るところ。 a (
男女)とb (
男子)は今回, Cは麓
と成 田によって推定 された もの。
注 3 :性格 ・
不安傾向 は,競技特性不安 も含 めて考慮 した。競技特性不安尺度 は選手 の不安度 を測 る
とい う実用上 の観点か ら導入 されたが,この 3者の因果関係 や概念関係 は理論的に明確 に考 え
られているわ けで はない。
環 境 的 諸 要
因
防衛機制 による認知的評定 の変化
-----I----I
-I
-「
I
非脅威 的 と評定 された刺激への反応
刺激への
認
評
内的刺激 としての
競技的欲求 ・意識
認
情
評
知
緒
価
知
的
定
競技的特性不安
〔
芸
苦
言
苦
言
の〕
的
的
的
過剰学習
競技不安 の対応策
状態不安 を回
避 し,減少 さ
せ る適応過程
う
つ
慮
・
不
競技的状態不安
安 な予
期 な どの主戦的感
情, 自律神経系 の
活性化状態
感覚的 ・認知的 フイ- ドバ ック
主 体
的 諸
要 因
図 3 競技不安モデル (
橋本等,1
991)
行動 (
競 技 パ フ ォ ー マン ス)
外 的 刺 激 と
しての競技 (
会)
1
0
2
麓
信義 ・山地啓司 ・金子龍一
引用文献
1)麓 信義 「
パ フォーマンスを左右する心理的要因」渡部和彦編 「
第 9回 日本バイオメカニクス学
会大会論集 :スポーツパ フォーマンスの環境」
p27
-33,第 9回日本バイオメカニクス学会実行委員
会,1
9880
2)麓 信義 ・成田和香子 「陸上競技 におけるあが りの意識 と性格」 日本スポーツ心理学研究,ll
,
66-68,1
984
0
3)橋本公雄 ・徳永幹雄 「
競技不安の尺度作成 に関す る研究 :特性不安 と状態不安の関係 について」
日本 スポーツ心理学研究,1
2,47
-5
0,1
9
850
4)橋本公雄 ・徳永幹雄 ・磯貝浩久 ・高柳茂美 「スポーツ競技におけるパ フォーマンスを予測するた
めの分析的枠組みの検討 :とくにスポーツ競技不安モデルを中心 として」徳永幹雄 (
研究代表者)
「スポーツ選手の心理的競技能力の診断 とトレーニ ングに関する研究」
p4
5-51
,九州大学健康科学
センター,1
9
91
0
r
t
e
ns
,R.て
'
Co
mp
e
t
i
tveAxi
e
t
yTe
s
t
"Huma
nKi
ne
t
i
c
s
,1
97
70
5)Ma
6)丹羽劫昭 ・高橋茂美 「『あが り』の心理 ・生理的兆候の 2次元モデルの検討」 日本スポーツ心理学
研究,1
6, 6-1
5
,1
9
890
7)岸本洋一 ・寺崎正治 「日本語版 STAI
TTRAI
TANXI
ETYI
NVENTORY (
STAI
)の作成」
近畿大学教養部紀要,1
7
(
3)
, 1-1
4,1
9
860
(
1
992.
7.
21
受理)
i
付表 1
っ ぎに, あなたが今 回参加 した試合 につ いて質 問 します。試合 の ときの ことを思 い出 して,
あて は まれ ば○,あて は ま らな けれ ば ×を書 いて下 さい。どう して も決 め られ な けれ ば△ を書
いて下 さい。
Ⅰ 試合前 目につ いて
1 試 合 の こ とが気 にな って練 習 に身 が入 らなか った
2 試合 の こ とを考 える と夜 眠 れ なか った
3 い ろい ろな こ とが気 にな り,気持 ちが あせ った
4 試合 の場 面 を想像 しただ けで胸 が ドキ ドキ した
5 試合 に出 た くない と思 った
6 試合 の こ とを考 える と気 が重 くな った
7 自信 が な くな った
8 や る気 が お こって こなか った
9 か らだの あ る部 分 に冷 汗 をか いた
1
0 ふ だん よ り食 欲 が な く十 分 に食事 を とれ なか った
11 なん とはな しに不安 を感 じた
莱
これか らは決勝 の前 の状 態 につ いて答 えて下 さい
H 1 2
試合 前 の ウ オー ミングア ップか らコー ル まで につ いて
い ろい ろな こ とが気 にな り気 が散 って しまった
試合 の場 面 を想 像 して胸 が ドキ ドキ した
いわゆる「あが り」の認識 に関す る意識調査 と性格
4 か らだが硬 くな り思 うように動かなか った
5 成績 の ことを考 えて不安 になった
6 自信が な くなった
7 試合 に出た くなか った
8 ウォー ミングア ップに身が入 らなか った
9 小便 がひんぽんにでた くなった
1
0 そわそわ して落 ち着 きが なか った
11 手足が思 うように動 かな くなった
) ) ) ) ) ) ) ) )
( ( ( ( ( ( ( ( (
3 頭が ボー ッとして何 も考 え られなか った
1
0
3
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ コール してか らスター ト (
試技)直前 まで について
1 スター ト (
試技)が失敗 しないか と不安 になった
2 落 ち着 こうとしてか えってあせ った
3 あた りが はっ きり見 えな くなった
4 自分 を見 てい る先生,友人が気 になった
5 まわ りの選手が強 そ うに見 えた
6 実力 を出せ るか どうか を考 え, 自信が な くなった
7 か らだが だ る くてや る気がお こらなか った
8 足が地 につかない ような感 じに とらわれ た
9 の どがつ まった ような感 じが した
1
0 だえ さがね ばね ば した
11 心臓 が ドキ ドキ した
付表 2
あなた は,今 回の試合 であが りましたか。 あて はまる番号 に○ をつ けて下 さい。
3
2
あが らなか った
1
少 しあが った
あが った
あなた は, スター ト (
試技)の始 まる前 まで に,「
今 日はあが ってい る」あ るい は 「
今 日はあ
が りそ うだ」 と感 じましたか。 あて はまる番号 に○ をつ けて下 さい。
1.あが ってい る と感 じた
2.あが りそ うだ と感 じた
3.どち らも感 じなか った
1または 2と答 えた人 に質問 します。 その時, あが りを抑 えるために,特別 な事 を しました
か。
1.はい
」
2.いい え
その内容 (
1
04
麓
信義 ・山地啓司 ・金子龍一
試合 であが らない ようにす るために, しば しばあなたがや ることで,何 か特別 な事があ りま
すか。 あ る人 は自由に書 いて下 さい。
なぜ それ をや るようになったのですか
付表 3
あて はまる番号 に○ をつけて下 さい。
1.あなた はあが りやすいですか ?
2.試合 の時, あが りやすいですか ?
3.学校 でみんなの前で発表 す る時 はどうですか ?
4.入学試験 を受 ける場合 はどうですか ?
あが りやすい」か ら 「1.
あが らない」 までの 5段階評価)
(
回答 は 「5.