はしがき - 防衛省防衛研究所

は し が き
『東アジア戦略概観』は、今回で刊行 20 周年を迎えた。本書は、我が
国唯一の国立の安全保障シンクタンクである防衛研究所を代表する刊行
物として、この 20 年間、日本語版と英語版を毎年刊行してきた。学術
論文で引用され、大学のテキストとして利用されるなど、東アジアの安
全保障問題について日本の研究者が網羅的に分析した稀有な年次報告書
として、すでに一定の評価が内外で確立している。中長期的な戦略トレ
ンドの総体を指す「戦略環境」という表現も定着しつつあり、東アジア
の安全保障に対する内外の関心も増しているが、本書もささやかながら
それらに寄与してきたといえよう。
過去 20 年間の本書の内容を振り返ると、この 20 年間で東アジアをと
りまく戦略環境がより一層厳しいものになっていることがわかる。本号
においても、核・ミサイル能力を向上させる北朝鮮、南シナ海において
対外拡大戦略を強化する中国、対中政策において困難に直面する米国に
ついて分析した。
また、東アジアの安全保障を理解する上で重要なトピッ
クとして、国際社会で台頭するイスラム過激派の動向と日本も含めてグ
ローバルに注目される宇宙安全保障について取り上げた。東アジアの各
国や地域の動きを定点観測する常設章では、ASEAN 政治安全保障共同
体の発足と課題、新たな変革期に入りつつある日豪防衛協力、シリア軍
事介入により対外強硬路線を進めるロシア、新たに策定された「日米防
衛協力のための指針」や平和安全法制について解説した。
本書は、2015 年 1 月から 12 月までの 1 年間における重要な事象につ
いて、防衛研究所の研究者が内外の公刊資料に依拠して独自の立場から
分析・記述したものであり、日本政府あるいは防衛省の公式見解を示す
ものではない。また、本書に登場する人物の役職・肩書は、原則として
記述する事象が生起した当時のものである。本書の内容が、日本を含む
東アジアの戦略環境に対する関心と理解を深め、日本がよりよい安全保
障政策を追求するための知的議論の材料提供になれば幸甚である。
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本書の執筆は、兵頭慎治(序章)、福島康仁・橋本靖明(第 1 章)、
西野正巳(第 2 章)、室岡鉄夫・阿久津博康(第 3 章)、門間理良・杉浦
康之(第 4 章)、庄司智孝・富川英生(第 5 章)、石原雄介(第 6 章)、
山添博史・秋本茂樹・兵頭慎治(第 7 章)、菊地茂雄・新垣拓(第 8 章)、
高橋杉雄(第 9 章)が担当した。また編集作業は新垣拓、大濵明弘、川
村幸城、栗田真広、小林正樹、庄司智孝、助川康、髙田治彦、山下光が
担当した。
最後に、本書の作成にご尽力いただいた執筆者・編集者各位、毎年愛
読していただいている一般読者各位に対して心から感謝申し上げる。
平成 28 年(2016 年)3 月
防衛研究所 地域研究部長
『東アジア戦略概観 2016』編集長
兵頭慎治
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