考えをつなぐ話合い活動の実現に向けて

考えをつなぐ話合い活動の実現に向けて
~6年「場合の数」の学習を通して~
堺市立野田小学校
梅山 真理子
1.はじめに
問題解決的な学習において,子どもが課題に出合うことで問題意識を持ち,それが本時のめあてにつなが
り,解決するための見通しを持つ。また,自力解決する中で新たな問題や疑問が生まれ,話合い活動の場面
において自分の考えと友達の考えを比較する。今回の学習「場合の数」であれば,起こり得る場合を順序よ
く整理して調べるだけでなく,そこに条件がついてくる。そのような時,どのような表し方や考え方を用い
ると早く解決できるのか,また,みんなにわかりやすく伝えることができるのか,などを考えながら学習を
進め,さらに友達の考えと自分の考えを関連づけたり,共通点や相違点を話し合ったりすることで,互いの
考えがつながるような授業展開に努めた。
2.単元について
分類整理することについて,児童はこれまでに表やグラフの学習を通して,落ちや重なりがないように順
序よく調べたり表したりすることを経験している。特に,4学年の「整理のしかた」では,2次元表の指導
と関連して,資料に印をつけたり合計数を確認したりするなど,落ちや重なりがないように調べる工夫につ
いて考えてきている。
本単元では,具体的な事柄について,起こり得る場合を分類整理し,順序よく列挙して調べることを指導
する。ここで扱う「起こり得る場合」とは,順序性に意味をもたせた並べ方(順列)と順序性を考慮しない
場合の要素の選び方(組み合わせ)である。何通りの場合があるかを求めることよりも,順序よく整理して
考える過程に重点をおき,落ちや重なりがないように調べる工夫や,見やすく整理する工夫などについて十
分な時間をかけて話し合わせていきたい。
分類整理して考える能力は統計で必要とされるだけでなく,数や図形の内容を簡潔に,明確に,統合的に
把握する際にも有効にはたらくものである。特に論理的な関係を考察したり,表したりするときに大きな力
を発揮する。子どもの関心のある場面を取り上げたり,調べた結果が子どもにとって意味のあるものにした
りして,意欲的,主体的な活動が展開できるようにしたい。
○本単元で大切にしたい数学的な考え方
起こり得る場合を落ちや重なりがないように調べるために,規則性にしたがって並べたり,見やすく表し
たりするなどの工夫をして,筋道を立てて順序よく整理して考えを進めていくことが大切である。その際,
記号を用いたり,図や表にまとめたりするよさについても考え,簡潔性,正確性,能率性などの観点から,
調べ方の工夫を考察させたい。
1
3.単元の指導計画・評価規準(本時4/9)
時
学習活動及び内容
おもな評価規準
1
○4人でリレーするときの走る順番について,全ての場
2
合を落ちや重なりがなく調べる仕方を考え,観点を決
・ものの並べ方を,落ちや重なりがない
めて順序よく調べたり,記号を用いて図に表して調べ
ように工夫して調べようとしている。
<関心・意欲・態度>
たりする。
<数学的な考え方>
め リレーの順番を考えるとき,並び方が何通りある
○
・ものの並べ方を,落ちや重なりがない
か考え,説明しよう。
ように図や表を適切に用いたり,名前
を記号化して端的に表したりして,順
序よく筋道立てて考えている。
3
○サッカーで3回シュートをするときの結果についてど
んな場合があるか図や表を用いて調べる
<技能>
・図や表を用いて,シュートの結果を調
め シュートの結果には,どんな場合があるか考え,
○
べることができる。
説明しよう。
4
本
時
○規則に従って,ラグビー観戦の行き方を考える。
め 条件つきのときに,どのような行き方がよいか
○
考え,説明しよう。
5
○4チームによる総当たり戦の試合の組み合わせについ
6
て,すべての場合を落ちや重なりがなく調べる仕方を
<数学的な考え方>
・規則に従って,ラグビー観戦の行き方
を順序よく筋道立てて調べている。
<数学的な考え方>
・ものの組み合わせ方を,落ちや重なり
考え,調べる。
がないように図や表を適切に用いたり
め 試合の組み合わせが何通りあるか調べる方法を
○
名前を記号化して端的に表したりして
考え,説明しよう。
順序よく筋道立てて考えている。
<技能>
○いくつかの中から2つを選ぶ組み合わせを調べるとき
の特別な調べ方を知る。
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を順序よく整理して調べることができる。
○4種類のケーキから3種類のケーキを選ぶ場合につい
て,補集合に着目して調べる場合を理解する。
め ケーキを選ぶ組み合わせが何通りあるか調べる
○
方法を考え,説明しよう。
8
<数学的な考え方>
・4種類から3種類選ぶということは,
残す1種類を選ぶことと同じであるこ
とを,表を用いて筋道立てて考えてい
る。
○身のまわりにある事象として,給食のメニューの組み
合わせ方について,条件に合う場合を図や表,式・言
葉などを用いて調べる。
<数学的な考え方>
・問題の条件をよみ取り,条件に合う組
み合わせ方を,順序よく筋道立てて考
め 条件に合う組み合わせ方を調べ,説明しよう。
○
9
・ものの組み合わせ方を,起こり得る場合
えている。
○基本的な学習内容の理解を確認し,定着を図る。
<知識・理解>
[広がる算数]2個のさいころの目の組み合わせ
・起こり得る場合を落ちや重なりがない
ように調べるには,ある観点に着目し
たり,図や表などにかき表したりする
とよいことを理解している。
2
4.授業実践
(1)本時の目標
○表や図などの表し方を用いたり,考え方の中からよりよいと思われる方法を選択したりして,必要に応
じて組み合わせ,落ちや重なりがないように調べることができる。
(2)本時の展開(4/9)
学習活動
評価(○)と支援(●)
1.問題意識を醸成し,めあてをつくる。
●今回の学習は今までの学習を生かす場面
T:この図をちょっと見てください。(図を提示する)
であること,さらに,条件つきの場合で
あることを確認する。さらに,どのよう
に整理すれば解決できるのかを考えるこ
とができるように子どもとともに条件を
設定する。
T:この図は何を表していますか。
C:乗り物の路線図。
●具体的にどのような学習活動を行うのか
明確にするため,わかっている情報やキ
図
T:そうですね。
ーワードや数字などに着目し,必要に応
T:まずは,図を見て思ったことや,気づいたことをふき出しで
じて印をつけるよう言葉がけする。
かいてみましょう。
●問題文を読んだり,提示された内容を見
C:バスが一番時間がかかる。
たりして,気付いたことをふき出しで書
C:電車が一番速そう。
くように伝え,板書でも示しながら問題
C:運賃は電車が一番高い。
意識を醸成する。
C:バスが一番安い。
C:行き方は全部で6通りだ!
C:どれも一度中央駅で乗り継ぐなら,乗り換えの時間は?
C:東野田駅からラグビー場へはすぐかな?
T:なるほど,もう少し,詳しい説明が必要ですね。実はこれに
は続きがあります。
野田中央駅で乗り換えにかかる時間は10分,
東野田駅からラグビー場まではすぐです
T:これで,わかりますか。
C:わかった!
T:では,ふき出しにも出ていた行き方について考えましょう。
①運賃の合計がいちばん安い行き方
②かかる時間の合計がいちばん少ない行き方
T:①②のような条件がついた場合について考えることができ
ますか。
●子どもたちの意見をもとに,本時のめあ
C:できそう!
てを考え,確認する。
3
め 条件つきの場合について,表し方や考え方を工夫し,調べた方法を
○
説明しよう!
2.見通しをもつ。
<表し方の見通し>
・図(樹形図,線分図,矢印 など)
●既習事項を想起し,表し方,考え方,結
・表(運賃表,かかる時間表 など)
果のそれぞれに分けて見通しをもつこと
・式(運賃や時間を計算する)
で,以下の効果が上がるようにする。
・言葉
・自力解決でどの方法を使うか選択しや
<考え方の見通し>
すくなる。
・①,②と順に考える
・話し合いの場面で解決方法を比較する
①は運賃に着目
時に共通点や相違点が見つけやすくな
②は時間に着目
る。
・6通りで少ないから,まず全部の組み合わせをかいてから
①,②の条件にあてはまるものを選ぶ
・ふり返りで自分の見通しの妥当性につ
いて考えられるようになる。
<結果の見通し>
・運賃は安くて500円以上
・時間は早くて50分以上
3.自力解決をする
<C1>考え方:①,②と順に考える
●出てきた見通しの中からよりよいと思う
表し方:図(樹形図),表,式,言葉
方法を選択し,必要に応じて組み合わせ,
※ここでは,表し方の式と言葉のみ載せていますが,同じ
解決するよう伝える。
考え方でも違う表し方のパターンが出てくると思います。 ●友達に伝わるように,筋道立ててわかり
やすくかくよう働きかけ,できればその
①一番安い運賃
方法のよさやその方法を選択した理由を
西野田駅 ⇒ 野田中央駅 ⇒ 東野田駅
バス
乗換
250 円
示すよう伝える。
バス
250 円
○<評価基準:数学的な考え方>
1番安いどうしだから 250+250=500
A.バスとバスの組み合わせ
②一番短い時間
西野田駅 ⇒ 野田中央駅 ⇒ 東野田駅
電車
乗換
電車
20 分
10 分
20 分
1番短いどうしだから 20+10+20=50
A.電車と電車の組み合わせ
A:表し方・考え方の中からよりよいと
思われる方法を選択したり,必要に
応じて組み合わせたりして,落ちや
重なりがないように解決し,筋道立
てて説明する。
B:見通しで出てきた方法を用いて,落
ちや重なりがないように解決し,説
明する。
C:落ちや重なりがないように整理して
考えない。
<C2>考え方:6通りの場合をすべて調べてから,①,②にあ
てはまるものを選ぶ
<Cの子どもに対する支援>
表し方:図(樹形図),表,式,言葉
・見通しで出てきた表し方,考え方と,一
※ここでは,表し方の樹形図のみ載せていますが,同じ考え
方で,違う表し方のパターンも出てくると思います。
4
つずつ順にどれを使うか選択できるよう
一緒に考える。
【6通りの行き方】
<Bの子どもに対する支援>
で(700 円)
で(800 円)
( 55 分)
( 50 分)
シ
で
で(650 円) ・自分の考えを見直してわかりにくいとこ
( 65 分)
バ
ろはないか確認したり,他の方法でも解
決してみてどちらがよりわかりやすいか
考えたりするように言葉がけする。
バ(550 円)
バ(650 円)
( 70 分)
( 65 分)
バ(500 円) <Aの子どもに対する支援>
( 80 分) ・表し方と考え方の組み合わせとしてどの
①運賃がいちばん安いのは
方法がよりよいか考え,その根拠につい
A.バス→バス
て述べたり,自分の考えをわかりやすく
②時間がいちばんはやいのは
伝えたりできるように言葉がけする。
A.電車→電車
4.集団で解決する
<C1>と<C2>の考えについて
●全体の話し合いでは,友達の考えを他の
T:同じところや違うところはありますか。
子どもが発表したり,2人で役割分担し
C:<C1①>と<C2①>はどちらも樹形図を使っている
て発表したりすることで,それぞれの考
T:なるほど,樹形図というのは,見通しのどれですか。
えについて理解を深められるようにする。
C:表し方です。
●必要に応じて,身近な友達と解決方法に
T:そうですね。では,まず表し方から見てみましょうか。
ついてペア交流を入れ,それぞれの考え
C:<C1②>と<C2②>はどちらも表を使っている。
を理解できるようにする。
~というように,表し方の共通点を伝え合う~
●「自分の考えや友達の考えと違っている
T:それぞれの表し方について何か意見はありますか。
ところ,似ているところ」「自分や友達
C:樹形図はとても見やすい。
の考えでよいと思ったところ」などの視
C:表も見やすい。
点をもって話し合えるように,表し方や
C:だけど,表だと線をかかないといけないけど,樹形図はすぐ
考え方について整理しながら進める。
にかける。
C:式も結構ごちゃごちゃしているな・・・
C:やっぱり整理されているのは樹形図だと思います。
T:なるほど,表し方にもいろいろあるけれど,より整理されて
見えるのはどれかを話し合ってくれましたね。
T:ところで,今表し方で同じところをさがしてくれていました
が,<C1>と<C2>で違うところはありますか。
C:<C1>は①,②,と順番に考えている。
C:<C2>は,まず考えられる6通りの場合をすべて調べてか
ら,①,②にあてはまるものを選んでいる。
T:この2つの考えについてはどう思いますか。
C:6通りぐらいだったらまず全部調べる方がいい。
T:どうしていいと思うか言える人いますか。
C:樹形図だったらすぐに調べられるし,その後に①,②にあて
はまるものを選ぶ方がすぐに見つけられるし,わかりやすい。
C:<C2>のように6通り調べておけば,どんな他の条件のとき
の場合もすぐに見つけることができる。
5
T:なるほど・・・みんな,それぞれの表し方や考え方について
同じところや違うところ,それぞれのよさについて話し合う
ことができました。
5.適用問題をする。
T:今日の学習で出てきた表し方や考え方で次のような条件の
行き方を考えるとしたら,どんな方法がよいか考えましょう。
●全体交流で出てきた表し方,考え方をも
とに,よりよい方法はどれか,どの表し
方と考え方を組み合わせると,落ちや重
③600円以内で行く行き方
なりがなく,さらにかんたんでわかりや
④1時間以内で行く行き方
すいかなどを考えながら解決するように
C:表し方はやっぱり樹形図がいちばん見やすい。
伝える。
C:考え方は6通りの場合を調べてあるから,そこからあてはま
るものをさがすだけなので,すぐにわかるな。
C:1時間で行ける行き方は,<C2>の表を見たらすぐにわかる
から,答えは
【6通りの行き方】
で(700 円)
で(800 円)
で(650 円)
( 55 分)
( 50 分)
( 65 分)
シ
で
バ
バ(550 円)
バ(650 円)
バ(500 円)
( 70 分)
( 65 分)
( 80 分)
③600 円以内(以内だから,600 円も入る)
A.シャトルバス→バス,バス→バス
④1時間以内(以内だから,60 分も入る)
A.シャトルバス→電車,電車→電車
C:表し方は表や樹形図が見やすくてわかりやすい。
C:③や④のような条件の行き方を調べるとき,1つずつ順に
考えるよりは,6通り調べておけば,パッと見てすぐにわかる。
T:今日は表し方や考え方の中からよりよい方法を考えること
ができましたね。
ま 条件つきの場合について考えるときも,表し方や考え方を工夫し,組み合わせて用いる
○
ことで,落ちや重なりがなく,かんたんにはやく調べることができる。
6.振り返る
今日の学習でわかったこと・感じたことをノートに書く。
●ふり返りの観点を示す。
T:今日の学習をふり返りましょう。
・今日の学習でわかったこと
C:今までに習った方法で解くことができた。
・自分や友達のがんばりについて
C:いろいろな表し方や考え方があるけれど,どんな表し方や
・次に学習したいこと
考え方がいいか問題によっても違うんだな。
など
●自分や友達のがんばりにふれている発言
C:表し方や考え方を工夫して使ったり,組み合わせたりす
や,次の学習につながるような発言やな
ると,落ちや重なりがなく,かんたんにはやく調べら
どは大いに認め,学級で紹介するなどし
れることがわかった。
て価値づけていく。
6
5.まとめ
本時では,考えられる行き方が6通りという,
「場合の数」としては少ない数であった。考え方としては,
①②の条件にあてはまる場合を順に考える方法と,6通りすべて考えてから条件に合う場合を挙げる方法
があったが,本時ではすべての子どもが後者の方法であったため,あまり話し合いが深まらなかった。表し
方としては,
「樹形図もよいけれども,表の方が,かかる値段と時間が見やすくてよい」という意見が多か
った。表し方,考え方の両方について,
「どの方法がよかったのか」
「なぜよかったのか」というところまで
子どもたちの話し合いの中で追求していきたかったのだが,そこまでには至らなかったので,今後も話合い
活動の中で,子どもたちの考えがつながるような授業展開の工夫が必要である。
7