Page 1 Page 2 不確実性下での貨幣の取引需要 ー在庫理論的

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不確実性下での貨幣の取引需要 : 在庫理論的アプローチ
春名, 章二
一橋研究, 3(2): 111-126
1978-09-30
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/6430
Right
Hitotsubashi University Repository
不確実性下での貨幣の取引需要
一在庫理論的アフローチー
巻 名 章 二
I.はじめに
このノートは,将来の貨幣による支払額が不確実な場合における,貨幣の取
引需要を論じたものである。以下で問題とする不確実性は,個別経済主体が期
間中に支払わなければならない貨幣量が,期首にあらかじめ知らされるわけで
はなく,それは,確率変数の形でしか彼に情報として与えられていたい,一とい
うことに関係する。つまり,個別経済主体にとって,支払に備えて用意しなけ
ればならない貨幣量は不確定なのである。したがって,支払の情報が伝達され
る以前に,彼はある量の貨幣を手元に保有して支払に対処しなけれぱたらた
い。
ここでは,分析方法として在庫管理の理論を援用する。当該モデルは冬期間
にわたるものではなく,単一期間から成るものである。すなわち,1期間の確
率的在庫管理の問題として貨幣の取引需要は論じられる。確率的在庫管理の問
題は,将来の不確定な需要にみあう供給を準備しておくときに,供給過剰や供
給不足の場合の損失について与えられた設定のもとで,最適な在庫政策を求め
ようとするものである。ここで1は,この在庫管理の理論を応用することによっ
て,個別経済主体が,支払の情報が確定値で与えられる以前に,どれだけの貨
幣を保有しようとするのかを決定する問題,つまり,貨幣需要の決定問題を考
える。貨幣は通常現金,当座預金及び普通預金を指すが,特にここでは簡単化
のために,それを利子を生まない現金のみに限定する。また,以下で使用され
ている“需要”と’’準備”という2つの用語は特にことわらない限り,このノ
111
一橋研究 第3巻第2号
一トでは同義語とする。
金融・貨幣理論への在庫管理論の適用はW.エボーモル〔2〕,J、トービ
ン〔7〕をはじめとして,G.H.ジョンソン,T.R.セイビング等によって
行なわれた。彼等は確実な世界における貨幣の取引需要の決定問題を論じた。
ボーモルは,合理的行動によって示される現金の取引需要の分析を行なっ
た。その取引は将来に対して完全な予見が成立する状態下で行なわれ,問題と
なる期間中一様に取引(支払)が行なわれる,と仮定している。合理的個別経
済主体は,当該期間中にT(確定値)だけの支払を一様に行なう。支払に当て
られる現金は,債券に投資している資金を回収することによって調達される。
彼は,τだけの支払を一様に行なうために,最初からTだけの現金を用意して
やく必要はない。つまり,何回かに分けて債券を現金に転換し,最終的にTの
支払を完了すればよいわけである。そこで,各回毎にCだけ現金化するものと
考える。すると,期間中における現金保有残高の平均はC/2となる。債券の
利子率をづとすれぱ,現金保有による利子機会費用はκ/2となる。債券から
現金への転換において,1回毎にあだけの費用がかかるとすれぱ,期間内の転
換費用はπ/Cである。したがって,個別経済主体が支払を現金で行なうこ
とによって要する総費用は,
δτ/C−1一{(:/2,
となる。合理的行動を行なう彼は,この費用を最小にするCを決定しようとす
る。
貨幣の取引需要分析では,ボーモルのような方法を採用しているのが一般的
であるが,これに対して,・不確実性下での在庫管理論によるアプローチを,採
ったのがG.R.モリソン〔5〕,S.C.チャン〔8〕である。
モリソンは,銀行の預金準備の決定を,現金の流入流出の不確実性下におい
ての利潤最大化在庫管理の静学的理論の適用として考えた。つまり,利子を生
まない現金準備を行なうことによって生じる機会費用と現金不足が起ったとき
に,支払わなければならない罰則的費用の期待値である期待損失関数を,最小
にする準備率の決定問題を論じた。
n2
不確実性下での貨幣の取引需要
また,チャンはボーモル等の人々と同様に,在庫管理論を援用して,貨幣の
予備的需要の決定問題を論じた。彼はボーモル,トービン等が,支払は一様に
行なわれる,と仮定したωのに対し,支払率が確率変数であると仮定してω,
最適な予備的貨幣需要を求めた。
I.リスクニュートラルの貨幣需要
当該モデルでは,他の個別経済主体から支払請求がある場合の個別経済主体
の貨幣の取引需要の問題,を考察する。分析対象の個別経済主体は,経済活動
の結果,支払請求を受けるものとする。彼は支払請求を拒否することは出来
ず,しかもその支払手段は貨幣に限定され,それ以外では不可能であると想定
する。もし,彼にとって,支払と受け取りの間にギャップが存在しなければ,
特に貨幣の保有又は準備の必要性はないが,現実にはそのギャップが存在する
から,貨幣需要の問題が生まれてくる。だがギャップが存在したとしても・金
融資産が貨幣のみに限定されているならば,資産を貨幣の形で保有することに
なり,上述の問題は起こりえない。
ここでは,貨幣以外に1種類の債券があるものとする。それについて債務不
履行の危険はなく,期間中に一定の利子を生むものとする。したがって,個別
経済主体は資産の保有形態の選択を追まられることになる。なぜなら,彼が支
払に応じるために資産を貨幣でのみ保有するならば,もし債券でそれを保有し
たなら得られたであろう利子収入を失うことになるからである。そこで,貨幣
保有の問題が生じて来る。ここでは利子率をξとし,一定とする。
支払が確率変数であらわされるために,個別経済主体にとって支払がいくら
になるか事前にわからない。したがって,彼がある支払額を予想して貨幣を保
有したとしても,保有決定後に請求される支払を完全に満足させるとは限らな
い。あらかじめ用意した貨幣量では,支払不能に陥ることも考えられる。も
し・彼が支払不能に陥るならば,彼は信用を失い,また,同時に彼は急拠債券
を貨幣に転換して,支払を遂行したけれぱならない。信用失墜の費用と緊急の
転換費用がそのとぎ発生する。そして,これをここでは罰則的費用と呼ぶ。更
113
一橋硯究 第3巻第2号
に,不足貨幣1単位当りの罰則的費用をカであらわす。これは利子率と同じく
期間中一定である。
個別経済主体が合理的であれば,次のような行動をとるだろう。彼は期首に
支払の期待値をもとに,債券を貨幣に変えて支払に備えよラとするであろう。
しかし,これによって彼は利子収入を失うことにたる。利予収入を我友は,利
子機会費用と呼ぶことにする。多額の貨幣を保有して支払に対応しようとすれ
ば,利子機会費用の増加を招くことになる。一方,利子機会費用を低く押えよ
うとして貨幣を少ししか持たないならぱ,支払不足から罰則的費用の発生をみ
るであろう。したがって,個別経済主体は利子機会費用と罰則的費用の合計を
最小にする貨幣準備量を保有して,不確実な支払に備えようと意図する。なぜ
なら,このことが彼にとって最良の結果をもたらすことを保証するからであ
る。このノートの目的の1つは,この最適貨幣需要量を決定することである。
支払を確率変数ξであらわし,その密度関数をρ(ξ)とする。このとき,ξ>
い(1)・q/こ・(1)δ1一・である。支払は連続時刻で起こ1・一様に行な
われる,と仮定する。期首の貨幣準備を物とし,舳は非負,κM≧0である。
更に,ξ及ぴクの変域を,0<;<1,0<ク<十。。,とする。我々は,利子機会
費用と罰則的費用の合計を損失費用と呼ぶ。すると,期間中の期待損失費用は
〃の関数となり,次式のように定式化される。
(1)
酬一
ツr舌)/(1)雄・1二(2ぎ・
力.(ξ葦Mア)1(/)・1
3、 ’ ”皿≧O.
期待損失費用関数(1)において,確率変数はξのみで,ξと力は定数,目
的変数は舳である。
損失費用を図で説明しよう。
(a) 0くξく〃のとき
この場合は,支払額が用意した貨幣量を超過したいときで,(1)式では第1
114
不確実性下での貨幣の取引需要
の引1;”(κ・一音)1(1)鳩のみ11間題と帆図iがこの場合を示して
いるわけで・この図の斜線部は(〃一音)㈱したがって,問題となるの
は第1項の期待利子機会費用のみである。
T〃
ξ工。一ξ
0
1
図1
(b)O≦〃<ξのとぎ
この(b)の場合は,支払額が用意した貨幣量を超過したときで,(1)式の
第・の頂1二(一芸・ク’(妄外(1)嶋1澗題と脇(イ)の部分は
箸・(一)の部分は(ξ蓑Mアで狐このとき・1∵卦(1)・1は
期待利子費用・1二ψ’(㌢1(1)∂1は期待罰則的費用で狐(・)の場
合は機会費用と罰則的費用の両者が問題となる。
我々は目的関数(1)について,次のことを云うことが出来る。
定理1 上述の下において,個別経済主体の期待損失費用を最小にする貨幣準
備量三Mが存在し,かっそれは一意的である。
証明 期待損失費用関数,亙z(〃),を〃で微分する。
㌘”)一一ク・(1・ク)/l;㌦(1)舳1二字)碓/・
115
一橋研究
第2巻第2号
●
工M
1イ〕
(ξ一州ノξ
O
ξ
剛ξ (口〕
国2
そして,d亙工(ル)/伽〃=Oとおく。
(・) 一カ・(榊)/l;㌦(1)・1・κ・1二等)・l/一α
(2)式を変形して,(2)’式とする。
(・・ 1;㌦(1)舳1二や1一,島
ク 一 カ
(2’)式の右辺, ,は一定である。そしてこの右辺は,O< <1の
ξ十カ ξ十カ
値をとりうる。次に(2’)式の左辺の性質を調べる。そこでルで左辺を微分
する。
小(ξ)d芸芋∫二(許δξ)抑)。∫二・…1)雄
一1・(91茅))一1二ψ1ξ)晦
∫
蜆ψ(ξ)
必>Oであるから,
伽 ξ
・(1;㌦(1)・1・舳1二等)・1)
〉O,
〃〃
116
不確実性下での貨幣の取引需要
で狐よ一て・(γ)式の左辺(1ご・(1)糾1・1二手1ξ)叫ば舳
増加関数である。更に,(2’)式の左辺の〃についての第2次微分をみる。
小(1)紬/二{ξ⊇11)、・(1∵窄)・1)=.、紗
dπ一戸 dκ〃 κ〃
ψ(πM)/〃>0であるから,
f(1こ1(/)舳1二手11)、.迷)<。,
批M2 伽
である。(2’)式の左辺は伽の増加関数であるが,その増加率は”〃が大き
くなるにつれて減少してゆく。つまり,(2’)式の左辺はの凹関数である。
更に蛎が変化するとき,(2’)式の左辺の変動範囲を調べるために,伽を
○と十〇〇へとそれぞれ近づけてみる。
黒。/l;㌦(/)舳/二g;ξ)11/・・
胆、。。/17・(1)舳1二ψ;ξ)凌/一・
したがって,(2’)式の左辺の変域は下記の範囲に制約される。
・か(1)舳L軍1ξ)・1・・
以上得られた左辺の性質から図3が描かれる。
元趾は(・)式を満足させる・つま1図・のように,羊クと/l;”/(1)舳
/二等)・l/の蝋帆1・は・期待損失費用関数を最小にする最適貨幣
需要量である。元〃の存在と一意性は(2’)式の両辺の持つ性質と,その左辺
の〃についての連続性と山性から保証される。 Q.E.D.
定理1から期待損失費用を最小にする最適解がある,しかもそれが複数個存
在しないことが証明された。(2)式からわかるように,貨幣需要量は確率変
数及びその密度関数,利子率そして罰則的費用の単価によって影響を受ける。
そこでパラメーター,’と力,の変化が貨幣需要量にいかなる変化を及ぼすか
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第3巻第2号
一橋研究
1
1∫
l/τ”市1・/二色11
ρ
ρ十’
O
卍丁〃
π
πM
図3
を調べると,下記のことが云える。
定理2 上述の下で,(i)罰則的費用の単価カの上昇(低下)は他のものを
一定としたとき,貨幣需要量元班を増加(減少)させる。(ii)利子率ξの上昇
(低下)は他のものを一定としたとき,貨幣需要量元〃を減少(増加)させる。
証明 (i)カの変化はに同方向への変化を引き起こすことを示す。(2)式,
一1・(用)//;1・(1)舳・1二等)・1一・
をクについて微分し,∂〃ノ∂ヵを求める。
一1
ャ(/)舳い)・♂ξ隻1”)・診一・
を整理する。
、、、■吐)
∂クー ∂肌(〃)
∂伽, ’
上式の分母は正であるから,二分子の符号によって,∂zM/∂力の符号は決定され
る。ル>ξ下では明らかに分子は正である。更に,舳くξ下では,
レ(1)雄十1・1二上;ξ)・1−1二1(1)(≒坐)酬
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不確実性下での貨幣の取引需要
となるから,
・一
P;㌦(1)δ1・1二!(1)・1・1;㌦(1)舳1二やξ
である。よって・このときも分子は正である。したがって,
∂〃
(3) 一一一>0.
∂力
この(3)の不等式の成立によって,(i)の主張が証明された。更に図4
ψ
でこの証明を補足する。カの上昇する場合を考え,φ〈力’とするとき, I
ク十’
グ
<一⊃ となり左図から,カのグヘの上昇はルを元〃’へと増加すること
ク十ξ
がわかる。一方逆の場合はオ〃を減少させる。
1
l/㍗舳1・/浄11
ρ
P+ゴ
↓1 l
マ
P+’”
工〃
O
■’」 一
ュ=コエ”
H”
←
図4
(ii)4の変化は,元〃に逆方向の変化を引き・起こすことを示す。(i)と同様
な方法で(2)式を5で微分すると,
17・(1)舳・い;ξ)斜♂ξ鮒Σ・㌣一α
整理すると,
、、”.い1)11・物いg・l/
(4) 一・へ…一
〇ξ ∂,五ム(ル)
∂κ〃,
119
一橋研究 第3巻第2号
このとき明帆牛祭)…llン(1)斜1二手1ξ)・l/・・であ
る。したがって,
∂〃
(5)1一一〈O.
o…
(5)の不等式によって,(ii)の主張が証明された。更に,図5でこの証明に
” ク
補足を加える。利子率の上昇した場合を考える。ξの言 への上昇は一一>
力十δ
力 一 一、、
、、で,伽>舳 となる。逆の場合は貨幣需要量を増加させる。
力十{
1
l/=州・1・/裏ぜ刈
l/l
ρ
〆十1
↑
f十d
d
O
三・=》扁
工〃
工〃
図5
図4,図5から,パラメーターが各々同一比率で上下に変化したとしても,
貨幣需要量の変化に違いが出ることが見てとれる。つまりクの上昇(低下)に
つれて,云〃の上昇(低下)率は増加(減少)する。5の上昇(低下)につれ
て,云〃の低下(上昇)率は減少(増加)する。 Q.E.D、
利子率の上昇は,貨幣需要を減少させることが示された。それは個別経済主
体が利子率上昇の結果,利子機会費用の増加することに対処する手段として,
貨幣需要を減少させた方が有利であると判断したためである。なぜなら,利子
率を除く他のものを一定とすると,相対的に罰則的費用が低くなるから,それ
に比して相対的に高くなった利子機会費用を削減した方が経済的であるからで
120
不確実性下での貨幣の取引需要
ある。この導出された結果は,ボーモル,トーピソが利子率の上昇は貨幣需要
の減少を導くと主張したこと‘3)と一致するものである。つまり,支払が不確実
な場合であっても,利子率の上昇は確実な場合と同様に貨幣需要の減少を招
く。逆の場合には,逆のことが同じく両方の場合について云える。このことは
ポートフォリオから見ても当然のことである。
また,過少貨幣準備の結果生起する罰則的費用の単価の上昇は,個別経済主
体に貨幣需要の増加を引き起こした。罰則的費用の単価を除く他のものを一定
とすると,その単価の上昇は,相対的に罰則的費用の増加を招くことになるの
で,個別経済主体はそれを押えるために貨幣準備量の増加を計って,罰則的費
用の増加を回避しようとするからである。これは在庫問題において,供給が需
要を下回ったとき受けるペナルティコストが増加する場合,財の在庫をふやし
てペナルティコストの増加を防ぐことと同じである。
皿.ノンーリスタニュートラルの貨幣需要
皿の部分で我々は,リスクニュートラルな行動を行なう個別経済主体の貨幣
需要について分析を行なってき’たが,以下の部分では,彼の行動がリスクニュ
ートラルでない場合について分析を行なう。不確実な世界における個別経済主
体の危険に対する態度は,リスクアバーター,リスクデイカーそしてリスクニ
ュートラルの3つに分類される。ここでは前2者の場合について言及する。
個別経済主体の有する効用関数をσとする。効用関数σは実数値連続関数
で,2回微分可能であると考える。彼の危険に対する態度が,ノソーリスクニ
ュートラルであるωときの目的関数を下記のものとする。
(・)〃(伽)一
P;小(百一1・)1・(/)・1・1二σ[一芸
か(ヂト(1)・1
夜は,損失費用に(一1)を乗じたものの期待効用に関心を持つものである。
すると,ノソーリスクニュートラルな個別経済主体の貨幣需要について,次の
ことが云える。
121
一橋研究 第3巻第2号
定理3 上述の下で・個別経済主体がリスクアバーターであるならば,目的関
数を最大にする∵意的な貨幣需要量が存在する。一方,もし,彼がリス・クテイ
カーであるたらば,最適貨幣需要量は存在するが,その一意性は必ずしも保証
されない。
証明 目的関数(6)の最大値をもたらす貨幣需要量を見い出すことが,個別
経済主体の目的である。そのために, (6)式を伽で微分する。
池ニテ∬」仰[・(百一1・)1・1(1)11・/二ぴ[」;㌢
か(評1・÷1か(1一価)一1伽1・(1)膝
6互σ(舳) . a亙σ(伽)
1m >O, 11m <0.
舳→O 伽〃 物→十碗 〃〃
したがって,
犯σ(〃)
=O,.
幽〃
なる物が存在する。
互σ[〃1の舳に関する第2次微分を考える。
一等M)一戸1;”叶(百一1・)1・/(1)1!・レ[筈
ク’(姜紗1・÷ll・(1一価)一1州1)δ1
一(州)/二ぴ[」箸一か(姜舳z1・苧佑
σ’>O,σ”くOならぱ,
♂亙σ(〃)
一一一一一
伽〃2
@く0.
σ’>O,σ”>0ならば,
棚σω姜。
〃〃2
したがって,個別経済主体がリスクアバーターの場合,最適貨幣需要量泓
の存在とその一意性は示される。だが,彼がリスクデイカーの場合,舟の存
122
不確実性下での貨幣の取引需要
在は云えるがその一意性は保証されない。 Q.E,D.
定理3から個別経済主体の危険に対する態度が異なると,最適貨幣需要量に
対する結果が相違することが示された。その相連点は,効用関数の第2次微分
に対する評価に由来する。
ノソーリスクニュートラルな場合において,貨幣需要量に影響を与えるのは
支払の確率変数,その密度関数,パラメーター及び効用関数の形状である。パ
ラメーター変化の貨幣需要への効果をみて,その結果を定理2と比較してみ
る。
定理4 上述の下で,個別経済主体がリスクアパーターとして行動するとき,
(i)罰則的費用の単価の上昇(低下)は,他のものを一定とするとき,貨幣
需要量を増加(減少)させる,(ii)利子率の上昇(低下)は他のものを一定と
するとき,貨幣需要量を減少(増加)させる。しかし,彼がリスクデイカーと
して行動するとき,罰則的費用の単価と利子率の貨幣需要量への効果は確定出
来ない。
証明(、)摘果が成立することを示すために,些σ(㌻1・)一・を力で微分し
♂〃
て整理する。
∂〃
1!卜苦一凶妄π叩(フ㌦・(1一剛
j竺σ({、り
∂力
・舳2
一1市(1)∂1・レ[一㌣一之㌻沙ト(1)屯
もしσ’>O,σ”<0ならば,上式の分母は負,分子は正となるから,
∂κ、π
(7) 一一一一・>0.
∂力
一方,もしσ’>O,σ”>Oならば,上式の分子・分母の符号は確定出来ない
から,
∂π〃
(8) 一一一一一・姜O.
∂力
不等式(7)によって,(i)の主張が裏付けられた。
123
一橋研究 第3巻第2号
犯σ(”〃)
(ii)の部分の結果を証明するために,
・一一=Oをξで微分して整理す
〃〃
る。
、舳/7叶・(百一1・)ト(1)11・炉ト・(百一舳)1・(舌イ皿)・
∂i. @ ε2亙σ(切)
∂∬〃2
・(1)雄十㌻1二ぴ・ドきか(妄κ『・1か(1−1・)一州
1(1)鮎川筈か(芸『・9言)11
このとき,もしσ’>0,σ’’<Oであるならば,上式の分母は負,分子は正
であるから,
∂”、旺
(9)rr<O・
一方,もし,σ’>O,σ”>Oであるならば,上式の分子・分母は共にその符号
を確定することが出来ないために,
∂ル
(1O)7r…O・
不等式(9)によって,(ii)が証明された。また不等式(8),(10)の意味す
るところは本定理の最後の部分である。 Q.E・D.
我々は定理4から,パラメーター変化と危険に対する個別経済主体の態度の
関係が明らかになっれそれは彼がリスクアパーターであれば,パラメーター
変化の貨幣需要量への効果は確定出来るが,彼がリスクデイカーの場合は,そ
のようにはゆかない。定理2と定理4から,彼がリスクアパーターとして行動
するとき,パラメーター変化の貨幣需要への効果は,彼がリスクニュートラル
として行動するときと同じであることがわかる。
1V.結 び
このノートの分析は,将来の支払額が不確定である点と,当該期間内に債券
から貨幣への転換が1回または2回に限定されている,という2点において,
124
不確実性下での貨幣の取引需要
ボーモル・トービンの分析と異なっている:励。なぜなら,彼等は支払額又は貨
幣需要量が最初から決定され,その下で,最適貨幣転換量を決定するように問
題を設定している。しかし,ここでは個別経済主体は将来を展望し,かつ過去
の結果等を利用して,ある予想のもとに自主的に貨幣需要量を決定する。やは
り,現実の経済においては,事前に貨幣需要量は決定されていないのではたい
か。したがって,貨幣需要量を不確実だとしたのは妥当だと思われる。
定理1∼4から,リスクニュートラルとリスクアバーターの両者において,
最適貨幣需要量の存在と一意性,パラメーター変化のそれへの効果について,
同一の結果が得られることが判明した。これらは,ボーモル・トービンの導出
した結果と矛盾するものではない。
このノートの特色は,貨幣の取引需要に不確実性を導入し,個別経済主体の
危険に対する複数の行動様式の各々について分析を行ない,比較を可能にした
点と不確実性下の結論も確実性下のそれも,リスクデイカーを除げば変わりな
いことを示した点にある。
(注)
(1) Baumo1〔2〕はp.545,Tobin〔7〕はp.242を参照。
(2) Tsiang〔8〕のp.101を参照。
(3) Baumolは,ibidI P.547,Tobi皿は,ibid,P.242を参照。
(4) 効用関数をσとしたとき・ノンーリスクニュートラルはσ’>O,σ”キOの場
合である。更にそれは,リスクデイカーとリスクアパーターに分けられる。リス
クデイカーはひ>O,σ”>O、リスクアバーターはσ’>O,σ”<Oで示される。
なお効用関数に付いたダッシュは,その数によって微分回数を示す。
(5) Ba皿molは,ibid,P.547のモデルを,Tobinは,ibid,P.242以下のぺ一ジ
を参照。
参 考 女 献
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一橋研究 第3巻第2号
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〔g〕 Zabel,E.,“Mompoly and U皿。ertainty”.Rm{刎。グ亙㏄mom’o∫m”es
(vo1.37.1970).
〔1O〕 貝塚啓明編,「資産選択と金融理論」(日本経済新聞社,1970).
(筆者の住所:東京都国立市中2−19−61国立荘)
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