計画の 妥当性を確認し デスマーチを防ごう

特集
生産性の
用法
活
タ
ー
デ
実績
計画の
妥当性を確認し
デスマーチを防ごう
計画したプロジェクトの生産性は高すぎないか、工数や工期に無理はないか─。
社内外の実績データと計画を比較して妥当性を確かめることがデスマーチの防止につながる。
生産性を中心に、実績データの分析結果の見方や効果的な活用方法を解説する。
特 集
(経済調査会 押野 智樹、大岩 佐和子)
計画の妥当性を確認しデスマーチを防ごう
ソフトウエア開発プロジェクトを成
は、対象とするプロジェクトが、組織
クでも、それぞれ作成の目的やデータ
功させるには、生産性などの指標が、
内外のプロジェクト群と比較してどの
提供者、
測定項目の定義、
収集したデー
他の多くのプロジェクトと比較して適
レベルに位置するかを評価するため
タの精査方法、分析方法、作成方法、
切な値かどうかを事前にチェックする
に、指標として利用する基準値のこと
提示方法などが異なる。
ことが重要である。そのために活用し
(図1)
。このベンチマークには、公開
注1
前半では新米リーダーのA君のプロ
たいのが、ソフトウエア開発のベンチ
された「外部ベンチマーク 」と組織
ジェクトを例に、外部ベンチマークを
マークだ。
の内部向けに作成された「内部ベンチ
使ったプロジェクトの評価方法を解説
ソフトウエア開発のベンチマークと
マーク」がある。どちらのベンチマー
する。後半は、生産性を中心に具体的
な実績データの分析結果を紹介する。
開発プロジェクトの実績データ
担当するプロジェクトを
他のプロジェクトと比較し、
評価してみよう
!
プロジェクト
A
プロジェクト
B
プロジェクト
C
参照するベンチマークを選ぶ
A君はゼネコンの情報システム部に
属している。今回初めて任されたソフ
トウエア開発プロジェクトを成功させ
るため、主に生産性に関して、外部ベ
データ
リポジトリ
A君
データを分析
ベンチマーク
新規
プロジェクト
比較
1 事前評価にベンチマークを活用
図
・工数
・工期(期間)
・規模
・生産性
・信頼性
プロジェクトを評価するための
比較対象となる基準値
さまざまなプロジェクトのデータの分析結果(ベンチマーク)は、プロジェクトの事前評価に役立つ
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NIKKEI SYSTEMS 2015.7
ンチマークを使ってプロジェクト計画
を評価することにした。
まずA君が直面した課題は、そもそ
もソフトウエア開発のベンチマークに
はどのようなものがあるのかを知るこ
注1)外部ベンチマーク
外部ベンチマークの利用方法は、筆者らが参加した経
済産業省の「ソフトウェアメトリクスの高度化プロジェク
ト」の成果物として、経済産業省のWebサイトに公開さ
れているので参考にしてほしい。
(URL http://www.
meti.go.jp/policy/it_policy/softseibi/#p01_02)
1 国内のソフトウエア開発プロジェクトのベンチマーク集
表
団体名
資料名
最新版
最新版の発行日
特徴
情報処理推進機構
ソフトウェア高信頼化
センター(IPA/SEC)
データ
収集開始
ソフトウェア開発
データ白書
2004 年
2014-2015
2014 年 10 月 1 日
大手 IT ベンダーを中心とする国内企業 29 社がデータ提供。3541
件の蓄積データを集計・分析
日本情報システム・
ユーザー協会
(JUAS)
経済調査会
ソフトウェア
メトリックス調査
2004 年
2015
2015 年 4 月 24 日
ソフトウェア開発
データリポジトリ
の分析
1998 年
2015
2015 年 5 月 31 日
主に大手ユーザー企業における、開発コスト 500 万円以上のプロ
ジェクトを対象に調査を実施。2015 年版では、アジャイル型開
発および超高速型開発にターゲットを絞り、173 プロジェクトの
データを集計・分析。2014 年版は開発手法を限定せずに調査し、
1014 件のデータを集計・分析
2015 年 版 で は、2001 〜 2012 年 度 の 調 査 で 収 集 し た 国 内 企 業
344 社、1853 件のデータを集計・分析。JFPUG 会員企業を中心
に大手から中小までさまざまな規模の企業のデータを含む
JFPUG:日本ファンクションポイントユーザ会
フトウエアの規模を表す「ファンク
ベンチマークについて調査した。その
の対象としたもの。日本情報システム・
ションポイント」に関する分析が充実
結果は、A君にとって驚くべきもの
ユーザー協会(JUAS)の「ソフトウェ
している。
だった。
「ソフトウエア業界には、業
アメトリックス調査」は、
大手ユーザー
「リポジトリの分析」の多くの分析
界標準のベンチマークが存在しない」
企業の開発コスト500万円以上のプロ
結果では、データの特性が把握でき
のである。
ジェクトを対象としている。そして経
るように基本統計量を示している。
同じ “ものづくり” として比較され
済調査会の「ソフトウェア開発データ
具体的には、データの件数、最小値
ることが多い建設業界とは、指標の整
リポジトリの分析」では、中小から大
と 最 大 値、データ を 昇 順 に 並 べ て
備度合いの違いが歴然だった。建設工
手までITベンダー 344社のプロジェク
25%、中央(50%)
、75%の位置の値、
事では設計、積算、施工、材料などそ
トを対象としている。
平均値、標準偏差、変動係数を算出
れぞれの基準が整っている。生産性に
ちなみに海外では、ISBSG(Int
している。変動係数は、標準偏差を
ついても、業界標準の施工における生
ernational Software Benchmarking
平均(算術平均)で割ったもので、
産性の基準(建設業界では「歩掛り」
Standards Group)のソフトウエア開
相対的なばらつきを表す指標である。
と呼ぶ)が国によって整備、公表され
発の計測データ集が有名だ。
外部ベンチマークを参照するとき
ている。そしてこの基準は、数年単位
で大規模な施工実態調査を実施して、
基本統計量でデータの特性を把握
は、分布の代表値に注意が必要であ
る。数値データを等間隔の階級に分
見直される。
ベンチマークによって、データ提供
割した場合、階級が大きくなるとデー
これに対し、ソフトウエア業界には
者や分析方法が異なるため、適切に選
タ件数が少なくなる傾向があるから
前述したように業界標準のベンチマー
ばないと、評価結果や設定した指標が
だ。ソフトウエア開発に関するデータ
クが存在しない。規模、工数、費用の
実態に合わないものになってしまう。
の多くは偏った分布をしているため、
いずれについても、評価の基準が組織
A君は今回、中小から大手まで幅
極端に大きな値の影響を受ける平均
単位やプロジェクト単位になるので、
広い規模の企業のデータが含まれる、
値は、分布の代表値としてはふさわ
見積もりがぶれることが多々ある。
経済調査会の「ソフトウェア開発デー
しくない。このような分布の場合、
ソフトウエア業界には業界標準がな
タリポジトリの分析」
(以下、
「リポジ
極端に大きな値の影響を受けづらい
いとはいえ、参考になりそうな国内の
トリの分析」と略記)を使って、プ
中央値を使うことが多い。
「リポジト
ベンチマークは存在することが分かっ
ロジェクト計画を評価することにし
リの分析」では、データの比較は基
た。次の三つである(表1)
。
た。このデータ集では、
「工数」
「工期」
本的に中央値で行っている。
情報処理推進機構ソフトウェア高信
「規模」
「生産性」
「信頼性」について、
頼化センター(IPA/SEC)の「ソフ
さまざまな視点で項目間の関係を分
トウェアデータ白書」は、大手ITベン
析している。なお2015年版では、ソ
計画の妥当性を確認しデスマーチを防ごう
ダー 29社のプロジェクトを収集・分析
特 集
と。A君は先輩にヒントをもらいつつ、
工数に合った工期かどうか
A君が最も気になっているのは、生
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