遺伝子発現を制御する人工 RNA と転写因子の相互作用解析

ZE26A-4
遺伝子発現を制御する人工 RNA と転写因子の相互作用解析
高田健多 1,天野 亮 1,永田 崇 2,小林直宏 3,野村祐介 1,福永淳一 4,田中陽一郎 4,片平正人 2,
中村義一 5,神津知子 4,坂本泰一 1
1
千葉工業大学工学部,2 京都大学エネルギー理工学研究所,3 大阪大学蛋白質研究所,
4
埼玉県立がんセンター,5(株)リボミック
1. 背景
現在、遺伝子組換えによって、バイオ燃料となる植物の改変やバイオマスであるセルロースを糖化
する細菌の改変を行うことが可能となっている。しかし、遺伝子組換え植物や遺伝子組換え細菌の産
業における利用は、生態系への影響を考えると注意が必要である。人工 RNA による植物や菌の改変は、
ゲノムの遺伝子改変とは異なり、遺伝しないことから、安全な技術として注目されている。私たちは、
人工 RNA を転写因子に作用させることによって、ゼロエミッションエネルギーの達成に有効な植物や
細菌を改変することを視野に入れ、人工 RNA と転写因子の相互作用解析を行っている。
これまでに私たちは、
転写因子として AML1 タンパク質に着目し、このタンパク質の Runt domain (RD)
に結合する人工 RNA(Apt1-S;図1a)の作製に成功している(1)。Apt1-S は、本来 RD が結合する
DNA 配列に比べて約 10 倍強く RD に結合する(Kd = 1.0 nM)。また私たちは、Apt1-S の部分構造
(Apt1-S2;図1b)を明らかにしており、構造解析の結果から Apt1-S2 が標的 DNA を擬態して結合す
ることが示唆されている(2)。
そこで本研究では、これまでの研究を発展させ、人工 RNA と RD の相互作用様式について原子座標
レベルで明らかにすることによって、人工 RNA をデザインするための分子基盤を確立することを目的
とした。
2. 方法
人工 RNA を調製するためには、T7 RNA ポリメラーゼに
よる in vitro 転写系を用いた。RD の調製のためには、大腸
菌による大量発現系を用いた。RD の C 末端に相当するペ
プチド(RCP;図 1c)については化学合成した。RD と人工
RNA の複合体および RCP と人工 RNA の複合体について
NMR 測定を行った。NMR シグナルを帰属するための三重
共鳴実験では、超高感度検出器を備えた核磁気共鳴装置を
用いた。NMR 解析ソフトウエアとしては、MagRO を用い
た。
人工 RNA を作製するためには、SELEX 法を用いた。40
残基のランダム配列を含む鋳型 DNA を化学合成し、この鋳
型 DNA ライブラリを用いて、転写反応により RNA プール
を調製した。Ni-NTA 樹脂に固定化した RD に結合する RNA
を選別した後、逆転写 PCR により、DNA ライブラリを再
生した。これらの操作を繰り返し、RD に結合する人工 RNA
を作製した。作製した人工 RNA の RD に対する親和性につ
いては、等温滴定型カロリメトリ(ITC)を用いて解析した。
図 1 NMR 解析に用いた人工 RNA とペプ
チド.a) Apt1-S, b) Apt1-S2,c) RCP
3. 結果および考察
NMR を用いて、RD と Apt1-S の相互作用の解析を試みたところ、RD と Apt1-S の複合体の NMR シ
グナルがブロードニングしたため、構造解析が困難であった。そこで、RD に対して SELEX を行ない、
新たに人工 RNA を作製した。ITC を用いて RD に対する結合活性を調べたところ、新しく作製した人
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工 RNA は Apt1-S の約 5 倍の親和性を示した。今後、NMR を用いて、新しい人工 RNA と RD の相互
作用を解析する計画である。
また、RCP と Apt1-S2 の相互作用の解析を行なった。
Apt1-S2 のイミノプロトンスペクトルを測定し、
シグナルを帰属した(図2)。さらに、RCP を加
えてイミノプロトンスペクトルを測定したとこ
ろ、ステムの中心付近に位置する G23、G25、U27
残基に由来するシグナルがシフトした。このこと
から、RD の C 末端に相当する RCP は人工 RNA
に特異的に結合していることが示唆された。一方、
複合体の立体構造を決定するために必要な NMR
情報は得られなかった。今後は,人工 RNA およ
びペプチドの配列の検討し、解析を進めていく計
図 2 Apt1-S2 のイミノプロトンスペクトル
画である。
4. 参考文献
1) Fukunaga J., Nomura Y., Tanaka Y., Amano R., Tanaka T., Nakamura Y., Kawai G., Sakamoto T., Kozu T.,
“The Runt domain of AML1 (RUNX1) binds a sequence-conserved RNA motif that mimics a DNA element”,
RNA, 19, 927-936, (2013).
2) Nomura Y., Fukunaga J., Tanaka Y., Fujiwara K., Chiba M., Iibuchi H., Tanaka T., Nakamura Y., Kawai G.,
Kozu T., Sakamoto T., “Solution structure of a DNA mimicking motif of an RNA aptamer against
transcription factor AML1 Runt domain”, J. Biochem., 154, 513-519, (2013).
5. 本共同研究による発表リスト
[口頭発表リスト]
ⅰ) 天野亮, 野村祐介, 永田崇, 小林直宏, 高田健太, 福永淳一, 田中陽一郎, 片平正人, 中村義一, 神
津知子, 坂本泰一,NMR による AML1 Runt ドメインと RNA アプタマーの相互作用の解析,平成
26 年度日本分光学会年次講演会,2014 年 5 月,和光,ポスター
ⅱ) 高田健多,天野亮,永田崇,片平正人,中村義一,神津知子,坂本泰一,AML1 タンパク質の Runt
ドメインに結合する RNA アプタマーの取得と解析,平成 26 年度日本生化学会関東支部例会,2014
年 6 月,茨城,ポスター
ⅲ) Ryo Amano, Yusuke Nomura, Takashi Nagata, Naohiro Kobayashi, Yoko Mori, Kenta Takada, Junichi
Fukunaga, Yoichiro Tanaka, Masato Katahira, Yoshikazu Nakamura, Tomoko Kozu, and Taiichi Sakamoto,
Properties of RNA aptamer binding to AML1 Runt domain, XXI Round Table on Nucleosides, Nucleotides
and Nucleic Acids, 2014 年 8 月,Poznan(ポーランド),ポスター
ⅳ ) Kenta Takada, Ryo Amano, Takashi Nagata, Masato Katahira, Yusuke Nomura, Yoichiro Tanaka,
Yoshikazu Nakamura, Tomoko Kozu and Taiichi Sakamoto, NMR analysis of the interaction between an
artificial RNA and a transcription factor, The 5th International Symposium of Advanced Energy Science,
2014 年 9 月,宇治,ポスター
ⅴ) 高田健多,天野亮,田中陽一郎,永田崇,片平正人,中村義一,神津知子,坂本泰一,急性骨髄
性白血病の原因タンパク質 AML1 に対する RNA アプタマーの取得と解析,第 4 回 CSJ 化学フェス
タ,2014 年 10 月,船堀,ポスター
ⅵ) Kenta Takada, Ryo Amano, Yoichiro Tanaka, Takashi Nagata, Masato Katahira, Yoshikazu Nakamura,
Tomoko Kozu, Taiichi Sakamoto, Characterization of RNA aptamer targeting the DNA binding domain of
AML1 protein, The 41th International Symposium on Nucleic Acids Chemistry, 2014 年 11 月,北九州,ポ
スター
ⅶ) 高田健多,天野亮,永田崇,片平正人,野村祐介,田中陽一郎,中村義一,神津知子,坂本泰一, AML1
Runt domain と RNA アプタマーの相互作用の NMR 解析, 第 37 回日本分子生物学会年会,2014 年
11 月,横浜,ポスター