No.50

校長便り50「道徳の教科化に思う・その7」
平成27年7月29日(水)
今回の校長便りは、「道徳の教科化に思う・その7」として「9
の資料をお届けします。
9
展開後段の必要性と課題」
展開後段の在り方
最近、展開後段に関わる様々な意見が聞かれます。
○ 決意表明をさせるなど様々な活動が見られ、展開後段の趣旨がわからなくなった。
○ 展開後段における学習活動・内容が、経験(体験)を発表させるなど形式的になっている
のではないか。
○ 展開後段は必要なのか。
これらの問題を考える際には、まず道徳の時間の目標を振り返ることが重要です。 学習指導
要領解説にもあるとおり、道徳の時間の目標は「道徳的実践力の育成」で あり、道徳的実践力
とは「道徳的価値を実現するための適切な行為を主体的に選択し、実践することができるような
内面的資質」を意味しています。展開後段において、具体的な行為の仕方を考えたり行為への決
意表明を指導することは、3でも述 ましたが学級活動の時間と言わざるをえません。
また、展開後段の必要性や内容を論議するのであれば、これまでの自己の授業における展開
後段の学習活動・内容の在り方を明確な視点をもって振り返ることが重要であると考えます。
(1)
展開後段の必要性
展開後段の必要性について述べたいと思います。そもそも道徳の時間は道徳的価値の自覚
を深める時間です。学習指導要領解説によれば、「道徳的価値の自覚」とは、①道徳的価値につい
て理解する。②自分との関わりで道徳的価値が捉えられる。③道徳的価値を自分なりに発展させ
ていくことへの思いや課題が培われることとされています。道徳的価値を言葉として理解するの
ではなく、より高められた道徳的価値観に照らして、今までの自分の人間的な生き方あるいは人
間としての在り方はどうでったかを振り返り、自己を見つめる時間であるということです。その
時間の中で、ある時は心情的に、また、ある時は冷静な知的判断のもとに、ある時は道徳的実践
の身構えを強くもたせることで道徳実践力が徐々に着実
に養われていくことが重要です。そ
して、その中核的な役割を果たしているのが 展開後段です。これまで、この段階は、「価値の一
般化」、「価値の主体的自覚」、「価値の内面的自覚」の段階と言われてきました。これまでの生き
方を振り返り今の生き方を認め、これからの生き方へと広げていくなど、自己を見つめること
が指導の意図とされています。確かに、展開前段においても、真の意味で資料中の主人公に共
感しながら自己を語らせるような発問(中心発問・基本発問・補助発問)が構成されれば、展開
後段を学習指導過程に計画しなくてもよいことにな
りますが、「道徳的価値の自覚」を内面
的に深めるために、これから述べる9の(3)の展開後段の学習活動・内容を展開すれば不可欠
となると考えます。
(2)
展開後段の課題
これまでの実践を振り返ってみると、「果たして、真に道徳的価値の内面的自
覚がさ
れていたのか。」という問題意識が出てきます。特に展開後段においての児童生徒の反応をみた
とき、指導者として児童生徒の価値観の高まりの程度が把握できていたのか、展開後段の学習活
動・内容を固定化して考えてきたのではないかなどを自問してしまいます。
また、展開前段での児童生徒の心の高まりが、後段で冷めてしまう学習展開と
なって
しまう授業が多く見られてきました。展開前段と後段との連続性が失われるということです。
ここで、これまでの学習活動・内容を振り返ってみたいと思います。
○ ねらいとする価値に関して発表させる。
・ 実現した(できた)経験(体験)やその時の気持ちや考え等を発表させ、自己を見つ
めさせる。
・ 実現しなかった(できなかった)経験(体験)やその時の気持ちや考え等を発表させ、
自己を見つめさせる。
・ 実現した(できた)経験(体験)と実現しなかった(できなかった)経験(体験)を同
時に出させ、その時の気持ちや考え等を発表させ、自己を見つめさせる。
この学習展開は、直接経験(体験)・間接経験(体験)の違い、ねらいが主として心情・主
として判断力の違いによって発問が変わってくるものの、児童生徒の
生活経験(体験)を出
させることには変わりはなかったのです。課題としては、次の3点です。
○ 学習指導過程の中で、生活経験(体験)を取り上げることのある段階に「導入」があり
ますが、「展開後段」においても生活経験(体験)を出させようとするとき、それぞれの段階の
意図、意義はあるにせよ、同じ学習活動の繰り返しになるのではないでしょうか。児童生徒にと
って、意識の違いはあるのでしょうか。主体的な生活経験(体験)の想起になっているのでしょ
うか。
○ 児童生徒が、形式的に生活経験(体験)を述べその時の気持ちや考えを発表することで、
価値を内面的に自覚することになるのでしょうか。指導者は、それを把握することができません。
○ 展開前段で資料にひたり、ねらいとする価値について追求、把握した後、展開後段で生
活にもどしてしまうことは、児童生徒の高まった心情にマイナスの影響を与えているのではない
でしょうか。
次回は、「(3)
展開後段の学習活動・内容の在り方」について述べたいと思います。