vol.34

2015 年
監 修/東海大学 責任編集/東海大学医学部付属病院皮膚科 編 集/高木皮膚科診療所 三重大学大学院医学系研究科皮膚科学
福岡大学医学部皮膚科学教室 名誉教授 小澤
科 長 馬渕
院 長 高橋
准教授 山中
教 授 今福
明
智生
英俊
恵一
信一
vol.
34
先生
先生
先生
先生
先生
Promising Leader's Research in Psoriasis
PD-1 はγδ low T 細胞の IL-17 産生を抑制し
イミキモド誘発性乾癬を制御する
兵庫医科大学皮膚科学 講師 今井 康友 先生
特別企画
開業医の乾癬診療~最近思うこと
浅井皮膚科クリニック 院長 浅井 俊弥 先生
Academic Meetings on Psoriasis
馬渕 智生 先生
東海大学医学部付属病院皮膚科 科長 Report
Information
第23回 世界皮膚科学会議
The European Society for Dermatological Research (ESDR)
45th Annual ESDR Meeting
European Academy of Dermatology and Venereology (EADV)
24th EADV Congress
第67回 日本皮膚科学会西部支部学術大会
第66回 日本皮膚科学会中部支部学術大会
日本研究皮膚科学会 第40回年次学術大会・総会
Promising Leader's Research in Psoriasis
PD-1 はγδlow T 細胞の IL-17 産生を抑制し
イミキモド誘発性乾癬を制御する
今井 康友 先生
兵庫医科大学皮膚科学 講師 研究の意義と位置づけ
PD-L1-Fc 融合タンパクをコーティングしたプレートを用い
悪性腫瘍はProgrammed cell death 1 (PD-1) 受容体のリガン
γδ lowT細胞を培養した実験系で、PD-L1と結合させたPD-1
ドであるPD-L1を発現し、T細胞に発現するPD-1と結合して
陽性γδlow T 細胞では IL-1 7 産生能が低下した(図 4)。以上
T細胞を抑制し免疫から逃避している。PD-1とPD-L1の結合
の 結 果 よ り、炎 症 部 位 の ケ ラ チ ノ サ イ ト は PD-L1 を 発 現
を阻害する抗PD-1抗体が悪性黒色腫の治療に用いられるが、
し γδlow T細胞上のPD-1を介してIL-17の産生を抑制している
乾癬を含む薬疹の発生や乾癬の増悪が報告されている。そこで、
が、PD-1が機能しない場合はγδlow T細胞が抑制されずIL-17
本研究 1) では、PD-1シグナルが乾癬様皮膚炎に与える影響に
産生が増加し、乾癬様皮膚炎が発症すると推測した。
ついて動物モデルで検討した。
臨床との結びつきと今後の課題
研究により得られた成果
このメカニズムは抗PD-1抗体が乾癬などの皮疹を誘発する
低濃度イミキモドを耳に5日間連日塗布して誘発した乾癬モ
機序を説明できるのかもしれないが、あくまで動物実験である。
デルにおいて、PD-1欠損マウスでは野生型マウスよりも強い
ヒトにおける機序の解明には、抗PD-1抗体療法に乾癬や膠原
(図1)
。Mabuchiらによって表皮内に浸潤し
耳介腫脹を認めた 1)
病など免疫関連疾患の診断や治療に十分な知識と経験を有する
たγδ弱陽性である「γδlow T細胞」がIL-17を産生して乾癬を誘
医師が関与していくことが期待される。
発することが既に明らかにされている 2, 3 )が、このγδlow T細胞
はPD-1が陽性であった(図2)
。PD-1の結合相手として、イミ
キモド外用はケラチノサイトのPD-L1発現を誘導した(図3)
。
図 1 イミキモド外用による乾癬モデル
*
コントロール抗体
イミキモド外用なし
イミキモド外用あり
野生型マウス
*
*
50
0
外用前
1日後
2日後
3日後
4日後
% of Max
耳介腫脹(相対値)
図 3 ケラチノサイトにおけるPD-L1発現
PD-1欠損マウス
100
1)Imai Y, et al. : J Immunol. 2015 ; 195(2) : 421-425.
2)Mabuchi T, et al. : J Immunol. 2011 ; 187(10) : 5026–5031.
3)Mabuchi T, et al. : J Invest Dermatol. 2013 ; 133(1) : 164–171.
5日後
Mean ± SEM(n=6)
*p<0.05(Bonferroni's multiple comparisons test)
図 2 皮膚γδlow T細胞におけるPD-1発現
文献1)より引用改変
図4
PD-1
IL-17
γδlow T細胞
T細胞受容体γδ
PD-L1
γδlow T細胞のPD-L1との結合による
IL-17産生能の低下(in vitro)
コントロール
PD-L1と結合
8.9%
1.8%
T細胞受容体γδ
文献1)より引用改変
特別企画
開業医の乾癬診療~最近思うこと
浅井皮膚科クリニック 院長
浅井 俊弥 先生
乾癬患者の高齢化
乾癬型薬疹に困惑
日本乾癬学会で実施した疫学調査によれば、乾癬の発症年齢
は、男性では30代、40代をピークとする1峰性、女性では10代
と50代をピークとする2峰性であるとされる。開業医は、最前
線で乾癬患者と接するわけだが、その内訳は発症したての患者
から、長い経過の患者まで様々である。当院は開業してから16
年を経過したが、最近は乾癬患者の高齢化が目立つようになっ
たと感じる。外用療法・光線療法を主体とするピラミッド療法
の一番基礎となるファーストラインの治療を担っているわけだ
が、完治して卒業という疾患ではないため、長らく通院してい
るうちに、患者自身が年を重ねているのが実情だろう。当院の
乾癬受診患者の集計では、2005年では、65歳未満の患者が56%、
65歳以上が44%であったが、2015年では、65歳未満が48%、
65歳以上が52%と逆転しており、確かに高齢者の割合が増加し
ている。近年、乾癬は生活習慣病と関わりが深く、心・血管イ
ベントを生じやすいということを講演などで聴くが、幸いにも
当院の患者で、生命に関わるような合併症を発症したという情
報は、聞こえてこない。多くの患者は、乾癬とともに、健康に過
ごしているようだ。
高齢の乾癬患者が多くなった理由に、薬剤との関連があるの
ではないかと考えている。乾癬型薬疹の原因薬剤は、いくつか
知られているが、カルシウム拮抗薬、βブロッカーなど、一般的
に多くの高齢者が内服している可能性のある薬剤で生じること
があるとされる 2)。
乾癬型薬疹のやっかいな点は、
『内服を開始して長期間経過
した後に発症する例が多いこと』、
『一旦発症すると、内服を中
止しても改善しない例があること』である。内科主治医に変更
を依頼するのも、根拠に乏しく断言できず、逡巡する。皮膚生
検を行うと、典型的な表皮肥厚に加えて、わずかにspongiosis
の変化を伴うこと、浸潤細胞に好酸球が加わることで、むずか
しいながら鑑別ができるとのこと。初心に返り、高齢発症の患
者では皮膚生検を行うべきと思っているが、なかなか実行で
きていない。図1は乾癬型薬疹と診断した78歳の男性である。
体幹に、境界明瞭な複数の紅斑を列序性に認めた。やや鱗屑は
少なめで、紅斑の形もやや不整形であるが、一見、乾癬の個疹と
しても悪くはない。皮膚生検(図2)では、表皮肥厚は比較的均
一だが、錯角化は目立たず、また、表皮細胞間に浮腫を伴って
いた。ニフェジピンをARBに変更し、改善を認めた。
「一生治らないのか」に答える
いつも悩まされる質問である。長期的にみれば、確かに、完
治して無罪放免になる患者がいるかどうか、疑問である。ただ
し、聖路加国際病院元皮膚科部長の衛藤光先生が、講演で完治
した症例を呈示してくださったことがあり、今でも印象に残っ
ている。すべては思い出せないが、解離性大動脈瘤だったか、
心・血管の大手術をした後に完治した症例、悪性リンパ腫で骨
髄移植を行った後に完治した症例、だったと思う 1)。「完治も
あり得る」との答えは、まちがっていないわけである。ただ、
一般的には、なかなか巡り会うことができない。そこで、私は
いつも、「高血圧症と一緒。一旦発症すれば経過は長いが、治
療を継続すればよい状態を維持できる。やめたら、合併症が出
て不利益が生じる。」と、説明している。
図 1 Case 1(78歳 男性、乾癬型薬疹)
意外に多い、白癬の併発
図3は67歳の女性で、50代で発症。その後ステロイド軟膏、活
性型ビタミンD3 軟膏、ナローバンドUVBで治療を継続してきた。
経過中、上記治療にもかかわらず、足背の紅斑を中心に、よく観
察すれば環状で辺縁にうすい鱗屑をつける紅斑が生じ、趾間にも
鱗屑を伴う紅斑が目立ってきた。鏡検で糸状菌が陽性。この症
例を契機に、足に紅斑のある患者では、漫然と治療を繰り返さな
いことと、鏡検を重ねて行うよう、対応を改めることになった。
以上、乾癬患者の日常診療の中で、ひとりの開業医が考える
こと、悩んでいることを記した。明日からの診療の一助になれ
ば、幸いである。
1)衛藤 光 : 皮膚の科学 2004 ; 3 (5) : 512-517.
2)相原道子 : 日皮会誌 2008 ; 118 (13) : 2806-2808.
図 2 Case 1の皮膚生検像
図 3 Case 2(67歳 女性、白癬併発例)
Academic Meetings on Psoriasis
東海大学医学部付属病院皮膚科 科長 馬渕
智生 先生
Report
第23回 世界皮膚科学会議
23rd World Congress of Dermatology(WCD)
(Vancouver Convention Centre、バンクーバー、カナダ/ 2015年6月8日~ 13日)
今回の WCD はカナダ・バンクーバーで開催された。世界中から参集した皮膚科医・研究者で会場には人があふれ、表現形こそ違うもの
の、その熱気は、同時期に開催されていたサッカーの FIFA 女子ワールドカップ・カナダ大会のサポーターの盛り上がりにも負けないほど
であった。日本からも多くの先生が参加され、なでしこジャパンがグループリーグ突破を決めた試合(ナイトゲーム)を観戦された先生もい
らっしゃったようである。乾癬のセッションは、シンポジウム、一般演題と連日、何かしらのセッションが開催されていた。臨床治験に関
係した内容が多かったが、関節症状、合併症、免疫学を中心とした病態解析にも注目が集まっていた。
Information
The European Society for
Dermatological Research (ESDR) 45th Annual ESDR Meeting
[会期]2015 年 9 月 9 日 ~ 12 日
[会場]Postillion Convention Centre-WTC、ロッテルダム、オランダ
[URL]http://www.esdr2015.org/
European Academy of Dermatology
and Venereology (EADV) 24th EADV Congress
[会期]2015 年 10 月 7 日 ~ 11 日
[会場]Bella Center Copenhagen、コペンハーゲン、デンマーク
[URL]http://eadvcopenhagen2015.org/
第67回 日本皮膚科学会西部支部学術大会
[会期]2015 年 10 月 17 日 ( 土 ) ~ 18 日 ( 日 )
[会場]長崎ブリックホール/長崎新聞文化ホール、長崎県長崎市
[URL]https://www.congre.co.jp/wjda67/
第66回 日本皮膚科学会中部支部学術大会
[会期]2015 年 10 月 31 日 ( 土 ) ~ 11 月 1 日 ( 日 )
[会場]
神戸国際会議場、
兵庫県神戸市
[URL]http://cjda66.jp/
会 長:神戸大学大学院医学研究科内科系講座皮膚科学分野
教授 錦織 千佳子 先生
事務局長:神戸大学大学院医学研究科内科系講座皮膚科学分野
講師 永井 宏 先生
日本研究皮膚科学会 第40回年次学術大会・総会
[会期]2015 年 12 月 11 日 ( 金 ) ~ 13 日 ( 日 )
[会場]
岡山コンベンションセンター、
岡山県岡山市
[URL]http://jsid40-okayama.jp/
会 長:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学分野
教授 岩月 啓氏 先生
事務局長:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学分野
病院講師 森実 真 先生
会 長:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学分野
教授 宇谷 厚志 先生
事務局長:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学分野
准教授 竹中 基 先生
10月29日は世界乾癬デーです〈 World Psoriasis Day 29 October〉
乾癬情報提供冊子『Psoriasis』バックナンバー
Vol.
責任編集
30
馬渕 智生 先生
(東 海大学)
31
今福 信一 先生
(福岡大学)
32
高橋 英俊 先生
(高木皮 膚科診療 所)
33
山中 恵一 先生
(三重大学)
34
馬渕 智生 先生
(東 海大学)
Promising Leader's Research in Psoriasis と Special Information for Calcipotriol※ のテーマ
『カルシポトリオールのIL-17A/IL-22刺激時に正常ヒト表皮角化細胞より産生されるcathelicidin antimicrobial peptide に対する影響』
浜松医科大学医学部皮膚科学講座 特任助教 坂部 純一 先生
『難治性の尋常性乾癬に対する外用療法の工夫
ーステロイドローションとビタミンD 3軟膏との1日1回併用療法の有用性ー』
『PET/CTによる無症候性関節症性乾癬患者の検出とその臨床的特徴について−日本人乾癬患者におけるPsA移行の予測因子は何か?−』
高知大学医学部皮膚科学講座 助教 髙田 智也 先生
特別企画 『乾癬の治療、今考えること』
福岡大学医学部皮膚科学教室 教授 今福 信一 先生
尋常性乾癬におけるCD146/MCAM陽性Th17細胞の免疫病理学的解析
昭和大学医学部皮膚科学講座 小林 香映 先生
尋常性乾癬治療における外用療法:
系統的レビューおよびネットワーク・メタ解析
乾癬患者の末梢血におけるセントラルメモリーT細胞の役割
名古屋市立大学大学院医学研究科加齢環境皮膚科学 西田 絵美 先生
尋常性乾癬におけるメトトレキサートとカルシポトリオール外用の併用療法と
メトトレキサート単独療法との臨床効果の比較
PD-1 はγδlowT 細胞のIL-17 産生を抑制しイミキモド誘発性乾癬を制御する
兵庫医科大学皮膚科学 講師 今井 康友 先生
特別企画 『開業医の乾癬診療∼最近思うこと』
浅井皮膚科クリニック 院長 浅井 俊弥 先生
※ 各号の責任編集の先生による文献抄訳/要約
2015 年 9 月作成
GT9.5-1509P
DOV TC 042A