ユニクロの経営戦略

ユニクロの経営戦略
明治大学経営学部経営学科
2 年 中野
目次
1. はじめに
2. ファーストリテイリング
3. 商品政策―SPA
4. 高品質・高機能素材
5. ブランド戦略―広告活動
6. 海外展開
7. おわりに
参考文献
1. はじめに
リーマンショック以降、世界中の多くの小売業が低迷する中、ユニクロは安定的に業績
を伸ばし続けてきた。家電やパソコンの場合、
“安さ”“立地の便利さ”“品揃えの豊富さ”
などの要素がそろえばある程度売れるが、衣料品は好みや流行、ファッション性が求めら
れるためそう簡単にはいかない。今回は、他業種以上に厳しい経営環境の中、ユニクロは
どのようにして業績を伸ばし続けてきたのか、ユニクロの経営戦略について分析していき
たいと思う。
2. ファーストリテイリング
ファーストリテイリングはユニクロを中核ビジネスとして、ジーユー、セオリー、コン
トワー・デ・コトニエ、プリンセス タム・タム、J Brandなど複数のブランド展開をして
いる。主力のユニクロは 1984 年に 1 号店をオープンし、ロードサイド店を中心にチェーン
展開を行ってきた。1998 年に都心への出店を開始すると同時に、フリースキャンペーンを
展開し、日本中のユニクロブームを巻き起こした。その後はショッピングモールへの出店、
銀座・新宿・大阪といった大都市圏の繁華街へのグローバル旗艦店の出店、グローバル繁
盛店であるビックロ(家電量販店のビックカメラとユニクロの共同出店による商業施設)の
出店も行っている。2006 年に立ち上げたジーユー事業は、低価格でファッション性が高い
ブランドとして、日本市場で成功を収めている。店舗数は 2014 年 8 月末現在 276 店舗まで
拡大し、売上高は 1000 億円を突破した 1。ジーユーもユニクロ同様、SPAのビジネスモ
デルによる独自商品を開発し、競争力が高いブランドに育っている。
ファーストリテイリングは国内アパレル業界では断トツの 1 位で、世界的に見ても、イ
ンディテックス(ZARA)、H&M、GAP に続く第 4 位と業界内でも高いポジションにいる。
注目すべきは前期比で、ファーストリテイリングは+21.0%と高い伸び率であると分かる。
企業名(主なブランド名)
国
決算期
売上高
(兆円)
売上高
前期比(%)
(Billions (現地通貨
of dollar) ベース)
2014 年 1 月 2.28
22.04
+4.9
H&M
スウェーデン 2013 年 11 月 1.91
18.45
+6.4
Gap
米国
2014 年 2 月 1.67
16.14
+3.2
日本
2014 年 8 月 1.38
13.33
+21.0
インディテックス(ZARA) スペイン
ファーストリテイリング
(ユニクロ)
(注)各社のアニュアルレポートより作成。2014 年 8 月末時点の為替レートで算出
(出所)ファーストリテイリング http://www.fastretailing.com/jp/ir/direction/position.html
1
http://www.fastretailing.com/jp/about/business/aboutfr.html
ユニクロは成功ばかりしてきたのではなく、もちろん失敗も経験して今に至る。1 つ例を
挙げると、2001 年のイギリスへの進出の失敗だ。イギリスでの失敗の原因は、「3 年間で
50 店舗を作る」ことと「3 年間で黒字化する」という期待が甘かったことだけでなく、現
地で採用したイギリス人トップをはじめ現場社員に至るまで「働かない」甘い会社だった
ことに尽きる。
「自分たちで全部やる」という当社の理念や文化が全く理解されていなかっ
たし、お客様の要望を聞く態度にない、生産・販売・在庫のバランスが全く取れていなか
ったことなどが問題点として挙げられる 2。しかし、ユニクロは失敗したからと言ってイギ
リスから全面撤退するのではなく、今後グローバル化していく中で、全面撤退したらイギ
リスに進出した意味がないと考え、採算がとれるところまで縮小させる方法をとった。失
敗したことを今後の行動につなげることができているのが、現在の世界 4 位という地位を
築けている理由の 1 つだろう。
3. 商品政策―SPA
次に、ユニクロの商品政策について見てみる。ユニクロは、企画・素材開発・素材調達・
生産・物流・販売までを一貫して行うSPA(アパレル製造小売業)のビジネスモデルを確立
している。SPAは発注した商品はすべて買い取らなければならないリスクはあるが、大量に
ロットで発注して買い取るためコストが下がり、売値も下げられるのが強みである。また、
商品の売れ行きを見て、爆発的に売れれば途中で増産、逆に、売れ行きが悪ければ減産か
生産中止といった生産調整をすることができる。一般的なアパレル業者は、メーカーは作
るだけ、問屋はメーカーが作った商品を小売業者に卸すだけ、小売業者は売るだけと、機
能的に分化している。この場合、その商品の売れ行きはどうか、お客様が売り場でどんな
反応を示していたかといった重要な情報を小売業者はドブに捨てていることになる。しか
し、ユニクロの場合はSPAによって、独自商品の開発による他社との差別化、賃料や人
件費を抑えたローコストな店舗経営に研きをかけることで、
「高品質で低価格の商品」を提
供することが可能となっている 3。
4. 高品質・高機能素材
近年、H&M や、ZARA、フォーエバー21 といった外資系ファストファッションブラン
ドが次々と日本に進出してきている。いずれも最新の流行を取り入れながら、低価格の衣
料品を短いサイクルでグローバルに生産・販売している企業である。こうしたファストフ
ァッションが、日本の若者から絶大な支持を集めているのは「安く気軽に最先端のファッ
ションが手に入る」からだ。外資系ファストファッションブランドが、ワンシーズンしか
着られない流行に特化した服を売り出すのに対し、ユニクロは、ファストファッションブ
ランドにはない、低価格ながらも高品質なベーシックカジュアルウェアを提供している。
2
3
柳井正(2009)40 ページ
http://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/uniqlobusiness.html
低価格とはいえ「安物」と思わせないために、世界中で一番良い素材を使用し、また新
機能を持つ素材開発に力を入れている。その代表的な商品としては、カシミヤセーターや
ヒートテックが挙げられる。普通、百貨店では数万円するカシミヤセーターも、ユニクロ
は世界中の素材メーカーと直接交渉し大量調達することで、5990 円という破格で提供する
ことが可能となっている。一方のヒートテックは、東レと協働で糸から素材を開発して生
まれた商品である。何年もかけて改良に改良を重ねた結果、2011 年時点で累計販売枚数約
3 億枚の大ヒット商品となった 4。それまでもヒートテックに似た素材は、冬のスポーツ用
肌着として、主にスポーツ用品店などで販売されていた。しかし値段が高い割には着心地
が悪く、全くファッション性がなかった。このあまり注目されていなかった素材を、より
薄くするなどして着心地を改善し、保温機能や保湿機能を加え、よりファッショナブルに
する。それでいてあらゆるお客様が買える価格にする。そんな過程を経て現在のヒートテ
ックが完成した。もとは、スポーツ用肌着やババシャツであったが、常識にとらわれず、
いろいろな付加価値をつけることで商品の可能性を大きく広げることができたのだ。
5. ブランド戦略―広告活動
ユニクロは広告活動にも力を入れている。例えば、グローバルなブランド戦略の一環と
してウェブ上で展開している「UNIQLOCK(ユニクロック)」が、2008 年、世界三大広告賞
の 1 つである「カンヌ国際広告祭」のチタニウム部門とサイバー部門でグランプリを獲得
した。ユニクロックとは、2007 年 6 月に配信をスタートしたブログパーツだ。時報が 5 秒
間流れた後、ユニクロのウエアを着てダンスを踊る女性の姿が 5 秒間流れる映像が繰り返
されるというものだ。
「インターネットを活用し、従来の媒体CMとは異なる新しいマーケ
ティング&コミュニケーション方法を確立して、世界中にプロモーションを仕掛けたいと
いう狙いのもとに開発したものだ。カンヌのグランプリを獲得した時点で、世界 83 か国で
4 万 1632 個のブログパーツが設置され、世界 212 か国から 1 億 2090 万 278 のアクセスを
記録している。5」これまで欧米でのユニクロの認知度は低かったが、この受賞により認知
度が高まることとなった。
また、ユニクロは世界的有名ファッションデザイナーであるジル・サンダー氏とデザイ
ンコンサルティング契約を締結したことでも大きく注目を集めた。ジル・サンダー氏はデ
ザイナーとしての能力は高いが難しく手ごわい相手であり、相当に粘り強い説得と交渉の
末、契約が決まった。この契約を発表した後、ユニクロは世界中から注目を浴び、特に日
本国内よりもヨーロッパやアメリカでの反響が大きかった。ジル・サンダー氏がデザイン
する新ライン+J(プラスジェイ)は世界中で発売され、その月の既存店売上高(国内)は、対
前年同月比で 3 割アップとなった 6。
4
5
6
http://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/presen120404_strategy.pdf
松下久美(2010)164 ページ
松下久美(2010)122 ページ
6. 海外展開
「海外進出は 2001 年 9 月の英国に始まり、2014 年 8 月末時点の店舗数は、国内 852 店
舗に対し海外 633 店舗で、海外事業の売上高はユニクロ事業全体の約 37%を占めている。
特に中華圏(中国・香港・台湾)、韓国その他東南アジアでの出店により、高成長が継続して
」今後は中華圏およ
いる。米国市場においても本格的なチェーン展開を開始しつつある 7。
び東南アジアでの大量出店により、高い成長性をめざすことや、米国でチェーン展開を開
始し、年間 20~30 店舗の出店をめざすことを目標にしている。課題としては、各国の経営
者や店長の育成強化や、米国ユニクロの早期黒字化、欧州の主要都市に出店しユニクロの
ブランド認知度を高めることである。この課題を克服していくことができたら世界一のア
パレル企業になるのもそう遠くはないだろう。
7. おわりに
「ファーストリテイリンググループの中心的なステートメントは『服を変え、常識を変
え、世界を変えていく』である。グループのミッションの 1 つとして、
『本当に良い服、今
までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、
幸せ、満足を提供する』ということが挙げられている 8。」ユニクロが国内で“一人勝ち”
している理由は、やはり、ヒートテックやブラトップといった新たなマーケットカテゴリ
ーを作り出し、新たな需要を創造しているからであろう。今後も革新的な商品を生み出し、
他社との差別化を図り、そして“ユニクロ”というブランドに対する信頼度をもっともっ
と高めていけるかどうかが、ユニクロの未来を左右するのではないかと思う。
7
8
http://www.fastretailing.com/jp/about/business/aboutfr.html
http://www.fastretailing.com/jp/about/frway/
参考文献
柳井正(2009)『成功は一日で捨て去れ』新潮社
松下久美(2010)『誰も書かない創造的破壊の舞台裏 ユニクロ進化論』ビジネス社
参考 URL
http://www.fastretailing.com/jp/ (ファーストリテイリング社)