Title ウェディング・ドレスの裾上げの方法と評価II : 裏布のつ

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ウェディング・ドレスの裾上げの方法と評価II : 裏布のつ
け方の違いによる評価 鹿島, 和枝
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (46) (2015-01)
pp.1-12
2015-01-31
http://hdl.handle.net/10457/2265
Rights
http://dspace.bunka.ac.jp/dspace
ウェディング・ドレスの裾上げの方法と評価 Ⅱ
裏布のつけ方の違いによる評価 Evaluating Methods of Taking Up Hems of Wedding Dresses Ⅱ
Evaluation by Different Lining Methods 鹿島 和枝
Kazue Kashima
要旨
衣服製作においては、素材に適した縫製が求められる。前報に続き、縫製方法を選択する指針を得るため、
ウェディング・ドレスの裏布のつけ方の違いによる裾上げの方法について、3 種類の布地ごとに縫製方法の異なる
5 種の試料を作成し、官能検査によって評価した。その結果(1)シノンウールは、よこ地に張りがないため、ホー
スヘアブレードを入れて張りを出し、折り代のひびきがなく、裏布のなじみが良かった「裏布を差し込む」と「奥
まつり」の方法は適している評価が高い。
(2)サテンクレープはドレープ性が大きいため、裾に張りがないと垂れ
てまつりのひびきが大きくなることから、折り代がひびかないように裏布側にホースヘアブレードを入れた「振ら
し仕立て②」の方法や裏布のなじみが良かった「裏布を差し込む」の方法は適している評価が高い。
(3)シルクタ
フタは折り代のひびきがなく、かろやかで薄く仕上がる「振らし仕立て②」の方法は適している評価が高いことが
確認できた。また、官能評価間の相関性を分析し、布地の特性によって裾上げ方法や裏布のつけ方を選択するこ
とが望ましいなど、縫製指導上の指針が得られた。その結果をもとに授業で製作した学生の作品事例を報告する。
●キーワード:ウェディング・ドレス(Wedding Dress)/官能評価(Sensory Evaluation)/
縫製方法(Sewing Technique)
Ⅰ.はじめに
ル・ドレスを製作する際に、裾上げと裏布のつけ方の縫
ウェディング・ドレスのデザインの中で、特にスカー
製方法を選択できるような指針を得ることを目的とした。
トの裾が広がったAラインやエンパイア・ラインのデザ
インでは、シルエットを保ち、歩行時は足捌きがよく歩
Ⅱ.方法
きやすいことを考慮し、裾部分の巻き込みやめくれ上が
裾始末の縫製方法の中で、ヘムを折り上げてまつる方
りを防ぐためには、裏打ち布や裏布のつけ方、裾上げの
法について、3 種類の布地ごとに裏布のつけ方の違う 5
方法も重要であると考える。
種の異なる縫製方法で評価試料を製作し、官能検査の一
前報
1)
では、その縫製方法を選択する指針を得るた
め、パニエを使用するAラインのウェディング・ドレス
対比較法中屋変法(順序効果のない場合)を用いて、そ
の仕上りや裾上げ方法の適否などを評価した。
の裾上げ方法について、シノンウール、サテンクレー
プ、シルクタフタの 3 種類の布地ごとに縫製方法の異な
Ⅱ-1 試験布
る 6 種の試料を製作し、官能検査による裾の仕上りにつ
1.試験布の選定
いて評価した。その結果から、ホースヘアブレードをヘ
(1)表布
ムに入れる方法は評価が高く、折り代やまつり目が表面
ウェディング・ドレス製作に多く用いられる布地とし
にひびくのを防ぐためには、裏打ちをする方法が最も評
て厚さの違うシノンウール、サテンクレープ、シルクタ
価が高いことが明らかになった。
フタの 3 種類を前報同様に使用した。諸元は、前報の測
そこで筆者は、前報の結果に加え、裏布をつけた場合
定結果を引用する。
の裾上げ方法の適否などを確認するために官能検査に
(2)裏布
よって検証したいと思った。また、その結果をもとに学
裏布の役割 2)3)は、①すべりを良くし、動作に対して
生がファッション造形実習の授業において、フォーマ
着心地を向上させる。②着脱を容易にする。③裏側の芯
文化学園大学短期大学部教授 服装造形学
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
1
や縫い代を覆ってきれいに仕上げる。④表布の風合いを
用した。縫製には絹ミシン糸 50 番を使用した。諸元は
保って、シルエットづくりを助ける。⑤肌触りをよくす
前報の測定結果を引用する。
る。⑥下着などが透けるのを防ぐ。⑦保温効果があるな
裏布と裏打ち布、副資材の諸元を表 1 に示す。ドレー
どである。本報では、ドレス用に市販されている裏布の
プ性は布地の表面を上面にして計測した。 剛軟度は、
中から 4 種選定した。
「JIS 1096-2010 8.21 剛軟度 8.212B法(スライド法)」に
(3)裏打ち布
4)5)
より、布地の表面を上にして 2.0 ㎝×10.0 ㎝の試験片を測
は、①表布の厚みや張りの補強。②透け
定器に装着し、測定した。垂れ下り水平垂直距離の平均
る布の透け防止、色の調和などが目的で、表布の裏面に
値から下式により剛軟度を算出した。試長は 6 ㎝である。
別布をあてたり、接着芯を貼ったりすることである。本
剛軟度の算出式 G=WL 4 / 8 b
報では、市販されている布地の中から 5 種選定した。表
G:剛軟度(gfcm)
布の風合いを損なわずに仕立てられるように接着芯は選
W:平面重(g/㎠)
定しなかった。
L:試長(㎝)
裏打ち布
(4)その他
b:垂れ下りの水平垂直距離(㎝)の平均値
ホースヘアブレード゙は 3.0 ㎝幅のものを統一して使
表 1 試料の諸元
布地名
a
裏布
b
c
d
スレキ1
スレキ2
裏打ち布
ハイモ
綿オーガンジー
シルクオーガンジー
ホースヘアブレード
3.0 ㎝幅
2
織糸の太
剛軟度(gfcm)
ドレープ性
さ(tex)
試長 6 ㎝
糸密度
厚さ
平面重
たて
材質(%)
組織
(本)
よこ
(㎜)
(g /㎡) ドレープ
ノード数 方向
たて×よこ たて よこ
右バイアス
係数
左バイアス
0.3
0.33
ポリエステル 100 綾織
0.1
51 × 40
6
9
70
0.44
5
0.34
0.29
0.3
0.3
キュプラ 100
綾織 0.095 56 × 41
6
9
67
0.39
5
0.32
0.32
0.31
0.32
キュプラ 100
平織 0.105 44 × 38
8
9
72
0.4
4
0.33
0.33
0.22
0.23
ポリエステル 100 平織 0.089 45 × 44
5
7
54
0.62
5
0.25
0.24
0.37
0.41
綿 100
綾織 0.232 30 × 28
14 20
96
0.88
2
0.39
0.4
0.32
ポリエステル 65
0.35
平織 0.212 35 × 25
13 14
82
0.81
4
0.33
綿 35
0.35
0.3
0.3
綿 100
平織 0.254 24 × 21
15 14
67
0.59
4
0.3
0.32
0.17
0.16
綿 100
平織 0.141 31 × 26
7
8
40
0.9
2
0.16
0.16
0.07
0.07
絹 100
平織 0.105 38 × 35
2
2
17
1
0
0.67
0.67
ポリエステル 100
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
0.835
2.試験布の選定結果
表布の裾上げ方法は、ヘムを折り上げた時に、折り代
(1)裏布
幅が広いといせきれず表面にひびきやすいため、折り代
一般的な裏布の役割に加え、ドレスのスカートの分量
幅を 4 ㎝に統一した。また、前報の結果より、折り代や
が多くなると重くなることや接ぎ目がバイアスになるこ
まつり縫いが表面にひびかないようにすることも重要で
とが多いことから、軽くて薄地のもの、縫い代が透けな
あると考え、裏打ちを行った。
いもの、パニエ着用による静電気を抑え、まとわりつき
裏打ち布は、表布と同じ布目で裁断して表布に重ね、
が少ないものを選定基準とした。諸元から、たてよこの
なじませて使用した。裏打ち布の折り代は、裾線から
糸密度の差が少なく、薄くて軽く、方向性が少なく、張
1.5 ㎝つけてカットし、スカートの接ぎ目は 2 枚一緒に
りがある「裏布d」を実験に用いた。
ミシン縫いした後、裾線で厚紙を挟んで折り代を折り上
(2)裏打ち布
げ、裾線から 0.5 ㎝上に表布表面からミシン糸で折り代
裏打ち布の選定基準は、表布となじみが良く、薄くて
に星止めで止めた。
軽く張りがあり、方向性が少ないものとした。前報の結
次の(1)から(4)の方法は、裏打ち布で裏打ちを
果をふまえ、シノンウールとサテンクレープには「スレ
行い、裏布をつけた。(5)の方法は裏打ち布を使用せ
キ 2」を、シルクタフタには、前報同様「シルクオーガ
ず、裏布で裏打ちを行った。今回の裾上げの方法も、表
ンジー」を実験に用いた。
面にミシン目が出るステッチミシンの方法は選択しな
かった。
Ⅱ-2評価用試料
5 種の評価用試料の縫製方法を図解して図 1 に示す。
1.布地の組み合わせ
Cは裏打ち布の違いにより、C- 1′、C- 2′、C- 3′、
評価用試料の布地の組み合わせを表 2 に示す。以下、
C- 4 ′と表記する。
シノンウールをA、サテンクレープをB、シルクタフタ
をCと表記する。 (1)振らし仕立て①の方法
表布に裏打ち布を合わせて接ぎ目を縫う。裾の折り代
の端はロックミシンで始末した後、ヘムにホースヘアブ
表 2 布地の組み合わせ
レードをミシンで止め、ロックミシン位置の奥に裏打ち
表記
表布
裏布
裏打ち布
A
シノンウール
d
スレキ2
B
サテンクレープ
d
スレキ2
C
シルクタフタ
d
シルクオーガンジー
布をすくってまつる。裏布は接ぎ目を縫い合わせ、表布
の裾線から 2 ㎝短くし、三つ折り縫いで始末する。表布
と裏布は、裾から 10 ㎝上まで中とじして、縫い目位置
に糸ループをつけ、裏布を振らして仕立てる方法であ
る。以下「振らし仕立て①」(A- 1、B- 1、C- 1 ′)
と表記する。
(2)振らし仕立て②の方法
表布は(1)の方法と同様に折り代の始末をした後
に、ロックミシン位置の奥をまつる。裏布は接ぎ目を縫
2.裾の仕立て方条件
い合わせ、裾線から 2 ㎝短くして、ホースヘアブレード
スカートに裏布をつける方法は、透けない表布では裾
を入れて三つ折り縫いで止める。(1)と同様に中とじ
線より 2 ~ 3 ㎝短く控え、フレアが多いデザインでは、
をして糸ループをつけ、裏布を振らして仕立てる方法で
動作によって表布の裾から裏布が見えないように 3 ~
ある。以下「振らし仕立て②」
(A- 2、B- 2、C- 2′
)
5 ㎝程度短く振らして縫製し、糸ループで止めるのが一
と表記する。
般的である。また、広がりのないスカートやチャイナド
(3)奥まつりの方法
レスなどでは、縫い代や折り代がめくれても見えないよ
表布に裏打ち布を合わせて接ぎ目を縫い、ヘムにホー
うに合わせて仕立てる方法もある。
スヘアブレードをミシンで止め、裾の折り代の端は裏打
本報では、一般的に用いられている方法とドレス製作
ち布のみに返し縫いで止める。裏布は中とじをした後に
の授業で用いている方法を参考に、厚みの違う 3 種類の
表布の裾線から 2 ㎝上で折って重ね、 裏布の裾線から
布地ごとに 5 種の方法を選択した。
1 ㎝奥に奥まつりをする方法である。以下「奥まつり」
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3
(1)振らし仕立て①
(2)振らし仕立て②
試料名 A-1、
B-1、
C-1
試料名 A-2、
B-2、
C-2
(3)奥まつり
(4)裏布を差し込む
試料名 A-3、
B-3、
C-3
試料名 A-4、
B-4、
C-4
(5)裏布の裏打ち
試料名 A-5、
B-5、
C-5
図 1 縫製方法
4
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
(A- 3、B- 3、C- 3 ′)と表記する。
目から[裾線が美しい]は[適している]と相関があっ
(4)裏布を差し込む方法
たために削除し、裏打ちと裏布のつけ方を検討する目的
裏打ちをした表布と裏布は別々に接ぎ目を縫い合わせ
から、[裏布のなじみが良い]と[縫い代のひびきがな
る。表布の裾の折り代の端を裏布のバイアステープで始
い]を追加して、裾上げ方法の適否を視覚と手触りで判
末し、ホースヘアブレードをミシンで止める。表布と裏
定できる 7 語を選定した。3 種類の布地ごとに評価用語
布を中とじしてなじませ、裏布は裾線でカットし、表布
による官能評価を行った。被験者は、縫製経験のある本
のヘムに裏布を差し込み、バイアス布と裏布を流しまつ
学短期大学部服装学科 2 年生と専攻科被服専攻の学生で
りで止める方法である。まつりは裏布のみをすくってま
20 ~ 21 歳の女性 30 名である。
つる。 以下「裏布を差し込む」(A- 4、 B- 4、 C-
4 ′)と表記する。
(5)裏布の裏打ちの方法
表布に裏布で裏打ちをして接ぎ目を縫い合わせ、縫い
代をロックミシンで始末する。裾の折り代の端は裏布の
バイアステープで始末して、ホースヘアブレードをミシ
ンで止めた後、バイアス布と裏布を流しまつりで止める
方法である。まつりは裏布のみをすってまつる。以下、
「裏布の裏打ち」(A- 5、B- 5、C- 5)と表記する。
裏布を差し込む方法と裏布で裏打ちをする方法では、
折り代の端をロックミシンで始末したのでは着装した時
に靴の装飾がひっかかることもあるため、裏布のバイア
ス布を落としミシンの方法で始末した。
3.評価用試料の製作
ウェディング・ドレス作図 6)の前スカートパターンを
利用して 9AR サイズで製図した。縫い代のひびきや折
図 2 評価用試料のパターン部分
り代のひびきの有無を確認するため、接ぎ目部分を入れ
た評価用試料もこのスカートパターン部分を用いて製作
した(図 2)。試料提示に使用したパニエ7) は、Aライ
ンのシルエットになるようにナイロン芯を土台にして
ボーンを入れ、その上にパニエのあたりが評価に影響し
ないようにオーバースカートを重ねて製作した。
4.官能検査
9AR サイズに近い文化式ヌードボディ 5 号にパニエを
着用させ、ドレスの着用状態と同様になるようにした。
試料の提示方法は、ボディ 2 体を並べたのでは試料が
離れて比較しにくいため、図 3 に示すように 1 体のボ
ディの上に 2 つの試料を並べて装着した。裁断机(高さ
70 ㎝)の上にボディを置き、被験者がその前に立って
視覚と手触りにより評価させた。
一対比較法中屋変法(順序効果のない場合)を用い
て、5 段階評価による官能検査を行った。評価用語及び
検査条件を表 3 に示す。評価項目は、前報で用いた 6 項
図 3 試料の提示方法
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5
表 3 官能検査条件
方 法
一対比較法中屋変法(順序効果のない場合)
日 時
2013 年 9 月・10 月
評価法
視覚と手触りで判定
1.厚い
2.張りがある
3.縫い代のひびきがない
評価用語
4.折り代のひびきがない
5.裏布のなじみが良い
評 価
ては、厚地であるために評価の差が少なかったと考えら
れ、試料間に有意差が認められない結果である。他の 5
語に対し、危険率 1 %以下で有意差が認められた。
2.Bサテンクレープの評価結果(図 5)
B- 1 は大きな差がみられない。B- 2 は、[厚い]、
[張りがある]の評価が低く、[縫い代のひびきがない]、
[折り代のひびきがない]の評価が高く、[方法が適して
いる]の評価も高い。B- 3 は[厚い]の評価が高く、
[縫い代のひびきがない]、[かろやか]の評価が低いた
6.かろやか
めに[方法が適している]の評価が低くなったと推測す
7.方法が適している
る。B- 4 は[厚い]、[張りがある]、[折り代のひびき
3段階:差がない0点;どちらかと言えば差がある
1点;差がある2点
がない]、[裏布のなじみが良い]の評価が高く、
[方法
が適している]の評価も高い。B- 5 は、「厚い」、[縫
い代のひびきがない]、[折り代のひびきがない]の評価
が低い結果であるが、[裏布のなじみが良い]が比較的
Ⅲ 結果および考察
評価が高かったために[方法が適している]の評価が低
Ⅲ-1 官能評価結果
くならなかったと考えられる。Bでは、B- 2 とB- 4
被験者 30 名の評価結果を 3 種類の布地ごとに図 4,5,
は[方法が適している]の評価が高い結果である。評価
6 に示す。危険率 5 %以下で有意差が認められる場合に
用語の[裏布のなじみが良い]と[かろやか]について
は、*印を、危険率 1 %以下で有意差が認められる場合
は試料間に有意差が認められなかったが、他の 5 語に対
には、**印を付して示した。
し、危険率 1 %以下で有意差が認められた。
1.Aシノンウールの評価結果(図 4)
3.Cシルクタフタの評価結果(図 6)
A- 1 は、大きな差は見られない。裏布を振らした仕
C- 1 ′、4 ′、5 では大きな差が見られなかった。C
立て方であるが、
[かろやか]の評価が低いのは、表布
- 2 ′は[厚い]、[張りがある]の評価が低く、[折り代
にホースヘアブレードを入れているために折り代のひび
のひびきがない]、[縫い代のひびきがない]、[裏布のな
きが出たことが影響していると推測する。A- 2 は、裏
じみが良い]、[かろやか]、[方法が適している]の評価
布側にホースヘアブレードを入れた仕立て方のため、一
が高い。C- 3 ′は[厚い]、[張りがある]の評価が高
番薄くて張りがなく、かろやかであると評価されたが、
く、[縫い代のひびきがない]、[折り代のひびきがない]
[裏布のなじみが良い]と[方法が適している]の評価
の評価が低く、[かろやか]、[方法が適している]の評
が低い。パニエ着用を想定したデザインには、表布の裾
価はどちらとも言えない結果である。[方法が適してい
に張りが足りないと評価されたと推測する。A- 3 は、
る]では危険率 5 %以下で有意差が認められ、[裏布の
[方法が適している]が、2 番目に高い評価である。他
の項目では大きな差が見られない。A- 4 は、[厚い]、
[張りがある]、[縫い代のひびきがない]、[折り代のひ
びきがない]、[裏布のなじみが良い] の評価が高く、
なじみが良い]には、有意差が認められなかった。他の
5 語に対し、危険率 1 %以下で有意差が認められた。C
では、C- 2 ′の方法は一番評価が高かったために、他
との評価の差に大きく影響したと考えられる。
[方法が適している]が一番良い評価である。A- 5 は、
検定した結果、危険率 5 %以下で有意差が認められな
薄くて張りがあるが、[縫い代のひびきがない]、[折り
いものもあったが、3 種類の布地の特徴とそれぞれ 5 種
代のひびきがない]の評価が低いために[方法が適して
の裏布のつけ方別の裾上げの方法などについて、適否を
いる]の評価が低くなったと推測する。Aでは、A- 3
確認することができた。この官能評価結果から、AとB
とA- 4 が[方法が適している]との評価が高い結果で
では厚くて張りがあり、縫い代や折り代のひびきもな
ある。[縫い代のひびきがない]と[かろやか]につい
く、裏布のなじみが良い方法が適している評価が高い。
6
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図 4 A シノンウール
図 5 B サテンクレープ
図 6 C シルクタフタ
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
7
Cは薄く張りがなく、縫い代や折り代のひびきがなく、
かろやかな方法が適しているの評価が高いことが確認で
きた。さらに、官能評価の評価用語間の相関の有無につ
いて分析を行った。
Ⅲ-2 相関性
1.官能評価の用語間の関係
試料 15 種の評価用語間の関係を見るために、相関係
数を求め、無相関の検定を行った。結果を表 4 に示す。
図 7 [厚い]と[張りがある]
[厚い]と[張りがある]は、用語間に危険率 1 %で
相関がある。[縫い代のひびきがない]と[折り代のひ
びきがない]、[方法が適している]の 3 語と、[裏布の
なじみが良い]と[方法が適している]の用語間にも危
険率 1 %で相関があり、お互いに共通性があることが確
認できる。図 7、図 8、図 9、図 10 に相関性を見た結果
を示す。
したがって、[厚い]と[張りがある]2 語のうちの 1
語と[縫い代のひびきがない]、[折り代のひびきがな
い]、[裏布のなじみが良い]、[方法が適している]の 4
語のうちの 1 語の挙動を見れば他の挙動が判ることにな
図 8 [縫い代のひびきがない]と[折り代のひびきがない]
る。
しかし、図 7[厚い]と[張りがある]や図 11[折り
代のひびきがない]と[方法が適している]の危険率
5 %を示す用語間では、評価にばらつきが見られる。
そのため、次に 3 種類の布地別にそれぞれの相関係数
を求め、無相関の検定を行った。結果を表 5 に示す。
2.布地別の官能評価用語間の関係
表 5 の布地別の相関を見ると、Aシノンウールでは
[厚い]と[縫い代のひびきがない]、[方法が適してい
図 9 [縫い代のひびきがない]と[方法が適している]
表 4 官能評価用語間の相関関係と無相関の検定 [上三角 : 相関関係 / 下三角:判定(*:5% **:1%)]
厚い
厚い
張りがある
-
張りがある
**
縫 い 代 の ひ び 折 り 代 の ひ び 裏 布 の な じ み かろやか
きがない
きがない
が良い
0.6804
-0.0604
-0.0981
0.3464
-0.4314
0.1456
-
-0.2008
-0.3004
0.5353
-0.3110
0.1295
0.8690
0.3687
0.4718
0.7447
-
0.3377
0.4702
0.6232
-0.0031
0.7203
縫い代のひびきがない
-
折り代のひびきがない
**
裏布のなじみが良い
*
-
かろやか
方法が適している
8
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n = 15
方法が適して
いる
-
**
*
**
0.4481
-
図 10 [裏布のなじみが良い]と[方法が適している]
図 11 [折り代のひびきがない]と[方法が適している]
表 5 布地別の官能評価用語間の相関関係と無相関の検定 [上三角:相関関係 / 下三角:判定(*:5% **:1%)]
A シノンウール
n=5
厚い
厚い
張りがある
-
張りがある
縫い代のひびきがない
縫 い 代 の ひ び 折 り 代 の ひ び 裏 布 の な じ み かろやか
きがない
きがない
が良い
0.5864
0.8821
0.4569
0.8696
-0.5336
0.9267
-
0.3236
-0.0245
0.8567
-0.7148
0.5405
0.7475
0.7354
-0.2727
0.9379
-
0.4416
0.3919
0.7302
-0.5283
0.8962
*
-
折り代のひびきがない
裏布のなじみが良い
-
かろやか
-
方法が適している
方法が適して
いる
*
*
*
-0.2821
-
B サテンクレープ
n=5
厚い
厚い
張りがある
-
縫 い 代 の ひ び 折 り 代 の ひ び 裏 布 の な じ み かろやか
きがない
きがない
が良い
方法が適して
いる
0.5577
0.4781
0.6422
0.1012
-0.2808
-0.0897
-
0.0886
0.0918
0.8258
0.0826
0.2538
縫い代のひびきがない
-
0.9038
-0.1372
0.4318
0.6517
折り代のひびきがない
*
-
-0.1084
0.0122
0.4460
0.0543
0.4109
-
0.7000
張りがある
裏布のなじみが良い
-
かろやか
方法が適している
-
Cシルクタフタ
n=5
厚い
張りがある
縫 い 代 の ひ び 折 り 代 の ひ び 裏 布 の な じ み かろやか
きがない
きがない
が良い
方法が適して
いる
厚い
-
0.8985
-0.9166
-0.9095
-0.7905
-0.4696
-0.6713
張りがある
*
-
-0.7513
-0.8014
-0.7134
-0.3081
-0.6227
縫い代のひびきがない
*
-
0.8926
0.8705
0.7292
0.8628
折り代のひびきがない
*
*
-
0.9560
0.7197
0.8042
*
-
0.8683
0.9244
-
0.9080
*
-
裏布のなじみが良い
かろやか
方法が適している
*
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
9
る]の用語間と、
[縫い代のひびきがない]、[裏布のな
じみが良い]と[方法が適している]の用語間に危険率
5 %で相関があることが確認できる。Bシルクサテンで
は、[縫い代のひびきがない]と[折り代のひびきがな
い]の用語間に危険率 5 %で相関があることが確認でき
るが、 他は相関が見られない。 Cシルクタフタでは、
[厚い] と[張りがある]、[縫い代のひびきがない]、
[折り代のひびきがない]に相関が見られる。[縫い代の
ひびきがない]と[折り代のひびきがない]、[折り代の
ひびきがない]と[裏布のなじみが良い]、[裏布のなじ
みが良い]と[方法が適している]、[かろやか]と[方
図 13 [厚い]と[方法が適している]
法が適している]の用語間に危険率 5 %で相関があるこ
とが確認できる。表 4 で相関が見られなかった用語間に
ついて相関性を見た結果を図 12、図 13、図 14 に示す。
布地ごとに相関関係を示す線を入れると、図 12[厚
い]と[折り代のひびきがない]では、シノンウールは
相関があるとは言えない。厚地のために折り代がひびい
ていなかったことによると推測する。サテンクレープは
相関関係がやや認められる。シルクタフタは負の相関関
係にあることがわかる。図 13[厚い]と[方法が適して
いる]では、シノンウールとサテンクレープにやや相関
関係が認められ、厚い方が適している傾向にある。シル
クタフタは相関が認められない。図 14[かろやか]と
[方法が適している]では、シノンウールは相関関係が
図 14 [かろやか]と[方法が適している]
認められない。サテンクレープとシルクタフタは相関関
係が認められ、かろやかな方法が適していると言える。
Ⅳ まとめ
以上の結果から、厚さや剛軟度などの布地の特性が関
パニエを着用する場合のAラインのウェディング・ド
係していることが確認できた。また、その特性から表布
レスの裾上げの方法について、 前報の結果をふまえ、
に適した裏布や裏打ち布の選定と裾上げの方法を選択す
ホースヘアブレードの入れ方や裏布のつけ方の違う 5 種
ることが望ましいことが確認できた。
の縫製方法を官能検査による検証を行った。また、その
官能評価用語間の相関性を分析した結果、表布のシノン
ウール、サテンクレープ、シルクタフタに対し、次のこ
とが確認できた。
(1)シノンウールは朱子織で、たて地に比べてよこ
地に張りがないことから、スレキ 2 を裏打ち布に使用
し、ホースヘアブレードを表布のヘム側に入れた方法は
評価が高かった。裏布のつけ方では、裏布を差し込む方
法や奥まつりの方法は評価が高かった。シノンウールは
厚地であるため、かろやかや縫い代のひびきがないには
大きな差が見られなかった。
(2)サテンクレープは、振らし仕立て②の方法や裏
布を差し込む方法は適している評価が高かった。しか
図 12 [厚い]と[折り代のひびきがない]
10
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
し、ドレープ性が大きく、まつり目やホースヘアブレー
ドが表にひびきやすい布地であることが評価に影響した
・作品 2 ウェディング・ドレス:表布はシルクウー
と考えられ、評価にばらつきがみられた。裏布の裏打ち
ルツイストを使用している。身頃はウエストライン 5 ㎝
は縫い代や折り代のひびきがあるが、方法が適している
下までハイモで裏打ちを行った。裾線のカーブが強いた
の評価は低くなかった。また、奥まつりの方法は折り代
1)
めに裾は接着芯を貼った別見返し で縫い返し、前ス
のひびきはないが、布地の動きを止めてしまうためにか
カートのヘムのみに 5 ㎝幅のホースヘアブレードを止
ろやかさに欠け、評価が低くなったと推測する。
め、裏布を差し込む方法で仕立てた。トレーン部分の裏
(3)シルクタフタでは、振らし仕立て②の方法が一
布のなじませに時間がかかったが、歩行時はトレーンか
番評価が高かった。薄くて張りがなく、折り代や縫い代
らの裏布のはみ出しの心配やまとわりつきがなかった。
のひびきもなく、かろやかであると評価された。シルク
・作品 3 ウェディング・ドレス:表布はシノンウー
タフタの薄くてかろやかな特性を生かした方法が高い評
ルを使用し、ハイモで裏打ちを行った。裾線はカーブが
価を得たと言える。シルクタフタは、まつり目や折り代
強いため、裾は接着芯を貼った別見返しで縫い返し、裏
が表面にひびきやすい布地であるため、奥まつりの方法
布を差し込む方法で仕立てた。歩行時のスカートの入り
は折り代や縫い代のひびきが出たために評価が低かっ
込みを防ぐためにマーメード・ラインのパニエを製作
た。また、裏布を差し込む方法や裏布の裏打ちの方法も
し、その裾に 12 ㎝幅のホースヘアブレードをくせとり
かろやかさに欠け、評価が低かったと推測する。
してミシンで止めたことで表面へのあたりがなく、歩行
以上のような縫製指導上の指針が得られた。布地の特
時は裾の入り込みもなく、シルエットも崩れなかった。
性を把握し、表面から折り代や縫い代、まつりのひびき
・作品 4 イブニング・ドレス:表布はダッチサテン
がなく、造形上美しい仕上がりになることが望ましいこ
のツー・ピース・ドレスである。スカートは裏打ちせ
とが確認できた。
ず、裾は裏布を差し込む方法で仕立てた。裾に入れた
また、表布 3 種類の部分的な評価試料での結果である
ホースヘアブレードやパニエのボーンのあたりもなく、
ため、以下の注意点も加えて授業を行った。
歩行時も安定した広がりを保っていた。
・スカートのデザインは豊富で素材もさまざまであり、
・作品 5 イブニング・ドレス:先染めシルクシャン
装飾をつけることも多く、ドレスの重量が重くなる。
タンを使用したワン・ピース・ドレスである。身頃はス
・スカートの接ぎ目はバイアスになることが多い。
レキ 2 を裏打ちし、スカートはCの試料より張りがある
・ドレスのシルエットを形作るために、ホースヘアブ
ために裏打ちせず、ホースヘアブレードも入れずに裏布
レードの硬さや幅、パニエのボーンの本数や入れる
を差し込む方法で仕立てた。まつりのひびきがなく、か
位置などの検討が必要である。
ろやかに仕上がり、裏布のなじませにも問題がなかった。
・表布に適した裏布や裏打ち布を選定する。
ファッション造形実習の授業では着装発表会を行い、
・歩行時に裾部分の巻き込みや、めくれ上がりがない
ドレス着用時のスカート形状について確認することがで
ように裾回り寸法や、表布に合わせた裾上げの方法
きた。歩行時に裾が足へ入り込んだり、めくれ上がった
の検討が必要である。
りせず、ホースヘアブレードやパニエのあたりなどが見
られず、布地とデザインに合わせた縫製方法が選択でき
以上をフォーマル・ドレスを製作する学生に教授し、
たと言える。
各自のデザインや布地に合わせて、裏布や裏打ち布や裾
今後も他の布地やドレスの縫製方法などの研究を重
上げの方法を選択させた。図 15 は、その学生作品であ
ね、わかりやすい指針にまとめて、学生指導に生かした
る。
い。
・作品 1 ウェディング・ドレス:アンダードレスに
シルクサテンを使用し、身頃は裏打ちを行ったが、ス
本稿の作品事例写真は、本学専攻科被服専攻の学生、
カートは裏打ちせず、ホースヘアブレードも入れない
板津渚、佐々木詩乃、吉成彩未、髙坂愛、柴田佐和子の
で、奥まつりの方法で仕立てた。その上にシルククレー
修了製作作品である。写真掲載および官能検査にご協力
プのオーバースカートを重ねているため、かろやかな仕
いただいた学生に心より感謝申し上げる。
上がりになった。パニエを着用しなくても歩行時は裾の
入り込みがなかった。
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
11
作品 1
作品 2
作品 4
作品 3
作品 5
図 15 専攻科被服専攻の学生作品
引用・参考文献
1) 鹿島和枝:「ウェディング・ドレスの裾上げの方法と評価」
『文化学園大学紀要 服装学・造形学研究』第 44 集、2013、
pp13-25
2) 『文 化 女 子 大 学 講 座 服 装 造 形 学 技 術 編 Ⅱ』2000 年、
p23
3) 中川正則:「縫製副資材・付属品・アクセサリー類(1)裏
地の役割と機能―キュプラ裏地を中心に―」『繊維製品消費
12
文化学園大学紀要 服装学・造形学研究 第46集
科学』Vol.52、2011 年、pp439-443
4) 『ファッション辞典』2001 年、文化出版局
5) 鹿島和枝:「着尺地を用いたジャケットの裏打ち仕立てに
ついての研究」『文化女子大学紀要 服装学・ 造形学研究』
第 33 集、2002 年、pp1-15
6) 『文化女子大学講座 服装造形学 技術編Ⅲ(フォーマル
編)』2001 年、p105
7) 『文化女子大学講座 服装造形学 技術編Ⅲ(フォーマル
編)』2001 年、p182