ロ頭発表の序論部の談話構造と語彙 ・表現

専 門 日本 語教 育研 究 第5号2003
論文
ロ頭発 表の 序論 部 の談話構 造 と語 彙 ・表現
一
農 学 部 卒 業 論 文 発 表 の 分 析 か ら一
米 田 由喜代
・林
大 阪 大学 留学生 セ ンター565-0871大
Discourse
Used
Structure,
in the
Technical
Yoneda,
International
阪府 吹 田市 山 田丘1-1
Terminology
and
of Oral
Presentations
Introductions
for Biochemistry
洋子
Expressions
Graduation-Theses
Yukiyo
,
Hayashi,
Hiroko
Student Center, Osaka University
1-1, Yamadaoka, Suita shi, Osaka, 565-0871 Japan
理 工系分 野で の 口頭 発表 指導 の場 で、語彙 ・表 現 を習得 して もそ れ を どの よ うに組み 立 てて談 話 を構 成 す るかが わ か らず 、
口頭発 表の作成 、と くに序論 部 の作成 に困難 を感 じてい る 日本 語学習 者 が数 多 く認 め られ る。 これ は、習 得 した語 彙 ・表現 と、
目的 とす る序 論部 等 のま とま りの ある談話 との 間 に、ギ ャ ップが あ るため と考 え られ る。 そ こで、 この ギ ャ ップ を埋 めて序論
部 等 の談 話 のス ムー ズな 作成 を促す ため には 、表現 の関連 性や 談話 の進 め方 な ど談 話構 造上 か ら表現 ・語 彙類 型 を捉 えて提 示
す るこ とが有 効 で あ ると考 えた。 この観 点か ら、実 際の農 学部 の 卒業論 文発表 ビデ オ 資料 か ら序 論部 に使 われ てい る表現 ・語
彙 を談 話構造 の枠 とともに抽 出、提 示す る こ とを試 みた。 談 話構造 を捉 えるた めに、構 成要 素 とい う概 念 を採 りい れた。 構成
要 素 とは 、発 表者 の コミュニ ケ ーシ ョン上の意 図 に基づ い て談話 を分 けた単位 であ る。 学習 者 の 口頭 発表 作成 に資 す る こ とを
目指 して 、 この構 成 要素 に よ り序論 部の談 話構 造 を明 らか にす る と ともに、構成 要素 ごとに表 現 ・語 彙類 型 を提示 す る こ とを
試 み た。 実 際 に多 く使 用 され た語彙 もあわせ て報告 す る。
キー ワー ド::農 学系 専門 日本語教 育
卒業 論文
口頭発 表
1.は じめに
序論
構 成要 素
専 門記述語
めるなかで、 日本語学 習者 か ら 「
原稿 作成が難 しく、
理 工系分野 では、論文 を書 く場 合 よ り口頭発 表にお
と くに、序論 部 に困難 を感 じる」 とい う訴 えに多 く接
いて留学生に 日本語 使用 を求 める率 が高 い現 状1)が あ
して きた。 学習者 が習 得 した語彙 ・表現 を、 どの よ う
る。 しか し、理工系 ・
農 学系論文 か ら表現 を抽 出 ・
分析
に組 み立 てて序論等 の談話 にま とめ るか がわか らない
した報告 調 はあるが、 口頭発表 についての分析例 は
と訴 えてい るこ とか ら、語彙 ・表 現 の習得 が談話上で
まだ少 な く教材 も十分 とはい えない。 これ は、研究 内
の適切 な使用 や談話 の構 成化 に結び つか ない現状が認
容 の外部 への流 出に対す る教員 の危惧 な どか ら、分析
め られ る。す なわち、学習 した語彙 ・表現 と、 目的 と
可能 な 口頭発 表 ビデ オの入 手が 困難 であ ることが一 因
す る序 論部等 のま とま りの ある談話 の間に、ギ ャ ップ
と思われ る。
が あ るので ある。 このギ ャ ップを埋 めるためには、語
これ まで 著者 らは理 工系分野で の 口頭発 表指導 を進
彙 ・表現 と談話 を同一視野 に置 いた上で 両者 を橋渡 し
す る注1情報、つ ま り、表現 の関連1生
や 談話 の進 め方 な
上 記 の書 き 手 の 意 図 か ら(1)臨tablishingaterrit・ry、
ど談話構造 上か ら表現 ・語彙類 型 を捉 えて提 示す るこ
(2)Establishinganiche、(3)Occupyingthenicheと
とが有効 であ る と考 え られ る。
3つ のMoveに
そ こで、 この観 点か ら、 ビデ オが入手 できた実際の
分 け 、各Moveに
す るた めのStepと
いう
つ い て そ の 意 図 を実 現
呼 ぶ11の 構 成 要 素 を あ げ 、構 成 要
農学部の卒業論文発表 を資料 として、序論部 を分析 し、
素 ご とに表 現 を 分 析 して い る。 た だ 、Swalesの
使 われ てい る語彙 ・表現 を、談話構造 の枠 とと もに提
要 素 は 英 文 の 研 究 論 文 の た め に設 定 され た もの で 、数
示す ることを試み た。
文 か らな る大 き い分 類 枠 な の で 、本 分 析 で は 短 い 口頭
また 、今後 の 口頭 発表指 導用 の基礎 資料 として、高
発 表 の序 論 部(1発
表3∼10文
構成
で 平 均5,9文)の
談
頻度 で使 用 され る基 本語の提示 も重 要だ と考 え、あわ
話 構 造 を よ り明確 に捉 え る た め に 、分 析 単 位 を1文
せて抽 出 した。
し、 さ らに 、構 成 要素 に新 た な項 目 を加 え 、次 項 に示
と
す12の 構 成 要 素 を設 定 した 注4。
2.分 析資料と分析方法
35の 発 表 の序 論 部(全208文)注5を
2.1.分
析 資料
、分 析 例(表1,2)
の よ うに構 成 要 素 に よっ て253単 位 に 分 け(表 中 の/)、
大阪府立大学農学部応用 生物 化学科注2の平成12年
表 現 を抽 出 した。 基 本 的 に1文
を1単
位 と した が 、 構
度 卒業論文発表 の ビデ オか ら序論部 分 を文字化 し分析
成 要 素 の 移 動 部 が接 続助 詞 や 動 詞 の 連 用 中止 形 等 で 切
資料 とした注3。研究 内容 の詳 細な説 明に先立 ち研 究の
れ て い る場 合 は 、節 で 分 け た。1発 表 は3∼12単
意義 と概要 を紹 介す る部 分を序論部 と捉 え、総数43の
平 均7,1単
発表 か ら、序論 部が他 か ら明確 に区別で きない5件 と
位 で2つ の構 成 要 素 と判 定 され る も の も あ る注6。
位 で、
位 で あ る。 表1の 分 析 例 の② の よ うに1単
録 音不良な3件 を除き、35の 発表 を分析対象 とした。
発表 は質疑 を含 め約7分 で、序論部 の長 さは20∼81
秒 で、平均41.4秒
で ある。 この発表 は、 口頭発 表に
不慣 れな学部生 が教 員 の指導 を受けなが ら行 った卒論
2.2.2構 成要 素
各 構 成 要 素 を 内 容 ・機 能 か ら以 下 の よ うに定 義 す る。
△)研究 対象 領 域 の提 示(以 下 「
領 域 提示 」 と略 す)
発 表で、指導教員 の個性が 強 く反映 され ている可能性
発 表 の 開 始 部 で 研 究 対 象 の 領 域 を大 き く示 す も の。
もあ り、学会や修 士論文 の発表 に比べて短 く、 口頭発
〔
例:表1②
表 を代表す る もの とはい えないが 、1)実 際に行 われた
発表 であ り、2)短 くても序論 として最低 限必要な要素
は論理的 に組 み込 まれ ている と考 え られ 、3)卒論は他
大 学で も同様 の長 さや指導 方法で行われ ている と思わ
れ ることか ら、発 表の1パ ター ンと して分析 対象 に採
りあげる意 味が あると考 えた。
、表2⑧ 〕
昼)有用 性 の指 摘(以 下 「
有 用 性 」)
有 用 性 を指 摘 す る もの 。
Ω麹:旨
摘(以
〔
例:表1②
〕
下 「問題 」)
問題 を指 摘す る もの。 〔
例:表2⑧
〕
⊇)研究 対象 の ク ロー ズ ア ップ(以 下 「ク ロー ズ ア ップ 」)
前 に提 示 した 領 域 の 中 か ら一 つ を対 象 に 取 りあ げ る
もの 。 〔
例:表1③
22.分 析 方 法
⑤〕
E)必 要 な物 事 の 指 摘(以
2.2.1表 現 の 分 析
下 「
必 要 」)
必 要 な 物 や 行 動 を指 摘 す る も の。 〔
例:表2⑩
口頭 発 表 の序 論 の 表 現 類 型 を、表 現 の 関連 性 や 談 話
の進 め 方 な ど談 話 構 造 か ら捉 え る た め に 、本 分 析 で は 、
E)新 しし観 点の導 入(以
表2⑪
〕
下 「
新 観 点」)
「
植 物 体 内 とい うの は 光合 成 産 物 が 手 に入 り、
Swales4)が 理 科 系 論 文 の序 論 を 「
文 章 の あ る箇 所 で 書
菌 の侵 入 が 限 られ て い る の で 、 この 条 件 を満 たす と考
き 手 が 何 を し よ う と して い る か とい うコ ミ ュ ニ ケ ー
え られ ます 。」 の 「
植 物 体 内 」 の よ うに 、前 に提 示 した
シ ョン上 の 意 図 」(訳 は 杉 田5))か
領 域 内 に は なか っ た新 しし観 点を 導入 す る も の。
したCARSモ
ら見 て分 析 ・提 唱
デ ル(CreateaResearchSpaceModel)
の構 成 要 素 とい う概 念 を応 用 した。Swalesは
G)先 行 研 究 の成 果(以
序論 を
下 「
成 果 」)
先 行 研 究 の成 果 を述 べ る もの 〔
例:表1⑥
、 表2⑨ 〕
と、「
食 品 分 野 で は カゼ イ ン が代 表 的 な除 タ ンニ ン剤 と
2.22.語 彙の解析 と基本語 の抽出
語 彙 の解析 は、奈 良先端科学技 術大学院 大学の 自然
され て い ます 」 の よ うな 一 般 説 も これ に含 め る。
H)判 断 結 果 の 提 示(以 下 「
判 断 結 果 」)
発 表 者 自身 の 判 断 の結 果 を示 す も の。 〔
例:表2⑪
〕
言 語処 理学講座 が開発 した形態素解析 システム 「
茶笙」
注7を用いて行 い(形 態素 の分類 と名称は 「
茶笙」 に従
った)各 形 態素別 の使用頻 度を求 めた。 集計 は品詞別
1)研 究 上 の 不 備 の指 摘(以 下 「
不 備 」)
「しか し,そ の メカ ニ ズ ム に っ い て は未 だ 明 らか に
に4講 座 に分 けて行 い注2、高頻 度で各講座 に共通 して
され て い ませ ん 」 の よ うに これ まで の研 究 の 不 備 を指
用 い られ るものを抽 出 した。 また、①4講 座 の発 表全
摘 す る も の。
て で使 用された語 、②動詞 ・名詞 ・サ変接続 名詞 にお
遡
究 旦的(以
いて は頻度数10以 上の形態素で3講 座 以上で使 用 され
下 「目的」)
発 表 者 が発 表 中 の研 究 の 目的 と して 明示 して い る も
た語 、③そ の他 の主な品詞で はデ ー タ数 が少 ないた め
の。 〔
例:表2⑫
〕
高頻 度上位7位 までの形態素 で3講 座以 上の発 表で使
K)研 究行 動(以
下 「
行 動 」)
用 され てい る語 を選び、基本語 として表5に 掲 げた。
発 表 者 が 発 表 中 の 研 究 で 行 っ た 行 動 を示 す も の 。
〔
例:表1⑦
本 稿で は、序論部 に特徴的 にみ られ る語彙 のみ を構
成要素 の中で記 述す る。
〕
L)発 表行 動 の説 明(以 下 「
発 表 行 動 」)
発 表 を進 め る た め の 、 開始 の合 図 、OHPの 依 頼 、 略
称 の 提 示 、OHPに よ る図 表 の 提 示 。 〔
例:表1①
3.構 成 要 素 か ら見 た 序 論 の 談 話 構 造
各 構 成 要 素 の 出現 数 、 出現 位 置 、続 き 方 を分 析 した
④〕
結 果 か ら、 序 論 の談 話 構 造 を 以 下 の よ うに考 えた 。
表1分
析 例1
3.1.序論 全体 の構 造
そ れ で は始 め させ て頂 き ます 。(① → 発 表 行 動 の 説 明)/
食 物 繊維 は健 康 志 向 の 高 ま り と と もに 日々の 食 生 活 に お
ま ず 、 表1の
分 析 例 ① のよ うにL塵
虹 で発 表
いて, .その積 極 的 な摂 取 が勧 め られ て い ま洗(②
→研
究対 象 領域 の提 示&有 用性 の指 摘)/そ
の食 物 繊 維 の 一
の 開始 を告 げ る も の が 多 い(27発 表:35発 表 中77.1%)。
つ に五 炭糖 か らな るペ ン トサ ンが あ り,小 麦 粉 中 に も約
次 に 、表1③ の よ うに約 半 数 の発 表 でD)「 ク ロー ズ
3%含
ま れ て い ま す 。(③ → 研 究 対 象 の ク ロー ズア ップ)
/次 お願 い しま す 。(④ → 発 表 行 動 の説 明)/ペ
ン トサ
続 い て 、全 発 表 の 開始 部 でA)「 領 域 提 示 」が され る。
Z互
」_が現 わ れ る(16発 表:45。7%)。
出 現 位 置 は序
ン の 中 に特 に、 キ シ ロー ス を主 鎖 と し,ア ラ ビノー ス を
論 部 前 半 ∼ 半 ば が 多 く、序 論 部 全 体 を10単 位 と して平
側 鎖 に もつ ア ラ ビ ノ キ シ ラ ン は,そ の 投 与 に よ り免 疫 力
均 出現 位 置 を 算 出 す る と、4.8番
を 高 め,(⑤
→ 研 究 対 象 の ク ロー ズア ップ)/最
近で
は ガ ン の発 生 を抑 制 す る効 果 を もた らす こ とが 報告 され
て い ます 。(⑥ → 先 行 研 究 の成 果)/本
研 究 で はペ ン ト
サ ンで あ る ア ラ ビノ キ シ ラ ン を用 い て生 地 の 物性 と製 パ
ン性 に及 ぼす 影 響 を検 討 しま した。(⑦ →研 究 行 動)
序 論 部 後 半 に 、表2⑪ の よ うに、E)_墜 幽
現 わ れ る(15発
表:42.9%)。
表2分
析 例2
れ を分 解 す る 微
生 物 は 今 ま で 多 く 分 離 され て い ま す が,(⑨
の成 果)/よ
→先行研 究
く機 能 させ るに は利 用 可能 な有 機 物 の投 与
と拮 抗 微 生 物 か らの 保護 が 必 要 で す 。(⑩ → 必 要 な物 事
の指 摘)/植
発 表 全 体 を10単 位 とす
目で あ る注8。なお 、 「ク ロー
ズ ア ップ 」「
新 観 点 」の2つ
を含 む発 表 は3発 表 で あ る。
、晦
虹、 ま た は
両 者 に よっ て 、 発 表 者 の研 究 概 要 を 紹 介 して い る。 約
マ ジ ンは 土壌 や 水 系 に負 荷 を与 え
ます 。(⑧ → 領 域 提 示&問 題 の指 摘)/こ
」_が多 く
る と平 均 出 現位 置 は6.8番
末尾では、全発表 で 幽
単 分 解性 の 除 草剤,シ
目に現 れ て い る注8。
半 数 の18発
表(51.4%)で
「そ こで 」を使 っ て 「目的 ・
行 動 」 を導 入 して い る。
この全体 の離
を模式的 に図 ・の中央に □ と5で
示す。
物 体 内 とい うの は 光 合 成 産物 が 手 に入 り 、
菌 の侵 入 が 限 られ て い るの で 、 この 条 件 を満 たす と考 え
られ ます 。(⑪
→ 新 しい 観 点 の 導 入&判 断 結果 の提 示)
/そ こ で,菌 植 物 共 生 系 に よ る除 草 剤 分 解 を 目指 しま し
た。(⑫ → 研 究 目的)
3.2連続 する構 成要 素
関連1生を持 ち連続 して現 われ る要素 も認 め られ た。
これ を表3に ま とめ、図1に ○ と ↓で付加 える。
(1鷹
たに展 開す る機能 を持 つ と考 え られ る。
藷:
「
堕 馳(5発
(3生「
一
「
不備」そこで「
目的」・「
行動」膿
表:14.3%間
題 ⊥(3発
表:3.6%))
5発 表 で 「
領域提示」に 「
有 用 性 」 が続 く。 これ に 、表
「
問 題 」の 中 の3発 表 で 、 また 、 「
不 備 」 の 中で も6発
1② の よ うに 「
有用性」で 「
領 域 提 示 」 を した14発 表(表
4のA)を
加 え る と、 半数 以 上 の計19発
表(543%)で
開始
表 で、「
そ こで 」 を使 っ て 妥 当 な解 決 策 と して 自身 の研
部 にお い て有 用 性 が指 摘 され て い る こ とに な る。
究 「目的 」・「
行 動 」 を導 い て い る。
また 、開 始 部 にお い て 問題 が 指 摘 され る発 表 は 、上 記3
(4)「
発 表 に 、表2⑧ の よ うに 「
問題」で 「
領 域 提 示 」 を した5
発 表(表4のA)を
嘉
「
必 要 」は 約1/3の
後 に
「
新 観 点」(4発
発 表:20.(紛
姦
発 表 に 現 れ(12発
表:11,4%)や
表:34
有 用性 」 滅
「
問題 」(6発 表=17,1%)
出現 位 置 は不 定 だ が 、6発 表 で 「
有用性 」に 「
問題 」
加 え る と、 計8発 表 に な る。
(2モ:綜
弟::歌;
が 、「
が 」 「しか し」等 の 逆 接 の 接 続 表 現 を伴 って 続 く。
、2α
。%)
.2%)、
(5聖
灘
灘:}1:1菱:
直
出現 位 置 は 不 定 だ が 、 「
成 果 」 には 「
不備 」 「
問題 」
「目的 」 ・「
行 動 」(7
が 逆 接 表 現 で 多 く続 き 、 と く に 「
不備 」 で は 、全 発 表
が 続 く。 こ の こ と か ら 、 「
必 要 」 は話 を新
図1構
中 に現 われ た 「
不 備 」の88.9%が
成要素か ら見た序論の談話構造
表3連
続 す る構 成 要 素
「
成 果 」に後 続 す る。
表4各
構 成 要素で2度 以 上現 わ れ た表 現
4.各構成要素の 出現 数と使われ た表現 ・
語彙
各構 成要素で2度 以上 出現 した表現 を表4に 示す。
各構 成要素 の出現 発表数 と出現 単位数(以 下 「
例 」で
数 える)も 記す 。
A)研 究対象領域 の提示 ・(35発表35例)
14発 表で特 性 ・機能 ・位置 ・構成等 が説 明 され てい
名 詞 は 全 て 「∼ は ∼ を観 察 す る方 法 で あ りま す 」 の よ
うに名 詞 修 飾 を伴 う。ま た 、 「
有 用性 」(14発 表)や
「
問'
題 」(5発 表)に よっ て 「
領 域 提示 」をす る もの も あ る。
研 究対 象 と して新 出 語 を説 明 す る際 に 「
∼ は 」 を多
く用 い 、 「
∼ と は」 と定 義 表 現 を使 用 して い るの は2例
のみ で あ る。 ま た 、 「これ/こ ち ら/こ の」 な ど の に 」
る。 この説 明には、 「
名詞+で す(4例 出現:以 下4と
系 の語 彙 が 多 い の は 、OHP等 の視 覚 資 料 を指 しな が ら話
略す)/で あ ります(3)」の文末が特徴的 に現れ、7例の
す とい う 口頭 発 表 の 特 徴 を表 して い る。
B)有 用性 の 指 摘(19発
全 単 位 中12.3%と
表31例)
出 しま した 」の よ うに 、発 表者 の 所 属 研 究室 の成 果(以
多 く出 現 す る。 「
利 用 され て/用 い
下 自 己成 果 と略 す)に 限 られ る。 自 己成 果 は 「(動詞 の
られ て/使 われ て+い ます 」は 、7例 中5例 で 「
∼ と して 」
能 動 態)+ま
を伴 っ て い る。 「
有 用」 「
重 要 」 な どの ナ 形 容 詞 が 、文
で 表 され る。 一 方 、他 者 の 研 究 を 「田中 は∼ を分 離 し
末 と名 詞 を修 飾 す る 形 で使 わ れ て い る(6)
て い ま す 」 の よ うに動 詞 の 能 動 態 で研 究 当事 者 と と も
遡
に示 す 表 現 は見 られ な か っ た。 上 記 の 「当研 究 室 で は 」
指 摘 〈17発 表24例)
約 半 数 の 発 表 で 現 れ 、 問題 の性 質 に よ り表 現 が異 な
した 」、また は 、「(動詞 の 受 動 態)+ま
した」
と 自 己成 果 で あ る こ と を明 示 した成 果 以外 で は 、 研 究
る。 学 科 特 性 か ら多 く現 われ る 人 体 ・生 体 に対 す る問
当事 者 が 明示 され ず 、「
報 告 され て い る/報 告 が あ る(8)、
題(8)は 、 「
有 害 で あ りま す 」 「
∼ と障害 を 引 き 起 こ しま
考 え られ て い る(8)、 知 られ て い る(5)、 明 らか に な っ
す 」等 と具体 的 に 示 され る。社 会 的 な 問題 発 生(7)に は
て い る(2)、 わ か っ て い る(2)、 され て い る(2)、 言 われ
「
問題 に な っ て い ま す 」「
心配 され て い ます 」が 、装 置 、
て い る(2)」 な どで成 果 が述 べ られ て い る。研 究 行 動 を
材 料 等 の 実 験 遂 行 上 の 問題(6)は
「
問題 点が あ ります 」
「
∼ が で き ませ ん 」 等 が 使 われ る。
D>研 究 対象 の ク ロー ズ ア ップ(16発
表18例)
表 す 動詞 は 全 て 「(動詞 の受 動 態)+て い ます 」の形 で 、
一般 説 も含 め
、 全 てテ イ ル 形 で 示 され て い る。
H)判 断結 果 の 提 示(10発
全 て の例 で 「
∼ こ とか ら/よ
ク ロー ズ ア ップ の 手 法 と して は 、① 名詞 の繰 返 しや 、
「
本 酵 素 」 の よ うに名 詞 に 「
本」や
「この 」 を付 け る
こ とで 、前 件 を直 接 指 示 す る も の 、②
「
そ の うち 、 ∼
表11例)
り」 「
∼ た め」等 で判 断
の根 拠 が 示 され て お り、 卒 論 発 表 の 論 理 性 を裏 付 けて
い る。
「
考 え られ ます 」(8)は 様 々 な位 置 で使 われ るが 、「
考
中 で も特 に 」 と対 象 を 絞 っ て い くも の 、 ③ 「∼ に対 し
て 」 等 で 対 照 的 な もの に 焦 点 を あて る も のが あ る。
え ま した 」(2)は 研 究 行 動 の直 前 の構 成 要 素 の み に見 ら
E)必 要 な物 事 の指 摘(12発
れ た 。 こ の こ とか ら、 判 断 を 広 く示 す に は 自発 の意 味
表15例)
取 るべ き行 動(7)、 必 要 な物(4)、 備 え るべ き特 性(4)
を持つ 「
考 え られ ます 」 を使 い 、 特 に発 表者 の研 究行
を指 摘 して い る。 取 るべ き行 動 を 目的 と共 に示 す 表 現
動 の 妥 当性 を 示 す 場 合 に 限 っ て
と して は 「
∼ に は∼ が必 要 です 」が 、必 要 な物 に は 「
不
もの と判 断 され る。
可欠」 「
需 要/重 要 性が 高 ま りま す 」 が 、 備 え るべ き特
1)研 究 上 の 不 備 の指 摘(9発
「
考 え ま した 」 を使 う
表9例)
「まだ 明 らか に され て い ませ ん 」(4)、 「ま だ 不 明 で
性 には 「
備 え て/あ わせ もっ て い な けれ ば な りませ ん 」、
お よび 「
期 待 され/望 まれ て い ま す 」 が使 わ れ て い る。
す(1)」 な ど 「まだ 」 が 多 く使 われ て い る。
F)新 しい 観 点の 導 入(15発
趣
表17例)
特 定 の表 現 は な く、 「
成 果 」(7)や
「
有 用 性 」(4)「 判
究 旦 的(24発
表25例)
「
本 研 究 で は ∼ を 目的 と し∼ 」(13)が多 く、約 半 数 で
断 結 果 」(3)の 表 現 が 用 い られ るが 、表2⑪ の よ うに、
あ る。 「目的 」 と 「
行 動 」 の双 方 を述 べ た13発
文 の前 半 で 「
植 物 体 内 」 とい う新 しい 観 点 を挙 げ 、後
全 て1文
半 で 「この 条 件 」 と前 件 に 結 び つ け る も のが 多 い。 新
は 「
本 研 究 で は 」(18)を 多 く伴 う。 接 頭 詞 の 「
本」 の
しい観 点 は ① 前 件 で言 及 した 語 を含 む よ り広 い視 野 に
62%は
移 る 、② 別 の事 柄 に移 る場 合 も含 む が 、① の 場合 は 「
一
に使 われ 、サ 変 接 続 名詞 「
研 究 」 も、そ の61%が
般 に」、② の場 合は 「
ま た 、 一 方 」 な どで示 され る こ と
究 」 の 形 で研 究 目的 を述 べ る 際 に使 わ れ て い る。
が多 い。
K)研 究行 動(24発
G)先 行 研 究 の成 果(26発
全 単 位 中 の18,6%を
表47例)
占 め 、「
発 表行 動 」の 次 に 多 い 構
成 要 素 で あ る。 「
有 用 性 」(11)、 「ク ロー ズ ア ップ 」(8)、
「
新 観 点」(6)を 示 す の に も使 わ れ て い る。
研 究 当事 者 を 明 示 した もの は 、 「
当研 究 室 で は ∼ を見
表で は
に ま と め られ て い る 。 ま た 、 「目的 ・
行動」 で
「
本 研 究」 の形 で研 究 目的 を述 べ る際 に指 示 詞 的
「
本研
表28例)
発 表 者 自身 の 具 体 的 な研 究 上 の行 動 は 、 能 動 態 の タ
形 で 表 され て い る(27)。 研 究 行 動 を 示 す 動 詞 は 「
検討
した(7)、 調 べ た(3)、 解 析 した(2)」 な どで あ る。
L)発 表 行 動 の説 明(32発
表51例)
口頭 発 表 のみ に現 れ る構 成 要 素 で 、 全 単 位 中20.2%
表5農 学 部卒業論文 ロ頭発表序論部分の解析結果集計より∼基 本語
と最 も多 く、 口頭 発表 に は必 須 の 要 素 と考 え られ る。
の 口頭発 表例 と比較す る ことによ り妥当性 を検証 し、そ
開 始 の合 図 「
で は 始 め させ て い た だ き ます 」 等(27)、
の うえで、 日本語学習者 に対 して談話 のスムーズ な展 開
αPの 依頼
を支援 で きる教 材の開発 につなげたい と考 えて いる。
「
∼ お 願 い します 」(7)、 略称 の提 示 「
以下
∼ と略 させ て い た だ き ます 等 」(3) 、 図 表 の提 示(3)が
あ り、待 遇 表 現 を使 う点 が特 徴的 で あ る。
また、語彙 につ いては、表5を 見 ると農学部応用 生
物化学科 に特有 と思われ る語はそれほ ど多 くはな く、
他 の分野 の論 文や 口頭発 表で も用い られて いる語 が多
5.お わりに
表現 の関連性 や談話の進 め方な ど談話構造 か ら表現 ・
い2)。これ は広 く専門 について述べ る時に使 われ る語
(専門記述 語)が 共通 してい ることを示す もの と思わ
語彙類型 を捉 えて提示す る ことを 目指 して、実際の農学
れ るが、詳 しくは実際 に行なわれた他分野 の 口頭 発
部卒業論文発 表 の序論部 か ら表現 ・語彙類型 の抽 出 し、
表 ・論文 の調査 と比較す るこ とによ り明 らか に した い。
序論 の談話構造 を明 らかにす ることを試 みた。
また、紙 面の都 合上、本稿で は序論 に特有 な語彙 の記
発表者 の意 図を実現す るための構成 要素 とい う概 念 を
述 に限ったが、語彙 とそ のコロケー シ ョン(慣 習 に よ
採 り入れ ることに よって、単な る頻 用表現の提示で はな
ってま とまって使われ る語 の連鎖)6)の検討結果 は興 味
く、序論 の構造 上 どこで、 どの よ うな関連 性を持たせて
深 く、 さらな る調査 によって学習者 に よ り有用 な知 見
使 うか とい う情報 も含 めて表現 ・語彙 を提示す るこ とが
が得 られ ると考 えている。
可能 になった と考えてい る。
ただ、本分析 の対象は農 学部の1学 科の短い卒業論文
欝
発表 であ り、理 工系専門分野の 口頭発表の1パ ター ンに
本稿 を執 筆す るにあた り、卒業論文発表 の ビデ オ記録
過 ぎない。今後 は、今回得 られた表現 ・語彙類型や序論
テープ を調査資料 として提供 して くだ さった大 阪府立大
の談話構造 につ いての知見 を、他の分野で行われ る実 際
学農学部応用生物化 学科 に感謝 申 し上げ ます。
注
欄
注1野
村眞木夫 はこの観 点の重要性 を 『日本語のテ クス トー関
1)米
ついて,専 門 日本 語教育教材作成に 向けて,大 阪大学工学
係・
効果・
様 椎 』 ひつ じ書房,(2000)で指 摘 してい る。
注2応
用生物 化学科 は農 学部4学科の一っ で4講 座12研究室 か
らな り、生物学 と化学 を基礎 とし、バイオサイエ ンスの新
田由喜代:工 学 系研 究留学生の研究活動上 の使用言 語に
部 国際交流委員会(1999)
2)村
田年:論 述構造 を支 える文型の基礎的 研究 一多変量解析
知識 とバ イオテ ク ノロジーの新技術 を使 って動 植物 や微生
によるジ ャンル判 別 に有効 な文型の抽 出一,専 門 日本 語教
物等の生命現象 を解 明 し、食糧 等諸資源 の生産 ・変換 ・利
育研究倉肝腸;pp32-39(1999)
用や環境 の修 復 ・
保全 等 も含 めた教育 ・
研究 を行 っている。
注3文
3)村
字 化は著者 らが卒業論 文要 旨集 を参考 に共 同で行 っ た。
なお、 フィラー は分析対 象に しなかった。
注4構
日本 語の地平線,黒 潮 出版,pp.215-225(1999)
4)
Swales, John M.: Genre Analysis
English in academic
and research settings, Cambridge University Press
成 要素の設定 には、山崎信寿 ほか著 『
科学 技術 日本 語案
内
岡貴子:農 学系 日本 語学術論文 の 「
緒言」におけ る文型,
新訂版』慶応 大学出版会(2002)、アカデ ミック・
ジ ャパ
(1990)
ニーズ研究会編著 『大学 ・
大学院留学生 の 日本 語4論 文作成
5) 杉 田 く に子:上 級 日本 語 教 育 の た め の文 章 構 造 の 分析,日
編』アル ク(2002)等を参 考に した。
本 語 教 育95号;pp49-60(1997)
注5全
文明確な文 末表現 で終 り、明確に文 と認識で きる。
6) 大 曽美 恵 子 ・
滝 沢 直 宏:コ ー パ ス に よ る 日本 語 教 育 の研 究,
注6本
分析 は、発表作成 指導 のための基礎資料 を得 ることが 目
日フ博 吾勃,月 臨締
曽干U, pp.237-240 (2003)
的で 、分析法 の確 立を 目指 したもので はない。 また、発
著者紹介
も存在す る。
米田
注7「
表 にはあったが、今 回の論文 で と りあげてい ない構成要素
茶笙version2.0」 の解 析精度(正解 率)は96%程 度(語 分
割 ・品詞 ・読みの全て を求 める場 合)と 公表 され てい る。
注8話
の展開 を明確 に把握す るために、展開に関与 しない 「
発
由喜代:大 阪大 学留学生セ ンター非常勤講 師,
大阪大学 工学部留学生相 談室 日本 語教育担 当 【
経歴 】
大阪大 学大学院薬 学研 究科修士課程 修了 【
専 門】理 工
系専 門 日本 語教育
表行 動の説明」 を除外 して計 算 した。
林
洋子=大 阪大学留学生セ ンター非常勤講 師,大 阪
大 学工学部 留学生相談室 日本語 教育担 当,国 際協力事
業 団 日本 語講 師 【
経歴 】東北大学法学部卒業
【
専門 】
専 門 日本語教教育
英文要旨
While instructing learners of Japanese in the field of science on how to make oral presentations, it can be seen
that many of them experience difficulties, especially in the preparation of the introduction.
Their difficulties seem
to derive from the gap between their vocabulary and the expressions they have learned and the discourse they
need
Therefore, it was thought that it would be useful to provide instruction in the vocabulary and expressions
related to discourse structure in oral presentations. The vocabulary and expressions used in the introduction were
extracted from videos of biochemistry graduation thesis defenses and presented to students in conjunction with the
discourse structure. Zb determine the discourse structure, the concept of "structural elements" based on the
communicative purposes of presenters was used. Using these structural elements, the discourse structure of the
oral presentation introductions is demonstrated and the vocabulary and expression patterns are explained.
Vocabulary, which were often used in learners' presentations, are also reported in this paper.